Fisheries Science 掲載報文要旨

東北~北海道太平洋海域におけるマイワシ 1975~2002 年級群の成長と肥満度

川端 淳(水研セ中央水研),山口閎常(JAFIC),
久保田清吾(元東北水研八戸),
中神正康(水研セ東北水研八戸)

 資源量の増大~低迷期にわたる本邦太平洋側のマイワシ 1975~2002 年級群について索餌場である三陸漁場などの漁獲物標本の生物測定データをもとに成長,肥満度の変化を資源量との関係から検討した。その結果,1980 年代半ばにおいて各年級群の加入量の高さではなく,各年級群が直近までに経験した資源量全体の高さが索餌場での密度効果で個体あたりの摂取エネルギーの減少をもたらし,個体成長にエネルギーを振り向ける小型個体では成長速度の低下として,再生産のために脂肪蓄積に振り向ける大型成魚では肥満度の低下としてそれぞれ表れたと考えられた。

77(3), 291-299 (2011)
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ゴマアイゴ肝臓における Type II および Type III 甲状腺ホルモン脱ヨード酵素の発現パターン

Nina Wambiji(琉球大理),
朴 龍柱,朴 智権,金 宰世(済州大,韓国),
許 成杓,竹内悠記,竹村明洋(琉球大理)

 ゴマアイゴの Type II(D2)および Type III(D3)甲状腺ホルモン脱ヨード酵素をクローニングし,遺伝子発現パターンを調べた。ゴマアイゴの D2 と D3 はそれぞれ 270 と 269 アミノ酸残基をコードし,魚類間で高い相同性を示した。両遺伝子の肝臓での発現には昼夜変動が見られ,また温度や給餌制限で変動した。遺伝子発現量が外部因子によって影響を受けることが示唆された。

77(3), 301-311 (2011)
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耳石 Sr:Ca 比を用いた北日本オホーツク海で捕獲されたイトウ Hucho perryi の回遊履歴

鈴木享子(東大大気海洋研),吉冨友恭(東京学芸大),
河口洋一(徳島大),市村政樹(標津サーモン科学館),
江戸謙顕(文化庁),大竹二雄(東大大気海洋研)

 イトウは絶滅危惧種に指定されており,その回遊生態に基づいた効果的な保全策が求められている。本研究では,耳石の Sr:Ca 比を用いて北海道北部猿払沿岸で捕獲された降海型イトウの回遊履歴を調べた。その結果,(1)猿払沿岸イトウには生活史の大部分を汽水域や海水域で過ごしている個体,(2)淡水・汽水・海水の間を行き来している個体などが存在することが明らかとなった。また,降海時期は個体間で異なり多様な回遊パターンがみられることが明らかになった。以上より,本種の保護には河川-海洋間の連続性の確保が重要である。

77(3), 313-320 (2011)
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シラウオ科の一種 Neosalanx taihuensis における耳石微細構造を用いた生活史解析―個体レベルでの産卵期の違いの識別

Lang Wu, Jia Shou Liu, Xing Lu Wang, Guo Zhang (Chinese Acad. Sci., China),
Zheng You Zhang (Fish. Bureau in Danjiangkou City, China),
Brian R. Murphy (Virginia Polytechnic Institute and State University, USA),
Song Guang Xie (Chinese Acad. Sci., China)

 丹江口貯水池地区における Neosalanx taihuensis の春生まれ群稚魚と秋生まれ群稚魚とは,初期生活期の耳石輪紋幅(最初の 5 本)の度数分布を用いることで明確に区別できた。春期産卵群に加わる成体の耳石の初期成長様式は春生まれ群稚魚と同様のパターンを示したのに対し,秋季産卵群に加わる成体では春生まれ群型のものと秋生まれ群型のものの両方が認められた。これらのことから本種の産卵生態は,1)春生まれ群の一部はその年の秋に産卵する,2)春生まれ群の大部分は翌年の春に産卵する,3)秋生まれ群は翌年の秋に産卵する,ものと考えられた。
(文責 都木靖彰)

