Fisheries Science 掲載報文要旨

実験室と実用規模で飼育したコイの成長に伴うリン(P)と窒素(N)排泄量の変化

Jahan Parveen,渡邉 武,Kiron Viswanath,佐藤秀一(東水大)

 実験室(A)(開始時平均体重3.9g, 60-100Lガラス水槽,17-27℃, 280日)と実用規模(B)(平均72.8g, 15×15×0.5mコンクリート池,6.5-30.9℃, 180日)でコイを飼育し,成長に伴うPとN排泄量の変化を調べた。飼育期間中,Aでは成長が継続したが,Bでは水温が15℃以下に低下した時点で停滞したため,増肉係数はAで優れていた。両者とも魚体のPとNの含量と保留率は体重が500-600gに達するまで増加した後,低下した。総P負荷量はBでは600g以降明らかに増加したが,AではBほど明確ではなかった。N負荷量は両者とも成長に伴い増加した。
69(3), 431-437 (2003)
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四万十川河口域とその周辺海域で1986-2001年に採集されたアユ仔稚魚のふ化日の年変動

高橋勇夫,東 健作,藤田真二(西日本科技研),木下 泉(高知大海洋研セ),平賀洋之(西日本科技研)

 四万十川河口域と周辺海域で1986-2001年に7年群(1986, 87, 92, 95, 96, 99, 2000)のアユ仔稚魚を採集し,ふ化日を分析した。ふ化日のピークは,86-92年群では10月下旬から11月中旬にあったが,95年群以降は11月下旬から12月下旬に見られた。近年のピークの遅れは,産卵の遅れではなく,10-11月生まれの高い減耗による現象と推察された。周辺海域では秋の水温が上昇傾向にあり,94年以降は顕著となっている。ふ化日のピークの遅れは,このような海水温の上昇と関係があると考えられた。
69(3), 438-444 (2003)
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道東沿岸域における底魚類の種組成と季節変化

山村織生(北水研)

 道東沿岸水深33~116mの海域で底魚類の種組成と季節変化を底刺網を用いて調査した。海底水温は5月に親潮の影響により2℃を下回ったが季節と共に昇温し,秋季には14℃を上回った。全体的にはカジカ科魚類,特にオクカジカ(29.0%)とオニカジカ(19.5%)が卓越し,更にアブラガレイ(6.5%)ウナギガジ(4.9%)の順に多かった。月別ではオクカジカが5および9月に優占したが(49.5%および43.2%),10月には9.6%に減少し,代わってヒレグロ(22.7%)とヌイメガジ(10.8%)が増加した。これらの季節変化は産卵回遊などの生活年周期の反映であると推察された。
69(3), 445-455 (2003)
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太平洋におけるクロトガリザメCarcharhinus falciformisの年齢と成長

押谷俊吾(東海大海洋),中野秀樹(遠洋水研),田中 彰(東海大海洋)

 太平洋において1992年~1999年にかけてマグロはえ縄とまき網漁業調査において集められたクロトガリザメ298個体の脊椎骨を用いて年齢査定を行った。雌雄において成長の差はなく,雌雄込みのvon Bertalanyの成長式を求めた。Lt=216.4(1-e-0.148(t+1.76))と推定できた。本種は体長48~60cmの範囲で出生し,雄は5~6歳,雌は6~7歳で成熟すると考えられ,平均産仔数は6~7尾と推定された。大西洋で報告されたものと比較した結果,成長,出生体長,成熟年齢が類似しており,大洋間での生活史の差はないと考えることができた。

69(3), 456-464 (2003)
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永年禁漁区の漁獲係数削減に対する相対的評価

白井靖敏,原田泰志(三重大生物資源)

 永年禁漁区の漁獲係数削減に対する相対的有効性を数理モデルを用いて評価した。評価尺度として,(1)それぞれの規制によってYPRが増加するための条件,(2)解禁漁場面積あるいは漁獲係数の50%削減のもとでのYPRとSPRの増加量,(3)達成できるYPRの最大値,(4)30%SPR達成に必要な規制量,(5)30%SPR時に得られるYPRを用いた。結果,(1)では禁漁区は漁獲係数削減よりやや不利,(2)では,SPRでは魚の移動が小さいほど,YPRでは移動が適度にあるときに禁漁区が有利,(3)では禁漁区が不利,(4)では魚の移動が小さいときに禁漁区が有利,(5)では禁漁区が不利なことなどが分かった。
69(3), 465-472 (2003)
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フィールドにおける捕食者胃内容物からのヒラメ特異的DNAの検出

斉藤憲治(東北水研),高垣 守(福井県栽培セ),山下 洋(京大水)

