カルロス E. サカルキム(国立パラナ大), ピタゴラス A. ピアナ, ヒルマ・バウムガトナー(州立西パラナ大), ホセ M. ロチャ・アラニャ(国立パラナ大,ブラジル) |
河川における小規模漁業の漁獲量は季節的に変化する。本研究では,ブラジルのアラグアイア川(Araguaia river)において,水位の季節変化が漁獲量などに与える影響を調査し,男性と女性の漁業者の間でこれらの影響が異なるか分析した。この結果,CPUE,漁獲物構成,漁場などは水位の季節変化によって大きく変動することが分かった。また,魚を追って広範囲を移動する男性の集団と,集落近辺を主たる漁場とする女性では,変動の傾向が異なっていた。このことから,アラグアイア川の漁業管理を策定するにあたっては,水位変化や漁業者の性別にも考慮する必要性が示唆された。
(文責 八木信行)
Irfan Yulianto(ロストック大・WCS Indonesia), Cornelius Hammer (Inst. Baltic Sea Fisheries,ドイツ), Budy Wiryawan(ボゴール農科大,インドネシア), Harry W. Palm(ロストック大,ドイツ) |
インドネシア・カリムンジャワ国立公園においてハタ亜科魚類の資源量推定を行った。ハタ亜科魚類の個体密度は全期間(2005 年から 2012 年)では減少傾向にあったが,一方で後半(2009 年から 2012 年)ではその重量密度は増加していた。2011 年に漁業者の自主規制により水中銃によるエフォートが減少し,その結果 2012 年には資源量と重量密度が増加したと推測される。以上より本海域のハタ亜科魚類の保全のためには海洋保護区の設定のみでは効果は十分ではなく,漁業規制や住民の支援も必要であると考えられた。
(文責 宮下和士)
沈 曉麗,胡 夫祥(海洋大),熊沢泰生(ニチモウ), 塩出大輔,東海 正(海洋大) |
翼端板付きで背面前縁形状を翼型に加工した高揚力オッターボード(Hyper lift trawl door: HLTD)を設計し,縦横比 1.0 で反り比を 15, 20, 25% に変えた翼面積 625 cm2 の模型を用いて,HLTD の流体力特性を水槽実験で調べた。翼端板のサイズが h/c(h:翼端板の幅;c:翼弦長)=0.10 で,反り比が 15, 20, 25% の HLTD 模型の最大揚力係数は,迎角 38°でそれぞれ 2.19, 2.38, 2.48 のかなり大きな値を得た。また,曳網方向に対して HLTD が外傾-20°から内傾 20°までの傾斜姿勢で曳網されても,揚,抗力係数および圧力中心係数の変化が小さいことも確かめられ,今後漁業現場における実用が期待される。
Zhou Fang, Luoliang Xu, Xinjun Chen, Bilin Liu, Jianhua Li(上海海洋大,中国), Yong Chen(メイン大,米国) |
外套長 119-351 mm,体重 45-1957 g のトビイカを用い,上,下顎板の 6 つの形態的特徴と成長・成熟との関係について観察を行った。外套長では 3 形質を除いて,体重では全ての形質で顎板の値との関連が認められた。また顎板の形態的特徴は未成熟と成熟個体との間で異なり,これらは成熟に伴う食性の変化から生じるものと推察された。さらに顎板における色素の沈着過程と顎板の形態的特徴にも関連性が確認でき,色素沈着の区分から未成熟もしくは成熟を判断することも可能であった。
(文責 有瀧真人)
伯耆匠二,河村知彦,入江貴博(東大大気海洋研), 元 南一(K-water Inst. Korea Water Resources Co.), 渡邊良朗(東大大気海洋研) |
