Fisheries Science 掲載報文要旨

ポップアップタグを用いたシイラの飼育個体と野生個体の行動追跡

Shian-Jhong Lin,Michael K. Musyl,
Sheng-Ping Wang,Nan-Jay Su,Wei-Chuan Chiang,
Ching-Ping Lu,刀祢和樹,Chang-Ying Wu,
佐々木章,中村乙水,米山和良,河邊 玲

 シイラの人工種苗を効率的に資源へ添加するための基礎資料とするために,水平・鉛直移動と水温環境の選択という観点から,飼育個体と野生個体の行動を比較した。ポップアップアーカイバルタグを用い,亜熱帯域である台湾南東沿岸域で捕獲した野生魚 4 個体,さらに東シナ海沿岸域の定置網で漁獲されてかごしま水族館で 4 か月間飼育された 3 個体を鹿児島湾に放流した。放流からの追跡期間は 7 日から 40 日であった。まれに 100 m を超える潜行も認められたが,深度の分布範囲は表層混合層に限定されていた。経験水温は台湾では 15℃ から 30℃ だったのに対し,鹿児島では 20℃ から 23℃ だった。台湾から放流した野生個体は初夏に北上し,初冬には南下した。一方,鹿児島湾の湾央に放流された飼育個体は,湾口に向けて沿岸沿いに南下したが,湾内から出ることはなかった。50%以上の時間を海面付近で過ごしており,夜間よりも昼間に活発に鉛直移動を行っていた。深度の分布範囲は海面水温から 6℃ 以内となる深度に 90% 以上が収まっていた。

85(5), 779-790 (2019)
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Culter alburnus cyp19a 遺伝子の分子特性と発現解析

Jianbo Zheng, Yongyi Jia, Fei Li, Shili Liu,
Meili Chi, Shun Cheng, Zhimi Gu

 Culter alburuns アロマターゼ遺伝子(cyp19a)の全長 cDNA 塩基配列を決定するとともに,生殖腺形成期におけるプロモーター CpG メチル化と遺伝子発現レベルの関係を調べた。C. alburuns cyp19a は 517 アミノ酸残基からなっていた。cyp19a の発現は卵巣でのみ高く,脳では低く,その他の組織ではほとんど検出されなかった。cyp19a のプロモーター CpG メチル化は精巣で高く,卵巣ではわずかであり,メチル化レベルと遺伝子発現が逆相関を示した。本研究の結果は,C. alburuns cyp19a が性的二形性発現を伴う性関連遺伝子であり,後成的修飾が生殖腺分化で重要な働きをする可能性を示した。
(文責 舩原大輔)

85(5), 791-800 (2019)
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ニホンウナギ初期仔魚における最適飼育水温の評価

黒木真理,岡村明浩,山田祥朗,早坂俊亮,塚本勝巳

 ニホンウナギ仔魚が内部栄養から外部栄養に切り替わる初期発育段階における飼育最適水温を検討した。19-27℃ の実験区で孵化後約 1 か月仔魚を飼育したところ,初期には高水温の 27℃ で最も高成長を示した。しかし,高水温区では活発な遊泳と索餌活動により代謝が大きく,27 日齢では 23-27℃ の全区でほぼ同様の体サイズとなった。飼育水温と耳石径は正の相関を示し,その関係式から天然仔魚の平均経験水温は約 23℃ と推定された。これは,北赤道海流域において仔魚が日周鉛直移動を行う水深 50-250 m の水温帯に相当した。

85(5), 801-809 (2019)
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給餌制限がイシダイ稚魚の代償性成長に及ぼす影響

