Fisheries Science 掲載報文要旨

サンマの視精度と漁獲過程

M. A. Ibnu Hajar,稲田博史,羽曾部正豪,
有元貴文(海洋大)

 サンマの視精度について尾叉長 75~365 mm の標本個体の網膜組織をもとに検討し,漁獲過程における漁具認知と漁具回避における反応を考察した。錐体密度分布に関する結果より,最濃密部は網膜後方にあり,視軸が前方に向いていることを推定した。水晶体直径は成長とともに 1.40 mm から 4.73 mm に増大し,錐体密度は 0.01 mm2 当たりの錐体数として 765 個から 378 個まで徐々に減少する傾向にあった。この結果より,視精度(V.A.)は尾叉長(FL)とともに増大し,75 mm の個体で 0.057, 335 mm で 0.136 となり,下記の式で表された。
  V.A.=0.0065FL0.5271 (r2=0.9624)

74(3), 461-468 (2008)
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音響調査と地理情報システムの併用による海丘域の魚類豊度分布に及ぼす海底構造の影響評価

田上英明(東大海洋研),濱野 明(水大校),
小松輝久, Boisnier Etienne(東大海洋研)

 音響調査と GIS を併用して,海丘上の魚類の豊度分布に及ぼす地形,底質,水温の影響を評価するために,日本海南西海域の八里ヶ瀬を実験海域として研究を行った。海底の影響が海底上 10 m までであると考え,この層の音響データを解析した。豊度分布の場所による違いを知るために,短く区切った Sa(面積後方散乱強度)を求め,豊度に及ぼす環境の影響を評価した。魚の多い八里ヶ瀬西側では底質が最も強く豊度分布に影響した。海丘全体の Sa の分布量を層化法とクリッギングとで推定し,結果の違いについて論議した。

74(3), 469-478 (2008)
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浮き延縄の釣針水深を一定にするために必要な中立ブイの浮力の推定方法

志賀未知瑠,塩出大輔,林 敏史,
東海 正,胡 夫祥(海洋大)

 中立ブイは,延縄の釣針の水深範囲を小さくするために幹縄に装着する小さな浮子である。本研究では中立ブイに必要な浮力を求める計算式を提示した。2 タイプの中立ブイ(中立ブイ 1 個付けと 2 個付け)を取り付けたまぐろ延縄を用いて海上実験を実施して,その幹縄が想定した水深に上がったことを確認した。中立ブイを用いた延縄では,釣針の水深範囲が通常の延縄よりも狭く,長い受け縄の併用によりウミガメ類が生息する浅い水深を避けて釣針を配置できる。中立ブイを付けた延縄漁具のふかれに及ぼす影響要因についても検討した。

74(3), 479-487 (2008)
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オニテナガエビの脱皮周期に伴う炭酸脱水酵素および Na/K-ATPase 活性の変動

Safiah Jasmani, Vidya Jayasankar,
Marcy N. Wilder(国際農研セ)

 脱皮周期に伴うエビの表皮組織と鰓における炭酸脱水酵素(CA)及び Na/K-ATPase の活性の変化を検討した。鰓での CA 活性は脱皮直前に増加し,脱皮後で減少した。また,表皮組織での CA 活性は脱皮周期の進行に伴い減少し,脱皮直前で最も低くなり,脱皮後より増加した。一方,鰓での Na/K-ATPase 活性は脱皮周期に伴う変動は見られなかった。これらの結果より,表皮組織の CA は外骨格の石灰化に重要であると考えられたが,鰓の Na/K-ATPase は脱皮過程に浸透圧調節の主な要因ではないと考えられた。

74(3), 488-493 (2008)
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AFLP 法による絶滅危惧種ミヤコタナゴの野生および飼育集団の遺伝的多様性評価

久保田仁志(栃木水試),渡辺勝敏(京大院理),
筧 葉子(淡水生物研究会),渡邊精一(海洋大)

