Fisheries Science 掲載報文要旨

ゴーストフィッシングの科学的評価と解決に向けた研究に関するレビュー(総説)

松岡達郎,仲島淑子,長澤直毅(鹿大水)

 ゴーストフィッシング(以下 GF とする)に関する研究は 80 年代後半から盛んになり,これまでに籠,刺網,三枚網,吾智網による GF が証明されている。籠による GF 死亡は長期間継続する。平坦海底での刺網・三枚網の GF 機能は急速に低下するが,魚礁などに纏絡した場合の GF は長期間継続する。近年,刺網・三枚網では GF 継続期間,1 反当たり逸失後総死亡数を推定する研究が増えている。ある漁業での一定期間の GF 死亡数を推定する研究も現れている。GF に関する具体的資料のレビューを基に,5 つの分野での検討課題を提案する。

71(4), 691-702 (2005)
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桁網の爪に対する二枚貝の接触確率とサイズ選択性の SELECT 解析

三橋廷央,北門利英,胡 夫祥,東海 正(海洋大)

 桁網の対漁具試験結果からその選択性を解析するために,二枚貝が桁網の爪に接触する確率と対照漁具の選択性を考慮したモデルを開発した。桁網の網口における有効サイズ選択性を爪への接触確率と爪間隔による接触選択性の 2 つで定義した。これを 5 種類の爪間隔の桁網を設定した対漁具試験のシミュレーション結果に適用して,SELECT 解析により接触確率と接触選択性曲線のマスターカーブを適切に推定できた。500回のシミュレーションから推定精度を検討したところ,接触確率が小さいほど接触選択性曲線パラメータの推定精度は低い。

71(4), 703-712 (2005)
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コタマガイに対する桁網の爪間隔による接触選択性と有効選択性

IN-OK KIM(韓国水産科学院),三橋廷央(海洋大), 台鉉,朴 倉斗(韓国水産科学院),東海 正(海洋大)

 4 種類の爪間隔(16, 20, 24, 35 mm)の試験桁網の一つを爪間隔 12 mm の対照桁網と同時に曳網する対漁具試験で得られたコタマガイの殻長組成を資料とした。爪間隔のサイズ選択性を表すマスターカーブを貝が爪に接触する確率とともに SELECT 解析法で推定する Mituhasi らの方法を用いた。得られた爪の選択性は爪間隔と殻幅の関係に依存する接触選択であった。爪間隔 12~24 mm の桁網の接触確率は 0.47~0.67 であり,多くの貝が爪の接触選択を受けずに袋網に入る。この結果より桁網網口の有効選択を求め,さらに袋網の網目選択性を組み合わせて桁網全体の有効選択性を求めた。

71(4), 713-720 (2005)
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腐肉食性フトヒゲソコエビ科ヨコエビ Scopelocheirus onagawae の摂食と消化

井出恵一郎,佐々木浩一,大森迪夫(東北大院農)

 温帯浅海域に生息する腐肉食性フトヒゲソコエビ科ヨコエビ Scopelocheirus onagawae の消化時間,摂食量を飼育実験から算出,それらの特性を寒冷海域の種と比較した。両実験とも色素添加カマボコを給餌後,個体毎に色素抽出,蛍光強度を測定し摂食量に換算した。相対摂食量は 24 時間で 1.0 から 4.3% に増加した。飽食量は 3.6 から 4.1% の範囲にあり,本種の消化時間は 24 時間以内で,飽食量は寒冷海域の種よりも小さかった。日没後短時間に数万個体が死骸に集まり消費すると推察された。

71(4), 721-730 (2005)
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耳石 Sr/Ca 比から明らかにされたアメマス Salvelinus leucomaenis の回遊

新井崇臣,小竹 朱(東大海洋研),北村武文(北大院水)

 日本沿岸域で採集したアメマス Salvelinus leucomaenis の耳石の Sr 濃度と Sr/Ca 比から本種の回遊履歴を推定した。耳石 Sr:Ca 比は,耳石中心から 1000-2500 μm の部分までは低く(1.3-2.7),その後 Sr:Ca 比の急激な増加がみられた(5.0-10.0)。本種の耳石の Sr/Ca 比の低い部分と高い部分は,生息環境水中の Sr/Ca 比を反映し,それぞれ淡水生活期間と降海後の海洋生活期間に対応しているものと考えられ,本種の降海を耳石の Sr/Ca 比によって推定できた。

