Fisheries Science 掲載報文要旨

音響散乱層を用いた ADCP の平均体積後方散乱強度の検討について

李坰勲(韓国水産科学院),向井 徹(北大院水),
李旲在(釜慶大),飯田浩二(北大院水)

 海洋に広く均一に分布している音響散乱層を利用して ADCP の 4 ビームの感度を揃えるとともに,較正済の計量魚探機により得られた MVBS と比較した。時間経過に伴う MVBS の増減は,4 ビームで同様の傾向を示した。また,ADCP と計量魚探機の MVBS の間にも同様な傾向が見られた。両者の間に生じた偏差は,音響散乱層を構成する生物の音響散乱の周波数特性によるものと考えられた。この手法を用いて 4 ビーム間の感度を揃え,さらに較正済の計量魚探機の MVBS と比較することにより生物密度推定の可能性が示唆された。

74(2), 221-229 (2008)
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綿糸刺網の引っ張り強さの経時変化

松下吉樹(長大水),町田秀介,兼広春之(海洋大),
仲村文夫(千葉水総研セ),本多直人(水研セ水工研)

 千葉県の少数の漁業者は綿糸製の刺網でイセエビを漁獲している。綿糸網の網目の引っ張り強さの変化を,漁業で使用した場合と海水中に連続して浸漬した場合で比較した。新品の平均引っ張り強さは 50.3 N であったが,海水に連続浸漬して 38 日後には 19.0 N, 82 日後には簡単に千切れる程度(0.07 N)となった。一方,漁業で使用した綿糸網は,19 ヶ月間で累積 744.4 時間浸漬され,その時点で新品の 86% の強度を保っていた。綿糸網の網目の引っ張り強さは,漁業での使用ではそれほど低下しないが,流出した際には急激に低下する。

74(2), 230-235 (2008)
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海底地形が人工魚礁の周囲の流れに与える影響に関する研究

Dong-Taur Su (Natl. Taiwan Ocean Univ.),
Tsung-Lung Liu (Natl. Defence Univ.),
Chinig-Hsiuwn Ou (Natl. Taiwan Ocean Univ.)

 人工魚礁のデザインと周囲の流れについて,多くの研究が行われてきたが,設置される海底の地形の影響については注意が払われてこなかった。本研究では人工魚礁の周囲と内部の流れが,海底地形の影響をどのように受けるかを数値シミュレーションによって検討した。海底を台形法で傾斜の異なる凹型および凸型に近似し,18 種類の人工魚礁と海底地形の組み合わせについてシミュレーションを行った。この方法は人工魚礁漁場造成の際に,海洋技術者や生物学者に有効な知見を事前に提供する。
(文責 松下吉樹)

74(2), 236-254 (2008)
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スケトウダラの年齢査定における黒色樹脂を用いた耳石大量処理法

小岡孝治,八吹圭三(水研セ北水研)

 スケトウダラの年齢査定を行う際に 10~20 個の耳石を一列にならべ,黒色樹脂で包埋し,耳石の中心を通る横断面をそのまま観察した(黒色樹脂法)。耳石外縁部の季節変化および卓越年級群の追跡から,透明帯が 1 年に 1 本形成されるという仮定を支持する結果が得られた。査定年齢を本種の標準的査定法であるブレイク・バーン法と比較した結果,両者の間にはバイアスがなく,変動係数もほぼ同じ(3.5~5.7%)であった。よって,黒色樹脂法はスケトウダラの年齢査定法として信頼できるものと考えられる。

74(2), 255-264 (2008)
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沖縄島におけるミナミクロサギの成熟

HKanak MD. Khaled,立原一憲(琉球大理)