 絶滅危惧種ミヤコタナゴの遺伝的多様性評価を目的として,1 野生集団および 3 飼育集団について AFLP 法による多型解析を行った。各集団で He=0.0479-0.2258, π=0.0023-0.0088 と推定された。野生集団と飼育集団および飼育集団の年級群間で遺伝的多様性の比較を行ったところ,遺伝的多様性指標値には,全集団の年級群間で有意な差異が認められたが,経年的な低下傾向は認められなかった。遺伝的多様性の維持の観点からは,飼育集団の野生環境への再導入は検討の価値があると考えられた。

74(3), 494-502 (2008)
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ムツ科魚類ムツおよびクロムツの PCR-RFLP 法による種判別法

糸井史朗,高井則之,納谷聖実,大力圭太郎,
山田 明(日大生物資源),秋元清治(神奈川水技セ),
吉原喜好,杉田治男(日大生物資源)

 PCR-RFLP 法によるムツ科魚類 2 種ムツ Scombrops boops およびクロムツ Scombrops gilberti の種判別法を開発した。本法では,mtDNA の 16S rRNA 遺伝子領域を対象とし,両種に共通のプライマーを用いて PCR を行った後,EcoNI および MvaI を用いる RFLP 分析に供した。伊豆半島および三浦半島沿岸で採取したムツ属若魚 168 個体を本法により分析した結果,4 個体で形態分析の結果と一致しなかったが,大部分がムツの若魚であることが明らかとなった。

74(3), 503-510 (2008)
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ITS1 領域の PCR-RFLP 分析によるマテガイ 2 種(Ensis arcuatus, E. Siliqua)の種判別

Ruth Freire, Juan Fernández-Tajes,
Josefina Méndez (Univ. A Coruna, Spain)

 ヨーロッパにおいて経済的に最も重要なマテガイ類 2 種(Ensis arcuatusE. Siliqua)は小売価格が異なるが,殻の形態が類似することからよく混同される。これらを簡便且つ確実に判別する手法を開発するために,ITS-1 領域の PCR-RFLP 分析を行った結果,KspI の RFLP パターンにより 2 種を正確に同定できることがわかった。従って,本研究は市場におけるトレーサビリティと標示規制の実施に有用であると考える。
(文責 木島明博)

74(3), 511-515 (2008)
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FIASCO 法および EST データベース探査によるアカザラガイのマイクロサテライトマーカーの開発

Aibin Zhan, Zhenmin Bao, Xiaoli Hu, Shi Wang,
Wei Peng, Mingling Wang, Jingjie Hu
(Ocean Univ. China),
Chengzhu Liang, Zhiqin Yue
(Shandong Entry-Exit Inspec. Quarant. Burau)

 アカザラガイにおける分子育種の推進のために FIASCO 法と EST データベースによってアカザラガイのマイクロサテライトマーカー 95 座の開発を行った。その結果,FIASCO 法では 3-16 アリルの多型(平均 7.0 アリル/座)を示す 70 マイクロサテライト座が得られた。一方,EST データベースからは 23 マイクロサテライト座(4.2 アリル/座)が得られた。本研究の結果から,アカザラガイのマイクロサテライトマーカーの単離には FIASCO 法が低コストで効率的であることがわかった。
(文責 木島明博)

74(3), 516-526 (2008)
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沖縄島南風原ダムに定着したジルティラピアの年齢,成長と成熟

石川哲郎,立原一憲(琉球大理)

 沖縄島南風原ダムに導入されたジルティラピアの年齢,成長と成熟を明らかにした。産卵期は,4, 5 月を盛期とする 4~8 月と推定され,成熟体長は,雌雄でそれぞれ 38.1 mm, 33.0 mm であった。本種の耳石不透明帯は,2~6 月に形成される年輪であり,最高年齢は雌で 7 歳,雄で 6 歳であった。von Bertalanffy の成長式は,雌で Lt=99{1-exp [-0.67(t+0.09)]},雄で Lt=155{1-exp [-0.36(t+0.12)]}であった。

74(3), 527-532 (2008)
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有明海と不知火海におけるアサリ Ruditapes philippinarum のアロザイム変異と外国産アサリの混合率解析

