Fisheries Science 掲載報文要旨

有明海産ヒラ Ilisha elongata の年齢と成長および北西太平洋産個体群との成長の比較

張  潔(中国科学院動物研),田北 徹(長大水)

 1996~1997 年に有明海で漁獲されたヒラ Ilihsa elongata の年齢と成長を鱗を用いて検討した。輪紋は年一度 6~7 月に形成された。採集された標本は雌雄とも 1~6 歳であった。輪径と尾叉長との関係に雌雄間の有意差はなく,雌雄の成長は von Bertalanffy の成長式 Lt=495.4(1-e-0.3176(t+0.4108)) で表された。有明海産ヒラは,これまでに成長が調べられた北西太平洋の個体群の中で,各年齢時の尾叉長が最小であった。この違いは,未成魚期の成育条件によると考えられた。熱帯産と温帯産との大きな成長差は系統の違いを示唆した。

73(5), 971-978 (2007)
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1 変量と多変量の ARIMA モデルを用いた浮魚資源変動のモデリングと予測

Efthymia V Tsitsika, Christos D Marabelias,John Haralabous (Hellenic Centr. Mar. Res., Greece)

 1 変量と多変量の ARIMA モデルを用いて,1990~2005 年,地中海における各種浮魚の CPUE 月変動のモデリングと予測を行った。1 変量モデルはイワシ類 2 種,アジ 1 種,全浮魚資源の時系列変化を高い決定係数の下で再現し,満足のいく将来予測を行った。多変量モデルは 1 変量モデルよりもデータ適合度では勝っていたが,予測では劣っていた。CPUE の季節変動は浮魚漁業に内在的な要因によって生じたと考えられた。上記 3 種はこの漁業の主対象種であり,本研究から得たモデルは漁業管理に有用であろう。 (文責 白木原国雄)

73(5), 979-988 (2007)
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東シナ海周辺海域における Conger myriaster レプトセファルスの遺伝子による種査定

馬  涛,Michael J. Miller,青山 潤,塚本勝巳(東大海洋研)

 東シナ海周辺海域で採集したクロアナゴ属仔魚(レプトセファルス)を遺伝的に種査定したところ,これらはマアナゴであることがわかった。これらの標本(体長 22.3~74.0 mm)には,本種の大型仔魚に認められる分類形質である体側の一列色素が存在しなかった。マアナゴ仔魚の分類形質が成長に伴い変化する可能性が示唆された。また,本研究で採集したマアナゴ仔魚は,主に黒潮の西側縁辺部および東シナ海北部の混合域に出現した。しかし,小型の個体(22.3 mm)は沖縄諸島の南でのみ採集された。本種の産卵場や加入生態に関する従来の知見は,再検討の必要がある。

73(5), 989-994 (2007)
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呼水孔とその閉鎖痕数によるトコブシ稚貝の判別

鬼塚年弘,河村知彦(東大海洋研),堀井豊充(水研セ中央水研),浜口昌巳(水研セ瀬水研),大橋智志(長崎水試),滝口直之(神奈川県水産課),渡邊良朗(東大海洋研)

 人工生産されたトコブシと大型アワビ類 3 種(クロアワビ,マダカアワビ,メガイアワビ)について,成長に伴う呼水孔総数(呼水孔とその閉鎖痕の合計数)の変化を調べた。トコブシでは,殻長 1.5 mm 以降同一殻長時の呼水孔総数が他の 3 種よりも多かった。野外で採集したアワビ類稚貝について,呼水孔総数と殻長の関係に基づき,トコブシと他の 3 種の判別を試みた。その結果を,モノクローナル抗体を用いた手法による種判別結果と照合したところ,全ての個体について一致した。

73(5), 995-1000 (2007)
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ニジマスの自発摂餌行動に対する照度の影響

水澤寛太,Christopher Noble,鈴木研太,田畑満生(帝京科大理工)

