Fisheries Science 掲載報文要旨

タイ国ラヨンに技術移転された日本式定置網の収支解析

N. Manajit,有元貴文,馬場 治,武田誠一(海洋大),
A. Munprasit, K. Phuttharaksa (EMDEC,タイ)

 日本の村張り定置網について,2003 年にタイ国ラヨンに技術移転を行い,その後の 7 年間の漁獲物販売と操業経費の記録をもとに収支の検討を行った。技術移転初年度に漁獲量が十分に得られなかったことから,2 年目には漁具の設計改良を行うとともに,操業技術と販売方式の向上を進め,4 年目には収益分から近傍漁場にもう一ヶ統の追加を行ってきた。この結果をもとに,販売平均単価に対して,1 日当たり平均漁獲量と操業日数,そして漁業者の人数・日当を変数として採算分岐点を求め,販売収益の配分方法について考察した。

77(4), 447-454 (2011)
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シミュレーションモデルから予測したカイアシ類量とカタクチイワシ再生産成功率の関係

銭谷 弘(富山水研),河野悌昌(水研セ瀬戸内水研),
塚本洋一(水研セ西海区水研)

 瀬戸内海中央部,燧灘における栄養塩―植物プランクトン―カイアシ類の食う-食われるモデルを作成し,2001~2005 年の春夏期における観測データと統計解析からこのモデルのパラメータを推定した。作成したモデルをもとに,燧灘のカイアシ類量の変動を再現し,カタクチイワシの再生産成功率がシラス漁業資源に加入する直前期のカイアシ類量に依存することを示した。カイアシ類の分布密度から推定される再生産成功率とカタクチイワシ仔魚の分布密度のモニタリングをもとにしたカタクチイワシ加入量予測の可能性が示唆された。

77(4), 455-466 (2011)
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調査船調査のための最適化抽出計画にもとづく適応標本抽出法と従来法との比較

劉 勇(華東師範大/中国水産科学研究院東シナ海水研,中国),
陳  勇(メイン大海洋科学,米国),
程 家驊(中国水産科学研究院東シナ海水研,中国),
陸 健健(華東師範大,中国)

 適応標本抽出法は陸上動物に広く用いられているが,調査船調査では,調査費用が予期せずに増大するため用いにくい。本研究では,第 1 段階において平均最短距離の最小化(MMSD)にもとづいて最適化された抽出計画にもとづく適応化標本抽出法を開発し,以下の 5 つの従来法と比較した:単純無作為抽出,層別無作為抽出,層別抽出にもとづく適応抽出,系統抽出,MMSD にもとづく最適計画。提案された方法は努力量が制限されている場合には最も優れていた。今後の調査船調査計画の候補として検討されたい。

77(4), 467-478 (2011)
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浮延縄漁業における海鳥混獲のさらなる削減に向けたトリラインの混獲回避効果に影響を与える要因の検討

横田耕介(水研セ開発セ),
南 浩史,清田雅史(水研セ遠洋水研)

 浮延縄におけるトリラインの海鳥混獲回避効果に影響を与える要因(主ライン長,おどしの種類など)を検討するために,ミナミマグロ漁業でオブザーバーが収集したデータを用いて,モデル解析を行った。主に 2 タイプのおどしが確認された(A:数本の長いナイロンコードを撚り戻しで主ラインに付けたもの,B:多数の短いポリプロピレンバンドを編み込んで主ラインに付けたもの)。主ラインの長さは回避効果に影響を与えること,2 種類のおどしは同等の効果を持つことが示唆された。B タイプは,軽量で取り扱いにも優れており,有用である。

77(4), 479-485 (2011)
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深海域における底棲魚介類の資源量推定のための試験底曳網の有効曳網時間の計測

バーナード・フランダ(鹿大院連農),
大富 潤(鹿大水)

 簡易型トロールネットによる試験底曳網調査を行い,深海域における底棲魚介類の資源量推定のための有効曳網時間の計測を行った。曳網時間を 10 分と 20 分に設定し,鹿児島湾の 8 定点(水深 79~229 m)で計 304 回曳網した。ネットに装着した小型メモリー深度計の計測値とソナーの水深計測値から網の着底状況を確認した。設定 10 分の時の有効曳網時間は 9~23 分,設定 20 分では 19~37 分であった。設定曳網時間と有効曳網時間との間には有意差がみられ,設定時間が短いほうが資源量の推定誤差が大きくなることがわかった。

