Fisheries Science 掲載報文要旨

従来型ライントランセクト法を用いた漁獲対象3鯨種(オキゴンドウ,スジイルカ,カマイルカ)の部分的な個体数推定値

金治 佑,佐々木裕子
 オキゴンドウ,スジイルカ,カマイルカの3種には年間捕獲枠が設定されているが,その根拠となる個体数推定値は未公表または,30年以上前のものである。そこで過去および最新のライントランセクト調査データを再解析し,これら3種の個体数を推定した。その結果,最新年の推定値はオキゴンドウ4,105頭,スジイルカ84,657頭,カマイルカ28,052頭となった。本研究の結果は広域分布するこれら3種の個体数の一部を代表する。また現行捕獲レベルは個体数から計算される潜在的生物学的間引頭数を大きく超えていなかった。

90(6), 871−880 (2024)
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バフンウニ漁の自主管理の実態と資源量推定の課題

仲野大地,児玉晃治,頼本華子
 福井県坂井市三国町の海女は,漁協の支所単位でバフンウニ漁を管理している。海女は海中景観を熟知し,細かな単位で漁場を認識し,各漁場の漁獲量を把握できる。そこで,2020−2022年の漁期に海女から日別・漁場別の漁獲量記録を入手し,ウニ漁の自主管理の実態を把握した。海女はウニ漁を通じて各漁場の資源状況を感知し,資源が枯渇する前に自発的に漁獲努力量を制限していた。そのため,漁期後半もCPUEが低下せず,漁獲量の推移から初期資源量を推定できない漁場があった。漁業者の行動は適切な資源量推定の手法を検討する際に考慮が必要である。

90(6), 881−892 (2024)
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南極海東インド洋区におけるナンキョクオキアミの密度比および音速比と成熟段階の関係

松倉隆一,土井口華絵,山本那津生,安部幸樹,甘糟和男,福田美亮,長谷川浩平,向井 徹,村瀬弘人
 音響手法による資源量計測に不可欠なターゲットストレングス(TS)推定のため,ナンキョクオキアミの密度比・音速比を測定した。音速比は抱卵メスが最大で,成熟メス,未成熟の順であった。密度比では抱卵メスの値が他に比べ有意に小さかった。同一形状(体長38 mm)と仮定して,各成熟段階の密度比・音速比を用いてDWBAモデルで推定した38および120 kHzの最大TSは,それぞれ−79.9および−64.0 dBで密度比・音速比による差は無かった。さらに形状を各成熟段階に合わせて推定したTSパターンでは抱卵メスが他と異なり,抱卵による形状変化の影響が大きかった。

90(6), 893−905 (2024)
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キタムラサキウニ(Mesocentrotus nudus) 配偶子形成初期における核内受容体遺伝子の発現解析

渡邊周一郎,松崎 賢,志水詩野,樋口一郎,東藤 孝,都木靖彰,浦 和寛
 キタムラサキウニにおける雌雄生殖巣の成熟段階を組織学的解析により解析した。また, vasa 遺伝子の全長配列を決定し,その発現量を指標とすることで,生殖細胞が増殖することを確認した。この時期の雌雄生殖巣では23種類の核内受容体遺伝子が発現し,その内5種類の発現量が生殖細胞増殖期に増加していたことが明らかとなった。以上の結果から,これら5種類の核内受容体が生殖巣において配偶子形成の初期段階に機能する可能性が示唆された。

90(6), 907−924 (2024)
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有害渦鞭毛藻 Karenia mikimotoi のスルメイカに対する悪影響

夏池真史,山本 潤,小西哲弥,木村俊介,北川雅彦,板谷和彦
 函館港の赤潮から得た有害渦鞭毛藻 Karenia mikimotoi が優占する海水(0, 90, 320, 1900 cells mL−1 )にスルメイカを24時間暴露し,着底したイカと生存したイカの個体数を定期的に観察した。 K. mikimotoi の細胞密度が最も高い群では,試験開始から1時間で着底が始まり,着底と死亡を合わせた異常の頻度が他の群に比べて有意に高かった。 K. mikimotoi の細胞密度はスルメイカの死亡に対して比例ハザード性を満たした。これらの結果は, K. mikimotoi がスルメイカにとって有害であり,遊泳能力の低下から死に至る衰弱を引き起こすことが示唆され,このスルメイカの衰弱は鮮度の低下による商品価値の低下を引き起こし得ると考えられる。

