Fisheries Science 掲載報文要旨

日本漁業における補助金と生産の関連に関する時系列データ分析

八木信行(東大院農),
有路昌彦,千田良二(アミタ持続可能経済研)

 補助金が漁業生産に及ぼす影響を把握することを目的とし,日本漁業に関する 30 年間のデータを用いて共和分分析を行った。この結果,各種の漁業生産指標のうち,漁業者一人あたりの生産金額が,政府一般サービス支出と正の関係を有することが確認できたが,その他の漁業生産指標と政府支出の組み合わせについては有意な関係は見られなかった。本研究は,漁業管理を効果的に行っていれば,補助金拠出があっても,漁獲量の増加などは生じないとされている点を,実証的に確認した意義を有する。

75(1), 3-11 (2009)
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一般化加法モデリングによるエーゲ海とイオニア海の底魚類の深浅分布

Stelios Katsanevakis, Christos D. Maravelias
(Hellenic Centre Mar. Res., Greece)

 大陸棚とその斜面における底魚の生物相は,水深とともに変化する。この知見は底魚資源の管理のために重要である。本研究では,エーゲ海とイオニア海において調査トロール操業で得た漁獲資料を用いて,16 種の魚類の分布水深を一般化加法モデル(GAM)により解析した。その結果,推定最大密度の 1% となる水深を分布の上・下限と定義した場合,各種の多様な分布水深を示すことができた。この定義は,漁獲が記録された水深を示すこれまでの上・下限の表示法より,より良い情報を提供する。
(文責 松下吉樹)

75(1), 13-23 (2009)
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タイ国ガザミ籠の脱出口と選択性

Anukorn Boutson, Chaichan Mahasawasde,
Songsri Mahasawasde, Suruyan Tunkijianukij
(カセサート大学),有元貴文(海洋大)

 タイワンガザミを対象としたタイ国のカニ籠について,小型個体の混獲を減少させる目的で脱出口の形状,位置,大きさに関する水槽実験と操業実験を行った。水槽実験では,高さ 35 mm に対して幅 40,45,50 mm の 3 種類の矩形脱出口を用いて甲幅長の選択性を求め,未成熟個体の脱出できる 45 mm 幅の脱出口を脇網下側に取り付ける条件を設定した。操業実験によって,脱出口をつけた籠で販売サイズのタイワンガザミの漁獲に影響を与えずに,未成熟個体の混獲を 70.5% から 11% に減少させ,他の混獲種についても選択性を発揮することを確認した。

75(1), 25-33 (2009)
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生態の異なる 3 種の異体類の色覚と分光感度特性の比較,および選択的漁法への応用に関する研究

松田圭史(北大院水),鳥澤眞介(近大農),
平石智徳,山本勝太郎(北大院水)

 ソウハチ,ババガレイ,アカガレイを対象とした合理的漁業の立案を目指して,これらの色覚と分光感度特性について知見を得ることを目的とした。評価には電気生理学的手法である S 電位法を用いた。ソウハチとアカガレイからは 4 種の L 型と 1 種の C 型 S 電位が記録された。C 型の特性からそれぞれ青色と黄色,青から緑色と赤色の識別に優れることが示された。ババガレイからは 2 種の L 型のみが記録された。最も出現頻度の高い L 型が示す分光感度のピークはソウハチで 544 nm,他では 518 nm であった。すべての S 電位応答で紫外線感度が示された。

75(1), 35-42 (2009)
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グローバル市場における水産資源の持続性に関する研究:生物経済モデルを利用したモロッコのタコ資源の分析

八木信行(東大院農),
有路昌彦,高原 淳,千田良仁
(アミタ持続可能経済研)

 国際的な貿易の対象となっているモロッコのタコ資源について,1970 年から 2006 年までの漁獲量及び漁獲物平均単価のデータを用い,資源状況が経年変化する様子を分析した。この結果,資源状態は,(1)過少利用,(2) MSY,(3) 漁獲過剰,(4) 資源減少と経年変化している状況が示唆された。これは,別途 FAO が発表した同資源に関する生物学的データとも整合性を有していることが確認できた。本研究により,市場データを利用した生物経済モデルによって,資源状況を大まかに判別できる例を示すことができたと考えられる。

