Fisheries Science 掲載報文要旨

昇温刺激による養成マツカワの自発的産卵誘起

萱場隆昭,杉本 卓(道栽漁総セ),森 立成(道中央水試),佐藤敦一(道栽漁総セ),足立伸次,山内皓平(北大院水)

 養成マツカワの自発的産卵誘導技術の確立を目的とし,昇温刺激による放卵および受精の誘起効果について検討した。産卵期,マツカワ雌雄を一定水温(6℃または8~9℃)で飼育した群では,いずれも放卵したものの,受精卵はほとんど得られなかった。一方,午前10時に6℃から8~9℃まで昇温し,24時間後,6℃まで降温する昇温刺激を繰り返した群では,日間放卵量が著しく増加するとともに,受精率が高い良質卵が得られた。以上の結果,産卵期,昇温刺激を行うことによって,マツカワの放卵および受精を効果的に誘起できることが示された。
69(4), 663-669 (2003)
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資源量と加入量の時系列を用いて環境収容力の動態を推定する1つの方法

田中栄次(東水大)

 再生産曲線を用い,資源量と加入量の推定値を使って環境収容力の動態を推定する方法を提案した。資源が飽和水準に達しているとき生物特性値は一定であることなどを仮定し,再生産曲線において密度依存に関連するパラメータと環境収容力を理論的に関連付けたモデルを導いた。このモデルを同年代のマサバとマイワシの推定値に適用し,環境収容力の動態を推定した。応用上の課題とモデルの改良などについて議論した。
69(4), 677-686 (2003)
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マダイの組織酸素消費量の総和と体重の関係

及川 信,板沢靖男(九大院農)

 単位体重当り酸素消費の体重増大に伴う低下現象は,成長に伴う組織酸素消費の低下と低代謝組織重量比の増大により生じるという仮説をマダイで検証した。体を構成する28の器官の重量Pと体重Wの関係P=kWsと組織酸素消費速度Qo2Wの関係Qo2=cWdから,in vitroの酸素消費の総和Minvitroを計算した。20℃でのMinvitro (μmolO2・h-1)とW(g)の関係(体重0.01-1000g)はMinvitro=5.30W0.816であった。ベキ数0.816は,生きたマダイの酸素消費量MinvivoとWの関係Minvivo=16.88W0.821における0.821と極めて近かった。これは先の仮説の定量的妥当性を示す。
69(4), 687-694 (2003)
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網地の形状と運動に関する数値計算モデルの妥当性と可視化について

鈴木勝也,清水孝士,平石智徳,山本勝太郎(北海道大学大学院水産科学研究科),
高木 力(近畿大学農学部),梨本勝昭(日本データーサービス株式会社)

 網漁具の水中での形状や運動を推定できる数値シミュレーション手法を開発するために,本報では前報で示された計算用モデルの妥当性を検証する。実験では定常流中に3種類の長方形の平面網地を設置し,流速を変化させながら網形状と網糸に作用する荷重を計測した。網地形状の計算結果はどのケースでも実物と非常に良く一致した。平面網地上辺に作用する荷重は計算結果と良い一致を示した。網糸張力の分布状況についても,実験結果と概ね一致した。これらの結果は本計算モデルが網漁具の形状や運動を推定するのに十分有効であることを示す。
69(4), 695-705 (2003)
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高度不飽和脂肪酸強化および未強化アルテミアを摂取したクルマエビポストラーバのエネルギー収支

Ophirtus Sumule,越塩俊介,手島新一,石川 学(鹿大水)

 高度不飽和脂肪酸(HUFA)強化および未強化アルテミアを摂取したクルマエビポストラーバ(PL)のエネルギー収支を摂取(EI),排泄(F),代謝(M),尿(U),成長(G)および脱皮(Ev)エネルギーに関して求めた結果,PL(体重5mg)のエネルギー収支は次式で表された:強化区100EI=13.9F+50.9M+4.8U+24.6G+5.8Ev,未強化区100EI=40.2F+28.9M+4.0U+21.8G+5.2Ev。強化区において,M, Gの割合が高く,Fの割合が低い傾向を示した。
69(4), 706-715 (2003)
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黒潮海域における夜表性ハダカイワシ科魚類ススキハダカの餌料生物組成の長期変動