 異なる明期照度条件(7×10-2, 1×100, 5×101 および 7×102 ルクス)においてニジマスを個別飼育し,自発摂餌を行わせた。自発摂餌活動は 1×100 ルクス条件において最も活発であった。1×100 ルクス条件では朝に集中して摂餌する個体と明期全体を通じて摂餌する個体のみが見られたが,他の照度条件においては夕方に集中して摂餌する個体も現れた。照度の違いは自発摂餌の学習能力と給餌量に対する残餌量の比率に影響しなかった。これらの結果は明期における照度が飼育期間中の自発摂餌活動の総量と日内変動に影響することを示している。

73(5), 1001-1006 (2007)
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フレームトロールの曳網速度や網口面積の違いによる採集効率の比較実験

板谷和彦(道中央水試),藤森康澄,清水 晋(北大院水),小松輝久(東大海洋研),三浦汀介(北大院水)

 網口サイズの異なる 3 つのフレームトロール(網口面積 16.0, 12.3, 4.0 m2)を用いて網口面積と曳網速度を変化させた比較採集実験を行い,曳網条件と採集効率との関係を調べた。各曳網条件での CPUE(濾水体積あたり採集尾数)を相対的に比較することで入網率を評価した結果,曳網速度や網口面積に比例して採集効率が高くなり,特に網口面積の変化による影響のほうが曳網速度よりも大きかった。また,同じ曳網条件でも体長が大きいほうが採集効率は低くなる傾向が見られた。

73(5), 1007-1016 (2007)
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ギンブナ Lck 遺伝子におけるアイソタイプの解析

荒木亨介(鹿大水),平野かおり,瀧澤文雄,森友忠昭(日大生物資源),乙竹 充(水研セ養殖研),中西照幸(日大生物資源)

 3 倍体クローンギンブナより 3 種類の Lck をコードする cDNA を単離した。これら遺伝子は胸腺や脾臓などのリンパ系組織および末梢白血球において発現が認められ,細胞レベルでの解析ではイムノグロブリン陰性リンパ球でのみ発現が認められた。また,これら遺伝子の発現は魚類の T 細胞表面マーカー分子である TCR や CD3 と同様の発現パターンを示した。このことから,ギンブナ Lck 遺伝子群は T 細胞の識別に有効であることが示唆された。

73(5), 1017-1024 (2007)
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稚魚期のティラピアにおける体成長と成長ホルモン/インスリン様成長因子系に対する環境塩分濃度の影響

Sameh Magdeldin,内田勝久(新潟大理),平野哲也,E. Gordon Grau(ハワイ大),Ahmed Abdelfattah(スエズ運河大),野崎眞澄(新潟大理)

 異なる塩分環境下における体成長と内分泌系による調節機構を,稚魚期のティラピアを用いて検討した。海水中に 3 週間馴致した個体においては,淡水中のそれに比べて約 2 倍の体成長率を示し,下垂体における成長ホルモン(GH)ならびに肝臓におけるインスリン様成長因子(IGF-I)の生合成も高いことが判明した。一方,淡水から 70% 海水に移行した場合にも,GH と IGF-I の発現量は有意に上昇したことから,環境塩分濃度の上昇に伴う GH/IGF-I 系の活性化と,それによる体成長効率の促進との連関が示唆された。

73(5), 1025-1034 (2007)
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マイワシ太平洋系群の再生産関係について

下山智美(サーベイリサーチセンター),桜本和美(海洋大),鈴木直樹(海洋大)

 マイワシ太平洋系群の再生産関係(SRR)を表す 20 のモデルの妥当性を検討した。その結果,加入量(R)と産卵親魚量(SSB)を対数変換し,R が激減した 4 年間(1988~1991)とそれ以外の時期のグループそれぞれに直線を当てはめたモデルが AIC 最小となった。後者の回帰直線の傾きは 1 と有意に異ならず,SRR は R=22.8Seε となり,R は SSB に比例した(ε は正規誤差)。再生産成功率(R/SSB)は 2 月の黒潮続流域の表面水温(KEST)と負の相関関係を示し,上記の直線からの R のずれは KEST により説明が可能であった。

73(5), 1035-1041 (2007)
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Parargyrops edita のミトコンドリアゲノムの全構造解読および調節領域の遺伝的多様性

Junhong Xia (Chinese Academy of Fish. Sci.), Kuaifei Xia (Sun Yat-Sen Univ.), Jinbo Gong, Shigui Jiang (Chinese Academy of Fish. Sci.)

