Fisheries Science 掲載報文要旨

Biscay湾の底曳網における選択性の改良に向けて足し身網T90に何が期待できるか

Dorothee Kopp, Fabien Morandeau(IFREMER),
Maud Mouchet(国立自然史博物館),
Camille Vogel,Sonia Mehault(IFREMER,仏国)

 Biscay湾におけるオッタートロールの選択性に関する研究は,主に単一種を対象に行われてきた。しかし,複数種を対象とする底引網では,商業的なロスを伴わずにある魚種の小型個体の漁獲を制限できる選択的漁具の研究は進んでいない。我々は,100mmの菱目網を90°回転させた網地(T90と呼ぶ)を足し身網の一部に採用した。本論文では主要な6魚種で得られた選択性の結果を示す。本漁具はヨーロッパソールとタイセイヨウアジ,メジナモドキにおいて,小型個体の逃避効果を示した。また,ヨーロッパコウイカにおいて商業的なロスがないことが確認された。
(文責 安間洋樹)

84(4), 597-604 (2018)
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高濃度酸素下で飼育したコチョウザメの成長と成熟

稻野俊直(近大水研),
兒玉龍介,田口智也,山田和也(宮崎水試)

 チョウザメを高DOグループ(H区 平均DO 11.2mg/L)と対照区(C区 7.3mg/L)の2区に分け,8か月齢から37か月間飼育した。12か月目にはH区は638.7±191.9gにC区は572.2±151.9gとなりH区が有意に大きく成長した(P<0.05)。12か月間の相対成長速度,増肉係数,24か月目のGSIに差はなかった。37か月目にはH区の卵径2,318.0±175.3μm(68尾)がC区の卵径2,152.3±287.0μm(56尾)より有意に大きかった(P<0.001)。

84(4), 605-612 (2018)
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魚類生息場所としての琉球列島のマングローブ林の重要性

Allyn Duvin S. Pantallano(高知大院黒潮),
Renan U. Bobiles(ビコール大,フィリピン),
中村洋平(高知大院黒潮)

 魚類生息場所としての琉球列島のマングローブ林の重要性を把握するために,沖縄島と石垣島でマングローブ林が発達している河川(以下,マングローブ河川)とそうでない河川に出現する魚類の群集構造を比較した。どちらの島でも魚類の種数と個体数はマングローブ河川で有意に多かった。また,マングローブ河川のみに出現した魚類が多く,さらに水産上有用なフエダイ類の稚魚も主にマングローブ河川で生息していたことから,琉球列島のマングローブ河川は水産有用種を含む多くの魚類にとって重要な生息場所であると考えられた。

84(4), 613-625 (2018)
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関東・伊豆地方の岩礁海岸におけるメジナおよびクロメジナ(スズキ目メジナ科)の着底稚魚の分布パターン

伊藤 洸,飯野祐大,中井静子,糸井史朗,
杉田治男,高井則之(日大生物資源)

 黒潮がメジナとクロメジナの再生産機構に及ぼす影響を検討するため,関東-伊豆地方の岩礁海岸で両種の着底稚魚を採集し,mtDNAのPCR-RFLPによる種判別に基づき両種の分布パターンの季節変化を調べた。メジナの出現時期は春-夏であり,相模湾沿岸岩礁域と沖合の相模灘でほぼ一致していた。メジナの稚魚は春から夏にかけて相模湾内に広く分布していると考えられる。一方,クロメジナは1-3月に沖合の相模灘で豊富に採集されたが,冬季の相模湾沿岸岩礁域には全く出現しなかった。クロメジナの繁殖成功度には黒潮が深く関与している可能性が高い。

84(4), 627-640 (2018)
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雑種ハタ(雌アカマダラハタ×雄タマカイ)へのインスリン腹腔内投与後の血中グルコース・肝臓グリコーゲン量およびグルコース代謝関連遺伝子群の発現の変動

Songlin Li(上海海洋大・青島海洋国家実験室),
Ziqiang Li,Chunyan Sang,Jiacan Zhang,Naisong Chen(上海海洋大,中国)

 雑種ハタにウシインスリンを腹腔内投与し,0-48時間後に糖代謝に関連する分析を行った。投与24時間以降に血中グルコースと肝臓グリコーゲンが減少した。グルコース輸送体遺伝子の発現は投与後上昇した。糖新生に関与する遺伝子の発現は12時間後に減少したが,糖分解に関与する遺伝子の発現は24時間後に増加した。グルコキナーゼ遺伝子の発現は投与後すぐに増加した。肝臓型グリコーゲンシンターゼ遺伝子の発現は12時間後に減少したが,肝臓型グリコーゲンフォスフォリアーゼ遺伝子の発現は24時間後に増加した。以上より,糖,グリコーゲン代謝遺伝子の転写レベルでの調節を介する,インスリンのグルコース代謝への関与が示唆された。
(文責 井上広滋)

