Fisheries Science 掲載報文要旨

黒潮系水の流入に伴う移流が太平洋沿岸におけるシラス春漁期のプランクトン量に及ぼす影響

兪 俊宅,中田英昭(長大水),杉本隆成(東海大海洋研)

 黒潮沿岸域におけるプランクトン量の経年変動を規定するプロセスを明らかにするため,黒潮系水の沿岸域への流入に伴う移流と,拡散,河川からの栄養塩供給量の 3 つを考慮した一次元モデルを用いて,土佐湾および遠州灘西部海域と外房海域の沿岸(200 m 以浅)の一次生産に対するそれぞれの寄与の程度を調べた。その結果,黒潮系水の流入による移流の大きさの変化が,いずれの海域においてもプランクトン量の経年変動を規定する最も重要な要因となっていることが分かった。

70(6), 937-944 (2004)
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アオリイカに対する狩刺網のサイズ選択性

秋山清二,貝原智志,有元貴文,東海 正(海洋大)

 千葉県館山湾の狩刺網(内網目合 85.3 mm)と定置網(魚捕目合 11.3 mm)で漁獲されたアオリイカの外套背長組成を比較し,SELECT モデルを用いて狩刺網のサイズ選択性を求めた。アオリイカに対する狩刺網のサイズ選択性は外套背長 l として r(l)=exp(−18.57+0.88l)/[1+exp(−18.57+0.88l)]と推定された。内網の網目内周長と同じ外套周長のアオリイカに対する狩刺網の選択率は 0.09 となり,網目内周長より外套周長が小さなアオリイカの大半が網目を通過していると考えられた。

70(6), 945-951 (2004)

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小型籠の流体抵抗に関する基礎的研究

ジョニー ブディマン,不破 茂,江幡恵吾(鹿大水)

 流体力と静止摩擦力の測定を行い,籠の設置条件について検討した。5 種類の籠を使用し,流体力測定時の流速は 0.1 ~ 0.5 m/s,迎角は 0 ~ 90°で変化させた。静止摩擦力の測定は,海岸で行った。抗力係数は,カワハギ籠は 2.75 ~ 5.96,フグ籠は 2.81 ~ 4.49,ハート型籠は 2.77 ~ 3.66,折りたたみ籠 2.39 ~ 2.97,エビ籠は 3.57 ~ 3.67 であった。静止摩擦力は,それぞれ 8.40 kgw, 4.75 kgw, 4.10 kgw, 3.55 kgw, 3.58 kgw となった。ハート型籠のみが,流速 0.5 m/s で迎角が 30°を越えると移動することが明らかとなった。

70(6), 952-959 (2004)
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マアナゴ ER-β-cDNA のクローニングと卵母細胞の発達に伴う肝臓における発現

三河直美(いらご研,海洋大),宇藤朋子,堀江則行,岡村明浩,山田祥朗,赤澤敦司,
田中 悟(いらご研),塚本勝巳(東大海洋研),廣野育生,青木 宙(海洋大)

 マアナゴエストロゲン受容体(ER)cDNA の全長は 2,543 bp であり,596 アミノ酸残基をコードしていた。マアナゴ ER の推定アミノ酸配列と既知の ER との相同性および分子系統樹から,マアナゴ ER は ER-β サブタイプであると判断された。マアナゴ ER-β 遺伝子は,肝臓および脳下垂体で強く発現していた。ER-β 遺伝子の発現量は油球期の卵母細胞を持つ個体の肝臓においては低値を示したが,第一次卵黄球期では増加し核移動期まで高値を示した。

70(6), 960-970 (2004)
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女川湾に優占するフトヒゲソコエビ上科端脚類の日周活動と鉛直分布

武川淳司,佐々木浩一,大森迪夫(東北大院農)

