Fisheries Science 掲載報文要旨

ジャワメダカ Oryzias javanicus における環境水中のフェナントレンおよびピレン濃度と肝臓中のシトクロム P450 1A (Cyp1a) mRNA 量の相関

Suhaila Rusni,佐々三依子,竹花佑介,
木下政人,井上広滋
 多環有機化合物を代謝するシトクロムP450 1A (Cyp1a)をコードするcDNA配列を,由来の異なる2系統のジャワメダカから単離して比較したところ,一部の塩基に系統間変異が認められた。次に,ペナン由来系統を用いて,主な発現組織が肝臓であることを確認した。続いて,フェナントレンおよびピレンに対する成魚のLD50を求め,さらに,それより薄い濃度に成魚を曝露して,肝臓におけるmRNA量を調べたところ,両物質とも,環境水中の濃度とmRNA量の間に正の相関または相関傾向が認められた。
86(4), 605-613 (2020)
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炭素および窒素安定同位体比を用いた東北地方太平洋岸におけるヒラメ稚魚の生息場所の判別

加藤義和,冨樫博幸,栗田 豊,鎌内宏光,陀安一郎

 炭素および窒素安定同位体比を用い,東北地方太平洋岸のヒラメ稚魚の生息場所を判別できるか調べた。脊椎骨コラーゲンと筋肉の炭素および窒素安定同位体比は,両者間で強く相関していた。また,両者の同位体比を用いた判別式により,5つの県(青森,岩手,宮城,福島,茨城)で採取した稚魚を明確に判別することができた。青森県の稚魚は他県に比べて低い同位体比を示したが,これは津軽暖流の影響と考えられた。脊椎骨椎体のコラーゲンは時系列で蓄積されるので,ヒラメの成長に伴う移動履歴の個体単位での再構築にも利用できるだろう。

86(4), 615-623 (2020)
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黒色素胞の分布様式によるマルソウダAuxis rocheiとヒラソウダA. thazard仔魚の同定

佐藤拓也,田和篤史,佐久間啓,櫻井正輝

 マルソウダとヒラソウダの仔魚は,世界中の熱帯から温帯域の広い範囲で頻繁に採集される仔魚の1つである。しかし,両種の形態は類似しており,形態形質による種同定法が確立されていない。そこで本研究では両種の形態学的な違いを明らかにするために,分子生物学的手法で種を同定したマルソウダ192個体とヒラソウダ119個体の黒色素胞の分布様式を成長段階別に比較した。その結果,両種は体長3.5-6.9 mmの範囲で,吻端と尾柄部の黒色素胞の分布様式に差が認められた。これらの形態形質により高い精度で両種の同定が可能となったため,各成長段階に対応した2種の検索表を作成した。

86(4), 625-631 (2020)
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博多湾和白干潟産アサリに寄生する原生生物の遺伝子検出

瀧下清貴,河井理保子,堤 彩華(福岡女子大),
谷藤吾朗(国立科学博物館),
大坪繭子(福岡女子大)

 干潟は高い生物多様性を有する生態学的に重要な環境であるが,当該環境の動物に寄生する原生生物に関する情報は少ない。本研究では,博多湾の和白干潟に生息するアサリから原生生物由来SSU rRNA遺伝子のPCR検出を試みた。その結果,パーキンサス,繊毛虫,キネトプラスチド,略胞子虫に由来する塩基配列を得た。パーキンサスに関しては,ITS領域の塩基配列も決定し,当該生物がPerkinsus olseniであることを確認した。以上の結果から,アサリに寄生する原生生物の系統的多様性は高いことが示唆された。

86(4), 633-643 (2020)
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分離浮性卵の密度変動を用いた広島湾におけるクロダイAcanthopagrus schlegeliiの産卵期推定