 Parargyrops edita のミトコンドリアゲノム全長配列を決定した。本ゲノムは 16,640 bp よりなり,37 個の遺伝子をコードし,その配置は他の魚類のものと一致していた。また,非コード領域を調節(CR)領域として同定した。遺伝的多様性を調べるために,27 個体の CR 領域の配列を比較したところ 26 個のハプロタイプが見出された。広東省沿岸域に生息する本種の遺伝的多様性が高いことが明らかとなり,CR 領域の配列解析が本種の遺伝的多様性および遺伝的構造を解明する有用手段となりうることを示した。
(文責 廣野育生)

73(5), 1042-1049 (2007)
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緑藻,Chlorella ellipsoidea, Nannochloris oculata の増殖に与える温度,塩分の影響とその最適化

Sung Hwoan Cho, Sung-Choon Ji (Korea Maritime Univ.),
Sung Bum Hurm, Jeanhee Bae (Pukyong Natl. Univ.),
In-Seok Park, Young-Chae Song (Korea Maritime Univ.)

 緑藻,Chlorella ellipsoidea, Nannochloris oculata の比増殖速度,最大密度,最大密度に達するまでの時間に対する温度と塩分の影響を調べた。N. oculata の最大密度は温度のみの影響を受けた。その他の 2 項目および C. ellipsoidea の全ての項目は温度,塩分の影響を受けた。C. ellipsoidea の最大密度は 15°C,10 psu にて,N. oculata の最大比増殖速度および最大密度は,25°C,10 psu および 25°C,30 psu にて得られた。
(文責 木暮一啓)

73(5), 1050-1056 (2007)
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機械的傷害による海産緑藻オオハネモにおける(Z)-8-heptadecene の誘導

赤壁善彦,岩本荘王多(山口大農),宮村新一(筑波大),
梶原忠彦(山口大農)

 海産緑藻オオハネモ Bryopsis maxima に機械的傷害を与え,ペンタン抽出して GC-MS 分析を行うと,顕著に増加する化合物が 1 成分確認され,そのフラグメントパターンより 8-heptadecene であると予想された。また,octyltriphenylphosphonium salt と nonanal を用いる Wittig 反応を行い,(E/Z)-8-heptadecene(E/Z=8:2)を立体選択的に合成したところ,リテンションタイムおよびフラグメントが(Z)-体と完全に一致した。よって,オオハネモにおいて,機械的傷害により放出される化合物は(Z)-8-heptadecene であると判明した。

73(5), 1057-1060 (2007)
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VPA による資源量推定値に与えるサンプリングエラーの影響

山口宏史(道中央水試),松石 隆(北大院水)

 VPA による資源量推定値に与えるサンプリングエラーの影響をブートストラップ法により評価した。評価にはスケトウダラ日本海北部系群の 1991 年から 2001 年の年齢別漁獲尾数を適用した。その結果,2001 年年齢別漁獲尾数の変動係数は 6.1% から 33.1% であり,VPA による 2001 年年齢別資源尾数の変動係数は 9.0% から 35.7% であった。最高齢および近年の資源量推定値は他の推定値に比べ高い変動係数を示し,サンプリングエラーはこれらの推定値に強く影響を与えると考えられた。

73(5), 1061-1069 (2007)
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養成クロマグロ雄の 2 歳+での成熟

澤田好史,瀬岡 学,家戸敬太郎,田村利博,中谷正宏,林 正次,
岡田貴彦,戸瀬憲一,宮下 盛,村田 修,熊井英水(近大水研)

 養成クロマグロ雄が 2 歳+で成熟した。精巣の成熟率は 65.0%,生殖腺指数は 0.03-0.30 であった。同年齢の雌の卵巣は成熟に達しなかった。これらの個体は 1997 年 8 月に 0 歳+で捕獲され,1998 年 10 月,と 2000 年 1・2 月に生殖腺が調べられた。2000 年調査時の年齢は,野生クロマグロの産卵期と,捕獲時のサイズから,2 歳 7-10 ヶ月と推定された。成熟した精巣は,精子,精母細胞,精細胞を有し,精子はすべて運動性を持っていた。若齢で精子凍結保存が可能になれば親魚維持コスト削減が図れる。