 女川湾で優占する腐肉食性端脚類 3 種の日周活動と鉛直分布を解明するため,ベイトトラップによる 24 時間調査を行った。3 種とも鉛直分布は海底から数 10 cm までの海底直上層に限られており,食物を堆積有機物に強く依存することを示した。採集数が夜間に著しく増加したことは,摂食が夜間に活発になることを示唆している。夜行性は被食リスク低減のための適応と考えられるが,Scopelocheirus onagawae の幼稚体は昼間にも採集され,これらは被食回避よりも食物摂取を優先させていると考えられた。

70(6), 971-977 (2004)
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東京湾の干潟域における魚類の餌利用パターン

加納光樹,佐野光彦(東大院農),河野 博(海洋大)

 東京湾の干潟域の魚類群集において,構成種 29 種の餌利用パターンを精査した。マハゼ,コノシロ,ボラ,アユ,サッパなど 21 種では,成長に伴う食性の変化がみられた。一般に,これらの仔稚魚はカラヌス・キクロプス類や枝角類およびハルパクチクス類などを主な餌としていたが,成長するにつれて他の餌項目を利用するようになった。出現各種は餌利用パターンの類似性によって,貝類食,多毛類食,小型底生甲殻類食,動物プランクトン食,デトライタス食,魚類食の 6 群に分類された。構成種数では,小型底生甲殻類食が最も多かった。

70(6), 978-987 (2004)
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越冬養成したガザミの卵巣発達と産卵誘発

浜崎活幸(水研セ玉野),今井秀行,秋山信彦(東海大海洋),
福永恭平(水研セ玉野)

 ガザミを秋から翌春まで自然水温あるいは加温(21℃)して養成し,卵巣の発達と産卵を調べた。自然水温で養成した個体の卵黄蓄積は 10 ~ 12 月にかけて進行したが,卵巣の発達段階は 12 ~ 3 月までほぼ一定であった。卵巣発達は 3 月下旬頃に再開し,産卵は 4 月中 ~ 下旬に始まった。加温養成個体の産卵は自然水温で養成した個体よりも早く始まり,加温開始日から産卵までの日数は日長 12 時間の 2 月上旬から 14 時間の 4 月下旬にかけて短くなった。したがって,本種の卵巣発達と産卵は水温と日長に制御されているものと推察された。

70(6), 988-995 (2004)
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稚魚および幼魚期におけるジャイアントグーラミの飼料炭水化物の利用能

I. Mokoginta(IPB),竹内俊郎(海洋大),
A. Hadadi, J. Dedi(IPB)

 稚魚(30 g 前後)および幼魚(80 g 前後)期におけるジャイアントグーラミ Osphronemus gouramy の飼料炭水化物利用能を調べた。飼料中の炭水化物は α デンプンを用いて,4 段階のレベルとし,稚魚は 40 日間,幼魚は 60 日間の飼育を行った。摂餌後における血中グルコースの日内変動および飼育結果から,稚魚期に比較して,幼魚期のほうが炭水化物の利用能が高く,飼料中の適正含量はそれぞれ 20.8% および 47.5% と判断された。

70(6), 996-1002 (2004)
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ADAPT VPA による資源量推定値の信頼性

平松一彦(遠洋水研),田中栄次(海洋大)

 ADAPT VPA による評価結果は,使用される仮定に大きく影響されることがある。ADAPT VPA による資源量推定の一意性と精度について,解析的および数値的に検討した。漁獲係数の年変化が無いと資源量が一意的に決定できないこと,さらに各コホートの漁獲係数の累積値が類似していると,資源量推定精度が非常に悪くなることが示された。精度良く資源量を推定するには,漁獲係数に年変動がありかつ各コホート間の累積漁獲係数に差があること,さらに正確な資源量指数に加え選択率等に関する情報が得られていることが必要である。

70(6), 1003-1008 (2004)
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ニジマス稚魚の成長および魚体脂質組成に及ぼす共役リノレン酸の影響

