Fisheries Science 掲載報文要旨

バンドウイルカによる底刺網の損傷および漁獲への影響を軽減するピンガの効果

Buscaino Giuseppa (Consiglio Nazl. Richer., Italy),
Gaspare Buffa (Consigli Nazl. Richer, Univ. Cà Foscari),
Gianluca Sara (Univ. di Palermo), Antonio Bellante
(Consiglio. Nazl. Richer., Univ. Di Torino),
Antonio Josè Tonello Jr., Fernando Augusto Sliva Hardt
(Univ. Cà Foscari, Univ. da Regiao),
Marta Jussara Cremer (Univ. da Regi&atulde;o),
Angelo Bonanno, Salvatore Mazzola
(Consiglio Nazt. Richer)

 バンドウイルカによる漁業被害を軽減するためのピンガの効果を調べるために,イタリア南部海域において,長さ 900 m のモノフィラメント製底刺網にピンガを付けた場合と付けない場合の調査試験を行った。両方の網で計 58 回の操業について,網付近のイルカの目撃回数,イルカによる網の損傷,漁獲重量および魚種組成を調べた。漁業水域におけるイルカの出現数は 29 回の操業中 11 回(38%)でした。ピンガを取り付けた網は,取り付けていなかった網より漁獲量が 28% 多く,網の損傷も 31% 少なかった。
(文責 胡 夫祥)

75(3), 537-544 (2009)
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イカナゴ Ammodytes personatus の体密度と音速比,および理論散乱モデルによるターゲットストレングスの推定

安間洋樹(北大フィールド科セ),
中川 綾,山川 卓(東大院農),
宮下和士(北大フィールド科セ),
青木一郎(東大院農)

 理論散乱モデルを用いたイカナゴのターゲットストレングス(TS)推定に必要な,海水に対する体密度比 g と音速比 h の測定を行った。体密度比は成長段階により異なり,未成魚の平均値は 1.021,成魚では 1.032 であった。成魚の音速比(1.016-1.023)には水温による変化が見られた。これらの結果をもとに,既存の理論散乱モデルを用いて 38 kHz と 120 kHz における TS 推定を行った。その結果,それぞれの周波数において稚魚と成魚の資源量推定に適用できる体長-TS 関係式と TS の周波数差を得た。

75(3), 545-552 (2009)
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琉球列島海域における 2 地域群を含むフエフキダイ属魚類 8 種の年齢に関わる生活史

海老沢明彦(沖水海研セ),小澤貴和(鹿大水)

 沖縄海域に分布するフエフキダイ属 8 種の耳石輪紋数をブレイク・バーン法で計数した。濃茶色の輪紋は 10 月から 6 月にかけ年 1 本形成された。成長式の推定に加え,卵巣の成熟率,性比と年齢との関係を明らかにした。50% のメスが成熟する年齢は,マトフエフキ,ホオアカクチビおよび L. ravus が最も低く 1~2 歳,ハマフエフキが最も高く 4 歳であった。性転換でメスが 50% に減少する年齢はイソフエフキ沖縄地域群が最も低く 3~4 歳,アマミフエフキが最も高く 7~8 歳であった。標本中の最高齢はハマフエフキが最も高く 26 歳,ハナフエフキが最も低く 12 歳であった。

75(3), 553-566 (2009)
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成長に伴って変化するクロマグロの形態的特徴と機能

田村優美子,髙木 力(近大農)

 クロマグロの形態的特徴は高速で遊泳するための重要な機能を有している。本種の形態的特徴は成長に伴って変化するため,成長過程で形態機能の発達が予想される。本研究では,本種幼魚から若齢魚まで成長を追って形態的特徴を詳細に計測し,さらに CFD(計算流体力学)解析を用いた流体力学的特性の把握から,本種の遊泳に対する形態の機能性を調べた。成長するにつれて抵抗係数は徐々に減少し,胸鰭が発生する揚力は幼魚期に急激に増加した。これらの結果は,成長に伴って遊泳するための形態機能が発達していることを示唆している。

75(3), 567-575 (2009)
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東シナ海におけるマアジ仔魚の鉛直分布

広田祐一(水研セ中央水研),
本多 仁(水研セ遠洋水研),
阪地英男(水研セ中央水研),
上原伸二(水研セ東北水研)