 天然水域におけるヒラメ放流種苗の潜在的捕食者の胃内容物から被食ヒラメの体成分を検出するため,PCR法を応用した手法を開発した。ヒラメ特異的プライマーを用いたPCR反応により,キンセンガニ,イボガザミ,アオリイカ,メゴチ,コチ,シマイサキの胃内容物から特異的増幅が認められた。種苗放流後に採捕された,空胃ではなく魚類のものと見られる胃内容物を持った動物の多くがヒラメを捕食していることがわかった。この手法は特定の種によるヒラメの被食調査だけでなく,ヒラメの潜在的な捕食者の探索にも利用できる。

69(3), 473-477 (2003)
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クロアワビの日周行動と光感受性

森川由隆(三重大生物資源),クリストファー・ポール・ノーマン(筑波大)

 匍匐性動物の行動を非拘束で計測可能な装置を開発し,クロアワビが日周行動を維持できる明るさの下限値を求めた。暗期を暗黒状態(0μmol/m2/s)に固定し,明期の明るさを低下させたときの日周行動パターンを計測した。クロアワビは明期の明るさが1×10-5μmol/m2/s以上では,明瞭な夜行性の行動パターンを示した。明期の明るさをさらに低下させると,行動パターンに乱れを生じ,1×10-7μmol/m2/s以下では,明期にも活発に行動するようになった。これら日周行動パターンの変化から,日周性を維持するために必要な明期の明るさは,およそ1×10-7μmol/m2/sであると推定した。
69(3), 478-486 (2003)
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養殖ブリ筋肉の脂質蓄積と肉の物性との関係

D. P. Thakur,森岡克司,伊藤慶明,小畠 渥(高知大農)

 養殖ブリ筋肉の脂質蓄積を組織学的に調べ,肉の物性との関係について検討した。筋肉脂質の主成分である非極性脂質含量と肉の硬さの間に負の相関が認められた。一方,通年ほぼ一定である極性脂質含量と物性値の間には相関が認められなかった。ズダン II によりオレンジ色に染色される脂質は,その含量の増加に伴って筋隔膜上および筋隔膜間に認められた。以上の結果より,脂質が筋隔膜に沿って蓄積されるとともに,筋隔膜間に存在する細胞周辺の結合組織に蓄積されたため,筋肉の組織構造が脆弱化し,肉の硬さが低下したものと推察した。
69(3), 487-494 (2003)
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養成日本産ナマズの生殖年周期とHCG投与による排卵誘起効果

熊倉直樹,酒井 清,隆島史夫(東水大)

 日本産ナマズ雌の飼育下における生殖年周期とHCG投与による排卵誘起効果を検討した。5月に人工採卵によって得られた孵化仔魚は,翌年の3月から卵黄蓄積を開始した。GSIは6月にピークに達した後,徐々に減少し,10月には第三次卵黄球期の卵母細胞が消失した。6月から10月までHCG投与による排卵誘起を試みたところ,9月までは投与した全ての個体が排卵したが,10月には排卵個体は見られなかった。以上のことから飼育下で養成した日本産ナマズ雌は,ほぼ満1歳で成熟し,HCG投与により採卵が可能であることが明らかとなった。

69(3), 495-504 (2003)
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地理的条件の異なる九州の2海域におけるクルマエビ繁殖の時空間的パターンの比較

大富 潤,田代卓也(鹿大水),厚地 伸(鹿児島水試),河野夏来(鹿大水)

 半閉鎖的な内湾である八代海と,外洋に面した開放的な湾である志布志湾でクルマエビの成熟体長,産卵期,産卵場の水深を比較した。成熟体長は八代海では131mm,志布志湾では154mmと推定された。産卵期は八代海が4~9月であるのに対し,志布志湾では3~11月と長かったが,それは黒潮の影響により冬でも水温が高いためと考えられた。八代海では,深い場所ほど大型の個体が産卵することが示唆された。志布志湾内では水深による成熟個体の体サイズには違いはなかったが,湾外では体長200mm以上の大型個体のみが産卵することがわかった。
69(3), 505-519 (2003)
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熱帯産SS型ワムシの耐久卵形成に対する水温調節の効果

Mavit Assavaaree,萩原篤志(長大院生産),小金隆之,有元 操(日栽協)

 SS型ワムシは,30-35℃の高温下で両性生殖が発現するので,個体群の急速な成長にともなう餌料不足と水質の悪化が起こりやすく,両性生殖が進行する前に培養が崩壊する例が多い。本研究では,35℃で予備培養して両性生殖を十分発現させた後,25℃への水温低下によって,以後7日間,安定的に両性生殖を進行させた。11日間の培養(水量500mL)では水温低下処理によって対照より2.1倍高い効率で耐久卵を形成できた(3870個/mg乾重・給餌)。500L水槽(水量400L)内でも,同じ効率で耐久卵を量産でき,約2600万の耐久卵が形成された。
69(3), 520-528 (2003)
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生のスピルリナ単用給餌によるティラピアの肉質

陸  君,竹内俊郎,小川廣男(東水大)

