Fisheries Science 掲載報文要旨

再生産関係に大きな不確実性がある場合,どのような%SPRが日本の水産資源に目標として適用可能か

宮川光代,市野川桃子
 本研究では,世界的なデータベースをもとにメタ解析から推定された再生産関係におけるスティープネスパラメータに関する最新の知見と,日本の水産資源の生活史パラメータの情報をもとにMaximum Minimum Yield(MMY)を30系群の日本の水産資源で推定し,MSY管理基準値の代替値( F%SPRMMY ) をもとめた。その結果,系群や仮定するシナリオにより% SPRMMY は23−62%と幅を持ち( サワラ瀬戸内海系群の86%を除く) ,また F%SPRMMY で漁獲すれば,最低でもMSYの70%程度の漁獲量が見込めることがわかった。% SPRMMY は,再生産関係の不確実性を反映した予防的な値となった。

90(5), 687−700 (2024)
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マコガレイ集団において示唆されたミトコンドリアDNAの超可変領域におけるホモプラシー:当該領域を用いた集団遺伝学的解析の検討

山本佑樹,高梨愛梨,横澤祐司,池田 実
 魚類におけるミトコンドリアDNAの調節領域は高い変異性を示し,遺伝的多様性調査の遺伝マーカーとして利用されている。マコガレイ集団について,調節領域(前半部の超可変領域)ならびに変異性がより低いND2とCyt b 遺伝子のハプロタイプ分類や系統関係を検討した結果,調節領域ではホモプラシーが生じており,ハプロタイプの誤分類をもたらしていることが示された。一方,3領域を連結して解析することでハプロタイプの誤分類は抑止され,集団構造や過去の集団動態をより詳細に推定できることが示唆された。

90(5), 701−712 (2024)
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ニジマスの塩化物イオン輸送体Slc26a6およびCftrの遺伝子発現と鰓塩類細胞における局在

菊池泰生,井ノ口繭,早川明宏,安立  海,井戸篤史,大谷真紀,末武弘章,渡邊壮一
 ニジマスの鰓塩類細胞頂端膜を介するCl の輸送を検討するため, slc26a6cftr1 および cftr2 の遺伝子発現・各タンパク質局在を解析した。 slc26a6 は淡水鰓で特異的に発現した。いずれの cftr も海水鰓で高発現だったが,海水移行後の発現上昇等は cftr1 の方が顕著だった。免疫組織化学により,Slc26a6が淡水鰓の,Cftr1が海水鰓の塩類細胞頂端膜に局在することが確認され,ニジマス鰓塩類細胞で,淡水中ではSlc26a6がCl 取込を,海水中ではCftr1がCl 排出をそれぞれ担うことが示された。

90(5), 713−721 (2024)
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時空間分布と年齢組成における性差はガストロ Gasterochisma melampus の漁獲物に見られたメスに偏った性比を説明できるか?

伊藤智幸
 南半球温帯域に分布するガストロ(ウロコマグロ)の漁獲物は,強くメスに偏っている。はえ縄漁獲データでのGAM解析は,性比に与える空間と時間の影響は小さいことを明らかにした。脊椎骨(N=179)を用いた年齢査定から各輪紋形成時の尾叉長を推定し,性別のベルタランフィ成長式を推定して求めた漁獲物の年齢組成は雌雄間で類似した。よって性特異的時空間分布または性別死亡率に起因せず,個体群として性比が偏っていると考えられた。

90(5), 723−732 (2024)
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鹿児島湾におけるヒゲナガエビの卵巣成熟,成熟サイズおよび産卵期

モハマド・アロムギル・ホセン,土井 航,大富 潤
 西日本の沿岸・沖合で漁獲されるヒゲナガエビの鹿児島湾内の集団について雌の繁殖生態を調べた。同湾中央部の深海底で採集した雌の卵巣の組織学的観察を行った結果,非同調的成熟を示し,卵母細胞縁辺に桿状体がみられる雌または生殖腺熟度指数が6% 以上の雌は成熟雌と判断された。成熟雌の最小甲長は約24 mmで,1歳に相当した。鹿児島湾における本種の産卵期は11月から5月で,2月にピークがみられた。実体 顕微鏡下で卵母細胞縁辺に認められる球体は桿状体であることが確認され,成熟雌を識別するための有効な指標と結論づけられた。

90(5), 733−743 (2024)
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リアルタイムグルコースモニタリングバイオセンサによる環境光色がナイルティラピアのストレス応答に及ぼす影響の評価

