Fisheries Science 掲載報文要旨

浸透圧変化に応答したマガキアミノ酸トランスポーター遺伝子の発現誘導とその調節に関わる遺伝子領域の解析

豊原治彦,池田雅史,後藤知加,澤田英樹,細井公富,竹内壱明,林 勇夫(京大院農),今村伸太朗,山下倫明(中央水研)

 環境海水の浸透圧変化に応答したマガキアミノ酸トランスポーター遺伝子の発現変化について調べるとともに,その発現調節に関わる遺伝子領域について検討した。ノーザンブロット分析の結果,同トランスポーターの mRNA はその発現が予想される高浸透圧ストレスにより発現誘導されたが,細胞レベルの浸透圧応答からは予想外の低浸透圧ストレスによってさらに強く発現誘導された。発現誘導に関わる調節領域を調べた結果,高低両浸透圧変化に応答する遺伝子領域は,転写開始点の上流 132 bp 以内に存在する可能性が示唆された。

71(3), 465-470 (2005)
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ヒラメにおける酸素消費の内因性リズムに及ぼす水温の影響

金浣洙,尹星珍,金鍾萬(韓国海洋所),吉佑(韓国電力研),李泰源(国立忠南大)

 ヒラメの酸素消費率(OCR)に及ぼす水温の影響を調べた。予め 3℃ に馴致したヒラメの OCR は低い値を示したが,水温を 10.6℃ まで上げると OCR は徐々に上昇した。水温 14℃ で OCR のピークは 23.9 時間間隔で出現したが,これはサーカディアンリズムによるものと考えられた。20℃ で馴致した魚では,26.4℃ まで OCR の周期的変動が認められたが,28.4℃ 以上になると周期性が不明瞭となった。

(文責 金子豊二)

71(3), 471-478 (2005)
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クロダイにおける成長ホルモン遺伝子の 5′-フランキング領域の解析

Ricardo Almuly, Yael Poleg-Danin, Sergei Gorshkov,Galina Gorshkova, Boris Rapoport, Morris Soller,Yechezkel Kashi, Bruria Funkenstein(イスラエル国立海洋研他)

 クロダイ成長ホルモン遺伝子の 5′-フランキング領域のクローニングを行った。この領域には TATA box や Pit-1 結合部位が含まれていた。また魚類とほ乳類の成長ホルモン遺伝子を比較することで,cAMP 応答因子,糖質コルチコイド応答因子および他の転写因子に関連した塩基配列が確認された。さらに,プロモーター領域のマイクロサテライトが,同種の資源管理や成長の優れた系統の選抜を行う上で,有効な遺伝子マーカーとなりうることが示唆された。

(文責 金子豊二)

71(3), 479-490 (2005)
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超音波テレメトリーによるアカアマダイの意図的移動と日周巣穴固執行動の解明

三田村啓理,荒井修亮(京大院情報),光永 靖(近大農),横田高士(京大院情報),竹内宏行,津崎龍雄(水研セ宮津),井谷匡志(京都海洋セ)

 若狭湾および舞鶴湾において最大 3 ヶ月間,超音波テレメトリーを用いて天然アカアマダイの移動および巣穴行動を調査した。若狭湾西部海域の水深約 30 m に放流されたアカアマダイは,好生息環境の深い水域へ移動した。舞鶴湾に放流されたアカアマダイは,放流から 1 ヶ月が経つと大きな移動をしなくなり,巣穴を中心とする行動を示した。夜は主に海底の巣穴の中に滞在して,昼は巣穴の外へと移動した。フーリエ解析の結果,この行動は顕著な 24 時間のリズムを有しており,アカアマダイの日周行動が明らかになった。

71(3), 491-498 (2005)
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クロマグロ稚魚の麻酔,絶食耐性および栄養要求

滝井健二(近大水研),細川秀毅,示野貞夫(高知大農),宇川正治(日清丸紅飼料),小谷晃文(近大水研),山田洋二郎(高知大農)

 完全養殖に成功した体重 0.8~0.9 g のクロマグロ稚魚の麻酔方法を水温 26℃ で検討したところ,麻酔・回復時間と 24 時間後の生残率から 0.2 mL/L 2-phenoxyethanol が効果的であると判断された。また,同一起源の稚魚にイカナゴを 5 日間飽食給与,あるいは開始より 2, 3, 4 および 5 日間絶食すると,生残率は順に 80, 60, 50, 10 および 0 % と低下し,栄養素蓄積量から求めたエネルギー,タンパク質および脂質の維持要求量は,それぞれ 142.7 kJ, 5.46 g および 0.44 g/kg 体重・日であった。

