Fisheries Science 掲載報文要旨

パヤオの発生音とマアジの聴覚閾値との比較

Ricardo P. Babaran
(University of the Philippines in the Visayas),
安樂和彦,石崎宗周,渡邉賢二,
白井英明,松岡達郎(鹿大水)

 竹製の浮漁礁であるパヤオにより発生する水中音と代表的浮魚であるマアジの聴覚閾値を計測し比較した。パヤオから 3 m 離れた位置の水深 5, 10, 15 m で計測した水中音は 49 Hz 帯にピークを示した。音の大きさは深度の増加にともなって大きくなったことより,パヤオの竹製筏の係留に用いられているロープから発生することが示唆された。聴性脳幹応答(ABR)を指標として 100-2000 Hz の周波数帯で計測した聴覚閾値は 500-1000 Hz 帯の音に高い感度を持つことを示し,パヤオ発生音の主要な周波数帯とマアジ聴覚の高感度周波数帯は一致しないことが明らかとなった。

74(6), 1207-1214 (2008)
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韓国におけるタコ籠漁業の最適経済漁獲努力

Do-Hoon Kim, Heui-Chun An, Kyoung-Hoon Lee,
Jin-Wook Hwang(韓国水産振興院)

 韓国において,漁業資源の回復に向けて,漁業種別に漁具最大使用数を定めて漁獲努力量を管理する方策が進められている。特に,漁業種間での漁具をめぐる競合を解決し,漁業経営状況の安定に資する目的で,漁業振興のための経済的・生物学的な標準漁獲努力量の設定が検討されている。本研究では,漁具使用数についての競合問題が顕著であるタコ籠漁業に着目し,操業記録をもとに経営的に最適な漁具使用数(EMEY)についての解析を行った。その結果,一航海当たりの使用漁具数として約 13% の削減をすべきであり,操業経費を抑えることでの収益向上が期待できた。
(文責 有元貴文)

74(6), 1215-1221 (2008)
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ミナミマグロの CPUE 変動とインド洋中央部の海水温変動の関係

Hsueh Jung Lu, Shu Chen Kao,
Chiu Hsia Cheng(台湾海洋大)

 1982 年~2003 年にインド洋中央部(CIO)で操業した台湾延縄漁船から得たミナミマグロ(SBT)の漁獲量と努力量を集計し,一般化線型モデル(GLM)による CPUE の標準化を行い,これと表面水温のアノマリー(SSTA)との関係を解析した。その結果,ENSO より SSTA の振動周期が遅い北緯 30°~50°において,標準化 CPUE は SSTA とともに振動していた。CIO 漁場での漁況は南洋からの冷水魂の伸張に影響を受け,SST が低いほど SBT の漁況が良いと考えられる。
(文責 松石 隆)

74(6), 1222-1228 (2008)
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OECD 諸国における補助金と漁業生産の関連に関するパネルデータ分析

 漁業補助金が漁業生産に及ぼす影響を実証的に把握するため,OECD 加盟国が公表した 1996 年から 2002 年までの政府財政支出データを使用し,パネルデータ分析を行った。この結果,政府財政支出は,OECD 加盟国全体として,漁業関連経済指標に対し弱い正の影響を及ぼしている場合と及ぼしていない場合が存在すること,また,異なる種類の政府支出が同じ指標に対し正と負の双方の影響を与えている場合があることなどが確認できた。本研究は,漁業補助金がもたらす影響を世界レベルで実証的に評価した数少ない試みの 1 つである。

74(6), 1229-1234 (2008)
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東シナ海南部海域におけるカイアシ類ノープリウスの分布と豊度:マアジ仔魚の餌料環境について

岡崎雄二(水研セ東北水研),
野口智英(マリンワークジャパン),
中田英昭(長大水),西内 耕(水研セ西海水研)

 冬季の東シナ海南部海域においてマアジ仔魚の餌料環境調査を 2003 年から 2006 年に行った。マアジ仔魚が多く採集される陸棚縁のノープリウス密度は 2003 年に有意に高くなった。モデルによって推定されたカイアシ類(Paracalanus spp.)の卵生産速度は陸棚縁付近で高く,陸棚上で密度の高いノープリウスの分布とは必ずしも一致しなかった。ノープリウスの分布変動は,カイアシ類の生産だけではなく成体雌の分布や海況によって影響を受けることが示唆された。