71(4), 731-737 (2005)
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スケトウダラ着底トロール調査におけるワープ長水深比の違いが網形状と漁獲に与える影響

藤森康澄,千葉健児(北大院水),大島達樹(JAMARC),宮下和士(北大フィールド科セ),本田 聡(水研セ北水研)

 スケトウダラ音響調査で使用されている着底トロール網について,ワープ長水深比(2.5, 3.0, 3.5)を変えて曳網中の網形状,着底状態,漁獲状態を調べた。着底状態はワープ長水深比の増加にともなって落ち着いた。いずれの曳網においても主な漁獲物はスケトウダラ,カレイ類,カジカ類であった。これらの魚種の漁獲量はワープ長水深比とともに増加した。また,ワープ長水深比 3.5 において漁獲されたスケトウダラの平均体長は,他のワープ水深比の場合に比べて若干大きく体長組成にわずかに差が見られた。

71(4), 738-747 (2005)
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低酸素濃度条件下におけるミズクラゲによる仔魚への捕食

小路 淳,益田玲爾,山下 洋,田中 克(京大フィールド研セ)

 溶存酸素濃度の低下がミズクラゲによる仔魚捕食量に及ぼす影響を調べることを目的として,被食者としてマダイ仔魚を用いた水槽内実験(15 分間)を行った。ミズクラゲの拍動頻度は設定した 4 つの溶存酸素濃度区(1, 2, 4 mg l-1 および空気飽和:5.5-6.0 mg l-1)の間で変化しなかった。2.9 および 4.1 mm の仔魚の 80% 以上が全実験区においてミズクラゲに捕食された。6.2 および 8.6 mm の仔魚に対する捕食量は 2 つの低酸素濃度区において増大した。貧酸素化した沿岸域においては,逃避可能なサイズの仔魚がミズクラゲにより捕食される危険が増大しうる。

71(4), 748-753 (2005)
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マイクロサテライト DNA からみたエゾアワビおよびクロアワビ集団の遺伝的な違い

原 素之(水研セ養殖研),関野正志(水研セ東北水研)

 分類学上不明瞭なエゾアワビとクロアワビの類縁関係は,生態学だけでなく栽培漁業上の関心事である。今回,8 つのマイクロサテライトマ-カ-を用い,両生息域の各 5 地域集団を分析し,関係を検討した。その結果,両生息域間に特徴的なアリル頻度がみられ,アリル頻度分布と FST 値でも顕著な異質性が認められた。また,2 つの遺伝距離(DA, DST)から求めた類縁図は両生息域の地域集団を 2 群に分け,AMOVA 解析結果とも一致した。これらのマ-カ-は両生息域の集団間の遺伝的違いをみるために有効と思われる。

71(4), 754-766 (2005)
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高水温で選抜飼育したニジマスの高温耐性

稲野俊直(宮崎水試),土田修二(海生研),神田美喜夫(宮崎水試),渡部終五(東大院農)

 高水温で選抜飼育したニジマス(高温選抜系)を 10 および 14°C で受精させた後,卵割初期,胞胚期および神経胚期で高温処理して半数致死温度(LT50)を測定した。その結果,10°C 区では胞胚期で,14°C 区では 3 発生段階とも標準系の値より高かった。次に,15 および 20°C に馴致した高温選抜系稚魚の臨界最高温度(CTM),死亡温度(DT)および LT50 を測定した。その結果,20°C 馴致魚の DT および LT50 は標準系のそれより有意に高かったが,20°C 馴致魚および 15°C 馴致魚の DT には差がなかった。

71(4), 767-775 (2005)
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ハタハタ日本海北部系群の資源量の推定とモニタリング

渡邉久爾(水研セ遠洋水研),杉山秀樹,杉下重雄(秋田水振セ),鈴木直樹,櫻本和美(海洋大)