90(6), 925−930 (2024)
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カンパチの摂餌戦略の解明:台湾海域におけるサイズ依存的な摂餌パターンと環境の影響に関する洞察

Mubarak Mammel,Ming-An Lee,Yi-Chen Wang,Arpita Ghosh,Yu-Kai Chen,
Milena Vijayan Matilda,Sawai Gwyneth Navus
 2020年6月から2022年6月にかけて,台湾海域におけるカンパチの摂餌動態や主要な食物を調査した。サンプルの分析により,環境要因の変動が餌料環境,さらにはカンパチの食物利用に影響を与えたことが示された。主な食物は浮魚類(53% ),底魚類や不明魚類(18% 前後)であり,イカ類と甲殻類は6% 前後であった。雌雄間で食性に違いはみられず,季節や発育に伴って食性の変化が観察された。以上の知見は,水温や塩分などの海洋環境とカンパチの摂餌動態との関連性についての理解を深めるものである。
(文責 冨山 毅)

90(6), 931−952 (2024)
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摂餌様式との関連を示す舌乳頭および腺組織を持つミンククジラ胎児の舌の形態

渡邊陽斗,廣瀬亜由美,村瀬弘人,中村 玄
 本研究では,ヒゲクジラ類の水棲適応と特殊化した舌の形態との関連を明らかにするため,ミンククジラ胎児の舌を肉眼および顕微鏡下で観察した。調査した4個体の胎児の舌では陸生哺乳類で見られる明瞭な舌乳頭構造が観察されなかった一方で,全ての個体で辺縁乳頭が発達しており,授乳を補助する役割が考えられた。網羅的な舌背の組織観察の結果,味蕾などの味覚に必要な形態は認められなかった。機械乳頭の退縮,口峡部にのみ分布する舌腺といった舌の形態的特徴は,本種が獲得した突進摂餌と関連して考察された。

90(6), 953−968 (2024)
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トラモアタグの装着がクルマエビ稚エビの捕食者回避能力に与える影響

佐藤  琢,中村政裕
 クルマエビに対して開発された装着型外部標識トラモアタグは標識個体の体表に位置するため,潜砂行動や跳躍による逃避行動に影響を与える懸念がある。そこで,トラモアタグの装着がクルマエビの捕食者回避行動に与える影響を室内実験によって調べた。その結果,トラモアタグの装着は,クルマエビの標識方法のひとつである尾肢切除と異なり,潜砂にかかる時間や跳躍(跳躍角度や跳躍距離,跳躍速度)に影響を与えなかった。以上のことから,トラモアタグはクルマエビの放流効果調査や資源生態調査に適した標識のひとつであると考えられた。

90(6), 969−977 (2024)
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ノコギリガザミ類のカニ Scylla tranquebarica に対し糖類の混合物が摂餌活性物質となることの行動学的検証

Kit-Shing Liew,Bei-En Seow,Rossita Shapawi,Hon Jung Liew,Karsoon Tan,Kianann Tan,
益田玲爾,Leong-Seng Lim
 糖類の混合物(ガラクトース:ブドウ糖:果糖:ショ糖=2:1:1:1)がノコギリガザミ類のカニに対し誘引物質あるいは摂餌刺激物質となる可能性を検証した。異なる濃度の上記混合物を与えたところ,5%および7%の溶液では3%液よりも反応スコアが高く,20%の個体で顕著な索餌反応が現れた。また,これらの濃度の溶液を含む配合飼料を与えたところ,濃度の処理区間でカニの反応に有意差はないものの,7%区のカニは対照区よりも有意に高い反応を示した。以上から,糖類の混合物は本種の摂餌活性を高めることが示された。

90(6), 979−987 (2024)
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ミナミノコギリガザミのメガロパと稚ガニの飼料性タンパク質要求

Noorsyarinah Sanudin,Fui Yin Thien,浜崎活幸,Rossita Shapawi,Annita Seok Kian Yong
 ミナミノコギリガザミのメガロパから初期稚ガニ期における最適なタンパク質要求量を評価するため,メガロパ30個体をそれぞれ3個の黒色容器に収容し,40−60% (5% 間隔で設定)のタンパク質を含む5種類の配合飼料を給餌して7日目と14日目に成長,生残,齢期組成を調べた。齢期の進行および成長は,飼料タンパク質レベルの40% から55% まで増加傾向を示したが,60% では減少した。タンパク質レベルと成長の関係に2次多項式回帰を適用し,メガロパから初期稚ガニ期における最良の成長には51.3% の飼料タンパク質レベルが必要であることが示唆された。

