Fisheries Science 掲載報文要旨

ミヤベイワナの成長と成熟サイズの経年変化

山本佑樹(北大水産),
芳山 拓,梶原慧太郎,中谷敏邦,松石 隆(北大院水)

 北海道然別湖に生息するミヤベイワナの成長解析を行い,約80年にわたる漁獲圧と成長や成熟魚サイズの変化の関係について検討した。その結果,過剰な遊漁による漁獲圧の上昇により,ミヤベイワナの成長が鈍化し成熟魚が小型化したと考えられた。しかし,禁漁や遊漁規制の導入により,現在は乱獲状態にあった時期と比べて資源が回復し,約10年から30年で個体の成長と成熟魚サイズが回復したことが示唆された。

84(3), 425-433 (2018)
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多変量自己回帰状態空間(MARSS)モデルを用いた底びき網漁業および調査船調査データの併用解析による資源量指数の推定精度向上

朱 夢瑶,山川 卓(東大院農),
酒井 猛(水産機構西水研)

 水産資源の資源量指数として,一般に,漁業によるCPUEデータが用いられるが,操業漁場の経年変化や漁場の制約に伴ってデータの欠損や偏りが生じうる。これに対して,系統的に配置された調査船調査データでは漁業データの欠損する海域の情報を補うことができる。本研究では資源量指数の推定精度を向上させるため,多変量自己回帰状態空間(MARSS)モデルを用いて東シナ海の以西底びき網漁業データと調査船調査データの併用解析を行った。両データの併用解析によって資源量指数およびその空間分布に関する推定精度が向上した。

84(3), 437-451 (2018)
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本州日本海側の放流・非放流河川におけるサケ自然産卵の実態

飯田真也(水産機構日水研),
吉野邦正(水産機構北水研),
片山知史(東北大院農)

 生態系の保全に配慮した持続的な資源管理を推進するため,サケの自然産卵に関する情報が求められている。2015-2016年10-12月,秋田-富山県の流程5km以上の全河川で産卵床の目視調査を1-2回実施した。産卵床を発見した河川の割合は,放流河川で93.6%(44/47),非放流河川で74.5%(35/47)であり,自然産卵は河川の放流実績に因らず行われていた。産卵親魚数の指標となる産卵床密度(産卵床数/1,000 m2)に放流河川(平均値3.5, N=49)と非放流河川(同2.4, N=36)の間で有意差は認められず(P=0.54),非放流河川の産卵親魚数も無視できないことが示唆された。

84(3), 453-459 (2018)
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亜熱帯海草藻場におけるリュウキュウアマモの葉成長の季節変動

山田秀秋(水産機構西海水研),
中本健太,早川 淳,河村知彦(東大大気海洋研),
今 孝悦(筑波大下田),
島袋寛盛(水産機構瀬水研),
福岡弘紀(水産機構西海水研)

 石垣島名蔵湾沿岸の水深の異なる2定点(分布上限域・分布中心域)において,リュウキュウアマモの葉成長等を周年測定した。いずれのパラメータも,水温上昇に伴い増大した。シュート重量および葉枚数は分布中心域で高い値が得られたが,シュート全長,シュートあたり日間葉成長およびシュート重量あたり日間葉成長には,定点間で有意差は認められなかった。また,葉成長および葉枚数は低水温期に極端に低下した。分布域の北限に近い亜熱帯域では,水温の季節変化が本種の生産に重大な影響を及ぼしていると考えられた。

84(3), 461-468 (2018)
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夏季の北浦の淡水性ヨシ帯における魚類の食性

碓井星二(東大院農),加納光樹(茨城大水圏セ),
佐野光彦(東大院農)

 北浦のヨシ帯で夏季に採集された魚類30種の消化管内容物を解析した。水産有用種のコイ,ヌマチチブ,クルメサヨリを含む14種では,成長に伴って食性が変化した。食性の類似度に基づきクラスター分析を行ったところ,各種は5つの食性グループ(植物食,動物プランクトン食,底生無脊椎動物食,陸生昆虫食,魚食)に分類された。これらのうち種数が最も多かったのは動物プランクトン食(22種)であり,ヨシ帯魚類の主要な餌は動物プランクトンであることが示された。また,魚食は5種であり,そのうちの4種は国内外からの外来種であった。

84(3), 469-476 (2018)
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低塩分海水への暴露が外傷を付与したオニオコゼInimicus japonicusの血中イオン制御および死亡率に与える影響

川口 修,御堂岡あにせ,岩本有司,
工藤孝也(広島水海技セ),
飯田悦左(広島総研),
長尾則男,松本拓也(県立広島大)

 外傷を付与したオニオコゼInimicus japonicusを100%および33%海水に暴露すると死亡率は95%および0%であった。100%海水区では血中イオン濃度が顕著に上昇したが,33%海水区ではほぼ一定か上昇が抑制的であった。鰓のNa/K-ATPase活性は33%海水区のみで有意に増加した。外傷面積と血中イオン濃度との間に正の相関がみられたが,塩分濃度による外傷修復速度の差はみられなかった。以上より,低塩分海水への暴露は,体内イオン環境維持へ寄与し外傷魚の生残率を向上させると考えられる。