Kelly Vargas,浅倉佳穂(海洋大),
池田 実(東北大院農),谷口順彦(福山大),
小畑泰弘(水研セ玉野セ),
浜崎活幸,土屋光太郎,北田修一(海洋大)

 日本における外国産アサリの遺伝子侵入リスクを評価する手始めとして,九州西部から採取したアサリ,渤海沿岸から輸入されたアサリ(中国金州)と近縁種 R. bruguieri(北朝鮮南哺)のアロザイム変異を 6 酵素・8 遺伝子座で調べた。また,これらの対立遺伝子頻度に基づき,有明海での混合率を推定した。アサリ標本間の遺伝的差異は小さかったが,地理的距離に応じた分化が伺えた。中国アサリの混合率は 4~5 割と推定されたが,標本間の高い遺伝的類似性に起因して推定精度は低かった。

74(3), 533-543 (2008)
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東中国海と黄海に分布するコイチ Nibea albiflora のミトコンドリア DNA 分析によって明らかになった集団構造について

韓 志強,高 天翔(中国海洋大),
柳本 卓(水研セ遠洋水研),桜井泰憲(北大院水)

 東中国海から黄海に分布するコイチ Nibea albiflora の集団構造を明らかにするため,mtDNA の調節領域 479bp の塩基配列分析を行った。65 個体から 37 ハプロタイプが得られ,ハプロタイプ多様度は 0.9130±0.0308(舟山)から 0.9926±0.0230(厦門)と高く,塩基多様度は 0.0073±0.0043(青島)から 0.0099±0.0057(厦門)と低かった。AMOVA 分析と FST 分析から,黄海と東中国海では遺伝的な差異は見られなかった。ミスマッチ分析から,85,000 から 170,000 年前に集団の拡大が起こったと考えられた。本研究の結果,移動回遊や海洋環境などにより,集団を遺伝的に均一にしていると考えられた。

74(3), 544-552 (2008)
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スルメイカ Todarodes Pacificus の水温と生殖腺発達および窶れ現象との関係

木所英昭(水研セ日水研),桜井泰憲(北大院水)

 スルメイカの産卵場および海洋環境と生殖器官の発達の関係を,1999 年冬季に日本海南西部及び東シナ海で調査した。調査海域の表面水温は 12.7~23.2℃ であった。成熟雌は東シナ海北部の陸棚場に多く見られ,この海域が主産卵場と判断された。平均 OSI と ODSI は表面水温 15℃ 以上の調査点で高く,表面水温と共に上昇した。反対に平均 MI と HSI は表面水温 15℃ 以上の調査点で低下した。この結果は,雌の生殖器官は水温 15℃ 以上で発達するが,この環境において親イカは痩せ細る傾向にあることを示している。

74(3), 553-561 (2008)
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異なる生態を持つ 3 種の異体類の視力と視軸の比較について

松田圭史(北大院水),鳥澤眞介(近大農),
平石智徳(北大院水),山本勝太郎(北大院水)

 ソウハチ,ババガレイ,アカガレイを対象とした合理的漁業の立案を目指して,これらの視覚について知見を得ることを目的とした。組織学的手法により網膜の錐体密度と分布から視力と視軸を求めた。水晶体の焦点調節能力と移動方向を測定した。最大視力はそれぞれ 0.127 (TL344 mm), 0.092 (TL372 mm), 0.109 (TL437 mm) となった。視軸はそれぞれ上方と前方,前方と前方下,前方下であり,水晶体移動方向の平均は 2°上方,13°上方,32°上方となり視軸で遠近調節が行われていた。同全長の 3 種を比較した時,最大視力を発揮する方向が異なることが示唆された。

74(3), 562-572 (2008)
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マナマコ Apostichopus japonicus における亜致死水温暴露による温度耐性の誘導と熱ショックタンパク質 Hsp70 の発現

Yunwei Dong, Shuanglin Dong(中国海洋大)

