Fisheries Science 掲載報文要旨

東シナ海におけるハダカイワシの年齢・成長・食性

Chi Zhang,Huilin Guo
 東シナ海の深海漁場に生息するハダカイワシの生活史の特徴を,3年間に大陸斜面で採集された標準体長91−147 mmの成魚452個体から調査した。成長パターンと孵化日は耳石微細構造分析から推定し,摂餌生態を胃内容物から調べた。産卵期はほぼ1年中続き,孵化時期によって2つの群れに分けられた。食性は季節や体長によらず Maurolicus muelleri が支配的であった。このような特性は種間競争を減少させる可能性がある。
(文責 松石 隆)

90(4), 555−564 (2024)
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住宅地と農地を流れる小河川に生息するニホンウナギの栄養生態の比較

Alisa Kutzer,久米 学,河合史佳,
寺島佑樹,Edouard Lavergne,
Omweri Justus Ooga,三田村啓理,山下 洋
 ニホンウナギは多様な生息地を利用する。本研究では,和歌山県の住宅地を流れる安久川と農地を流れる高瀬川において,2サイズ群(全長 ≦ 240 mm,> 240 mm)の食物多様性と栄養ニッチ幅を評価し,生息環境と栄養生態の関係を分析した。両河川ともにウナギは高密度で生息したが,炭素・窒素安定同位体比及び胃内容物分析によると,小型ウナギの食物多様性と栄養ニッチ幅は河川間で異なり,都市河川である安久川では小型ウナギにとって不十分な餌料と環境が示唆された。また,安久川のウナギの肥満度は高瀬川よりも低かった。

90(4), 565−579 (2024)
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サクラエビ幼生の稚エビへの効率的な育成方法の開発

増田果南,松崎芽衣,鈴木朋和,小林憲一,笹浪知宏
 本研究ではサクラエビ幼生を効率的に稚エビまで育てる方法を検討した。放卵された受精卵を孵化させ,個体ごとに飼育したところ,充分な量の餌を与えることで稚エビまで発育した。しかし,10個体をまとめて飼育すると,エラフォカリスII期以降で共食いが起こり,生残率が急激に低下した。飼育密度を低下させると共食いの発生率は低下し,飼育密度および給餌量の最適化により,20%の個体が稚エビまで成長し,97日間の飼育が可能であった。以上の結果から,サクラエビの幼生の飼育には飼育密度のコントロールが重要と考えられた。

90(4), 581−589 (2024)
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瀬戸内海におけるイカナゴの初期成長及び生残に関する年次変異

赤井紀子,斉藤真美,米田道夫
 瀬戸内海中央部において,2011−2014年,2019−2020年の6か年に漁獲されたイカナゴの耳石解析から,ふ化のタイミングや成長率の変動によって初期生残が説明できるかどうかを調べた。仔魚期と稚魚期の成長率は,経験水温と有意な正の関係があった。各採集年の仔魚期について,ふ化日が遅くなるほど経験水温は低下する傾向にあったが,水温補正後の相対成長率はむしろ上昇する傾向にあった。仔魚期において,相対成長率の高い個体の出現割合が多い年は,相対的に加入量が高く,初期生残の変動を説明できる可能性がある。

90(4), 591−605 (2024)
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長江河口域における「エスチュアリー日和見種」魚類生息域における機能的結合性:小型キグチの耳石化学的アプローチ

Yi Zhang,Jinjin Shi,Zunlei Liu,
Hui Zhang,Xingwei Yuan,Shengfa Li
 長江河口域(YRE)と隣接する沿岸水域との間の河口日和見種の機能的結合性を明らかにするために,キグチの耳石元素組成を調査した。4つの推定生息域で115尾の稚魚を採集し,耳石縁辺部の元素(Sr, Ba, Mg, Mn)を測定した結果,YREのキグチはBa/Ca比が12.5±0.7 μmol/molと高く,生息域特定に有効であることがわかった。これを用い,51尾の成魚を採集しBa/Caプロファイルを分析したところ,41%が河口域に生息した時期があることがわかり,その72%が稚魚期に河口域に生息していた。しかし,仔魚期に河口域に生息していた個体はほとんど見られなかった。
(文責 松石 隆)90(4), 607−619 (2024)

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アスタキサンチン投与がシロアシエビ Penaeus vannamei の低温ストレス耐性,免疫関連遺伝子の発現および腸炎ビブリオへの抵抗性に及ぼす影響