77(4), 487-495 (2011)
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東北地方太平洋岸沖のキチジの VPR 解析

パヴァロット・ノラナットラグーン(AIT,タイ),
上田祐司(日水研),服部 努(東北水研八戸),
松石 隆(北大院水)

 成長乱獲診断に広く用いられている YPR 解析を拡張し,単価のサイズ依存を考慮した VPR 解析を,東北海域で漁獲されたキチジのデータに対して行った。その結果,現状の漁獲開始年齢(tc=3 歳)では,現状の漁獲係数(F=0.12)は,最適な YPR や VPR を概ね達成しているが,現状の F を維持した場合,最適な tc は VPR 解析と YPR 解析で,それぞれ 8 歳と 6 歳,またその時の収入の増加はそれぞれ 47% と 20% となり,結果の差異が明らかになった。VPR 解析が資源管理における合意形成に寄与することが期待される。

77(4), 497-502 (2011)
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大目網を配したマグロまき網漁具の数値計算による沈降性能

S. A. Hosseini, C. W. Lee, H. S. Kim,
J. Lee, G. H. Lee(釜慶大,韓国)

 まき網投網時の抗力係数を迎え角とレイノルズ数の関数として考慮しながら,まき網漁具の運動シミュレーションを行った。大目網ならびに異なる資材を用いた実際の漁具の沈降水深と計算結果を比較することで,このモデルの妥当性が検証された。大目網を漁具の一部に配した場合,重い資材を用いた漁具よりも同じ時間でより深くまで沈降した。さらに大目網を配した漁具は環締めの際のパースワイヤーの張力を小さくできることも確認された。この漁具構造は,マグロまき網漁業における投網の失敗を減少できる可能性がある。
(文責:松下吉樹)

77(4), 503-520 (2011)
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琵琶湖のニゴロブナ Carassius auratus grandoculis,ゲンゴロウブナ Carassius cuvieri 成魚の季節分布

國宗義雄,光永 靖(近大農),
米山和良(鹿大水海洋研セ),
松田征也(滋賀県琵琶湖博物館),
小林 徹,高木 力,山根 猛(近大農)

 音響テレメトリーを用いて琵琶湖の固有種ニゴロブナ,ゲンゴロウブナの季節分布を調査した。南湖で採捕したニゴロブナ 23 尾,ゲンゴロウブナ 11 尾に超音波発信機を装着して放流し,信号を設置型受信機で受信した。季節ごとの Habitat 選好を Distance-based Analysis を用いて解析した結果,ニゴロブナは周年産卵場所周辺に滞在する傾向を示したが,ゲンゴロウブナは季節ごとに南湖と北湖を移動する傾向を示した。これは琵琶湖におけるニゴロブナ,ゲンゴロウブナの季節移動に関する初めての報告である。

77(4), 521-532 (2011)
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イタリア北部 Varese 湖におけるパーチ Perca fluviatilis の成長,食性および再生産

Pietro Ceccuzzi, Genciana Terova, Fabio Brambilla,
Micaela Antonini, Marco Saroglia(Univ. Insubria, Italy)

 これまで Varese 湖におけるパーチ Perca fluviatilis の生態に関する報告はなかった。本研究では,パーチ個体群の効果的な資源管理の基礎情報を提供するために,成長,食性および再生産特性を調査した。2006 年 11 月から 2008 年 10 月にかけて,毎月のサンプリングを行い 240 個体を得た。体長体重関係は,Wt=8.4×10-3×Lt3.10(雄),Wt=4.1×10-3×Lt3.36(雌)であった。雌雄込みのバータランフィー成長式の各係数は,L=33.17 cm, k=0.20 yr-1, t0=-1.34 yr であった。産卵期は 4~5 月であり,成熟年齢は雄が 2 歳,雌が 3 歳であった。体重に対する孕卵数(平均±標準偏差)は 2+歳で 102457±12275,3+歳で 131767±5891,4+歳で 131252±15555 と推定され,他の生息地とほぼ同様であった。食物生物は多様であり,季節的に変化したが,主にユスリカ,フサカ,動物プランクトンおよびラッド Scardinius erythrophthalmus 稚幼魚を捕食していた。
(文責:片山知史)