77(3), 321-327 (2011)
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クルマエビの造雄腺ホルモン様分子をコードする cDNA のクローニング

坂西綱太(神奈川大理),
石坂紀子,朝比奈潔(日大生物資源),
水藤勝喜(愛知水産基金),
泉  進,大平 剛(神奈川大理)

 クルマエビの造雄腺ホルモン様分子(Insulin-like androgenic gland factor, IAG)をコードする cDNA を単離した。クルマエビの IAG はザリガニの一種 Cherax quadricarinatus の IAG と 31%,オニテナガエビの IAG と 28% の相同性しか示さなかったが,ウシエビの IAG とは 68% の高い相同性を示した。クルマエビ IAG は既知の IAG で保存された 6 個のシステイン残基を含んでいた。クルマエビ IAG の遺伝子発現は輸精管末端部の広範囲で観察された。

77(3), 329-335 (2011)
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オーストラリア南西沿岸海域における夏季のミナミマグロ Thunnus maccoyii 若齢魚の食性

伊藤智幸(遠水研),Hans Kemps,
John Totterdell (MIRGE, Australia)

 豪州南西沿岸のミナミマグロ 1 歳魚(N=720)の胃内容物は魚類がほとんど(97.4% 容積)を占めた。マイワシ,ゴマサバ,マアジが主要な餌であり,マイワシは沿岸での,マアジは陸棚斜面付近での魚から多く出現した。エサの体長は 5~240 mm で 67% の個体は 30~50 mm の範囲であった。マイワシは大型餌の多く(130~190 mm の 84%)を占めたが,餌としての重要性は過去の報告より低かった。環境変動とミナミマグロ分布を関連付けるには,これら主要エサ種の若齢期の分布を調査すべきである。

77(3), 337-344 (2011)
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放流後の移動パターンと推定された被食率から見たシロクラベラ人工種苗への基質馴致効果:超音波テレメトリーを用いた野外実験

河端雄毅(京大院情報),
浅見公雄,小林真人,佐藤 琢,奥澤公一,
山田秀秋,與世田兼三(水研セ西海水研),
荒井修亮(京大院情報)

 超音波テレメトリーを用いてシロクラベラ人工種苗の放流後の移動および被食を推定することで,基質(シェルター)馴致効果を調べた。種苗を,カゴ網を用いて基質に 5 日間馴致し,対照区と併せて放流した。馴致区が対照区より受信が途絶える確率が低かった。また,受信パターンから,馴致区の半数は放流直後から夜間に基質に隠れていたこと,対照区の多くが捕食者に捕食された可能性が高いことが推察された。以上より,基質馴致が本種人工種苗の放流後の基質利用を促進させ,被食による減耗を軽減させる効果が期待できることが示唆された。

77(3), 345-355 (2011)
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異なる大豆タンパク質がブリの成長と脂質の消化吸収に及ぼす影響

Phuc Hung Nguyen, Peerapon Khaoian,
深田陽久(高知大農),中森俊宏,古田 均(不二製油),
益本俊郎(高知大農)

 4 種類の大豆タンパク源を使って大豆油粕を摂取したブリの成長が低下する理由を調べた。分離大豆タンパク質を消化し,小分子タンパク画分のみに調製した DPSPI を魚に与えると,成長が対照の魚粉給与区と同等となり他の大豆タンパク質給与区より優れた。また腸管内容物に残存する脂質含量が DPSPI 給与区で他の大豆タンパク給与区より低く,逆に血清や体脂質含量は高くなった。以上より,大豆に含まれる高分子画分タンパク質がブリの脂質消化吸収を抑制するため成長が低下するのだと考えられた。

77(3), 357-365 (2011)
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日本の魚類由来 Lactococcus garvieae の調査

西木一生(宮崎大農),古川三記子(宮崎県水試),
松井 翔,伊丹利明(宮崎大農),
中井敏博(広島大生物圏科学),吉田照豊(宮崎大農)

