Fisheries Science 掲載報文要旨

ヒラメの成長と体組成に及ぼすエクストルーディド飼料とモイストペレットの給餌頻度および飼育温度の影響

金 慶徳(Aquafeed Res. Centr., NFRDI),
金 京敏(Jeju Fish. Res. Inst., NFRDI),
姜 龍珍(Aquafeed Res. Centr., NFDRI)

 ヒラメ稚魚(6.3 g)の成長と体組成に及ぼすエクストルーディド飼料(EP)とモイストペレットの給餌頻度(2 回,3 回)および飼育温度(12°C, 17°C)の影響を検討した。60 日飼育した結果,給餌頻度は影響しなかったが,高水温群で成長,摂餌率,飼料効率およびタンパク効率が高かった。同一水温では,EP 給餌区で,飼育成績がよかった。これらのことより,給餌頻度は 2 回で十分であり,至適水温中では高水温のほうが成長と飼料効率を向上することが示唆された。
(文責 佐藤秀一)

73(4), 745-749 (2007)
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ニジマスの成長とダイオキシン類蓄積に及ぼす魚粉・魚油代替飼料の影響

Aung Naing Oo,佐藤秀一,土田 然(海洋大)

 ニジマスの成長とダイオキシン類(Dioxs)蓄積に及ぼす魚粉・魚油代替の影響を検討する為に,魚粉飼料および植物性タンパク質を配合した魚粉代替飼料を作製した。その飼料へ,魚油とヤシ油を種々の割合で配合し,ニジマス稚魚へ 12 週間給餌した。その結果,飼育成績には有意の差はみられなかったが,魚粉代替飼料へヤシ油のみを配合した飼料では,成長が劣った。また,魚体の Dioxs 量は魚粉代替による影響はなく,飼料中の含量に依存した。これらより,魚体の Dioxs 量は,給餌する飼料中の Dioxs 量を制御することにより低減できるものと推察された。

73(4), 750-759 (2007)
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ヒラメ稚魚における綿実粕および大豆油粕の魚粉代替効果

Minh Anh Pham,李 峻,
任 世振(済州大海洋),朴 寛夏(群山大海洋)

 ヒラメ稚魚(11 g)の飼育成績およびゴシポール蓄積に及ぼす綿実・大豆油粕混合(CS)の魚粉代替の影響について検討した。CS を 0~40% 配合し魚粉と代替した飼料を作製し,9 週間飼育した。その結果,飼料区間において,飼育成績および体組成に差はみられなかった。ヘモグロビン量は CS の配合量に伴い,減少したが,飼料中のゴシポール量と肝臓中の含量が比例した。フリーラジカルスカベンジャーは魚粉代替量に伴い増加した。以上,リシンとメチオニンを添加した CS で魚粉タンパクの 20% 程度の代替が安全で適当であると示唆された。
(文責 佐藤秀一)

73(4), 760-769 (2007)
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海底地形に魚群・海草分布を表示する USB 三次元デジタル魚群探知システムの開発

韓  軍,浅田 昭(東大生研),八木田康信(本多電子)

 安価で高速な超小型 USB A/D 変換基板を開発し,GPS 付きアナログ魚群探知器とノートパソコンを結合し,新しいデジタル三次元魚群探知システムを開発した。検波前のエコー信号を 2 MHz でサンプリングし,GPS から位置情報を 1 Hz で取り込み,デジタル検波を行う。パラメータを変えた複数のエコーグラムを同時に表示できるようにしたので,注目したい複数のターゲットを確認しやすい。水中エコーから海底,魚群や海草を抽出し,ユーザ独自の三次元海底地形を作成できるだけでなく,その上に魚群や海草のエコーを重畳し三次元表示でき,全体像をビジュアル的に把握できる。

73(4), 770-776 (2007)
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紀伊半島南西岸におけるイサキ Parapristipoma trilineatum の年齢と成長

土居内 龍,小久保友義,小川満也(和歌山農水総技セ水試)