河合賢太郎,藤田大樹,Gustavo Sanchez,
古澤修一,海野徹也

 本研究では,広島湾クロダイの資源管理のため,卵密度および生殖腺重量指数の経時的変化から本種の産卵期を推定した。クロダイ卵に特異的なモノクローナル抗体を開発し,その特異性を確認した上で魚卵種判別に用いた。同湾にて採集した10,905個の浮性卵のうち,開発した抗体に陽性を示したクロダイ卵は4,061個であった。同湾における本種の産卵期は4月中旬から7月上旬,盛期は5月上旬と推定され,1980年代の報告より20日ほど早期化していた。本種の産卵期の変化には,広島湾の水温上昇が影響した可能性が考えられた。

86(4), 645-653 (2020)
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環境要因がシオミズツボワムシの遊泳行動に与える影響

金 禧珍,大谷諒敬,各務 諒,阪倉良孝,萩原篤志

 初期餌料として汎用されるシオミズツボワムシは様々な環境要因により遊泳又は付着行動を示す。仔魚は遊泳しているワムシの方を容易に摂餌するため,外部環境がワムシの遊泳行動の発現に与える影響について検討した。異なる餌料の条件下でワムシの遊泳頻度を観察した結果,制限給餌により高い遊泳頻度(約50%)が示された。この条件下で,ワムシを異なる水温,塩分,非解離アンモニア,仔魚・ワムシの飼育濾液に曝露したところ,水温15℃,塩分17,仔魚の飼育濾液,NH3-N 濃度5-10 mg/Lで遊泳行動の頻度が増加した。

86(4), 655-663 (2020)
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産卵誘発技術の最適化によるサンゴ産卵日の予測

鈴木 豪

 多くのサンゴは年に一度しか産卵しないため,配偶子を得る機会は限られている。確実に配偶子を得る手段として,過酸化水素暴露による産卵誘発技術が知られているが,暴露処理後に親サンゴが死亡することが多かった。本研究では,低濃度での産卵誘発効果を比較し,1 mM以下であれば親サンゴへのダメージはほとんどないことが分かった。また,一斉産卵日の2日前以内であれば,70%以上の群体で産卵が誘発され,過酸化水素の濃度よりも暴露タイミング(自然産卵との時間差)によって誘発効果が決まることが明らかとなった。

86(4), 665-671 (2020)
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ベトナム,メコン川東岸のエビ養殖を対象とした機械学習による acute hepatopancreatic necrosis disease (AHPND) の予測

Nguyen Minh Khiem,高橋勇樹,
Dang Thi Hoang Oanh,
Tran Ngoc Hai,安間洋樹,木村暢夫

 AHPND は感染症の一種であり,ベトナムのエビ養殖において大きな問題となっている。本研究では,機械学習を用いて,メコン川東岸のエビ養殖を対象に,生物,環境データからAHPND発生の予測を行った。ロジスティック回帰,ニューラルネットワーク,決定木,k 近傍法を用いてそれぞれの予測精度を比較したところ,ロジスティック回帰を用いたモデルが最も精度が高かった。提案したモデルを用いることで,養殖池での AHPND 発生の早期予測が可能となり,ベトナムのエビ養殖の効率化に寄与できるといえる。

86(4), 673-683 (2020)
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キチン加水分解物のニホンウナギ仔魚用餌への添加

岡村明浩,山田祥朗,三河直美,堀江則之,塚本勝巳

 ウナギ仔魚に分解程度の異なる3種のキチン加水分解物を加えた餌料を与え,生残・成長を調べた。使用したキチン分解物は,N-アセチルグルコサミン(単糖,NAG1区),単糖・二糖・三糖の混合物(NAG3区),単糖・二糖・三糖・四糖・五糖・六糖の混合物(NAG6区)である。NAG1とNAG3区の30日生残率は約46%で対照区と同等であったが,NAG6区は8%と有意に低かった。一方,全長・体高はNAG3とNAG6区が対照区に比べ有意に大きかった。用量反応曲線によればNAG3の最適添加量は約1%であった。