 日本の水産養殖において Lactococcus garvieae を原因細菌とする疾病が問題であった。本研究では,1980 年から 2007 年にかけて日本の養殖魚から分離した L. garvieae 427 株を用い,バイアス正弦ゲル電場電気泳動による遺伝子型別,ファージ型別,薬剤感受性試験による疫学解析を行った。その結果,2005 年以降に分離された菌株の一部が,新規の遺伝子型,ファージ型を示すことが明らかとなった。また,それらの株はリンコマイシン感受性であった。

77(3), 367-373 (2011)
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ルバーブから抽出されたアントラキノン類の Aeromona hydrophila に対する抗菌性

Chunxia Lu, Hongxin Wang, Wenping Lv(江南大,中国),
Pao Xu, Jian Zhu, Jun Xie, Bo Liu(水産科学研究院,中国),
Zaixiang Lou(江南大,中国)

 ルバーブ抽出物の Aeromonas hydrophila に対する抗菌活性とその活性成分について検討した。生産地の異なるルバーブからの抽出物の抗菌活性は,含まれるアントラキノン誘導体量と高い相関性を示した(r=0.9306,P<0.01)。5 種類の誘導体の A. hydrophila に対する最小濃度の抗菌活性は 50~200 μg/ml であった。アントラキノンは菌体細胞膜を通り抜け DNA と結合することで細胞死を誘導することが示された。以上より,ルバーブから抽出されたアントラキノンが A. hydrophila に対する抗菌成分であることが明らかになった。
(文責 宮下和夫)

77(3), 375-384 (2011)
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低塩分および飼料中の脂肪酸組成がマダイ稚魚の脂肪酸組成,脂肪酸鎖延長酵素および脂肪酸不飽和化酵素の発現に及ぼす影響

Md. Al-Amin Sarker(海洋大),
山本洋嗣(ワシントン大,USA),
芳賀 穣,Md. Shah Alam Sarker,三輪美佐子,
吉崎悟朗,佐藤秀一(海洋大)

 魚油 100% を含む飼料(FO)および魚油の 67% をナタネ油で代替した飼料(VO)を作製して,マダイ(平均体重 51.1 g)を 15~33 ppt の異なる塩分中で 12 週間飼育した。全魚体中の DHA および EPA 含量に塩分の影響は見られなかったが,飼料中の脂肪酸組成により影響を受けることがわかった。しかし,肝臓中の DHA および EPA 含量は 15~20 ppt 区で有意に高かった。肝臓中の脂肪酸不飽和化酵素は,15 ppt で VO を給餌した魚で発現が見られたが,20 および 33 ppt では見られなかった。

77(3), 385-396 (2011)
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海洋細菌 Pseudomonas C55a-2 株が産生する殺藻物質の活性と同定

坂田泰造,吉川 毅,西垂水聡美(鹿大水)

 海洋細菌 Pseudomonas C55a-2 株が菌体外に産生する珪藻殺藻物質を培養上清液中から酢酸エチルで抽出し,Sep-Pak 処理,Sephadex LH-20,逆相 HPLC(Mightysil RP-18 GP)によって精製した。精製物質について主として UV スペクトル,1H-NMR, GC-MS(EI-MS 法と CI-MS 法)分析を行った。特に 1H-NMR と EI-MS 法によるスペクトル分析の結果から,本菌の殺藻物質を 2,3-indolinedione(isatin)と同定した。珪藻二重寒天平板法で試験した合成化合物のうち,2,3-indolinedione および indoline に殺藻活性が認められた。

77(3), 397-402 (2011)
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カロリー制限が酸化ストレス条件下のシオミズツボワムシ・マンガン型スーパーオキシドジスムターゼおよびカタラーゼの mRNA 蓄積量に及ぼす影響

Muniyandi Kailasam(汽水養殖中央研究所,インド),
金子 元,Aung Kyaw Swar Oo,尾崎 依(東大院農),
Arunachalam Rengasamy Thirunavukkarasu(汽水養殖中央研究所,インド),
渡部終五(東大院農)