Phantiwa Thanomchaisanit,小祝敬一郎,大澤友紀子,
桑原大知,野原節雄,近藤秀裕,廣野育生
 シロアシエビ Penaeus vannamei へのアスタキサンチン給餌が及ぼす効果を検証した。アスタキサンチン給餌後に実施した急性低温ストレスでは生存率が有意に向上し,ストレス低減作用が示唆された。アスタキサンチン給餌区でHSP70とHSP90の遺伝子転写産物の蓄積が減少したため,ストレス緩和機能を有することが示唆された。急性肝膵臓壊死症原因細菌による感染試験でも,アスタキサンチン給餌区が高い生存率を示した。以上より,アスタキサンチン給餌がシロアシエビのストレス低減と病原菌感染抵抗性の向上に寄与することが示唆された。

90(4), 621−633 (2024)
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ニシキゴイの雌雄判別への超音波画像検査の応用

遠藤なつ美,斎藤美樹,中尾令子,立石光一,佐藤 将
 本研究では,ニシキゴイの雌雄判別に超音波画像検査を応用できることを明らかにした。生後11か月および13か月の生育途中のニシキゴイを検査した結果,発達した精巣や卵巣では超音波画像の特徴によって容易に雌雄判別が可能であったが,未成熟な生殖腺では判別が困難であった。生殖腺の縦断画像における生殖腺厚は,生殖腺重量(r=0.91)や生殖腺指数(r=0.89)と強く相関していた。ROC解析の結果,超音波画像検査で雌雄判別が可能な生殖腺厚のカットオフ値は6.2 mmであり,感度は82.6%,特異度は100%であった。

90(4), 635−641 (2024)
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サバ副産物の加水分解物のMC3T3−E1細胞および卵巣除去ラットを用いた骨粗鬆症阻害効果の評価

Seung Tae Im,Minji Kim,Wook Chul Kim,
Yun-Su Lee & Seung-Hong Lee
 本研究では,マサバ抽出物の骨粗鬆症阻害効果を前骨芽細胞MC3T3−E1と卵巣除去ラットを用いて検討した。タンパク質加水分解物(SJNH)はMC3T3−E1に対して,アルカリ性フォスファターゼ(ALP)および破骨細胞形成抑制因子を増加させた一方,RANKLを低下させた。卵巣除去ラットにSJNHを200 mg/kg/dayで8週間投与すると,骨密度の低下が抑制され骨構造が再構成されていた。さらに,SJNH投与により,血清中のカルシウムや再吸収関連タンパク質や骨再生が制御されて骨の再構築が正常化された。以上より,SJNHは骨粗鬆症の治療薬や機能性食品の成分として有望だと示唆される。
(文責 神保 充)

90(4), 643−652 (2024)
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伝統的な日本の水産発酵食品に含まれるビタミンB12化合物の特徴

山中珠美,石倉千裟,小関喬平,
美藤友博,梅林志浩,渡邉文雄
 本研究では,高速液体クロマトグラフィーおよび液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析を用いて,我が国の伝統的な発酵水産食品であるへしこ(サバ),くさや(トビウオ),塩辛(イカ),ふなずし(フナ)に含まれるビタミンB12化合物を同定した。これらの水産発酵食品のビタミンB12含量は,湿重量100 g当り約4−13 μg/であった。本研究で用いたすべての食品で,ビタミンB12が主要なコリノイドであることが示された。それゆえ,これらの水産発酵食品はビタミンB12の供給源となりうることが示唆された。

90(4), 653−659 (2024)
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日本の太平洋クロマグロ漁業における漁獲枠の融通制度の社会ネットワーク分析を用いた検証

半沢祐大,山川 卓
 日本の太平洋クロマグロ漁業における漁獲枠の融通制度の特徴と影響を明らかにした。社会ネットワーク分析の結果,2018−2021年度に融通した管理区分は増加し,融通ネットワークが緊密になったことが判明した。漁獲枠・漁獲量データ分析の結果,融通制度の導入後に漁獲枠の遵守と有効利用が確認され,漁獲枠や漁獲量が一部の管理区分に集中する傾向はなかった。融通の促進のために,漁獲枠の消化率や融通に関する情報共有,高精度な漁海況予測,融通手続きの自動化,異なる漁業単位間での融通,譲渡側への動機の付与が提案された。

90(4), 661−681 (2024)
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