Fisheries Science 掲載報文要旨

様々な操業・潮流条件下におけるカツオ・マグロ類まき網の実海域調査

Cheng Zhou,Liuxiong Xu,Hao Tang,
Xuefang Wang(上海海洋大,中国)

 カツオ・マグロ類のまき網漁法では対象魚群を確実に漁獲するために投網後の漁具を速やかに沈降させることが重要である。本研究では操業方法と潮流条件がまき網漁具の沈降深度に与える影響を重回帰モデルを用いて調べた。潮流速度,投網時間,中・底層部の流向差,投網角度が漁具の最大沈降深度に影響を与えていた。中層における潮流は漁具の沈降を妨げる影響があると考えられたが,投網時間と投網角度の増加は漁具の沈降を促す効果があった。素群操業と付き物操業では漁具の沈降深度に明確な違いがあった。適用されたモデルは効果的なまき網操業方法を提示するのに役立つ。
(文責 髙木 力)

81(6), 1003-1011 (2015)
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フットロープの部位間におけるズワイガニ類のトロール入網率の変動とその採集効率への影響

藤田 薫,渡部俊広(水研セ水工研),
伊藤正木(水研セ東北水研),東海 正(海洋大)

 トロールによるズワイガニ類の採集効率はフットロープにおける入網率(フットロープに接触した個体数のうち入網した個体数の割合)に依存する。太さや曳網方向に対する迎角が異なるフットロープの 3 つの部位(ベレー部,補助ベレー部,袖部)におけるズワイガニ類の入網率は,水中ビデオカメラによる観察結果から,ベレー部と補助ベレー部で 0.122 及び袖部で 0.530 と推定された。これらの入網率をもとに推定した総入網個体数はコッドエンドの採集個体数とほぼ一致した。入網率をフットロープの部位別に求めることで採集効率をより正確に推定できる。

81(6), 1013-1024 (2015)
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南西日本における植食性魚類ノトイスズミの胃内容物組成の季節変化

八谷光介(水研セ東北水研),
清本節夫,吉村 拓(水研セ西海水研)

 植食魚の中でも魚体や群れのサイズが比較的大きいノトイスズミの胃内容物を長崎県西彼杵半島において調査した。本海域では春から初夏に大型褐藻類が繁茂し,晩夏から冬には磯焼け様の景観となり海藻類のバイオマスはごく少なくなるが,ノトイスズミの胃内容物は周年にわたり海藻類で占められた。春から初夏にかけては,繁茂する大型褐藻類を主に摂食し,夏から冬にかけてはシマオオギ,ウミウチワが多く,アントクメの付着器も食われていた。大型褐藻類の幼体期である晩冬から初春には,カヤモノリ科や紅藻類が食われていた。

81(6), 1025-1033 (2015)
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環境刺激はイシダイの学習能力を向上させる:特定の成長段階において見られた環境エンリッチメントの効果および天然稚魚と人工稚魚の比較

牧野弘奈,益田玲爾,田中 克(京大フィールド研)

 水槽中に構造物を設けたエンリッチ環境または通常の環境で,イシダイ稚魚を 50-65, 50-80 または 90-120 日齡にわたり飼育したのち,Y 字型迷路の報酬訓練を用いて学習能力を調べた。また同方法で天然稚魚の学習能力も調べた。その結果,50-80 日齢にエンリッチ環境で育成した個体の成績のみ対照区よりも優れていた。また天然稚魚の学習能力は人工稚魚よりも高かった。水槽中に構造物の乏しい人工稚魚の学習能力は天然魚より劣るが,適切な時期にエンリッチ環境で育成することで学習能力の発達が促進される可能性がある。

81(6), 1035-1042 (2015)
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ウナギ属全 19 種の皮膚粘液 C 型レクチン

筒井繁行,吉永龍起(北里大海洋),
渡邊 俊(日大生物資源),青山 潤(東大大気海洋研),
塚本勝巳(日大生物資源),中村 修(北里大海洋)

