Fisheries Science 掲載報文要旨

仙台湾におけるイカナゴの音響観測データを用いた判別基準の提案

龍山 海,黒田実加,南 憲吏,白川北斗,田村 力,朱 妍卉,宮下和士
 イカナゴは日本における重要な水産資源であり,利用価値は小型魚と大型魚で異なっている。本研究では,120 kHzと38 kHzの音響反射強度の差であるΔMVBSを用い,音響反射強度のみによる小型魚と大型魚の識別基準を検討した。K-means法による判別分析の結果,小型魚と大型魚の境目であるΔMVBSは6.05−6.97の範囲にあり,正答率は小型魚で86.4%,大型魚で94.5%であることがわかった。そのため,本研究の成果により,音響学的にイカナゴを小型魚と大型魚に分離でき,その生息数や分布を成長段階毎に把握することが可能になる。

91(5), 859−867 (2025)
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ログブック調査によるタイワンガザミ(Portunus pelagicus)刺網漁業の操業モニタリング:タイ国ペッチャブリー県ラムパクビアにおける小規模漁業コミュニティの事例研究

Thanakorn Sangeamwong,江幡恵吾,Anukorn Boutson,Dudsadee Leenawarat,安樂和彦,Miguel Vazquez Archdale
 タイワンガザミPortunus pelagicusは,タイ国の小規模漁業における重要な漁獲対象種である。2018年から2019年にペッチャブリー県の沿岸でログブックを用いた調査により,刺網漁業の漁獲量の季節変動を明らかにした。漁獲量は南西モンスーン期(6−9月)にピークを迎え,北東モンスーン期(10−2月)に低下した。CPUEは北東モンスーンに比べて南西モンスーンの方が高くなり,季節風の変化が漁獲に影響を及ぼしていることが示された。また,ログブックによる操業記録は小規模漁業をモニタリングする上で有用なツールであると考えられた。

91(5), 869−880 (2025)
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コチョウザメおよびベステルチョウザメの発生過程における糖新生とグリコーゲン代謝

清水茉莉乃,松崎貴子,小林 楓,青柳晶大,金子まき葉,長澤竜樹,平岡 潔,古川史也
 本研究は,チョウザメ目に着目し,発生過程における糖新生の可能性を調べた。チョウザメの一種であるコチョウザメおよび,コチョウザメとオオチョウザメとの交雑種であるベステルチョウザメでは,発生過程においてグルコース量が増加した。さらに,コチョウザメにおいては主要な糖新生関連遺伝子が卵黄嚢の周縁部に位置する内胚葉細胞で発現していた。また,内胚葉組織内にグリコーゲンが蓄積していることも確認された。これらの結果は,発生過程における糖新生が,脊椎動物に共通する必要不可欠な現象である可能性を示唆している。
91(5), 881−890 (2025)
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平衡石による年齢推定に基づく黒海産外来巻貝Rapana venosaの成長および個体群パラメータのモデル化

Nuri Başusta,Ömerhan Dürrani,Levent Bat,Asiye Başusta,Murat Dağtekin,Kadir Seyhan
 外来巻貝Rapana venosaは黒海で商業的重要性をもつ初の外来種である。本研究では東黒海の3海域で採集した標本の平衡石から年齢を推定し,4種の成長モデルを比較した結果,von Bertalanffy成長式が最も適合した。性による成長差はなかったが,季節的・空間的変動があり,秋に成長率が高く,冬春に地域差が顕著であった。殻長と体重の関係には性差と地域差がみられた。これらは成長解析で性・時空要因を考慮する重要性を示した。本研究で提供された信頼できる成長パラメータは,今後の本種のモニタリングと管理に貢献する。
(文責 松石 隆)

91(5), 891−905 (2025)
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三倍体化技術の活用によるサケ肉の摂取に伴う魚卵アレルギー発症リスクの低減