75(1), 43-46 (2009)
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東北地方太平洋岸沖におけるズワイガニの最終脱皮率

上田祐司,伊藤正木,服部 努,
成松庸二(水研セ東北水研八戸),
北川大二(水研セ北水研)

 東北地方太平洋岸沖のズワイガニの最終脱皮率を,齢構成モデルと最終脱皮割合より推定した。ある甲幅における最終脱皮後個体の割合を「最終脱皮割合」,ある甲幅へ成長する際の脱皮が最終脱皮となる確率を「最終脱皮率」と定義した。最終脱皮割合が 50% となる甲幅 81 mm(雄),66 mm(雌)における最終脱皮率は 23%(雄),29%(雌)と推定された。最終脱皮率が 50% となる甲幅は 94 mm(雄),71 mm(雌)と推定され,これらのサイズでは雄で 57%,雌で 50% の個体が最終脱皮後一年以上経過していると考えられた。

75(1), 47-54 (2009)
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燧灘におけるマダイの産卵期,産卵場,産卵量

銭谷 弘(水研セ瀬水研),
大西庸介(環総テクノス),
小林志保,藤原建紀(京大院農)

 燧灘におけるマダイ産卵期,産卵場の特定,産卵量推定を行った。卵識別はモノクロナール抗体を用いて行った。主産卵期は 5 月,主産卵場は芸予諸島,三崎半島,西条,新居浜沿岸と判断された。日間産卵量は 2005,2006 年が各々 0.3~19.3,0.6~6.7(109 卵/日)であった。芸予諸島の産卵場はマダイ養殖場と近接していること,日間産卵量から推定される産卵親魚量は養殖場に存在する産卵可能な親魚量と同程度であることから,燧灘のマダイ卵は,天然海域と養殖場で産卵されたもの両方が含まれると考えられる。

75(1), 55-62 (2009)
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宇治川・淀川水系におけるナマズ腹口吸虫 Parabucephalopsis parasiluri (吸虫綱:腹口吸虫科)メタセルカリアの第二中間宿主内における感染量の季節変動と年変動

浦部美佐子,中井健太郎,中村大悟(滋賀県大環境),
田中正治(大阪総研),中津川俊雄(京都海洋セ),
小川和夫(東大院農)

 外来の魚病原体であるナマズ腹口吸虫 Parabucephalopsis parasiluri メタセルカリアの季節変動および感染量の経年変化と環境要因の関係について調べた。メタセルカリア感染量と第一中間宿主内の単性虫の感染率の季節変動から,本種は通常 1 年の生活史を持つことが示された。メタセルカリア感染量は水温が約 7℃ 以下になると増加した。重篤感染魚は一月の平均水温が高く,水位が低く,流量が少ない年に発生した。以上の結果から,上流のダムからの放流量コントロールによる魚病抑制の可能性を示した。

75(1), 63-70 (2009)
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クロマグロ vasa cDNA の同定と発現解析

長澤一衛,竹内 裕,樋口健太郎,三輪美砂子(海洋大),
森田哲朗,三星 亨(日水中研),
宮木廉夫,門村和志(長崎水試),吉崎悟朗(海洋大)

 本研究ではクロマグロ生殖腺から vasa cDNA を単離・同定し,その発現を解析した。in situ hybridization の結果からクロマグロ vasa mRNA は,精原細胞,卵原細胞,初期卵母細胞において強発現していることが明らかとなった。以上より vasa 遺伝子がクロマグロの精原細胞マーカーとなりうること,さらに代理親魚技法における,宿主への移植用ドナー精原細胞の供給源として,出荷時の養殖クロマグロ 2 歳魚の精巣を利用可能であることが示された。

75(1), 71-79 (2009)
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ゴンズイ遊泳活動の概日リズム