 ウナギ属魚類は 19 種が知られている。ニホンウナギにおいて,皮膚粘液中に 2 つのレクチンが存在しており,重要な防御因子として機能していることが示されている。本研究ではこのうちの C 型レクチンに着目し,比較免疫学観点から,全 19 種の遺伝子配列を決定した。全ての種において,糖鎖結合に重要な EPN 配列および WND 配列が認められたことから,本レクチンが全種において機能的であることが示唆された。系統解析により,本レクチンは温帯種および熱帯種の 2 タイプに大別され,環境ごとに異なる病原微生物への適応と考えられた。

81(6), 1043-1051 (2015)
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アミノ酸の窒素安定同位体分析によるカタクチイワシの個体ごとの栄養段階決定および相模湾における食源の違いへのアプローチ

宮地俊作,馬谷原武之,對馬孝治,笹田勝寛,
河野英一(日大院生物資源),
小川奈々子,力石嘉人,大河内直彦(JAMSTEC)

 アミノ酸の窒素安定同位体を用いてカタクチイワシの栄養段階(TLGlu/Phe)を個体毎に推定し,その自生性/他生性食源の違いを解析した。相模湾における本種の全窒素安定同位体比(δ15Nbulk)の試料内変動は大きく,本研究でも 9.1‰ から 16.2‰ の範囲を示した。個体毎の TLbulk はレベルが 2 段階異なる程のゆらぎを示したが,δ15Nbulk の最小値と最大値を示した個体毎の TLGlu/Phe は 3.2 と 3.1 であった。TL が同レベルであることから,これらのカタクチイワシは異なる食物網に属し,食源(一次生産者)の δ15Nbulk が異なる回遊個体群の混在によりδ15Nbulk は幅を持つと考えられた。

81(6), 1053-1062 (2015)
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有害珪藻 Asteroplanus karianus の増殖に及ぼす水温,塩分,光量子束密度の影響

紫加田知幸(水研セ瀬水研),
松原 賢(佐賀有明水振セ),吉田 誠(香川県庁),
坂本節子,山口峰生(水研セ瀬水研)

 ノリ色落ち原因珪藻 Asteroplanus karianus は水温 20℃,塩分 20 で最大増殖速度を示し,水温 15-25℃,塩分 15-33 の範囲における増殖速度はその 70% を維持するものの,30℃ では増殖しなかった。また,増殖に必要な光量子束密度の閾値は約 1 μmol photons m-2 s-1 で,他の沿岸性珪藻種のそれよりも低かった。低い光量子束密度で増殖可能だが,高温では増殖できないという本種の増殖特性は,低水温,低照度である冬季の実環境中において本種が赤潮を形成することと矛盾しない。

81(6), 1063-1069 (2015)
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ミトコンドリア・チトクロームオキシダーゼ I 遺伝子塩基配列による北西太平洋域マガキの遺伝的変異と集団構造の解析

Shuang Li,Qi Li,Hong Yu,
Lingfeng Kong(中国海洋大,中国),
Shikai Liu(オーバーン大,米国)

 マガキ野生集団の管理と保護に有益な情報を得るために,北西太平洋域の 12 地点のマガキについて,その遺伝的変異と集団構造をミトコンドリア・チトクロームオキシダーゼ I 遺伝子の部分塩基配列から解析した。広範な地域のマガキを解析したが,有意な遺伝的分化は中国産の一部と日本産マガキ間でのみ認められた。この結果は成体期に固着性となる海産無脊椎動物の遺伝的分化に,海流による遺伝子流動や歴史的な分布域の拡大が大きく影響することを示唆し,北西太平洋域のマガキの遺伝的多様性や地理的分布の現状や成立機構の理解に有益な知見である。
(文責 淡路雅彦)

81(6), 1071-1082 (2015)
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マアジ Trachurus japonicus の遊泳時心拍数と普通筋活動の同時観察

Mochammad Riyanto,有元貴文(海洋大)

 回流水槽を用いて,水温条件別にマアジ(尾叉長 FL18.3±1.2 cm, n=24)の遊泳時の心電図と筋電図を同時に観察した。筋電図測定より,普通筋の活動は 10℃ では 3.2-3.5 FL/s で始まるのに対して,15℃, 22℃ では 4.0-5.4 FL/s となり,高温条件で最大持続速度が高くなり,心拍数はその前の低速段階から増加し始めた。普通筋の叢放電波形をもとに遊泳速度段階別に筋出力を計算し,高温条件で出力が増加し,心拍数の増大に関係することを明らかにした。