 VPA によりハタハタ日本海北部系群の資源量を推定し,感度解析により推定値に関する不確実性を評価した。さらに,推定値と 1 艘駆回し式底曳網漁業による年間資源量指数および試験操業の単位努力量当たり漁獲量(CPUE)との関係を検討した。その結果,推定値は,最高齢魚の漁獲係数および年齢別漁獲尾数の観測誤差に対して頑健であった。資源量指数と CPUE は,推定値に対して有意な正の関係を示した。調査操業の CPUE は漁期中における資源量のモニタリングおよび総許容漁獲量の調整に有効である。

71(4), 776-783 (2005)
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江の川におけるカマキリの成長および成長に及ぼす水温の影響

竹下直彦,池田 至(水大校),鬼倉徳雄(紙パルプ研),西川真登,永田新悟(水大校),松井誠一(九大水実),木村清朗(福岡市在住)

 島根県江の川水系濁川において,1994~1996 年に,降河回遊型カジカ科魚類カマキリの成長を個体識別法により調べた。河口から約 32 km 上流に位置する濁川には,6~7 月に全長 50~70 mm の当歳魚が出現し,翌年 4 月には 90~140 mm,12 月には 160~210 mm に成長した。7~9 月の成長は 4~7 月および 9~11 月の成長に比べ低かった。また,成長に及ぼす水温の影響を調べるため,150 日齢の稚魚を用いて 60 日間の飼育実験を行い,16~22°C 区は 12,26°C 区より成長が良いことを明らかにした。

71(4), 784-790 (2005)
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タイ国南部のエビ養殖業者による水質管理システムの変換動機

加西智芙実(東大院農),Thongchai Nitiratsuwan(RIT),馬場 治(海洋大),黒倉 寿(東大院農)

 タイ国南部のエビ養殖池には,閉鎖式,半閉鎖式,開放式の 3 つのタイプの飼育水の管理システムがあり,開放式から,半閉鎖式,閉鎖式へと水管理システムが変わりつつある。この変化は,水交換による病因生物の混入を避けるために行われていると考えられるが,これの変化によって,シカオ地区のエビ養殖の純利益率は 2 以上であったものが 1 以下に低下していた。以上のことから,タイ国南部の中小エビ養殖業者は,疾病のリスク回避のために,短期的な利益率の低下を受け入れていることが示された。

71(4), 791-798 (2005)
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北海道南部太平洋海域におけるマダラの体重組成にもとづく YPR および SPR 解析

上田祐司,松石 隆(北大院水)

 体重にもとづく加入量あたり漁獲量(YPRW)および親魚量(SPRW)解析により,道南で漁獲されるマダラの資源診断を行った。現状の漁獲係数 F を 1998 年から 2000 年の平均より 0.65,漁獲開始体重 wc を 0.5 kg としたとき,YPR は加入あたり 1.06 kg,%SPR は 6.9% だった。wc を引き上げると YPR,%SPR ともに増加し,資源状態の改善が見込まれる。漁獲サイズの変更による漁業管理が不可能な場合,F=0.3 程度であれば,漁獲量を維持した上で親魚量を増大させることが可能である。

71(4), 799-804 (2005)
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卵の有無を観測するサンプリングと卵を数えるサンプリングによる卵の平均豊度の推定

山田作太郎(東京海洋大),銭谷 弘(水研セ瀬戸内水研)

 卵の有無を観測するサンプリング(PAS)と卵の数を数えるサンプリング(CS)の組み合わせから卵の平均豊度を推定する問題を考える。概して PAS は安価であるが,精度の低い推定しか与えない。しかし,観測地点数や調査費用に制限がある場合には PAS が有利になることがある。観測地点数一定の下で一部の地点を PAS,残りを CS でサンプリングする時,最尤推定量の平均 2 乗誤差(以下,誤差)に関して,PAS に対する誤差が CS に対する誤差よりも小さくなる PAS の観測数の最小の限界値を与える。サンプリングの総予算が与えられた時,両方のサンプリングからの結合推定量の誤差を最小にする PAS の観測数を求めた。卵の有無を観測するサンプリングにおいて,ある条件の下で見落としの確率が小さいと平均豊度の最尤推定の誤差も小さくなることを示した。

71(4), 805-816 (2005)
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ニジマス用低魚粉飼料への適正 P 添加量