アサリの摂餌の周期性を検討するため,水管伸出行動を摂餌行動の指標として,室内飼育環境下で目視観察を行った。明暗周期 12L:12D の条件下では,アサリの水管伸出行動は暗期に活発になった。その日周性は,恒明,恒暗条件下においても持続したことから,本種は 24 時間周期の体内リズムを持つと考えられた。既往研究より,本種は概潮汐リズムを持つと考えられているが,本研究では,水管伸出行動に潮汐と関連した周期は認められなかった。10 日間の絶食後に給餌を行った実験区では,行動の日周性は一時的に崩れたが,その後速やかに回復した。
小林由紀,髙津哲也(北大院水), 山口宏史(稚内水試),城 幹昌(網走水試) |
マガレイ稚魚の食性を解明するために,2010-2011 年 8 月に日本海とオホーツク海で稚魚の食物組成と餌多様度,栄養状態を比較した。海底水温と稚魚の標準体長には成育場間の差はなかったが,肥満度はオホーツク海で高く,摂餌強度の差が原因と考えられた。両成育場の胃内容物は主に,ハルパクチクス目,ヨコエビ亜目,多毛類で,日本海では二枚貝類も高い割合を示した。胃内容物の多様度が高いほど稚魚の肥満度は低かった。
國谷奈美,神保 充,谷本典加(北里大海洋), 山下 洋(水研セ西海研),小池一彦(広大生物圏), 波利井佐紀,中野義勝(琉大熱生研), 岩尾研二(阿嘉島臨海), 安元 剛,渡部終五(北里大海洋) |
サンゴの一種 Acropora tenuis を用いて褐虫藻獲得に関与する糖結合タンパク質レクチンを探索した。A. tenuis 稚ポリプは変態 72 から 96 時間後に褐虫藻株 NBRC102920 をよく獲得した。褐虫藻獲得は,糖分解酵素処理した褐虫藻や N-アセチル-D-ガラクトサミン(GalNAc)添加により阻害される傾向があった。de novo シークエンシング・cDNA クローニングにより,GalNAc 結合レクチンは Tachylectin-2 様レクチン AtTL-2 だった。AtTL-2 を認識する中和抗体が稚ポリプによる褐虫藻獲得を阻害したので,AtTL-2 は褐虫藻獲得過程に関与する可能性がある。
片町太輔(水研セ瀬水研),池田 実(東北大院農), 宇野勝利(石川水総セ) |
日本海の七尾湾の周辺では,七尾湾からおよそ 390 km 北東の八郎潟周辺と七尾湾からおよそ 170 km 西の若狭湾がトラフグの産卵場と考えられている。標識再捕調査から,それら 2 地点は異なる系群の産卵場であることが示唆されている。本研究では,2009 年の 5-6 月に七尾湾においてソリネットを用いて採集された卵をミトコンドリア DNA 調節領域の塩基配列によって種同定することで七尾湾が本種の産卵場であることを特定した。産卵場は水深 17.5-20.5 m で砂底の狭い領域に分布し,水温は 13.07-16.56℃,塩分は 33.95-34.12 だった。八郎潟周辺,七尾湾および若狭湾における産卵親魚を対象にミトコンドリア DNA 調節領域の塩基配列を用いて DNA 分析を行った結果,3 地点間に有意な遺伝的分化は認められず,個体の広域な移動による遺伝子流動が示唆された。
Min Chul Lee, Eun-Ji Won(成均館大), Seung-Hwi Lee(湖南大), Dae-Sik Hwang, Hui-Su Kim, Jeonghoon Han(成均館大), Jae-Sung Rhee(仁川大),Ae-Son Om(漢陽大), Jae-Seong Lee(成均館大,韓国) |
コペポーダ Tigriopus japonicus から,インスリン様ペプチド 1(Tj-ILP1)の cDNA クローニングを行った。当該 cDNA は 174 残基のアミノ酸をコードしており,三次構造の保持に必要と考えられる 6 つのシステイン残基は,全て保存されていた。Tj-ILP1 遺伝子は,成熟した雄において高発現しており,本種の性分化,および雄の形態形成に寄与している可能性が示された。また,Tj-ILP1 遺伝子は,2 種の微細藻を給餌することにより発現誘導されたが,その発現レベルには両者間で差が認められた。