 2002 年 11 月~2005 年 11 月に沖縄島でミナミクロサギを採集し,生殖腺指数と生殖腺の組織学的観察から産卵期を調べた。卵巣は 3~9 月,精巣は 3~8 月に発達し,産卵盛期は 4, 5 月であると推定された。雌の肝量指数,腹腔内脂肪指数と肥満度は,生殖腺指数の増加に伴い減少した。雌の最小成熟体長は 89.7 mm,雄では 81.4 mm であり,50% の個体が成熟する体長は雌で 104 mm,雄で 92 mm であった。バッチ産卵数(BF)と体長(SL;mm)および体重(BW;g)の関係は,BF=46.7e1.64SL, BF=19,697e0.49BW で表された。

74(2), 265-275 (2008)
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マアジ稚魚はクラゲを捕食者回避のためおよび餌のコレクターとして利用する

益田玲爾,山下 洋(京大フィールド研セ),
松山倫也(九大院農)

 マアジがクラゲに寄りつくことの生態的意義を検討した。水槽実験では,捕食者に襲われた際,マアジ稚魚はミズクラゲに隠れること,またマアジはミズクラゲの集めた餌をクラゲの胃腔から奪うことが観察された。若狭湾に来遊したエチゼンクラゲを潜水観察したところ,マアジ稚魚はクラゲに蝟集する魚の中では最優占種であり,体長 10~45 mm の範囲であった。岩礁域に出現するマアジは体長 40 mm 以上であることから,このサイズに至るまでのマアジ稚魚は,クラゲに寄りつくことにより生残確率と摂餌効率を高めているものと考えられた。

74(2), 276-284 (2008)
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筑前海沿岸域における流れ藻随伴魚類相の出現様式

西田高志,松永 敦,鬼倉徳雄,及川 信,
中園明信(九大院農)

 2002 年から 2006 年にかけて筑前海沿岸で 51 種 5475 個体の流れ藻に随伴する魚類を採集した。出現したそれぞれの種は季節的消長を繰り返し,種数・個体数ともに水温との有意な正の相関が見られた。
 本研究と約 50 年前の流れ藻に随伴する魚類の出現季節をもとに出現様式を類型化し比較したところ,出現様式自体に大きな変化は認められなかった。しかしながら,種レベルに見ると出現時期が長期化した種や短期化した種がおり,出現様式が変化した種がいることが明らかになった。

74(2), 285-292 (2008)
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サクラマスの腹椎と尾椎における椎骨数の遺伝率と遺伝相関の推定

安藤大成(道孵化場),真野修一(道孵化場道南),
小出展久(道孵化場),中嶋正道(東北大院農)

 サクラマスの腹椎(AV)と尾椎(CV)における椎骨数の遺伝率と遺伝相関を調べるため,10 家系を作出し,親子間で両形質の比較を行った。子の総脊椎骨数は同一条件下の飼育においても家系毎に異なっていた。親子回帰による遺伝率は AV で 0.65, CV で 0.84 と推定され,両形質の遺伝相関は-0.92 であった。このことよりサクラマスの椎骨数は AV,CV 共に高い遺伝性を持ち,AV と CV が負の遺伝相関を持つことで総脊椎骨数をある範囲内に保つ仕組みを持つことが示唆された。

74(2), 293-298 (2008)
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アマモ群落におけるシュートの分布パターンと群落内光環境の関係

阿部真比古(水研セ西海水研),
横田圭五(三重県農水商工部),
後藤真樹(岡山県農林水産部),
倉島 彰,前川行幸(三重大生物資源)

 アマモ群落の維持に関わる群落構造と群落内光環境の変化を調査した。高密度期は大型・小型草体・生殖株が大きな集中分布を形成していた。密度減少期や低密度期は小さな集中分布に変化し,草体間は適度な距離を保っていた。低密度期は群落内の光は海面に対して 53.3% に達したが,高密度期では 10.2% であった。高密度期は生育に必要な光が床部に達していなかった。
 群落構造と群落内光環境の観点から,アマモ群落では草体長の違いや草体間にできる空間が競争を引き起こし,群落更新が安定的に行われていると考えられた。

74(2), 299-307 (2008)
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カタクチイワシ及びマイワシ仔魚の耳石と体サイズの関係に及ぼす成長速度の影響