86(4), 685-692 (2020)
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加熱条件の違いがブリ肉のテクスチャーおよび呈味成分変化に及ぼす影響

古田 歩,馬渕良太,谷本昌太

 加熱条件の違いがブリの普通肉(OM)および血合肉(DM)のテクスチャーおよび呈味成分の変化に及ぼす影響について検討した。OM, DMとも高温短時間加熱(85℃ 90秒間および75℃ 60秒間,HTST)と比較して低温長時間加熱(63℃ 30分間,LTLT)でテクスチャーがやわらかい傾向を示し,魚肉の収縮も抑えられた。OMのLTLTでは,HTSTと比較してEquivalent Umami ConcentrationのTaste ActiveValueが高かったが,DMでは低かった。結果から,LTLTによって各部位ともやわらかいテクスチャーの加熱魚肉となる傾向が示され,OMではうま味強度が非常に高くなるが,DMでは低くなる可能性が示唆された。

86(4), 693-700 (2020)
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ドウモイ酸への暴露がイタヤガイArgopecten irradiansに与える酸化ストレス

Jin Ah Song, Cheol Young Choi, Heung-Sik Park

 ドウモイ酸(DA)は,Pseudo-nitzschia属の有毒藻類のブルームによって産生され,記憶喪失性貝中毒を引き起こすことから,食用二枚貝の養殖においては問題視されている。本研究では,イタヤガイを異なる濃度のDAに暴露し,経時的にDAの蓄積量とストレス反応を調べた。ストレス測定には,消化盲嚢および血リンパにおける活性酸素分解酵素(SOD),カタラーゼ(CAT),ヒートショックプロテイン90(HSP90),メタロチオネイン(MT)の発現量,および,血リンパ中の過酸化水素濃度を用いた。さらに鰓の組織学的変化を計測し,メラニン化の状態を観察した。その結果,ドウモイ酸への暴露が酸化ストレスを誘発し,代謝を阻害してイタヤガイの免疫防御システムに負の影響を及ぼしたことを示唆する結果が得られた。
(文責 高田健太郎)

86(4), 701-709 (2020)
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チゴダラのミオシン重鎖一次構造解析およびすり身の加熱ゲル形成能により評価した練り製品原料としての適性

渡部終五,池田大介,真白宙樹,影田久保裕子,
髙橋良広,植村美咲,水澤奈々美,小山寛喜,
安元 剛,神保 充,菅野信弘,上田智広,
松岡洋子,植木暢彦,万 建栄

 北部太平洋岸で良く漁獲されるものの,季節的に未・低未利用魚となるチゴダラの練り製品原料としての適性を調べた。まず,ミオシン重鎖ループ2領域をクローニングして一次構造を解析したところ,練り製品原料に使用されるスケトウダラ,シログチなどのそれに類似することが示された。次に,肉糊を二段加熱処理して調製した加熱ゲルの破断強度を調べたところ,最大値が10 N以上と,これも既存の練り製品原料魚のそれに匹敵した。これらの結果から,チゴダラが練り製品原料としての加工適性をもつことが明らかになった。

86(4), 711-719 (2020)
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長崎県の伝統的なカタクチイワシの発酵食品(エタリの塩辛)の細菌相と化学成分の特性

小林武志,西竹茉優,西塔正孝,寺原 猛,
今田千秋,品川 明,竹下敦子

 長崎県の伝統的なカタクチイワシの発酵食品(エタリの塩辛)の細菌相と化学成分を検討した。pHと食塩濃度はそれぞれ6.4から6.6, 9.6から13.9% で,乳酸と遊離アミノ酸量はそれぞれ122から344 mg, 2,850から4,783 mg/100 gであった。生菌数は103から108/gのレベルで,乳酸菌Tetragenococcus halophilusがよく分離された。エタリの塩辛から直接抽出したDNAを用いてさらに細菌相を検討したところ,T. halophilusは全ての試料に認められた。

86(4), 721-728 (2020)
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