 耳石観察をもとに紀伊半島南西岸産イサキの年齢と成長の関係を調べた。耳石輪紋は年に 1 回形成され,その時期は産卵盛期にほぼ一致した。表面法と横断面法を用いたところ,表面法による年齢査定結果は,3 歳以上の個体においてしばしば過小評価であり,その程度は高年齢になるほど大きくなった。横断面法の査定結果にもとづく雌雄込みの von Bertalanffy の成長式は FLt=331{1-exp [-0.283(t+1.45)]} と推定された。最高年齢は,雌が 15 歳,雄が 21 歳であった。本種の成長は従来の知見よりも遅く,寿命も長いものと考えられた。

73(4), 777-783 (2007)
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仔魚の大量へい死と飼育水の細菌群集の関連性

中瀬玄徳(近大院農),中川至純,宮下 盛,那須敏朗(近大水研),
瀬尾重治,松原浩子(サバ大ボルネオ海洋研,マレーシア),江口 充(近大院農)

 マダイおよびマーブルゴビー仔魚を飼育し,その飼育水の細菌群集構造を蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法を用いて解析した。どちらの試験においても,仔魚の生残が悪い水槽では,生残が悪化する前に γ-proteobacteria が優占し,仔魚の生残が相対的に良かった水槽では α-proteobacteria (α) と Cytophaga-Flavobacterium (CF) が優占する結果を得た。飼育水における α と CF グループの細菌群の優占は,仔魚飼育がうまく進む兆候であろう。

73(4), 784-791 (2007)
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タイとカンボジアで採集された野生メコンオオナマズの遺伝的多様性

タワチャイ ナガムシリ,中嶋正道(東北大学),スリジャンヤ スクマノモン(カセサート大学),
ナルエポン スクマサビン(タイ水産省),ウォンパソン コモンラト,
ウタイラト ナナコーン(カセサート大学),谷口順彦(東北大学)

 タイとカンボジアで採集された絶滅危惧種であるメコンオオナマズの遺伝的多様性をマイクロサテライトとミトコンドリア DNA をマーカーとして用い,調べた。推定された遺伝的多様性はいずれも他の淡水魚と比較して低い値だった。採集されたメコンオオナマズは互いに遺伝的に近い関係にあったことから,メコン川として一つの集団を形成していたと思われる。これらの結果から,メコンオオナマズでは既に個体数減少に伴う遺伝的多様性の低下が生じており,保全のためには最小血縁法など積極的な人為的支援が必要であることを示している。

73(4), 792-799 (2007)
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人工および自然日長条件下における飼育アユの自発摂餌活動

天野勝文(北里大水),飯郷雅之(宇都宮大農),須沼俊和(北里大水),
山下光司(三重大院生資),古川 清(東大院農),田畑満生(帝京科大理工),
山森邦夫(北里大水)

 アユ Plecoglossus altivelis altivelis を光ファイバー式センサーを用いた自発摂餌装置を用いて飼育した。60 L ガラス水槽で稚魚(体重 0.6 g, 1 水槽約 15 尾,計 4 水槽)を人工明暗条件下で飼育すると,明期に集中して自発摂餌活動が行われた。1000 L FRP 水槽で成魚(体重 15 g, 1 水槽 25 尾,計 4 水槽)を自然日長・水温下で 5 月から 8 月中旬まで手撒給餌飼育した後,自発摂餌飼育に切り替えた。安定した自発摂餌は 9 月上旬から記録された。自発摂餌は明るい時間帯,特に日の出と日の入り付近に観察された。摂餌量は日長・水温の低下とともに減少したが,体長と体重は全水槽で増加した。以上より,光ファイバー式センサーを用いることで,アユの自発摂餌飼育が可能であることがわかった。

73(4), 800-807 (2007)
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絶滅の恐れがあるスネーク川マスノスケ個体群の状態に関するベイズ決定分析

Saang-Yoon Hyun (Columbia River Inter-Tribal Fish Commission),
Rishi Sharma (Univ. Washington)