笠井聖仙,山本 司,清原貞夫(鹿大理)

 ゴンズイの遊泳活動が生物時計によって制御された概日リズムを示すかを調べるため,本種の遊泳活動を異なる光条件下で測定した。明暗条件下では明暗に同調した夜行性の活動を示し,明暗サイクルをシフトさせたときには移行期が観察された。また,恒暗条件下では自由継続周期が平均 24.2±0.4 h の概日リズムを示したが,恒明条件下では遊泳活動量はほとんど見られなかった。これらの結果はゴンズイ遊泳活動が光と内因性の生物時計により制御されていることを示している。

75(1), 81-89 (2009)
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モクズガニ Eriocheir japonicus 脱皮後のクチクラ形成と石灰化

坂本 好(北大水),本登 渉(山形水試),
井口雅陽(山形県内水試),
小川展弘,浦 和寛,都木靖彰(北大院水)

 脱皮間期のモクズガニの外骨格は表クチクラ,外クチクラ,内クチクラ,膜層の 4 層からなり,外クチクラと内クチクラが強く石灰化していた。脱皮直後には表クチクラと外クチクラがすでに完成しており,脱皮後に内クチクラの形成が進行した。外クチクラの石灰化は脱皮直後から進行したが,内クチクラの石灰化は基質形成後すぐには始まらず,時間がたってから開始された。内クチクラの形成と石灰化は脱皮後 6 日目でも完了せず,モクズガニでは脱皮後の外骨格形成と石灰化にこれまで報告されている種と比べて長時間かかることが示された。

75(1), 91-98 (2009)
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魚貝類の小腸型リン酸トランスポーターの単離

杉浦省三(滋賀県大生物資源)

 養殖場から排泄されるリンを減らすためには,低リン飼料の導入と並行して,養殖魚のリン欠乏を早期に検知する診断技術が必要である。本研究は,その第一段階として,小腸型リン酸トランスポーター(NaPi)の塩基配列を 23 魚種および軟体類(3 種)で新たに単離した。ニジマス,フナ,テラピアの NaPi mRNA は小腸以外の組織でも発現が確認された。フナにおいて食餌リンの制限は小腸の NaPi mRNA を短期的に約 2 倍に増加した。

75(1), 99-108 (2009)
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与那国島周辺海域におけるクロカジキの成熟と産卵

下瀬 環,藤田真希(琉球大理),
余川浩太郎,齊藤宏和(水研セ遠洋水研),
立原一憲(琉球大理)

 沖縄県与那国島に水揚げされたクロカジキ雌 717 個体(234±24cm)と雄 384 個体(191±12cm)を用い,産卵期を調べた。生殖腺の組織学的観察から,成熟個体の最小下顎叉長は,雌で 183 cm,雄で 160 cm と推定された。調査期間中,ほとんどの雌が未熟な卵巣を有していたが,成熟した卵巣を持った雌が 5~9 月に小数出現した。また,雄ではほとんどの個体が周年にわたって精子の充満した精巣を有していた。これらのことから,太平洋の広範囲に分布するクロカジキが,与那国島周辺海域で 5~9 月に産卵していることが明らかとなった。

75(1), 109-119 (2009)
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単生類寄生虫 Neoheterobothrium hirame はヒラメ稚魚の摂餌行動を変化させる

白樫 正(東大院農),西岡豊弘(水研セ養殖研),
小川和夫(東大院農)

 単生類 Neoheterobothrium hirame をヒラメ稚魚に実験的に寄生させ,イサザアミに対する摂餌行動と飢餓による死亡に与える影響について調べた。寄生を受けたヒラメ稚魚では摂餌中の離底時間が著しく増加し,健常魚と異なる摂餌パターンが見られた。捕食したイサザアミ数と寄生数で負の相関関係が見られ,本虫の寄生によってヒラメ稚魚の摂餌能力が低下することが示唆された。被寄生魚と健常魚を 3 ヶ月間飢餓状態にし,その生存を比べたが,本虫の寄生による影響はみられなかった。

75(1), 121-128 (2009)
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黒海,マルマラ海,エーゲ海および地中海北東部におけるマサバ Scomber japonicus の外部形態分析

Deniz Erguden (Mustafa Kemal Univ. Turkey),
Bayram Öztürk (Istanbul Univ.),
Zeliha Aka (Balikesir Univ.),
Cemal Turan (Mustafa Kemal Univ.)