84(4), 641-647 (2018)
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バナメイエビにおける複数の卵黄形成抑制ホルモンの遺伝子構造と発現解析

姜 奉廷,ザケア・スルタナ,張 貴華,陳 香吟,
マーシー・ワイルダー(国際農研)

 バナメイエビの卵黄形成抑制ホルモンであるLiv-SGP-A, -B, -FをコードするcDNAをクローニングした。これらの推定アミノ酸配列は,シグナルペプチド,甲殻類血糖上昇ホルモン前駆体関連ペプチド,ホルモン本体,およびアミド化シグナルから構成されており,そのゲノムDNAの構造は3-エクソン,2-イントロンからなっていた。片眼柄切除を行ったことで,亜成エビではLiv-SGP-A, -C, -Gの発現量が眼柄で有意に減少したが,成エビでは有意な変動が認められなかった。

84(4), 649-662 (2018)
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異なる塩分下でのシオミズツボワムシ耐久卵の孵化率と遺伝子発現の比較

韓 程燕(上海海洋大,中国),金 禧珍(長大院水環),
菅 向志郎(長大院水環・海洋未来機構),
李 名友(上海海洋大),
萩原 篤志(長大院水環・海洋未来機構)

 シオミズツボワムシの耐久卵孵化に影響を与える主要な環境因子である塩分に着目し,異なる塩分下での孵化率と発現遺伝子の比較を行った。塩分17で形成されたワムシの耐久卵を塩分17と33でインキュベートすると,塩分33で低い孵化率を示した。そのメカニズムを明らかにするため,各塩分下で卵発生中の耐久卵が発現する遺伝子をDDRT-PCRを用い比較した。塩分17では胚発生に関する遺伝子が多く発現したが,塩分33では環境耐性に関する遺伝子が多く発現し,高塩分への移行が耐久卵の孵化に抑制的に働いたと推察された。

84(4), 663-669 (2018)
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平衡喪失温度の臨界最高温度による高温選抜系統のニジマスおよびそのF1, F2世代の高温耐性評価

稻野俊直(近大水研・宮崎水試),
田牧幸一,山田和也,兒玉龍介(宮崎水試),
土田修二(海生研),陳 盈光,木下滋晴(東大院農),
武藤光司,矢田 崇,北村章二(水産機構中央水研),
浅川修一(東大院農),渡部終五(東大院農・北里大海洋)

 高温選抜したニジマス(高温選抜系)とドナルドソン2系統(日光系,青森系)の臨界最高温度(CTM)を比較したところ,20°C馴致では日光系は他の2系統より有意に低かった(P<0.05)。雌高温選抜系と雄日光系の交配F1Tとその逆交配F1Nの20°C馴致群のCTMに差は認められず,CTMの変動係数は親世代の日光系より低かったが(P<0.05),F2では親世代と同等であった。以上の結果から,高温選抜系と日光系の家系は高温選抜系の遺伝子解析に必要な表現型分離のF2世代作出に有効と考えられた。

84(4), 671-679 (2018)
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最少水交換飼育池への有機炭素の添加による水質への影響と底層摂食と濾過摂食の2種類のコイ科魚類の成長について

Zhigang Zhao, Liang Luo, Chang'an Wang,
Jinnan Li, Liansheng Wang, Xue Du,
Qiyou Xu(中国水産科学研究院,中国)

 最少水交換飼育池への様々な炭素源の添加による水質への影響とコイ科魚類の成長について120日間飼育を行い評価した。いずれの炭素源添加においてもアンモニア態窒素,亜硝酸態窒素,硝酸態窒素,全無機態窒素およびオルトリン酸塩の濃度は対照より有意に低かった。糖蜜添加におけるコイ科魚類の生産量は対照区よりも高かった。糖蜜および混合炭素源添加における魚の飼料効率は対照区より良く,トウモロコシ澱粉,糖蜜および混合炭素源添加における総タンパク効率は対照群より高かった。バイオフロックはカガミゴイの体組成に影響を与えた。糖蜜の餌への添加は炭素源として優れていることがわかった。
(文責 廣野育生)

84(4), 681-689 (2018)
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新規餌料用微細藻類Rhodomonas sp. Hf-1株の好適培養条件

