Fisheries Science 掲載報文要旨

北海道西部太平洋沿岸におけるオクカジカ,オニカジカ,ツマグロカジカの年齢と成長,漁業混獲物の年齢組成

城 幹昌,高山 剛,三原行雄

 亜寒帯太平洋底魚群集の主要構成員であるオクカジカ,オニカジカ,ツマグロカジカの年齢査定法を確立し,成長様式を調査した。3種とも耳石を薄片標本化することで年齢査定が可能であることがわかった。オクカジカが最も大型に成長し,ツマグロカジカは中庸で,オニカジカが最も小型種であることがわかった。また,オクカジカとツマグロカジカでは雌のほうが雄より成長が良いことがわかった。北海道西部太平洋沿岸における漁業混獲物は,オクカジカとツマグロカジカは若齢個体の割合が高いのに対し,オニカジカの混獲物は高齢魚中心であった。

86(3), 427-436 (2020)
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サバ科魚16種における機能的Kiss2ペプチドの同定と受容体親和性

大賀浩史,坂上 稜,太田耕平,松山倫也

 水産重要種を多く含むサバ科魚類の性成熟機構の解明の一環として,マサバの生殖に重要な役割をもつと考えられる2種キスペプチン(Kiss1 と Kiss2)の内,Kiss2の成熟アミノ酸配列を16種のサバ科魚より同定した。サバ科魚類におけるKiss2の推定成熟ペプチドは12残基であり,極めて高度に保存されていた。N末端から2番目の残基は種間変異が認められたが,マサバ,クロマグロおよびサワラのKiss2受容体への親和性に影響を与えなかった。生殖におけるKiss2システムの機能はサバ科魚類全体において共通に広く保存されている可能性がある。

86(3), 437-444 (2020)
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面積密度法における複数の層化デザインによる北西太平洋のサンマ推定資源量の比較

橋本 緑,木所英昭,巣山 哲,冨士泰期,
宮本洋臣,納谷美也子,ヴィジャイ・ダルママニ,
上野康弘,北門利英

 北西太平洋において2003年から実施されているサンマの表層トロール調査から,日本漁船の漁期前となる6, 7月における本種の広域分布や資源量を推定した。面積密度法による資源量推定値とその分散は,5つの事後層化手法間でほとんど差が見られず,全ての層化手法で資源量の減少が見られた。特に,経線に沿った調査線ごとの層化は,調査海域西部における資源量の減少と2010年以降の分布重心の推移を示し,本種の日本沿岸への西方回遊を考慮した個体群動態モデルの構築に有効な手法となり得ることが示唆された。

86(3), 445-456 (2020)
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ステロイドホルモンがカクレクマノミAmphiprion ocellarisアロマターゼ遺伝子と優位性行動に及ぼす影響

岩田惠理,鈴木望美

 カクレクマノミ未成熟魚へステロイドホルモン添加餌料を給餌し,脳と生殖腺の遺伝子の転写活性と優位性行動の変化を検証した。生殖腺アロマターゼ遺伝子の転写活性は,エストラジオールを添加した餌料を与えたカクレクマノミでは上昇し,コルチゾル添加餌料を与えたカクレクマノミでは低下し,メチルテストステロンでは変化がなかった。優位性行動はエストラジオール添加餌料を与えたカクレクマノミでのみ上昇した。

86(3), 457-463 (2020)
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ニホンウナギの環境DNAの分解率に及ぼす水温の影響

笠井亮秀,高田真悟,山崎 彩,益田玲爾,山中裕樹

 環境DNAは希少種の検出に有効で便利な手法である。本研究では,水産上重要であり絶滅危惧種でもあるニホンウナギに特異的なプライマーセットを開発し,環境DNAの減衰率を求める実験を行った。ウナギを10-30℃の5つの水温区に保った水槽に入れて飼育したのち,水槽から水を取り出し6日間保管した。その間,毎日環境DNA濃度を測定した。その結果,環境DNA濃度の減衰率kは水温Tと有意な正の相関を示した(k=0.02T+0.18)。この結果は,将来のフィールドデータの解釈に役立つであろう。

86(3), 465-471 (2020)
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多摩川におけるウグイ属魚類のmtDNA解析による在来および移入個体群の判定

白鳥史晃,奥山文弥,井田 齋,青山 潤,吉永龍起

 多摩川水系に生息するウグイ属魚類のmtDNA調節領域を解析したところ,ウグイとマルタの2種が検出された。側線感覚管および婚姻色の特徴より,交雑個体の存在が示唆された。ウグイは本水系の全域に生息し,在来個体群に加えて,移入個体群がそれぞれ下流域と源流域に存在した。上流域と下流域のウグイの在来個体群は遺伝的に分化しており,これは回遊型の違いに起因する可能性が示唆された。