 黒海,マルマラ海,エーゲ海,地中海北東部における,マサバ Scomber japonicus の計量・計数形質を検討した結果,地中海北東部(アンタルヤ湾―イスケンデルン湾)と北部グループ(エーゲ海,黒海を含む)に明瞭に区別され,これらの平均値には有意差を認めた。判別分析の結果,計量形質においては頭部のサイズ,計数形質においては第 1 第 2 背鰭条数の寄与が大きかった。
(文責 松石 隆)

75(1), 129-135 (2009)
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キンギョ組換え生殖腺刺激ホルモンによる養殖雄ウナギの精子形成促進

早川洋一(国際基督教大),
長屋英和,柿 宏樹(片倉工業),
堀田公明(海洋生物環境研),
小林牧人(国際基督教大)

 脳下垂体にかわるホルモン剤として実用化が期待される組換え GTH(濾胞刺激ホルモン,FSH および黄体形成ホルモン,LH)について,キンギョ 1 本鎖 FSH および LH をバキュロウィルス-カイコ系で作製し,未成熟ウナギに投与した。組換え GTH を含むカイコ体液(3 μL/g 体重)を 2~5 日間隔で 8 回投与した結果,LH 投与群では 11 個体中 4 個体で,FSH と LH の併用投与群では 11 個体中 7 個体で精子形成がみられ,組換え GTH の精子形成促進効果が示されるとともに,投与方法の改善による実用化の可能性が示唆された。

75(1), 137-144 (2009)
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インド洋におけるフエダイ 2 種の再生産特性

Gary Fry, David A. Milton, Tonya Van Der Velde,
Ilona Stobutzki, Retno Andamari, Badrudin and
Bambang Sumiono

 フエダイ属 2 種の再生産特性をインド洋の海域間で比較した。オーストラリア北部海域における産卵盛期は,Lutjanus erythropterus が 7~12 月,L. malabaricus が 9 月~3 月であった。これに対して,インドネシア東部海域における L. malabaricus の産卵盛期は,1~3 月と 10 月の 2 回みられた。両海域,両種の最小成熟体長は雄が 240 mm,雌が 250~300 mm であった。再生産特性の海域間の類似性は,オーストラリア海域における資源管理方策がインドネシア海域でも適応可能であることを示している。
(文責 片山知史)

75(1), 145-158 (2009)
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ウルメイワシの卵発生に与える水温の影響と産卵の日周パターン

上原伸二(水研セ東北水研),
三谷卓美(水研セ中央水研)

 ウルメイワシに卵数法(DEPM)を適用するうえで必須情報となる水温依存卵発生モデルを構築するために,卵発生に与える水温の影響を調べた。人工授精によって得た卵を 9 温度区(範囲 14.0-25.0℃)で飼育した結果,16.0℃ 以下では全ての卵が死亡した。受精後孵化までの所要時間は 25.0℃ で 38.0 時間,17.5℃ で 90.0 時間であった。水温依存卵発生モデルは水温と発生段階を説明変数とした受精後経過時間で表された。このモデルを野外採集卵に適用し,産卵時刻は概ね日没直後から 0 時までと推定した。

75(1), 159-165 (2009)
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漁獲統計と生物測定に基づいた東シナ海におけるマサバとゴマサバの産卵場の推定

由上龍嗣,大下誠二,依田真里(水研セ西海水研),
檜山義明(水研セ)

