Fisheries Science掲載報文要旨

フタホシイシガニの卵母細胞と胚の発達,成熟サイズおよび産卵期

ファイルズ・ナウワー,土井 航,大富 潤

 フタホシイシガニ雌の繁殖生態を調べた。鹿児島湾中央部の深海底で採集した標本を用いて卵巣の組織学的観察を行ったところ,非同調的成熟を示し,卵母細胞は6つの発達段階に分けられた。卵核胞崩壊期あるいは核移動期の卵母細胞をもつ雌を成熟雌と定義した。成熟雌の出現状況から,産卵期は5-11月で7-8月が盛期と推定された。胚は4つの発生段階に分けられ,孵化直前である最終段階の胚をもつ抱卵雌の多くが成熟していたことから,一産卵期中に複数回産卵することが示唆された。抱卵期間は1か月以内と推定された。

88(4), 449-459 (2022)
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レッドフィン・ジャイアントバルブ仔魚期における感覚器官の発達

Leong-Seng Lim, Hsein-Loong Au,
Thumronk Amornsakun, Poramat Musikarun,
Hon Jung Liew, Kian Ann Tan,
Mohammad Tamrin Mohamad Lal,
向井幸則,川村軍蔵

 Leptobarbus hoevenii仔魚の感覚器官は孵化時点では形態学的に未熟である。しかし,孵化後3日目(dph)の初回摂餌のために,これらの感覚器官(口腔内味蕾の初期発達を含む)は発達し,卵黄嚢が完全に吸収される5 dphには機能するようになった。さらに,変態期(5-30 dph)において,脊索屈曲および各鰭の発達が完了した。網膜杆体は5 dphから出現し,その数は仔魚の成長とともに増加した。15 dphで壺嚢が形成され,内耳が完全に石灰化した。嗅覚器官については,30 dphに前鼻孔および後鼻孔が形成され,その発達が完了した。30 dphに頭部で初めて感丘が確認されたが,躯幹では確認されなかった。躯幹の感丘形成完了時期を確認するためには,30 dph以降についてさらなる検討が必要である。以上の結果は,L. hoeveniiの天然環境での生活史に関する新たな生物学的な情報となるとともに,L. hoevenii仔魚期の飼育技術を改善するための知見を提供するものである。
(文責 矢澤良輔)

88(4), 461-475 (2022)
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水晶体の同位体組成にもとづく東部中央太平洋におけるアメリカオオアカイカDosidicus gigasの母子の栄養生態

Guan Yu Hu, Zi Xin Wang, Bi Lin Liu,
Meng Yao Huan, Xin Jun Chen

 アメリカオオアカイカの母子の栄養生態を比較するために,東部中央太平洋の赤道海域で採取した18個体の標本の水晶体中心部と水晶体皮質の炭素・窒素安定同位体を調べた。水晶体中心部のδ13Cとδ15Nの値はともに水晶体皮質より小さかった。水晶体中心部と水晶体皮質のδ13Cの有意な差は,母子が異なる生息域を利用していることを示唆した。また,δ15Nの変位から,母イカは子イカよりも広い摂餌戦略を持ち,母子が異なる場所で産卵していることが示唆された。
(文責 松石 隆)

88(4), 477-484 (2022)
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イカ類のロドプシン吸収波長測定における膜タンパク可溶化剤CHAPS-PCの有用性

宮崎多恵子,大隅 彪

 イカ類の分光感度測定において,細胞からロドプシンを抽出する際には,一般にジギトニンが用いられる。本研究は,膜タンパク溶剤としてCHAPS-PCの有用性を検討した。ケンサキイカ,スルメイカ,及びヤリイカの網膜から,ショ糖比重遠心法により視細胞外節の微絨毛を分離・精製した。CHAPS-PCとジギトニンでそれぞれ抽出したロドプシンの最大吸収波長の差は,いずれのイカにおいても0-3 nmと小さく,また先行研究による値に近似した。CHAPSとPCは安価であり,本改変法が水産分野で活用され,多様なイカの生態理解や水産技術の向上に寄与できると期待する。

88(4), 485-492 (2022)
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マレーシア産褐藻類Padina gymnosporaの異なる溶媒抽出物における抗酸化特性および抗菌活性の評価

Muhammad Farhan Nazarudin,
Muhammad Syazwan Shahidan,
Nur Amirah Izyan Noor Mazli,
Tan Hui Teng, Yam Sim Khaw,
Ina Salwany Md Yasin, Azizul Isa,
Mohammed Aliyu-Paiko.

 核磁気共鳴と主成分分析の組み合わせにより,異なる抽出溶媒で処理したPadina gymnosporaの活性代謝物を明らかにした。異なる溶媒(極性,半極性,および非極性溶媒)において合計13種類の代謝物が同定された最も豊富な必須アミノ酸はロイシンであり,最も豊富な非必須アミノ酸はグルタミン酸であった。抽出物中のアラニンなどの代謝物はフリーラジカル消去活性と強い相関が見られた。また,抗菌活性を有することが推察された。P. gymnosporaは抗酸化物質の豊富な供給源として利用できる可能性があり,この海藻の商業的な養殖が可能であることを示唆するものであった。
(文責 大迫一史)
88(4), 493-507 (2022)
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済州島産サザエの加工残渣である酵素消化産物の抗酸化活性と抗ヒアルロニダーゼ活性

Seung Tae Im, Nalae Kang, Junseong Kim,
Soo-Jin Heo, Seung-Hong Lee

 サザエは食用貝類であるがその内臓部分は加工残渣であり,一般には廃棄されている。そこで本研究では,サザエの内臓から酵素消化産物(MSVAH)を調製して性状解析を行った。MSVAHは,タウリンが豊富で抗酸化作用およびヒアルロニダーゼの阻害活性をもっていた。MSVAHは活性酸素によるヒトケラチノサイトへの影響を濃度依存的に阻害したばかりでなく,ヒアルロン酸合成酵素や分解酵素の発現を調節してヒアルロン酸量を増加させた。以上より,MSAVHは機能性食品や栄養補助食品の成分として利用できると示唆される。
(文責 神保 充)

88(4), 509-517 (2022)
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