77(4), 533-545 (2011)
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スッポンの L-グロノラクトンオキシダーゼ遺伝子の cDNA クローニングと組織特異的発現

Xun Gong, Cuijuan Niu, Zuobing Zhang(Beijing Nat. Univ., China)

 L-グロノラクトンオキシダーゼ(GLO)はビタミン C 合成に必須な酵素である。スッポン(Pelodiscus sinensis)における発現について検討するために GLO 遺伝子から cDNA をクローニングした。本種 GLO cDNA (1,639 bp) の 5′末端と 3′末端にはそれぞれ 29 bp と 287 bp の非転写領域が見られ,翻訳領域は 1,323 bp で 440 アミノ酸をコードしていた。本種のアミノ酸配列はセキショクヤケイ(Galluc gallus)と高い相同性を示した。スッポンの GLO は腎臓でのみ発現が見られた。
(文責:張 成年)

77(4), 547-555 (2011)
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マゴイのストレス防御における亜鉛の役割

T.-Y. Lin, Y.-H. Chen, C.-L. Liu, S.-S. Jeng(台湾海洋大,台湾)

 マゴイは他のコイ科魚類に比べて,ストレス時に血中 Zn 含量が有意に上昇し,血中コルチゾール値と強い正の相関を示した。酸素欠乏状態では,消化管の Zn 含量が低下し,頭腎のそれが上昇するという体内での再分布が起こったが,再通気により回復した。Zn の体内動態から,Zn は酸欠時の造血反応と関係していた。マゴイにおいては,Zn が糖質コルチコイド受容体を介してストレス防御に重要な役割を果たしていると考えられた。
(文責:舞田正志)

77(4), 557-574 (2011)
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水温低下がニホンウナギの卵発達・性ステロイドおよび生殖腺刺激ホルモン mRNA の発現動態に及ぼす影響

須藤竜介(東大大気海洋研),登坂亮太(養殖研),
井尻成保,足立伸次(北大水産),
末武弘章(福井県大),鈴木 譲(東大水実),
堀江則行,田中 悟(いらご研),
青山 潤,塚本勝巳(東大大気海洋研)

 水温とニホンウナギの初期の卵発達メカニズムの関係を調べるため,25℃ から 15℃ への水温低下処理を行い,卵発達と生殖関連ホルモンの動態を調べた。水温低下により油球蓄積の進行と 11-ケトテストステロンの上昇が起きたことから,水温低下は 11-KT を介して初期の卵発達を促していることが示唆された。一方,生殖腺刺激ホルモン(濾方刺激ホルモン・黄体刺激ホルモン)mRNA の発現量の減少が起きたことから,さらなる卵発達の進行には,生殖腺刺激ホルモンを増加させるようなその他の環境因子が必要であると考えられた。

77(4), 575-582 (2011)
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海産魚の腸管における病原性 Vibrio 属細菌のスフィンゴ糖脂質受容体

松永尚之,苣田慎一,藤岡秀幸,
高島加菜(九大院生資環),
沖野 望,伊東 信(九大院農)

 ビブリオ属細菌が海産魚の腸管に定着するためには,先ず腸管上皮細胞に接着する必要がある。この過程はビブリオ病の初期感染の成立にも欠かすことができないが,魚類腸管内における接着の分子機構に関する知見は極めて乏しい。35S 標識したビブリオ属細菌と国内の主要海産養殖魚の腸管から単離したスフィンゴ糖脂質を用いた接着実験を行った。その結果,ビブリオ属細菌は魚類の腸管内に発現している主要な酸性糖脂質である GM3 と GM4 の非還元末端の ‘NeuAcα2-3Galβ1-’構造を認識し,接着することが明らかになった。

77(4), 583-590 (2011)
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Oujiang 川の錦鯉野生集団とふ化場集団間の遺伝的分化及び逃避個体判別への応用

Yuqing Ma, Chenghui Wang, Jun Wang, Xinxin Yang,
Xiang Bi, Lihua Xu(上海海洋大学,中国)