73(5), 1070-1077 (2007)
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我が国の河川水に含まれる亜鉛およびその他の重金属(銅,鉛およびカドミウム)の Daphnia magna および Oryzias latipes への複合暴露の影響

村野宏達(地球・人間環境フォーラム),松崎加奈恵,
白石寛明(国環研リスクセ),若林明子(淑徳大国際)

 高濃度の亜鉛およびその他の重金属に汚染されている河川水を採取し,Daphnia magnaOryzias latipes に対する毒性試験を実施し,重金属の複合暴露を toxic units により評価した。D. magnaO. latipes に比べて強い影響を受けた。また,D. magna に対する毒性は単純に重金属だけの toxic units によって評価できず,河川水中の有機物や硬度が亜鉛およびその他の重金属の毒性を軽減していることが示唆された。

73(5), 1078-1086 (2007)
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マイクロサテライト DNA マーカーによるマガレイ種苗生産における親子鑑定

金 相圭,森島 輝(北大院水),佐藤敦一,藤岡 崇,
斎藤節雄(道栽漁総セ),荒井克俊(北大院水)

 マガレイ自然産卵(雌 35 個体,雄 26 個体)により生産した種苗において,マイクロサテライト 5 マーカーを用い,親子鑑定を行った。種苗は産卵時期により前期(EP),中期(MP),後期(LP)で分け採集した。平均アレル数,ヘテロ接合体率より評価した遺伝的多様性は,EP および MP では親魚に比べやや低下し,LP では大きく低下した。親子鑑定の結果,EP は雌 8 個体と雄 6 個体,MP は雌 13 個体と雄 10 個体が親魚と推定された。LP では,雌 3 個体と雄 2 個体のみが親魚と推定された。

73(5), 1087-1093 (2007)
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本州東方海域におけるツノナシオキアミの出現量の季節・経年変動について

瀧 憲司(水研セ遠洋水研)

 1993~2000 年の本州東方海域におけるツノナシオキアミの出現量の季節・経年変動を検討した。産卵は毎年主に春季と夏-秋季に行われ,春季産卵群に由来する 7-10 月の小型成体は 4 月の卵出現量とは相関が高くなかったが,5 月のそれとは高い正相関が認められた。夏-秋季産卵群は晩秋-冬季に小型成体に成長するが,毎年同時期に小型成体は顕著に減少した。本種の加入や死亡に影響する要因について,低水温や餌不足が引き起こす飢餓や捕食圧の増大と関連して議論した。

73(5), 1094-1103 (2007)
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形態学および遺伝学的な解析より推定したヒラメの系群構造

重信裕弥(水研セ東北水研),林崎健一,朝日田卓(北里大水),
井田 齊(プレック研),斉藤憲治(水研セ東北水研)

 ヒラメの系群構造は形態学または遺伝学的解析により推定されてきた。しかし両解析の結果は必ずしも一致せず,包括的な結論は得られていない。我々は日本沿岸の 9 地点より採取した 722 個体の天然ヒラメを用いて,形態学と遺伝学的解析の両方から系群構造を推定した。背鰭および臀鰭の鰭条数は北方集団よりも南方集団の方が多かった。また,ミトコンドリア DNA の ND2,および ND5 遺伝子の配列について解析を行い,490 種のハプロタイプを検出した。我々は形態学および遺伝学的解析の両結果から,九州西部集団の異質性を示した。

73(5), 1104-1112 (2007)
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ヒラメの脳・脳下垂体における 3 種類の GnRH の分布

Ky Xuan Pham,天野勝文,阿見弥典子(北里大水),栗田 豊(水研セ東北水研),
清水昭男(水研セ中央水研),山森邦夫(北里大水)