86(3), 473-485 (2020)
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アコヤガイPinctada fucataの免疫応答におけるコンドロイチン硫酸合成酵素-1遺伝子の役割

Hua Zhang, Xuejie Yi, Yunyan Guan,
Yu Shi, Zekui Ou, Maoxian He

 アコヤガイ・コンドロイチン硫酸合成酵素-1(ChSy-1)遺伝子を同定した。ChSy-1はCHGNドメインを有した。ChSy-1は進化的によく保存されていることがわかった。ChSy-1遺伝子は挿核に伴う傷の修復や移植片に対する免疫応答に関与する可能性が示された。リポ多糖またはポリ(I:C)投与による遺伝子発現解析ではChSy-1遺伝子が免疫応答に関与することが示された。本研究の結果,ChSy-1遺伝子がアコヤガイの感染症に対する防御機構に寄与していることが示された。
(文責 舩原大輔)

86(3), 487-494 (2020)
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ゴマニベNibea diacanthus稚魚の成長,生理,生化学およびTORシグナル関連遺伝子の発現に及ぼす餌料中プロリンの影響

Hua Rong, Fan Lin, Yunlong Zhang, Jun Yu,
Chuanqi Yu, Haoran Zhang,
Jude Juventus Aweya, Xiaobo Wen

 乾燥重量0-12.5g/kgのプロリンを含む6種類の餌料を作成し,ゴマニベNibea diacanthus稚魚450尾を用いた8週間の飼育実験を行った。餌料中プロリンは成長率および餌料効率に有意な影響を及ぼさなかったが,全魚体の粗タンパク質量および数種の筋肉アミノ酸量を増大させた。また,プロリン量依存的に肝臓でGOTおよびGPT活性が,筋肉でTORのmRNA量がそれぞれ増大した。一方,筋肉の4EBP, S6K1, TSCおよびGTPBP遺伝子のmRNA量に大きな変化はみられなかった。以上の結果は,餌料中プロリンが主にTORを介してタンパク質合成を促進することを示唆する。
(文責 金子 元)

86(3), 495-506 (2020)
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Litopenaeus vannameiの循環養殖システムにおける微生物群集と水質に及ぼす炭素源添加の影響

Zhao Chen, Zhiqiang Chang, Long Zhang, Jiajia Wang,
Ling Qiao, Xiefa Song, Jian Li

 閉鎖循環養殖システムは水質維持に課題があるが,炭素源の添加により改善されるという報告がある。そこで,本研究では,L. vannameiの循環養殖システムにおいて,一日餌料の50%量のしょ糖を育成中間段階から毎日添加し,細菌群集,水質,エビの成長に及ぼす影響を調べた。しょ糖添加はエビの生産を若干増加させたが,水中の窒素体濃度を改善しなかった。細菌群集については,水中と腸管内には影響を与えなかったが,バイオフィルターでは主要な細菌分類群をプロテオバクテリア門からプランクトミケス門に大きく転換させた。養殖システムにおける細菌群集の機能のさらなる研究が必要である。
(文責 佐野元彦)

86(3), 507-517 (2020)
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アオサから調製されたマリンサイレージのアサリ稚貝に対する成長阻害作用

内田基晴,三好達夫,兼松正衛,小林 豊

 アオサ葉体から単細胞性の発酵産物(マリンサイレージ,UMSと略記)を調製し,アサリ稚貝の飼料として利用することを検討した。UMSは稚貝に対して単独投与で飼料効果を示さず,珪藻餌料との併用給餌では成長阻害作用を示した。同様の成長阻害作用は,発酵処理していないアオサ葉体粒子およびUMS上清画分にも認められた。上清中の主要構成糖1種が殻の成長を阻害することを認めたが,UMSの成長阻害物質の特定までには至らなかった。アオサ葉体をアサリ飼料として利用することは,成長阻害物質の存在により困難と考えられた。

86(3), 519-530 (2020)
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ノリ麹を用いた発酵熟成ノリの開発

村山史康,草加耕司,内田基晴,秀島宜雄,
荒木利芳,東畑 顕,石田典子

 本研究では,ノリの有効活用を目的として,海藻麹とともにノリを発酵熟成させる試験を行った。最適な発酵条件を検討した結果,培養120日後において,高品質ノリにノリ麹および水分を加えた試験区は,0日後と比べて遊離アミノ酸総量が最大7倍に増加した(10℃条件下)。さらに,味覚センサによる呈味評価を行ったところ,海藻麹を加えて熟成させることで,酸味が増加することが明らかとなった。以上のことから,ノリ麹によりノリの呈味が改善され,付加価値が向上する可能性が示唆された。