81(6), 1083-1090 (2015)
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ブリ Seriola quinqueradiata の成長と筋線維径に対する分岐鎖アミノ酸添加飼料の効果

川中子誠,竹村秀平,石塚梨沙,塩谷 格(日水中研)

 分岐鎖アミノ酸(バリン,ロイシン,イソロイシン,3 種併用)添加区のブリの体重は,対照区と比べて有意に高かった。それぞれの区の筋線維直径を比較したところ,分岐鎖アミノ酸添加区のほうが対照区よりも有意に太かった。一方,バリン単独添加区においては,体重と筋線維直径に対する影響は認められなかった。これらのことから,バリン単独ではなく分岐鎖アミノ酸 3 種として添加することで,ブリの成長を促進すると考えられた。分岐鎖アミノ酸による成長促進の機構として,分岐鎖アミノ酸は筋線維径の肥大を介する可能性が考えられた。

81(6), 1091-1097 (2015)
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大阪湾の干潟における微生物の無機活性におよぼす太陽光紫外放射の季節的な影響

中瀬玄徳(近大水研),江口 充(近大農)

 干潮時の干潟表面に太陽光に含まれる紫外放射(UVR)を受ける場所と UVR を遮断した場所を設定し,それぞれの微生物群の無機化活性を測定した。UVR を遮断した場所の無機化活性は,夏季には UVR を受ける区のそれよりも,有意に高くなった。一方,秋季と冬季には UVR 遮断による活性の昂進は観察されなかった。夏季の UVR は秋季,冬季の約 2 倍の強さであった。これらの結果は,UVR が微生物群の無機化活性に及ぼす負の影響が季節により変化していることを示す。

81(6), 1099-1104 (2015)
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食用海産巻貝の黒バイ Babylonia japonica とサザエ Turdo (Batillus) cornutusのビタミン B12 含量とビタミン B12 化合物の特徴

㬺  飛(鳥大院連合農),谷岡由梨(東農大短大),
濱口菜摘(鳥大農),美藤友博(鳥大院連合農学),
竹中重雄(阪府大院),
薮田行哲,渡辺文雄(鳥大院連合農・鳥大農)

 食用巻貝として黒バイ Babylonia japonica とサザエ Turdo (Batillus) cornutus に含まれる B12 化合物を比較検討した。黒バイの筋肉部および内臓部 100 g あたりの B12 含量は,それぞれ約 27.2 μg と 92.8 μg であり,サザエの各部位に比べ 6-9 倍高い B12 含量を示した。サザエの筋肉部および内臓部に含まれる B12 化合物は疑似 B12 であったが,黒バイでは疑似 B12 は検出されず,すべて真の B12 であった。

81(6), 1105-1111 (2015)
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超臨界二酸化炭素中での固定化リパーゼによる魚油のトランスエステル化

Myong-Kyun Roh (Korea-Bioengineering),
Young Dae Kim(国立水産研究開発センター),
Jae-Suk Choi(新羅大,韓国)

 ω-3 多価不飽和脂肪酸に富むグリセリドの生産について,エタノール過剰存在下での超臨界二酸化炭素(SC-CO2)の効果を測定した。SC-CO2 の存在下ではトリグリセリド,モノグリセリド,エチルエステルの分解速度およびジグリセリドの合成速度が増した。最適な反応条件は,魚油の 3 倍量のモルのエタノール及び 3% リパーゼを加え,10.0 MPa,50℃ であった。SC-CO2 濃度を変えて反応速度と失活阻害を決定した結果,エタノール過剰存在下で SC-CO2 が減少すると失活阻害が減少し,リパーゼの反応速度が増加した。
(文責 神保 充)

81(6), 1113-1125 (2015)
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ウニの主要卵黄タンパク質は糖タンパク質複合体である

王  姮,浦 和寛,都木靖彰(北大院水)

 ウニ類の卵に多量に含まれる卵黄タンパク質は,主要卵黄タンパク質 (MYP) で卵黄顆粒に蓄積される。本研究では,エゾバフンウニ Strongylocentrotus intermedius およびキタムラサキウニ Mesocentrotus nudus を用い,同じ精製法により卵から MYP を精製した。また,両種の卵黄顆粒を分離し,SDS-PAGE および抗 MYP 抗体を用いた Western blotting 解析の結果,MYP は複数のタンパク質バンドが陽性反応を示した。しかし,両種では異なる分子量のタンパク質バンドが陽性反応を示した。このことから,ウニ類の卵に蓄積される MYP は複合体であり,ウニによって MYP は異なる構造を持つことが示唆された。

