Fisheries Science 掲載報文要旨

耳石における 4 種類の不透明帯(総説)

片山知史(東北大院農)

 年齢査定に用いられる耳石の透明帯,不透明帯について,構造的および生物学的な特徴をもとに,4 種類の不透明帯に分類した。A タイプ:耳石中心部および若齢時の主に体成長の良い時に形成される不透明度の濃い帯,B タイプ:複数の皺状構造の集まりが構成され,成長停滞期を中心に形成,C タイプ:結晶構造の明瞭な変化を伴わない墨彩状の帯,D タイプ:主に産卵期に形成される深い溝のチェック構造。これらは生活史の中で異なる時期に形成される輪紋であり,薄片法によって構造の詳細を観察して年齢査定を行う必要がある。

84(5), 735-745 (2018)
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海産食品に含まれるビタミン B12 化合物の特徴(総説)

美藤友博(鳥取大農),谷岡由梨(東農大栄養),
渡邉文雄(鳥取大農)

 ビタミン B12(B12)は一部の細菌や古細菌によってのみ生合成される。細菌の B12 はプランクトンを介して食物連鎖により魚貝類に蓄積され,紅藻類においては細菌との相互作用により B12 を含む。魚貝類は B12 の優れた供給源であるが,一部の食用貝類に生理活性を有しないシュードビタミン B12 が含まれていた。また,高齢者の B12 欠乏症を予防するために遊離型 B12 を含む海産加工食品を調査した結果,カツオ魚肉エキスおよびアサリエキスに多量の遊離型 B12 が含まれており,高齢者の B12 欠乏症予防に利活用できることが明らかとなった。

84(5), 747-755 (2018)
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岡山県の天然個体の優占する水域におけるニホンウナギ資源の減少

海部健三(中央大学法学部),
横内一樹(水産機構中央水研),
樋口富彦(東大大気海洋研),
板倉 光(メリーランド大,米国),
白井厚太郎(東大大気海洋研)

 最近開発された耳石安定同位体比を利用した手法を用いて岡山県のニホンウナギ Anguilla japonica の天然遡上個体と放流個体を判別し,天然遡上個体の CPUE の増減を検討した。放流が行われている淡水域で捕獲された 161 個体のうち,98.1% が放流個体と判別された。一方,放流が行われていない沿岸域で捕獲された 128 個体のうち 82.8% が天然遡上個体と判別された。沿岸域における 2003 年から 2016 年までのはえ縄及び定置網の CPUE は有意に減少しており,この水域における天然遡上個体が現在,減少していることが示された。

84(5), 757-763 (2018)
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ナガレハナサンゴ Euphyllia ancora の生殖細胞における proliferating cell nuclear antigen (PCNA)タンパク質の発現解析

識名信也,Yi-Ling Chiu, Man-ru Ye, Jack-I-Chen Yao,
Yi-Jou Chung, Chieh-Jhen Chen,
Ching-Fong Chang(台湾海洋大,台湾)

 ナガレハナサンゴから proliferating cell nuclear antigen (PCNA)分子の cDNA を単離し,その推定アミノ酸配列の一部を抗原としたペプチド抗体を作成した。その後,免疫組織化学染色法により異なる発達段階の生殖細胞における PCNA の発現を調べた結果,精原細胞と一次精母細胞,並びに卵原細胞と全ステージの卵母細胞の核で陽性シグナルが認められた。以上の結果から,PCNA はサンゴ生殖細胞の有糸分裂と減数分裂期の相同組み換えにおける DNA 修復に関与していることが示唆された。

84(5), 765-775 (2018)
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2002 年宮崎県大淀川におけるシラスウナギ加入の卓越と沖合環境条件

青木一弘,山本敏博,福田野歩人,横内一樹,
黒木洋明,瀬藤 聡(水産機構中央水研),
黒田 寛(水産機構北水研・同 中央水研),
亀田卓彦(水産機構中央水研),
高藤和洋(宮崎県水産振興協会),
渡慶次 力(宮崎水試)