71(3), 499-503 (2005)
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ヒラメの肝臓で発現している遺伝子の EST 解析

Nur Rahmawaty Arma,廣野育生,青木 宙(海洋大)

 ヒラメの肝臓 cDNA ライブラリーよりランダムに 940 クローンを選択し,expressed sequence tag 解析を行った。全クローン中 537 クローンは既知の配列と相同性を示し,その内,314 クローンは肝臓の機能に関与していると思われるものであった。この内 26 クローンは,ほ乳類の肝臓において高発現している遺伝子と相同な遺伝子であった。ほ乳類肝臓で発現している抗微生物ペプチドであるヘプサイジンと相同性を示し,ウインターフラウンダーのタイプIIヘプサイジンと相同性のある cDNA も見られた。

71(3), 504-518 (2005)
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ヒラメのインターロイキン 1β により誘導される遺伝子

Emmadi Dhanwanthari,岩掘亜希子,廣野育生,青木 宙(海洋大)

 ヒラメよりインターロイキン 1β (IL-1β) cDNA をクローン化した。ヒラメの IL-1β はスズキの IL-1β と 62% の相同性を示した。ヒラメの IL-1β の発現は ConA/PMA ならびに LPS で誘導された。871 クローンをスポットしたヒラメ cDNA マイクロアレイを用いたヒラメの IL-1β 接種後のヒラメ腎臓における遺伝子発現解析を行ったところ,93 遺伝子の発現の変化が確認された。これらの内,免疫関連遺伝子としてサイトカイン,抗原提示・認識分子,種々レセプターおよびシグナル伝達関連遺伝子であった。

71(3), 519-530 (2005)
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hCG 投与により誘導した成熟・排卵過程から推定されたマサバの繁殖パラメータ

白石哲朗,太田耕平,山口明彦(九大院農),依田真里(水研セ西海水研),中田 久(長崎水試),松山倫也(九大院農)

 hCG 投与により誘導したマサバ親魚の成熟・排卵過程から,本種の天然での産卵生態に関する各種繁殖パラメータを推定した。卵核胞の移動は hCG 投与後 18-24 時間で起こり,卵核胞崩壊と排卵はそれぞれ 30 時間および 36 時間までに完了することから,天然海域で日中に核移動期の卵を持っている個体は,その日の夜間に産卵すると推定された。また,卵巣腔に排卵された卵は時間経過とともに卵質が急激に低下することから,排卵したマサバは数時間以内に産卵しなければ子孫の生き残りの確率が低下することが示唆された。

71(3), 531-542 (2005)
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琉球諸島西表島の海草藻場,サンゴ域,および砂地における無脊椎動物量の比較

中村洋平,佐野光彦(東大院農)

 琉球諸島西表島の海草藻場には,隣接するサンゴ域や砂地と比べて,魚類の餌資源である小型甲殻類が多いのかどうかを明らかにするため,各生息域の表在性無脊椎動物と埋在性無脊椎動物の現存量を調査した。その結果,海草藻場にはサンゴ域や砂地と比べて,魚類の餌となるハルパクチクス類やヨコエビ類などの小型甲殻類が多く存在していることが明らかとなった。

71(3), 543-550 (2005)
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台湾南西海域におけるセイタカヒイラギの生殖

Cheng-Fang Lee(台湾水産研),Kwang-Ming Liu(台湾海洋大),Wei-Cheng Su, Chuen-Chi Wu(台湾水産研)

 台湾南西海域で 2000 年 3 月から 2001 年 2 月に漁獲された 958 尾のセイタカヒイラギの卵巣の外観,生殖腺体重比,卵径組成および組織学的観察から,この海域における同種の産卵期は 5 月から 8 月であることが示された。卵母細胞の発達は 8 段階に分けられ,それにもとづき卵巣の発達段階は未熟期,初期卵黄蓄積期,後期卵黄蓄積期,成熟期および退縮期に分類された。性比に統計的な差は見られなかったが,尾又長が 170 mm を超える個体はほとんどが雌であった。半数の個体が成熟するサイズは,雌で 162 mm,雄で 158 mm と推定された。