(文責 岡田 茂)
上村泰洋(水研セ中央水研),高橋正知(水研セ瀬水研), 山下紀生(水研セ北水研),渡邊千夏子,川端 淳(水研セ中央水研) |
マサバ太平洋系群の加入量の指標を得るために,2002-2011 年の 5-6 月に黒潮親潮移行域で採集されたマサバ稚魚の耳石日周輪解析を行い,仔稚魚期の成長履歴を推定した。4 月孵化群の仔稚魚期における平均日間成長速度は,2006 年の 1.03 mm day-1 から 2009 年の 1.52 mm day-1 の範囲を示し,加入尾数との間に正の相関が認められたことから,この成長速度は加入尾数の重要な指標のひとつと考えられた。高い経験水温は 4 月孵化群の高い成長速度と仔魚期の短縮をもたらした。
Teng Wang, Xin Gao, Jun Wang(中国科学院), Ivan Jakovlić(華中農業大), Sheng-Cuo Dan, Huan-Zhang Liu(中国科学院) |
2007 年から 2013 年にかけて揚子江上流の赤水河で漁獲された,同流域固有種のロックカープ(岩原鯉)について,年齢・成長および成熟程度を調べた。体長と体重の関係は W=0.015SL3.155,また成長式は Lt=64.9(1-e-0.101(t+0.217))で表された。50% 成熟体長は,雄 24.2 cm,雌 37.0 cm であった。雌は 4 月から 8 月の産卵期に少なくとも 2 回産卵すると推定された。漁獲個体の 86.5% は 25 cm(4 歳齡)以下であり,乱獲が示唆された。近年,資源の減少が著しい本種に対し,保全方策の策定と施行は急務と考えられる。
(文責 益田玲爾)
青木一弘(水研セ中央水研),鬼塚 剛(水研セ瀬水研), 清水 学(水研セ中央水研),黒田 寛(水研セ北水研), 松尾 斉,耒代勇樹(東町漁協) |
2010 年夏季に八代海南部海域において Chattonella 赤潮が発生し,養殖ブリの大量斃死が発生した。本研究では養殖ブリ斃死の発生状況と Chattonella 赤潮出現状況の日毎データおよび粒子追跡実験を解析に使用し,短期変動特性に注目した。7 月初旬には獅子島南岸および長島西岸で,7 月下旬では獅子島南岸および長島東岸で大規模な斃死が発生していた。Chattonella marina の細胞密度が 100 cells mL-1 を超えた地域で養殖魚の斃死が大規模化したことが明らかとなった。粒子追跡実験の結果から,赤潮出現の東西海域差は八代海における流動過程(吹送流)が寄与していると示された。
Dao Viet Ha, Phan Bao Vy(ベトナム海洋研究所), Sing Tung Teng(UNIMAS,マレーシア), 内田 肇(水研セ中央水研), Chui Pin Leaw, Po Teen Lim(マラヤ大,マレーシア), 鈴木敏之(水研セ中央水研), Pham Xuan Ky(ベトナム海洋研究所) |
ベトナム沿岸から単離した Pseudo-nitzschia の 2 株について透過型電子顕微鏡による形態観察と rDNA 大サブユニットならびに ITS2 領域の NCBI-blastn による分子生物学的情報に基づき,Pseudo-nitzschia fukuyoi と同定し,ベトナム沿岸における本種の分布を初めて確認した。また,両株について LC/MS/MS 法で分析した結果,ドウモイ酸産生能(3.85-4.54 pg/cell)を本種で初めて示すことができた。
