Fisheries Science 掲載報文要旨

魚貝類筋肉の主要タンパク質の生化学的および物理化学的性状(総説)

落合芳博,小澤秀夫

 魚貝類の筋肉を特徴づける主要タンパク質,すなわちミオシン,アクチン,パラミオシン,トロポミオシン,トロポニン,ミオグロビンおよびパルブアルブミンの性状について,近年得られた知見をとりまとめ,利用加工との関連性,今後の研究の方向性を提示した。

86(5), 729-740 (2020)
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四倍体雌ドジョウと二倍体雄カラドジョウを交配して得られた異質五倍体雑種の生殖能力と配偶子の倍数性

Songqian Huang,Li Zhang,Xiaojuan Cao,Weimin Wang

 四倍体の雌ドジョウと二倍体の雄カラドジョウを交配して得られた受精卵を低温処理することで,異質五倍体の雑種を得た。同雑種の生殖能力を調べた結果,雌は発達した卵母細胞を作ることが可能で,妊性をもつ一方,雄は精子様の生殖細胞をほとんど作れず,不妊となることが明らかとなった。また,同雑種の配偶子の倍数性を調べた結果,雌が作る卵のほとんどは,正常に発生可能な二倍体となることが明らかとなった。これらの知見は,ドジョウ類の倍数化や配偶子形成の機構を理解するための一助となるだろう。
(文責 大久保範聡)

86(5), 741-748 (2020)
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中国の安寧河におけるコイ科Gymnocypris firmispinatusの食性

Baoshan Ma,Bin Xu,Kaijin Wei,Xiangyun Zhu,
Jin Xu,Jianchao Lu,Jun Wang

 安寧河におけるGymnocypris firmispinatusの食性と餌選択性を調査した。全長57-193 mmの305個体の消化管内容物を分析したところ,16%の個体は空であった。摂食強度は季節的に変化し,冬季に最小であった。合計で46の餌生物群が141個体の消化管から確認された。本種はほぼ水生昆虫のみを食べており,小さな個体はカゲロウ目と双翅目の幼虫を,大きな個体はトビケラ目の幼虫を好む傾向にあった。また,年間を通じて双翅目とトビケラ目の幼虫に対して強い正の選択性を示した。本種はランダムではなく選択的な摂食を行っていることが明らかとなった。
(文責 冨山 毅)

86(5), 749-758 (2020)
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ミクロシスチンLRに曝露されたProcambarus clarkiiの免疫応答と生殖に対するアスタキサンチンの効果

Zhenhua An,Hui Yang,Xiaodan Liu,Yingying Zhangv

 0.05 mg/LミクロシスチンLR(MC-LR)曝露したP. clarkiiに10 mg/gアスタキサンチンを加えて摂餌させたところ,肝膵臓におけるスーパーオキシドディスムターゼとアルカリホスファターゼの活性が上昇した。P. clarkiiの生存率と繁殖力は,0.01 mg/L MC-LRへの曝露で減少したが,アスタキサンチンを与えると生存率が改善した。0.01 mg/L MC-LR曝露したP. clarkiiの1日の平均酸素消費率は上昇したが,アスタキサンチンを与えても変化しなかった。
(文責 舩原大輔)

86(5), 759-766 (2020)
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多数個体のニジマスの効果時間に基づく高温耐性の測定とその再現性

稻野俊直,田牧幸一,山田和也,兒玉龍介,
陳 盈光,木下滋晴,武藤光司,矢田 崇,
北村章二,浅川修一,渡部終五

 高温選抜系オスと標準的な高温耐性の日光系メスを交配したF2の1,641尾を17℃で馴致した33グループに分け,大凡の致死最高温度(28℃)で平衡喪失する効果時間(ET)を計測して高温耐性を調べた。ETは20分毎に0-20未満,20-40未満,40-60未満,および60分以上に分類し,生残した個体は,各グループ内で再度ETを計測するための2回目の実験を行った。20分未満のグループは,2回目でも20分未満の個体を使用した3回目の実験で100%の高い再現性を示した。一方,60分以上の個体は,2回目の実験で85.5%が60分以上のグループになった。従って,本研究は,ETが高温耐性の表現型を識別する有用な指標であることを実証した。