74(6), 1235-1244 (2008)
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セラミック製サンゴ着床具の開発と評価

岡本峰雄(海洋大),野島 哲(九大院理臨海),
藤原秀一(いであ),古島靖夫(海洋研究機構)

 有性生殖を利用して移植用サンゴを育成するため着床具を開発した。着床具はサンゴの一斉産卵前に海に設置し,多種の幼生を着生,育ったサンゴとともに海底に固定できる形とした。着床具は 10 ないし 9 段に重ね架台(0.2 m2)に密に配置し,2002 年 4, 5 月の満月の日の前に石西礁湖のパッチリーフに設置した。同年 8 月に架台 7 基を回収し,生育したサンゴの種類,数,着生場所などを計測した。1 架台の着床具に最大 617 群体のサンゴが着生し 94% はミドリイシ属であった。重ねた着床具を間をあけて配置すればより多くの着生が期待できる。

74(6), 1245-1253 (2008)
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木曽三川感潮域におけるヤマトシジミの幼生着底以降の成長と死亡

南部亮元(三重大生資),水野知巳(三重科技セ水),
関口秀夫(三重大生資)

 木曽三川感潮域のヤマトシジミについて,浮遊幼生の着底から漁獲資源に加入以降の底生個体の殻長頻度分布の推移をもとに,その成長過程と死亡過程を追跡した。各コホートの平均殻長の成長を Logistic, Gompertz, ALOG の成長モデルによって近似したが,河川によって適合する成長モデルが異なった。各コホートの漁獲加入以前の死亡率を M1,漁獲加入後の死亡率を M2 として,M1=M2 および M1≠M2 について対数密度の回帰直線による当てはめを行った。多くのコホートにおいて,漁獲加入前後で死亡率が変わらない M1=M2 の回帰モデルが選択された。

74(6), 1254-1268 (2008)
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共生藻の存在下で発現が上昇するサンゴの硫酸イオントランスポーターの分子生物学的解析

湯山育子,渡邉俊樹(東大海洋研)

 造礁サンゴは褐虫藻とよばれる共生藻と相利共生の関係にある。造礁サンゴの一種ウスエダミドリイシの稚サンゴを用いた以前の研究で,非共生状態と比べて共生状態で発現が上昇する mRNA が 2 種同定された。本研究では,そのうちの一つ AtSym-01 が硫酸イオントランスポーターのホモログをコードすることがわかった。抗体を用いた免疫組織学的研究により,AtSym-01 タンパク質は多くの組織で細胞特異的な発現をすることが示された。発現パターンの解析から,このタンパク質は骨格や粘液の合成に関与することが示唆された。

74(6), 1269-1276 (2008)
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沖縄県八重山郡鳩間島におけるヤシガニ Birgus latro の繁殖期とメスの成熟サイズ

佐藤 琢,與世田兼三(水研セ西海水研石垣)

 ヤシガニは乱獲によって世界的に資源量が減少しており,資源管理策の策定が急務である。そこで,生息地の一つである鳩間島において,禁漁期や体長規制の設定に必要な繁殖期やメスの成熟サイズ,体サイズと繁殖能力の関係について調べた。その結果,繁殖期は 6 月から 8 月であり,その期間に禁漁期を設けるのが効果的と考えられた。また,胸長 32.3 mm 以上になって全てのメスが機能的に成熟し,大きなメスほど多くの卵を産むと推定された。このことから体長規制を行うならば最低限,胸長 32.3 mm 以下のメスは保護すべきと考えられた。

74(6), 1277-1282 (2008)
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最上川水系における両側回遊型アユの多回産卵現象

清水昭男,内田和男,宇田川 美穂,大久保 誠,
伊藤春香,山本 祥一郎(水研セ中央水研),
高澤俊秀(山形内水試)