渡辺彩希,笹岡友季穂,趙 佳賢,佐伯宏樹,清水 裕
 卵黄形成期以降の雌のサケ科魚類の血液には,魚卵の主要アレルゲンであるβ′-component(β′-c)と同一のアミノ酸配列部位を持つ卵黄タンパク質前駆体ビテロジェニンが含まれており,魚卵以外の部位の摂取によって魚卵アレルギーのリスクが増大する。本研究では,養殖魚として作出された不妊化三倍体魚類の筋肉と内臓を分析し,β′-c様アレルゲンの含有量が二倍体魚と比較して有意に少ないことを確認した。この結果は,三倍体作出技術によって魚卵アレルギー発症リスクの低減が可能なことを示唆している。

91(5), 907−915 (2025)
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ゲニステイン経口投与によるコチョウザメの雌化

稻野俊直,中村 凌,木南竜平
 56日齢のコチョウザメに 10,100,1000 μg/g dietのゲニステインまたは10 μg/g dietのE2を添加した飼料を180日間口投与し,雌化を試みた。311日齢時に生殖腺を採取し,供試個体ごとの組織切片標本の顕微鏡観察と遺伝的性を照合した結果,遺伝的メスの生殖腺は全試験区の全個体が卵巣であり,遺伝的性と生殖腺の形態が一致した。遺伝的オスの生殖腺は対照区,10,100 μg/g diet区の全個体が精巣であったが,E2区及び 1000 μg/g diet区では全個体(それぞれ3尾・5尾)が卵巣であり,ゲニステイン経口投与によるコチョウザメの雌化に成功した。

91(5), 917−927 (2025)
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マダイPagrus major稚魚用飼料におけるサケ残渣ミールによるアンチョビ魚粉の代替

ビッシャシュ アマル,小林和生,本領智記,中山大輔,沖村 智,田中秀樹
 マダイ稚魚用飼料を調整し,サケ残渣ミール(SM)によるアンチョビ魚粉(FM)の最適代替率を求めた。FMを主タンパク質源とする対照飼料Cと,Cに含まれるFMの25,50,75,100%をSMで代替した飼料(S25,S50,S75,S100)で8週間飼育したところ,成長,みかけの栄養素消化率および蓄積率に有意差はなかったが,S100の飼育成績が対照区より有意に劣った。二次多項式回帰分析から,最終体重,日間成長率,体重増加率に対する最適代替率はそれぞれ28.4,30.0,28.7%だった。また,SM飼料からのP負荷がCよりも有意に低下した。以上の結果から,FMタンパク質は28.4%までSMで代替することができ,P負荷削減によって得られる生態学的利益も大きいことが示唆された。

91(5), 929−942 (2025)
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海水馴致中のニジマス腸内細菌叢のモニタリング

山田良希,齋藤禎一,島貫 郁,泉庄太郎,五條堀孝,秋山信彦
 ニジマスの海水馴致方法の確立に向け,飼育水の塩分を段階的に上昇させた場合のニジマス腸内細菌叢の変化を個体ごとにモニタリングするとともに成長との関係を調べた。塩分に関係なくMycoplasma spp.が一貫して腸内を優占していた。塩分18 psuまでは腸内の一部をLactococcus sp.とShewanella sp.が優占し,18 psuより高い塩分ではVibrio sp.,Aliivibrio finisterrensisといったVibrionaceae細菌が増加した。海水馴致後に成長の良い個体ではVibrionaceae細菌の存在量が少なく,海水馴致の成否と関係がある可能性が示唆された。

91(5), 943−959 (2025)
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ニホンウナギ種苗の量産に向けた水槽の開発