高須賀明典,大関芳沖(水研セ中央水研),
青木一郎(東大院農),木村 量,久保田 洋,
杉崎宏哉,赤嶺達郎(水研セ中央水研)

 様々な環境下で採集されたカタクチイワシ仔魚及びマイワシ仔魚の耳石サイズと体サイズの関係を調べた。耳石半径と体長の間にはアロメトリー式で表される強い相関関係が確認された。しかし,同体長における耳石半径の相対的大きさは体成長速度と有意な負の関係にあり,同じ体サイズでは成長速度が低い個体ほど耳石サイズが大きい傾向があった。この現象はマイワシ仔魚の方でより顕著であった。成長速度の影響の程度は魚種特異的であると考えられるため,耳石サイズと体サイズの関係を利用する解析ではこれを精査する必要がある。

74(2), 308-313 (2008)
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クロマグロ稚魚の錐体オプシン遺伝子のクローニングと網膜における錐体細胞配列

宮崎多恵子,神原 淳(三重大院生資),
滝井健二(近大水研),石橋泰典(近大農),
熊井英水(近大水研)

 クロマグロ稚魚(全長 50~260 mm)の錐体オプシン遺伝子をクローニングするとともに,網膜における錐体細胞の配列を調べた。その結果,1 種類の青オプシンと 2 種類の緑オプシン遺伝子が単離され,稚魚は 2 色色覚型であると推定された。mRNA は,青オプシンは単錐体で,緑オプシンは複錐体で発現していた。単錐体は胴側から腹側に分布し,背側と吻側にはほとんど無いことから,稚魚は前方から上方に短波長(青)視を備えた最も優れた色覚を有し,下方向では長波長(緑)の光を背景にして物体をシルエット視していると推察された。

74(2), 314-321 (2008)
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世界最南限のイワナ個体群キリクチの保全における河川内構造物の設置

佐藤拓哉,曽根亮太,有薗正弘(三重大院生資),
名越 誠(奈良女子大)

 紀伊半島の小河川において河川内構造物の設置を行い,物理環境の変化と魚類の反応を 2 年に亘って調べた。構造物下流に形成された淵は,大部分が 2 年に亘って維持されたが,構造物上流にしばしば土砂堆積が認められた。魚類は,2 年に亘って造成された淵を利用したが,キリクチは,事前にアマゴを除去した区間でのみ淵を利用していた。本研究の結果より,構造物上流の土砂堆積過程や魚種による反応の違いに考慮すれば,河川内構造物の設置が日本の山地渓流河川においても,短期的には魚類の生息場所改善に貢献する可能性が示唆された。

74(2), 322-329 (2008)
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ミトコンドリア DNA 解析による沖縄島産シオマネキ絶滅危惧集団の低い遺伝的変異性

青木美鈴(琉球大理),成瀬 貫(シンガポール大理),
鄭 金華(台湾水試東港),
鈴木泰也(海の中道海洋生態科学館),
今井秀行(琉球大理)

 日本 6 地域と台湾 2 地域の合計 8 地域のシオマネキ Uca arcuata 集団標本群について,ミトコンドリア DNA を利用した PCR-RFLP 分析による遺伝構造解析をおこなった。その結果,シオマネキの沖縄県内における生息が沖縄島中城湾に限られている集団標本は,他の集団標本とは異なった遺伝構造と著しく低い遺伝的多様性を示した。また沖縄島集団の遺伝的特徴は,小集団化に伴う遺伝的浮動の影響や他地域からの遺伝子流動がほとんどないことが示唆された。したがって,中城湾の干潟環境の保全は,沖縄島の集団を維持するうえで重要であると考えられる。

74(2), 330-340 (2008)
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ギンブナ CD4 の cDNA クローニング

野中誠子,杣本智軌,鵜木(加藤)陽子(九大院農),
乙竹 充(水研セ養殖研),
中西照幸(日大生物資源),中尾実樹(九大院農)

