Fisheries Science 掲載報文要旨

マグロとその製品:栄養,加工,安全性および将来の展望(総説)

Tan Yi-Li, Nurul Hanisah Juhari, Nuzul Noorahya Jambari, Ashari Rozzamri, Mahmud Ab Rashid Nor-Khaizura,
Mohammad Rashedi Ismail-Fitry
 マグロは,タンパク質や健康に良い脂質を豊富に含む栄養価の高さから,世界的に広く知られている魚類である。刺身や缶詰製品など多様な食品に使用される一方,ヒスタミン中毒,水銀汚染,シガトキシンといった健康リスクもある。近年,熱処理および非熱処理技術の進展により,マグロの栄養価を維持しつつ,安全性を確保することが試みられている。本論文では,マグロおよびその製品に関する現在の加工技術,健康リスク,並びに持続可能性の観点を評価し,技術革新,健康問題,環境負荷の均衡が産業発展において不可欠であることを論じた。
(文責 高橋希元)

91(4), 657−678 (2025)
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加入当り産卵量に基づく東シナ海ケンサキイカの資源評価

Rongpei Guo, Qingpeng Han, Zhou Fang
 2021−2023年の東シナ海での調査データを用いて,ケンサキイカUroteuthis edulisの外套長,肥満度CI,繁殖投資指数RIに基づくモデルによって,異なる管理シナリオ下での加入当り産卵量SPRを推定した。孕卵数は外套長,CIRIの増加に伴って増加したが,体重当り孕卵数は体重増加に伴って減少した。現状の漁獲率(0.595/年)下での%SPRは0.327と推定され,軽度の加入乱獲の可能性がある。50%漁獲選択外套長SL50%を95 mmにすると%SPRが0.4に改善される。CIRISL50%の変化が生物学的管理基準Fx%SPRに与える影響を算定した。
(文責 山川 卓)

91(4), 679−689 (2025)
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サクラエビにおける甲殻類血糖上昇ホルモンの血糖上昇作用

豊田賢治,後藤康丞,大杉大和,小林憲一,鈴木朋和,岡本一利,片山秀和,峯田克彦,五條堀孝,齋藤禎一,大平 剛
 近年,サクラエビの漁獲量は大幅に減少している。本種の資源量回復のための安定した種苗生産技術の開発には繁殖生理機構の解明が不可欠であるが,そのような研究は皆無であった。本研究では,十脚目甲殻類の繁殖生理の中枢であるサイナス腺/眼柄神経節のRNAseqからサイナス腺ペプチド類の情報を整理し,サイナス腺抽出物のHPLC分析からCHHの単離精製に成功し,in vivo試験からCHHの血糖上昇作用を確認した。以上の結果はサクラエビの繁殖生理学研究の基盤となるだけでなく,十脚目甲殻類の神経ペプチド類の進化を考察する上で重要な知見となる。

91(4), 691−701 (2025)
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琵琶湖沿岸部の抽水植物帯におけるホンモロコの産卵場所選択

香田万里,高作圭汰,石崎大介,甲斐嘉晃,亀甲武志
 琵琶湖固有種であるホンモロコは,水位操作による産着卵の干出死亡や沿岸部の産卵環境の悪化により個体数が激減している。本種の沿岸部での産卵場所の選択性には,何らかの環境条件の違いが示唆されていたが,定量的に把握されていなかった。琵琶湖沿岸部2地域において本種の産着卵の有無とその物理環境の関係を調査したところ,本種はヤナギの根が繁茂し,水深が浅く,流速が速い場所を選択して産卵することが示された。本研究の結果は,琵琶湖沿岸部の保全や本種の産卵に配慮した水位操作を検討するうえで重要な知見となる。

91(4), 703−711 (2025)
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小型ハクジラ類4種における雄性生殖器の形態学的特徴

幸田 昂,船坂徳子,吉岡 基
 鯨類における生殖器構造と繁殖戦略との関係を明らかにするため,コビレゴンドウ,ハナゴンドウ,スジイルカ,スナメリの雄性生殖器構造を解剖学的および組織学的に調べた。生殖器の構造は,厚い白膜に覆われたS字状の陰茎,太い線維性組織からなる陰茎海綿体,陰茎の伸展を制御する陰茎後引筋,前立腺が唯一の副生殖腺であるという点で共通していた。一方,コビレゴンドウとハナゴンドウにおいて,陰茎先端の構造が伸長していた。各種の生殖器構造と社会構造から,これら2種はスジイルカよりも精子競争への投資が大きいことが推察された。