 ヒラメの生殖内分泌機構の解明を目的として,脳と脳下垂体における 3 種類の生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分布を免疫組織化学で調べた。タイ型 GnRH 免疫陽性細胞体は視索前野に存在し,脳下垂体へ神経線維を投射し,その一部は生殖腺刺激ホルモン(FSH または LH)細胞と近接していた。サケ型 GnRH とニワトリ II 型 GnRH 免疫陽性細胞体はそれぞれ,終神経節と中脳被蓋に存在し,脳下垂体以外の広い領域へ神経線維を投射していた。以上より,タイ型 GnRH が GTH 分泌を調節して性成熟を制御することが示唆された。

73(5), 1113-1122 (2007)
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相模湾長井におけるトコブシ生息場の生物種組成とその栄養段階構造

元南 一,河村知彦,鬼塚年弘,早川淳(東大海洋研),渡部諭史,堀井豊充(水研セ中央水研),
高見秀輝(水研セ東北水研),渡邊良朗(東大海洋研)

 相模湾長井のトコブシ生息場における生物種組成を調べ,その栄養段階構造を安定同位体比から推定した。その結果,出現種は褐藻類を起源とする底生連鎖系,紅藻類を起源とする底生連鎖系および浮遊連鎖系の 3 つの異なる食物連鎖系に属するグループに分けられた。採集された殻長 8.0~65.6 mm のトコブシ稚貝および成貝は,主にワカメの葉状体を摂食すると考えられた。トコブシの競合種としては他のアワビ類稚貝,端脚類,ナマコ類が,また主な捕食者としてはアクキガイ科の貝類が推定された。

73(5), 1123-1136 (2007)
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ヨーロッパのコイ科 3 種の交雑と仔魚期のストレス耐性

Billy Nzau Matondo, Michaerl Ovidio, Pascal Poncin, Tampwo Alain Kakesa,
Lunkayilakio Soleil Wamuini, Jean-Claude Philippart (Univ. Liege, Belgium)

 ヨーロッパのコイ科魚類 3 種の交雑とそれらの初期生活史における浸透圧,温度および飢餓のストレスに対する耐性能力について調べた。交雑群の発眼時期の生残率は両親種と同様であったが,ふ化率や仔魚期を通じての生残率には母性効果が認められた。ふ化以後の発育段階では,仔魚期には母性効果が認められた時には中間的,または両親より優れた生残率を示したりしたが,稚魚期にはいずれも交雑群が両親種より高い生残率であった。ストレス条件下では,おおむね交雑群が両親種よりストレス耐性が優れていることが示された。
(文責 青海忠久)

73(5), 1137-1146 (2007)
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超音波テレメトリーを用いた放流後のシロクラベラ人工種苗と天然魚の水平移動および日周活動パターンの解明

河端雄毅,奥山隼一,三田村啓理(京大院情報),浅見公雄,
與世田兼三(水研セ西海水研),荒井修亮(京大院情報)

 本研究では,超音波テレメトリーを用いて,シロクラベラ人工種苗と天然魚の水平移動と日周活動パターンを測定した。人工種苗 5 尾と天然魚 4 尾を石垣島浦底湾に放流し,2005 年 9 月から 2006 年 2 月にかけて設置型受信機を用いてモニタリングした。行動記録から人工種苗,天然魚ともに,(1)一定期間放流地点に滞在しその後逸散する傾向にあること,(2)受信に日周リズムがあり昼行性を示すことが明らかになった。これらの結果により,水平移動と日周活動に関しては,シロクラベラ人工種苗が天然魚に近い行動特性を有することが示唆された。

73(5), 1147-1154 (2007)
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成長による養殖クロマグロ普通筋一般成分およびミオグロビン含量の変化

中村好徳,安藤正史(近大農),瀬岡 学(近大水研),川崎賢一,塚正泰之(近大農)

 養殖クロマグロ[体長:47.5~81.8 cm,体重(BW):2.1~13.5 kg, n=15]の背部普通筋を用いて,成長による一般成分とミオグロビン(Mb)含量の変化を調べた。体重と体長に正の相関(r=0.9832)が見られた。たんぱく質含量は成長により有意に減少した。成長により肉色は赤くなり,Mb 含量は 1.0 mg/g(BW:2.1 kg)から,3.8 mg/g(BW:13.5 kg)と有意に増加した。