 2003 年 2 月東シナ海において採集した方形枠ネット(口幅 2 m,高さ 1.5 m)試料により,マアジ仔魚の鉛直分布を検討した。昼間その分布層は成長とともに変化した。体長 3.0 mm から 4.5 mm の仔魚は 10~20 m 層に多く,その後分布層は深くなり,6.0 mm から 8.0 mm の仔魚では 30~40 m 層に多かった。9.0 mm 以上では分布層は浅くなり,0~10 m 層に多かった。また体長 5 mm 以上の仔魚で昼夜の鉛直移動が認められた。昼間 30~40 m に多かった体長 6~8 mm の仔魚は,夜間になると 30~50 m 層に留まる個体と 0~20 m 層に上昇する個体に分かれた。

75(3), 577-584 (2009)
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山口県西部吉見湾におけるマナマコ成体の季節分布パターン

山名裕介(北大院水),浜野龍夫(水大校),
五嶋聖治(北大水)

 マナマコ成体の分布パターンを明らかにするため,山口県西部吉見湾の潮下帯において,2 年間にわたってほぼ毎月の潜水調査を実施した。結果,本調査地におけるマナマコ成体の分布パターンには,明瞭な季節性が認められた。冬季から春季にかけて,海底や構造物の周りに多くの個体が分布する一方,夏季から秋季にかけては,全ての個体が構造物上にだけ分布した。このような季節性は,各付着位置における出現頻度と個体数の両方で認められたことから,マナマコ成体の季節移動の結果であると考えられた。

75(3), 585-591 (2009)
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東シナ海と黄海におけるサハラのミトコンドリア DNA の変異性

水 柏年(浙江海洋学院),韓 志強(浙江海洋学院),
高 天翔(中国海洋大),苗 振清(浙江海洋学院),
柳本 卓(水研セ遠洋水研)

 東シナ海と黄海における重要魚種であるサハラの集団構造解明のため,134 個体について mtDNA の調節領域前半域 505 bp の塩基配列を決定した。116 カ所に塩基置換があり,112 ハプロタイプが得られた。平均ハプロタイプ多様度と塩基多様度は,それぞれ 0.9963±0.0017 と 0.0236±0.0119 であった。AMOVA 分析などから海域間に遺伝的な差異は見られなかった。中立性テストやミスマッチテストの結果,サワラは後期更新世に一斉に分散したと考えられた。サワラの移動回遊や海流が遺伝的な交流を引き起こしていると推測された。

75(3), 593-600 (2009)
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マナマコにおけるアオ型とクロ型の色彩形質の空間変異

山田勝雅,堀 正和(水研セ瀬水研),
松野 進(山口水研セ),濱野龍夫(水大校),
浜口昌巳(水研セ瀬水研)

 マナマコのアオ型とクロ型の色彩形質の空間変異を定量的に明らかにするために,山口県の瀬戸内海沿岸,7 海岸で採集された個体の腹部と背部の色彩を RGB 値として定量化した。アオ型とクロ型の色彩形質は海岸間で有意に異なり,空間変動のパターンもアオ型とクロ型で異なっていた。また,色彩形質と環境要因(水深と工業用敷地面積)に有意な相関がみられた。これらのことから,マナマコの色彩形質の発現には,海岸間で異なる局所的な環境要因が関連していると考えられ,アオ型とクロ型はそれぞれ独立した表現型である可能性が示唆された。

75(3), 601-610 (2009)
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東北海域におけるキチジ未成魚雌の栄養状態および食性の時空間的な変異

服部 努,奥田武弘,成松庸二(水研セ東北水研八戸),
上田祐司(水研セ日水研),
伊藤正木(水研セ東北水研八戸)

 一般化線形モデル(GLM)を用いて,東北海域(東北地方太平洋岸沖)に生息するキチジ未成魚の栄養状態の時空間的な変異を調べた。その結果,水深が深いほど栄養状態が悪く,体サイズが小さいほど栄養状態が悪い可能性が示された。食性分析は,水深が深いほど空胃率が高く,栄養価の低い餌の %IRI が高いことを示した。以上のことから,水深が深い海域はキチジ未成魚の生息場所としての価値が低く,小型個体は競争的に劣位である可能性が示唆された。分布の変化に伴う栄養状態および食性の変化が成長に影響している可能性を議論した。