劉 騰宇,呉 海云,村田政隆,松本陽斗,大貫 等,遠藤英明
 様々な養殖条件下での魚類のストレス応答を理解することは,養殖の最適化に不可欠である。本研究では,ワイヤレスバイオセンサシステムを用いて血糖値 のリアルタイムモニタリングを行い,異なる光の色(青,緑,赤)が養殖中のナイルティラピア Oreochromis niloticus のストレス反応に与える影響を調べた。結果として,青色光は随時血糖値を低下させストレスの回復に効果的であること,緑色光は急性ストレス時には血糖を上昇させるが長期的には青色光 と同様の効果があること,赤色光は血糖値の大きな変動を引き起こし,潜在的な害がある可能性が示された。

90(5), 745−754 (2024)
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有機セレン含有飼料は熱ストレス負荷下におけるシロアシエビのストレス応答を制御する

Medhat,R. Elfadadny,Samuel M. Mwambur,近藤秀裕,廣野育生
 有機セレン(OSe)は主要な抗酸化物質であり,ストレスから保護することができることが知られている。本研究ではシロアシエビにOSeを餌に添加して給餌することで熱ストレス応答に影響があるかを調べた。飼育温度を28°Cから33°Cまで温度を上昇させてから1時間および6時間後に鰓,筋肉,肝膵臓を採取し,ストレス関連遺伝子の発現応答を解析した。OSeを給餌したエビと対象のエビでは遺伝子発現応答が異なることがわかった。ストエス応答に関連する遺伝子の発現はOSe給餌試験区で対照区に比べて高い傾向を示した。

90(5), 755−771 (2024)
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アメリカミズアブミール配合飼料は,腸内微生物叢の多様性,栄養素の消化率,成長成績を改善するか?マダイ Pagrus major に関する研究

オザン・オクタイ,成 泰敬,壁谷尚樹,森岡伸介,劉 家銘,小林徹也,霜田政美,佐藤秀一,芳賀 穣
 マダイの成長成績や腸内細菌叢などにおよぼすアメリカミズアブ(BSF)ミールの影響を調べた。BSFは魚の成長や消化率に有意な影響は与えなかったが,魚粉を完全に置き換えると成長が低下した。BSF区ではα 多様性指数が高く,腸内細菌叢の多様性が高いことが示唆された。BSFミール配合飼料を与えた魚の腸内細菌叢では,消化酵素やビタミンB群の生産能の増加や抗酸化酵素を産生する細菌群が増加傾向にあったことから,BSFミールで魚粉の67%を代替でき,マダイの腸内細菌叢に有益な効果をもたらす可能性があることを示唆した。

90(5), 773−786 (2024)
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Theonella 属カイメンを捕食するヒトデ Thromidia catalai に含まれる臭化インドールアルカロイドcatalindoles A-Cに関する研究

松田隆雅,茂野 聡,大城太一,上田将史,高田健太郎
 海綿動物からは様々な生物活性物質が発見されており,それらの多くは生体防御物質として利用されると考えられている。近年,八丈島近海で生物活性物質を多く含む Theonella 属カイメンを捕食するヒトデ Thromidia catalai が目撃されている。本研究では, T. catalai の体内に主要な二次代謝産物として存在する,3つの新規臭化インドールアルカロイドを発見した。これらの化学構造は,機器分析および化学分解によって決定し,化学合成によって検証した。さらに,消化管に存在した化合物情報から, T. catalai がどの種のカイメンを捕食しているかを明らかにした。

90(5), 787−793 (2024)
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インドネシア・ジャワ島における海藻 Ulva lactuca の産業利用候補資源の探索

リゼフィ・ファリズ・パリ,ウジュ,アグン・テリ・ウィジャヤンタ,ワヒユ・ラマダン,サフリナ・ディア・ハルヂニンティアス,キキ・アディ・クルニア,モハマド・ルトフィ・フィルマンシャ,アリナル・ハナ,ムハマド・ナウファル・アブラル,若林里衣,神谷典穂,後藤雅宏
 Ulva 属は,インドネシアのジャワ島沿岸の潮間帯に生育する未利用の緑藻である。本研究では,ジャワ島南部の3つの地域(Cihara,SuradeおよびTepus)から採取した Ulva lactuca サンプルを,化学組成,物理的特性,生物活性の観点から調査し,海藻産業の確立に最適な地域を決定した。 U. lactuca サンプルの化学的特性は産地によって大きく異なり,Tepus,SuradeおよびCiharaの海藻は,それぞれタンパク質含有量(22.93% ),炭水化物含有量(61.58% ),ミネラル含有量(28.72% )が最も高かった。アミノ酸は,L-アスパラギン酸とL-グルタミン酸の含有量が高かった。すべての U. lactuca サンプルは,クロロフィルやカロテノイドなどの色素を豊富に含んでおり,特にTepus地区のサンプルは,その傾向が顕著であった。粗ウルバンの含有量が最も高かったのは,Surade産の海藻であった(26.9% )。ウルバンは,S=OおよびC-O-S基など多くの硫黄元素を含有し, Ulva 属特有の硫化多糖であり,220°Cまでの熱分解耐性が認められた。TepusとSurade地区の U. lactuca サンプルから得た粗ウルバンは,それぞれ100 ppmと1000 ppmで線維芽細胞の増殖が確認され,生物活性を有することが示された。調査した U. lactuca サンプルの特性から,TepusとSurade地区が,養殖や加工産業を興すのに潜在的に有望な場所として特定された。