Sung-Young Oh, Jeonghwan Park

 給餌制限がイシダイ稚魚の代償性成長に及ぼす影響を調べた。連続給餌を対照とし,第 3 週(S1),第 2-3 週(S2),第 1-3 週(S3)をそれぞれ無給餌とした試験区を設け,4-9 週目まではすべての区で連続給餌した。S1,S2 区は給餌再開 3 および 6 週間で対照区と同等の体重となったが,S3 区は終了時も有意に劣った。無給餌後の体タンパク質,脂質量は 3 試験区とも対照区より低かった。S3 区の体タンパク質,脂質量は,終了時も対照区より低かった。1-2 週間の無給餌によるイシダイの成長低下は,給餌再開後 3-6 週間の代償性成長で回復できた。
(文責 古板博文)

85(5), 813-819 (2019)
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Crassostrea gigasCrassostrea sikamea 間雑種の受精,生存および成長

Hongqiang Xu, Qi Li, Lingfeng Kong,
Hong Yu, Shikai Liu

 Crassostrea gigasCrassostrea sikamea を対象として交雑を行ったところ,C. gigas(GG),C. sikamea(SS)および C. sikamea♀×C. gigas♂(SG)の交雑に成功した。SG における受精と孵化の成功率は種内交雑と比して許容レベルであった。SG 幼生の成長率は SS と変わらず,GG より優位に低かった。SG の生存率は他と変わらなかった。スパット期では,SG の single-parent ヘテロシス値は 8.85 から 24.43% の範囲だった。生存率では 3 つの交雑において差は認められなかった。本研究の結果は,SG の生産性が SS に匹敵することを明確に示した。SG の高い生存率優位性と成長形質の single-parent ヘテロシスはカキの遺伝的改良に有望である。
(文責 舩原大輔)

85(5), 821-828 (2019)
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ニホンウナギの濾胞刺激ホルモンおよび黄体形成ホルモンに対する特異的酵素免疫測定系の開発および妥当性の検討

風藤行紀,田中寿臣,鈴木博史,
尾崎雄一,深田陽久,玄浩一郎

 哺乳類細胞で発現させた 2 種類の組換えニホンウナギ生殖腺刺激ホルモン(濾胞刺激ホルモン(Fsh)および黄体形成ホルモン(Lh))を用いて,これらを測定可能な酵素免疫測定法(ELISA)を,ニホンウナギで初めて確立した。これら ELISA により,前卵黄形成期および核移動期の雌ウナギの脳下垂体における Fsh および Lh 量を調べたところ,Lh 量が成熟に伴い急増することが示された。また,核移動期の雌ウナギに生殖腺刺激ホルモン放出ホルモンとピモジドを複合投与すると,血中 Lh 量が増加し,一部は排卵することを見出した。

85(5), 829-837 (2019)
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致死最高温度付近で測定した平衡喪失に要する時間による異なる系統のニジマスの高温耐性評価

稻野俊直,田牧幸一,山田和也,兒玉龍介,
陳 盈光,木下滋晴,武藤光司,矢田 崇,
北村章二,浅川修一,渡部終五

 17℃ 馴致ニジマスを 28℃ に暴露して平衡喪失まで時間を温度抵抗域における効果時間(ET)として温度耐性の指標とした。高温選抜系(体サイズの異なる 2 群),日光系,交配系(高温選抜系×日光系)2 系統 F2 の計 5 群を比較すると,高温選抜系小型群は大型群より長い ET を示した。F2(日光系メス×高温選抜系オス)5 群の ET は,体サイズとの相関はなく 39.3-46.4 分であった。ET は体サイズに影響されるが高温選抜系は確かに高温耐性の形質を示し,高い再現性を示唆した。ET は多数個体の高温耐性を生体で調べられ,選抜育種の形質評価の有望で便利な指標である。

85(5),839-845 (2019)
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タイセイヨウサケ抗微生物ペプチド類遺伝子のクローニングおよび Aeromonas salmonicida 曝露による体表組織での発現量変化