A. Yasmin,竹内俊郎(海洋大),廣田哲也,石田修三(太陽油脂)

 ニジマス稚魚(1.1 g)の成長と魚体脂質組成に及ぼす共役リノレン酸(CLNA:c9, t11, c13-18:3)の影響を調べた。試験区はリノレン酸(LNA)または CLNA4% 単用区および各 2 % 併用の 3 区とし,水温 16℃ で 9 週間飼育した。CLNA 単用区では 3 週目ごろより成長の低下が著しく,斃死も多発したため,6 週目で取り上げた。比肝重値の増加や極性脂質中に 20:3n-9 が見られ,必須脂肪酸欠乏の兆候が観察された。CLNA は中性脂質中に多く取り込まれた。一方,併用区は LNA 区と同様の成長を示し,共役 CLNA の悪影響は見られなかった。

70(6), 1009-1018 (2004)
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瀬戸内海中央部におけるドチザメ科サメ類(ドチザメ,エイラクブカ,シロザメ,ホシザメ)の食性

加村 聡,橋本博明(広大院生物圏科)

 瀬戸内海燧灘西部にて採集したドチザメ 195 個体(全長 42-148 cm),エイラクブカ 57 個体(同 42-102 cm),シロザメ 193 個体(同 39-100 cm)及びホシザメ 166 個体(同 43-120 cm)の食性を調査した。ドチザメは成長に伴いエビ類,ユムシ類から頭足類へと食性を変化させていた。エイラクブカは主に頭足類や魚類を捕食していた。シロザメは多様な甲殻類を摂餌していたが成長に伴い餌の多様度は低くなっていった。ホシザメは甲殻類や多毛類を摂餌し,成長による変化は現れなかった。

70(6), 1019-1035 (2004)
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ブリの側湾症原因粘液胞子虫 Myxobolus buri はマハゼの脳に寄生する Myxobolus acanthogobii のシノニムである

横山 博,Mark A. Freeman,良永知義,
小川和夫(東大院農)

 ブリの側湾症原因粘液胞子虫 Myxobolus buri Egusa, 1985 とマハゼの脳に寄生する Myxobolus acanthogobii Hoshina, 1952 の分類学的異同について,形態観察および遺伝子解析により検討した。両者は胞子の計測値と形態学的特徴において明らかな相違は認められず,SSU rRNA 遺伝子の塩基配列は 100% の相同性を示した。以上の結果から,M. buriM. acanthogobii のシノニムであると考えられる。

70(6), 1036-1042 (2004)
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葉緑体 DNA 塩基配列に基づく赤潮原因藻ヘテロシグマ・アカシオの分子識別

赤瀬信一郎,吉川 毅,早川法子,前田広人,坂田泰造(鹿大水)

 赤潮原因藻 Heterosigma akashiwo の種内分子識別法の確立を目的として,日本沿岸域で分離された 4 株の葉緑体ゲノムから rbcL, rbcS, psbA 領域の塩基配列を比較した。rbcL 上流域に trnL が,rbcS-psbA IGS 領域に cfxQ が見出された。rbcS-cfxQ IGS 領域と rbcL 上流域に NIES-5 株のみ塩基置換,欠失および逆位が見られた。これらの部位を個体群識別の遺伝子マーカーとして検出するための株特異的 PCR や PCR-RFLP 法を確立し,識別法の有効性を確認した。

70(6), 1043-1050(2004)
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ADCP と計量魚群探知機を用いたオキアミ Euphausia pacifica の密度推定

李 坰勲,向井 徹,康 燉赫,飯田浩二(北大院水)

 ADCP と計量魚探機を併用したオキアミの生物密度推定の可能性を検討した。周波数 200 kHz と 38 kHz の計量魚探機による平均体積後方散乱強度(MVBS)の差を用いてオキアミの反応を抽出し,その反応に対する周波数 200 kHz の MVBS と ADCP(153.6 kHz)で測定された MVBS を比較した。また,生物の確認にはフレームトロールを用いた。計量魚探機による MVBS との比較および生物サンプルとの比較から,計量魚探機と ADCP を併用したオキアミの密度推定や時空間分布の把握が可能であることが示唆された。

70(6), 1051-1060 (2004)
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人工孵化クエ仔稚魚の消化系および免疫系の発達

家戸敬太郎,石丸克也,澤田好史,無津呂淳一,
宮下 盛,村田 修,熊井英水(近大水研)

