Fisheries Science 掲載報文要旨

海水嗜好性の広塩性魚ウミメダカにおける塩類細胞の機能と形態(総説)

金子豊二,加藤扶美(東大院農)

 塩類細胞は一般に海水に適応した魚でイオン排出に重要であるが,海水嗜好性の広塩性魚であるウミメダカでは海水と淡水で形態の異なる塩類細胞が観察され,特に淡水中で著しい形態的発達を示した。海水馴致個体の淡水移行に伴う塩類細胞の挙動の観察により,既存の海水型塩類細胞が淡水型細胞へと変化する短期的適応と,細胞の入替りの促進による長期的適応の連携により淡水適応が可能となることが示された。また液胞型 H-ATPase が淡水中で Na の取り込みに関与することが示された。以上一連の研究から,塩類細胞の形態機能的多様性が明らかとなった。

70(5), 723-733 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


東京湾産シャコの産卵生態および幼生出現盛期の変化要因

児玉圭太(東大院農),清水詢道(神奈川水総研),山川 卓,青木一郎(東大院農)

 東京湾産シャコにおける 1980~90 年代の資源量変化と同調した幼生出現盛期の変化要因を解明するため,2002 年に産卵特性と幼生出現期を調べた。卵形成は 10 期に区分され,初回成熟体長は 7BL<8 cm,産卵数は 19,300~92,100(8~14 cm BL)と推定された。産卵盛期は小型個体(<10 cm)では 8 月,大型個体(10 cm)では 5 月であった。大型個体は春に産卵するが,幼生出現量は 7 月以前に少なく 8 月以降に増加した。7 月以前に幼生出現量が少ないのは,大型個体の産卵資源量の減少によると考えられた。

70(5), 734-745 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


台湾周辺海域におけるスマ Euthynnus affinis の回遊

邱 萬敦,李 梁康(高雄海洋技院)

 台湾沿岸域においてスマは最も多い小型マグロ類である。食性,再生産生態,およびスマとその餌生物の漁獲量の推移から,スマの台湾周辺海域への来遊パターンを推定した。本種魚群は 9 月から翌年 5 月に台湾周辺海域に来遊し,6 月にはこの海域を離れる。黒潮に乗って来遊した魚群は,沿岸域で摂餌した後に,フィリピン北部海域と推定される産卵場へ向かう。スマは体長群に分かれて回遊すると考えられ,最初に未成魚が,成魚はその後に台湾周辺海域に来遊する。
(文責 渡邊良朗)

70(5), 746-757 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


東シナ海および台湾海峡産スベスベエビ属エビ類 Parapenaeopsis hardwickii の計量形質の変異に基づいた系群判別

曽 宗徳(樹徳科技大)

 東シナ海と台湾海峡の Parapenaeopsis hardwickii の系群構造を明らかにするために,計量形質の変異を調べた。6 標本を東シナ海と台湾周辺海域から収集した。各個体について 11 の形質を測定し,体サイズで標準化した値をクラスター分析と正準変量分析によって解析した。また,計量形質の差を無作為化テストで検定した。その結果,6 標本は 3 群に分けられ,計量形質に有意差が認められた。これらから,東シナ海と台湾海峡の P. hardwickii には形態的に差異のある少なくとも 3 系群が存在すると考えた。
(文責 北田修一)

70(5), 758-764 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


クルマエビのクラスチン cDNA の単離および遺伝子発現解析

Achara Rattanachai,廣野育生,大平 剛(海洋大),高橋幸則(水大校),青木 宙(海洋大)

 クルマエビの血球から 5 種類のクラスチン cDNA を単離した。これらクルマエビのクラスチンは同じクルマエビ属の Litopenaeus setiferusL. vannamei のクラスチンとそれぞれ 80% の相同性を示した。クルマエビのクラスチンは血球特異的に発現しており,その発現量はペプチドグリカン投与により有意に増加した。