 個体群のトレンドデータと拡散近似(DA)モデルを用いて,個体群存続可能性を分析した。絶滅リスクに関する種々の尺度は DA モデルのパラメータの関数である。ベイズ法を用いて,これらパラメータの推定値の不確実性を表現し,個体群存続可能性を評価するための決定分析を行った。スネーク川マスノスケ 19 個体群のうち,キャサリンクリーク個体群は危機的状況にあり,2 個体群は低リスク,他は危機的な状態にないと評価された。この評価法は個体群回復管理のために管理者が個体群の優先順位を決めるのに有用である。
(文責 白木原 国雄)

73(4), 808-816 (2007)
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チェコ共和国 Morava 川人工湿地帯で捕獲されたフナ類の形態的・遺伝的分析

Lukas Vetesnik, Ivo Papousek, Karel Halacka,
Vera Luskova, Jan Mendel (Academy Sci., Czech)

 Morava 川人工湿地帯で捕獲されたフナ類は三倍体性の雌で構成されていた。これらの雌の形態計測を行ったところ,体高が高く(標準体長の 42.5%)鰓は数が多い(50.2)グループと,体高が低く(標準体長の 42.5%)鰓は数が少ない(45.2)グループに分けられた。これらの 2 グループの mtDNA 調節領域の配列分析を行ったところ,前者はチェコ共和国における C. a. gibelio の主要ハプロタイプであり,後者は日本における C. a. langsdorfii で報告されているハプロタイプと近似し,ヨーロッパ領域においては孤立的であった。
(文責 木島 明博)

73(4), 817-822 (2007)
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マイクロサテライト DNA マーカーによるクロダイ放流魚の親子鑑定と広島湾における放流魚の識別

丁 達相,エンリケ ブランコ ゴンザレス(広大院生物圏),森島 輝,荒井克俊(北大院水),海野徹也(広大院生物圏)

 2000 年と 2001 年に生産された放流されたクロダイ 180 尾と,その親魚 51 尾との親子鑑定を 7 マーカー座で行った。その結果,2000 年は 62.7%,2001 年では 58.8% の親魚が生産に関与していた。両年を通じて 69.0% の雌と 90.9% の雄が放流種苗の生産に関与していたが,親魚と放流魚でマーカー座当たりの平均アリル数は 16.9% の減衰があった。広島湾において遺伝標識による放流魚の追跡調査を行ったところ,放流後 2 ヶ月間に捕獲した 58.9% が放流魚と推定さ,放流魚と天然魚の尾叉長は同等であった。

73(4), 823-830 (2007)
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種苗生産場で作られたアワビの親子判別―同一水槽飼育による選抜家系の成長評価の試み―

原 素之(水研セ養殖研),関野正志(水研セ東北水研)

 エゾアワビの着底期から種苗生産場で混合飼育された複数家系の種苗について親子判別とそれらの成長評価を行った。稚貝期にサイズ選抜した親貝(♀3,♂4)と無選別の天然親貝(♀3,♂2)をそれぞれ交配した。約 7 ヶ月後に 170 個体の稚貝の親子判別を行った結果,マイクロサテライトマーカーを用いた親子判別率は 99% 以上を示し,17 家系が検出された。選抜親貝由来の種苗グループは,無選別天然親貝由来のグループに比べ明らかに成長が良かった。本法は種苗生産場で効率的な形質評価手法として選抜育種に有効と考えられる。

73(4), 831-836 (2007)
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日本海西部海域のズワイガニの漁獲量変動と水温の関係および漁獲量の予測

山中大輔(東京製鋼繊維ロープ),桜本和美,鈴木直樹(海洋大),
永沢 亨(水研セ北水研)

 日本海西部海域で漁獲されるズワイガニについて,産卵から漁獲されるまでの時間遅れを考慮し,若狭湾内の月別,水深別の水温と漁獲量の相関を調べた。t 年の漁獲量と t-4, t-5, t-6 年の 4, 9 月の水深 50, 100, 200 m の水温との間に有意な正の相関が認められた。また,4 月,水深 100 m,時間遅れ 4-7 年の水温データを用いたズワイガニの漁獲量を外挿する予測モデルは漁獲量の年変化をよく再現した(決定係数:0.504)。生活史初期の環境条件がその後の資源変動に大きく関与することが推測された。