84(3), 477-485 (2018)
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東北地方太平洋沖地震後の津波が外来生物サキグロタマツメタの貝殻形成に与えた影響

鈴木聖宏,大越健嗣(東邦大院理)

 東北地方太平洋沖地震後に採集された外来生物サキグロタマツメタの貝殻の90%以上には段差(障害線,新称)と殻色変化が見られた。貝殻断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果,障害線部分は通常の3層から一時的に5層に変化し,その後形成された貝殻は全体として薄くなり,また,3層のうち外層は厚く,中層は薄く,内層は変化がなかった。津波のストレスにより貝殻の破損や形成の停止が起こり,その後,破損部分の修復と貝殻の伸長を早めるために,貝殻を薄くする一方,一時的に弾力のある稜柱構造の外層を厚くしていた可能性がある。

84(3), 485-494 (2018)
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粗精製生殖腺刺激ホルモン放出ホルモンアナログ(GnRHa)の経口投与を用いたゴマサバScomber australasicusおよびスマEuthynnus affinisの産卵誘発

雨澤孝太朗,矢澤良輔(海洋大院),
竹内 裕(鹿大水),吉崎悟朗(海洋大院)

 ハンドリングに弱いサバ科魚類を対象とした産卵誘発法として,安価な粗精製GnRHaを用いた経口投与法を開発した。受託合成によって得られた純度75%の粗精製GnRHaは,純度99%の市販品GnRHaと比べ,価格が1/100程度と大変安価である。これを6mg/kg魚体重/日の濃度でゴマサバおよびスマに経口投与したところ,投与開始1日後以降に産卵が認められた。GnRHa徐放性ペレットの腹腔内埋め込みを行った供試魚と比べて,経口投与で得られた卵の質は有意に高く,孵化仔魚の数は多くなる傾向が認められた。

84(3), 495-504 (2018)
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ニホンウナギAnguilla japonica仔魚の成長と脊索奇形に及ぼす水温,給餌頻度の影響

岡村明浩,堀江則行,三河直美,山田祥朗(いらご研),
塚本勝巳(日大生物資源)

 ウナギ仔魚飼育における歩留まりの低さは,低成長と奇形の多さに起因する。より効果的な飼育法を確立するため,水温と給餌方法が成長と脊索奇形に与える影響を調べた。日齢165の仔魚を,平均水温24, 25, 27℃に分け,1日4回または6回の給餌を各々の区において行い28日間飼育した。成長率は24, 25℃で高く,6回給餌の方が高かった。一方,27℃では成長率が低下した。脊索奇形は水温が高い方が,更に給餌頻度が高い方が重症化した。これは環境条件と栄養条件が複合的に奇形発生に関わっていることを示唆する。

84(3), 505-512 (2018)
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ゾウゲバイの免疫機能に及ぼす体サイズと水質の影響

Jareeporn Ruangsri(Prince of Songkla大),
Jumreonsri Thawonsuwan(ソンクラー水生動物保健研究セ),
Sunee Wanlem(Prince of Songkla大),
Boonsirm Withyachumnarnkul(Aqua Academy Farm,タイ)

 生体防御機構に関する情報が少ないゾウゲバイの免疫機能に及ぼす体サイズおよび水質の影響を明らかにすることを目的として,種々の免疫指標の測定を行った。体サイズは血リンパのライソザイムおよびフェノールオキシダーゼ(PO)活性を除き,ほとんどの指標に影響を及ぼさないことがわかった。低塩分,低アルカリ度,高アンモニアの環境下では,血液細胞数,血リンパグルコース,PO活性が有意に低下し,成長も阻害された。また,ゾウゲバイは人工海水中では4週間以上生存できなかった。ゾウゲバイの健全な育成には至適水質の維持,監視が必要である。
(文責 舞田正志)

84(3), 513-522 (2018)
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大豆かすを給餌したパンガシウスに対するガラクトオリゴ糖および酵母・β-グルカン混合物の添加効果

Amalia Sutriana (UNSYIAH,インドネシア),
Roshada Hashim (USIM,マレーシア),
Mst. Nahid Akter(HSTU,バングラデシュ),
Siti Azizah Mohd Nor(マレーシア大,マレーシア)

 大豆かすによる魚粉代替飼料の抗栄養因子の改善を目的として,大豆かすで魚粉を50%代替した飼料にガラクトオリゴ糖ならびに酵母とβ-グルカンの混合物を添加した飼料でパンガシウスを12週間飼育し,成長,消化酵素,腸内細菌叢および消化管組織に及ぼす効果を調べた。大豆かす魚粉代替飼料を給餌した魚では,成長率,タンパク消化率,各種消化酵素活性,消化管絨毛長の有意な低下が見られた。これらの所見はガラクトオリゴ糖ならびに酵母とβ-グルカンの混合物いずれの添加によっても改善が見られ,消化管内細菌叢も魚粉飼料と大差なかった。
(文責 舞田正志)

84(3), 523-533 (2018)
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レチノイン酸はタイラギの卵成熟を誘起し精子運動を活性化する