 人工孵化クエ Epinephelus bruneus 仔稚魚の消化系および免疫系の発達を組織学的に調べた。肝臓,胆嚢,膵臓および腸と直腸との境界は 3 日齢までに形成された。16 日齢までの preflexion 期に腸が 1 回転し,咽頭歯および食道の粘液細胞が分化した。稚魚期への移行期である 25 日齢に胃盲嚢,胃腺および幽門垂の形成が始まり,成魚型の消化系が完成した。胸腺,腎臓および脾臓の原基はそれぞれ 12,1 および 6 日齢までには存在し,それらの器官における小リンパ球の出現はそれぞれ 21, 30 および 33 日齢であった。

70(6), 1061-1069 (2004)
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アワビ Haliotis discus discus 幼生の着底および成長と生残に及ぼす新しい飼育方法

A. E. Stott,竹内俊郎,小池康之(海洋大)

 新たに開発した飼育システムを用いて,アワビ幼生の着底および成長に及ぼす影響について検討した。本法は波板に,溶解した寒天を微粒子飼料とともにスプレーで塗末する方法で,SAPPS 法と名づけた。実験は 10 L 水槽を用い,28 日間の飼育とした。微粒子飼料としては低タンパク・高脂質の Cos 飼料とその逆の成分の Adam 飼料および対照として珪藻を用い飼育したところ,生残率は Cos 飼料区で 56.7% と優れていたが,Adam 飼料および珪藻区ではそれぞれ 9.4% および 8.5% と有意に劣った。SAPPS 法を用いた Spirulina 粉末飼料区も 48.6-74.0% と優れ,さらに殻長も大きく SAPPS 法の有効性が示唆された。

70(6), 1070-1081 (2004)
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ブリの窒素・リン排泄量に及ぼす飼料脂質およびリン含量の影響

佐藤秀一,Md. S. A. Sarker(海洋大),佐藤公一(大分海水研セ),V. Kiron(海洋大)

 飼料脂質レベルを 20, 25, 30% とした魚粉主体飼料に,それぞれリン(P)を 0, 2, 4, 7 g/kg 添加したものをブリ 1 年魚(346 g)に 4 ヶ月給餌し,窒素(N)および P の排泄量への影響を検討した。その結果,脂質含量の増加に伴い,僅かであるが成長が優れる傾向にあった。また,飼料効率は脂質 30% 群で有意に高くなった。一方,P の添加量による飼育成績への影響はみられなかった。また,脂質の増加に伴い N の蓄積率は高くなり,単位生産量に対する N および P の排泄量も有意に低くなった。しかしながら,P の添加により,その排泄量は高くなった。

70(6), 1082-1088 (2004)

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瀬戸内海燧灘の海岸におけるヒラメ着底仔稚魚の出現と分布

山本昌幸,牧野弘靖,香川 哲(香川水試),富永 修(福井県大生物資源)

 瀬戸内海の 7 つの砂浜海岸におけるヒラメ着底仔稚魚の出現と分布および 5 月から 9 月の底生稚魚相を桁網で調査した。ヒラメ仔稚魚は 5 月下旬から 8 月下旬まで出現し,主な生息域は水深 2-5 m であった。着底は 5 月下旬に始まり,6 月下旬まで続いた。7 海岸で 12 科 17 種以上の合計 6,412 個体の稚魚が採集され,優占種はヒメハゼ,アミメハギ,アラメガレイ,ヒラメ,ネズッポ属であった。ヒラメの採集数は海岸間によって異なったが,年変動は似ていた。最も密度の高かった大浜における 6 月の 1 曳網(400 m2)あたりの採集数は 22.6 であった。

70(6), 1089-1097 (2004)
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瀬戸内海燧灘におけるヒラメ着底仔稚魚の餌料環境と摂餌生態

山本昌幸,牧野弘靖(香川水試),小林潤一郎(芙蓉海洋開発),
富永 修(福井県大生物資源)

