Fisheries Science 掲載報文要旨

冷凍水産物の品質に関する近年の研究(総説)

中澤奈穂,岡﨑惠美子

 凍結に伴って氷結晶が生成するが,魚肉の場合,タンパク質変性による損傷がなければ解凍組織は水を再吸収し,組織は復元するとされる。氷結晶の影響は,魚種,死後変化,タンパク質変性,加工条件など各種の要因により異なる。死後変化は,冷凍保管中のタンパク質変性と品質に影響する。一方,塩漬魚肉では塩漬条件が筋肉の保水性や氷結晶サイズに大きく影響する。冷凍練り製品では大きな氷結晶が生成しやすく,解凍時に水がタンパク質ゲルに吸収されにくい。各種水産物及び加工品の特性に基づく適切な冷凍および保管条件が必要である。

86(2), 231-244 (2020)
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新型・従来型オッターボード,グランドロープが海底環境に及ぼす影響

Matthew J. McHugh, Matt K. Broadhurst,
David J. Sterling, Russell B. Millar

 底曳網の漁獲効率と海底環境へのインパクトは,オッターボードなどの拡網装置やグランドロープの海底接触によって決定される。新しく考案したBatwing型オッターボードとSoft-brushグランドロープを専用のテスト装置によって人工基質の上を曳航させて,従来の平板型オッターボード,3種類のグランドチェーン(直径6mm, 8mm,10mm)と比較した。Batwing型オッターボードは平板型オッターボードと比べて基質を除去するのが61%減少し,Soft-brushグランドロープでは基質のほとんどが除去されなかったことから,脆弱な海底に対するインパクトを軽減する効果があると考えられた。
(文責 江幡恵吾)
86(2), 245-254 (2020)
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ニンニク油による銀ナノ粒子がローフーの酸化ストレスおよび組織変異に及ぼす影響の改善

Muhammad Saleem Khan, Naureen Aziz Qureshi,
Farhat Jabeen, Muhammad Wajid,
Sabeen Sabri & Muhammad Shakir

 銀ナノ粒子による水圏汚染は,水棲生物に毒性を引き起こす可能性がある。ニンニク油が銀ナノ粒子によって誘発される毒性の影響を改善できるかどうか,コイ科魚ローフーを用いて調べた。銀ナノ粒子暴露により,肝臓の炎症と壊死等の組織変異を引き起こした。ニンニク油投与により肝組織等への影響が軽減した。ニンニク油は抗酸化物質の活性を上昇させ,脂質過酸化を減少させた。ニンニク油は血液学的パラメーターも改善した。ニンニク油は銀ナノ粒子にさらされた魚の酸化ストレスと組織学的および血液学的変化の改善のための天然抗酸化剤として有効であった。
(文責 廣野育生)

86(2), 255-269 (2020)
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遺伝的手法,鱗相解析および耳石温度標識で推定した定置網漁業で漁獲されたサケ成魚Oncoryhnchus ketaの系群構成

斎藤寿彦,本多健太郎,佐々木 系,渡邉久爾,
鈴木健吾,平林幸弘,小輕米成人,佐藤智希,
高橋史久,佐藤俊平

 3種類の系群識別法(鱗相解析,耳石温度標識,一塩基多型[SNP]マーカー)を用いて,オホーツク海の定置網漁業で漁獲されたサケの起源を推定した。鱗相解析とSNP分析で北海道または本州起源を推定した結果,両手法ともに9月と10月初旬には北海道起源が卓越したが,10月下旬には本州起源が逆転した。耳石温度標識を使って北海道日本海起源のサケの割合を推定したが,その結果はSNP分析の推定値とは異なった。本研究により,北海道と本州の起源推定では,鱗相解析とSNP分析はある程度一貫した傾向を示す可能性が示唆された。

86(2), 271-286 (2020)
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北海道南東沖におけるイシイルカ型イシイルカPhocoenoides dalliの分布と個体数の経年変動:2014-2016年の航空目視調査の結果