 自然界で雌性発生を行うギンブナはクローン系統を容易に確立できることから,MHC 拘束性の T 細胞の機能解析に有用であることが示されている。本研究では,ヘルパー T 細胞マーカーであるギンブナ CD4 の cDNA クローニングを試みた。ギンブナ CD4 は,4 つの Ig-様領域,膜貫通領域,細胞内領域から構成されており,胸腺,腎臓,末梢血白血球といった T 細胞が多く存在する組織で強く発現していた。ギンブナにおいて CD4 の遺伝子配列が明らかとなったことから,魚類のヘルパー T 細胞の機能解明の進展が期待される。

74(2), 341-346 (2008)
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カゼイン飼料を用いたマダイ稚魚のタウリン要求量

松成宏之(海洋大),
山本剛史,金 信權(水研セ養殖研),
後藤孝信(沼津高専),竹内俊郎(海洋大)

 タウリンを 0, 0.1, 0.3, 0.5, 0.7% あるいはタウロコール酸を 0.5% 添加したカゼイン飼料を平均体重 4.7 g のマダイ稚魚に 6 週間給与した。タウリンの添加量増加に伴い成長および飼料効率が改善され,それぞれ 0.52% および 0.48% 添加で最大となるとともに,魚体中のタウリン含量,胆汁抱合胆汁酸濃度および肝臓中の粗脂肪含量も増加した。以上の結果から,カゼイン飼料におけるマダイ稚魚のタウリン要求量は約 0.5% と推察された。一方,タウロコール酸の添加は,これらの指標に大きな影響を及ぼさなかった。

74(2), 347-353 (2008)
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テイラピアインスリン様増殖因子を発現する組み換え大腸菌粉末配合飼料の給餌によるゴウシュウダイ Lutjanus erythropterus 稚魚の成長および魚体組成

Wen-Liang Liao, Hsin-Hui Lu, Shun-Kuo Huang(国立台湾大水産研),
Jen-Leh Wu(台湾中央研究院),
Jan-Hsiung Huang(国立台湾大微生物生化研),
En-Chung Lin(国立台湾大動物)

 体重 12 g のゴウシュウダイ稚魚にそれぞれ 0.25%, 0.5%, 1%, 2.5% および 5 % となるようにテイラピアインスリン様増殖因子を発現する組み換え大腸菌(BL21-tIGF-I)粉末を配合した飼料を 42 日間給餌し,成長および魚体組成への影響を調べた。低投与区(0.25~1%)により成長が促進されたが,高投与区(2.5%, 5%)で成長が阻害された。次に,体重 23~24 g の稚魚に 0.5% BL21-tIGF-I 粉末配合飼料を 12 週間給餌した結果,対照の無投与区に比べて平均体重が顕著に高くなった。以上,BL21-tIGF-I の連続投与はゴウシュウダイ稚魚の成長に有効であることがわかった。
(文責 竹内俊郎)

74(2), 354-361 (2008)
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人為催熟された雌ウナギの筋肉,肝臓,卵巣の脂質含有量および脂肪酸組成の変化

尾崎雄一,古賀英裕,高橋貴子,足立伸次,
山内晧平(北大院水)

 サケ脳下垂体磨砕物(SPH)投与により人為催熟された雌ウナギの筋肉,肝臓,卵巣の脂質含有量および脂肪酸組成の変化を調べた。SPH 投与により成熟が進行するのに伴い,肝臓および卵巣の n-3 および n-6 HUFA 含有率は減少する傾向を示した。また,天然ウナギの各組織および人為催熟により得られた卵中の n-6 HUFA 含有率は飼育ウナギのそれらと比べ著しく高値を示した。そこで,親魚の餌料に植物油を混合することによる卵中の n-6 HUFA 含有率の増加を試みたが,卵中の n-6 HUFA 含有率に変化はみられなかった。

74(2), 362-371 (2008)
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ニジマスの高温選抜系と標準系の高温における摂餌活性の差異

稲野俊直(宮崎水試),延東 真(海洋大),
渡部終五(東大農院)