 1999 ~ 2001 年の 5 ~ 8 月に燧灘大浜海岸において,餌料生物密度とヒラメ稚魚の食性を調べた。餌料生物は 18 目 40 科から構成され,アミ類,エビジャコ,ヨコエビ類が多かった。ヒラメ仔稚魚の餌生物はアミと体長 14 mm 以下のエビジャコであった。体長 25 mm 以上のエビジャコの密度は低かった。本調査域においてエビジャコはヒラメの捕食者ではなく,被食者として重要であった。ヒラメ仔稚魚は潜砂性のアミの Iiella oshimai より表在性のアミの Nipponomysis ornataAnisomysis ijimai を好んで捕食した。また,エビジャコに対する餌選択係数は非常に低かった。

70(6), 1098-1105 (2004)
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有毒小型巻貝類の誘因物質としてのフグ毒 tetrodotoxin

黄 培安,野口玉雄,黄 登福(台湾海洋大)

 8 種の有毒小型巻貝類と 2 種の無毒小型巻貝類につき,フグ毒 tetrodotoxin(TTX)の誘因効果を調査した。有毒巻貝類からは TTX が検出され,最も毒力が高い巻貝の TTX に対する最小致死量は 44.5 μg TTX/20 g 体重 以上で,無毒種は 3.6 μg TTX/20 g 体重 未満であった。誘因効果(Comparative attracting variation)は貝の毒力と正の相関関係で,Y=5.895X+3.443, r=0.806 の直線関係で示された。一方,無毒種ではいずれの関係も負の反応を示した。毒力が高ければ高いほど有毒巻貝類は,TTX に対してより誘因され,TTX は有害小型巻貝類の誘因物質であることが認められた。

70(6), 1106-1112 (2004)
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セルラーゼによるエビキトサンからの免疫活性を有する水溶性加水分解物の調製

Guan-James Wu,蔡 國珍(台湾海洋大)

 エビキチンから脱アセチル化度(DD)の異なるキトサンを調製し(DD50, 65, 75, 95),セルラーゼによる加水分解を行った。活性は DD の大きい方が高かった。9 h 加水分解物はヒトハイブリドーマ細胞 HB4C5 の増殖に対して最も高い効果を示した。この加水分解物は 20 kDa のキトサンとキトオリゴ糖(重合度 1 ~ 6)からなり,前者は HB4C5 細胞の IgM 分泌を,後者は細胞増殖活性を in vitro で示した。in vivo ではマウスの血清 IgG および IgM レベルを顕著に増加させ,リンパ球の Con A および LPS 誘導性増殖を促進することが確認された。

(文責 阿部宏喜)

70(6), 1113-1120 (2004)
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マサバ発酵食品“へしこ”の高血圧自然発症ラットに対する血圧低下作用

伊藤光史,赤羽義章(福井県大生物資源)

 へしこ製造過程においてマサバエキス中のペプチドの増加とともに,アンジオテンシン I 変換酵素(ACE)阻害活性が増加した。へしこエキスの経口投与により 9 週齢の高血圧自然発症ラット(SHR)の血圧は,2-4 時間後に低下し,8 時間後に回復した。10 日間連続投与した SHR の血圧は 7 日目以後低下し,投与中止 5 日後に血中 ACE 活性と血圧はともに回復した。5 週齢の若齢 SHR への 70 日間連続投与では,投与中止 28 日後に血中 ACE 活性は回復したが,低下した血圧は回復しなかった。

70(6), 1121-1129 (2004)
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養殖ハマチの凍結血合肉の褐変防止

平岡芳信,逢阪江理(愛媛工技セ),成田公義(愛媛栽培セ),山邊貴美子(愛媛工技セ),
関 伸夫(北大院水)