 20℃ に馴致した稚マナマコ(0.5±0.1 g)の亜致死水温は 30℃,致死水温は 34℃ であった。2 時間の 30℃ への暴露後,24, 48 もしくは 72 時間後に 34℃ に 2 時間暴露し,20℃ に戻して 7 日後の生残率を求めたところ,30℃ への事前暴露をしない群に比べ,24 および 48 時間区で著しく生残率が増加した。稚マナマコに含まれる Hsp70 量は 30℃ への暴露直後に増加し,その後ほぼ直線的に減少した。このことから,温度耐性の誘導と Hsp70 の発現には緊密な関連があるものと考えられた。
(文責 都木靖彰)

74(3), 573-578 (2008)
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北海道及び本州北部の太平洋沿岸における太平洋ニシンの遺伝的集団構造と放流再捕魚の遺伝的変異性

菅谷琢磨(養殖研),
佐藤通洋,横山恵美,根本雄太,藤田智也(海洋大),
大河内裕之(水研セ本部),
浜崎活幸,北田修一(海洋大)

 北海道及び本州北部の太平洋沿岸の 3 海域と 3 つの汽水湖の太平洋ニシンについて天然魚と放流再捕魚のマイクロサテライト DNA 分析(5 ローカス)を行い,遺伝的集団構造と種苗放流の遺伝的影響を検討した。本州の 2 海域間を除く全地点間でアリル頻度が有意に異なり,FST も有意であった。また,北海道内の FST が比較的小さく,北海道と本州の間に AMOVA 分析で有意差があったことから,集団構造が産卵回帰で維持されている可能性が考えられた。再捕魚は放流海域の天然集団と遺伝的に均質であり,種苗放流の影響は検出されなかった。

74(3), 579-588 (2008)
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日本中部産アマモにおける種子発芽と実生の生長に及ぼす温度特性

阿部真比古(水研セ西海水研),
倉島 彰,前川行幸(三重大生物資源)

 アマモの種子と実生を室内培養し,種子の発芽適温と実生の生長適温・上限水温を明らかにしようとした。種子発芽は 5~25℃ で起こり,10~15℃ で活発であった。25℃ では発芽しても枯死した。実生の生長は 20℃ で最も良く,次に 25℃ であった。29~30℃ では草体は脱色・枯死した。以上よりアマモの生育限界水温は 28℃ であった。発芽と実生の適温は天然群落での種子発芽と実生出現水温とほぼ一致し,上限水温は実生出現時の水温より高かった。

74(3), 589-593 (2008)
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東北地方太平洋岸沖におけるキチジの分布水深の経年変化

服部 努,成松庸二,伊藤正木,
上田祐司(水研セ東北水研八戸),
北川大二(水研セ北水研)

 2003~2005 年の東北海域北部・南部において,水深 500~600 m での体長 11~20 cm の個体の増加に伴い,体長 10 cm 以下の主分布水深が 500~600 m から 600~700 m に変化した。また,体長 20 cm 以下の主分布水深が 1997~2003 年に南部でのみ 300~600 m から 500~600 m に変化し,南部の水深 300~500 m の数種の底生魚類とキチジの重量密度の間に負の相関がみられた。これらのことから,キチジ内の競争に加え,種間競争がキチジの分布の変化に影響した可能性が示唆された。

74(3), 594-602 (2008)
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コイより分離されたグレリン遺伝子の構造および発現解析

河野智哉(宮崎大農),北尾陽一(宮崎大農),
園田航平(宮崎大農),野本竜平(鹿大連合農),
米加田 徹(宮崎大農),酒井正博(宮崎大農)

 コイより分離されたグレリン遺伝子は,103 残基のアミノ酸をコードしており,シグナルペプチド,グレリンドメイン,C-末端ペプチドを保存していた。コイのグレリンは他の硬骨魚類のグレリンに高い相同性を示し,系統解析からも近縁であることが確認された。またゲノム構造は,4 つのエキソンと 3 つのイントロンより構成されており,他の硬骨魚類およびヒトのグレリン遺伝子と同じであった。コイのグレリン遺伝子の発現は,前腸,後腸,鰓,脳および脾臓で確認され,さらに LPS, PHA, Imiquimod の刺激によって増加した。

74(3), 603-612 (2008)
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アクチン関連タンパク質 4 遺伝子の増幅断片長多型を用いたアサクサノリとスサビノリの簡便な識別法