渡邉 光(遠洋水研),川口弘一(東大海洋研)

 1964年から1999年までの1-3月の夜間に黒潮海域の0-1m層で採集したススキハダカ成魚の餌料生物組成の長期変動を明らかにした。本種は1964-1975年および1991-1999年にはおきあみ類,かいあし類等の甲殻類プランクトンを中心に捕食していた。しかし1976-1990年にはマシラスが本種の主餌料として出現した。この期間はマイワシ資源の高水準期であり,黒潮海域におけるマシラスの資源量も多かったことから,ススキハダカの食性は餌環境に応じて大きく変化していたものと推察される。
69(4), 716-721 (2003)
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ニジマスにおけるアミノ酸キレート微量元素の利用性

MJ. Apines,佐藤秀一,V. Kiron,渡邉 武(東水大),藤田昭二(エーザイ)

 硫酸塩型の微量元素(Tr-Sf),アミノ酸キレート銅(Cu-Am)および銅(Cu),亜鉛(Zn),マンガン(Mn)のキレート型(Tr-Am)を添加した飼料をニジマス稚魚に給餌し,アミノ酸キレート微量元素の利用性を検討した。その結果,成長および増肉係数は試験飼料間で大差なかったが血漿アルカリフォスファターゼ活性は,Tr-Am区でTr-Sf区に比較し有意に高い活性を示した。Cu, MnおよびZnの吸収率はTr-Am区で高い傾向を示した。以上より,アミノ酸キレート微量元素の利用性は高いものと推察された。
69(4), 722-730 (2003)
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カツオ稚魚の耳石における日輪形成

田邉智唯(遠洋水研),嘉山定晃(東海大海洋),小倉未基(遠洋水研),田中 彰(東海大海洋)

 中層トロール採集したカツオ稚魚を用いて耳石縁辺成長率の経時変化を調べ,日輪形成を検証した。稚魚は,1995年11~12月および1999年2月に西部太平洋熱帯域で採集した。耳石は扁平面を研磨し,光学顕微鏡・耳石日輪計測システムで観察・計測した。各個体の縁辺成長率は,時間経過とともに増加傾向を示したため,最外輪紋の形成は朝から夕方にかけて進行し,夜間の内に完成すると推定した。したがって,カツオ稚魚の耳石で観察される微細輪紋(輪紋間隔15~40mm)は日輪であることが明らかになった。
69(4), 731-737 (2003)
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飼付け放流されたシマアジの逸散過程

鈴木直樹(東水大),崎山一孝(日栽協百島),仁部玄通(鹿児島水試),森岡伸介(Bunda農大),大野 淳(東水大)

 本研究は,1993年から1999年に長崎県福江島の玉之浦湾で飼付け放流されたシマアジが,飼付け場に留まる条件を明らかにすることを目的とした。魚類育成筏群での放流シマアジの滞留尾数を把握するために,目視観察を行った。観察期間中,自然死亡は無視できるとし,目視尾数から目視率と一日当たりの逸散係数を推定した。推定された逸散係数の比較から,飼付け場からの放流シマアジの逸散は,成長による餌要求量の増大と給餌停止による餌不足が原因であると考えられた。
69(4), 738-744 (2003)
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資源減少期における土佐湾のマイワシの年齢と成長

森本晴之(日水研)