A. Hernandez,佐藤秀一,V. Kiron(海洋大)

 ニジマス用 P 排泄低減飼料開発の目的で,大豆油粕およびコーングルテンミールを主体とし P を 0, 0.1, 0.2% 添加した低魚粉飼料および魚粉飼料を作製し,平均体重 1.5 g および 148 g のニジマスをそれぞれ 24 および 14 週間飼育した。P 無添加の低魚粉飼料では成長が劣ったが,P を 0.1% 添加することにより,魚粉飼料に匹敵する成績が得られた。一方,P の排泄量は低魚粉飼料で低く,窒素の排泄量は成長の悪い区で高かった。これらのことより,低魚粉飼料においても P を適正添加することにより,P および窒素の排泄量の低減が図れるものと推察された。

71(4), 817-822 (2005)
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日本海に生息する深海性エゾバイ科エゾバイ属巻貝ツバイの形態比較

井口 亮(京大院農),伊藤寛治(京大院人環),上野正博(京大フィールド研セ),前田経雄(富山水試),南 卓志(水研セ日水水研),林 勇夫(京大院農)

 日本海に生息する深海性巻貝の一種 Buccinum tsubai(ツバイ)を,計測形質を基にして,雌雄間並びに,ミトコンドリア DNA の部分塩基配列によって区別される 4 地域集団間(北海道,山形-富山,大和堆,山陰)で形態比較を行った。その結果,ツバイには雌雄二型があることが示された。また,4 地域間で見られた形態的差異は,遺伝的なものか,あるいは 4 地域間の環境の差異による表現型の可塑性が関連していると考えられる。

71(4), 823-828 (2005)
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PCR にもとづく種判別手法によるアコヤガイとミドリアオリガイの天然雑種の発見

正岡哲治(水研セ養殖研),小林敬典(水研セ中央水研)

 アコヤガイ属の PCR をもとにした種判別技術により鹿児島県奄美大島の海域で真珠養殖母貝として採集された天然貝(n=20)を調査したところ,10 個体がアコヤガイとミドリアオリガイの核 rRNA 遺伝子の ITS 領域と,アコヤガイの Mitochondria DNA の 16S rRNA 遺伝子部分領域を有していた。このため,これらの個体は両種の種間雑種と推測され,これらが F1 雑種であれば,母親はアコヤガイ,父親はミドリアオリガイであると考えられた。これらの個体は殻形態からはアコヤガイと区別が難しかったが,成長は遅滞していた。

71(4), 829-836 (2005)
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核 DNA rRNA 遺伝子間の spacer 領域とミトコンドリア DNA の 16S rRNA 遺伝子領域を利用したメキシコアコヤガイ Pinctada imbricata の判別

正岡哲治 (水研セ養殖研),小林敬典 (水研セ中央水研)

 輸入された国外産アコヤガイおよびこれと日本産アコヤガイとの雑種が真珠養殖用種苗として利用されつつある。これらのアコヤガイは形態的に判別するのが困難である。このため,太平洋に分布する Pinctada martensii および P. fucata と,大西洋に分布するメキシコアコヤガイ P. imbricata を判別する,核-ribosomal RNA (rRNA) 遺伝子の Intergenic spacer (IGS) 部分領域を利用した PCR 産物の長さの違いと,同領域と Mitochondrial 16S rRNA 遺伝子部分領域を利用した PCR-RFLP による消化産物の長さの違いをもとにした識別手法を開発した。

71(4), 837-846 (2005)
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水中用 PAM を用いたサンゴの白化状態の評価

岡本峰雄(海洋大),野島 哲(九大院理),古島靖夫(海洋研究機構),野島 基(琉球放送)

 2000 年 11 月,石西礁湖で 28 属 68 種 92 群体のサンゴのクロロフィル蛍光測定を行った。最大量子収率(Fv/Fm)は種や深度に関わらず 0.61-0.70,平均 0.664 であった。電子伝達率(R-ETR)は照度が 200 μmol quanta m-2s-1 を超えるとばらつくが,100 μmol quanta m-2s-1 では 21.3-30.0,平均 27.8 で変化は小さかった。サンゴが白化中の 2001 年 8 月,8 種 21 群体で計測した結果,Fv/Fm,R-ETR は 11 月に比べ著しく低下していた。低下は目視での白化段階評価と概ね一致した。