 従来小河川のみでしか報告のなかった両側回遊型アユ多回産卵現象の,大規模河川における有無を明らかにするため,山形県最上川水系においてアユ親魚のサンプリングを行った。排卵後濾胞の多様性等による産卵回数推定の結果,10 月後半及び 11 月初めにおいては大部分の雌魚が 2~3 回の産卵を行っており,大規模河川においても多回産卵が行われていることが明らかとなった。魚体サイズと多回産卵については明瞭な関係は認められず,バッチ産卵数と肥満度は産卵回数の増加に従って減少したが,これらの関係も小河川のアユと同様であった。

74(6), 1283-1289 (2008)
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脂肪酸添加培養による海洋細菌と大腸菌のプロトプラスト融合の融合率の改良

張恩実,今田千秋(海洋大),
鎌田正純(山野美容芸術短大),
小林武志,濱田(佐藤)奈保子(海洋大)

 抗生物質耐性のある海洋性発光細菌および耐性のない大腸菌間においてプロトプラスト融合の融合率を向上させるために,種々の脂肪酸を添加した培地で両菌を培養し,形成されたプロトプラストの安定性を評価した。その結果,発光細菌はエイコサペンタエン酸の添加により,また大腸菌はリノール酸またはリノレン酸の添加により安定性が向上した。両菌間でプロトプラスト融合を行ったところ,脂肪酸無添加の場合より多くの融合株が得られ,脂肪酸添加培養により細菌のプロトプラスト率を向上させることが示唆された。

74(6), 1290-1296 (2008)
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オリーブ油による魚油代替がブリ幼魚の成長・筋肉脂肪酸組成と血合筋の褐色化に及ぼす影響

妹尾歩美,高桑史明,橋口智美,森岡克司,
益本俊郎,深田陽久(高知大農)

 ブリ飼料におけるオリーブ油による魚油代替が成長,筋肉の脂肪酸組成および血合筋の褐色化の抑制に及ぼす影響を評価することを目的として試験を行った。飼料中の魚油をオリーブ油で代替(0:対照,25, 50 および 100%)し,これらをブリ幼魚に 40 日間給与した。各飼料間で,ブリ幼魚の成長に有意な差は見られず,筋肉の脂肪酸組成は飼料の脂肪酸組成を反映していた。全てのオリーブ油配合区の血合筋において,赤みを示す値は冷蔵保存下 15 時間以降で対照区と比較して有意に高い値を示し,褐色化が抑制されていた。

74(6), 1297-1306 (2008)
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リトアニア Žeimena 川の大西洋サケとブラウントラウトの腸内細菌相とその食餌

Vesta Skrodenyte-Arbačiauskienė, Aniolas Sruoga,
Dalius Butkauskas, Kestutis Skrupskelis
(リトアニア・ヴィルニウス大生態学研)

 Žeimena 川の淡水サケとブラウントラウトの腸内細菌叢を検討した。サケでは Enterobacteriaceae, Plesiomonas 属,Carnobacterium 属などで,トラウトでは Enterobacteriaceae, Aeromonas 属,Pseudomonas 属などで構成された。サケ腸の Enterobacteriaceae は Pragia 属と Serratia 属だったが,トラウト腸内容物では Buttiauxella 属,Enterobacter 属,Moellerella 属,Pantoea 属,Rahnella 属であった。サケから新規細菌と推定される Tiedjeia arctica が分離された。
(文責 延東 真)

74(6), 1307-1314 (2008)
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高知県浦ノ内湾における有毒な Dinophysis acuminata の発生

足立真佐雄,岡本奈生子(現加ト吉),
松原正幸(現マルハニチロ),
西島敏隆(高知大農),鈴木敏之(中央水研)

 アサリを多産する高知県浦ノ内湾において,ペクテノトキシンおよびオカダ酸を保有する D. acuminata が発生した。本湾において発生した本種の細胞の平均体長および体厚は,それぞれ 38.5 μm と 25.6 μm であり,両者の比は 1.51 であった。5.8S rDNA-ITS 領域の塩基配列を用いた系統解析の結果,これらは既報の D. acuminata complex のクレードに属した。本藻の発生時の現場水温並びに塩分は,それぞれ 13.0~26.9℃ および 27.6~34.1 であった。本報は,南日本産 D. acuminata が有毒であることを初めて示した論文である。