(文責 金子豊二)

71(3), 551-562 (2005)
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スズキ Dicentrarchus labraxTenacibaculum maritimum 抗原に対する免疫応答

Fulvio Salati, Carla Cubadda, Iolanda Viale(サルジニア獣医予防研),楠田理一(福山大生命工)

 イタリアのサルジニア島の海水養殖魚では,粘液細菌症と呼ばれている Tenacibaculum maritimum 感染症の被害が問題になっている。そこで,スズキの腹腔内に T. maritimum ホルマリン不活化菌体,粗 LPS,菌体外毒素の抗原を接種して 3 種の抗原に対する免疫応答を調べ,ワクチンによる予防の可能性について考察した。その結果,抗体価はすべての抗原で上昇し,追加免疫によって顕著なブースタ効果がみられた。貪食活性と貪食指数はいずれもすべての抗原で上昇したが,追加免疫によって LPS の活性が最も高くなった。これらのことから,免疫原性の高い LPS などのサブユニットワクチンの有効性が示唆された。

71(3), 563-567 (2005)
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日本の 3 個体群におけるミナミハンドウイルカ Tursiops aduncus のホイッスルの地域間差異

森阪匡通,篠原正典(京大院理),中原史生(常磐大),赤松友成(水研セ水工研)

 日本のミナミハンドウイルカ 3 個体群を対象に,そのホイッスルを解析した。地域間にホイッスルの差異が検出された。地域内でも,録音を行った年ごとに有意な差異が検出されたが,いくつかのパラメータにおいて地域差が年変動より勝っており,ホイッスルの地域間差異は明らかに存在することがわかった。しかし各個体群内で時間経過に伴ってホイッスルが変化した結果,地域間の差異が出来上がってきたと考えられるため,今後地域間差異の研究者は個体群内の年変動にも考慮する必要がある。

71(3), 568-576 (2005)
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Ricker 型,Beverton-Holt 型再生産関係は本当に存在するか?

桜本和美(海洋大)

 マサバ太平洋系群等について産卵親魚量と加入量データおよび表層水温とレジームシフトの海洋環境指標を用い,再生産関係について検討し,以下の結果を得た。1新しい再生産モデルを提案した。すなわち,a再生産関係は傾きの等しい複数の直線で表すことができる。b環境条件が上記直線をシフトさせるトリガーとなる。2高密度の産卵親魚量が加入量の低下をもたらすとする Ricker 型や Beverton-Holt 型の非線型な密度依存的再生産関係は存在しないと考えられる。

71(3), 577-592 (2005)
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周防灘における底泥からの栄養塩フラックスの見積もりとそれらの水柱内循環に対する重要性

ジャハンギル・サルカル,山本民次,橋本俊也,大村隆也(広大院生物圏科)

 周防灘における底泥からの栄養塩フラックスを見積もり,それらの水柱内の栄養塩循環に対する重要性を評価した。間隙水中の栄養塩濃度は西部域で高く,季節的には夏季に高かった。これらから計算された底泥からの溶存態無機リン(DIP),無機窒素(DIN),およびケイ酸塩(DSi)のフラックスは夏季に大きく,DIP や DIN では降雨や河川からの負荷の 2-3 倍程度で,年間平均でも同等かそれ以上であった。これらのことより,周防灘の水柱内栄養塩循環に対する底泥からの栄養塩フラックスの重要性は明らかである。

71(3), 593-604 (2005)
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完全養殖クロマグロ普通筋における部位による一般成分,破断強度ならびに組織構造の比較

中村好,安藤正史,瀬岡 学,川賢一,塚正泰之(近大農)

 完全養殖クロマグロを用いて,背部普通筋の前部と後部,腹部の前部(FV-OM)と後部の一般成分と冷蔵による破断強度,pH,組織構造の変化を比較した。FV-OM は,他の部位に比べて粗脂肪含量が有意に高かった。破断強度(FV-OM 以外)は冷蔵 15 時間まで上昇した。pH は全ての部位で低下したが,FV-OM では低下後も高い値に維持された。冷蔵 24 時間後に全ての部位で筋細胞間隙の広がりが確認され,死後硬直と軟化が同時に進行したことが示唆された。

71(3), 605-611 (2005)
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スッポンの非特異性免疫反応に及ぼす VE 添加飼料の影響