70(5), 765-771 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


北海道厚田村嶺泊におけるニシン Clupea pallasii 産卵床の特徴

干川 裕(北海道中央水試),桑原久実(水研セ水工研),田嶋健一郎(北海道栽培セ),
川井唯史(北海道原環セ),金田友紀(北海道中央水試),津田藤典(北海道中央水試)

 北海道西岸厚田村嶺泊においてニシンの産卵床形成を海底地形および産卵期の波浪環境と関連させ調査した。1998 年から 2003 年の間,ニシン産卵床はほぼ同じ場所に形成され,主要な産卵基質はスガモ Phyllospadix iwatensis であった。産卵床沖には谷状の特徴的地形が存在していた。ニシンは有義波高が 0.2~1.3 m 以下の比較的凪ぎの状態で産卵する傾向があった。沖波と海底地形に基づいて求めた底面波浪流速の分布から,谷状の場所では他に比べ流れが緩いことが示唆された。嶺泊が繰り返し産卵場所として使われる理由として,ニシンがこの地形に沿って産卵に来遊することが考えられた。

70(5), 772-779 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ニホンウナギ精子始動における重炭酸ナトリウムの役割

田中 悟,宇藤朋子,山田祥朗,堀江則行,岡村明浩,赤沢敦司,三河直美,岡 英夫(いらご研),黒倉 寿(東大院農)

 ニホンウナギ精子始動において,重炭酸ナトリウムの二つの効果が観察された。重炭酸ナトリウムは単独で精子の始動を抑制したが,カリウムイオン輸送が阻害された条件下では促進的に働いた。重炭酸ナトリウムの抑制的な効果は精子内 pH の上昇によって消失した。一方,促進的な効果はその影響を受けず,更にこの効果は重炭酸ナトリウムの代わりにカルシウム塩を添加したときにも観察された。精子始動において,重炭酸ナトリウムは精子内 pH の調節と共に,これとは別の始動因子にも関与していると推定された。

70(5), 780-787 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


琉球諸島西表島における魚類の海草藻場利用様式:稚魚の生息場所としての海草藻場の重要性

中村洋平,佐野光彦(東大院農)

 琉球諸島西表島のサンゴ礁域に存在する海草藻場がどのような魚類にどのように利用されているのかを明らかにするため,ウミショウブが優占する海草藻場,およびそこに隣接するサンゴ域や砂地の魚類を潜水観察によって季節ごとに調べた。その結果,海草藻場に出現する魚類は,海草を摂餌する種など海草藻場のみに出現する専住魚と,稚魚の生息場所として利用するサンゴ域魚類によって大きく構成されていることがわかった。また,後者の魚類はサンゴ域で観察された魚類全体の約 15% しか占めないことも明らかとなった。

70(5), 788-803 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


卵の有無を観測するサンプリングにおける見落としの確率について

山田作太郎(海洋大),銭谷 弘(水研セ瀬戸内水研)

 卵の豊度を推定するのに PAS は,産卵場における各観測区において卵があるか無いかのみを観測する簡便法で,卵の数を数え上げるサンプリングにくらべて費用や時間をそれほど要しないという特徴がある。本研究では PAS における卵の見落としの確率を卵の空間分布と関連づけて調べることを目的とする。卵の分布の集中度が高くなるほど,卵が無いと観測した時に卵があることを見落す確率は小さくなることを示した。

70(5), 804-811 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


0 歳魚雄マツカワにおける日長と GnRH システムとの関連

天野勝文(北里大水),山野目健(岩手水技セ),山田英明(北里大水),奥澤公一(水研セ養殖研),山森邦夫(北里大水)