 ニジマスの高温選抜系と標準系の高温時の日間摂餌率を自発摂餌で調べた。0.3℃/日で緩慢昇温し 21 日で 25.7℃ にした実験 1 では,高温選抜系が 7.1% で標準系 4.1% より高かった。0.4℃/日で 22.9℃ にした実験 2 でも,0.8% と 0.2% で高温選抜系が高かった。1 日で 16.7℃ から 21.7℃ に昇温後,0.1℃/日で上昇させ 28 日間で 24.4℃ にした実験 3 では,高温選抜系は 1.0% であり,標準系の 0.1% より高かった。従って,高温選抜系は高温耐性が高いと考えられる。

74(2), 372-379 (2008)
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遺伝子組換え飼料原料の利用性―ニジマスにおける摂取外来遺伝子の検索

Pitchaya Chainark,佐藤秀一,廣野育生,
青木 宙,延東 真(海洋大)

 摂取された遺伝子組換え飼料原料由来の遺伝子断片をニジマスにおいて調査した。遺伝子組換え大豆から調製された大豆油粕配合飼料をニジマスに給餌し,組換え遺伝子断片の各組織での存在を確認した。2 週間給餌した直後には,消化管内容物,白血球,前腎および筋肉で確認されたが,非組換え大豆油粕配合飼料へ切り替えると,5 日後には検出されなかった。このことより,組換え遺伝子断片は,ニジマスの体組織には蓄積されないものと推察された。

74(2), 380-390 (2008)
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ゼブラフィッシュの初期発生におけるサイトカインおよび転写因子遺伝子の発現解析

伊藤かな子,瀧澤文雄(日大生物資源),
吉浦康寿,乙竹 充(水研セ養殖研),
中西照幸(日大生物資源)

 サイトカインは免疫応答の制御因子であるが,初期発生における形態形成にも関与することが哺乳類で明らかになっている。しかし,魚類では初期発生におけるサイトカインの役割に関する知見は極めて乏しい。そこで,ゼブラフィッシュ胚における各種サイトカインおよび転写因子の発現を調べた。RT-PCR 法の結果,免疫系の成立以前から IL-1β, TNF-α,タイプ I IFN, IL-12p-40 および Eomes 遺伝子の発現が認められた。以上より,魚類においても免疫関連遺伝子が初期発生に関与していることが示唆された。

74(2), 391-396 (2008)
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クロダイの成長と飼料成分の利用効率に与えるアマノリスフェロプラストの添加効果

Mohammad Nakib D. Khan(三重大院生資),
吉松隆夫(水研セ養殖研),
Alok Kalla,荒木利芳(三重大院生資),
酒本秀一(オリエンタル酵母)

 Porphyra yezoensis を実験室内で酵素処理によりスフェロプラスト状に調製し,風乾処理による乾燥粉末を得た(PS)。これを 0, 1, 3, 5% の量含むように半精製試験飼料に添加し,その添加効果をクロダイ(2.5 ヶ月齢)で総合的に検討した。供試魚は 100 L 容の PC 水槽に 20 尾ずつ収容し,一日に 3 回魚体重の 3 % の飼料を飽食給餌しながら 2 ヶ月間飼育した。その結果,PS を 3~5% 分添加することで供試魚の生残率が向上し,飼料成分として重要なタンパク質や脂質の魚体への転換率が高まった。さらに飼料効率も大きく向上するなど PS 添加の効果が認められ,3 % の添加でもっとも顕著であった。

74(2), 397-404 (2008)
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発光ダイオードを利用した細菌迅速検査装置による特定微生物の自動計数

西村昌彦(東大海洋研),
島北寛仁(松下エコシステムズ),
末崎拓広(マイクロウブリサーチ),
田代義和(松下エコシステムズ),
木暮一啓(東大海洋研)

 発光ダイオードを利用した細菌迅速検査装置による特定微生物の自動計数を試みた。市販の検査キットにより蛍光標識された被検菌 Escherichia coliCandida albicans は,本検査装置(Bioplorer: Panasonic Inc.)により高精度に検出計数された。本装置による微生物検出法は,野外調査における簡便で迅速な特定微生物の検出を可能とすることから,蛍光顕微鏡画像解析,フローサイトメトリーに次ぐ新たな光学検出法として期待される。