Xianqing ZHOU(中国北京師範大・首都医科大),Cuijuan NIU, Ruyong SUN(中国北京師範大)

 稚スッポンの非特異性免疫反応に及ぼす VE 添加飼料の影響について検討した。血球貪食作用と血漿殺菌活性は対照区に比べ,VE の 2 添加区(250 と 500 mg/kg)で顕著に改善されたが,他 3 添加区(50, 1000 と 5000 mg/kg)では改善傾向は見られなかった。血漿溶菌活性は VE 5000 mg/kg 添加区を除き,その他の添加区(50, 250, 500 と 1000 mg/kg)で対照区より高いレベルが示した。以上の結果より,稚スッポンの非特異性免疫反応の改善に対する VE 適正添加量には上下の閾値があり,その範囲の値は 250-500 mg/kg であることが明らかになった。

(文責 竹内俊郎)

71(3), 612-617 (2005)
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赤クローバー抽出物がアフリカナマズの成長と体組成に及ぼす影響

Funda Turan, Ihsan Akyurt(トルコ ムスタフケマル大)

 赤クローバーの抽出物を添加した餌を与えてアフリカナマズを 120 日間飼育し,その成長と体組成に及ぼす影響を検討した。赤クローバー抽出物を添加した群(25, 50, 75 mg/kg-1)ではいずれも対照群よりも大きく成長したが,高濃度群(75 mg/kg-1)で最も高い成長率と摂餌効率を示した。タンパク質含量に関しても,高濃度群で最も高い値となった。また赤クローバー抽出物が脂質および灰分含量にも影響を及ぼすことが明らかとなった。

(文責 金子豊二)

71(3), 618-620 (2005)
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インスリン様成長因子 I (IGF-I)遺伝子の発現はカマキリ若齢魚の海水中での成長促進に関与する

岩谷芳自(福井県内水総セ),井上広滋,竹井祥郎(東大海洋研)

 広塩性魚カマキリ若齢魚は海水飼育で成長が促進する。この現象への成長ホルモン(GH)/IGF-I 系の関与を調べるため 120 日齢魚を淡水から海水,1/3 海水に移し,20, 40 日後に GH, IGF-I 遺伝子の発現を調べた。IGF-I 遺伝子の発現は 40 日後の海水区において淡水(対照)区より有意に高く,IGF-I 遺伝子の関与が示唆されたが,GH 遺伝子の発現は実験区間で差がなかった。一方,1 歳魚を用いた同様の移行実験では,48 時間後のGH 遺伝子の発現が海水区,1/3 海水区において対照区より高く,GH 遺伝子の発現の短期的な上昇が確認された。

71(3), 621-626 (2005)
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ヒラメ稚魚用実用飼料へのタウリン添加による成長促進効果および全魚体と各組織のタウリン蓄積に及ぼす影響

金 信權,竹内俊郎(海洋大),秋元淳志(日配中研),古板博文,山本剛史,横山雅仁(水研セ養殖研),村田裕子(水研セ中央水研)

 ヒラメ稚魚における実用飼料中タウリンの添加効果を明らかにするため,魚粉,アミ粉,イカ粉をタンパク質原料として,タウリンを 0, 0.5, 1.0% を添加した 3 種類の実験飼料と市販飼料を用いて,平均体重 0.2 g のヒラメ稚魚を 2 連の水槽で 6 週間飼育した結果,タウリン 1.0% 添加区で優れた成長効果が得られた。また,全魚体および各組織中のアミノ酸組成においても飼料中タウリン添加量に伴ってタウリン含量の増加が見られた。これらの結果から,実用飼料でもタウリンが不足し,ヒラメ稚魚期ではタウリンの要求性が高いことが分かった。

71(3), 627-632 (2005)
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陸奥湾の渦鞭毛藻 Protoceratium reticulatum のイエッソトキシン生産

能栄喜健介,佐竹真幸,大島泰克(東北大院生命),小池一彦,緒方武比古(北里大水),三津谷正(青森県水産増殖セ)