朴 恩貞,遠藤博寿,北出幸広,嵯峨直恆(北大院水)

 アサクサノリとスサビノリという 2 つの近縁種を簡便かつ短時間で識別する方法を確立した。5 株のアサクサノリ(日本 2 株・韓国 3 株)と 7 株のスサビノリ(日本 5 株・韓国 2 株)の間で ARP4 遺伝子の配列を解析したところ,すべてのスサビノリ株はアサクサノリ株に比べ 60 bp 長いイントロンを有しており,両者はアガロース電気泳動において容易に区別することができた。PCR とアガロース電気泳動のみで簡便にこれら 2 つの近縁種を判別できる増幅断片長多型の報告はこれが初めてである。

74(3), 613-620 (2008)
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凍結ニジマス精液の受精能力の評価

黒倉 寿(東大院農),
Khin Maung Oo (Lushio University)

 運動精子の割合が低い新鮮精液を実験的に作り,その受精結果に確率モデルを適応し,運動精子率,卵への媒精密度,受精率の関係を調べた。個々の精子の受精確率は,媒精液中の精子密度の増加に伴って低下し,そのために,媒精精子密度の増加にともなって,卵の受精率は最大受精率に達した後に低下することがわかった。この数式モデルを,凍結精液による受精実験の結果に当てはめたところ,90% 以上の受精率を得るためには,5 % 以上の運動精子率が必要であることが明らかになった。

74(3), 621-626 (2008)
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無酸素環境下におけるコイおよびフナの生残は組織の高亜鉛濃度と関係している

Sen-Shyong Jeng, Tzu-Yung Lin, Ming-Shyong Wang,
Yu-Yin Chang, Chao-Yi Chen, and Chih-Chieh Chang
(国立台湾海洋大)

 無酸素環境下において 25~31℃ で 5 日間飼育した場合のコイの死亡率は群により異なった(平均 17%)が,フナの死亡率は 0% であった。コイの消化管の亜鉛濃度は死亡した個体に比べ生き残った個体で有意に高かった。フナの消化管の亜鉛濃度はさらに高かった。無酸素環境への抵抗性の低いコイに高亜鉛餌料を与えて 1~6 ヶ月飼育したところ,消化管の亜鉛濃度が増加し,無酸素環境下における生残率が高まった。これらのことから,コイおよびフナの無酸素環境への抵抗性はその組織における高亜鉛濃度と関係しているものと考えられた。
(文責 都木靖彰)

74(3), 627-634 (2008)
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シベリア高麗人参抽出残滓のヒラメ自然免疫に対する効果

Kyoung Mi Won (Pukyong Natl. Univ.),
Pyong Kih Kim (Kangwon Province Univ.),
Sung Hee Lee (UnJung ChengSomBang Co.),
Soo Il Park (Pukyong Natl. Univ.)

 シベリア高麗人参抽出残滓(SG-RE)のヒラメ自然免疫に対する効果を調べた。市販の餌に 3 % の SG-RE を添加し 8 週間投与したところ,腎臓白血球の貪食能および Nitroblue Tetrazolium 還元能が高まるとともに,血清および体表粘膜のリゾチウム活性も上昇した。さらに,SG-RE を投与したヒラメは Edwardsiella tarda および Vibrio anguillarum の感染に対して抵抗性を示すようになった。
(文責 廣野育生)

74(3), 635-641 (2008)
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天然雌ウナギの人為成熟および産卵における銀化の影響

岡村明浩,山田祥朗,堀江則行,宇藤朋子,
三河直美,田中 悟(いらご研),
塚本勝巳(東大海洋研)

 天然雌ウナギ(n=36)を銀化の進行度に応じて 4 段階(Y1, Y2, S1, S2)に分け,ホルモン投与による成熟・産卵誘起を試みた。Y1(n=8)および Y2(n=7)では成熟が進行せず(GSI:0.3~0.9)全ての個体が死亡したが,S1(n=16)および S2(n=7)では多くの個体(S1:81%,S2:100%)で成熟が進行し(GSI:17.8~51.4)産卵に至った(S1:69%,S2:89%)。S1 は最終成熟期到達に 6~8 回のホルモン投与を要したが,S2 は 5~6 回で到達した。S2 の産卵量は S1 に比べ有意に多かった。一方,受精率・孵化率には差がなかった。よって,卵・仔魚を効率良く得るには S2 を用いるべきである。