 資源減少期の太平洋マイワシの年齢と成長を,1990~1996年の産卵期2~3月に,主産卵場の1つである土佐湾で採集した雌マイワシを用いて調べた。von Bertalanffyの成長式の成長係数kは,1991~1992年級が1987~1990年級に比べて大きかった。鹿児島~三重県海域の漁獲量の増加期に成長係数kが小さく,漁獲量の減少期にkが大きい関係が認められた。1993年級以降,肥満度が増加した一方で,体長が減少傾向を示し,土佐湾の雌マイワシの初回成熟年齢が1994年以降に1歳へと若齢化したこととの関連が示唆された。
69(4), 745-754 (2003)
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夏季広島湾における細菌,従属栄養鞭毛虫類および繊毛虫類の分布特性

神山孝史(東北水研),有馬郷司,辻野 睦(瀬戸内水研)

 夏季の広島湾の湾奥域,湾中央域,湾口域における細菌,従属栄養鞭毛虫類(HNF),繊毛虫類の出現密度と現存量を調べた結果,それらは低塩分,高栄養塩濃度,高クロロフィルa濃度を示した湾奥域で高くなった。無殻繊毛虫類とその餌料生物群(細菌+HNF+<20μmクロロフィルa)の炭素換算現存量には,どの海域でも有意な相関関係が認められた。海域毎の相関関係と両者の比を比較した結果,湾奥域では微細藻類と微生物の現存量は豊富であるが,微生物間でのエネルギー伝達効率は他の海域よりも低いと推察された。
69(4), 755-766 (2003)
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異なる光量下で大気のCO2濃度倍増がクロレラの生長と光合成に及ぼす影響

夏 建栄(汕頭大海生研),高 坤山(汕頭大海生研・中国科学院水生研)

 クロレラの生長と光合成への大気のCO2濃度倍増による影響を検討するため,350p.p.m.vおよび700p.p.m.vの二酸化炭素濃度下における培養を光量を変えて行った。二酸化炭素濃度の増加は生長速度に影響を及ぼさなかったが、光が十分与えられたとき細胞密度が著しく高められた。弱光下と比べて強光条件下で培養した細胞では二酸化炭素濃度の増加はその最大光合成速度や暗呼吸を低下させた。弱光と強光下とも,二酸化炭素濃度の増加によって光合成飽和光量と光合成率は,ともに影響を受けなかった。
69(4), 767-771 (2003)
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サワラの仔稚魚期における群れ行動の発達

益田玲爾,小路 淳,中山慎之介,田中 克(京大院農)

 飼育水槽におけるサワラの群れ行動の発達過程を明らかにした。孵化後17日(平均体長15.9μm)から19日(同19.6μm)にかけて,頭位交角,個体間距離,乖離遊泳角,乖離遊泳指数等の群れの指標の急激な変化が認められ,この時期に群れ行動が発現することが示された。19から23日齢(26.6μm)まで,これら群れの指標はほぼ一定であった。個体間距離は体長の1.2-1.5倍と他の魚種に比較して大きく,これは魚食性の強い本種が共食いのリスクを減らしつつ群れの機能を維持しているためと考えられた。
69(4), 772-776 (2003)
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眼位異常ヒラメParalichthys olivaceusの頭部組織

岡田のぞみ(道中央水試),田中 克,田川正朋(京大院農)

 眼位異常ヒラメ稚魚の頭部を組織学的に観察した。その結果,眼位異常個体に共通して見られたのは頭蓋の一部である偽正中棒状部(Pseudomesial bar, Pb)の奇形であった。重度異常の場合にはPbが欠損し,同時に頭部の他の組織の左右性が一定ではなかった。これらのことから,Pbは眼の移動において重要な役割を果たし,また,他の組織の左右性を決定する一要素であると考えられた。またPbの形成には,それに先立つPb周辺の皮膚の肥厚が関与しているように見受けられた。
69(4), 777-784 (2003)
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2種類の異なる形状のかごに対するイシガニCharybdis japonicaの行動

Miguel Vazquez Archdale,安樂和彦,山本 亨,東谷直也(鹿大水)