74(6), 1315-1321 (2008)
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43 kDa の亜鉛結合タンパク質を発現するコイの結合組織細胞の分離と性状解析

Yen-Hua Chen, Hsuan-Jung Liao and
Sen-Shyong Jeng(国立台湾海洋大)

 43 kDa の亜鉛結合タンパク質を発現するコイの結合組織細胞を,スライドグラス掻爬によって表面粘液を除去した消化管組織から,Ⅳ型コラゲナーゼで消化することによって分離した。このコラゲナーゼ処理懸濁液に含まれる細胞は比較的均一で,その 90% 以上は直径~6 μm 程度の球形であった。また,この細胞の表面にはかなりの量の 43 kDa 亜鉛結合タンパク質が発現しており,含まれる亜鉛濃度は 2.21 μg/106 細胞であった。この値は他の魚種(ソウギョ,ハクレン,ティラピア)の細胞の 20-30 倍高かった。本研究は,43 kDa 亜鉛結合タンパク質を発現する上記細胞の培養における基礎的情報を提供するものである。
(文責 尾島孝男)

74(6), 1322-1329 (2008)
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亜致死濃度の農薬ダイアジノンがライギョ Channa striata の鼻上げ・表層滞留行動に及ぼす影響(短報)

Nguyen Van Cong,
Nguyen Thanh Phuong (Can Tho Univ., Vietnam),
Mark Bayley (Univ. Aarhus, Denmark)

 ダイアジノンはメコンデルタで広く使用されている農薬である。本研究では,亜致死濃度のダイアジノンがライギョの一種 Channa striata の鼻上げ・表層滞留行動に及ぼす影響を調べた。低濃度のダイアジノンに魚をさらすと鼻上げの頻度が上昇したが,これは水呼吸から空気呼吸に切り替えることで有毒化学物質から忌避するための行動と考えられた。一方,高濃度では対照区と比べて鼻上げの頻度に差がないが,水底に留まっている時間が長くなり,表層滞留時間は減少した。このような行動はエネルギー消費を抑制するための戦略と推察された。
(文責 金子豊二)

74(6), 1330-1332 (2008)
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大西洋クロマグロ Thunnus thynnus の単一コピー核 DNA マーカーの単離と特徴(短報)

中立元樹(水研セ遠洋水研),
張 成年(水研セ中央水研)

 大西洋クロマグロの単一コピー核 DNA8 種を増幅するためのプライマーをデザインし,北西大西洋で漁獲された 65 個体について変異性を検討した。4 遺伝子座はコーディング領域のイントロン,他の 4 遺伝子座は非特定領域であった。増幅断片長あるいは制限酵素切断片長多型(RFLP)による変異が観察され,ヘテロ接合体率は 0.05 から 0.54,対立遺伝子数は 2 から 5 であった。ヘテロ接合体の有意な不足は 2 遺伝子座で見られた。これら 8 種のプライマーを近縁種であるミナミマグロ T. maccoyii に用いたところ,類似長 DNA 断片の増幅と多型を観察することができた。

74(6), 1333-1335 (2008)
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北太平洋南西部におけるクロマグロ産卵群を対象とした台湾延縄漁業からの資源量指数(短報)

Hui-Hua Lee, Chien-Chung Hsu
(National Taiwan Univ., Taiwan)

 台湾は 1999 年以降,太平洋クロマグロの漁獲量の約 10% を占めている。台湾の延縄漁業は北太平洋南西部で産卵群を対象に操業する。クロマグロの資源評価には台湾漁業のデータが不可欠である。ほとんどのクロマグロが水揚げされる東港で漁獲統計を収集した。この統計を用いて,資源量の年変化の影響を取り出すために一般化線形モデルにより CPUE の標準化を行った。これから得た資源量指数は 1999 年の 1000 針あたり 0.46 尾から 2002 年の 0.14 尾に減少した。2003 と 2004 年には 0.2 尾であった。
(文責 白木原国雄)

74(6), 1336-1338 (2008)
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セタシジミは高浸透ストレス時に遊離アミノ酸をオスモライトとして利用する(短報)

細井公富,吉永由紀(京大院農),
豊原容子,塩田二三子(華頂短大生活),
豊原治彦(京大院農)