 シオミズツボワムシ Brachionus plicatilis を一日おきに給餌するカロリー制限(CR)区と常に給餌する ad libitum(AL)区に分け 4 日間飼育した。酸化ストレス誘導剤ユグロン投与後の生存率,抗酸化酵素マンガン型スーパーオキシドジスムターゼ(Mn SOD)およびカタラーゼの mRNA 蓄積量はいずれも CR 区で有意に高かった。CR およびユグロン投与により Mn SOD およびカタラーゼのタンパク質量が増大し,ユグロン投与後のカタラーゼ量は AL 区よりも CR 区で高かった。

77(3), 403-409 (2011)
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粒状水酸化鉄及び有機錯体鉄 EDTA-Fe(III) 存在下での沿岸性珪藻 Talassiosira weissflogii 生長における Mn 及び Fe の効果

牛坂理美(北大院環境),
久万健志(北大院水産/北大院環境),
鈴木光次(北大院地球環境/北大院環境)

 沿岸性珪藻 Talassiosira weissflogii 生長における Mn 及び Fe の重要性について,Mn 添加または無添加の粒状水酸化鉄(熟成なし,3 日間熟成,7 日間熟成)及び EDTA-Fe(III) 錯体(EDTA:Fe(III)=2:1,100:1)培地での培養実験により調べた。十分な Mn 添加(25 nM)では,どの培地でも十分な生長がみられた。しかし不十分な Mn 添加(5 nM)において,Fe 供給速度の低い Fe 制限培地(7 日間熟成した粒状水酸化鉄及び EDTA:Fe(III)(100:1))では十分な生長がみられない。これは Fe 制限下培養では,Mn 欠乏による活性酸素生成が増すためと考えられる。

77(3), 411-424 (2011)
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加熱条件により影響を受けるスルメイカミオシンおよび筋原繊維に対する Ca2+ の安定化作用

大野隆明(北大院水),木下康宣(北海道工技セ),
今野久仁彦(北大院水)

 スルメイカミオシンおよび筋原繊維には Ca2+ の安定化作用に違いが認められ,ミオシンに対する安定化の程度が小さかった。加熱温度を下げて変性速度を小さくさせたり,ソルビトールを加えて変性速度を小さくさせると,ミオシンに対する Ca2+ による安定化作用は消失した。しかし,筋原繊維では加熱温度,安定化剤の添加によらず Ca2+ による安定化作用は同様に認められた。以上のことより,本来イカミオシンが有している Ca2+ による安定化作用は F-アクチン結合により,強められるように発現することが結論された。

77(3), 425-430 (2011)
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養殖魚における・オリザノールの蓄積について

長阪玲子(海洋大,群馬高専),
風間貴充,潮 秀樹(海洋大),
坂本浩志,坂本憲一(坂本飼料(株)),
佐藤秀一(海洋大)

 これまでの検討によって,穀類糠に含まれるガンマオリザノール(ORZ)には抗糖尿病効果や抗炎症効果などの健康機能性があること,哺乳類では ORZ が筋肉に蓄積されないことを明らかにした。マウスの肝臓および筋肉ならびに ORZ を経口投与したニジマス,ブリ,マダイの筋肉を採取し,ORZ の魚類筋肉への蓄積について検討を加えた。その結果,ORZ の経口投与によってニジマス,ブリおよびマダイ筋肉中に ORZ の蓄積が確認された。

77(3), 431-437 (2011)
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スルメイカ外套膜筋から調製した酢じめかまぼこのゲル形成に及ぼす坐り条件の影響

Bodin Techaratanakrai,西田萌美,五十嵐佑樹,
渡邊 学,岡崎恵美子,大迫一史(海洋大)

 スルメイカ外套膜筋から調製した酢じめかまぼこのゲル形成に及ぼす坐り条件の影響について検討した。坐り過程を経ない肉糊は,その後の 5 % 酢酸溶液中に浸漬する過程においてゲルを形成しなかった。また,坐りゲルおよびそれを酢酸溶液に浸漬させた酢じめゲルの破断強度は坐り温度および坐り時間の増大に伴い上昇した。以上の結果より,酢酸浸漬前の肉糊の坐り条件が,最終的に得られる酢じめかまぼこのゲル形成に及ぼす影響が大きいことが明らかになった。

77(3), 439-446 (2011)
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