 養殖魚の放流及び逃避は自然集団の遺伝的攪乱をもたらす可能性がある。本研究では Oujiang 川の錦鯉野生集団とふ化場集団の遺伝的分化について 17 種のマイクロサテライト遺伝子座を用いて検討するとともに,ふ化場からの逃避個体の判別を試みた。対立遺伝子数,ヘテロ接合体率,近交係数において,標本間に差異は見られなかったが,AMOVA ではふ化場標本間及びふ化場標本と野生標本間で有意な遺伝的分化が観察された。帰属性解析の結果,比較的高い精度(86~96%)でふ化場からの逃避個体を判別できることが示された。
(文責:張 成年)

77(4), 591-597 (2011)
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低温保存したシオミズツボワムシの生残に対する γ アミノ酪酸とブタ成長ホルモンの添加効果

マビット・アッサワアリ(タイ国 NICA,タイ),
萩原篤志(長大院水環)

 シオミズツボワムシ(以下ワムシ)の個体群増殖を促進する γ アミノ酪酸(GABA)とブタ成長ホルモン(GH)をワムシ飼育水に添加し,低温保存時のワムシ活力維持への効果を求めた。25℃ 下の培養を低温(4~12℃)に移行する 6 時間前に γ アミノ酪酸を添加すると,無添加に比べて S 型ワムシの生残が 1.2 倍高くなった。GH 添加は L 型ワムシの低温保存時の生残を上昇させた。GABA と GH 添加は低温保存終了後のワムシ増殖に対しても有効で,25℃ 移行後,GABA 添加は S 型ワムシの増殖を,GH 添加は SS 型ワムシの増殖を促進した。

77(4), 599-605 (2011)
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海産白点虫 Cryptocaryon irritans の定量的検出系の確立

谷口亮人,大西宏幸,江口 充(近大院農)

 海産白点虫 Cryptocaryon irritans を天然環境から定量的に検出する定量 PCR 法を確立することを目的とした。C. irritans の rRNA 遺伝子に特異的なプライマーセットを設計し,そのコピー数を見積もったところ,1 細胞当たり 3415.9 コピーであった。内部標準として添加した C. irritans 細胞数と,定量 PCR で算出した細胞数の間に,有意な正の相関を確認した(p<0.001)。本定量 PCR 法は,天然環境から,C. irritans を迅速にかつ定量的に検出できる優れたツールになる。

77(4), 607-613 (2011)
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クロマグロ稚魚配合飼料における酵素処理魚粉の大豆粕への代替

Amal Biswas, Biswajit K. Biswas,伊藤純一,
高岡 治(近大水研),
八木典重,井藤俊輔(中部飼料),滝井健二(近大水研)

 酵素処理魚粉(EFM)の 10 および 20% を大豆粕(SM)および酵素処理大豆粕(ESM)に代替し,平均体重 0.38 g のクロマグロ稚魚に飽食給与して 12 日間飼育した。成長は対照区の EFM 区と 10 および 20%SM 区が 20%ESM 区より速く,期間摂餌量は各代替区より EFM 区が少なかったので,EFM 区の飼料効率が高かった。また,みかけのタンパク質とリン蓄積率はそれぞれ 20%ESM 区と 20%ESM 区および EFM 区で低く,リン排泄量は SM 区で少なかった。EFM の 10% 程度であれば SM に代替することが可能と推察された。

77(4), 615-621 (2011)
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中国の養殖テラピアから分離された Streptococcus agalactiae の同定と分子タイピング

Xing Ye, Jiong Li, Maixin Lu, Guocheng Deng,
Xiaoyan Jiang, Yuanyuan Tian, Yingchun Quan,
Qing Jian(Pearl River Fish. Res. Inst., China)

 中国各地の養殖テラピアから分離された強い毒性を持つ菌株は,生化学分析および 16S rRNA と group B Streptococcus (GBS) 特異遺伝子の配列解析により S. agalactiae と同定された。これらの菌株は alpha C タンパクと莢膜多糖抗原遺伝子の PCR 分析により molecular serotype Ia に属することが示唆された。また,multi-locus sequence typing により,これらの菌株は遺伝子型 ST-7 に分類された。本研究結果はテラピア GBS の疫学と病因の理解および感染症防除法の開発に資するものと考えられる。
(文責:張 成年,近藤秀裕)