 セタシジミを 0.1% および 0.3% の塩分環境に暴露し,体液浸透圧と組織遊離アミノ酸量を測定した。体液より低浸透となる塩分 0.1% の環境では,体液浸透圧および組織アミノ酸量の有意な変化はみられなかった。一方,体液より高浸透となる 0.3% 塩分環境では,体液浸透圧の上昇に伴い,アラニンやグルタミン酸などの組織アミノ酸量が増加した。以上の結果から,約 100 万年前から琵琶湖に生息するセタシジミが,長期の淡水生活にも関わらず,高浸透に応答したオスモライト調節機能を保持していることが明らかとなった。

74(6), 1339-1341 (2008)
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アザミサンゴの受精実験:異なる刺胞タイプ間での部分的生殖隔離,および親群体存在下での受精率の向上(短報)

安部真理子(琉球大理),
渡邉俊樹,早川英毅(東大海洋研),
日高道雄(琉球大理)

 造礁サンゴの一種アザミサンゴでは,刺胞の形態が異なる 2 タイプの群体が存在することが琉球列島において知られている。本研究では受精実験を行い,同タイプ間での受精率の方が異タイプ間より有意に高いことを見出した。また,親群体の存在下で受精率が大きく向上することが分かった。

74(6), 1342-1344 (2008)
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ヤリイカの交接行動に対する低水温の影響(短報)

岩田容子(北大院水),伊藤欣吾(青森水総研セ),
桜井泰憲(北大院水)

 ヤリイカは繁殖期に産卵回遊群が漁獲されている。産卵回遊は水温に強く影響を受け,分布の北限である北日本では特に冬季低水温の影響が強いと考えられている。そこで,飼育実験を行い 5℃・6℃・8℃ 下で繁殖行動を観察した。その結果,オス特有の体色パターンや精子を長期間保存できるタイプの交接は水温によらず一定の頻度で観察されたが,雌特有の体色パターンや産卵直前に行うペア交接は 5℃・6℃ で少なく 8℃ で多く観察された。このような水温による繁殖行動活性の違いは,産卵回遊パターンに影響すると考えられる。

74(6), 1345-1347 (2008)
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耳石日輪に基づいたカタクチイワシ成魚の日齢査定(短報)

由上龍嗣,青木一郎(東大院農),
三谷 勇(神奈川水技セ)

 三陸沖,常磐沖,相模湾で採集したカタクチイワシ成魚の日齢を,耳石日輪に基づいて査定した。耳石日輪の観察は耳石薄片標本を光学顕微鏡と電子顕微鏡を併用して行った。日齢は 171~329 の範囲であった。常磐沖,相模湾は過去の知見の成長曲線と差がなかったのに対し,三陸沖では過去の知見よりも速く成長し,約 8 ヶ月で標準体長 115 mm に成長していると考えられた。

74(6), 1348-1350 (2008)
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チェサピーク湾での魚類の大量斃死において分離された Bacillus licheniformis は非病原性であった(短報)

David J. Pasnik, Joyce J. Evans (USDA, USA),
Phillip H. Klesius (USDA-Agr. Res. Serv., USA)

 2006 年 10 月チェサピーク湾で,魚類の大量死が観察された。死亡は 6 日間続き,数種,およそ 1800 尾の死亡が確認された。大量死が観察された海域で,生存していたホワイトパーチ,イエローパーチ,ストライプバスを捕獲し,細菌学検査を腸管,鼻腔,肝臓から行った。その結果,Bacillus licheniformis が鼻腔と腸管から分離された。分離された B. licheniformis をティラピアに人為感染させたところ,ティラピアは死亡せず,感染魚からも B. licheniformis が分離できなかった。この魚類の大量死の原因について,環境因子が環境常在細菌に対する魚類の感受性を上昇させた可能性が考えられた。
(文責 延東 真)

74(6), 1351-1353 (2008)
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変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)法による中国カキ類の識別(短報)