 大淀川におけるニホンウナギ Anguilla japonica のシラスウナギの加入機構に影響する環境要因について解析を行った。河口で操業する標本船調査により 1994-2014 年の月別 CPUE のデータを取得した。年別 CPUE の最大値がみられた 2002 年において,大淀川沖の冬季(11-2 月)平均水温は最低であり,月平均水温偏差は常に-0.5℃ 以下であった。本結果は沖合の低水温環境がシラスウナギの沿岸域への加入機構に好適に作用することを示唆した。低水温の要因として,低気温および宮崎県沖における黒潮の北進による低気圧渦の発生が考えられた。

84(5), 777-785 (2018)
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マガキの配偶子形成における DNA メチル化の頻度とエピジェネティックな変異

Xin Zhang, Qi Li, Lingfeng Kong,
Hong Yu(中国海洋大,中国)

 マガキの配偶子形成における雌雄間の差異とエピジェネティックな多型の関係を理解するために,蛍光標識メチル化感受性増幅多型を解析した。発生初期から再吸収期にかけての卵巣と精巣におけるメチル化の割合は,それぞれ 28.9% から 34.5% および 31.2% から 35.5% に増大した。主座標分析により,卵巣と精巣における配偶子形成には顕著な違いが認められ,精巣においてより高い変異性があった。以上の結果より,マガキの配偶子形成においてはメチル化の転換点を反映した著しい違いがあることが示唆された。
(文責 吉永龍起)

84(5), 789-797 (2018)
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耳石の微量元素組成と Sr 安定同位体比によるビワマスの母川回帰性の検討

天野洋典(東大大気海洋研),
桑原雅之(琵琶湖博),高橋俊郎(JAMSTEC),
白井厚太朗,山根広大,川上達也,
横内一樹(東大大気海洋研),
天川裕史(JAMSTEC),大竹二雄(東大大気海洋研),

 琵琶湖の固有種であるビワマスの湖内回遊個体と琵琶湖流入河川に遡上した産卵個体について,耳石の Sr/Ca, Ba/Ca, 87Sr/86Sr による母川判別を行った。非線形判別分析の結果,湖内回遊個体群は複数の河川に由来する個体で構成されることが判った。また,産卵個体群の母川回帰率は約 22% と低かったものの,迷入個体はいずれも母川に近接した河川に遡上する傾向が強いことが明らかになった。このような迷入行動はビワマスが琵琶湖において個体群を維持していく上で重要な意義をもつものと推察される。

84(5), 799-813 (2018)
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同属カイアシ類 Tigriopus japonicus・Tigriopus kingsejongensis における活性酸素生成およびグルタチオン-S トランスフェラーゼの発現と活性に対する水温変化の影響

Jeonghoon Han, Chang-Bum Jeong, Eunjin Byeon,
Jae-Seong Lee(成均館大,韓国)

 温帯性の Tigriopus japonicus と南極産の Tigriopus kingsejongensis の 2 種のカイアシ類について,細胞内活性酸素(ROS)生成およびグルタチオン-S トランスフェラーゼ(GST)活性とその遺伝子発現の水温変化に対する応答を調べた。ROS と GST 活性は,水温変化により前者でのみ有意に上昇した。また,水温上昇により,GST 遺伝子群の mRNA は前者で減少し,後者で増加したため,両種の水温上昇に対する分子応答は異なることがわかった。これらの結果は,近縁だが生息場所が異なる両種において,水温変化が異なる作用機序で酸化障害を生じさせ,それに対する対応機構も両種で異なることを示している。
(文責 井上広滋)

84(5), 815-823 (2018)
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クロホシマンジュウダイのチメットオリゴペプチダーゼとプロリルエンドペプチダーゼ:卵形成過程における発現変動と雌性ホルモンによる発現抑制

Si-ping Deng, Dong-neng Jiang, Jian-ye Liu,
Zhi-qi Liang, Hua-pu Chen, Tian-li Wu,
Chun-hua Zhu, Guang-li Li(広東海洋大,中国)