 漁獲統計と生物測定によりマサバとゴマサバの産卵場を推定した。生物測定の結果,マサバは GSI=2.5,尾叉長 275 mm 以上,2~6 月,表面水温 15~22℃ の海域,ゴマサバは GSI=2.6,尾叉長 310 mm 以上,2~5 月,17~25℃ の海域で成熟していると考えられた。成熟魚の分布から判断すると,マサバの産卵場は 2~4 月に東シナ海中南部から九州西岸,5 月に東シナ海中部,九州西岸,対馬海峡,6 月に対馬海峡から日本海西部,ゴマサバの産卵場は 2~4 月に東シナ海中南部から九州南部沿岸,5 月に東シナ海中南部から九州西岸と推定された。

75(1), 167-174 (2009)
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超音波テレメトリーによるタイ国メプン湖の F2 メコンオオナマズの生息場所利用および移動

三田村啓理,荒井修亮,山岸祐希子,
河端雄毅(京大院情報),光永 靖(近大農),
Metha Khachaphichat(タイ国パヤオ内水面水研セ),
Thavee Viputhanumas(タイ国水産局)

 2005 年 9 月から 12 月までタイ国メプン湖で,F2 メコンオオナマズ 8 尾の水平鉛直移動を超音波テレメトリーで調べた。調査期間中,全ての個体をモニタリングできた。放流後 1 ヶ月間は,水平移動範囲は大きかった。その後,水平移動範囲は小さくなり,オオナマズは湖の深い水域を使用して日周移動を示した。昼間は深い水域を使用したが,夜間は浅い水域を使用した。鉛直移動は,湖の酸素や水温と関係があることが示唆された。従来の漁業規制に加えて保護区の設置は,湖でのメコンオオナマズ資源の維持に効果がある可能性が示唆された。

75(1), 175-182 (2009)
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魚粉と大豆粕を主原料としたトラフグ飼料へのムラサキイガイエキスの添加効果

菊池弘太郎,古田岳志(電中研)

 魚粉を単独のタンパク質源とした対照区に対し,実験区では魚粉タンパク質の 30 ならびに 40% を大豆粕で置換し,それぞれ 0,5,10% ならびに 5,10,20% のイガイエキスを外割で添加した。初期体重 18 g のトラフグを飽食給餌条件で 7 週間飼育した。30% 置換区では,エキス 0 % 区の成長や飼料成績は対照区に比べ有意に劣ったが,エキス量の増加に伴って値は改善され,10% 添加区では対照区と同等の値を示した。40% 置換区では,10 および 20% 添加区の成長や飼料成績は対照区と違いが無かったが,5 % 添加区では劣った。

75(1), 183-189 (2009)
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ユグロンがツボワムシ属 2 種の生存時間に及ぼす影響:種特異的な酸化ストレス耐性

田中千香也,橋本祥明,中尾 聡,
吉永龍起(北里大海洋)

 酸化ストレスがワムシ類の生残に及ぼす影響を明らかにすることを目的として,活性酸素を生じる薬剤であるユグロンの有効濃度の検討,および酸化ストレス条件下におけるツボワムシ属 2 種の生存時間の比較を行った。ユグロンは 0.02~20 μM の範囲で濃度依存的な致死活性を示した。続いて,20 μM でユグロンを投与した場合の Brachionus plicatilisB. rotundiformis の生存時間を比較したところ,後者の方が酸化ストレスに対する耐性が高いことが分かった。

75(1), 191-194 (2009)
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イセエビ血球およびフィロソーマで発現している遺伝子の Expressed sequence tag 解析

Duangjai PISUTTHARACHAI,安池元重(海洋大),
青野英明(水研セ中央水研),
村上恵祐(水研セ南伊豆セ),
近藤秀裕,青木 宙,廣野育生(海洋大)

 イセエビ血球およびフィロソーマの cDNA ライブラリーよりランダムにクローンを選択し,それぞれ 1,592 および 1,081 クローンの Expressed sequence tag (EST) を得た。これら EST には,それぞれ 450 および 458 個のユニークな配列がみられた。さらに,これらのうちそれぞれ 114 および 220EST は既知の配列と相同性を示したが,残りは相同性を示さなかった。既知の配列と相同性を示した EST には種々の免疫関連遺伝子と相同な配列が存在した。