 スリット状の入り口を対側面に2つ持つ方形かごと(方形かご),漏斗状の広く開口した入り口を対側面に2つ持ち底面が楕円形のドーム型かご(ドームかご)を水路に設置し,それぞれに対するイシガニの行動を水中カメラにより観察した。かご近傍へのカニの出現は,下流側からの接近が高頻度であった(75%)。入りかご行動は,ドーム型では側方歩行でかご内に容易に進入したが,方形かごでは甲殻の尖りと網地が絡むため後方歩行での進入が認められた。かごへ到達後の入りかご率を比較すると,ドーム型で100%,方形かごで31%であった。
69(4), 785-791 (2003)
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飼育ホシガレイ雄の精巣発達と血中ステロイドホルモン濃度の変化

古屋康則,渡辺寛樹(岐大教育),征矢野清(長大水),太田健吾,有瀧真人(日栽協),松原孝博(北水研)

 精巣組織の観察によりホシガレイ雄の成熟度は,精原細胞増殖期(7-9月),精子形成前期(10月),精子形成後期(11-12月),機能的成熟期(1-3月),および回復期(5月)に分類された。血中の11-ケトテストステロン濃度は精子形成前期から後期にかけて急増したことから,本種の精子形成を制御していると考えられた。17,20βジヒドロキシ-4-プレグネン-3-オンは11月に単一のピークを示したことから,精子形成後半に何らかの役割を持つ可能性が示唆された。
69(4), 792-798 (2003)
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深浦および江ノ島産,有性および無性ウシケノリの生活史,特に原胞子の性と有性体からのapogamy

能登谷正浩(東水大),飯島徳子(マルトモ)

 深浦と江ノ島から得られたウシケノリを異なる水温5-30℃と,長日と短日,光量80μmolm-2s-1下で培養して生活史を調べた。深浦産藻体は雌雄異株の有性体とコンコセリスを世代交代し,さらに両配偶体のapogamyによりコンコセリスを形成した。雌雄それぞれの藻体からの原胞子発芽体と,apogamyコンコセリス由来の殻胞子発芽体は母藻の性と一致した。また,江ノ島産藻体は無性体で原胞子のみの繁殖が認められた。
69(4), 799-805 (2003)
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アイソザイムによるマナマコの色彩変異型3型における遺伝的類縁関係

菅野愛美,木島明博(東北大院農)

 マナマコの色彩変異3型(アカ,アオ,クロ)間の遺伝的差異について11アイソザイム遺伝子座を指標に調べた結果,同所的に生息する色彩型間で遺伝子頻度に有意な差が検出された。7遺伝子座によるNeiの遺伝的距離は,アカ型と他型間で平均0.0173,アオ型とクロ型間では平均0.0015であった。また,3型間のデンドログラムにおいてアカ型は他型とは明確に異なるクラスターを形成した。以上の結果から,アカ型はアオ型およびクロ型とは遺伝的に明確に異なるグループであることが示唆された。
69(4), 806-812 (2003)
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三陸沿岸におけるウナギAnguilla japonicaの回遊履歴と成育場利用

新井崇臣,小竹 朱,大地まどか,宮崎信之,塚本勝巳(東大海洋研)

 大槌湾とその付近の河川で採集したウナギの耳石のSr濃度とSr:Ca比から本種の回遊履歴と成育場の利用状況を推定した。海洋生活期を除く全生活史にわたる平均Sr:Ca比は3.0×10-3-6.1×10-3であった。これらのウナギは,河口ウナギあるいは海ウナギと判断された。以上のことから,本種の分布の北限に生息するこれらのウナギは,沿岸域に接岸後,様々な塩分環境に適応して過ごしていることが明らかになった。ウナギは接岸後,必ずしも淡水成育場に遡河する必要がないことを示唆している。
69(4), 813-818 (2003)
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コアユの胃内容物排出についての水槽実験

西野麻知子(琵琶湖研),川幡佳一(金沢大教育)