 チメットオリゴペプチダーゼとプロリルエンドペプチダーゼは,卵形成に関わる脳内因子であるゴナドトロピン放出ホルモンの分解に関わることが知られている。本論文では,クロホシマンジュウダイからそれらのペプチダーゼをクローニングし,雌での発現解析を行った。その結果,それらのペプチダーゼの視床下部での発現は卵黄球期に最も高くなること,また,雌性ホルモン処理によって抑制されることが明らかとなった。以上の結果は,それらのペプチダーゼが卵形成を制御するためのポジティブフィードバック機構に組み込まれていることを示唆している。
(文責 大久保範聡)

84(5), 825-835 (2018)
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LAMP 法による有鱗型タイラギの遺伝子型判別

橋本和正(水産機構西海水研),
山田勝雅(熊本大),
永江 彬,松山幸彦(水産機構西海水研)

 東アジアのタイラギは,貝殻形態の可塑性や分類基準の不足により,分類学的に混乱している。今回,九州の 2 箇所から有鱗型タイラギを採取し,ミトコンドリア COI 領域の塩基配列を解析したところ,両地点とも遺伝的に異なる 2 つの系群から構成されていた。これら系群間の塩基置換は 8.3% と大きく,別種である可能性が高い。有鱗型タイラギは種苗生産対象種であり,雑種種苗の作出は避けねばならない。そこで我々は LAMP 法に基づく両者の判別手法を開発した。本手法により,タイラギ親貝の遺伝子型判別が低コスト,短時間で可能となった。

84(5), 837-848 (2018)
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同環境下におけるミドリイシ属サンゴの着生後生残率の種間差

鈴木 豪(水産機構西海水研),
岡田 亘,安武陽子((株)エコー),
甲斐清香,藤倉佑治,谷田 巖,山下 洋,
林原 毅(水産機構西海水研),
安藤 亘((一社)水産土木建設技術センター),
野神巧一,不動雅之(水産庁)

 異なる群体型を持つミドリイシ属サンゴの優占種 6 種(コユビミドリイシ,ウスエダミドリイシ,ヤングミドリイシ,Acropora awi,トゲヅツミドリイシ,ホソヅツミドリイシ)の着生後の生残を,野外の同一の環境下で 1-2 年間比較した。その結果,ウスエダミドリイシの生残は,着生 3 か月後の時点で他の種より有意に高いことが分かった。また,コユビミドリイシ,トゲヅツミドリイシ,ホソヅツミドリイシの生残は特に低かった。生残率が低くなる原因としては,着生後 7 か月間の成長が遅いことと関係していることが示唆された。

84(5), 849-856 (2018)
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カンパチ Seriola dumerili の Interleukin-10 は宿主の細胞性免疫を抑制する

松本 萌(鹿大連農),
Mahumoud Tanekey Amer(アレキサンドリア大,エジプト),
荒木亨介(鹿大水),西谷 篤(鹿大自科セ),
早志一真,竹内 裕,塩崎一弘,山本 淳(鹿大水)

 IL-10 は抗炎症性サイトカインであり,Th1 細胞からのサイトカイン産生を阻害することで細胞性免疫誘導を抑制する。いくつかの淡水魚ですでに同定されており,炎症性サイトカインの阻害機能についてもよく調べられているが,細胞性免疫の抑制については明らかではない。本研究において私たちは,カンパチより IL-10 遺伝子を同定しその組換えタンパク質を用いて機能解析を行った。その結果,カンパチの IL-10 にサイトカイン阻害剤としての機能が保存されており,海産魚で初めて IL-10 は細胞性免疫を抑制するだけでなく,Th2 優位な免疫を誘導することを明らかにした。

84(5), 857-867 (2018)
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複数回経口投与後のバナメイエビにおけるエンロフロキサシンおよびその代謝産物シプロフロキサシンの薬物動態

Rongrong Ma, Liang Huang, Wenjuan Wei, Yuan Wang(上海海洋大),
Xiong Zou, Junfang Zhou, Xincang Li, Wenhong Fang(中国科学院,中国)