73(4), 837-844 (2007)
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野生雄親魚の導入が孵化場産アユの種苗性能に与える効果

井口恵一朗(中央水研),茂木 実(群馬水試)

 継代飼育下のアユ種苗では,遺伝的多様性が急速に失われていくことから,放流に際して資源管理上の問題となる。継代数 29 の群馬県産種苗に対して野生雄親魚を交配させて次世代を生産し,行動および形態形質に関する主成分分析を通して,交雑群の種苗性能を評価した。継代群に比べると,交雑群の攻撃性は強化され,さらに吻部が突出する傾向を示したことから,放流用種苗としての性能に変化が認められた。種苗放流に起因する在来アユの遺伝的ストレスを軽減するためにも,継代飼育魚に対する野生雄個体からの父性の導入効果が期待される。

73(4), 845-850 (2007)
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ズワイガニの種苗量産に向けた幼生飼育手法の改善

小金隆之(水研セ小浜),團 重樹(水研セ西海水研石垣),
浜崎活幸(海洋大)

 ズワイガニの種苗量産の可能性を探るため,20 kL 水槽を延べ 8 面用い,飼育水の攪拌とニフルスチレン酸ナトリウム浴による飼育試験を実施した。餌料には L 型ワムシとアルテミアを用いた。その結果,総計 122,830 尾のメガロパと 16,660 尾の稚ガニを生産し,長らく困難であった本種の種苗量産の可能性を示した。生残率はゾエア期を通じてワムシを給餌した水槽で高かった。また,餌料と幼生の脂肪酸組成を分析した結果,生残率の向上には餌料中の DHA,あるいは DHA/EPA 比を増加させる必要があると考えられた。

73(4), 851-861 (2007)
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マングローブ林の消失が魚類群集の構造に及ぼす影響

新中達也,佐野光彦(東大院農),池島 耕(Asian Inst. Tech.),
Tongnunui Prasert (Rajamangala Univ. Tech. Srivijaya),
堀之内正博(島根大汽水域研セ),黒倉 壽(東大院農)

 タイ国南部のパックパナン湾において,2006 年の乾季初期(2 月)と終期(7 月)に,マングローブ林が残る水路(以後,マングローブ域)とそれらが伐採された水路(伐採域)で,魚類群集の構造がどのように異なるのかを調べた。その結果,伐採域ではマングローブ域と比較して魚類の種数と個体数が有意に少なく,底生甲殻類食魚や小型魚類も少なかった。また,クラスター分析から,2 つの水域の群集構造は異なることがわかった。したがって,マングローブ林の伐採はそこに生息する魚類群集の構造に大きな影響を及ぼすことが示唆された。

73(4), 862-870 (2007)
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有害赤潮藻 Chattonella spp. のミトコンドリア遺伝子およびその介在配列における遺伝的多様性

神川龍馬,増田 功(京大院農),大山憲一,吉松定昭(赤潮研),
左子芳彦(京大院農)

 Chattonella spp. の分子マーカーに関する研究はほとんど進んでいないため,本研究では 24 株の rRNA 遺伝子,ITS,ミトコンドリア(mt)遺伝子とその介在配列の塩基配列を決定した。mt 塩基配列を基にした最尤系統樹から,24 株は 2 グループ(A, B)に分けられた。本 2 グループは PCR-RFLP により簡便に同定可能であることが示された。本法により,2004 年および 2005 年に大分県で発生した Chattonella はグループ B の遺伝型を有していたことが明らかとなった。

73(4), 871-880 (2007)
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逸失刺網の浸漬時間と羅網数の関係

秋山清二,斎藤恵理子(海洋大),渡部俊広(水工研)