 養殖ハマチの血合肉部位の凍結中及び解凍後の褐変を,ガス置換包装,凍結方法,貯蔵温度,貯蔵期間,包材の種類等による防止方法について検討した。血合肉を酸素透過度の低い包材で真空包装した後凍結を行った場合,−40℃ 以下で貯蔵すれば,9 ヶ月以上褐変を防止することが可能であった。−20℃ や−30℃ で血合肉を貯蔵するには,窒素置換包装が良いが,貯蔵可能な期間は 6 週間であった。解凍後の血合肉の褐変を防止するためには,酸素透過度が 50 ~ 90 cm3/m2/24 h の包材を使用して,0℃ で貯蔵すれば,4 日間以上褐変を防ぐことが可能であった。

70(6), 1130-1136 (2004)
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ウシガエルパルブアルブミンに対する魚類アレルギー患者の血清 IgE の反応性

濱田友貴,長島裕二,塩見一雄(海洋大)

 食用ガエル(ウシガエル)から 2 成分のパルブアルブミン(PA)を精製し,魚類アレルギー患者の血清 IgE との反応性を ELISA で調べた。血清 14 検体中 12 検体はマサバおよびメバチの PA と反応し,さらに魚類 PA に対して陽性であった 12 検体のうち 8 検体はウシガエルの PA とも反応した。また,阻害 ELISA により,魚類 PA とウシガエル PA との抗原交差性も確認された。これらの結果から,PA を認識する魚類アレルギー患者はカエル類の摂取も控えるべきであると判断された。

70(6), 1137-1143 (2004)
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DSC を用いた様々な加工魚肉およびその筋肉タンパク質のガラス転移に関する研究

橋本朋子,鈴木 徹,萩原知明,高井陸雄(海洋大)

 本研究ではガラス転移現象が広範囲の低水分魚肉加工食品に対して普遍的にみられるかどうかを明らかにするため,DSC を用いた様々な加工魚肉のガラス転移測定を試みた。その結果,煮熟後乾燥したカツオ,マグロ,マサバ,マダラ,マダイなどの筋肉が,いずれも明らかなガラス転移現象を示す事が明らかとなり,ガラス転移温度(Tg)の水分含量依存性も認められた。更に,赤身魚の Tg が白身魚よりも低い値を示すことが明らかとなり,この傾向は魚肉中の筋原繊維タンパク質成分における挙動の違いが反映されたものである可能性が示された。

70(6), 1144-1152 (2004)
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飼料製造工程におけるアスコルビン酸誘導体の減耗について

吉富文司(日水中研)

 養魚飼料製造工程中のアスコルビン酸誘導体 3 種類;L-ascorbyl-2-phosphate Mg (APM), L-ascorbic acid sodium (AAS) 及び L-ascorbic acid palmitic acid ester (AAP) の減耗を知るために,この 3 種類を原料配合に添加し,エクストルージョンクッキング温度を変化させて造粒し,80℃ で 3 時間乾燥させた後,得られた Extruded pellet (EP) 中のそれぞれの残存濃度を高速液体クロマトグラフィーにより一斉分析した。その結果,APM はいずれの温度帯でも安定であったが,他の 2 種類は著しい減耗を示した。

70(6), 1153-1156 (2004)
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エクストルーディドペレットの内部微細構造に及ぼすエクストルージョンクッキング温度の影響

吉富文司(日水中研)

 養魚飼料製造時のエクストルージョンクッキング温度(EXCT)を変化させ,その時に得られたエクストルーディドペレット(EP)内部微細構造との関係を調べた。この結果,EXCT が上昇するに連れて,原料の溶融が進行し,EP の膨化率及び EP 内部微細構造形成が変化することが判った。また,EP 内部微細構造の違いにより内部空隙率や EP 物性も影響を受け,養魚飼料としての機能,つまり吸水性等も変化していることが示された。

70(6), 1157-1163 (2004)
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細菌由来アガラーゼによる海藻オリゴ糖混合物の調製とそれらの抗酸化特性

Shao-Chi Wu, Chong-Liang Pan(台湾海洋大)

 6 種の寒天及び 4 種の海藻多糖抽出物(APEs)由来の海藻オリゴ糖分解物(AOLs)を MA103-アガラーゼまたは MAEF108-アガラーゼで処理し,それらの抗酸化特性を評価した。MAEF108-アガラーゼで消化した Porphyra dentate の APE 由来 AOL が最も強い活性を示した。AOLs の抗酸化活性は,第一鉄イオンキレート能>DPPH ラジカル消去能>過酸化水素消去能>還元力の順でもたらされ,これはポリフェノールや低分子量多糖などに起因すると考えられる。