 海産毒イエッソトキシン(YTX)による二枚貝の毒化が問題となっている青森県陸奥湾で渦鞭毛藻 Protoceratium reticulatum を分離し,YTX 生産能を確認した。1999 年 5 月から 7 月にかけて採取した海水濃縮試料より,8 株の P. reticulatum の培養に成功し,細胞中および培養液中の YTX 量を蛍光 HPLC 法で定量した。その結果,全株に YTX 生産が確認され,陸奥湾における YTX の起源を確定した。各株の YTX 生産量は細胞当たり 0.4 から 11 pg となり,株により生産能に差があることが明らかとなった。さらに,YTX の LC-MS 検出法を開発し,類縁体検索を行ったが,いずれの株からも既知の類縁体は検出されなかった。

71(3), 633-638 (2005)
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タラ肝臓油エマルションの自動酸化および光増感酸化により生成する揮発性化合物の比較

潘 相卿,潮 秀樹,大島敏明(海洋大)

 タラ肝臓油エマルションの光増感酸化および自動酸化により生成する揮発性化合物の組成を比較,検討した。酸化により両 o/w エマルションから共通に生成された 51 化合物の組成比は大きく異なっていた。光増感酸化と自動酸化の場合でハイドロパーオキサイド前駆体組成が相違することと組成比の大きいいくつかの揮発性化合物の生成機構との関連性を指摘した。本研究結果を用いて,天日乾燥法と機械乾燥法で製造した水産物乾製品のにおいが相違する機構を説明できると考えられた。

71(3), 639-647 (2005)
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フィッシュバーガーの凍結貯蔵中における品質と安定性の変化

Ismail M. Al-Bulushi, Stefan Kasapis, Hamed Al-Ou,Sultan Al-Mamari (Sultan Qaboos Univ.)

 オマーン国近海でほとんど利用されていない魚種を用いて,2 種類のフィッシュバーガーを試作し,-20℃, 3 ヶ月貯蔵中における品質と安定性の変化を検討した。品質と安定性は,全好気性菌・大腸菌群数,POV,タンパク質溶解性,色調により評価した。全好気性菌数は貯蔵初期数の 84~97% に減少した。一方,大腸菌群は貯蔵中に完全に死滅した。POV は増加したが,感知できる脂質酸敗のレベルには至らなかった。塩溶性タンパク質含量は冷凍貯蔵中に顕著に減少したが,製品の色調に変化は認められなかった。いずれのフィッシュバーガーとも -20℃ の凍結貯蔵中に品質の低下は生じなかった。

(文責 田中宗彦)

71(3), 648-654 (2005)
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すわり特性の異なるマアジおよびティラピアすり身ゲルのレオロジー特性と 1H NMR 緩和特性

Moin Uddin Ahmad,田代有里,松川真吾,小川廣男(海洋大)

 マアジおよびティラピアを用いて加熱および加圧条件の異なる魚肉すり身ゲルの応力緩和および水の 1HT2 測定を行なった。マアジのゲルは加熱および加圧処理の両方において,ティラピアより高い弾性,応力緩和成分の幅広い分布および小さい 1HT2 を示した。1HT2 は両魚種において,加圧処理では 294 MPa あたりで著しく増加し,加熱処理ではほとんど変化がなかった。マアジすり身のゲル化は,そのタンパク質の強いほぐれおよび再凝集がティラピアよりも強固な網目構造の形成に寄与することにより引き起こされると考えた。

71(3), 655-661 (2005)
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コイと比較したスケトウダラ筋原繊維中のミオシンの変性様式に対する塩濃度の影響

高橋真之,山本剛司,加藤早苗,今野久仁彦(北大院水)

 コイ,スケトウダラ筋原繊維中のミオシンの加熱変性様式に対する塩濃度の影響をキモトリプシン消化法で調べた。低イオン強度下では異なっていた両魚種筋原繊維の変性様式は 0.5 M KCl で差がなくなり,サブフラグメント-1(S-1)とロッドの変性速度は一致した。消化筋原繊維の加熱ではロッドの凝集変性が認められなかったので,ミオシンの S-1 変性がロッド凝集の原因であった。低温では,ロッドの凝集反応が著しく抑制されたので,ミオシン尾部の加熱による熱運動がロッド凝集にかかわっていることが推定された。

71(3), 662-671 (2005)
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ヒラメ筋肉冷蔵中に生じる I 型および V 型コラーゲンの可溶化

木宮 隆,久保田賢,河野礼也,平田光明(高知大農),豊原治彦(京大院農),森岡克司,伊藤慶明(高知大農)