74(3), 642-648 (2008)
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連続培養ワムシ Brachionus plicatilis の脂肪酸組成に及ぼす高密度ナンノクロロプシスと淡水クロレラ併用給餌の影響

小林孝幸(荏原実業中研,海洋大),
長瀬俊哉(荏原実業中研),
日野明徳(東大院農),竹内俊郎(海洋大)

 連続培養 L 型ワムシの脂肪酸組成に及ぼす高密度ナンノクロロプシスと濃縮淡水クロレラ併用給餌の影響を調べた。その結果,併用給餌ワムシは,16:0, 16:1n-7, 18:1, 18:2n-6, 20:5n-3 (EPA), 22:5n-3 (DPA) をある程度含有し,DPA に関しては,中性脂質よりも極性脂質中に多く存在した。また Σn-3 系列酸と Σn-6 系列酸は同比率であった。さらに単独給餌から併用給餌へ,併用給餌から単独給餌への餌料切り替えに速やかに対応し,併用給餌はワムシの密度増加に有効で,n-6/n-3 比率の組成制御も可能であることが分かった。

74(3), 649-656 (2008)
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メバル幼魚の胃内容物と成長に対する生け簀の夜間照明の影響

Ho-Seop Yoon (Chonnam Natl Univ.),
Chul-Won Park (Korea Ocean Res. Devel. Inst.),
Sung-Yong Moon, Kyeong-Ho Han Hae-Lip Suh,
Yun-Keun AN, Sang-Duk Choi (Chonnam Natl. Univ.)

 メバル幼魚の胃内容物と成長に対する,生け簀の夜間照明の影響を調べた。夜間照明をおこなったとき胃内容物は橈脚類 62.6%,等脚類 36.7%,多毛類 0.3% であったが,夜間照明がない場合にはそれぞれ 93.3%, 6.1%, 0.4% であった。日間の成長率は夜間照明がない場合には 0.27% であったのに対し,夜間照明を行ったときは 0.67% で有意に高かった。生け簀おける夜間照明の動物プランクトン誘因効果と,魚の成長との関係を論じた。
(文責:延東 真)

74(3), 657-661 (2008)
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海洋堆積物中から分離されたチロシンナーゼインヒビター生産糸状菌の形態学的特徴と培養条件

山田勝久,今田千秋(海洋大),内野昌孝(東農大),
小林武志,濱田(佐藤)奈保子(海洋大),
高野克己(東農大)

 海底堆積物から分離した Trichoderma sp. H1-7 株について系統解析および生理学的手法によりその性状を解析した。その結果,本菌株を T. viride と同定した。

 本菌株の特徴である培養上清のチロシナーゼ阻害活性(TI)について調べた結果,TI は,培養 3 日目に極大値を示したのち急激に減少した。また TI の生産には,海水は必要ではないことがわかった。本菌株と T. viride(陸上起源)の TI の生産を比較したところ,本菌株の方がはるかに高かった。なお,本菌株が生産した TI の単離,精製は現在続行中である。

74(3), 662-669 (2008)
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紅藻 Gracilaria vermiculophylla 由来グリセロ脂質加水分解酵素の精製と性質

Muhammad I. Illijas,寺崎 将,中村 良(北大院水),
飯島憲章(広大院生物圏),
原 彰彦,伏谷伸宏,板橋 豊(北大院水)

 プロスタグランジン産生海藻として知られる紅藻 Gracilaria vermiculophylla(オゴノリ)よりグリセロ脂質加水分解酵素を精製した。精製酵素は,SDS-PAGE では 20 kDa の単一バンドを示したが,FPLC 分析では 40 kDa の位置に溶出し,ホモダイマーと推定された。本酵素の至適温度は 37℃ で,至適 pH は 7.0~8.0 を示し,グリセロ糖脂質とリン脂質を加水分解した。これらの結果から,本酵素がオゴノリの細胞膜脂質よりプロスタグランジンの基質となるアラキドン酸を遊離させるものと考えられる。