 千葉県館山湾の砂底域と魚礁域に刺網を約 200 日間浸漬し,浸漬時間と羅網数の関係を調べた。羅網数は砂底域より魚礁域のほうが多かった。羅網数は最初の 1 か月以内に急増し,その後は減少した。羅網数の減少過程は対数式で示され,刺網の漁獲継続期間は砂底域で 200 日,魚礁域で 284~561 日と推定された。また,刺網の漁獲継続期間はイセエビや魚類では短く,その他の甲殻類や腹足類ではより長期に及んだ。なお,羅網動物の一部は刺網から自発的に離脱する可能性があり,羅網数と死亡数が等価でない場合があることが示唆された。

73(4), 881-888 (2007)
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フネガイ科二枚貝ハイガイの摂餌と成長:汎在種サルボウとの比較

中村泰男,篠塚由美(国立環境研)

 有明海特産二枚貝であるハイガイを実験室で飼育し,摂餌(濾水速度として評価)と成長速度を測定した。そして,本種と近縁で本邦に広く産するサルボウとの比較をおこなった。ハイガイの濾水の好適水温範囲は,サルボウに比べやや高温側にシフトしていたが,好適な水温・塩分・餌濃度条件下でのハイガイの濾水速度ならびに成長速度はサルボウとの間に殆ど差が認められなかった。したがって,ハイガイの分布が有明海に限られていることを濾水・成長の観点から説明することは出来なかった。

73(4), 889-896 (2007)
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EPA のトランス異性化に及ぼすラジカルと熱の影響

財満信宏,菅原達也,大坪由季,平田 孝(京大院農)

 EPA トランス異性体(TEPA)はヒト体内で存在が確認されているが,トランス異性化の機構は不明である。そこでトランス異性化に及ぼすラジカルと加熱処理の影響を調べた。TEPA は NO2 との反応及び長時間の加熱処理で生じたが,脂溶性ラジカル発生剤(AMVN)との反応では生じなかった。調理したマイワシから抽出した脂質からは TEPA は検出されなかった。本研究の結果,生体内では NO2 が媒介したラジカル反応によって EPA がトランス異性化されることと,調理中に EPA はトランス異性化されないことが示唆された。

73(4), 897-901 (2007)
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深海に生息する 2 種の二枚貝,シロウリガイとシチヨウシンカイヒバリガイに含まれるステロール

河合史音,高田由貴(青学大理工),土田真二(JAMSTEC),
加戸隆介(北里大水産),木村純二(青学大理工)

 深海冷水湧出域に生息するシロウリガイと深海熱水噴出孔に生息するシチヨウシンカイヒバリガイに含まれるステロールの分析を行った。シロウリガイからは植物ステロールとして知られている 24-メチレンシクロアルタノール,シクロユーカレノール,およびオブツシホリオールが微量得られた。一方,シチヨウシンカイヒバリガイからは多くの微量ステロールとともに,ラソステロールとコレステロールの 2 つのステロールが多量に得られた。これらステロール成分や含量の違いは,生息地における 2 つの貝の食餌や代謝によるものと考えられる。

73(4), 902-906 (2007)
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Pediocin ACCEL の冷凍水産食品に対するバイオプリザベーション効果

殷 儷容,呉 建威,江 善宗(Providence Univ.,台湾)

 乳酸菌 Pediococcus pentosaceus ACCEL より産生される pediocin ACCEL のバイオプリザベーション効果を 4°C 保存時における魚肉加工食品中での L. monocytogenes 増殖抑制時間を指標として,nisin と比較した。nisin は L. monocytogenes の増殖を 1 週間抑制するのに対して,pediocin ACCEL は 2 週間抑制した。以上の結果,魚肉加工食品では pediocin ACCEL が nisin に比較して効果的なバイオプリザベーション作用を示すことが明らかとなった。
(文責 村田昌一)

73(4), 907-912 (2007)
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低利用魚種からの魚醤油発酵過程におけるエキス成分および微生物増殖の変化と最終製品の品質