91(4), 713−726 (2025)
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琉球列島における伝統的なイソアワモチ漁業と食用利用

水上伊織,クロエ・ジュリー・ロイス・フロー,ギシェルモ・ミロネンコ・カステロ,屋富祖七海,ジェームズ・デイビス・ライマー
 琉球列島においてイソアワモチは干潮時の潮間帯にて多く発生し,採集も容易であるため島民に食されてきた。琉球列島ではイソアワモチ属4種の生息が確認されているが,イソアワモチ漁業に関する記録は数少ない。本研究では,8島において聞き取り調査を行い,さらに分子系統解析を用いてイソアワモチ属の種判別を行った。琉球列島においてイソアワモチがどのように利用されてきたのかを理解することは,琉球列島における伝統文化に対して新たな見解を提供し,イソアワモチ属の保全や持続可能な漁法への貢献が期待できる。

91(4), 727−746 (2025)
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タチウオTrichiurus japonicusの薄明条件への視覚適応

宮崎多恵子,大島秀弥,Victor B. Meyer-Rochow
 タチウオの薄明期における視覚システムを,網膜組織構造と所有する視物質遺伝子の観点から検討した。視細胞層は単錐体細胞と5または6層に重層する桿体細胞により構成された。網膜からロドプシン(RH1)と緑オプシン(RH2)遺伝子が単離され,最大吸収波長は各々490及び507 nmと推定された。暗順応処理した網膜の色素顆粒は強膜側に凝集し錐体細胞は外限界膜側に残ることから,薄明下で網膜への入射光は単錐体にまず作用し,残りの光を桿体が検出すると推定された。この仕組みにより,タチウオは薄明下でRH1とRH2による色覚を機能させることが示唆された。

91(4), 747−761 (2025)
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日本産魚類の脳:新たな脳サイズ指標による分析

渡辺 茂
 102種の日本産魚類(柘植ら,1968)の脳の大きさが新しい方法で測定された。脳のプロフィールは視覚的に,4つの異なるタイプに分けられ,日本産魚類の脳の形態に多様性があることが分かった。プロフィールの分技は系統発生的な分技とは一致しない。体長に影響を与える環境要因(海水と淡水)や行動要因(夜行性と昼行性)が知られているが,これらの要因は脳の大きさやプロフィールの違いを有意に説明するものではなかった。

91(4), 763−778 (2025)
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漁期における沖縄近海域のソデイカThysanoteuthis majorの成熟特性

北 朋紘,太田 格,田畑瑠那,安里聖貴,松崎遣大
 ソデイカは,熱帯域から温帯域に生息する大型のイカであり,北西太平洋では重要な水産資源となっている。資源管理に必要な基礎的な生物学的特性を明らかにするため,沖縄近海域における本種の産卵期,性成熟,成熟サイズを組織学的解析に基づいて調査した。本種は,2−4月をピークに周年産卵すると推定された.卵巣は,卵群非同期発達を示し,一生のうちに複数回産卵すると考えられた。最小成熟外套長は,雌が574 mm,雄が492 mm,50%成熟外套長は,雌が664 mm,雄が500 mmであった。これらの結果は,本種の効果的な資源管理策を検証する上で重要である。

91(4), 779−790 (2025)
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温水飼育によるヒラメ中におけるリジンおよびオルニチン含有量の増加の可能性

佐藤雄飛,石川義朗,谷 享
 本研究では温水飼育によるヒラメ(Paralichthys olivaceus)筋肉中のリジンとオルニチン含有量の上昇効果を検証した。160日齢の若魚を7,10,15,20,23°Cの各水温で4−7か月間飼育した。飼育中,対象魚の体重量と共に筋肉中におけるこれら2種のアミノ酸および他の主要アミノ酸の各含有率の時間変化を観察した。飼育の進行に伴うリジンおよびオルニチンの各含量の増加率は,水温が高いほど高くなる傾向があり,特にリジンの増加はより明確だった。また,筋肉中のリジンとオルニチンの総量も,水温の上昇とともに増加した。これらの結果は,温水飼育がヒラメ中のリジンとオルニチン含有量を増加させる可能性を示唆する。

91(4), 791−797 (2025)
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サクラマスの繁殖期における精子の質と精漿パラメータの変化が精子凍結保存に及ぼす影響