86(3), 531-542 (2020)
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魚類の消化酵素の活性測定へのタンパク質不含ブロッキング剤の希釈剤としての応用

安藤 忠

 少量試料では複数酵素の活性測定には試料の分割と希釈がしばしば必要となるが,酵素活性の低下が懸念される。そこで,4種のブロッキング剤の希釈剤としての効果をブリ幽門垂の抽出物で比較した。その結果,タンパク質不含のEzBlock chemi (EBC)により希釈した場合に1/200から1/6400の希釈率に渡って直線性が認められた。また,他のブロッキング剤と異なって抽出後の時間経過と共に膵酵素の活性が上昇した。さらにブリ仔魚からのEBC抽出物の消化酵素活性を測定したところ,食塩水抽出物より高かった。したがって,EBCは酵素の抽出および希釈に好適と考えられる。

86(3), 543-550 (2020)
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ミャンマーの伝統的な発酵エビソースhmyin-ngan-pya-yeの微生物学的特性

小林武志,田口千尋,二見邦彦,松田寛子,
寺原 猛,今田千秋,Khin Khin Gyi,
Nant Kay Thwe Moe,Su Myo Thwe

 ミャンマーの伝統的な発酵エビソースの微生物学的な特性について,4つの異なるブランドの試料を用いて検討した。乳酸菌用の培地における生菌数は102から105/mLのレベルで,分離菌は全て乳酸菌Tetragenococcus muriaticusであった。また試料から抽出したDNAを用いて菌相を検討したところ,1つの試料では環境に由来すると思われる菌種が多く認められたが,残りの3つでは発酵食品に良く認められる偏性嫌気性細菌HalanaerobiumTetragenococcusが優占であった。

86(3), 551-560 (2020)
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マガキCrassostrea gigas銘柄のエキス成分組成,身入り度指数と呈味との関係

村田裕子,東畑 顕,三輪竜一

 マガキの評価を視覚化するために,31銘柄のマガキの遊離アミノ酸組成,グリコーゲン含量,身入り度指数と官能評価との関係を調べた。マガキの甘味と濃厚感は,グリコーゲン含量,遊離アミノ酸総量,セリン含量と関係が高いことがわかった。この3成分を軸として31銘柄のデータから3Dグラフを作成し,宮城県産新規ブランドである,あまころ牡蠣とあたまっこカキのデータをプロットしたところ,いずれも甘味と濃厚感の強いカキに位置づけられた。また,身入り度指数から濃厚か,すっきりかの予想ができることを見出した。

86(3), 561-572 (2020)
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韓国の異なる地域で異なる季節に漁獲されたウナギAnguilla japonicaの脂質含量と脂肪酸組成

Kiuk Lee, Yu Jeong Kim, Yang Ki Hong,
Mi Young Song, Wan Ok Lee,
Keum Taek Hwang

 韓国で漁獲されたウナギAnguilla japonicaの脂質含量と脂肪酸組成を明らかにすることを目的とした。脂質含量は,魚獲場所より季節に影響された。養殖が,天然と比べて脂質含量が多かった。ウナギの主要な脂肪酸は,C18:1n-9, C16:0などであった。ほとんどの脂肪酸が,季節よりも漁獲場所により影響された。養殖は,天然よりも飽和脂肪酸が多く,一価不飽和脂肪酸が少なかった。天然において,河口で漁獲されたものは,湖のものと比べてn-3系脂肪酸が多かった。主成分分析は,脂肪酸組成が,ウナギを漁獲場所により分類できる有効な変数である可能性を示した。
(文責 谷本昌太)

86(3), 573-580 (2020)
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麦,米,玄米および豆麹によるかまぼこ発酵食品の化学成分ならびに抗酸化性,ACE阻害活性の変化

根本友里香,松尾 悠,塩田健太朗,吉江由美子

 豆腐ようの製造を模倣して麦(KW),米(KR),玄米(KB)および豆(KS)麹でかまぼこを発酵させた。発酵後のKW, KR, KBの糖含量はKSよりも高く,遊離アミノ酸総量,フェノール含量は低かった。ラジカル除去能力およびACE阻害活性は発酵によって上昇し,KSが最大活性を示した。官能検査によって,KW, KR, KBはKSよりも甘く,におい,塩味およびが残り味が弱く,有意に好まれていた。麦,米,および玄米麹発酵かまぼこは食品として受け入れられる品質を呈す一方で,豆麹発酵かまぼこは健康維持に寄与する成分の源として有用と考えられた。

86(3), 581-593 (2020)
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