86(5), 767-774 (2020)
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雄メダカの社会的隔離に対する生理応答

大塚愛理,稲畑萌子,下村祐輝,加川 尚

 雄メダカを用いて社会的隔離が生理学的なストレス応答に及ぼす影響を調べた。その結果,グループおよびペアで飼育した個体では,単独個体または個体間接触のみを制限した条件で飼育した個体に比べて,高い血中コルチゾル濃度を示すとともに,脳内のセロトニン濃度およびセロトニン合成酵素発現量の低下がみられた。以上より,メダカ雄では接触による他個体相互作用のある環境の方が隔離環境よりもストレスとなることが示唆された。

86(5), 775-781 (2020)
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サケ幼稚魚の降海後の生残を高める降海履歴:2012年級の釧路川放流群を対象とした研究事例

本多健太郎,白井厚太朗,小松信治,斎藤寿彦

 2013年6月25日に北海道東部昆布森で採集した,釧路川起源のサケ幼稚魚365尾の耳石を日周輪解析し,推定した降海日と降海時の尾叉長を同年春に釧路川河口で採集した373尾のものと比較した。結果,昆布森採集群の多くは沿岸表層水温が5℃を超えた5月下旬~6月上旬に降海し,この期間の降海時の尾叉長は河口採集群のものよりも有意に大きかった。また,大型サイズで降海した個体の成長速度が速く偏ったことから,減耗が成長依存で起こると仮定すれば,水温の適期に大型サイズで放流することが減耗の軽減に有効と考えられた。

86(5), 783-792 (2020)
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台湾海峡中央部における雌雄同体性ヘダイRhabdosargus sarbaの性成熟過程

Shyh-Bin Wang,Tse-Lin Hsu,Shoou-Jeng Joung

 ヘダイRhabdosargus sarbaの性成熟過程を,台湾海峡中央部で漁獲された802個体から検討した。生殖腺指数や組織学的観察より,12月から3月が当該海域における産卵期であり,平均孕卵数は83万±43万粒であった。性比は0.66と有意に0.5とは異なっており,ほとんどの体サイズや漁獲月でメスの方が多かった。50%の個体が成熟する尾叉長は,メスでは23.7 cm,オスでは20.9 cmと推定された。卵精巣が若魚と成魚の両方でみられたことから,当該海域において本種は痕跡的雌雄同体種である可能性がある。この知見は,本種のオーストラリアにおける報告と類似したが,他地域における報告とは異なった。
(文責 田川正朋)

86(5), 793-805 (2020)
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非産卵期(無卵黄期~卵黄形成前期)の水温がスケトウダラ人工育成魚(経産卵魚)の成長および産卵特性に及ぼす影響

田中寛繁,中川 亨,横田高士,
千村昌之,山下夕帆,船本鉄一郎

 非産卵期(無卵黄期~卵黄形成前期)に異なる水温条件(無調温区:6.4-17.2℃,冷却区:5.1-15.7℃)でスケトウダラ人工育成魚を飼育した結果,産卵期前(ほとんどの個体で卵黄形成前期)の成長量(重量)と肥満度に違いが生じた。非産卵期に高成長であった魚は水温5℃においてより大きな卵を産んだ。一方個体群の産卵期間は非産卵期の実験区間で違いはなかった。さらにこれらの結果を過去2年の実験と比較したところ,産卵期間は年齢•体サイズの増加とともに早まっていた。また,卵径には産卵経験と産卵期前の栄養蓄積が影響を及ぼすと考えられた。
86(5), 807-817 (2020)
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キンギョの性行動に関わる嗅覚系の両性性

篠原 優,小林牧人
 キンギョは非性転換魚であるがホルモンの投与により雌雄逆の性行動の誘起が可能であり,脳が両性であることが示唆されている。また雌雄の性行動には嗅覚が必須であり,雄は促進系嗅覚経路,雌は抑制系嗅覚経路と雌雄に特異的な嗅覚経路を持つことが知られている。本研究では,嗅覚遮断(鼻腔閉塞と嗅索切断)処理による性行動の発現の影響を調べたところ,雌も雄型の促進経路を持ち,雄も雌型の抑制経路を持つことが明らかとなった。これらの結果から,キンギョの脳が両性であることが神経解剖学的に示された。
86(5), 819-827 (2020)
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イクラ味付け工程における塩・しょうゆ調味液処理がサケ科魚類病原体に及ぼす影響