75(3), 611-618 (2009)
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北海道函館湾におけるマコガレイ仔稚魚の内部栄養から外部栄養への転換日分布の比較

城 幹昌,髙津哲也(北大院水),
中屋光裕(Iloilo State College of Fisheries),
吉田直人(北大院水),中神正康(水研セ東北水研)

 マコガレイ仔魚の生残過程を調べるため,耳石日周輪解析を行い,内部栄養から外部栄養への転換日分布(以下:NTDD)を仔魚と稚魚との間で比較した。2001~2002 年では,仔魚と稚魚の NTDD の範囲はおおむね重複していた。一方,2003 年では 3 月 17 日以前に栄養転換した個体が 4 月以降の NTDD から消失していた。2003 年には 3 月下旬に沿岸親潮が函館湾内へ流入し,湾内の水温が著しく低下した。この著しい低水温により 3 月 17 日以前に栄養転換した仔魚のほとんどが死亡した可能性が示唆された。

75(3), 619-628 (2009)
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小笠原周辺水域のアオウミガメの成長における時間的の変化の推定

田中栄次(海洋大)

 1974 年から 1995 年の標識放流実験の再捕記録を用いて von Bertalanffy の成長式のパラメータを最尤法で推定した。極限体長や成長係数が 1986 年の前後で異なる,1974 年から直線的に変化するなどの仮説のもとで推定を行い,AIC でモデル選択を行った。その結果,極限体長は期間中 97.2(cm)であるが成長係数は 1974 年から 1995 年の間に 0.0317(年当り)から 0.192 に直線的に変化するモデルが選択された。成熟ガメの個体数変化への影響や課題などについて議論した。

75(3), 629-639 (2009)
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ヤシガニ Birgus latro における腹部膨満度と交接成功の関係,および交接・産卵の月周期性

佐藤 琢,與世田兼三(水研セ西海水研石垣)

 絶滅危惧種であるヤシガニは乱獲によって資源量が減少しており,資源管理策の策定が急務である。本研究では,まず繁殖期における雌の腹部の膨満度を指標化することにより,交接可能な雌の形態的特徴について調べた。その結果,雌の腹部膨満度は繁殖と密接に関係しており,腹部の膨満度を指標とすることによって交接可能な雌の選別が可能であることが明らかになった。また,野外での雌の腹部膨満度の時間的変異を調べたところ,交接・産卵は主に新月から上弦の月頃に行われると推測され,この時期の保護が重要であることが示唆された。

75(3), 641-648 (2009)
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対馬暖流系群マサバの産卵頻度

白石哲朗,Suvarna D. Ketkar,加藤慶樹,
入路光雄,山口明彦,松山倫也(九大院農)

 五島列島近海で採集した対馬暖流系群マサバの 2001 年の産卵期における産卵頻度を,卵巣卵の発達段階と排卵後濾胞の退行過程に基づき推定した。産卵期は 3 月下旬から 5 月中旬の 50 日間に及び,その期間計 5 回の採集を行った。排卵後濾胞の時間経過に伴う形態変化は,別途飼育実験により明らかにした。その結果,4 種類の異なった指標によって得られた産卵頻度推定値の平均値は 16.9% であり,これは平均,5.9 日の産卵間隔に相当した。

75(3), 649-655 (2009)
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長良川に生息するトウヨシノボリの鰓に寄生する粘液胞子虫新種 Henneguya pseudorhinogobii および Henneguya rhinogobii の再記載

景山哲史(岐阜河環研),柳田哲矢(旭川医大),
大原健一(岐阜河環研),横山 博(東大院農)

 長良川で採集されたトウヨシノボリの鰓に,大小 2 型のシストを形成する粘液胞子虫が発見された。鰓弁に径 0.5~1.0 mm の大型シストを形成する粘液胞子虫は,Henneguya rhinogobii に同定された。一方,鰓薄板に径 50~250 μm の小型シストを形成する粘液胞子虫の胞子は,形態学的に H. rhinogobii と区別がつかないが,SSU rDNA の塩基配列と寄生部位の違いにより識別できた。後者を新種 H. pseudorhinogobii として提案するとともに,H. rhinogobii の再記載を行った。

