Fisheries Science 掲載報文要旨

バハカリフォルニア半島におけるコシオリエビ科の一種 Pleuroncodes planipes の時空間的分布と海水温との関係

Juan A. De Anda-Montañez (CIBNOR),
Susana Martínez-Aguilar (La Paz, Baja California Sur),
Eduardo F. Balart, Tania Zenteno-Savín,
Lía Méndez-Rodríguez, Edgar Amador-Silva (CIBNOR),
Manuel Figueroa-Rodríguez (CICESE,メキシコ)

 バハカリフォルニア半島の南側沿岸における,深海性のコシオリエビ科の一種 Pleuroncodes planipes の緯度,深度の分布パターンを調べた。秋期(2004 年 10-11 月)と春期(2007 年 3 月)に 6 回の調査船調査を実施した。この間に発生したエルニーニョが本種の分布に与える影響を解析することができた。最も多かった分布量は,1 時間曳網で漁獲された 2014 kg から推定された 436804 トンであった。本種は調査海域に広く分布していたが,マグダレナ湾で顕著であった。また本種の分布は,海洋条件によって大きく変化することが示された。2004 年と 2006 年のエルニーニョは,この種の行動と資源としての利用可能度に影響を与えた。一般化線形モデル(GLM)によって,分布の有無と曳網時間当たり漁獲量は,季節,緯度,水深および底水温によって変動したが,AIC によって選択された変数は季節であった。ガンマ条件付きモデルでは,季節,水深,底水温が有意であった。
(文責 片山知史)

82(1), 1-15 (2016)
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クエ Epinephelus bruneus のオプシン遺伝子配列と発現解析

松本太朗,石橋泰典(近大農)

 クエの網膜から 10 種類の視物質オプシン遺伝子[Rh1; Rh2A1-1, Rh2A1-2, Rh2A2, g6738, g6740; SWS1; SWS2A1, SWS2A2; LWS]が検出された。海産魚から 5 種類もの Rh2 関連遺伝子が見つかった例は大変少ない。次に,各種オプシン遺伝子の発現解析を行った結果,14-40 日齢の仔魚期に LWS の発現が見られなくなった。また,発育に伴って SWS1 から SWS2 へオプシン遺伝子が入れ替わる傾向が観察され,発育初期に視感度特性の変化することが示唆された。

82(1), 17-27 (2016)
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マナマコの日周活動性は給餌時刻と捕食者の存在に影響されるが給餌場所の学習は成立しない

山口真以,益田玲爾,山下 洋(京大フィールド研)

 マナマコの活動性について,給餌時刻および捕食者の存在による活動性の変化を観察するとともに,給餌時刻と餌場の学習が成立する可能性を検討した。稚ナマコでは活動の日周性が認められなかったのに対し,成体は夜行性でかつ昼間の給餌によりこれが失われた。給餌時刻と餌場の学習は成立しなかった。稚ナマコは,捕食者の存在下では昼間はカキ殻に隠れる夜行性が顕著であるのに対し,捕食者のいない条件では昼間にも活動的であった。本種は餌や捕食者の存在に対応して行動を変化させるものの,学習には依存しないと推測された。

82(1), 29-34 (2016)
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2006, 2008 年夏季の北西太平洋沖合域におけるニタリクジラの衛星追跡

村瀬弘人(日鯨研・水研セ国際水研),
田村 力,大谷誠司,西脇茂利(日鯨研)

 衛星標識を用い,北西太平洋沖合域において,ニタリクジラ 2 個体の移動データを記録した。2006, 2008 年の夏季にそれぞれ 1 個体に衛星標識を装着し 13 日間と 20 日間のデータを記録した。2006, 2008 年の個体の平均移動速度はそれぞれ 2.9 km/h, 5.5 km/h であった。両個体とも亜寒帯-亜熱帯移行域から亜熱帯域に向け南方向へ移動した。これまで,亜寒帯-亜熱帯移行域は同種の夏季における摂餌場であることが報告されているが,ある個体は夏季であっても亜寒帯-亜熱帯移行域から亜熱帯へ移動することが明らかになった。

82(1), 35-45 (2016)
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アユ IRAK-4 遺伝子の単離および発現解析

鈴木究真(群馬水試),泉庄太郎(東海大海洋),
田中英樹(群馬水試),片桐孝之(海洋大)

 自然免疫と獲得免疫の制御に関与している IRAK-4 遺伝子をアユから単離したところ,cDNA は 463 残基のアミノ酸をコードしており,デスドメイン,セリン/トレオニンプロテインキナーゼドメインが保存されていた。また,ゲノム構造は,11 個のエキソンから構成されおり,他の脊椎動物とほぼ同じ構造であった。アユ IRAK-4 遺伝子の発現は,鰓,心臓,腸管,腎臓および脾臓で強く認められた。アユを冷水病菌で浸漬攻撃したところ,全血でこの遺伝子の発現量の著しい増加が確認され,免疫応答に関連している可能性が示唆された。