81(6), 1127-1134 (2015)
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Pseudomonas vesicularis MA103 株のキシラナーゼ組換えタンパク質の発現および性状解析

Wen-Sing Liang,Tsuei-Yun Fang,Hong-Ting Lin,
Tristan C. Liu,Wen-Jung Lu,Wen-Shyong Tzou,
Shye-Jye Tang,Fu-Pang Lin,Shiu-Mei Liu,
Chorng-Liang Pan(台湾海洋大,台湾)

 Pseudomonas vesicularis MA103 株から β-1,3-xylanase 遺伝子を単離し,大腸菌発現系で組換えタンパク質を作製して性状を解析した。本酵素の触媒ドメインはグリコシドヒドロラーゼのファミリー 26 に属し,C 末端には 2 つの炭水化物結合モジュール(ファミリー 31)が存在した。組換え β-1,3-xylanase (XYLII)の至適温度および pH はそれぞれ 35℃ および 7.5 であった。基質特異性より,XYLII はエンド型の β-1,3-xylanase (EC 3.2.1.32) と考えられた。
(文責 吉永龍起)

81(6), 1135-1143 (2015)
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蒸しハマチ肉スライスの普通肉および血合肉の脂質酸化と揮発性成分の変化に及ぼす再加熱前貯蔵の影響

谷本昌太(県立広島大),北林佳織(比治山大),
福島千尋,杉山寿美(県立広島大),
橋本龍幸(国立病院機構)

 再加熱したハマチ肉において,貯蔵 7 日目に血合肉(DM)では,47 の揮発性成分(VC)が,普通肉(OM)では 26 成分が,さらに,過酸化物価(PV)およびチオバルビツール酸反応性物質(TBARS)は,いずれの筋肉も,蒸しのみ(SO)と比べて高い値を示した。SO および貯蔵 7 日の,それぞれ 9, 32 の VC が,OM と比べて DM で高かった。再加熱した OM の PV は,DM と比べて高い傾向を,TBARS は,貯蔵 7 日目に,DM が OM と比べて,高い値を示した。スライスは,貯蔵 7 日目に,SO と比べて臭いの劣化を生じた。ほとんどの脂肪酸に貯蔵による変化が認められなかった。

81(6), 1145-1155 (2015)
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チュウゴクモクズガニの異なる 4 可食部位の臭気特性

Siru Ji (上海海洋大),Saiqi Gu (浙江工業大),
Xichang Wang,Na Wu(上海海洋大,中国)

 オスの蒸したチュウゴクモクズガニ Eriocheir sinensis の異なる 4 可食部位から臭気を抽出し,これの臭気特性を検討した。腹部肉,ツメ肉,脚肉および生殖腺からそれぞれ,2, 7, 7 および 10 種の重要な臭気成分が検出され,2-ethylpyridine がいずれの部位においても検出されたことを除き,部位により臭気成分は異なった。官能検査の結果,腹部肉およびツメ肉において最も強い臭気は肉臭であり,生殖巣は,アンモニア臭,魚臭,草臭,および脂臭を有する事が明らかになった。
(文責 大迫一史)

81(6), 1157-1167 (2015)
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ホッケ冷蔵貯蔵中の急激なミオシン架橋反応能の消失

蛯谷幸司(北大院水・網走水試),
菅原 玲(道中央水試),今野久仁彦(北大院水)

 死後硬直中のホッケから調製した肉糊を用いると,坐り効果が認められ,ミオシン架橋も観察された。この架橋反応はホッケを 5℃ で 1 日貯蔵しただけで大きく低下した。同魚肉中でのトランスグルタミナーゼ (TGase) の失活が認められた。粗酵素も 1 日の貯蔵で著しく失活した。魚肉,粗酵素にソルビトールを添加すると,失活が抑制された。市販のホッケのすり身中の TGase はすでに失活していることが推定された。

81(6), 1169-1176 (2015)
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