75(3), 657-663 (2009)
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薬用ハ-ブがマダイの脂質代謝およびストレス耐性に及ぼす効果

池 承哲(韓国水科院),高岡 治(近大水研),
李 鍵雨,黄 載皓(韓国全南大),
金 良洙,石丸克也,瀬岡 学(近大水研),
鄭 寬植(韓国全南大),滝井健二(近大水研)

 マダイ稚魚に対するカミコウジ,サンザシ,カワラヨモギ,センキュウおよびそれら混合物の飼料添加効果を検討した。 飼育成績はハーブ添加区で優れていた。また,魚体,肝臓および血漿の中性脂質含量が低く,肝臓リン脂質や血漿リン脂質および HDL-コレステロール含量は高かった。さらに,麻酔回復および空中露出試験で早い覚醒時間と低い斃死率,空中露出後の低い血漿 cortisol 含量が得られた。以上の結果から,薬用ハーブはマダイ稚魚に対して脂質代謝促進・ストレス耐性に効果のあることが示された。

75(3), 665-672 (2009)
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アユ BPI/LBP 遺伝子のクローニングおよび発現解析

鈴木究真(群馬水試,海洋大),
泉庄太郎,田中英樹(群馬水試),片桐孝之(海洋大)

 アユより単離した BPI/LBP をコードする cDNA は,471 残基のアミノ酸をコードしており,シグナルペプチド,BPI/LBP/CETP ドメインが保存されていた。また,ゲノム構造は,15 個のエキソンと 14 個のイントロンから構成されており,ヒトと同じゲノム構造であった。アユ BPI/LBP 遺伝子の発現は,鰓,腸管,腎臓,脾臓および皮膚で強く認められた。さらに,アユを Flavobacterium psychrophilum で浸漬攻撃したところ,全血でこの遺伝子の発現量が増加した。

75(3), 673-681 (2009)
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グッピーにおける高温耐性の遺伝様式の推定

中嶋正道,藤沢公忠(東北大院農),
谷口順彦(福山大内生資研)

 交配実験で親魚とその子魚における雌雄の高温耐性の比較から遺伝様式を推定した。雌親が強いペアの子魚は雌雄とも強い傾向を示し,雌親が弱いペアの子魚は雄仔魚が弱くなる傾向を示した。雌親の強弱が雄子魚に強く現れる現象は伴性遺伝が考えられる。そこで,X 染色体上に高温感受性遺伝子と高温耐性遺伝子を仮定し,各ペアの親魚の強弱と子魚の強弱を分類したところ,仮定と良く一致した。各系統で観察される雌雄間での高温耐性の差異は伴性遺伝する形質の雌雄間での遺伝子型頻度と,それに伴う表現型頻度の差異である可能性が示された。

75(3), 683-687 (2009)
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サケ成長ホルモン/アルギン酸ナトリウムゲルの摂餌によるアワビ稚貝の成長促進効果

森山俊介(北里大海洋生命),
古川末広(北日本水産(株)),
川内浩司(北里大海洋生命)

 本研究はサケ成長ホルモン(sGH)をアルギン酸ナトリウム(SA)と混合した sGH/SA ゲルを調製し,その摂餌によるアワビ稚貝の成長促進効果を検討した。50 および 100 μg/350 mg の sGH/SA ゲルをアワビ稚貝に摂餌させると,摂餌開始から 24 時間目までアワビ体液中に sGH 免疫活性が認められた。0.5 および 5 mg/8 g の sGH/SA ゲルを 7 日あるいは 14 日毎に摂餌したアワビ稚貝の殻長および体重は,対照群よりも有意に増加した。これからの結果は,アワビの体液中に取り込まれた sGH が成長を促進したものと考えられる。

75(3), 689-695 (2009)
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カンパチ種苗生産における無換水飼育期間中の飼育水槽内ワムシの栄養価

山本剛史,照屋和久(水研セ養殖研),
原  隆(日水大分海洋研究セ),
外薗博人(鹿児島水技セ),甲斐 勲(宮崎水振協),
橋本 博(水研セ志布志),
古板博文,松成宏之,虫明敬一(水研セ養殖研)