 冷蔵中のヒラメ筋肉 I 型および V 型コラーゲンの死後変化を検討した。即殺および 24 時間冷蔵した筋肉からイオン交換クロマトグラフィー法により単離した I 型および V 型コラーゲンの電気泳動像に顕著な差は認められなかった。一方,筋肉の生理食塩水抽出液では,特異抗体を用いたウェスタンブロット分析によって冷蔵中の I 型および V 型コラーゲン分子の経時的な可溶化が検出された。この結果から,I 型および V 型コラーゲンがともに冷蔵中の魚肉軟化に関与している可能性が示唆された。

71(3), 672-678 (2005)
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西の湖産ニゴロブナの形態的特徴(短報)

鈴木誉士,永野 元,小林 徹,上野紘一(近大農)

 琵琶湖の内湖の 1 つである西の湖のニゴロブナは地元の漁師によってイオと呼ばれている。このフナと琵琶湖のニゴロブナとの形態的差異を明らかにするために両者間で比較した。その結果,イオ集団は本湖産ニゴロブナよりも頭部が小さく(頭高 1,頭高 2,頬高,p<0.01),鰓耙数は明らかに少なかった(p<0.01)。顕著な差異は気道弁の構造に見られ,ニゴロブナのそれの外観は丸みを帯び,内部がよく発達した筋層で成り立っているのに対し,イオのそれは細長く,未発達な筋層であった。この気道弁の 2 つのタイプは,両者が異なる水域を生息場所として利用していることをうかがわせた。

71(3), 679-681 (2005)
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マダイ Pagrus major とカサゴ Sebastiscus marmoratus にみられた Ochroconis humicola 感染症について(短報)

和田新平(日獣医大魚病),Chutima Hanjavanit (Khon Kaen Univ.),倉田 修,畑井喜司雄(日獣医大魚病)

 日本国内で養殖されていたマダイおよびカサゴに真菌感染症が発生した。病魚は体表に潰瘍性病変を形成し,病理組織学的に病変部の真皮から筋層に隔壁を有する幅 1.5-2.0 μm の菌糸が伸長し,それらの周囲には類上皮細胞性肉芽腫が形成されていた。これらの菌糸は頭腎,体腎,頭蓋骨および脳組織にも伸長していた。病魚から分離された真菌は,その形態学的特徴から Ochroconis humicola と同定された。本報告は,マダイとカサゴにおける O. humicola 感染症の最初の報告である。

71(3), 682-684 (2005)
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ミナミヌマエビに外部共生するヒルミミズ類の一種 Holtodrilus truncatus(環形動物門・環帯綱)の日本初記録(短報)

丹羽信彰(六甲アイランド高),大富 潤(鹿大水),大高明史(弘前大教育),S. R. Gelder(メイン大プレスクアイル校)

 ミナミヌマエビ Neocaridina denticulata denticulata は主に釣り餌として有用な日本固有の淡水産甲殻類である。2003 年に兵庫県夢前川水系菅生川で採集したミナミヌマエビの体表から多数のヒルミミズ類の一種 Holtodrilus truncatus(環形動物門・環帯綱)が発見された。本種はこれまで中国でしか知られておらず,今回の発見はユーラシア大陸に産するヒルミミズ類の日本における初記録となる。同時に,ザリガニ類以外の甲殻類からヒルミミズが発見された日本で初めての事例である。

71(3), 685-687 (2005)
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スルメイカ天然アクトミオシンの加熱ゲル化に対する添加物の効果(短報)

辻岡英二(上智大理工),江原 司(上智大理工),神澤信行(上智大理工),野口 敏(マルハ),土屋隆英(上智大理工)

 ツツイカ目イカ類にはミオシン重鎖(MyHC)を特異的に分解するプロティナーゼが存在するため,スルメイカからジェリー強度の高いゲルを作るには MyHC の分解を抑制する必要がある。プロティナーゼ阻害剤の IP6 では MyHC 分解は約 50%, EDTA では 90% 以上抑制された。EDTA 添加ゲルのジェリー強度は無添加ゲルの約 3 倍に増加したが,市販かまぼこより低くかった。微生物トランスグルタミナーゼ(MTGase)添加イカアクトミオシンゲルのジェリー強度は無添加ゲルの 10 倍以上にもなり,MTGase と 2 種のキレート剤が共存したゲルは市販のかまぼこと同程度になった。

71(3), 688-690 (2005)
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