于  紅,李  琪(中国海洋大学水産学院)

 tRNA と Intergenic spacer (IGS)を含む 192 bp のミトコンドリア DNA 領域を Crassostrea gigas, C. plicatula, C. ariakensis, C. hongkongensis および C. sikamea で PCR により増幅させた後,DGGE 分析を行った。これらの 5 種類のカキにおいてそれぞれ異なる DGGE のバンドパターンが見られ,配列解析により種特異的なハプロタイプが認められた。以上のことから,DGGE 法によるカキ類の同定が可能であることが示された。

74(6), 1354-1356 (2008)
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セネガルソール Solea senegalensis から得た 15 種のマイクロサテライト DNA マーカー(短報)

Song-Lin Chen(中国水産科研院),
Chang-Wei Shao, Gen-Bo Xu
(中国水産科研院,中国海洋大),
Xiao-Lin Liao, Yong-Sheng Tian(中国水産科研院)

 欧州原産ササウシノシタ Solea senegalemsis のマイクロサテライト遺伝子座を増幅するプライマーを 15 セット開発した。52 個体を分析したところ,遺伝子座あたりの対立遺伝子数は 3 から 8,ヘテロ接合体率(観察値)は 0.5 から 0.872 であった。有意なホモ接合体過剰が 3 遺伝子座で見られた。カレイ目の 4 種及びヤミハタ Cephalopholis boenak に対して同じプライマーセットを用いた PCR 増幅結果も報告する。
(文責 張 成年)

74(6), 1357-1359 (2008)
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シーラカンス胃キチナーゼの基質特異性と部分アミノ酸配列(短報)

松宮政弘,烏田修二,宮内浩二,
望月 篤(日大生物資源)

 精製酵素は結晶性キチンに対し,イカ β キチンを最も良く分解し,さらにエビ・カニ・昆虫の α キチンも分解し,広い基質分解能を示した。グリコールキチンに対する Km は 0.455 mg/mL,kcat は 2.43/s で,pNp-N-アセチルキトオリゴ糖(2-4 糖)より pNp を遊離した。本酵素は N-アセチルキトペンタオースを分解して β アノマーの 2 糖および 3 糖を生成し,N 末端アミノ酸配列は脊椎動物のファミリー 18 キチナーゼと高い相同性を示し,糖加水分解酵素ファミリー 18 と同様の性質を有していた。

74(6), 1360-1362 (2008)
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数種藻類抽出物および渇藻 Ecklonia stolonifera から抽出したフロロタンニンによるタンパク質糖化反応およびラット水晶体アルドース還元酵素の抑制効果(短報)

鄭 賢雅,尹 羅英(釜慶大),
禹 美黄煕(大邱カトリック大),崔 在洙(釜慶大)

 数種藻類エタノール抽出液のラット水晶体アルドース還元酵素(RLAR)の阻害率を測定したところ,15.45-57.16% となった。AGE 蓄積阻害率では 19.72-39.68% を示した。高い活性を示した Ecklonia stolonifera 抽出液から各種クロマトグラフィーなどによって精製したところ,phlorofucofuroeckol-A が有意な AGE 蓄積阻害を示した。一方,phloroglucinol, dioxinodehydroeckol, eckol, phlorofucofuroeckol-A, dieckol, 2-phloroeckol,および 7-phloroeckol は有意に RLAR を阻害したが,triphlorethol-B にはその効果が認められなかった。以上のことから phlorofucofuroeckol-A は糖尿病の合併症予防に効果があるものと推定された。
(文責 潮 秀樹)

74(6), 1363-1365 (2008)
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アブラソコムツ及びバラムツ晒肉のゲル形成特性(短報)

パッタラヴィヴァッタ ジャニスタ,森岡克司,
大西研示,小見山周三,伊藤慶明(高知大農)

 アブラソコムツ及びバラムツ筋肉の食品としての有効利用の可能性を探る目的で,両魚の晒肉のゲル形成能を調べた。両魚の晒肉加熱ゲルは坐りにくく,戻りにくい性質を持っていた。SDS-PAGE 分析から,両魚加熱ゲルのミオシンは主に SS 結合により高分子化していることが明らかとなった。また両魚晒肉ゲルの強度は市販すり身に匹敵した。以上のことから,アブラソコムツ及びバラムツ晒肉はすり身原料になりうることが示唆された。

74(6), 1366-1368 (2008)
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