 琵琶湖の陸封矮小型鮎(コアユ)は,動物プランクトンの主要な捕食者である。野外のコアユの胃内容物から捕食速度を計算するために,胃内容物の排出過程を二種類の水槽実験により調べた。まず,1時間の摂食後の胃内容物数を予測するための変数を明らかにした。次に,1時間摂食のあと2時間絶食させて,絶食前後の胃内容物数を比較した。ほとんど全ての胃内容物が2時間で消化・排出されていた。野外で採集したコアユの胃内容物は採集前2時間以内に捕食されたものであると仮定して,捕食速度を計算することができる。
69(4), 819-822 (2003)
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イワシマリネ熟成中における生体アミンの変化

Nalan Gokoglu (University of Akdeniz)

 イワシマリネ熟成中に生じる生体アミンの種類と量の変化を測定した。イワシフィレーを酢酸と食塩を含む溶液に浸漬して,24時間熟成を行った。生体アミンとしてチラミン,プトレシン,カダベリン,ヒスタミン,スペルミジン,スペルミンを熟成4時間毎に測定した。熟成前のチラミン,プトレシン,カダベリン,ヒスタミン含量は原料肉より少なかったが,熟成中に変動した。スペルミン,スペルミジンは熟成初期のみに微量検出された。
69(4), 823-829 (2003)
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浸漬による魚肉中への食塩の浸透とその水分量に及ぼす影響

大泉 徹,川瀬麻由美,赤羽義章(福井県大生物資源)

 浸漬による魚肉中への食塩(N)の浸透と脱水作用をソルビトール(S)のそれらと比較検討した。浸漬液の浸透圧の増加とともに,Sの浸透量の増加率は減少する傾向を示したが,Nの浸透量は比例的に増加した。これらは魚肉内部におけるNとSの拡散速度の相違に基づくことが示唆された。低浸透圧のNは魚肉の水分量を増加させたが,浸透圧の増加とともに水分量は減少した。従って,Nに浸漬した魚肉の水分量の変化には浸透圧脱水とNの浸透にともなう筋原繊維タンパク質の保水性の増加が競合的に影響を及ぼすことが示唆された。
69(4), 830-835 (2003)
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浸漬と低温貯蔵にともなう魚肉内部の食塩,ソルビトール,および水分の移動

鶴橋克久,大泉 徹,赤羽義章(福井県大生物資源),酒井 徹(東和化成)

 食塩(N)またはソルビトール(S)の溶液に浸漬したときの魚肉内部のNとSの浸透分布とその拡散変化を検討した。浸漬魚肉の中心部のNとSの含量は表層部のそれらよりもかなり低かった。水分量はS浸漬魚肉では中心部で高く,N浸漬魚肉では逆に表層部で高かった。低温貯蔵によりSとNは表層部から中心部へ移動したが,その速度はSよりもNが大きかった。S浸漬魚肉では中心部から表層部へ水分移動が起こったが,N浸漬魚肉の水分分布はほとんど変化しなかった。
69(4), 836-841 (2003)
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冷蔵中の魚類筋肉の軟化現象とV型コラーゲン量との相関性

重村泰毅,安藤正史,塚正泰之,牧之段保夫(近大農),川合哲夫(大阪府大院農)

 7種類の魚類筋肉を用い,冷蔵中の破断強度の低下と,V型コラーゲン量の変化との相関性について調べた

 7魚種は,比較的早い軟化を生じた3魚種,緩慢な軟化を示した2魚種,軟化を生じなかった2魚種に分類された。V型コラーゲン含量の相対値は魚種によって大きく異なり,最も多かったシマアジで,最も少なかったトラフグの5倍以上であった。即殺時から冷蔵1日後までのV型コラーゲン量の減少率と,破断強度の低下の大きさ(r=0.8914)および破断強度の時間あたりの低下率(r=0.9195)との間にはいずれも高い相関性が認められた。

 以上の結果は,冷蔵初期の軟化現象にV型コラーゲンが関与することを示すものである。

69(4), 842-848 (2003)
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アルゼンチンマイカ甲のクチクラの構造

呉 許得(台湾海洋大,中国海事商専),呉 清熊, 陳 幸臣(台湾海洋大)