Apatsa Pearson Chelewani,島袋泰志,高橋英佑,西村俊哉,藤本貴史
 サクラマスの精子の質は繁殖期を通して変化し,人工授精や凍結保存の結果に影響を与える。本研究では凍結前後の精子運動性,生存率,濃度および精漿のpH,電気伝導度,DNA濃度,タンパク質濃度,浸透圧を調査し,最適な精子採取のタイミングと精子凍結保存の成否に関連する要因の解明を目的とした。繁殖期間で精子運動性には有意な変動が観察されたが凍結後の精子運動性と相関がない場合もあった。精漿パラメーターでは解凍後精子の運動性と相関が見られた。精漿性状の寄与により解凍後の精子運動性の予測が向上することが示唆された。

91(4), 799−809 (2025)
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マダイ稚魚用飼料に対するティラピア加工残渣ミールの配合

高桑史明,右田孝宣,田中俊子,請井潤也,飯塚泰助
 本研究では,ティラピア加工残渣由来魚粉(TBM)の利用性について調べた。飼料に含まれるペルー産アンチョビミール(PAM)のタンパク質を,TBMで0,15,30,45および55%代替した飼料を調製した。これらを平均体重10.8 gのマダイ稚魚に6週間給与したところ, TBM配合率の上昇に伴う成長成績への悪影響はみられなかった。しかしながら,全魚体の粗脂肪含量はTBM配合率上昇に伴って低下する傾向にあり,T55区でT0区よりも有意に低かった。以上より,マダイ稚魚用飼料に含まれるPAMの45%までを成長に悪影響なくTBMで代替できることが明らかとなった。

91(4), 811−822 (2025)
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半閉鎖性海域(知多湾)における秋季河川リン供給量と溶存態無機リンの経年変動にみられるミスマッチ

青木一弘,筧 茂穂,寒川清佳,柘植朝太郎
 貧栄養化や気候変動は沿岸生態系に影響することが知られている。半閉鎖性海域である知多湾では,秋冬季における栄養塩濃度の低下を背景に,ノリの色落ちが発生している。本研究では,2000−2010年代における河川からの栄養塩供給量および沿岸域の栄養塩濃度の季節性の経年的な変化を観測結果から明らかにし,その変動要因を鉛直一次元低次生態系・物理結合モデルを用いて解釈することを試みた。河川供給量のピークが2012年以前の夏季から,2013年以降の初秋に遅れる傾向が認められた。秋季の河川全リン(TP)供給量は経年的に増加する傾向にあるが,秋冬季の沿岸域の溶存態無機リン(DIP)は低下していた。冬季DIPは夏季海底堆積物TP濃度と正の相関関係が認められ,夏季海底堆積物TP濃度は,春季河川TP供給量と正の相関関係があった。河川DIP供給量の経年的な変化を加味した結合モデルで,夏季下層および秋冬期のDIPの低下が再現された。これらの結果は,冬季DIP濃度が,秋季河川TP供給量でなく,春季河川TP供給量にコントロールされていることを示唆した。

91(4), 823−831 (2025)
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ウニの低温保管時における生殖巣のATP関連化合物および鮮度指標の変化

村田裕子,松田 隆,干川 裕,鵜沼辰哉
 ウニの鮮度指標を探索するために殻付きウニと生殖巣の低温保管を行い,生殖巣中のATP関連化合物と各種鮮度指標の変化を調べた。活力が低下したキタムラサキウニとアカウニでは,ATP%とAECが減少したことから,活ウニの活力指標として有効と考えられた。前記2種とガンガゼの生殖巣は,保管中にHxRとHxの増加が見られ,ATP%とAECが低下した。キタムラサキウニとガンガゼの生殖巣では,K値,K′値,Hx/AMP比が保管12日後に上昇した。以上の結果から,生殖巣の鮮度指標としてATP%,AECが有効で,K値,K′値,Hx/AMP比は初期腐敗の指標になりうると考えられた。

91(4), 833−844 (2025)
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卵白粉末を用いたペルー産ヘイクMerluccius gayi peruanusすり身の加熱ゲル特性の改善

施 雅芳,耿 婕婷,楊 辰旭,郭 祖霖,吉田裕一,大迫一史
 本研究では,2種類の卵白粉末SDEWとNDEWを用いて,ペルー産ヘイクのゲル形成能に及ぼす影響を検討した。卵白粉末を1%から4%の終濃度で添加したところ,特に4%のSDEWを用いて40/90°Cまたは90°Cで処理の場合,ゲル形成能が著しく向上し,表面色調が白くなり,タンパク質分解やTCA可溶性ペプチドの生成が抑制された。また,高いタンパク濃度とpH値の違いがゲル形成能に寄与した可能性がある。したがって,4%のSDEWと40/90°Cの加熱処理により,ペルー産ヘイクすり身のゲル品質が改善されることが示唆された。

91(4), 845−857 (2025)
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