金治 佑,吉田英可,佐々木裕子,岡崎 誠,小林万里

 2014-2016年の夏季に航空目視調査を実施し,ライントランセクト法により個体数を推定した。同海域に来遊する2系群(イシイルカ・リクゼンイルカ型)を判別するロジスティック関数を作成し,また潜水による見逃しをアーカイバルタグで得たデータから補正した。分散が大きいため個体数推定値には有意差が認められなかったが,発見位置は2015・2016年に沿岸域,2014年には沖合寄りに分布する違いがみられた。これは水温が低く基礎生産量の高い海域が2015・2016年には沿岸域に限定されていたためと考えられた。

86(2), 287-298 (2020)
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学習実験で証明されたマングローブガニScylla tranquebaricaの色覚

川村軍藏,Teodora Uy Bagarinao, Hue Sin Cheah,
Hiroaki Saito, Annita Seok Kian Yong, Leong-Seng Lim

 色覚にはスペクトル感度の異なる2つ以上の感光受容細胞が必要であるが,過去の生理学的な研究ではマングローブガニを含む十脚類のカニの感光受容細胞は1種類しか確認されておらず,これらの動物は色盲と考えられていた。本研究では,マングローブガニScylla tranquebaricaを7つの濃さの異なる灰色の間に置いた青あるいは緑の色刺激を選択するように水槽で訓練し,マングローブガニが色覚をもつことを実証した。しかし,マングローブガニは水槽内の明るさが4.4 cd/m2以下では色を識別できず,色覚閾値は高かった。
86(1), 299-305 (2020)
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チョウチョウチョウザメにおけるpiwi遺伝子の同定とエストラジオール投与時の発現動態

Xiaoge Yang, Huamei Yue, Huan Ye, Xishuang Shan,
Xuan Xie, Chuangju Li, Qiwei Wei

 チョウチョウチョウザメにおいて,生殖腺の維持や発達に重要なタンパク質であるPIWI(Adpiwil1Adpiwil2)を同定した.演繹アミノ酸配列には,PIWIに特徴的なドメインが含まれていた.Adpiwil1の発現は主に生殖腺で認められ,脳でも弱い発現が見られた.一方,Adpiwil2は生殖腺で特異的に発現していた.また,蛍光in situハイブリダイゼーションにより,雌雄の生殖細胞において特異的な発現が確認された.さらに,雌にエストラジオール(E2)を投与したところ,いずれも卵巣において発現量が顕著に減少することがわかった.
(文責 吉永龍起)

86(2), 307-317 (2020)
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九州南西部沖におけるチダイの年齢と成長

リンドン・ハビマナ,大富 潤,増田育司,
ミゲル・バスケス・アーチデイル

 九州南西部沖で採集されたチダイ1805個体の耳石の横断薄層切片を用い,年齢と成長を調べた。耳石の縁辺成長率の季節変化より,標示(不透明帯外縁)は年1回,晩春から初夏にかけて形成されることがわかった。産卵のピークである12月を成長の起点として各個体の年齢標示の数から年齢査定を行い,雌雄それぞれの尾叉長および体重についてベルタランフィーの成長曲線の当てはめを行った。その結果,尾叉長,体重ともに雌雄の成長差は認められなかった。本研究で推定されたチダイの最大年齢は,雌が15歳,雄が16歳であった。

86(2), 319-327 (2020)
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光合成細菌によるサバヒー多栄養段階統合養殖システムの水質および菌叢健全性の向上

Chingwen Ying, Man-Jung Chang, Yi-Tang Chang,
Wei-Liang Chao, Shinn-Lih Yeh, Jih-Tay Hsu

 台湾南西部のサバヒー多栄養段階統合養殖システムに紅色光合成細菌Rhodovulum sulfidophilumを導入し,ニトロゲナーゼ遺伝子量,亜酸化窒素レダクターゼ遺伝子量,サルファ剤耐性菌数,サルファ剤耐性遺伝子量等を測定した。導入区では,COD,硝酸,サルファ剤耐性菌数が低下した。サルファ剤耐性遺伝子量は,対照区では増加したが,導入区では減少した。また,導入区では菌叢の健全性も維持された。以上より,R. sulfidophilumが疾病管理,菌叢多様性維持,ひいては持続可能な海水養殖事業にむけての有望なサプリメントであることが示唆された。
(文責 井上広滋)