須藤竜介,谷田部誉史,里見正隆,高崎竜太郎,上住谷啓祐,高橋光男,野村和晴,田中秀樹
 ニホンウナギは水産重要種であるが,人工種苗の量産技術は確立されていない。本種の種苗量産に向けて,飼育水槽の拡大は重要な課題である。水槽の拡大に向けて軸長と径が飼育成績に与える影響を調べたところ,軸の延伸は飼育成績に影響を与えないことが明らかとなった。この知見をもとに試作水槽を製作し,細部構造や部材の検討を重ね,新量産水槽を開発した。この水槽を用いて長期飼育試験を2回実施し,一つの水槽から約1000尾の種苗を生産できることを実証した。本研究は商業的な種苗生産の確立に向けて役立つものと考えられた。

91(5), 961−975 (2025)
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道南の2か所で採取された紅藻類ダルスDevaleraea inkyuleei由来のマイコスポリン様アミノ酸

瀧澤巧季,岸村栄毅,秋田晋吾,熊谷祐也
 紅藻ダルスは他の紅藻類より比較的多くの紫外線吸収物質(マイコスポリン様アミノ酸,MAAs)を含む。その含有量は紫外線と海洋栄養素の影響を受ける。本研究では2023年1月から6月の海洋環境が異なる道南の臼尻町と小安町のダルスのMAAs含有量を調査した。臼尻町ダルスのMAAs含有量は2月の試料で最大となり,それ以降はブルームの影響による減少が示唆された。小安町ダルスのMAAs含有量はブルームの影響が少なく,紫外線量の増加と共に4月まで増加した。一方,抗酸化活性とMAAs含有量は一致しなかった。

91(5), 977−986 (2025)
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鰹節発酵を模した固体培養によって明らかになった,鰹節カビAspergillus chevalieriによる抗酸化物質の産生

小川颯士,岡田 茂,二宮章洋
 真菌は多様な二次代謝産物を産生することで知られるが,鰹節カビが実際の鰹節発酵の過程で産生する化合物については理解が進んでいない。そこで本研究では,鰹節発酵を模した固体培地を用いて鰹節カビを培養し,生物活性物質を探索した。その結果,Aspergillus chevalieriが抗酸化物質neoechinulin Cを産生することを明らかにした。さらに,市販の枯節からも当該物質が検出された。以上の結果から,実際の鰹節発酵の過程においても鰹節カビがneoechinulin Cを産生することが示唆された。

91(5), 987−997 (2025)
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海洋細菌Exiguobacterium sp. oki7株が産生するカロテノイド配糖体エステルの構造決定と抗酸化および抗炎症作用の評価

高谷直己,眞岡孝至,青池実咲,七尾宗龍,澤辺智雄,別府史章,細川雅史
 Exiguobacterium属細菌が産生するオレンジ色素の化学構造や生物活性について不明な点が多い。本研究では,沖縄県瀬長島で採取された海藻からExiguobacterium sp. oki7株を分離した。さらに,本株が産生するカロテノイドとして,5′-(6-イソ-C13:0)-グルコシル-5′,6′-ジヒドロ-4,4′-ジアポリコペン酸メチルを新たに同定した。このカロテノイド配糖体エステルは,抗酸化剤として知られるβ-カロテンよりも強い一重項酸素クエンチング活性を示すとともに,炎症誘導したマクロファージにおいて,遺伝子発現調節を介して炎症性サイトカインの過剰産生を抑制した。

91(5), 999−1011 (2025)
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商業的な出荷条件を模倣したマガキMagallana gigasの貯蔵中の品質,細菌叢及びにおいの変化

渡壁奈央,佐藤有希,松本 茜,古田 歩,岡崎 尚,谷本昌太
 マガキのむき身は,海水に浸漬された状態で流通がされる。この流通時の品質,細菌叢,揮発性成分の変化を,殻付きと比較検討した。その結果,むき身と殻付きの間で異なる細菌の相対存在率の増加が確認された。つけ水では,むき身だけでなく殻付きで主要であった細菌の割合も増加した。揮発性成分は,殻付きよりもむき身で大きく変化し,特にプロピオン酸は貯蔵1日目から殻付きよりも高値であった。これらの結果より,むき身貯蔵時のにおいへの影響は貯蔵初期より生じ,つけ水が関与している可能性が示された。