71(4), 847-854 (2005)
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スケトウダラ太平洋系群の漁獲量変動と表面水温との関係

呉 泰棋(Wando Maritime and Fisheries Oce),桜本和美(海洋大),長谷川誠三(水研セ北水研),鈴木直樹(海洋大)

 スケトウダラ太平洋系群の漁獲量変動と表面水温(SST)の関係を調べた。産卵から漁獲されるまでの時間遅れを考慮し,月別,海域別の SST と漁獲量の相関を調べた結果,t 年の漁獲量と t-2,t-3 年の 1-4 月,11-12 月の産卵海域における水温との間に強い負の相関関係が認められた。これらはスケトウダラ日本海系群で認められた関係と極めて類似していた。スケトウダラの漁獲量変動(資源量変動)が産卵期,産卵海域の水温により説明可能であり,両者の関係を用いると資源量予測モデルの開発に寄与すると考えられた。

71(4), 855-861 (2005)
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ナマズとオオクチバスによる被食魚の選択性

片野 修,中村智幸,山本祥一郎(水研セ中央水研)

 ブルーギル,ウグイ,ギンブナを被食魚とした場合の,ナマズとオオクチバスによる選択性を調べた。水槽,実験池のいずれにおいても,ブルーギルはウグイ,ギンブナに比べてナマズにもオオクチバスにも多く捕食されなかった。実験池ではナマズはウグイを,オオクチバスはギンブナを多く捕食した。ナマズとブルーギルだけを池に放した場合,ナマズは 1 日あたり 4-15 g のブルーギルを捕食した。ブルーギルを駆除する目的でのナマズの放流は,在来魚がほとんど生息しない場所で行われるべきである。

71(4), 862-868 (2005)
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パーティクルガン法によるヒラメ受精卵への遺伝子導入法の開発

矢澤良輔(海洋大),廣野育生(海洋大),山本栄一(鳥取栽漁セ),青木 宙(海洋大)

 トランスジェニックヒラメ確立のため,パーティクルガン法を用いたヒラメ受精卵への遺伝子導入法の開発を行った。ヒラメ由来ケラチン遺伝子の発現制御領域に緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を連結した組換えプラスミドを導入したヒラメ胚では強い GFP 発現が発生段階を通して観察された。また,一実験区あたり 25,000 から 30,000 個の受精卵を処理することによって,50 個体程度の正常に発生する GFP 陽性個体を得ることが出来た。このようにパーティクルガン法はヒラメへの遺伝子導入法として適していると考えられた。

71(4), 869-874 (2005)
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実験室で飼育したサルボウの濾水

中村泰男(国立環境研)

 サルボウの濾水速度(CR)の環境因子依存性を解析した。軟体部乾燥重量あたりの CR はアサリと同程度であった。CR は 10 から 20°C の間で 2.7 倍上昇した。15 PSU 以下の塩分では濾水活動が認められなかった。また,CR への餌濃度依存性や Daily ration 依存性も顕著ではなかった。得られた結果と有明海のサルボウ漁場での現存量から,サルボウ群集が海水を濾過する量を推定した。その結果,彼らが二日以内で漁場直上の海水を濾し取り,有明海での物質循環に重要な役割を果たしていることが示された。

71(4), 875-883 (2005)
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カクレクマノミ仔魚の生存と成長に対する銅の影響

古田岳志,岩田仲弘,菊池弘太郎(電力中研),難波憲二(広大院生物圏科)

 孵化後約 12 時間のカクレクマノミ仔魚を銅添加海水(40~640 μg-Cu/L)に収容し,ブラインシュリンプノープリウスを与えて水温 26.5°C で飼育した。14 日後の生存率は,通常海水では 30% であったのに対し,80 および 160 μg-Cu/L ではそれぞれ 65 および 80% と有意に高くなり,海水中への銅の添加による仔魚の生存率の向上が認められた。また,異なる産卵回時(7 回)の仔魚についても銅による生存率の向上が確認された。一方,生存魚の成長については銅の影響は認められなかった。

71(4), 884-888 (2005)
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ティラピアすり身製品プリン含量の加工中における変化

駱 錫能,陳 輝煌,許 博揚,張 大宣(国立宜蘭大食品)