 カンパチ仔魚の飼育水槽内のワムシの栄養成分を強化ワムシと比較した。強化ワムシに比べ,ワムシの飢餓防止のために添加した微細藻類が不足する状況の下で採取した水槽内ワムシでは,中性脂質,DHA およびビタミン C が減少する傾向が見られたが,タンパク質の量と質およびタウリン含量には顕著な差は見られなかった。また,水槽内ワムシでは生産機関によりカルシウム,鉄および亜鉛が増加した。したがって,添加する微細藻類の種類と量を適切に調整することにより,水槽内のワムシの栄養価をある程度維持できるものと考えられた。

75(3), 697-705 (2009)
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浸漬感染方法による類結節症の症状の再現

永野一郎(高知大黒潮圏),
井上靖子,川合研児(高知大農),
大嶋俊一郎(高知大黒潮圏)

 自然感染に近いブリ類結節症の実験感染法の条件について,症状の再現と死亡率の反復性を検討した。対数増殖期と定常期の菌を用いてブリに浸漬感染を行った結果,対数増殖期の菌を用いた場合に死亡率が高く,感染死亡魚の臓器には自然感染に特徴的な症状である結節様構造物(白点)の形成が認められた。そこで,対数増殖期の菌を用いた浸漬感染を異なる体重の魚と温度条件で実施したところ,死亡率と症状に反復性が認められた。これらのことから,対数増殖期の菌を用いた浸漬感染法が本症感染の研究に有効であると考えられる。

75(3), 707-714 (2009)
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エビ養殖排水がマングローブ汽水域のカニ類の餌利用に及ぼす影響:安定同位体比を用いた解析

今 孝悦,川久保尚也,青木淳一(東大院農),
Tongnunui Prasert (Rajamangala Univ. Tech. Srivijaya),
林崎健一(北里大海洋),黒倉 壽(東大院農)

 タイ国南部のマングローブ汽水域において,エビ養殖池が存在する水路(養殖水路)とそれらがない水路(対照水路)で,カニ類の餌資源と堆積有機物起源を安定同位体比分析により推定した。対照水路では,カニ類はマングローブや微細藻類を餌としていたが,養殖水路では,養殖排水中の有機物を餌としていた。一方,堆積有機物中には,いずれの水路でも養殖排水に由来する有機物は検出されなかった。以上のことから,マングローブ汽水域では,カニ類の餌利用の変化が,養殖排水の潜在的な影響域を特定する有効な指標になることが示唆された。

75(3), 715-722 (2009)
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紅藻 Kappaphycus alvarezii の色彩変異型 3 種系統からの精製レクチンの性状比較

リ・ディン・フン(VAST),
佐藤智美(広大院生物圏科),
柴田ひろみ(広大院生物圏科),
堀 貫治(広大院生物圏科)

 Kappaphycus alvarezii は経済的に重要な紅藻種で広く養殖されている。最近,本種に関して,生長速度やカラゲーナン含量が異なる色彩変異型系統の存在が報告された。本研究では,ベトナム産 K. alvarezii の色彩変異型 3 種系統について,レクチンの精製と性状比較を行った。各系統とも赤血球凝集阻止プロファイルおよび N 末端 20 アミノ酸配列が同一で,近似の分子質量をもち,収量で異なる 3 種イソレクチンを含むことを認めた。3 種イソレクチンの生化学的性状に関して,系統間での違いは認められなかったが,総レクチン収量は紅色変異型系統でもっとも高かった。

75(3), 723-730 (2009)
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ニジマス肝臓・腎臓中の残留 Cd 無毒化に及ぼす中国パセリ(CP)給餌の影響

任 恵峰,賈 慧娟,遠藤英明,林 哲仁(海洋大)

 飼料に添加した CP を給餌したニジマスでは,肝臓および腎臓のメタロチオネイン(MT)誘導量が増加傾向を示し,Cd 蓄積量の変化と相関を示した。ゲルろ過により分子量約 6 万の高分子画分と,毒性を示さない約 7 千の MT 画分を分取した。CP の給餌により MT と結合する Cd の量は増加傾向を示し,生体に無毒な MT-Cd への誘導効果が対照区より高くなった。