 魚類における日長と生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)システムとの関連の解明を目的とし,日長処理(長日と短日)に伴う脳・下垂体内 GnRH 量の変化を 0 歳魚雄マツカワをモデルとして調べた。秋季では脳内サケ型 GnRH 濃度が長日群で高かったが,ニワトリII型 GnRH とタイ型 GnRH には差はなかった。冬季では GnRH 量には両群間に差はなかったが,成長は長日群で良好であった。以上より,日長処理により 0 歳魚雄マツカワの脳内サケ型 GnRH 量が変化することが判明したが,水温との関連も示唆された。

70(5), 812-818 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


実測値と音響散乱モデルによるクロダイのターゲットストレングス推定

康燉赫,貞安一廣,向井 徹,飯田浩二(北大院水),黄斗湊(韓国麗水大),澤田浩一(水研セ水工研),
宮下和士(北大フィールド科セ)

 尾叉長 15.5 cm~32.9 cm のクロダイ活魚 9 尾のターゲットストレングス(TS)を,周波数 38 kHz, 120 kHz で制御法により測定し,KRM モデルによる推定値および保存魚による測定値と比較した。TS と尾叉長の関係 TS=20 log FLTScm における TScm は,制御法で各々-64.6, -65.2 となり,KRM モデルによる-64.8,-65.4 と良い一致を見た。一方,保存魚は周波数 38 kHz で-69.3 となり他の 2 方法による結果と差があった。この差は瞬間冷凍による保存法に起因すると示唆された。

70(5), 819-828 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


北海道南部太平洋側海域におけるマダラの体重組成にもとづくコホート解析

上田祐司,菅野泰次,松石 隆(北大院水)

 魚類の資源解析は年齢にもとづいて広く行われているが,年齢もしくは体長の情報を水揚げされた個体から得るのはふつう困難である。本研究では,北海道南部太平洋側海域におけるマダラの資源量を体重組成にもとづくコホート解析法を用いて推定した。1994 年から 2000 年の漁獲体重組成を市場で扱われた水揚げ伝票等より求めた。体重 1 kg 以上の資源量は 1994 年に 5,607 トンで,2000 年には 7,908 トンまで増加した。この増加は,小型個体の資源量の増加によることが示唆された。

70(5), 829-838 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


人工生産メバルに生じた腹鰭癒合変形と放流標識としての応用

村上倫哉,相田 聡(広島水試),吉岡孝治,海野徹也,中川平介(広大院生物圏科)

 人工生産されたメバルで腹鰭癒合変形が高頻度で出現することを発見した。また,腹鰭変形は天然魚で認められなかったものの,5 回の種苗生産での平均出現率は 58.7% に達した。腹鰭癒合を標識として,放流種苗と同時に混獲された天然種苗との混獲数を推定した。その結果,腹鰭癒合発症率から推定した放流魚数は,盲検として用いた耳石標識放流魚数とほぼ同値であった。腹鰭変形魚の成長と生残は,同時放流した正常魚とほぼ同じであった。以上から人工生産されたメバルに生じる腹鰭変形が放流魚の標識として有効であることが示唆された。

70(5), 839-844 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


関東近海産キンメダイの耳石微細輪紋に基づく年齢と成長

谷内 透,金谷崇之,上辺修一,小島隆人(日大生物資源),秋元清治,三谷 勇(神奈川水総研)

 関東近海産から集めたキンメダイの年齢と成長を調べたところ,98 個体のうち,46 個体の耳石微細輪紋が判読可能だった。輪紋数は 448 本(長叉長 218 mm)から 3,701 本(長叉長 411 mm)までの範囲にあり,輪紋を日齢と仮定すればそれぞれ 1 歳 2 ヶ月と 10 歳 2 ヶ月に相当した。雌雄こみのフォン・ベルタランフィーの成長式は Lt=542[1-exp {-0.133(t+2.00)}] であった(Lt は年齢 t 歳時の尾叉長)。本研究結果から得られた成長式を過去の関東近海のキンメダイの年齢と成長の研究結果と比較し,その妥当性を論じた。