 ティラピアすり身製品中の加工工程におけるプリン関連物質含量の変化について検討した。水晒し中に全プリン含量の約 60% が減少した。除去された主たる成分はイノシン-1-リン酸であり,水晒しの効果は特に最初の 10 分間に観察された。水晒し 20 分間から 30 分間では,ほとんど減少しなかった。2 回水晒しで最小の全プリン含量となり,中程度のプリン含量まで減少させることが可能となった。30 分間の水晒し中にティラピアすり身製品のゲル強度は増加した。中程度のプリン含量で適度のゲル強度を持つティラピア製品は,10 分間晒しを 2 度行うことで得られた。

(文責 田中宗彦)

71(4), 889-895 (2005)
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イカ肉糊の加熱ゲル形成におよぼす微生物トランスグルタミナーゼとでん粉の影響

朴 信虎(北大院水),趙 舜栄(江陵大),木村メイコ,埜澤尚範,関 伸夫(北大院水)

 スルメイカ肉糊に微生物トランスグルタミナーゼ(MTGase)を添加して,40°C 坐りをおこなってから 80°C または 90°C で加熱したところ,坐り中にミオシンの架橋重合が促進され,弾力性のある加熱ゲルが形成された。でん粉の添加は加熱ゲルの破断強度を増大させたが,凹みを低下させた。MTGase とでん粉を同時に添加した時は,坐り中の肉糊の動的粘弾性とミオシンの架橋重合はでん粉の影響を受けなかったが,その後の加熱で,でん粉は貯蔵弾性率と損失弾性率を増大させ,形成された加熱ゲルは硬いが破断しやすくなった。

71(4), 896-903 (2005)
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淡水魚類筋肉中のアスポリンの存在とトリメチルアミンオキシド脱メチル化活性

木村メイコ(北大院水),竹内壱明,木村郁夫(日水中研),関 伸夫(北大院水)

 アスポリンはスケトウダラ肉のトリメチルアミンオキシド脱メチル化酵素(TMAOase)として単離されたタンパク質であるが,基質 TMAO をほとんど含まない淡水魚(コイ)からもスケトウダラの 2 倍量が単離された。しかし,コイの酵素比活性は低く,その Km 値は非常に高かった。高次構造を有しないランダム構造が推定された。このアミノ酸配列は連続する 138 の Asp 残基と C 末端の His-Glu-Glu-Leu の 4 残基からなるポリアスパラギン酸様タンパク質であり,スケトウダラのものより Asp 残基が 42 残基少なかった。

71(4), 904-913 (2005)
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ホソトビウオ Cypselurus hiraii のミトコンドリアゲノム全塩基配列

永瀬光俊(島根産技セ),会見忠則(鳥取大農),杉中克昭(島根産技セ),北本 豊(鳥取大農),森永 力(広島県大生物資源)

 本研究は,水産加工食品の DNA 鑑定技術開発を目的に,ホソトビウオ Cypselurus hiraii のミトコンドリアゲノム全塩基配列を調べた。全てのゲノムは PCR を使って断片に分割し増幅した。そして増幅産物を鋳型として 60 のプライマーを用いて直接法により塩基配列を分析した。全ゲノム(16,528 bp)は,他の脊椎動物のミトコンドリアゲノムで見られる 37 遺伝子(2 個のリボゾーム RNA 遺伝子,22 個の転移 RNA(tRNA)遺伝子,13 個のタンパク質遺伝子)を含むことが明らかになった。また,遺伝子の配置は典型的な脊椎動物のものと同一であった。tRNAPro 遺伝子と tRNAPhe 遺伝子の間に見られた主要な非コード領域は,いくつかの保存領域を含むことから,調節(D-loop)領域であると考えられた。

71(4), 914-923 (2005)
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珪藻 Thalassiosira sp. におけるアラニンラセマーゼ活性の存在

横山雄彦,田中裕美子(北里大水),佐藤 実(東北大院農),菅野信弘(北里大水),中野俊樹,山口敏康(東北大院農),長久英三(北里大水)