75(3), 731-741 (2009)
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藍藻 Oscillatoria agardhii 由来の新規抗 HIV レクチンのクローニングと大腸菌発現系の構築

佐藤智美,堀 貫治(広大院生物圏科)

 藍藻 O. agardhii 由来抗 HIV レクチン(OAA)は新規レクチン群に属し,HIV のエンベロープタンパク質 gp120 に高い結合定数を示す。本研究では, 同培養藻体からゲノム DNA を抽出し,常法により OAA 遺伝子を単離した。次に,組換え OAA(rOAA)を His-tag 融合タンパク質として大腸菌を用いて発現させた。可溶性画分から Ni キレートカラムにより精製した融合タンパク質(48 mg/1 l)を Factor Xa 処理後,rOAA を逆相系 HPLC を用いて精製した(14.8 mg/1 l)。rOAA は諸性状が OAA と一致した。rOAA は厳密な高マンノース型糖鎖プローブとしてだけでなく,その糖鎖認識能や抗 HIV 活性の分子基盤の解明に有用である。

75(3), 743-753 (2009)
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海産巻貝アルギン酸リアーゼの基本性状に関する比較研究

畑 舞美,熊谷裕也,Mohammad Matiur Rahman
(北大院水),千葉 智(日水中央研),
田中啓之,井上 晶,尾島孝男(北大院水)

 軟体動物腹足類のアルギン酸リアーゼの機能および構造的多様性に関する知見を得るために,原始腹足目に属するエゾアワビなどの巻貝および中腹足目に属するタマキビガイからアルギン酸リアーゼを単離し,それらの基本的酵素特性および部分アミノ酸配列を比較した。その結果,原始腹足目のアルギン酸リアーゼはいずれも多糖リアーゼファミリー 14 に帰属されるが,タマキビガイの酵素は未同定のファミリーに属すると考えられた。これらの結果は,腹足類のアルギン酸リアーゼに系統分類に対応した分子多様性が存在する可能性を示している。

75(3), 755-763 (2009)
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アカエイ皮由来コラーゲン線維ゲルの物理化学的性状

ベ インウ(長大院生産),長富 潔(長大水),
吉田朝美(長大院生産),
山口敦子,橘 勝康,小田達也,原 研治(長大水)

 本研究では,エイ類の有効利用の一環として,コラーゲン線維ゲルとしての利用について検討した。有明海産アカエイの皮より酸可溶性コラーゲンを抽出し,そのコラーゲン溶液を中性付近の pH に調整後,25℃ で 24 時間加温することにより再線維化を行った。その結果,コラーゲン分子の 90% 以上が再線維化し,コラーゲン線維ゲルを調製することができた。また,調製したアカエイコラーゲン線維ゲルの熱変性温度(Tm)は約 44℃ であった。更に,37℃ での細胞培養においてゲルは溶解せず,マウスストローマ細胞の増殖が確認された。

75(3), 765-770 (2009)
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Pseudo-nitzschia multiseries のドウモイ酸生産における細菌との直接的接触の必要性

小林健司,高田義宜,児玉正昭(北里大海洋)

 ドウモイ酸(DA)生産藻 Pseudo<0173>nitzschia multiseries は無菌化すると DA 生産能は著しく減少するが,元の培養中の細菌を添加すると生産能は復活する。同種の DA 生産における細菌の役割を調べるため,無菌化した細胞と無菌化していない細胞を同一容器中透析膜で隔てて培養し,両者の培養の生長と DA 生産を比較した。両者の培養は,それぞれを別個に培養した場合と同様の DA 生産特性を示し,両者の細胞のドウモイ酸量には大きな差が見られた。以上の結果は,P. multiseries の高濃度の DA 生産には培養液中の同種の毒生産を高める細菌との直接的な接触が必要であることを示す。

75(3), 771-776 (2009)
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神経伝達物質によるマナマコ Apostichopus japonicus 幼生の変態誘起作用

松浦裕志(北大院環境),矢崎育子(首都大東京理工),
沖野龍文(北大院地環)