淡路雅彦,松本才絵(水産機構増養殖研),
小島大輔,井上俊介(水産機構瀬水研),
鈴木道生(東大院農),
兼松正衛(水産機構瀬水研)

 タイラギ種苗生産の簡便化に人工受精法が有用であるが,その為に必須である卵成熟誘起が難しかった。我々はレチノイン酸(RA)がタイラギ卵成熟を誘起し精子運動を活性化する結果を得たので報告する。発達した卵母細胞への1.0μM all-trans-RA (at-RA)処理で卵成熟が誘起され,1.0μMレチノール,レチナール,セロトニン,2mMアンモニアは効果がなく,at-RAは他の異性体よりも効果が強かった。精子運動活性化についても同様であり,また卵母細胞の発達に伴いRAへの反応性が上昇した。At-RA処理した卵母細胞を人工受精すると受精卵は孵化し正常なD型幼生に発達した。

84(3), 535-551 (2018)
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異なる飼育水温と照度がマダイの鰾開腔率および成長に及ぼす影響

本領智記,倉田道雄(近大水研),
Sandval Dario(ARAP,パナマ),
山雄沙希(近大農),Cano Amado(ARAP),
澤田好史(近大水研)

 マダイ種苗生産技術の向上を目的とし,異なる飼育水温(19, 21, 23および25℃)と光強度(250, 1,000, 4,000および16,000lx)が鰾開腔率と成長に及ぼす影響を調べた。その結果,飼育水温は鰾開腔率に影響しないが25℃下では3日齢で,19℃下では6日齢に鰾開腔が開始される事から鰾開腔可能な期間も水温に依存すると考えられる。また,鰾開腔開始時の体サイズは高水温になるほど小さくなる傾向が認められた。異なる飼育照度は鰾開腔率および鰾開腔開始時期に影響しないが,マダイ仔魚飼育には1,000 lx 以上の光強度が適していると考えられる。

84(3), 553-562 (2018)
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多摩川都市部流域における細菌叢の16S rRNA遺伝子によるメタゲノム解析

Md. Shaheed Reza(北里大海洋・バングラディシュ農大),
水澤奈々美,熊野文香,及川千晴,大内大輔,小檜山篤志,
山田雄一郎,池田有里,池田大介(北里大海洋),
池尾一穂(遺伝研),佐藤 繁,緒方武比古,工藤俊章,
神保 充,安元 剛(北里大海洋),
吉武和敏(東大院農),渡部終五(北里大海洋)

 多摩川都市部流域の細菌叢を16S rRNA遺伝子アンプリコンにつき次世代シーケンサを用いてメタゲノム解析した。0.2μmフィルターで回収された自由生活性細菌類のDNAをIon PGMで解析した結果,Proteobacteria門が最も多くを占めることが明らかになった。属レベルでは,魚病性細菌を含む可能性のあるFlavobacterium属が16%程度と最も多くを占めた。MiSeq解析による1年間の調査で,環境要因,とくに水温は細菌叢に大きな影響を及ぼし,Proteobacteria門は正の,Bacteroidetes門は負の相関を示した。一方,属レベルではFlavobacterium属細菌が水温と正の,Polaromonas, PseudomonasおよびBradyrhizobium属細菌が負の相関を示した。

84(3), 563-577 (2018)
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マグロ・ミオグロビンのpHおよび温度に依存した熱変性様式

Mala Nurilmala(ボゴール農科大,インドネシア),
潮 秀樹(東大院農),落合芳博(東北大院農)

 クロマグロのミオグロビン(Mb)の変性様式につき,PMD値(Mb変性度)を指標としてpH5.6, 6.5および7.4, 70, 75および80℃を組み合わせた条件下で測定し,ウマMbと比較した。マグロMbのPMD値は70℃では各pHにおいてそれぞれ88.5, 52.1および67.7%であったが,75および80℃ではpHにかかわらず初期に変性した。しかし,pH6.5における変性速度は小さかった。一方,ウマMbはpH5.6のみにおいて変性が認められたが,他のpHでは温度にかかわらず極めて安定であり,マグロMbとは明らかに異なる熱変性様式を示した。

84(3), 579-587 (2018)
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低価格海苔(乾燥および生ノリ藻体)からの発酵海藻調味料素材の調製と特性解明

内田基晴,久留島祥貴(水産機構瀬水研),
秀島宣雄(丸秀醤油),荒木利芳(三重大伊賀拠点)
石原賢司,村田裕子,東畑 顕,石田典子(水産機構中央水研)

 低価格・廃棄ノリを原料として実証規模での発酵試験を3種類の条件下で行い,得られた調味料素材の特性解明を行った。色落ちノリを含む乾燥および生ノリとも原料として使用でき,酵素を使用せず食塩添加のみの条件で発酵調味料素材の製造が可能であること実証した。得られた調味料素材は,全窒素分が0.2g/100mLと少なく,味は旨味コクよりも酸味が特徴と評価されたが,糖質成分が豊富で重金属汚染も認められないため,穀物アレルゲンを含まない新規調味料素材として商業利用が可能と考えられた。

84(3), 589-596 (2018)
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