91(5), 1013−1024 (2025)
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酒粕添加飼料による魚肉香気の改善

河邉真也,下田竜生,吉田孝彰,細井公富,中園健太,森翔太朗,山本基弘,松嵜一真,
安藤優希,植田賢也,田中綾乃,白木信彦,久村悠貴,松竹直也,宮崎泰幸
 養殖魚の香気を改善するために,市販配合飼料に酒粕を添加した飼料(酒粕添加飼料)でマサバ,ウマヅラハギおよびアユを飼育して筋肉等に含まれる香気成分を分析した。酒粕添加飼料を与えた魚類の筋肉には酒粕由来のリモネンとエステル類が蓄積しており,電子嗅覚装置分析では対照群とは異なる香気であることが明らかとなった。リモネンとエステル類が酒粕添加飼料を与えたときに生ずる魚臭さの軽減に寄与していると考えた。

91(5), 1025−1040 (2025)
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シログチ肉糊の二段加熱過程における動的粘弾性挙動と微細構造の変化

植村美咲,山村拓冬,石山佳太,水澤奈々美,小山寛喜,安元 剛,神保 充,池田大介,
菅野信弘,松岡洋子,植木暢彦,万 建栄,中谷操子,渡部終五
 シログチ肉糊を10−70°Cで予備加熱した後,85°Cで本加熱して諸性状を調べた。10−30°Cの予備加熱温度では予備加熱ゲルおよび本加熱ゲルとも破断強度の増大は認められなかった。一方,予備加熱温度35−45°Cではいずれの加熱ゲルとも破断強度は大きく上昇し,この加熱温度帯ではミオシン重鎖の高度の重合化も認められた。動的粘弾性の挙動を調べたところ,貯蔵弾性率(G′),損失弾性率(G″)および損失正接(G′/G″)とも30−50°Cで大きく変化した。さらに,40°Cで予備加熱した本加熱ゲルの微細構造を走査型電子顕微鏡で調べたところ,< 20 μm径の液胞をもつ整然とした網目構造が観察された。

91(5), 1041−1052 (2025)
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日本におけるウナギ消費:遺伝的種同定と取引データからの考察

白石広美,韓 玉山,海部健三
 世界中で漁獲・生産され,国際的に流通するウナギ属魚類について,日本は世界最大級の消費国・輸入国として持続可能性の確保に重要な役割を担っている。日本市場のウナギ製品134点を収集し,DNAバーコーディングを用いて種を同定したところ,ニホンウナギが最多で,次いでアメリカウナギ,ヨーロッパウナギの順であった。国産品は全てニホンウナギで,輸入品は主に中国産のアメリカウナギが占めた。貿易・養殖データの分析と合わせると,日本市場でのヨーロッパウナギの存在はわずかであり,違法取引への関与は限定的と考えられる。

91(5), 1053−1062 (2025)
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水産物輸出企業における持続可能なサプライチェーン管理戦略と財務業績:ベトナムからの実証分析

Nguyen Thi Ngoc Hoa,Khuu Thi Phuong Dong,Nguyen Minh Canh
 ベトナムの水産物輸出企業における持続可能なサプライチェーン管理(SSCM)戦略の導入が財務業績に及ぼす影響を分析した。2017〜2022年にベトナム株式市場に上場する24社の財務諸表・年次報告書を用い,OLS・固定効果・ランダム効果・GLSで推定を行った。その結果,持続可能性に関する取組数と財務業績の間に逆U字型の関係が確認された。また,経営者の前向きな姿勢は業績に好影響を与える一方,経営者の年齢は負の影響を与えた。総資産や財務レバレッジなどの財務資源は正の要因として働くことが明らかになった。
(文責 阪井裕太郎)

91(5), 1063−1088 (2025)
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