77(4), 623-632 (2011)
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ティラピアにおける密集ストレス反応に対するプロバイオティック乳酸菌の効果

Ana Teresa Goncalves,舞田正志,二見邦彦,
遠藤雅人,片桐孝之(海洋大)

 ティラピアでプロバイオティクス乳酸菌 Lactobacillus rhamnosus の密集ストレス軽減効果を調べた。7 日間のストレス負荷では,血漿電解質の低下が,14 日間のストレス負荷では,血漿電解質に加え,浸透圧,血糖値,RNA:DNA 比の低下が認められたが,プロバイオティクスの投与により,これらの変動は防止された。プロバイオティクスの投与は,ストレス負荷魚のエネルギー代謝を改善することにより,密集ストレス軽減効果を示すものと考えられた。

77(4), 633-642 (2011)
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マガキ Crassostrea gigas 3 系統の成長における選抜反応および実現遺伝率

Qi Li, Qingzhi Wang, Shikai Liu, Lingfeng Kong(Ocean Univ., China)

 中国(C),日本(J)および韓国(K)の 3 系統のマガキ Crassostrea gigas における殻高の選抜反応および実現遺伝率を調べた。ほぼ同様の選抜強度で高成長群を選抜し,選抜群および対照群をそれぞれ設定して同様の条件で次世代を飼育した。受精後 360 日目における選抜群の殻高は対照区よりも C,J および K でそれぞれ 12.2,12.2 および 7.9% 高く,実現遺伝率はそれぞれ 0.334±0.028,0.402±0.024 および 0.149±0.027 であった。C および J において比較的高い実現遺伝率がみられたことは,これらの系統における遺伝分散の存在を示唆し,選抜育種の効果が期待される。
(文責:家戸敬太郎)

77(4), 643-648 (2011)
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水性無脊椎動物におけるセルラーゼ及びヘミセルラーゼ活性の分布

新山貴俊,豊原治彦(京大院農)

 湿地帯に生息するマクロベントスの植物起源難分解性多糖類の分解能を検証する目的で,節足動物門,軟体動物門,環形動物門に属する 18 種の生物について,セルラーゼとヘミセルラーゼ(マンナナーゼ,キシラナーゼ,キシログルカナーゼ,リケニナーゼ)活性を測定した。その結果,ほとんどの種でこれらの酵素活性が検出され,特に甲殻類に強いセルラーゼ活性が認められた。以上の結果から,水域に生息する多くの無脊椎動物が,陸上植物に含まれるセルロース及びヘミセルロースの分解に関わっていることが示唆された。

77(4), 649-655 (2011)
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タイのエビ養殖池からの Noctiluca 殺滅細菌の分離とその性状

Teeyaporn Keawtawee,深見公雄(高知大院黒潮),
Putth Songsangjinda(トラン沿岸水産養殖研,タイ),
Pensri Muangyao(沿岸水産養殖研,タイ)

 養殖エビの生産に悪影響を与える Noctiluca scintillans を殺滅する細菌をタイのエビ養殖池から分離し,その性状を調べた。260 株の分離菌のうち 10 株が殺滅活性を保有していた。それらのうち,16S rRNA の解析により Marinobacter 属に分類された BS2 株は,24 時間以内に同藻を完全に殺滅し,最も強い活性を示したが,H. akashiwo・C. antiqua・C. ceratosporum・P. lima・Dunaliella sp. など他の植物プランクトンには殺滅活性を示さなかった。これらの結果から,殺滅活性の限定された BS2 株のような N. scintillans 殺滅細菌を用いることで,現場でのエビ養殖の安定化が期待された。

77(4), 657-664 (2011)
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シアノファージ Ma-LMM01 のコードするファミリー 19 キチナーゼの糖鎖結合残基 Gly209 と Ile213 の置換によるリゾチーム活性への影響

細田直彦(福井県大海洋生資),
黒川洋一(福井県大生物資源),左子芳彦(京大院農),
長崎慶三(水研セ瀬戸内水研),吉田天士(京大院農),
廣石伸互(福井県大海洋生資)