舩原大輔(三重大院生資),渡部終五(北里大海洋), 加納 哲(三重大院生資) |
ホタテガイのキャッチ筋および横紋筋からトゥイッチンを精製した。キャッチ筋と横紋筋トゥイッチンのアミノ酸組成は少し異なった。両トゥイッチンにはキナーゼドメインが存在した。トゥイッチンは A キナーゼによりリン酸化され,リン酸化部位はキャッチ筋トゥイッチンには 1 箇所,横紋筋トゥイッチンには 2 箇所と推定された。cDNA クローニングによりホタテガイ・トゥイッチンのC末端側部分領域の一次構造を決定した。
Xiao-Feng Chen, Jiang-Wei Lin(集美大,中国), Tzu-Ming Pan(国立台湾大,台湾), Min-Jie Cao, Chao-Lan Shi, Qiu-Feng Cai, Guang-Ming Liu(集美大) |
ザリガニ Procambarus clarkii 由来物質が,横紋筋融解症の発症原因と考えられている。調理されたザリガニの筋肉,鰓とせわた(GIG)をマウスに経口投与したところ,GIG 経口投与マウス 27 匹のうち 3 匹において,血清クレアチンキナーゼ量の増加や,肝臓,脾臓,腎臓,骨格筋の病理学的変化などの横紋筋融解症の症候がみられた。さらに,ザリガニ GIG のメタノール/水抽出物の細胞毒性と溶血作用はウワバインにより阻害されなかったことから,横紋筋融解症の原因物質はアレルゲンやパリトキシンではないことが示唆された。
(文責 柿沼 誠)
Jin-yuan Zheng, Ning-ping Tao, Jun Gong(上海海洋大), Sai-Qi Gu(浙江工業大),Chang-hua Xu(上海海洋大,中国) |
エツの産卵前後でのヌクレオチド,遊離アミノ酸,無機金属イオンを比較した。ヌクレオチド量,遊離アミノ酸量および無機金属イオンのそれぞれの総量のみならず,産卵前の加熱エツ肉中の呈味性ヌクレオチド量および旨みアミノ酸量は産卵後の加熱エツ肉中のそれらに比較して有意に高い値を示し,グルタミン酸,イノシン酸,カリウムおよびリン酸塩の含量で特徴的に違いが見られた。官能検査の結果においても,産卵前の加熱エツ肉の旨みは,産卵後のそれに比較して非常に強いことが示された。
(文責 大迫一史)
佐藤 琢(水研セ西海水研),大上真市(水研セ本部), 金庭正樹(水研セ中央水研) |
沖縄県鳩間島で採集したヤシガニについて,雌雄による身入りや遊離アミノ酸組成,核酸関連化合物組成,脂肪酸組成への影響を部位(筋肉と中腸腺)ごとに調べた。身入りや遊離アミノ酸組成,核酸関連化合物組成,脂肪酸組成において雌雄間で大きな差は見られなかった。また,本種の遊離アミノ酸や核酸関連化合物,脂肪酸の組成は他の水棲カニ類と異なることが示された。n-3/n-6 比や動脈硬化指数,血栓形成指数から,本種は雌雄や部位を問わず健康的な食品であることが示された。
Chan Zhong(海洋大),Masayo Nakanishi(宮崎水試), Jie-Ting Geng, Emiko Okazaki(海洋大), Min-Jie Cao, Wu-Yin Weng(集美大,中国), Kazufumi Osako(海洋大) |
ワニエソ内臓の有効利用法の 1 つとして,これを異なる条件下で発酵させた魚醤油の比較を行った。内臓中の内在性酵素の至適条件である,pH 7.0, 60℃,および pH 11.0, 40℃ で発酵させたものと pH 無調整,室温で発酵させたものの 3 者を比較したところ,pH 11.0, 40℃ で発酵させたものの旨みアミノ酸および甘味アミノ酸含量が最も高く,官能試験の結果もこれが呈味的に最も好ましいことを示した。以上の結果から,内在性酵素の至適条件で発酵させる方法は有用であることが示唆された。