82(1), 47-57 (2016)
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アマゴのスモルト化決定の主要因は体サイズである

桑田知宣(岐阜水研),徳原哲也(岐阜水研・下呂),
清水宗敬(北大院水),吉崎悟朗(海洋大)

 雌性発生クローンアマゴを用いスモルト化とそれ以前の成長履歴との関連を解析し,1)成長率に係わらず,スモルト決定期に体重の閾値を超えた個体がスモルト化する,2)決定期以後に閾値を超えてもスモルト化しない,3)決定期に閾値を超えた個体はその後の成長を抑制しても大部分がスモルト化する,4)決定期に閾値を超えなかった個体はその後の成長が早くてもスモルト化しないことを明らかにした。以上,体重がスモルト化の開始を決める要因であり,決定期後に認められるスモルトの高成長は相分化の結果生じる現象であることが示された。

82(1), 59-71 (2016)
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摂餌開始期における飢餓状態がスケトウダラ仔魚の生残と成長に及ぼす影響

横田高士,中川 亨,村上直人,千村昌之,田中寛繁,
山下夕帆,船本鉄一郎(水研セ北水研)

 摂餌開始期のスケトウダラ仔魚に及ぼす飢餓の影響を飼育下で調べた。2, 5, 8℃ において初回摂餌は 3, 2, 1 日齢に見られ,point-of-no-return (PNR) は 15, 14, 10 日齢であった。5℃ において 2-16 日齢に給餌を開始して仔魚を飼育したところ,摂餌開始期の飢餓期間が短いほど成長と生残は良好であり,飢餓が PNR の 2-3 日前まで続くと成長は停滞した。本種仔魚は冷水性魚類に標準的な飢餓耐性を備えているものの,摂餌開始期の早い段階における餌の多寡が資源量に影響することが示唆された。

82(1), 73-83 (2016)
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腹鰭除去は魚の逃避軌跡を変える

河端雄毅(長大海セ),
山田秀秋,佐藤 琢,小林真人(水研セ西海水研),
奥澤公一(水研セ増養殖研),浅見公雄(水研セ西海水研)

 シロクラベラ人工種苗を用いて,腹鰭除去が突発逃避遊泳に及ぼす影響を調べた。本種の左腹鰭を除去し,対照個体とともに突発逃避遊泳を記録した。腹鰭を除去した側へターンした場合には,除去個体が対照個体より,ターン角度と逃避角度が大きかった。一方,腹鰭がある側へターンした場合には,両者で違いは見られなかった。ターン時に両方の腹鰭が広げられていたことから,腹鰭にはターン角度とそれに伴う逃避角度を調節する機能があると考えられた。本結果は,腹鰭除去が対象種の被食回避率を低下させる可能性があることを示唆する。

82(1), 85-93 (2016)
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台湾におけるオオウナギ養殖業の生産性向上に資する管理改善:生物経済分析

Cheng-Ting Huang, Jun-Ting Chiou,
Hieu Truong Khac(台湾海洋大),
Yao-Jen Hsiao(台湾漁業経済発展協会),
Shin-Chang Chen(台湾海洋大,台湾)

 台湾のオオウナギ養殖業について,その収益性に影響を与える要因を統計分析した。オオウナギの養殖期間は 2-3 年で,その期間における生残率は 20-30%であった。生産コストが最も低かったのは台湾東部の養殖施設であった。また便益費用比率が最も高かったのは台湾中部のコンクリート池の施設および台湾東部の土池であった。これらは収益性も比較的高かったが,養殖期間が長いため生産リスクも高かった。養殖魚の密度管理,成長段階ごとの仕分け作業などにより生産リスクを減らすことで,収益性は向上することが示唆された。
(文責 八木信行)

82(1), 95-111 (2016)
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ガザミ種苗生産で発生する幼生の大量死を防ぐ新飼育手法

團 重樹,芦立昌一(水研セ瀬水研),
浜崎活幸(海洋大)

 ガザミの種苗生産で発生する大量死の原因である形態異常とアルテミアの栄養不足を克服するため,ワムシとアルテミアの給餌方法,および微細藻類の添加方法を検討した。その結果,第 1 齢ゾエアにはふ化アルテミアを,第 2 齢ゾエア以降は栄養強化アルテミアを給餌し,可消化処理ナンノクロロプシスを飼育水へ添加することで,大量死を防除可能であり,第 1 齢稚ガニまで高い生残が得られた。ガザミ幼生は,ワムシを用いずアルテミアのみを餌として,ふ化から稚ガニまで飼育可能であることが初めて示された。

82(1), 113-126 (2016)
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Misgurnus 属雑種の四倍体精子

趙 岩,藤本貴史,M. Pšenička,斎藤大樹,
荒井克俊(北大院水)