74(3), 670-676 (2008)
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ムラサキイガイ twitchin の組織特異的アイソフォーム

日下美穂,池田大介(東大院農),
舩原大輔(三重大院生資),
David J. Hartshorne(アリゾナ大),
渡部終五(東大院農)

 Twitchin アイソフォームの存在を調べる目的で,ムラサキイガイ twitchin の Ser-1075(D1)または Ser-4316(D2)リン酸化領域およびキナーゼドメイン領域について組織別に転写産物の発現解析を行った。その結果,キャッチ筋 twitchin は上記 3 領域とも含むのに対して,非キャッチ筋では D1 領域を欠くアイソフォームが見つかった。ゲノム DNA 解析を行ったところ,このアイソフォームは選択的スプライシングにより生合成されることが示された。

74(3), 677-686 (2008)
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高塩分耐性によって判定したアルビノのヒラメ孵化仔魚の生存能力(短報)

嶋田幸典,青海忠久(福井県大生物資源)

 ストレス条件下でのアルビノヒラメの生存能力を調べるために,孵化後 1 日齢のアルビノ孵化仔魚の高塩分に対する平均生存時間と半数致死濃度を通常体色個体(アルビノ遺伝子をヘテロで保持する家系の個体も含む)と比較した。平均生存時間および半数致死濃度において家系間に有意差が認められ,塩分耐性で示されるアルビノの生存能力は通常体色個体より劣っていることが示唆された。

74(3), 687-689 (2008)
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生産地の異なるニホンウナギにおけるビタミン K 量の相違(短報)

宇田川美穂,山下由美子(水研セ中央水研)

 愛知,宮崎および台湾で飼育されたニホンウナギの筋肉および肝臓のビタミン K を分析し,生産地別の特徴を明らかにした。愛知・宮崎産のウナギの筋肉および肝臓中には共にメナキノン(MK)-4 が大量に含まれていたが,フィロキノン(PK)や長鎖の MK は僅かしか存在しなかった。一方,台湾産のウナギでは筋肉中に MK-4 の他に PK が検出され,肝臓中には大量の長鎖 MK が検出された。これらビタミン類の体内分布の相違は,各地の餌の違いによるものであると考えられた。

74(3), 690-692 (2008)
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各種魚の晒肉から調製したアクトミオシン中のカテプシン L, B, H 及びトリプシン様活性の分布(短報)

胡 亜芹,森岡克司,伊藤慶明(高知大農)

 晒肉中に残っているプロテアーゼ(Pase)活性を明らかにする一環として,15 種の魚及び 3 種の冷凍すり身の晒肉からアクトミオシン(AM)を調製し,その中のカテプシン L, B, H 及びトリプシン様活性を調べた。また,これらの Pase と AM との結合性を見るため,AM をゲルろ過にかけて活性の分布を調べた。その結果,いずれの Pase 活性も認められたが,カテプシン L の活性はいずれの魚種でも高かった。また,ゲルろ過の結果,カテプシン L はそのほとんどが AM とは結合していないものと判断した。他の Pase の結合性は明かではなかった。

74(3), 693-695 (2008)
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数種の魚類アクトミオシン中のカテプシン L 活性に及ぼす魚肉水晒し及び希釈沈殿の影響(短報)

胡 亜芹,森岡克司,伊藤慶明(高知大農)

 アクトミオシン中にカテプシン L 活性が高かったことから,3 種の魚を用い,アクトミオシン調製までの各処理(低イオン強度溶液での洗浄及び抽出後の希釈沈殿)によるカテプシン L の活性の挙動を調べた。その結果,魚肉中のカテプシン L の活性の強さに関わらず,洗浄及び希釈沈殿ではアクトミオシン中のカテプシン L の全活性及び比活性が低下せず,このプロテアーゼはアクトミオシン抽出の過程で除去されないものと結論した。

74(3), 696-698 (2008)
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