74(2), 405-410 (2008)
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Ca2+ 結合部位を変異させたマサバパルブアルブミンの IgE 反応性の低下

戸村聡子,石崎松一郎,長島裕二,塩見一雄(海洋大)

 魚類の主要アレルゲンは Ca2+ 結合性のパルブアルブミンである。マサバパルバアルブミンから Ca2+ を除去すると IgE 反応性は著しく低下した。さらに,Ca2+ 結合にとって重要な Asp-51, Asp-90 を Ala に置換した改変パルブアルブミン(D51/90A)も IgE 反応性をほとんど示さなかった。これらの結果から,マサバパルブアルブミンの主要な IgE 結合エピトープは Ca2+ 結合と関連した高次構造に依存しており,D51/90A は魚類アレルギーの免疫治療における抗原として有望であると判断した。

74(2), 411-417 (2008)
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フジツボ C-タイプレクチンの炭酸カルシウム結晶化に対する調節作用

松原裕樹,林 珠恵,小川智久,
村本光二(東北大院生命科),
神保 充,神谷久男(北里大水)

 アカフジツボから単離した複数の C-タイプレクチン(BRA-1, BRA-2, BRA-3)が炭酸カルシウム結晶の生成と成長におよぼす調節作用を調べた。BRA-2 が最も強い阻害活性を示し,アラゴナイトとカルサイトの結晶化を,それぞれ 3.3, 26 μg/mL 以上で阻害した。この阻害活性はアミノ糖やキトサンオリゴ糖,Arg や Asp の添加によって増強した。また,低濃度の BRA においては結晶は生成したが,その形態や大きさには多様性がみられた。これらの結果は,レクチンと生石灰化の関わりを支持する。

74(2), 418-424 (2008)
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メガイアワビ・アミラーゼの単離と性状解析

Meng-Shun Hsieh(国立台湾海洋大),
Li-Jung Yin(国立高雄海洋科技大),
Shann-Tzong Jiang(国立台湾海洋大,静宣大)

 メガイアワビ Haliotis sieboldii から,硫安分画と CM-Sepharose および Sephacryl S-100 カラムクロマトグラフィーにより,分子量 59,000 のアミラーゼを単離した。本酵素の至適 pH および至適温度は 6.0 および 37℃ であり,pH 6.0~8.0 および低温で安定であった。本酵素は,Ba2+, Mg2+, Ca2+, Co2+, Ni2+, Mn2+, K, Ag, Na and Li によって活性化されたが,Al3+, Cu2+, Cd2+, Hg2+, Zn2+, EDTA, IAA, NEM,尿素によって完全に,または部分的に阻害された。デンプンの分解様式から,本酵素は α-アミラーゼと同定された。
(文責 尾島孝男)

74(2), 425-432 (2008)
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韓国産二枚貝から液体クロマトグラフィー/質量分析法によりオカダ酸群が検出された最初の事例

Ji Hoe Kim(韓国国立水産科学院),
鈴木敏之(水研セ東北水研),
Ka Jeong Lee,Poong Ho Kim(韓国国立水産科学院),
神山孝史(水研セ東北水研),
Tae Seek Lee(韓国国立水産科学院)

 2006 年 1 月から 6 月まで,韓国南海岸の 5 定点で収集した二枚貝 38 検体の下痢性貝毒,オカダ酸(OA),ジノフィシストキシン(DTX)群及びその他脂溶性貝毒,ペクテノトキシン(PTX)群,エッソトキシン(YTX)を LC-MS 法により調べた。DTX1 と OA がムラサキイガイとカキの中腸腺から検出された。アサリの中腸腺からは DTX3 が検出された。PTX 群と YTX はどの試料からも検出されなかった。韓国産二枚貝から LC-MS により OA やその類縁体が同定されたのはこれが最初である。