 海産珪藻 Thalassiosira sp. に微細藻類としては初めてアラニンラセマーゼ活性の存在を認めた。最適 pH や基質特異性は無脊椎動物や微生物の酵素と類似するが,微生物の酵素が精製後,活性発現に補酵素として Pyridoxal 5′-Phosphate (PLP) の添加を必要とするのに対し,本酵素ではその要求性は認められなかった。しかし,各種試薬による影響から,本酵素も PLP 酵素と推測された。珪藻は無菌培養されていることから,珪藻に存在する D-アラニンは微生物起源ではなく,内在するアラニンラセマーゼにより珪藻自身が生合成していると考えられる。

71(4), 924-930 (2005)
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アカフジツボ由来 C-タイプレクチンに付加した糖鎖の構造と機能

松原裕樹,加太希哉,中原直子,小川智久,村本光二(東北大院生命),神保 充,神谷久男(北里大水)

 アカフジツボから単離した C-タイプレクチン(BRA-2)は,N 結合型糖鎖をもった糖タンパク質であった。N-グリコペプチダーゼ F で切断した糖鎖部分の構造を,2 次元マップ法等で分析し,Manα1-6(Manα1-3)Manβ1-4GlcNAcβ1-4(Fucα1-6)GlcNAc および Manα1-6(GlcNAcβ1-2Manα1-3)Manβ1-4GlcNAcβ1-4(Fucα1-6)GlcNAc であると決定した。糖鎖の除去により BRA-2 のタンパク質分解酵素に対する感受性は増加し,一方,炭酸カルシウム結晶化阻害活性や赤血球凝集活性は著しく低下した。これらの結果から,BRA-2 の糖鎖は構造安定性と機能性の両方に重要であることが明らかになった。

71(4), 931-940 (2005)
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Pseudomonas uorescens MACK-4 の産生する細胞外水核活性物質の性質及び食品凍結に対する影響

殷儷容(中国海商専食品),陳美伶(台湾海洋大食品),SHINN-SHUENN TZENG(嘉南薬理科技大),江善宗(台湾海洋大食品)

 さばの体表から分離された Pseudomonas uorescens MACK-4 は氷核形成活性(ice-nucleating ctivity, INA)を持つとともに,細胞外氷核活性物質(extracellular ice-nucleating substance, EINS)を生産する。この EINS は 3~5% のマルトース,トレハロース,シュークロースなどの糖類との培養により最大の INS を示したが,グリセロールと共に培養すると,INA およびその菌数が低下した。この EINS は,純水,全脂乳,澱粉などの液体食品の凍結の際,その氷核結成を加速することが分かった。

(文責 木暮一啓)

71(4), 941-947 (2005)
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ホタテガイに強制投与したオカダ酸,ジノフィシストキシン 1,ペクテノトキシン 6,エッソトキシンの動態

鈴木敏之(水研セ東北水研),五十嵐友二(日本食品分析セ),一見和彦(香川大農),渡井正俊,鈴木 芽,小木曽衣里,安元 健(日本食品分析セ)

 ホタテガイにオカダ酸(OA),ジノフィシストキシン 1(DTX1),ペクテノトキシン 6(PTX6),エッソトキシン(YTX)を注射により強制投与し,毒の分布を液体クロマトグラフィー/質量分析法で調べた。毒は中腸腺から検出され,その他の部位からはほとんど検出されなかった。OA, DTX1, YTX は,ホタテガイの体内でそれらの代謝物に変換された。いずれの毒成分も,残留率は投与した毒量に対して 20% 以下であった。PTX6 を投与したホタテガイの死亡率は,OA や YTX を投与したそれと比較して低かった。

71(4), 948-956 (2005)
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沿岸魚類の腸管内における培養可能な細菌(短報)

杉田治男,黒崎幹平,岡村敏宏,山本沙知,土谷知弓(日大生物資源)

 沿岸魚類 8 種の腸内容物における培養可能な細菌は全菌数の 0.00003~80.9% に相当した。さらにボラの腸内細菌叢を FISH 法で測定したところ,培養法で高頻度に検出される Gammaproteobacteria のほかに,Alphaproteobacteria, Betaproteobacteria, Deltaproteobacteria およびグラム陽性細菌が同レベル検出された。以上の結果は,沿岸魚類腸内にはこれまでの培養条件では培養できない多様な細菌種が生息していることを強く示唆するものである。

71(4), 956-958 (2005)
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