 ドジョウ雌×カラドジョウ雄雑種の作る四倍体精子は低運動性,低生存性と低濃度を示した。四倍体精子の 36% は鞭毛を欠き,17% は 2 本の鞭毛を,47% は 1 本の鞭毛をもつ,そして,これらは鞭毛の軸索構造に異常を示し,鞭毛長は正常精子に比較して短く,精子頭部サイズも大きかった。四倍体精子はミトコンドリアの体積増加,高 ATP 含量から見ると高い運動エネルギーを持つが,異常な形態のため運動が妨げられていた。これらの四倍体精子は染色体複製の後の減数分裂停止と精子変態により形成されると考えられた。

82(1), 127-135 (2016)
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ゴマニベの成長,体組成およびアンモニア排泄に及ぼす飼料タンパク質含量の影響

Wenjia Li, Xiaobo Wen, Juan Zhao,
Shengkang Li, Dashi Zhu(汕頭大学,中国)

 ゴマニベ稚魚の成長,体組成およびアンモニア排泄に及ぼす飼料タンパク質含量の影響を調べた。エネルギー量,脂質量が等しく,タンパク質量(36-52%)の異なる 5 種類の飼料を作製し,平均体重 63 g の稚魚を 8 週間給餌飼育した。増重率,飼料効率等は 48% で最も高くなった。飼料タンパク質の増加に伴い摂餌率,比肝重値は低下したが,魚体のタンパク質含量は高くなった。アンモニア排泄量は飼料タンパク質の増加に伴い減少し,48% で最も低くなった。増重率や成長率から求めた至適タンパク質含量は 48.7-48.9% であった。
(文責 古板博文)

82(1), 137-146 (2016)
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ATP によるミナミマグロ筋小胞体 Ca2+-ATPase の変性抑制および筋小胞体の生化学的性状

袁 春紅,竹田侑里,西田若菜,木村郁夫(鹿大水)

 ミナミマグロ筋小胞体(SR)の生化学的性状(SDS-PAGE 分析,キモトリプシン消化性,Ca2+-ATPase 活性の pH,温度,KCl 濃度依存性および酸性 pH 下における安定性)を測定した。また ATP の SR 変性抑制作用について検討した。マグロ SR Ca2+-ATPase 活性の pH 依存性は pH 6.5 付近に最大活性を示し,45℃,4 分間処理で活性は約 1/2 となった。また,酸性下(pH 5.5),0℃,2 時間処理により,ほぼ失活した。一方,ATP は SR Ca2+-ATPase の酸性 pH 下での変性や加熱及び凍結変性に対して高い抑制効果を示し,SR の構造安定化作用を有することが明らかとなった。

82(1), 147-153 (2016)
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ケツギョの 2 種の成長ホルモンレセプターのクローニングと絶食および再摂餌時の組織における発現

Xue Lu, Yongming Gu, Xiaocui Hou(中山大),
Haifang Wang, Pengfei Wang, Peng Xu, Lei Zeng,
Lei Zhou, Guifeng Li(佛山市南海百容水産良种,中国)

 ケツギョの 2 種の成長ホルモンレセプター(GHR)を単離し,構造を決定した。1 週間の絶食により下垂体成長ホルモン(GH),筋肉の scGHR1, 2 および血中 GH レベルは上昇したが,肝臓の scGHR1, 2 の発現量は低下した。再摂餌後の scGHR1, 2 の発現量は筋肉では低下したが,肝臓では速やかに回復した。再摂餌 3 日後の下垂体 GH の発現量は対照の 5.1 倍であったが,7 日後には対照と同等になった。scGHR1, 2 の発現量の組織による差異は,組織によってそれらが異なる機能を持つことを示唆するものと考えられた。
(文責 古板博文)

82(1), 155-169 (2016)
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紅藻スサビノリ新規尿素輸送体遺伝子(PyDUR3.3)の単離と特性解析

柿沼 誠,鈴木康平,岩田晋太朗,
Daniel A. Coury(三重大院生資),
岩出将英(三重水研),三上浩司(北大院水)

 紅藻スサビノリでは 2 種類の尿素輸送体遺伝子(PyDUR3.1/3.2)が同定されているが,本研究では EST データベース検索で存在が示唆されたもう一つの尿素輸送体遺伝子(PyDUR3.3)の cDNA および gDNA をクローニングした。PyDUR3.3 は 15 回の膜貫通ドメインをもつと推測され,その一次構造は PyDUR3.2 のそれとよく類似しており,両遺伝子構造も高度に保存されていた。一方,PyDUR3.3/3.2/3.1 の発現特性は世代間や栄養条件で大きく異なっていた。これらの結果から,PyDUR3.3/3.2 は機能的あるいは世代特異的に分化したパラログ遺伝子と考えられた。

82(1), 171-184 (2016)
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