86(2), 329-338 (2020)
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トラフグTakifugu rubripes雄における早熟個体の遺伝的および内分泌的特徴

吉川壮太,中田 久,濱崎将臣,門村和志,
山田敏之,菊池 潔,細谷 将

 トラフグの精巣は経済価値が極めて高い。長崎県内では精巣が通常よりも早く発達する早熟家系(A家系)の存在が知られ,広く流通している。しかし,早熟現象が真に遺伝によるものかは不明であった。本研究において複数の後代検定を行った結果,A家系に由来する個体は他の個体よりも精巣の発達が早く,早熟が遺伝形質であることが示された。また,血中ステロイド濃度を野生親魚由来の種苗と経時的に比較したところ,A家系由来の種苗は精巣発達前の血中estradiol-17β濃度が高かった。以上の結果は,早熟形質の選抜育種が可能であることを示唆する。

86(2), 339-351 (2020)
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ティラピアOreochromis niloticus Linnから分離されたバチルスの投与による成長と免疫および病原菌の制御について

Nutnicha Sookchaiyaporn, Prapansak Srisapoome,
Sasimanas Unajak, Nontawith Areechon

 本研究では,ティラピアより分離された2株のバチルスについてプロバイオティクス効果を調べた。バチルスの種同定は,生化学的特徴および16SrRNAの配列によって行った。両バチルス株を8週間ティラピアに給餌したところ,平均体重,成長率等に有意な影響を与えなかった。レンサ球菌S. agalactiaeを用いた攻撃試験で生存率に差はみられなかった。これらバチルスを投与した魚のいくつかの自然免疫は対象区よりも有意に高かったが,スーパーオキシドアニオンと補体の代替経路活性には差はなかった。塩分濃度の対するステレスも改善しなかった。これらの2つの菌株は,魚病の制御と免疫活性化に使える可能性が示された。
(文責 廣野育生)

86(2), 353-365 (2020)
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紅藻フクロフノリGloiopeltis furcataの成長と光合成色素含量に対する光の質と光周期の影響

Wenwen Zhanga, Changbo Zhua, Suwen Chena

 フクロフノリ培養の最適な培養条件を明らかにすることを目的として,3つの明暗条件,異なる波長のLEDライトおよびさまざまなプラスチックフィルムを通した太陽放射が成長と光合成色素含有量に与える影響について調べた。フクロノリの成長及び光合成色素含有量は明暗条件およびLEDの波長の違いにより異なった。異なるプラスチックフィルムでフィルタリングされた太陽放射は,フクロノリの成長率に大きな影響を与えなかったが,光合成色素含有量に影響を与えた。以上のことより,12時間以上の光と黄色のLEDの光周期が陸上でのフクロノリ培養に最適であることがわかった。
(文責 廣野育生)
86(2), 367-373 (2020)
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ヒラメに及ぼすブタホスファンおよびシアノコバラミンのストレス軽減効果の検討

Jung-Soo Seo, Ji-Hoon Lee, Jung-Jin Park,
Ji-Sung Choi, Jun Sung Bae, Chae Won Lee,
Chan Yeong Yang, Yue-Jai Kang,
Sang-Hoon Choi, Kwan Ha Park

 ブタホスファンとシアノコバラミンの配合剤(BTP-C)は,家畜のストレス軽減に効果が認められている。本研究では,ヒラメを対象魚種として,ストレス条件下におけるBTP-Cの効果について検討した。BTP-Cを体重1kgに対して50mgとなるように注射した結果,低体温および低酸素による摂食低下を部分的に抑制できることが分かった。また,顕著な毒性は認められなかった。このようなストレス軽減効果は,養魚場でも同様に観察された。以上の結果から,BTP-Cは,魚類の様々なストレスに対して有用であると推察された。
(文責 井上 晶)
86(2), 375-384 (2020)
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ヒラメ体側筋アデニル酸キナーゼの単離と性質