74(2), 433-438 (2008)
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水産発酵食品から分離した Pediococcus pentosaceus Iz.3.13 の産生する抗菌物質の性質

Dominic K. Bagenda,林健太郎,山崎浩司,
川合祐史(北大院水)

 市販いずし由来 Iz.3.13 株の産生する抗菌物質の特性を調べた。Iz.3.13 株は一般性状,16SrDNA 塩基配列の結果から Pediococcus pentosaceus と同定された。Iz.3.13 株由来の抗菌活性はタンパク質分解酵素によって失活することからバクテリオシンと推察された。また,感受性菌へは殺菌的かつ溶菌的に作用した。精製標品のアミノ酸配列は,N 末端から 22 残基で Pediocin AcH と一致した。しかし,その分子量は MS 分析の結果,4621.6 Da となり Pediocin AcH とは一致しなかった。

74(2), 439-448 (2008)
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沖合域におけるヒラメ仔魚の採集事例(短報)

冨山 毅,水野拓治,上野山大輔,榎本昌宏,
早乙女忠弘(福島水試)

 2003 年 5 月上旬および 2005 年 5 月上旬に福島県沿岸から 260 km 以上,水深 3000 m 以上の沖合の表層でヒラメ仔魚が 2 個体採集された。これらの仔魚の推定ふ化時期が採集した場所の緯度におけるヒラメの産卵期よりも早い 4 月であること,2003 年と 2005 年のどちらも仔魚の採集地点で黒潮暖流の波及がみられたことから,採集した仔魚の起源は南方の水域と推定された。このように極度に沿岸から離れた場所に輸送された仔魚が成育場にたどり着くことは考えにくく,減耗過程にあった可能性が示唆された。

74(2), 449-451 (2008)
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ナマコ体壁グリセリンモデルの生理学的・電子顕微鏡的研究(短報)

Sukumar Chandra Noskor(鳥取大連合農),
大津浩三(島根大教研セ),松野 煒(島根大生資)

 ナマコの体壁は固さを変えることができ,しかも固いままの状態を長時間保つという特殊な機能をもつ。グリセリンモデルを使用して,固さを調節している塩類の影響について生理学的に調べた。このモデルは,50 mM NaCl 溶液中では柔らかく,10 mM CaCl2 溶液中では固くなり,Na と Ca2+ で固さ調節が行われることが示唆された。また,各々の状態のコラーゲン繊維を負染色で電子顕微鏡観察すると,表面に現れるパターンはお互いに異なっていた。

74(2), 452-454 (2008)
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ヒラメ仔稚魚におけるアルビノの成長遅延(短報)

嶋田幸典,青海忠久(福井県大生物資源)

 ヒラメ仔稚魚アルビノの成長や生存能力を通常体色個体間と比較検討した。個別飼育では卵黄吸収後の孵化後 5 日齢と 10 日齢にのみアルビノに成長遅延が認められたが,混合飼育では孵化後 1 日齢から 20 日齢までに成長遅延が認められ,加えて,生残率でも大きく低下した。また,孵化後 10 日齢の網膜の組織観察により,アルビノはメラニン色素の沈着量が通常体色個体と比較して少なかった。これらのことから,アルビノ仔稚魚の成長遅延や生残率の低下は,視覚能力の低下に基づき生じたと示唆された。

74(2), 455-457 (2008)
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スルメイカ Todarodes pacificus ふ化幼生の生残と発育における低塩分の影響(短報)

古川紘子,桜井泰憲(北大院水)

 スルメイカふ化幼生の発育と生残に対する低塩分水の影響を飼育実験により調べた。塩分 33.45, 31.47, 29.53, 27.58, 23.75 psu の 5 つの塩分環境下で飼育した幼生のうち,塩分 23.75 psu では他の処理区よりも奇形個体が多く見られ,塩分 29.53 および 27.58 psu ではその形態が正常であったものの,游泳行動が観察されなかった。これらより,本種のふ化幼生の野外での生残には,29.53 psu よりも高い塩分環境が必要であると考えられた。

74(2), 458-460 (2008)
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