75(1), 195-206 (2009)
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キンギョにおける摂餌同調性生物時計

須沼俊和,天野勝文(北里大海洋),
飯郷雅之(宇都宮大農),山森邦夫(北里大海洋)

 キンギョの摂餌同調性生物時計(FEO)の存在を検討した。キンギョを水槽に個別収容し,LD 12:12(明期 6~18 時)・12 時給餌飼育後,全明条件,次いで 6 時または 18 時給餌に変更し,最後に無給餌とした。全明・12 時給餌下および給餌時刻変更後も摂餌期待活性(FAA)が観察され,無給餌下で自由継続リズムを示した。次に,LD 12:12・1 日 2 回(12 時と 0 時)給餌飼育後,全明,さらに無給餌とした。全明・2 回給餌下では両給餌時刻前に FAA を示し,無給餌下では自由継続リズムを示す個体もあった。以上より,キンギョにおける FEO の存在が証明された。

75(1), 207-214 (2009)
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サンゴを用いた沿岸環境評価装置の開発

Kakaskasen A. Roeroe,Minlee Yap,
岡本峰雄(海洋大)

 サンゴ幼生を着生させその生残・成長を計測する装置を 7 基製作した。サンゴ着床具 120 個入りケース 2 個,サンゴ着生用穴を 189 個あけたマリンブロック 2 個,水温計を配置した。2006 年 5 月の一斉産卵直前に,石垣島名蔵湾河口域の 3 ヶ所のリーフに各 2 基,石西礁湖に 1 基を設置し,4 ヶ月後に最初の調査を行った。名蔵の着床具 720 個には 611 群体,石西の 120 個には 61 群体のサンゴが生育していた。名蔵湾ではブロック穴は藻類等で部分的に塞がり,着床具も藻類に覆われていた。

75(1), 215-224 (2009)
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CHO 細胞における発現によるオニヒトデ致死因子 plancitoxin I の構造解析

渡辺 愛,永井宏史,長島裕二,塩見一雄(海洋大)

 オニヒトデ刺棘中の致死因子(plancitoxin I)は 2 種類のサブユニットから成る DNase II 様タンパク質で,DNA 分解活性を有する。plancitoxin I の構造特性を明らかにするために,各種変異体を CHO 細胞で発現し DNA 分解活性を調べた。その結果,活性を有する plancitoxin I の発現にはシグナルペプチドが必要であること,各サブユニットは活性を示さないこと,His-303 は活性に重要であること,7 残基の Cys のうち 6 残基は 3 個の S-S結合を形成していること,2 個の S-S 結合は活性に必須であることが判明した。

75(1), 225-231 (2009)
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可食性すり身フィルムの酸素透過性および抗酸化能

翁 武銀,大迫一史,田中宗彦(海洋大)

 フィルム形成溶液(pH 3)の 70℃-20 分間加熱により,酸素透過性の低いすり身フィルムを調製することに成功した。フィルムのラジカル捕捉能と還元力から,すり身フィルム自体が抗酸化能を持つことが示唆された。すり身フィルムで包装したイワシ油を 40℃,相対湿度 40% の暗所で 40 日間貯蔵したところ,イワシ油の PV と TBARS は貯蔵初期においてある程度増加したが,貯蔵後期において減少した。また,貯蔵中にすり身フィルムのミオシン重鎖は,脂質酸化によって生成するアルデヒド類による架橋反応を介して重合した。

75(1), 233-240 (2009)
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マサバ発酵食品へしこのコレステロール抑制作用

伊藤光史,赤羽義章(福井県大生物資源)

 へしこのエキスおよびそのペプチド画分とアミノ酸画分を脂質負荷飼育した Wistar ラットに 30 日間経口投与した。これらの投与群では,対照群より血漿中の総コレステロール(CH)と中性脂肪の増加および肝臓総脂質の蓄積が抑制され,糞に排泄される脂質と CH が増加し,糞中の胆汁酸量も増加傾向にあった。また肝臓では,CH から胆汁酸への合成を律速するコレステロール 7α ヒドロキシラーゼ活性が上昇した。へしこエキスの CH 低下作用には糞へのコレステロール及び胆汁酸の排泄と胆汁酸合成の促進が関与していると考えられた。