70(5), 845-851 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


マイクロサテライトマーカーを用いた解析による大西洋およびアドリア海のヨーロッパヘダイの集団構造について

S. D. Innocentii (ICRAM), A. Lesti (Univ. Rome), S. Livi (ICRAM), A. R. Rossi (Univ. Rome),
D. Crosetti (ICRAM), L. Sola (Univ. Rome)

 地中海および大西洋沿岸 7 地域のヨーロッパヘダイ Sparus auratas について,マイクロサテライトマーカーを用いて遺伝的多様性を検討した。4 つのマイクロサテライトマーカーによる解析により,高い多型性が存在することが明らかとなり,また,0.80~0.85 の範囲のヘテロ接合性が存在することが予測された。また,わずかだが有意な集団構造が見つかった。地中海西部のヨーロッパヘダイは少なくとも 3 集団に分けられ,大西洋およびアドリア海のものとも遺伝的に異なっていた。
(文責 廣野育生)

70(5), 852-859 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


血液分析による胴周部を締め付けられたニジマスの生理的障害の解明

小島隆人,石井盛男,小林 誠,清水 誠(日大生物資源)

 刺網などの網目で保持された後,通過した魚の生残率を推定するための基礎的知見を得ることを目的とした。背大動脈にカニューレを装着したニジマスの胴周部をゴムバンドによって一定時間締め付け,経時的な血液分析により,締め付け前後の生理状態の推移を観察した。締め付けから解放してから 24 時間後で半数が死亡した。死亡群では血中乳酸濃度が解放後も増加し,死亡直前には生残群の約 10 倍に達した。この高乳酸値がアシドーシスおよび高血中カリウム濃度の原因となり,回復不能な重篤な状態を招いている可能性が推察された。

70(5), 860-866 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


調理中におけるトコブシの化学的,物理的ならびに官能的変化

邱 思魁,蔡 峻宇(台湾海洋大),藍 惠玲(台湾水試)

 トコブシを 80℃ と 98℃ で 0-120 分間加熱し,化学的,物理的ならびに官能的変化について調べた。水分含量と重量は 98℃ の方が著しく減少し,褐変も98℃ の方が著しく,ハンターの b 値も 98℃ の方が高かった。ATP 関連物質や遊離アミノ酸の減少も98℃ の方が顕著であった。せん断力は80℃ 加熱の方が高い値を示した。ヒドロキシプロリン含量は,98℃ で 120 分加熱した場合を除き,ほとんど変化しなかった。官能検査では,香りを除いて,80℃ 加熱の方がトコブシの調理には好ましい効果を示した。
(文責 豊原治彦)

70(5), 867-874 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


メバチ・ミオグロビンの一次構造と熱安定性―サバ科魚類との比較

植木暢彦,落合芳博(東大院農)

 メバチ普通筋からミオグロビン(Mb)をコードする cDNA をクローニングし,全長の塩基配列を決定した。コード領域は 444 塩基対で,147 アミノ酸をコードしていた。本 Mb のアミノ酸配列の同一率はマグロ類のものと 95.2~100%,サバ科魚類のものとでは 82.3~89.1% であった。メバチを含む 4 魚種の血合筋から精製した Mb 標品につき DSC および CD 測定により熱安定性を比較したところ,転移温度 Tm は 75.7~79.9℃ と,対照のウマ Mb の 84.2℃ よりも低かった。また,α へリックス含量も 10~15% 程度低く,魚類 Mb の不安定性が裏付けられた。

70(5), 875-884 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


スケトウダラのミトコンドリアゲノム全塩基配列と変異

柳本 卓(水研セ北水研),北村 徹(日本 NUS),小林敬典(水研セ中央水研)