平 和香子(東大院農),舩津保浩(富山食研),里見正隆(水研セ中央水研),
高野隆司(富山蒲鉾),阿部宏喜(東大院農)

 トビウオ,シイラおよびニギスを原料に,麹を添加して工業的規模で魚醤油を製造した。180 日の発酵期間中 pH は 4.5 程度まで低下し,全窒素およびアミノ酸総量はそれぞれ 2.0 g/100 mL および 6,000 mg/100 mL にまで増加した。好塩菌数は発酵 14 日目から 30 日目にかけて 106 から 108 cfu/mL レベルにまで増加し,その後減少した。最終製品のアミノ酸および有機酸量は大豆醤油およびニョクマムとほぼ同レベルであった。いずれの製品もニョクマムより臭いは弱く,甘味とうま味が強かった。しかしながら,いずれの製品もニョクマムよりヒスタミン含量が高かった。

73(4), 913-923 (2007)
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アルギン酸オリゴ糖修飾を用いた水溶化シロザケ筋肉の製造に関する実用的検討

武田浩郁,飯田訓之(道釧路水試),岡田 晃,大塚隼人,大下敏夫(北海道三井化学),
増谷英里,片山 茂,佐伯宏樹(北大院水)

 水晒しした産卵回帰シロザケ筋肉(M)とアルギン酸オリゴ糖(AO)の乾燥混合物をソルビトール共存下で 60°C,相対湿度(RH)5~95% に保持したところ,RH 35% において水溶化シロザケ筋肉タンパク質(M-AO)が,安定的に製造できた。-25°C で 3 ヶ月間凍結した M から製造した M-AO は,0.1M NaCl に対する高い溶解性を有していた。さらに M-AO を 9 ヶ月間常温保存しても溶解度は低下しなかった。以上の結果から,M を対象資源とした AO 修飾は,食品産業に利用可能な製造技術であると判断した。

73(4), 924-930 (2007)
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グルコン酸塩によるスケトウダラ肉糊中のミオシン変性の抑制効果と二段加熱ゲルの物性変化

岡山 孝,大泉 徹,赤羽義章(福井県大生物資源),北上誠一(全国すり身協会),
阿部洋一(カネテツデリカフーズ),白井 純(扶桑化学)

 グルコン酸塩(G)によるスケトウダラ二段加熱ゲルのテクスチャー変化を予備加熱による肉糊中のミオシン変性の進行との関連で検討した。二段加熱ゲルの破断強度とゲル剛性の間に成立する回帰直線の X 軸(ゲル剛性)切片(SBS0)は G の添加量とともに増大し,硬くて脆いゲルが形成された。一方,G は予備加熱中に起こる肉糊中のミオシン変性を強く抑制した。SBS0 の増加はミオシンの変性速度の減少と強く相関することから,G によるミオシン変性の抑制が硬くて脆いゲルの形成に影響を及ぼしていることが示唆された。

73(4), 931-939 (2007)
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3 種のジンドウイカ科イカ類筋肉および肝臓中のエキス成分組成のスルメイカとの比較

可児祥子,吉川尚子,岡田 茂,阿部宏喜(東大院農)

 アオリイカ,ケンサキイカおよびヤリイカの筋肉および肝臓中のエキス成分をスルメイカのそれと比較した。主要アミノ酸のタウリン,プロリン,グリシン,アラニンおよびアルギニン含量は 3 種のイカ類で有意に高かった。多量のトリメチルアミンオキシドおよびグリシンベタインがこれらイカ類に認められた。これらの結果から,これら 3 種のイカ類の筋肉はより甘味が強いと考えられた。肝臓ではグルタミン酸,苦味アミノ酸,トリメチルアミン等が筋肉より多く,甘味アミノ酸やヌクレオチド等が少なく,より複雑な風味を示すことが予測された。

73(4), 940-949 (2007)
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cDNA cloning of goldfish Hsp27 and its chaperone activity キンギョ Hsp27の cDNA クローニングおよびそのシャペロン活性

近藤秀裕,原野良平,渡部終五(東大院農)