 アルゼンチンマイカの甲のクチクラの構造を,酵素分解,アミノ酸分析,走査型電子顕微鏡観察,ならびに各種酵素処理後の電気泳動分析により解析した。その結果,甲の外側を甲全体のタンパク質の22%に相当するコラーゲン様物質の薄層が覆い,その下にキチン様物質からなる薄層(厚さ1.7μm)が複数重なったラメラ構造が存在することが明らかとなった。各薄層間(0.5μm)には,コラゲナーゼには耐性だがアルカラーゼ分解性の,楔状の形態をしたタンパク質顆粒(0.1×0.3μm)が,薄層に結合して存在した。
69(4), 849-855 (2003)
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携帯型近赤外装置による凍結カツオ脂肪量の非破壊迅速測定

嶌本淳司,平塚聖一,長谷川薫(静岡水試),佐藤 実(東北大院農),河野澄夫(食総研)

 携帯型および卓上型の近赤外装置を用いて,カツオ凍結魚体の脂肪量の非破壊測定を行った。両測定装置において,測定精度の指標であるRPD値は魚体体側中央部で測定するより腹部で測定する方が高かった。携帯型および卓上型装置を用い腹部で測定した場合,その精度は携帯型の方が高かった。携帯型装置で,魚体腹部のスペクトルを測定することにより,カツオの脂肪量の迅速測定が可能となった。
69(4), 856-860 (2003)
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マイクロサテライトDNAマーカーを用いたクロメジナおよびメジナの遺伝的多様性に関する予備的研究(短報)

大原健一,谷口順彦(東北大院農)

 クロメジナより設計したマイクロサテライトプライマーを用いて,クロメジナおよびメジナの2種の多型を検出した。11個のプライマーペアーが設計され,すべてのマーカー座で多型が観察された。Gle-1*, Gle-2*, Gle-5-2*, Gle-8*, Gle-10*は両種で増幅断片が確認され,Gleu-3*, Gle-4*, Gle-5-1*, Gle-6*, Gle-7*はクロメジナだけで,Gle-9/*はメジナだけで増幅断片が確認された。Gle-2*とGle-8*では両種に共通な対立遺伝子は観察されなかった。両種で増幅断片が確認された遺伝子座を用いて推定されたNeiの遺伝的距離は2.19と高い値を示した。
69(4), 861-863 (2003)
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海水魚およびエビの揮発性成分(短報)

モハマド・アブル・マンスル,アヌラダ・バドラ,村仁知,的場輝佳(奈良女大)

 日本における海水魚およびエビ数種の揮発性成分について解析した。70℃に加温して得られたヘッドスペース・ベーパー成分を固相微量抽出ファイバーに吸着させ,GC-MSに注入した。成分はライブラリデータベースもしくは標品との比較により同定した。全体的に魚の筋肉の方がエビの筋肉よりも多くの種類の揮発性成分が存在した。また,油分の多い魚の方が油分の少ない魚よりも多くの種類の揮発性成分が存在した。さらに,筋肉と皮を比べると皮の方に多くの揮発性成分が存在したが,その種類はほぼ同等であった。
69(4), 864-866 (2003)
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ヒトデAsterias amurensis幽門盲のう由来トリプシンのN-末端アミノ酸配列(短報)

岸村栄毅,林 賢治(北大院水)

 ヒトデ Asterias amurensis幽門盲のうから精製したトリプシンのN-末端アミノ酸配列を分析し,IVGGKESS PHSRPYQVの配列が得られた。N-末端4残基の配列は哺乳動物膵臓および魚類消化腺由来のトリプシンと同一であった。また,N-末端から6番目のアミノ酸は魚類トリプシンと同様にGluであった。一方,哺乳動物および魚類トリプシンに共通するCys-7はSerに置換されていた。このことから,ヒトデトリプシンはCys-7-Cys-142のジスルフィド結合を欠くことが推察された。
69(4), 867-869 (2003)
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