Fisheries Science掲載報文要旨

カリフォルニア湾におけるカシュウカノコアサリChionista fluctifragaの漁獲個体群と非漁獲個体群の比較分析

Jorge Chávez-Villalba, Ariaana Castillo-Durán & José Alfredo Arreola-Lizárraga

 メキシコでは,カシュウカノコアサリの漁業は規制されていないため,生態と漁業の影響に関する情報が,管理上必要である。サン・ホルヘ湾内の漁獲がない地域(UH)と漁獲がある2地域(H1およびH2)の本種個体群を比較した。密度はUHで20.8個体/平米に対し,H1, H2では14.5, 7個体/平米であった。サイズ範囲はUHで3.1-55.5 mmであるのに対し,H1では,4.3-48.7 mm, H2では40-50 mmと,大型個体がいない。このような漁業の影響が他種に影響を与え,潮間帯生態系の安定性を低下させ,生産性に影響を与える可能性がある。
(文責 松石 隆)

88(3), 365-376 (2022)
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マガキ幼生の凍結保存に伴う酸化還元状態および遺伝子発現に関する研究

Yibing Liu, Xin Zhan, Sarah R. Catalano,
Jianguang Qin, Jiabo Han, Xiaoxu Li

 マガキ幼生の凍結保存が解凍後の幼生の酸化還元状態および遺伝子発現に及ぼす影響を評価した。凍結保存した幼生では総抗酸化能が対照群に比べ有意に高く,活性酸素の生成量には両群間に有意差はなかった。解凍後のトロコフォア幼生では,FADD,Bax1,Baxlike,Bcl2,CASP7,CATの発現が有意に低下し,SODの発現は有意に上昇した。これらの遺伝子の発現はいずれも,その後の発生段階において有意な差は認められなかった。凍結保存群では,トロコフォア幼生でGPXATG6の発現が低下し,D型幼生で発現が上昇したが,BI-1,Caspase 3,ATG8の発現は調べたすべての発生段階において有意な変化がなかった。
(文責 舩原大輔)

88(3), 377-386 (2022)
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クルマエビのインスリン様ペプチドが示す生殖腺部位特異的な遺伝子発現

筒井直昭,山根史裕,柿沼 誠,吉松隆夫

 クルマエビのトランスクリプトームデータから,新たな2種類のインスリン様ペプチド,Maj-ILP2とMaj-gonadulinを見出した。Maj-ILP2は雌雄の脳と雄の生殖腺で,Maj-gonadulinは雄の生殖腺で発現が確認された。雄の生殖腺における詳細な解析の結果,Maj-ILP2は精巣で,Maj-gonadulinは輸精管で顕著な発現を示した。以上から,クルマエビの雄性生殖腺では,造雄腺に由来し,甲殻類の雄性ホルモンと考えられているインスリン様造雄腺因子の他にも2種類のインスリン様ペプチドが部位特異的に発現し,雄に特有な機能を調節するシグナルを担っていると推察された。

88(3), 387-396 (2022)
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サケ稚魚の成長速度と有酸素代謝余地に及ぼす水温と餌量の影響

飯野佑樹,北川貴士,阿部貴晃,長坂剛志,
清水勇一,太田克彦,川島拓也,河村知彦

 本研究では,複数の水温・餌量条件下で飼育したサケOncorhynchus keta稚魚の,成長と運動へのエネルギー配分量を定量化した。その結果,高水温かつ低餌量条件下で,成長と運動へのエネルギー配分量は大幅に低下した。三陸沿岸域において,近年見られる暖流勢力の増大は,春季の高水温と低餌量環境をもたらし,十分に成長できない稚魚が減耗することで,親魚の回帰率が低下すると推察された。

88(3), 397-409 (2022)
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ホシガレイの体色調節能力の弱さは,体色調節ホルモン遺伝子の特異な背地応答に起因する

山口大梧,笠木 聡,清水大輔,
前田知己,高橋明義,水澤寛太

 水槽飼育条件下のホシガレイは背地色に対してほとんど体色変化を示さない。背地色がホシガレイの体色調節ホルモン遺伝子の発現量に及ぼす影響を調べた結果,体色明化を促すメラニン凝集ホルモンの脳内遺伝子発現量は,背地色の違いにほぼ応答しなかった。また,体色明化を促す黒色素胞刺激ホルモンの前駆体である,プロオピオメラノコルチンの脳下垂体内遺伝子発現量は白背地環境下で黒背地環境下よりも高かった。これらの体色調節ホルモン遺伝子発現にみられる特徴がホシガレイの鈍い体色調節能力の要因であることが示唆された。

88(3), 411-418 (2022)
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網敷き飼育によるヒラメの着色型黒化の防除―効果的・効率的な網敷き方法の検討

小野山剛,山田敏之,田川正朋

 ヒラメ養殖で多発する着色型黒化を防除するために網の設置方法を検討した。水槽内面全体を覆う袋網にはやや及ばないが,たるみをつけた網で底面の50%を覆うのみでも,対照区の1/3に黒化面積を抑制できた。また,広い網ほど黒化面積は小さかった。種苗ロットによって黒化の出現状況が異なることを考慮する必要はあるが,目標とする無眼側のきれいさに応じて網の面積を調節することで,効率的な黒化防除が可能と考えられた。

88(3), 419-427 (2022)
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Lactiplantibacillus pentosus SN001発酵によるヒダカコンブSaccharina angustataのGABA産生とプロバイオティクスの付与

関根徹八,山主麻由,濱田(佐藤)奈保子

 本研究では,低等級のヒダカコンブをLactiplantibacillus pentosus SN001で発酵させることで付加価値の向上を試みた。ピリドキサール5′-リン酸を添加して発酵させることで発酵物に含まれるGABA含有量は増加した。また,発酵させたヒダカコンブに含まれるL. pentosus SN001は,人工胃液や人工腸液でも生残していた。L. pentosus SN001で発酵させたヒダカコンブは,高付加価値化の要素であるGABAとプロバイオティクスの供給源となることが示唆された。したがってL. pentosus SN001による発酵は,低等級のヒダカコンブを高付加価値化する有効な手段である。

88(3), 429-435 (2022)
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ミナミコノシロ養殖の生物経済的評価:台湾における導入事例

Cheng-Ting Huang, Farok Afero, Fang-Yu Lu,
Bo-Ying Chen, Po-Lin Huang, Hsun-Yu Lan,
Yen-Lung Hou

 ミナミコノシロは,台湾で最近開発された養殖対象魚である。生産は,越冬期と越夏期に屏東と高雄に集中している。本研究では,本種の商業生産性と収益性を調査するために,生物経済学的手法を適用した。(1)収益性に影響する主要素を決定する費用便益分析,および(2)生物学的-経済的要因の関係の多変量解析によって解析した。結果として,稚魚の生残率向上は収益性向上と越夏期の拡張性を生み,経済性の向上に繋がる。また,餌料管理を改善することで本種養殖の収益性を向上させる可能性がある。
(文責 小谷知也)

88(3), 437-447 (2022)
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