 マナマコ A. japonicus 幼生の変態誘起物質を各種生理活性物質から探索した。その結果,4 種の神経伝達物質(ドーパミン,L-DOPA,L-アドレナリン,L-ノルアドレナリン)に変態誘起作用が観察された。ドーパミン,L-DOPA は 5-10 μM,L-アドレナリン,L-ノルアドレナリンは 50 μM で 80% 以上の幼生が変態した。ドーパミン,L-DOPA が 24 時間以上の幼生に曝露されることが必要であった。D1 様ドーパミン受容体アンタゴニストが 10 μM で変態を阻害したが,D2 様ドーパミン受容体アンタゴニストは 10 μM で変態を阻害しなかった。

75(3), 777-783 (2009)
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魚肉発酵品-さかな味噌の化学成分組成および味に及ぼす原料の影響

Anupam Giri,大迫一史,大島敏明(海洋大)

 ゴマサバ,ワニエソ,マアジおよびスルメイカの可食部肉を米麹を用いて発酵処理し,魚肉に対する水さらし処理の有無の影響と魚肉の相違を品質面から検討した。魚肉発酵品のタンパク質含量は大豆味噌よりも高かった。アミノ酸含量,オリゴペプチド,有機酸およびミネラル類の含量から,穀味噌に似た魚肉発酵食品の原料に対する水さらし処理の有無は大きく影響しないことが明らかになった。製了品に対する官能検査の結果,安定した品質の製品を大量に生産する場合には,原料肉の水さらしは有効であることが明らかとなった。

75(3), 785-796 (2009)
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ミオシン S-1 および筋原線維タンパク質の熱および凍結変性に対するネオカラビオースの変性抑制効果

林久美子,今野久仁彦(北大院水),
足立恭子,縄村 剛,志津里芳一(MBI),
沖田裕司,木村郁夫(日水中研)

 ネオカラビオース 4-O-硫酸(NC)は,ミオシン S-1 の熱変性をソルビトールより強く,マルトースと同等に抑制した。しかし,筋原線維に対しては F-アクチンの保護を消失させることで,ミオシン変性を促進させた。一方,NC は,ミオシン S-1 と同様に筋原線維の冷凍変性を抑制した。その変性抑制効果はソルビトールやマルトースと同等であった。NC は,KCl と同じような濃度で筋原線維を溶解した。以上のことから,NC は,熱処理過程ではイオン化した塩としての作用を示し,凍結保存過程では糖として作用すると考えられた。

75(3), 797-803 (2009)
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魚眼由来ヒアルロン酸の抽出方法の改善とその分子特性

天貝一花,田代有里,小川廣男(海洋大)

 メバチ Thunnus obesus 魚眼からのヒアルロナン抽出法の改善とその分子特性の決定を目的とした。従来のアセトン脱脂法におけるヒアルロナンの温度耐性や難溶解性などを考慮して,尿中ヒアルロナン抽出法を改変した。得られたヒアルロナンは,他由来のものにも劣らない有用性のある高い平均分子量を有し,また,広い分子サイズ分布を示した。そこで,凍結状態の魚眼を 27 画分に分け,それぞれの分子サイズを測定した結果,ヒトやウシの眼球と同様に,部位によるサイズ分布を示した。

75(3), 805-810 (2009)
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PCR-RFLP 法を用いた加工食品中のトビウオの鑑定

永瀬光俊(島根産技セ),前田和彦(鳥取県警科捜研),
会見忠則(鳥取大農),杉中克昭(島根産技セ),
森永 力(県立広島大生命環境)

 あご野焼に含まれるトビウオ魚肉の鑑定を目的に,ミトコンドリア 16S RNA 遺伝子の 3′末端を増幅するユニバーサルプライマーを設計して,PCR-RFLP 解析を行った。あご野焼 15 種類,野焼 2 種類および各種トビウオ加工品 8 種類について,PCR 産物を制限酵素 AfaI または MfeI で切断した。その結果,あご野焼と各種トビウオ加工品では,両制限酵素で切断される約 200 bp,約 300 bp,および未切断の約 530 bp の DNA 断片のうち 2 本,または,3 本が確認され,一方,野焼では約 530 bp のみ確認されたことから,PCR-RFLP パターンでトビウオの有無が証明できた。

75(3), 811-816 (2009)
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