73(5), 1155-1159 (2007)
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魚肉ソーセージの機器分析・官能評価とその貯蔵性

Mohammad Shafiur Rahman (Sultan Qaboos Univ., Oman),
Humaid Al-Waili(オマーン農水省),Nejib Guizani (Sultan Qaboos Univ.),
Stefan Kasapis (Natl. Univ. Singapore)

 オマーン沿岸海域で漁獲された未利用魚からの魚肉ソーセージを作成する場合の配合について検討した。各製品の貯蔵性は-20°C,12 週間貯蔵中の微生物学的検査により評価し,結果が良好なものについては品質の分析を行った。デンプン含量が増すにつれ製品の固さは増大した。機器分析と官能評価の結果には強い相関が認められた。製品のテクスチャは魚肉に対するデンプン添加量(w/w)が 8 % の時,最も好ましく感じられ,スパイスを加えることで風味が改善した。
(文責 落合芳博)

73(5), 1160-1165 (2007)
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魚肉ソーセージとその貯蔵中におけるテクスチュアの機器測定および感覚的評価

Mohammad Shafiur Rahman (Sultan Qaboos Univ., Oman),
Humaid Al-Waili(オマーン農水省),Nejib Guizani (Sultan Qaboos Univ.),
Stefan Kasapis(Natl. Univ. Singapore)

 オーマン海域で捕れる低利用魚を用いて魚肉ソーセージを製造した。-20°C で 12 週間の貯蔵性を微生物学的に確認したのち,テクスチュアを機器測定と感覚的評価で調べた。0~48% の間でデンプン添加量を変化させたところ,かたさにおいて,機器測定と感覚的評価には相関がみられた。しかし,もろさや粘着性においては相関はみられなかった。8 % のデンプン添加で最も好ましいテクスチュアが得られ,香辛料を添加することによりさらに全体の品質評価が向上した。
(文責 村本光二)

73(5), 1166-1176 (2007)
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ホタテガイ貝殻より単離したマトリックスタンパク質(MSP-SC)の性状

野口達矢,部田 茜,長谷川靖(室蘭工大)

 ホタテガイ貝殻を 5 % 酢酸溶液を用いて脱灰後,抽出した有機成分よりゲルろ過カラム,イオン交換カラム,逆相カラムを用いて分子量 14 kDa のタンパク質(MSP-SC)の精製を行った。MSP-SC は,炭酸カルシウム結晶の形成を濃度依存的に阻害した。また,MSP-SC 存在下において形成された炭酸カルシウム結晶は,MSP-SC 非存在下において見られなかった放射状の凝集した結晶構造を示した。

73(5), 1177-1185 (2007)
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ナンキョクオキアミならびにツノナシオキアミから得られた乾燥眼球の化学成分比較

吉富文司,山口秀明(日水中研)

 ナンキョクオキアミ Euphausia superba ならびにツノナシオキアミ Euphausia pacifica から工業的手法により乾燥眼球を採取し,その成分を比較検討した。その結果,両者ともに粗タンパク質は約 80% であった。また,約 10% 含まれる脂質の大部分はリン脂質であり,n3-PUFA も脂質中に 30-50% 含まれていた。アスタキサンチンおよびレチノールは,E. superba で 566 mg/100 g と 153 mg/100 g と,E. pacifica のそれぞれ約 2 倍と約 3 倍含まれていた。

73(5), 1186-1194 (2007)
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トルコ産天然および養殖ニジマス Onchorhynchus mykiss の脂肪酸含量の比較

Serap Saglik Aslan (Istanbul Univ.),
Kasim Cemal Guven, Tuncay Gezgin (Inst. Mar. Sci. & Manag., Istanbul Univ.),
Mustafa Alpaslan, Adem Tekinay (18Mart Univ.)

