Fisheries Science 掲載報文要旨

日本列島周辺における小型浮魚類の資源変動と資源管理(総説)

谷津明彦

 日本周辺の小型浮魚類の資源変動,資源変動仮説および資源管理についてまとめた。10年規模の魚種交替はレジームシフトに関連していた。一方1990-2000年代にマイワシとマサバ太平洋系群は乱獲により資源が回復しなかったが,資源管理などにより近年回復しつつある。この乱獲の原因は,1980年代のまき網漁船への投資と1988/89年レジームシフトのミスマッチであった。すなわち,漁船建造後に海洋生産力が低下し,卓越種がマイワシからカタクチイワシに交替した。日本周辺の小型浮魚類に対する資源管理方策も提唱した。

85(4), 611-639 (2019)
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魚類のための健康診断用バイオセンサ(総説)

遠藤英明,呉 海云

 近年,魚の生理状態を把握し,異常を早期に察知できるような魚類のための健康診断が,水産養殖分野をはじめ水族館や水産試験場等の研究機関において注目されている。必要な診断項目としては,ストレス応答のモニタリング,産卵時期の予測,魚病細菌の高感度検出等が挙げられる。しかしながら,これらの測定には煩雑な操作と時間を必要とし,新しい手法の確立が求められてきた。本稿では,上記項目を迅速・簡便に測定できる各種バイオセンサシステムについて述べると共に,将来に向けての新しい開発動向についても併せて紹介する。

85(4), 641-654 (2019)
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淡水での絶食経験はサケ稚魚の低温海水中での成長停滞を引き起こす

中村 周,金子信人,野中達浩,
栗田大樹,宮腰靖之,清水宗敬

 本研究は,淡水中での絶食と海水温の組み合わせがサケ稚魚の成長に与える影響を調べた。淡水中で5日間絶食した稚魚を,10℃(適温)もしくは5℃(低温)の海水に移行し,10日間給餌した。淡水絶食・低温群において,成長の正の指標である血中インスリン様成長因子-I量は,海水中で摂餌しているにかかわらず低いままであった。一方,肝臓グリコーゲン量は高く,成長よりエネルギー貯蔵が優先されていた。以上より,河川での飢餓状態と海水温とのミスマッチが重なると,サケ稚魚の成長に深刻な影響を及ぼすことが考えられた。

85(4), 655-665 (2019)
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タイおよびラオスの人造湖における淡水ニシン科魚類Clupeichthys aesarnensis個体群の成長および繁殖特性

森岡伸介,Bounsong Vongvichith,丸井淳一朗,
奥津智之,Pisit Phomikong,Piyathap Avakul,
Tuantong Jutagate

 タイ国Sirindhorn湖とラオス国Nam Ngum湖では,前者の方が後者よりもほぼ通年高水温であるが,両湖でのClupeichthys aesarnensis個体群の周年繁殖が確認された。また,Sirindhorn湖個体群の方がNam Ngum湖個体群より性成熟までの成長が速く,小型・若齢で性成熟が見られるとともに,成長モデルから推定される最大サイズも前者の方が小さかった。これらの結果から,本種は高水温により早期成熟し,成熟サイズおよび最大サイズは小型化するものと推定された。

85(4), 667-675 (2019)
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ビテロジェニンシグナルによる卵への外来タンパク質輸送システムの開発

村上 悠,堀部智久,木下政人

 我々は卵内蓄積システムを開発するため,卵黄タンパク質前駆体・ビテロジェニン(Vtg)に着目した。まずメダカVtgの全長アミノ酸配列の中から,肝臓で分泌され卵内へ蓄積されるのに必要な部分配列(Vtgシグナル)を推定した。次に本シグナルを付加した蛍光タンパク質又は発光タンパク質を肝臓で発現する遺伝子導入メダカを作出した。系統化した各メダカが産む受精卵からは,蛍光又は発光が検出され,本シグナルが外来タンパク質の卵内蓄積に有効であることを示した。今後,本結果を基盤にした様々な技術応用(卵質の改善等)が期待される。

85(4), 677-685 (2019)
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液体餌によるウナギ仔魚の長期飼育:摂餌,生残,成長への影響

岡村明浩,山田祥朗,堀江則之,三河直美,塚本勝巳

 液体餌によるウナギ仔魚の長期飼育を試みた。若齢仔魚は,餌の粘度が従来のスラリー餌(約2900 mPa・s)に比べ著しく低い20-50mPa・sのときに最も多く摂餌した。そこで,サメ卵主体のスラリー餌またはそれを海水で希釈した液体餌(40-680 mPa・s)を用い,仔魚の飼育(259日間)を4回繰り返した。液体餌区の生残率(37-59%)はスラリー餌区(11-25%)の2-3.4倍高かった。一方,成長は液体餌の方が若干劣ったものの,シラスウナギの生産率は液体餌区の方が1.1-3.2倍高かった。

85(4), 687-694 (2019)
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種苗生産現場での生産を想定したRhodomonas sp. Hf-1株大量培養法の検討

山本慧史,大和礼奈,有瀧悠大,Peter Bossier,吉松隆夫

 餌料用微細藻類Rhodomonas sp. Hf-1株について,実際の種苗生産現場での生産を目的とし,農業用肥料を用いた専用培地の開発および半連続培養法による培養生産試験を行った。培養試験の結果から,本種の必須栄養素は窒素,リン,鉄,マンガン,ビタミンB12であり,最適な窒素源は尿素であることが明らかとなった。これらの結果から,本種大量生産のための専用培地,MU-SW培地を考案した。本培地を使用した半連続培養は十分かつ安定的に持続可能であり,収穫した細胞の高度不飽和脂肪酸含有率の合計は全ての収穫期において50%以上の高い水準を維持した。