 バナメイエビにエンロフロキサシン(ERFX)を複数回経口投与した後の ERFX およびその代謝物シプロフロキサシン(CPFX)の薬物動態を調べた。HPLC を用いて,血リンパ,肝すい臓およびエビの筋肉中の ERFX 濃度および CPFX 濃度を同時に測定した。初回経口投与後,血液および筋肉における ERFX の吸収が早く,肝すい臓より速いことを示した。複数回投与の経口投与では,体液中および肝すい臓内に若干の ERFX の蓄積が見られたが,筋肉では有意に低下した。ERFX および CPFX の組織分布は,肝すい臓で CPFX 濃度が有意に高く,肝すい臓が主な代謝臓器であることが示された。
(文責 廣野育生)

84(5), 869-876 (2018)
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インドネシア,東ジャワ,プロボリンゴのマングローブ底泥中から発見された Chattonella marina var. marina について

Ayu-Lana-Nafisyah(広大院生物圏科・アイルランガ大,インドネシア),
Endang-Dewi-Masithah(アイルランガ大),
松岡數見(長大海セ),
Mirni-Lamid, Mochammad-Amin-Alamsjah(アイルランガ大),
小原静夏,小池一彦(広大院生物圏科)

 インドネシア 東ジャワのマングローブ域において採集した泥から,有害プランクトンの Chattonella 様細胞が大量に放出された。培養株を作成し,顕微鏡観察と分子同定を行ったところ,これら培養株は Chattonella marina var. marina であることが判明した。ITS 領域は日本産および中国産の同種と完全に相同だったが,インドネシア株は日本産株が生存できない 34℃ においても高い光合成最大量子収率を示し,低塩分域にその至適増殖域を持っていた。底泥中にも同種のシストが初めて発見された。

84(5), 877-887 (2018)
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保存中のティラピア筋肉におけるカルパインの活性化の変化について

Yanfu He(南京農業大),
Hui Huang(中国水産科学院),
Laihao Li(南京農業大),
Xianqing Yang(中国水産科学院,中国)

 カルパイン活性,カルパイン阻害剤(カルパスタチン)および活性化因子(UK114)の発現ならびにカルパイン活性に必要な Ca2+ 活性化濃度に影響を及ぼす因子を調べた。カルパイン活性は,貯蔵後 5 時間で有意に増加し,その後減少した。ティラピア筋肉の UK114 レベルは貯蔵中に有意に上昇した。カルパスタチンと UK114 は,カルパイン活性に関して真逆の効果を示した。UK114 処置群のカルパイン活性は,同じ Ca2+ 濃度のコントロールよりも高かった。カルパスタチンはカルパインの活性化を阻害した。したがって,UK114 がカルパスタチンを阻害することにより,カルパイン活性を増加させる可能性があると思われた。
(文責 廣野育生)

84(5), 889-895 (2018)
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天然および養殖ノコギリガザミ Scylla paramamosain の不揮発性呈味成分の比較

Chunsheng Liu, Fantong Meng(海南大),
Xianming Tang(海南省海洋・漁業科学院),
Yaohua Shi, Aimin Wang, Zhifeng Gu(海南大),
Zhi Pan(Hainan Breeding Center,中国)

 天然および養殖ノコギリガザミ(MC)の不揮発性呈味成分として遊離アミノ酸(FAA),核酸関連物質(NRC),ベタイン,水溶性糖質,トリメチルアミンオキシドおよび有機酸を測定した。MC の主要呈味成分は,NRC,ベタインおよび有機酸であった。天然 MC は,養殖と比べて肉中の FAA, NRC,ベタインおよび有機酸が多く含まれた。しかし,生殖腺は,ベタインを除いて両者に差は認められなかった。生殖腺は肉に比べて NRC と有機酸の濃度が高く,旨味の強度も大きかった。結果として,天然 MC は,養殖と比べて呈味を示す不揮発性成分を多く含むことが示された。
(文責 谷本昌太)

84(5), 897-907 (2018)
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