 スケトウダラ Theragra chalcogramma 10 個体のミトコンドリアゲノム全塩基配列を決定した。全長は 16568-16571 塩基対(bp)で,他の脊椎骨魚類と同様に 37 の遺伝子から構成されていた。tRNAPro 遺伝子と tRNAPhe 遺伝子の間に見られた非コード領域は,調節領域(D-Loop 領域)に相当した。日本海とベーリング海の 5 個体ずつの塩基配列から,ND1, ND5, D-Loop 領域の塩基置換率が高く,スケトウダラの集団構造研究の良い指標になると考えられた。

70(5), 885-895 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


アルギン酸オリゴ糖修飾によるコイミオシンの溶解性および安定性の改変

マイテナ・ウルダンガリン,片山 茂,佐藤 良,佐伯宏樹(北大院水)

 アルギン酸オリゴ糖(AO)修飾したコイミオシンの機能特性について検討した。50 mμ/mg の AO をミオシンに結合させると,ミオシンは低塩濃度溶媒においても可溶化し,溶解度の NaCl 濃度依存性は完全に喪失した。この水溶性ミオシンは 50℃ で 6 h 加熱しても不溶化せず,さらに等電点付近でも溶解し続けた。これらの結果は,筋原線維でみられたAO 修飾の効果と全く同様であった。それゆえ AO 修飾によっておこる魚肉タンパク質の可溶化と熱安定性の改変は,ミオシンの性質変化を反映して起こることが明らかである。

70(5), 896-902 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


カツオ生殖腺リン脂質の脂質組成と構成脂肪酸

平塚聖一(静岡水試),喜多川知子,松江葉子,橋詰昌幸(マルハチ村松),和田 俊(海洋大)

 カツオ生殖腺リン脂質の脂質組成と構成脂肪酸を調べた。主要リン脂質は卵巣でホスファチジルコリン(PC, 47.9%),ホスファチジルエタノールアミン(PE, 19.3%),リゾホスファチジルコリン(LPC, 19.1%),精巣で PC (40.1%),PE (29.3%),ホスファチジルセリン(PS, 9.6%)であった。卵巣の LPC 及び精巣の PE と PS における C22:6n-3 比は 50% 以上と極めて高かった。5℃ 貯蔵 2 日後には,貯蔵開始時に比べて大部分のリン脂質でその含量は減少したが,卵巣 LPC 含量は 2 倍に増加した。また卵巣の主要リン脂質ではいずれも C22:6n-3 比が増加していた。

70(5), 903-909 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ホタテガイ貝殻水抽出物による紫外線照射によって生じた皮膚角化細胞傷害の保護

部田 茜,劉云春,長谷川靖(室蘭工大)

 ホタテガイ貝殻の有効利用を図ることを目的として,ホタテガイ貝殻水抽出物の皮膚角化細胞の紫外線傷害に対する保護効果を培養ラット皮膚角化細胞を用いて評価した。その結果,貝殻を脱灰後,水抽出した成分が紫外線照射によって傷害をうけた皮膚角化細胞死を軽減することを見出した。貝殻抽出液が有するこの皮膚細胞に対する保護効果は,貝殻抽出液の皮膚角化細胞に対する増殖促進効果,そして種々のラジカルに対する消去作用によるものであると推測された。この結果はホタテガイ貝殻抽出液の新たな有効利用の可能性を示唆する。

70(5), 910-915 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


魚醤の香気成分を改良するスタフィロコッカス属細菌の同定と分布

深見克哉(日本たばこ食品開発セ),里見正隆(水研セ中央水研),舩津保浩,川崎賢一(富山食研),渡部終五(東大院農)

 魚醤の不快な香気成分を改良する菌株をマルソウダと製麹から作った魚醤の残渣より単離し,16S rRNA および rpo B 遺伝子の相同性,DNA-DNA hybridization 法から Staphylococcus nepalensis と同定した。さらに,アジア各国から集めた 19 種類の魚醤と上記製麹 1 種類について,単離した菌株の rpoB に特異的なプライマーを設計し,PCR 法で分析したところ,本細菌は魚醤には含まれなかったものの,製麹には存在が確認された。以上の結果から,当該菌株は,マルソウダから魚醤を作る際に,同時に添加した製麹から混入した可能性が示された。