 トルコ産天然および養殖ニジマス Onchorhynchus mykiss の筋肉および皮の全脂質含量および脂肪酸組成を比較した。筋肉の主要な構成脂肪酸のうち,20:5n-3(EPA)含量は天然魚で養殖魚の 2 倍であったが,22:6n-3(DHA)は養殖魚で 1.5 倍高かった。皮の構成脂肪酸では,EPA は筋肉におけるのと同様の傾向であった。天然魚の DHA 含量は低く,その結果として養殖魚では天然魚の 3.5 倍の DHA を含んでいた。筋肉中の n-3 系および n-6 系高度不飽和脂肪酸の総量は,天然魚で高く,皮では養殖魚で高かった。
(文責 大島敏明)

73(5), 1195-1198 (2007)
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通気を使用しない仔魚飼育:造波装置によるマハタ仔魚の飼育事例(短報)

阪倉良孝(長大水),塩谷茂明(神戸大),塩崎雅史(長大院生産),
萩原篤志(長大院生産)

 マハタ種苗生産の初期減耗を軽減する飼育技法開発の基礎知見を得るために,通気による従来の飼育方法(容量 1 kL,φ130 cm,水深 70 cm:通気量 200 mL/分)と,直径 5 cm の球を水面で上下させて(1 Hz)水面に波を発生させる造波装置を用いた飼育方法で仔魚の生残を比較した。21 日間の飼育実験での造波装置の生残率は 55.5%(n=1)で,対照区のそれ(11.6±14.3%,n=3)よりも顕著に高い値を示した。造波装置による水槽垂直断面の流れを計測したところ,波が水深とともに減衰していくのが確かめられた。

73(5), 1199-1201 (2007)
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クロマグロ幼魚の成長に伴う錐体密度分布の変化(短報)

鳥澤眞介,高木 力,石橋泰典(近大農),
澤田好史(近大水研),山根 猛(近大農)

 クロマグロの成長に伴う網膜の錐体密度分布と錐体の最小分離角の変化を組織学的に調べた。完全養殖の成功により入手可能となった孵化後 30 日齢から 80 日齢の幼魚および 1 年魚の 6 種類の成長段階の個体を実験に用いた。30 日齢の個体では錐体の密度は特定部位で高い値を示すことはなかったが,35 日齢から成長に伴って腹側と尾柄側の中間部付近に錐体の最高密度部位が徐々に形成されることが観察された。この最高密度部位の錐体密度とレンズの焦点距離から視力を算出すると,この日齢間で 0.048 から 0.347 に変化した。

73(5), 1202-1204 (2007)
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抗カビ剤としての次亜塩素酸ナトリウムによるサケ卵の軟化の程度(短報)

Chutima Khomvilai,柏木正章(三重大生資),
Chanirs Sangrungruang (Kung Krabaen Bay Royal Development Study Center),
吉岡 基(三重大生資)

 次亜塩素酸ナトリウムはサケ科魚卵の水カビ病防除に有効であるが,一方で卵を軟化させるという問題がある。ニジマス卵を軟化させない残留塩素濃度 10 mg/L で毎日 15 分間の処理を 4 尾の雌親魚から得たサケ卵で行い,発眼卵の硬度を測定した。親魚 2 尾の卵は軟化しなかったが,他の 2 尾の卵は軟化した(p<0.01 と p<0.05)。しかし,処理卵と無処理卵の硬度の頻度分布では,階級の最大最小の範囲が一致しており,無処理卵が影響を受けない程度の物理的衝撃に対しては軟化卵も影響がなく,上記の処理で起こるサケ卵の軟化はあまり大きな問題でない。

73(5), 1205-1207 (2007)
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北西太平洋におけるミンククジラによるヒメドスイカの捕食(短報)

小西健志,田村 力(日鯨研)

 ミンククジラによるヒメドスイカの捕食事例を報告する。
 2004 年と 2005 年に北西太平洋で計 200 個体のミンククジラを捕獲し,胃内容物分析を行った。その結果,両調査年とも 8 月に,北緯 45-50 度,東経 170 度の天皇海山付近にて捕獲した計 14 個体の胃より大量のヒメドスイカが見いだされた。また,これらヒメドスイカの平均外套膜長は約 100 mm であり,成熟個体とみられた。以上のことからヒメドスイカの成熟個体は,夏期の当海域に高密度に分布し,ミンククジラの重要な餌生物の一つになっていることが明らかとなった。

73(5), 1208-1210 (2007)
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