木谷洋一郎,ダン・クアン・ヒウ,ビスワナス・キロン

 抗微生物ペプチド類(AMP 類)は魚類の体表における生体防御に関与していると考えられる。本研究ではタイセイヨウサケ AMP 類遺伝子をクローニング後,魚病細菌曝露による発現量変動を調べた。Aeromonas salmonicida(AS)ワクチンの腹腔内投与は鰓においてカテリシジン類と L-アミノ酸オキシダーゼの発現量を有意に増加させた。対して皮膚では有意な変化は認められなかった。また鰓培養組織における AS 生細胞の曝露はカテリシジン類を有意に増加した。本研究ではディフェンシン類の発現量は変化しなかった。

85(5), 847-858 (2019)
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紅藻イボツノマタ由来多糖の組成と抗炎症作用

何 暁露,山内晶子,中野俊樹,山口敏康,落合芳博

 紅藻 Chondrus verrucosus から抽出した多糖を陰イオン交換クロマトグラフィーによって分画し(溶出順に CV1,CV2,CV3),それぞれの炭水化物および硫酸塩の含量,単糖組成について調べた。主成分はガラクトースであった。RBL-2H3 細胞に対する抗炎症活性を調べた結果,CV1 および CV2 は CV3 に比べて高い活性を示し,その程度は各画分の硫酸基含量(それぞれ 25.3%,28.1% および 7.4%)に依存する傾向が見られた。

85(5), 859-865 (2019)
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HepG2 細胞を用いた過酸化水素で誘導された酸化ストレスに対するスナメリ抽出油の保護効果

Hye Ryeong Kim, Ji Eun Kim, Woo Bin Yun,
Mi Rim Lee, Jun Young Choi, Jin Ju Park,
Bo Ram Song, Hyun Keun Song, Dae Youn Hwang

 動物性脂肪は心疾患などの効果的な予防薬として報告されているが,肝毒性への効果は十分研究されていない。そこでスナメリの前頭部から抽出された油(OFNA)の抗肝毒性について研究した。HepG2 細胞の細胞生存性は,1 mM の過酸化水素で低下したが,0.1-1% OFNA の添加により抑制された。また OFNA は過酸化水素によるアポトーシスを用量依存的に抑制した。さらに OFNA による前処理は,過酸化水素による酸化ストレスを減少させた。以上より OFNA は,過酸化水素による細胞死から細胞を保護すると示唆され,化学物質を原因とする様々な肝障害の予防薬になる可能性がある。
(文責 神保 充)

85(5), 867-876 (2019)
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凍結したサバ雑種(ゴマサバ×マサバ)の肉質

橋本加奈子,大﨑彰梧,川村 亘,矢澤良輔

 刺身用冷凍品の原料に養殖魚を用いることで,その生産量や品質の安定化が期待できる。同一水槽内で飼育した,養殖に有利な高温耐性を持つゴマサバ×マサバ雑種の冷凍刺身への適正を調べるため,マサバとその肉質を比較した。雑種の生殖腺指数(GSI)はマサバよりも低く,粗脂肪量はマサバより高かった。また,凍結前,解凍後の筋肉の破断強度に有意な差はなかった。以上よりサバ雑種は冷凍刺身製品の原料に適していると考えられる。

85(5), 877-882 (2019)
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十分なドレス魚体洗浄での体表粘液タンパク質分解酵素の除去によるシログチすり身加熱ゲルの品質向上

植木暢彦,松岡洋子,万 建栄,渡部終五

 非洗浄シログチの粘液残存量を 100% とした時,通常魚洗区では 68.8%,高圧水洗浄区では 28.8% と洗浄効果が認められた。これらの原料肉から 65℃ で 60 分間加熱して得られた加熱ゲルの破断荷重は,高圧水洗浄区で 3.8 N,通常魚洗区で 2.6 N と,非洗浄区(2.1 N)より有意に高かった。これは十分な魚洗が加熱ゲル物性改善に有効であることを示している。また,体表抽出物中のタンパク質分解活性は 60℃ および pH 8.15 で最高値を示し,戻り抑制による水産練り製品の品質向上に有用な新規知見が得られた。

85(5), 883-893 (2019)
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