90(5), 795−808 (2024)
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食用海藻トサカノリ由来レクチンは高い消化耐性を示す

Kathleen Kay Buendia,亀田−右田奈々,照屋秀之,堀 貫治,平山  真
 海藻がもつ多糖類や脂質が我々の健康に好影響を与えることは分かってきたが,タンパク質成分の健康効果は未だ不明である。本研究では,3種食用紅藻由来糖結合性タンパク質「レクチン」の消化耐性を調べたところ,トサカノリ由来レクチンMPLが人工消化液や各種プロテアーゼで24時間処理後も活性を維持し,高い耐性を示すことを見出した。さらに,MPLはヒト大腸がん由来培養細胞に対して糖鎖との結合を介して増殖阻害能を示した。本研究は,MPLが摂取後に消化酵素で分解されず活性を保ったまま腸に届き,大腸がんを抑制する可能性を示唆した。

90(5), 809−823 (2024)
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異なる抽出法によるカタクチイワシ回収タンパク質の化学組成と機能性

Nonthacha Thanathornvarakul,高橋希元,耿ショウテイ,大迫一史
 本研究は,小型のカタクチイワシから回収したタンパク質(RP)の化学組成と機能性を明らかにすることを目的とした。粉砕した魚肉から,塩水処理(RP-S),酸性処理(RP-A)および塩基性処理(RP-B)を用いてタンパク質を抽出した。NaとFe含量が最も高かったのはRP-Sであった。RP-SとRP-Bの吸水・吸油能と泡安定性はRP-Aよりも高かった。これらの結果から,RP-Sは小型魚からタンパク質を抽出するための手段となり得ることが示唆された。

90(5), 825−835 (2024)
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台湾の漁業組合の運営効率の評価

Li-Hsueh Chen,Yao-Jen Hsiao,Ming-Chun Chen
 漁業と漁村の発展には,漁協の運営効率化が重要である。漁協には経済,金融,サービス部門があるため,本研究では,多面的な活動に関する包絡分析によってその効率を評価した。各漁協の全体的な効率を調査することに加えて,本研究では,経済,金融,サービス部門のそれぞれの運営効率の違いを個別に評価した。漁協は,組織規模と地域毎の漁業の違いを考慮して分類された後に,評価された。実証研究では,経済,金融,サービス部門の活動が実際の運営に直接的に影響している台湾の24の漁協が研究対象として選ばれた。漁協の全体的な効率は,漁協の規模によって影響を受け,主に経済部門の効率の差が,漁協間の違いを生じさせていた。本研究の結果は,漁協の全体的な効率に改善の余地があることを示しているが,さまざまな漁協の効率を改善するには,それぞれの漁協の経済状況の違いを考慮する必要がある。
(文責 石川智士)

90(5), 837−854 (2024)
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WTOおよびEUの燃料税改革が欧州の漁船団に与える影響について—ガルシア(スペイン北西部)漁船団に対する産業関連分析による考察

ゴンザロ・ロドリゲス−ロドリゲス,エドアルド・サンチェス−イヤマス,エレナ・マルティネス−カブレラ, ユーゴ・M・バイエステロス
 世界貿易機関(WTO)と欧州連合(EU)の双方が提唱している税制改革案は,漁業の燃料費に影響を与えるだけでなく,課税対象によって対処しようとしている外部経済性,改革目標,課税範囲及び免除,税率において大きく異なっていることから,それらの影響を比較し代替案を考察するよい機会となっている。この税制改革案は,長期にわたる政治的・社会的・学術的な領域での議論の結果だが,いくつかの面で依然として不明確な点がある。第一に,実際の漁業管理システムは多種多様な制度的背景に依存しているため様々な結果が生じる可能性があるが,これらの実証研究の数はまだ限られていること。第二に,沿岸国は12マイルを超える海域では自治権限を持っておらず,このため改革の対象は小規模漁船団(SSF)に限定される。結果として,漁船団への経済的影響は依然として不明確である。よって本稿は,ガルシア(スペイン北西部)の漁業セクターの産業連関表を基に,この税制改革が欧州の代表的な漁船団に与える直接的な影響,効果,および副作用について分析した。結果,双方の税制改革案には幾つかの欠点が散見され,目標とする経済外部性の是正はされず,むしろSSFにとって不利となる分配効果などの追加的な外部性が発生する可能性がある。また,代替政策案についても論じる。
(文責 内田洋嗣)

90(5), 855−868 (2024)
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