90(6), 989−999 (2024)
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ステレオカメラを用いた魚体長計測から測定した尾鰭振動数による非侵襲的な遊泳速度推定手法

佐々木勇人,西川 凜,米山和良
 非接触・非侵襲的な遊泳速度推定手法を構築するため,ステレオ画像計測により計測されたサクラマスの魚体長の変動周期から尾鰭振動数を計測し,遊泳速度推定モデルを構築・検証した。ステレオカメラによる遊泳速度推定モデルの妥当性を示し,波浪を想定した運動下のカメラであっても同等の計測が可能であることが分かった。本手法によって計測された尾鰭振動数は,3次元的な尾鰭振動様式を反映しており,クラスタ解析により非定常遊泳を検出可能であることから,異常行動の把握にも応用可能であると考えられた。

90(6), 1001−1010 (2024)
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植物性原料主体飼料への動物性原料配合がマダイの生理状態に及ぼす影響

村下幸司,松成宏之,吉永葉月,安池元重,山本剛史,奥 宏海,古板博文
 植物性原料主体飼料への動物性原料の配合がマダイの生理状態に及ぼす影響を調べた。植物性原料主体飼料を給与した魚では,成長成績の低下に加え,直腸組織変性やステロール代謝,グリシン代謝,グルタチオン代謝,ヘモグロビン代謝および成長関連因子などの生理指標に異常が確認された。植物性原料主体飼料に動物性原料を配合することで,これら成長遅遅延と生理的状態の悪化が改善された。これらの結果から,植物性原料と動物性原料を適切に組み合わせることで,マダイの生理的状態を改善できることが示された。

90(6), 1011−1023 (2024)
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LAMP法による Scomber 属サバの迅速かつ特異的検出の開発

崔 巍,小山寛喜,黒瀬光一
 日本市場で広く流通し,食物アレルギーの懸念があるサバをLAMP法を用いて簡便かつ迅速に食品中から検出する方法を開発した。LAMP法はPCR法と異なり等温で反応が進行するのでサーマルサイクラーが不要である。本研究は,比色試薬を用いることと反応条件を最適化することで特別な装置がなくともLAMP反応開始後30−60分後には目視でDNA増幅を確認できるので,簡便性,迅速性,使いやすさの点でリアルタイムPCRより優れており,専門的な研究室以外での使用にも適している。本法は食品表示を監視する有用な手法となり,サバアレルギーを有する消費者の安全に寄与することが期待される。

90(6), 1025−1034 (2024)
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超音波処理によるアメリカオオアカイカ由来タンパク質濃縮物の乳化特性改善

Odilia A. Higuera-Barraza,Wilfrido Torres-Arreola,Josue E. Juárez-Onofre,Roberto C. Carrillo-Torres,
Guadalupe M. Suárez-Jiménez,Saúl Ruíz-Cruz,Enrique Márquez-Ríos
 超音波処理がアメリカオオアカイカ由来タンパク質の乳化特性に及ぼす影響を検討した。乳化安定性は液滴サイズと粘度変化に基づき評価した。振幅40% で90秒間処理した場合,粒子径が小さくなり,顕微鏡画像とも一致した。タンパク質溶液は擬塑性挙動を示した。15日後,未処理試料は 20.06±0.17 μmのザウター径を示したが,超音波処理試料では 13.64±0.15 μmであった。エマルションの見かけの粘度は,超音波効果により低下した。以上から,超音波処理はイカ由来タンパク質の乳化特性を向上させることが示された。
(文責 高橋希元)

90(6), 1035−1042 (2024)
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サケ科魚類特異的レトロトランスポゾン Hap I をPCR標的としたサケ科魚類高感度検出法

崔  巍,根来雄哉,小山寛喜,黒瀬光一
 サケ科魚類はアレルギーを引き起こす可能性のあることが知られており,食品の安全性を考える上でサケ成分混入の有無を評価することは重要である。本研究は,サケ科魚類特有の高コピーレトロトランスポゾンである Hpa I をreal-time PCRの標的DNAとして採用し,PCR条件を最適化することで,他の生物種のDNA混在下でも微量のサケ科魚類DNAを迅速かつ正確に検出することが可能となった(検出限界20 fg)。

90(6), 1043−1052 (2024)
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