荒井健太,井上 晶,尾島孝男

 アデニル酸キナーゼ(EC 2.7.4.3)(AK)は,ATP+AMP⇄2ADPの反応を触媒する酵素で,細胞内ヌクレオチドの可逆的変換および各種の細胞内反応の調節に関与する。ヒラメ体側筋から単離したAKの分子量は約22,000で,至適温度は44℃,至適pHは7であり,反応の平衡状態におけるATP:ADP:AMPのモル比は1:1:1であった。本酵素は,ヒラメゲノム中のadenylate kinase isoform 1 gene (GenBank, XP_019937160.1)の翻訳産物と推定された。

86(2), 385-394 (2020)
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食用エビの筋肉部および頭部内臓に含まれるビタミンB12化合物の特徴

岡本奈穂,濱口菜摘,梅林志浩,
竹中重雄,美藤友博,渡邉文雄

 本研究では,アマエビなど4種のエビの筋肉部と頭部内蔵に含まれるビタミンB12 (B12)含量およびB12化合物の特徴を詳細に検討した。Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis ATCC 7830を用いた微生物学的定量法により100g湿重量あたりのB12含量を測定した結果,筋肉部のB12含量は約2-4µg,頭部内蔵では12-33µgとなり,筋肉部よりも高いB12含量を示した。また,エビの筋肉部と頭部内蔵からB12化合物を精製しLC/ESI-MS/MS分析を行った結果,筋肉部ではB12のみが検出されたが,頭部内蔵に含まれるB12化合物としてB12とB12-d-モノカルボン酸が同定され,B12ジカルボン酸の存在が推定された。

86(2), 395-406 (2020)
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イトヨリダイ保存中にみられる内臓由来可溶性セリンプロテイナーゼの腹部筋への漏出が筋原線維タンパク質分解を引き起こす

劉 金洋,吉田朝美,高 褘俐,
代田和也,椎名康彦,長富 潔

 50℃加熱でイトヨリダイ腹部筋の筋原線維タンパク質の顕著な分解が見られたが,背部筋では見られなかった。腹部筋で調製した加熱ゲルの物性は,背部筋のそれと比較して低かった。腹部筋の筋原線維タンパク質は,筋形質セリンプロテイナーゼ(SSP)によって分解されていた。SSP活性は腹部筋と肝膵臓で検出されたが,SSP mRNAは肝膵臓でのみ検出された。これらの結果は,漁獲後の保存中に内臓より腹部筋にSSPが漏出することによって,筋原線維タンパク質分解が引き起こされ,ねり製品の品質劣化に繋がることを示唆した。

86(2), 407-414 (2020)
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Marine-derived tocopherolの機能性評価:前駆脂肪細胞3T3-L1およびマクロファージ様細胞RAW264.7における脂肪細胞分化促進作用と炎症抑制効果

別府史章,相田祐介,金子昌弘,
笠谷 聡,青木由典,後藤直宏

 本研究では海洋生物に特徴的なビタミンEであるMarine-derived tocopherol (MDT)による機能性評価として,adipogenesisおよびLPS刺激応答性の炎症作用に対する影響を3T3-L1およびRAW264.7細胞を用いて検証した。MDT処理した3T3-L1では,脂肪蓄積量,分化マーカーPPARγおよびadiponectinの発現が上方制御され,脂肪細胞への分化促進作用が推察された。また,3T3-L1およびRAW264.7においてMCP-1, IL-6, TNF-αといった炎症性因子の産生量がMDT処理により有意に低減した。以上,本研究で認められたadipokine産生制御作用ならびに炎症抑制効果は,肥満病態形成と関連が深い慢性炎症に対するMDTの有効性を示唆するものである。

86(2), 415-425 (2020)
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