(文責 村本光二)

70(6), 1164-1173 (2004)
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タラバエビ科ホッカイエビ Pandalus latirostris の溶存酸素,塩分,濁度に対する反応(短報)

千葉 晋(北大院水),青木梨沙,小形 孝(道栽漁振公社)

 ホッカイエビ(タラバエビ科)の死亡要因として水質の影響が示唆されてきたが,近縁のエビを含めて,環境耐性に関する報告例はなく,漁場環境の評価を困難にしていた。本研究では溶存酸素,塩分,濁度に対するホッカイエビの耐性を調べた。実験は短時間で変動する浅海環境への応用を目的にデザインされた。実験の結果,2.0 mg-O2/l 以下の溶存酸素,20 psu 未満の塩分は,数時間内の大量弊死を引き起こすと予想された。濁度はエビの直接的死亡要因とはなりにくいが,懸濁物による鰓詰まりが間接的に悪影響を及ぼす可能性が示唆された。

70(6), 1174-1176 (2004)
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不稔性アナアオサ(緑藻)の塩ストレス応答反応(短報)

柿沼 誠,久野義直,天野秀臣(三重大生物資源)

 天然海水(33.1 psu)で培養した不稔性アナアオサを対照として,塩ストレス応答反応について検討した。低塩及び高塩条件下で培養した藻体の生長率及び色素含量は,33.1 psu 培養藻体と比較して有意に低下したが,塩濃度 6.6 ~ 59.6 psu の範囲で生育可能であった。遊離アミノ酸含量を調べたところ,59.6 psu, 24 h 処理藻体のプロリン含量は 33.1 psu 培養藻体の約 14.4 倍に増加していた。したがって,本藻種は適合溶質として藻体内にプロリンを蓄積し,高塩ストレス環境下に適応すると推察された。

70(6), 1177-1179 (2004)
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東シナ海で漁獲されたマアジのタウリンおよびヒスチジン含量の季節的変動(短報)

大迫一史,黒川孝雄,桑原浩一(長崎水試),野崎征宣(長大水)

 長崎,対馬沿岸海域および東シナ海で漁獲されたマアジの遊離アミノ酸組成を検討した。マアジのタウリン含量は夏季に低く,冬季に高い,また,ヒスチジン含量はこの逆の傾向を示した。この傾向は小型魚の方が大型魚よりも明瞭に見られた。これら遊離アミノ酸の周年の平均値を比較すると,小型魚は大型魚に比較してタウリン含量が高く,ヒスチジン含量が低い傾向を示した。一方,漁場間では遊離アミノ酸含量に大きな差は無く,遊離アミノ酸組成は棲息環境よりも成長段階および季節的な差異の方が大きいことが示唆された。

70(6), 1180-1182 (2004)
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ギンブナ筋原線維結合型セリンプロテアーゼの精製と性質(短報)

大久保誠(長大生産研),長富 潔,原 研治,野崎征宣(長大水),
荒西太士(中央水研),石原 忠(長大水)

 ギンブナ筋肉の粗アクトミオシンから,筋原線維結合型セリンプロテアーゼ(MBSP)を,0.5 M KCl, pH 4.0 で可溶化し,Sephacryl S-300, Arginine Sepharose で 1400 倍(回収率 15%)に精製した。本酵素は弱アルカリ域で活性が強く,Arg と Lys 残基の C 末端側に作用するトリプシンタイプの酵素で,55-60℃ で筋原線維及びカゼインをよく分解し,30℃, pH 6-7 でもカゼインを分解した。以上より,本酵素は火戻り誘因酵素であり,また,in vivo で筋タンパク質の分解に関与することが強く示唆された。以上の性質はコイの MBSP とよく似ていた。

70(6), 1183-1185 (2004)

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