山本慧史,大和礼奈,吉松隆夫(三重大院生資)

 餌料用微細藻類Rhodomonas sp. Hf-1株の効率的な培養生産法の確立を目的とし,温度,塩分,光量子束密度,光波長および光周期について,好適な培養環境条件を検討した。インキュベータ内で7日間の培養実験を行ない,最大細胞密度,日間増殖率を計測した。その結果,温度では24℃,塩分では21psu,光量子束密度では80μmolm-2s-1,光波長においては,白色および赤色LEDで培養を行った実験区で良好な増殖が確認された。光周期を検討した試験においては,24L:0D (light:dark)の光周期で最も高い増殖率が確認された。

84(4), 691-697 (2018)
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非加熱・加熱ミールを配合した飼料を給餌したマダイ稚魚の成長ならびに生化学組成の経時的な変化

曺 貞鉉,芳賀 穣(海洋大),
益田玲爾(京大フィールド研),
佐藤秀一(海洋大)

 イカおよびオキアミの加熱・非加熱ミールを配合した試験飼料を作製し,これらを給餌したマダイの飼育成績を検討した。全長3.5gのマダイ稚魚に試験飼料を給餌して,1週目,3週目および5週目の成長成績および生化学組成を調べた。マダイ稚魚において初期飼育ではオキアミミールが有効であるが,成長するにしたがって,イカミールの利用性が高くなることが示唆された。イカおよびオキアミミールの両方で飼料中の水溶性タンパク質および遊離アミノ酸含量が高い非加熱ミール飼料区で飼育成績が優れることが示唆された。

84(4), 699-713 (2018)
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ビオチン-ストレプトアビジン時間分解蛍光免疫測定法によるによる迅速かつ高感度なfuraltadone代謝物3-amino-5-morpholinomethyl-2-oxazolidinoneの定量

Yi Zhang(江蘇省原子医学研),
Chunhui Zhao(北京市水産技術普及セ),
Bing Wu(江蘇省原子医学研),
Ying Li(北京市水産技術普及セ),
Fang Lv,Jue Zhang(江蘇省原子医学研),
Bin Zhou,Jun Fan,Biao Huang(江蘇省原子医学研・浙江理工大,中国)

 本研究では,水産物におけるfuraltadoneの代謝物である3-amino-5-morpholinomethyl-2-oxazolidinone (AMOZ)を検出,測定するためのビオチンーストレプトアビジンを用いた競合時間分解蛍光免疫測定法(TRFIA)を開発した。牛血清アルブミンを固相にコートし,スタンダードとしてAMOZのニトロフェニル誘導体(2-NP-AMOZ)もしくはサンプルを,ビオチン化抗AMOZポリクロ抗体と競合させた。その後,複合体はシグナル増強するためユーロピウムラベルストレプトアビジンで認識させた。反応条件を最適化させた結果,2-NP-AMOZに対する50%阻害濃度は0.190μg/Lであり,感度は0.019μg/L(0.025-10μg/L)であった。魚もしくはエビ検体用いた結果,検出限界は0.021μg/kgであり,回収率はそれぞれ84.1-107.0%および80.9-98.4%(相対標準偏差10%以下)であった。TRFIA, HPLC法およびELISA測定法において高い相関が認められた。本研究の結果,ビオチンーストレプトアビジン増幅TRFIA法は超高感度でありかつ水産物におけるAMOZの残留を大量かつ迅速に検出できる方法であることが確かめられた。
(文責 大嶋雄治)

84(4), 715-721 (2018)
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ヒガンフグにおけるテトロドトキシンの体内分布および卵巣内微細分布の性成熟依存的変化

高  威,金原葉子(長大院水環),
辰野竜平(水大校),
征矢野清,Gregory N. Nishihara(長大海セ),
浦田千里,高谷智裕,荒川 修(長大院水環)

 大村湾産ヒガンフグ雌個体につき,卵巣切片の様態により成熟段階を判別しながら各部位のテトロドトキシン(TTX)量を測定したところ,卵黄胞期から卵黄形成期初期にかけては卵巣のTTX濃度が,卵黄形成期には卵巣のTTX量が顕著に増加することがわかった。卵巣のTTX濃度は産卵前後で大差なかったが,TTX量は産卵後に大きく減少し,代わって肝臓のTTX濃度が顕著に上昇した。卵母細胞におけるTTXの微細分布も成熟段階により異なり,卵黄胞期には核と卵黄胞に,卵黄形成期には主に卵黄球に,産卵前には卵膜にもTTXが局在していた。

84(4), 723-732 (2018)
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