75(1), 241-248 (2009)
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マナマコ Apostichopus japonicus の染色体数およびテロメア配列マッピング(短報)

奥村誠一,木村一磨,酒井瑞穂,
藁谷崇史(北里大海洋),
古川末広(マリーン開発),
高橋明義,山森邦夫(北里大海洋)

 マナマコは水産重要種である。しかしながら,本種を含め,千種以上を抱えるナマコ綱全般における染色体の知見は極めて乏しい。本研究においてマナマコの染色体数を調べたところ, 2n=44 であることが判明した。さらに脊椎動物用テロメアプローブを用いて,ナマコ綱で初めて染色体上での蛍光インサイチュハイブリダイゼーションを行ったところ,染色体端部に明確なシグナルを得ることができ,本法により染色体上での物理的マッピングが可能なこと,および本種のテロメア配列型が脊椎動物と同じ(TTAGGG)n であることを示唆した。

75(1), 249-251 (2009)
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ヒラメ Paralichthys olivaceus インターフェロン γ 遺伝子のクローニングと発現解析(短報)

松山知正,藤原 篤,坂井貴光,
中易千早(水研セ養殖研)

 ヒラメよりインターフェロン γ(IFNγ)をコードする cDNA を RT-PCR によってクローニングした。塩基配列より推定されたアミノ酸配列は,フグ IFNγ と最も高い類似性を示した。IFNγ に特徴的な配列([I/V]-QX-[K/Q]-A-X2-E-[L/F]-X2-[I/V])がヒラメ IFNγ にも保存されていたが,12 番目の残基が[I/V]から M に置換されていた。ウイルス性出血性敗血症ウイルス実験感染によって,頭腎における IFNγ の発現は感染 1 日目に 13 倍に増加した。

75(1), 253-255 (2009)
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外洋域における親ウナギの発見(短報)

張 成年,黒木洋明(水研セ中央水研),
望岡典隆(九大院農),加治俊二(水研セ南伊豆セ),
岡崎 誠(水研セ中央水研),塚本勝巳(東大海洋研)

 ウナギ(Anguilla japonica)産卵場とされる西マリアナ海嶺南部海域(北緯 13 度,東経 142 度)で 2008 年 6 月の新月期に水深 170~300 m を曳網した 2 回の中層トロール操業により 3 個体の雄を捕獲した。いずれもよく発達した精巣を持っており,DNA 分析から 2 個体がウナギ,1 個体がオオウナギ(A. marmorata)と判明した。捕獲海域の水深は 1200~3000 m と深く,海洋生活期のウナギは中層を遊泳しているものと考えられた。今回の発見により本海嶺南部海域がウナギの産卵場であることが裏付けられた。

75(1), 257-259 (2009)
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フコキサンチンの経口投与による C57BL/6J マウス肝臓でのドコサヘキサエン酸及びアラキドン酸含量の増加(短報)

津久井隆行,馬場信子,細川雅史(北大院水),
佐島徳武(北大創成),宮下和夫(北大院水)

 C57BL/6J のマウス肝臓中の脂肪酸に対するフコキサンチンの影響について検討した。19 週齢の C57BL/6J マウスにフコキサンチンを 0.025% 及び 0.05% 含む飼料を投与し,肝臓中の各脂肪酸量及びフコキサンチン代謝物量を測定した。その結果,フコキサンチンを 0.05% 含む飼料を投与したマウス肝臓中のドコサヘキサエン酸やアラキドン酸の含量がコントロール群に比べて有意に増加した。また,投与したフコキサンチンはその濃度に依存してフコキサンチノールやアマロウシアキサンチン A に代謝され肝臓に蓄積された。

75(1), 261-263 (2009)
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