永田 淳,森本紗世,
ドミニク・バゲンダ・カスッジャ,笠井久会

 イクラの味付け工程がサケ科魚類の病原体の生残性および感染性に与える影響を明らかにするため,イクラ調味と同じ条件で,サケ科魚類の病原細菌およびウイルスを飽和食塩水およびしょうゆ調味液に暴露した。その結果,Aeromonas salmonicidaをしょうゆ調味液で処理した場合を除き,塩・しょうゆ調味液処理は各種病原体の生残性および感染性に影響しなかった。以上の結果から,塩・しょうゆ調味液処理はこれら病原体の拡散を防ぐリスク低減手段として不適であると考えられた。

86(5), 829-834 (2020)
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マダイのコレシストキニン1と2: cDNAクローニング,摂餌応答,飼料タンパク質源の評価指標としての可能性

Tran Thi Mai Huong,村下幸司,
泉水彩花,益本俊郎,深田陽久

 マダイにおいて2種のコレシストキニン(Cck)のcDNAが同定され,それらの発現は摂餌によって誘導された。3種の飼料タンパク質源(高品質魚粉,低品質魚粉,濃縮大豆タンパク質)を用いた経口投与では,高品質魚粉のみで胃cck-1の発現が強く誘導された。それらのタンパク質源を主原料とした飼料でマダイを飼育した結果,高品質魚粉を用いた飼料で最も良い成長だった。以上のことから,マダイにおいてcck-1cck-2が消化に関わり,特に胃のcck-1が飼料タンパク質源の評価指標になる可能性が示唆された。

86(5), 835-849 (2020)
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ミナミウオビルZeylanicobdella arugamensisに対するキバナビワモドキDillenia suffruticosaの抗寄生虫作用および高分解能プロファイリングを用いた化合物の特定

Muhammad Dawood Shah,谷 和樹,
Balu Alagar Venmathi Maran,Yoong Soon Yong,
Ching Fui Fui,Sitti Raehanah Muhamad Saleh,
Charles S. Vairappan

 マレーシアサバ州の伝統的な薬用植物「キバナビワモドキ」の葉から得られた粗抽出物を分画し,水産養殖で問題となっている海洋性寄生ヒルに対する駆虫効果を調査した。その結果,4つの分画物が駆虫効果を有意に示し,その程度はそれぞれ,31.66±4.88分,39.58±2.94分,63.75±6.61分および65.25±4.98分であった。また,高分解能Q-TOF LC/MSを用いて,得られた粗抽出物から化合物を特定した。それらの生理活性化合物は計17個存在すると推定された。したがって,サバ州のキバナビワモドキは海洋性寄生ヒルに対して有用な水産薬剤候補となり得る可能性が示唆された。

86(5), 851-859 (2020)
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成長希釈を加味した1-コンパートメントモデルによるウグイの137Csの生物学的半減期の推定

新関晃司,和田敏裕,難波謙二,佐々木恵一,
寺本 航,泉 茂彦,野村浩貴,稲富直彦

 ウグイ(平均全長256 mm,体重136 g)の182日間の飼育試験(給餌率1%)を3つの餌条件下で行った。取込区及び取込排出区では137Cs含有の配合餌料(80.7 Bq/kg-dry)を各0-180日,0-40日に給餌し,対照区及び取込排出区では非汚染の配合餌料を各0-180日,42-180日に給餌した。試験終了時の取込区の個体(平均240 g)の筋肉および魚体全体の平均137Cs濃度は各45.5,37.0 Bq/kg-wetとなった。成長希釈を加味したモデルのパラメータにより,取込排出区のウグイのみかけの生物学的半減期は筋肉及び魚体全体で各100,104日,成長希釈を除いた生物学的半減期は各216,233日と推定された。

86(5), 861-871 (2020)
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トラフグATP-binding cassette subfamily G member 2遺伝子のクローニングと組織分布解析