 キンギョ低分子熱ショックタンパク質 Hsp27 の cDNA クローニングを行った。キンギョ Hsp27 と他生物種 Hsp27 のアミノ酸同一率は 58~62% であった。キンギョ培養細胞の培養温度を 20°C から 40°C に上昇させた場合にのみ,キンギョ Hsp27 遺伝子の発現が誘導された。キンギョ Hsp27 および既報のキンギョ Hsp30 のリコンビナントタンパク質を調製し,市販のヒト Hsp27 とともにシャペロン活性を測定したところ,キンギョ Hsp27 の活性はヒト Hsp27 およびキンギョ Hsp30 よりも有意に低かった。

73(4), 950-957 (2007)
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カツオ稚魚における耳石日輪形成の証明(短報)

嘉山定晃(東大海洋研),田邉智唯,小倉未基(水研セ遠水研),
奥原 誠(鹿児島水技セ),田中 彰(東海大海洋),渡邊良朗(東大海洋研)

 カツオ成魚の扁平石に見られる微細輪紋構造は,耳石の中心域と縁辺域および両者の中間域でそれぞれ異なる。中心域と中間域の輪紋が日周期的に形成されることは既に確認されているが,縁辺域の輪紋形成の日周性は証明されていない。235-330 mm FL のカツオ稚魚にオキシテトラサイクリンを注射して耳石に蛍光標識を施した後に 10-47 日間飼育した。飼育稚魚の耳石輪紋数を計数した結果,飼育日数と飼育期間中に縁辺域に形成された輪紋数の間に有意差はなく,稚魚期に形成される輪紋は日輪であることが確認された。

73(4), 958-860 (2007)
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山口県西田川における両側回遊性エビ類幼生のふ化のタイミング(短報)

井手口佳子(水大校),浜野龍夫(水大校),
中田和義(北大院水)

 両側回遊性エビ類における幼生のふ化のタイミングを明らかにするため,山口県下関市を流れる小河川の西田川の河口近くとその上流の計 2 地点で,プランクトンネットを用いた流下幼生の採集調査を 72 時間連続で実施した。その結果,ミゾレヌマエビ,ヒラテテナガエビ,ミナミテナガエビの幼生が採集され,これらのエビ類幼生のふ化は,日没直後の短時間に集中することが明らかとなった。

73(4), 961-963 (2007)
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Rutilus rutilus L. の腸内細菌の酵素活性(短報)

Vesta Skrodenyte-Arbaciauskiene (Vilnius Univ., Lithuania)

 魚類の腸内細菌が腸内の食物分解に果たす役割を調べるため,リトアニアの Dringis Lake から得た Rutilus rutilus の成魚の腸から細菌を分離した。計 60 株の好気性,通性嫌気性を分離,同定した後,タンパク分解酵素およびアミラーゼ活性を調べた。属レベルの分類では,Aeromonas が半数以上を占めた。また酵素活性値は分類群を反映して異なったが,いずれも Aeromonas 属の細菌が高い値を示した。この結果は細菌が分泌する菌体外酵素が魚類の食物の消化に寄与していることを示した。
(文責 木暮 一啓)

73(4), 964-966 (2007)
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アメリカザリガニから単離された新規紫色ノルカロテノイド 2',3'-ジヒドロロスエリスリン(短報)

眞岡孝至(生産開発科学研),安藤清一(鹿大水)

 アメリカザリガニ外骨格に,遊離型アスタキサンチンよりも僅かに極性の低い,新規紫色ノルカロテノイドが少量存在することを確認した。単離された本色素の質量は 580 であり,C39H48O4 の分子式を示した。1H-NMR 解析により,本色素の構造を 3'-ヒドロオキシ-2-ノル-β, β-カロテン-3,4,4'-トリオンと決定した。この構造は,イソギンチャクから単離されたロスエリスリンの 2', 3'-ジヒドロ誘導体に相当することから,2', 3'-ジヒドロロスエリスリンと命名した。

73(4), 967-969 (2007)
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