 Ma-LMM01 のコードする ORF69 はファミリー 19 キチナーゼに属する。大腸菌を用いた ORF69 の組換えタンパク質は,リゾチーム活性とキチナーゼ活性を示した。糖鎖結合残基を置換した変異型 ORF69 (G209Q, I213K)では,リゾチーム活性は野生型と比べいずれも低下した。一方,キチナーゼ活性は野生型と比べ,G209Q では低下したのに対し,I213K では野生型よりも増加した。ORF69 の G209 と I213 が基質の認識と糖鎖への結合能へそれぞれ関与すると考えられた。

77(4), 665-670 (2011)
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タラ類(スケトウダラ,マダラ属およびミナミダラ属)の魚卵加工品の PCR 法を用いた原料魚種判別法

浪越充司,高嶋康晴,井口 潤(消技セ),
柳本 卓(水研セ遠洋水研),
山下倫明(水研セ中央水研)

 辛子めんたいこは「辛子めんたいこ食品の表示に関する公正競争規約」によって,スケトウダラの卵巣を原材料とすることが定義されている。タラ類の魚卵加工品にはスケトウダラ以外にマダラ属等の多数のタラ類が使用されており,「辛子めんたいこ」や「辛子めんたいこ」に類似した名称の商品にもこれら一部のタラ類を混合している事例がある。我々はスケトウダラ,マダラ属およびミナミダラ属のミトコンドリア DNA を検知対象として各種を特異的に検知する PCR 法を開発し,輸入されるタラ類 9 種についてそれぞれ特異性を確認した。

77(4), 671-678 (2011)
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魚類筋肉中のセレノネイン,総セレンおよび総水銀含量

山下由美子(水研セ中央水研),
Heidi Amlund(NIFES, Norway),
鈴木珠水,原 竜朗,Md Anwar Hossain,
藪 健史,東畑 顕,山下倫明(水研セ中央水研)

 魚類筋肉中のセレノネイン(SeN)含量を LC-ICP-MS によって分析した。SeN 含量は分析した試料の中でメカジキが最も多く(2.8 nmol/g tissue),メバチ,クロマグロ,ビンナガ,キハダおよびキンメダイは 1.3~2.6 nmol/g であった。マイワシ,アオメエソ,カツオ,マサバ,マアジ,マダイ,ヤマトカマスの SeN 含量は 0.1~1.4 nmol/g だった。マアナゴ,カタクチイワシ,サケ,サンマ,イシモチ,マコガレイの SeN は検出下限未満だった(<0.05 nmol/g)。

77(4), 679-686 (2011)
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日本産マガキの生化学成分の月別変化

二川和之(海洋大),吉江由美子(東洋大),
小櫛満里子(相模女子大)

 11 月から 3 月にかけて収穫されたマガキにおいて,測量生物学的指標 CICG 値は宮崎産では 2~3 月に,宮城産は 12, 2 月に最大となり,この時期に可食部が多いことを示していた。両産地においてグリコーゲン量は 2 月に最も高く,最多遊離アミノ酸のタウリンは乾物 100 g 当り 2180~3230 mg,総アミノ酸中でグルタミン酸は 4530~6000 mg を占めていた。脂質中の EPA の割合に有意な変化は認められなかった。本研究から,マガキは宮崎では 3 月,宮城では 2 月に品質が最良となることがわかった。

77(4), 687-696 (2011)
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マダラロリカリア Pterygoplichthys disjunctivus の消化管から得たアルカリプロテアーゼの部分同定

A. G. Villalba-Villalba, R. Pacheco-Aguilar,
J.C. Ramirez-Suarez, E.M. Valenzuela-Soto (CIAD, Mexico),
F.J. Castillo-Yánez, E. Márquez-Ríos (Universidad de Sonora, Mexico)

 マダラロリカリア Pterygoplichthys disjunctivus の消化管に含まれるプロテアーゼの部分同定を行った。腸管抽出物に含まれるプロテアーゼの至適 pH は 9.0,至適温度は 50 度であった。主なプロテアーゼはトリプシンとキモトリプシンであり,メタロプロテアーゼも含まれていた。ザイモグラフィー分析により,抽出物中の酵素タンパク質の分子量は 21.5 kDa から 116 kDa であった。本抽出物中のトリプシンとキモトリプシンは各種のイオン存在下で反応が阻害され,その阻害程度はイオンの種類により異なることも明らかになった。
(文責:宮下和夫)

77(4), 697-705 (2011)
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