松本拓也,北島冴美,山本千里,青栁 充,
三苫好治,原田浩幸,長島裕二

 フグ科魚類の薬物排泄機構を調べるため,トラフグの肝臓から薬物排泄トランスポーターAbcg2遺伝子をクローニングした。本遺伝子は,1,839 bpの翻訳領域に612アミノ酸からなるタンパク質をコードし,演繹アミノ酸には,ATP結合領域のモチーフ(Walker A, Q-loop, C motif, Walker B, D-loopおよびH-loop)と6か所の膜貫通ドメインが認められた。分子系統解析では,硬骨魚のAbcg2bパラログに帰属された。定量PCR解析では,腸,肝臓および腎臓に発現が認められた。本遺伝子およびその上流には,プロモーター領域と転写制御関連配列が認められた。

86(5), 873-887 (2020)
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アイゴ類3種(マジリアイゴ,ヒフキアイゴ,ヒメアイゴ)に含まれるオニダルマオコゼ毒類似毒の一次構造解析および立体構造予測

桐明 絢,長島裕二,石崎松一郎,塩見一雄

 アイゴ類3種(マジリアイゴ,ヒフキアイゴ,ヒメアイゴ)の刺毒に含まれるタンパク毒の一次構造をcDNAクローニング法により解明し,いずれの毒成分もヘテロ2量体で,カサゴ類であるオニダルマオコゼ毒と類似していた。さらに,ホモロジーモデリング法により予測したアイゴ類3種の毒成分の立体構造も,オニダルマオコゼ毒と類似し,オニダルマオコゼ毒と同じメカニズムによって細胞膜に小孔を形成すると推定された。本研究により,オニダルマオコゼ毒類似毒は,カサゴ類だけでなくアイゴ類にも広く分布していることが判明した。

86(5), 889-901 (2020)
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かまぼこの麹発酵による新規調味料の開発とその呈味特性,抗酸化性,ACE阻害活性

根本友里香,松尾 悠,吉江由美子

 かまぼこを麦・米・玄米・大豆麹に加えて発酵させ,発酵かまぼこと新規調味料(麹ソース)としての発酵床を得た。発酵後のかまぼこはチーズ様となり,発酵床の米麹ソースを用いたキャベツ炒めはオイスターソースよりも有意に好まれた。大豆麹ソースにおいて最も遊離アミノ酸と抗酸化性が高く,麦,米,玄米麹ソースでは遊離糖が多かった。かまぼこなしの発酵床に比べて麹ソースにおける有意な遊離アミノ酸の増加が認められた。

86(5), 903-915 (2020)
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マグロ皮由来ゼラチンのハードカプセル素材としての適性評価

Mala Nurilmala,Sendy Chrisman Adinugraha,
Agoes Mardiono Jacoeb,Susi Susilawati,落合芳博

 万民に受け入れられる魚由来ゼラチン製品の開発を目的として,キハダの加工副産物(皮)から調製したゼラチンを用いてハードカプセルを製造し,市販ゼラチンカプセル(牛由来)と性状や品質の比較を行った。その結果,本カプセルはpH値,水分,分解時間などの指標における基準を満たし,20%(w/v)水溶液から製造したものは市販カプセルよりも優れた品質を示した。本研究により,マグロ皮ゼラチンがカプセル素材に適していることが明らかにされた。

86(5), 917-924 (2020)
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京都府丹後海における遊漁の経済的評価

寺島佑樹,山下 洋,浅野耕太

  京都府丹後海における遊漁の経済的価値を推定した。丹後海における年間遊漁釣行回数は約15万回,遊漁者の年間総旅行経費と年間総消費者余剰は,約38億円及び117億円と推定された。京都府における2017年の海面漁業生産高は約30億円であった。丹後海の沿岸魚類資源は食料としてだけでなく,遊漁の対象としても非常に高い価値を有していることが明らかとなった。丹後海を訪れる遊漁者数は多く,その漁獲圧力も無視できないと推定されることから,漁業と遊漁の両面から水産資源の管理と有効活用を検討すべきである。

86(5), 925-937 (2020)
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