70(5), 916-923 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ニジマス Oncorhynchus mykiss 雌とアマゴ O. rhodurus 雄の雑種に見られる 2n-4n モザイク個体の核型分析(短報)

張 雪蓮,小野里坦(信大理)

 卵割阻止処理を行った胚の中には,しばしば n-2n 又は 2n-4n のモザイク個体が出現する。この出現が倍数化個体の作出を困難にしている一因とも考えられている。本研究では,複 2 倍体化処理を行なったニジマス雌×アマゴ雄の胚に出現した 2n-4n モザイク個体のそれぞれの倍数体細胞の核型を明らかにし,モザイク胚の出現機構を解明するための一助とすることを目的とした。その結果,4n 細胞は正異質 4 倍体(複 2 倍体)で,2n 細胞は正異質 2 倍体であることが判明した。この結果を基にモザイク胚の出現機構について考察を加えた。

70(5), 924-926 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ヒラメ天然稚魚の明暗条件下における行動パターン(短報)

宮崎多恵子(三重大生物資源),青海忠久(福井県大生物資源),木下 泉(高知大海洋研セ),塚本勝巳(東大海洋研)

 ヒラメ天然稚魚の明暗条件下における行動パターンを,実験魚を毎日交換して 7 日間連続で調べ,前報において調べられたヒラメ人工種苗の昼夜における行動特性と比較した。その結果,天然稚魚は明条件下では水底に沿って泳ぎ,暗黒下では水中に浮上する行動を示した。これらの行動は,それぞれ,昼間の視覚による捕食者と夜間の底生性捕食者に対する警戒行動に関係していると考えられた。活動パターンと潮汐との関係は認められず,これは本研究のフィールドである日本海の潮位差がヒラメ稚魚に潮汐リズムを形成するには小さすぎるためと推測された。

70(5), 927-929 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


西台湾産ヒトデ Astro pecten vappa の麻痺性毒(短報)

蔡 永祥,趙 世民,林 国泰(大仁学院),野口玉雄,黄 登福(台湾海洋大)

 西台湾,嘉義県産有毒ヒトデ Astropecten vappa を,2001 年 4 月から 12 月にわたり,季節ごとに採取し,フグ毒(TTX)定量法により毒性を測定した。最高毒性は 12 月採取のもので,個体あたり 827 MUであった。同試料の平均毒性は,内臓,他の部位および個体あたり,それぞれ 3018 MU/g, 126 MU/g および 273 165 MU/個体であった。毒は Diao YM-1 による限外濾過および Bio-Gel P-2 カラムクロマトグラフィーにより部分精製した。毒を HPLL および GC-MS 分析した結果ヒトデ毒は TTX および anhydro TTX からなることが分った。

70(5), 930-932 (2004)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


生息海域の違いが冷蔵中のマサバ筋肉の物性と V 型コラーゲンの分解に及ぼす影響(短報)

重村泰毅,安藤正史,大石恵司(近大農),望月 聡(大分大教育福祉),塚正泰之,牧之段保夫(近大農),川合哲夫(大阪府大院農)

 大分県豊後水道および福岡県玄界灘で漁獲されたマサバを延髄刺殺し,即殺時および冷蔵 24 時間後における筋肉の破断強度,および 0.1 MNaOH 不溶性コラーゲン含量を測定した。破断強度の低下率は豊後水道産が 54.1% であるのに対し, 玄界灘産では 20.1% であった。また,V 型コラーゲン量が豊後水道産では 56% 減少したのに対し,玄界灘産では 33% の減少にとどまった。この結果,豊後水道産マサバの破断強度の低下には,V 型コラーゲンの 0.1 MNaOH への溶解率の高さが関係していると考えられた。

70(5), 933-935 (2004)

戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法