85(4), 695-703 (2019)
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噴火湾におけるキタクシノハクモヒトデOphiura sarsii sarsiiの成長

折野和樹,石金晃介,鈴木孝太,
泉浦裕基,中屋光裕,髙津哲也

 噴火湾で採集されたキタクシノハクモヒトデの腕骨表面の隆起線を用いた年齢査定法を確立し,成長式を求めた。ソリネット採集個体の縁辺成長率の月別変化により,隆起線の年1本の形成を確認した。体盤径と隆起線数の間にはRichard式が良く当てはまった。体盤径<9 mmと15 mm前後のコホートは複数の年級群から構成され,後者は低成長率・低生残率によって生じると推定された。

85(4), 705-716 (2019)
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褐藻類リコペンβ-シクラーゼのcDNAクローニングと性状解析

井上 晶,岩山俊幸,尾島孝男

 褐藻類のカロテノイド生合成に関わる酵素について,実際にそれらの活性を示した報告はこれまでに無い。本研究では,ワカメを試料として,リコペンからβ-カロテンへの変換を担うリコペンβ-シクラーゼの酵素活性について,カロテノイド生合成能をもつ大腸菌を用いて調べた。リコペン生合成能をもつ大腸菌を作出した後,ワカメの候補タンパク質(UpLCYB)の遺伝子を導入した。その結果,主要カロテノイドとしてβ-カロテンが検出されたため,UpLCYBはリコペンをβ-カロテンへと変換する触媒能をもつことが明らかになった。

85(4), 717-729 (2019)
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セレノネインによるアンジオテンシン変換酵素の阻害効果

世古卓也,今村伸太朗,石原賢司,
山下由美子,山下倫明

 セレノネインは強力なラジカル消去活性を示すセレン含有イミダゾール化合物である。試験から,セレノネインは血圧上昇に関わるアンジオテンシン変換酵素(ACE)によるN-hippuryl-L-histidyl-L-leucine hydrateへの活性を阻害した。その阻害能は,血圧低下ペプチドVal-Tyrよりも強力であった。反応速度の解析と分子動力学シミュレーションから,セレノネインによるACEの阻害は,ACEの活性中心に含まれる亜鉛にセレノネインが結合することを介した競合阻害であると推測された。

85(4), 731-736 (2019)
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チュウゴクモクズガニEriocheir sinensisのS6キナーゼのクローニングおよび筋組織での脱皮に伴う発現変動

Zhihuan Tian, Guangchun Lin, Chuanzhen Jiao

 S6キナーゼは,多くの生物でタンパク質合成や成長を制御する酵素である。本研究では,まずチュウゴクモクズガニEriocheir sinensisからS6キナーゼ遺伝子をクローニングし一次構造解析を行った。次いで成体における転写産物の組織分布をリアルタイムPCRにより調べたところ,筋組織および生殖腺を含む広範な組織で発現がみられた。さらに,鋏脚,歩脚など複数の筋組織において,本遺伝子のmRNA量が脱皮に伴い増大することが示された。これらの結果は,脱皮後の筋組織の成長にS6キナーゼが寄与することを示唆している。
(文責 金子 元)

85(4), 737-746 (2019)
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空気曝露保存中における活マガキCrassostrea gigasの揮発性成分の変化

河邉真也,村上晴菜,臼井将勝,宮崎泰幸

 活マガキが空気中で7日間保存された際の揮発成分の変化を,電子嗅覚装置とGC/MSで分析した。空気曝露保存に伴い,活マガキの香気は悪化し,1-penten-3-oneの検出限界以下への減少と,1-propanolと嫌気的代謝産物であるカルボン酸の増加が認められた。Trimethylamineは20℃保存で検出され,1-penten-3-olと1-octen-3-olの変化はわずかであった。Trimethylamineやカルボン酸の検出は,活マガキの適切な保存条件の指標に利用できると考えられた。

85(4), 747-755 (2019)
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不安定なクルマエビ筋原繊維Ca-ATPaseの熱失活に影響を及ぼすミオシンの熱安定性とアクチンによる保護効果

佐々木崇之,松川雅仁

 種々のKCl濃度における筋原繊維(Mf)とミオシン(M)のCa-ATPaseの熱失活速度(kD)からクルマエビMf中のMの熱安定性とアクチン(A)の保護効果を調べた。Mfの熱失活はKCl濃度の増加に伴い増大したが,初期は速く後期は遅い二相の一次反応に従った。Mの熱失活もKClやソルビトール濃度に関係なく二相の一次反応に従い,初期と後期のkD差は約2倍だった。0.1MKCl下,Mの初期と後期のkDは,Aとの結合により1/6と1/13に減少した。これらから,Mの熱安定性とAの保護効果が,生理的条件下のMfの不安定な特性と熱失活に影響することが示唆された。

85(4), 757-765 (2019)
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ゴマサバおよびマサバの筋肉の品質および体成分の季節変化

橋本加奈子,山下倫明

 ゴマサバとマサバにおいて筋肉の品質および体成分の季節変化を調べ,両種を比較し,筋肉の硬さに影響を及ぼす要因を調べた。両種とも産卵期に肉質が劣化し,筋肉の硬さと体成分には差が認められた。両種において筋肉の硬さとpHとの間に正の相関性があり,マサバにおいて筋肉の硬さとカテプシンL活性との間に弱い負の相関性があった。産卵期のゴマサバおよびマサバの筋肉の硬さは酸性側のpHの影響を受け,マサバの筋肉の硬さはカテプシンL活性の影響を受けることが示唆された。

85(4), 767-775 (2019)
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