 ティラピアを開口直後から生のスピルリナ(RS)で単用給餌30週間飼育後,魚(平均体長16.2±0.2cm,平均体重155.4±3.9g)の肉質を調べた。

 RS給餌区の魚の背肉は対照の配合飼料(CD)区(平均体長17.8±0.5cm,平均体重168.9±5.8g)のと比較し,脂質性状に差異があったが,遊離アミノ酸組成に差異は認められなかった。RS給餌区とCD区の間で,背肉の瞬間弾性率および粘性率で有意差が認められたことから,肉質と脂質性状との関連性が示唆された。レオロジー特性や筋肉脂質の面から,RS単用給餌により肉質の良いティラピアが供給できた。

69(3), 529-534 (2003)
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沿岸域での底魚類の移動行動に関するカオスモデル

金 龍海(慶尚大),安 長榮(済州大)

 沿岸域での底魚類の小規模な移動行動について,水中の環境条件を入力刺激としたニューラルネットワークを考え,カオス理論によるモデルを構築した。刺激の強さとして生物要因と物理要因を定量化し,意思決定の過程では刺激強度を変数としたカオス方程式を立て,反応回路では移動方向と速度を生理条件や生活史との関係を考慮した。マダイとヒラメを実験魚として超音波測器による沿岸域での移動を追跡し,モデルとの整合性を検討した結果,潮汐流の時間的な変化に対応した移動行動のパターンとして再現できることを確認した。

69(3), 535-546 (2003)
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ヒラメParalichthys olivaceus仔魚における微粒子飼料の開発

竹内俊郎,王 秋栄(東水大),古板博文(養殖研),広田哲也,石田修三(太陽油脂),早澤宏紀(森永乳業)

 タンパク源としてペプチドの分子量が異なる2種類の微粒子飼料MD-Q(C800とC700併用)とMD-T(C700単用)を作製し,MD単用あるいは生物餌料との併用給餌を行い,日齢1(実験 I )または日齢11(実験 II )の仔魚を用いてそれぞれ10日間の飼育試験を行った。実験 I , II ともMD単用区または併用区で,MD-T区よりMD-Q区の方が成長と生残率が優れていた。特に実験 I ではMD-Q単用区の生残率は20.5%に達したのに対して,無給餌区は日齢6までにすべて斃死した。以上のヒラメ仔魚に対して,C700単用よりC800を併用した方が有効であった。
69(3), 547-554 (2003)
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シロギス雄の血中ビテロジェニンの季節性

堀田公明,渡辺剛幸,岸田智穂,中村幸雄(海生研),大久保信幸,松原孝博(北水研),足立伸次,山内晧平(北大院水)

 自然条件下で飼育したシロギス雄の血中ビテロジェニン(Vg)の季節変化を調べた。血中Vgは4月から上昇し,6月にピーク(352±68ng/mL)を迎えた後,8月より減少し10月以降は検出されなくなった。血中VgはGSIが1%を越えた雄で上昇する傾向がみられ,それらの雄の精巣は活発な精子形成像を呈したが,血中Vgが検出されなくなった雄の精巣はいずれも退縮していた。以上の結果,シロギス雄は精子形成期にVg産生活性が高くなり,内外のエストロジェン様因子に反応して血中Vg量が増加する可能性が推察された。

69(3), 555-562 (2003)
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マレー半島西岸のマタン・マングローブ汽水域におけるフエダイ科の一種Lutjanus johnii幼稚魚の分布と食性

木曾克裕(国際農研セ),Mohammad-Isa Mahyam(マレーシア水研)

 1998年11月から2000年1月に半島マレーシア西岸のマタン・マングローブ汽水域において5定点でオッタートロールにより月1回の頻度で魚類を採集し,マングローブ汽水域を成育場とするLutjanus johnii幼稚魚の分布と食性を調べた。調査期間中に93尾の幼稚魚を採集した。幼稚魚は密度が低いものの周年分布し,11月から2月に多く採集された。全長範囲は3.4-21.1cmで,全て未成熟個体であった。幼稚魚が採集されたのは水深1.6-7.5m,塩分12.4-28.3,水温27.3-31.6℃の水域で河口付近に多かった。幼稚魚の主要な餌料生物はエビ類とアミ類であり,小型魚ほどアミ類に,大型魚ほどエビ類に依存していた。
69(3),563-568 (2003)
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キジハタの脂肪酸組成に及ぼす給餌条件の影響

丁 達相(広大院生物圏),萱野泰久,尾田 正(岡山水試),中川平介(広大院生物圏)

 キジハタ稚魚を0.5, 1, 2, 4, 8回/日の給餌頻度で40日間飽食させた。摂餌量は給餌頻度と共に増加し,筋肉,肝臓,腹腔内脂肪組織(IPF)の脂質量が増加した。成長,飼料効率は4回/日の給餌で最高となった。キジハタは体内に比較的多くのDHAを有するが0.5回/日の給餌でDHAの比率が最高となった。給餌頻度の上昇により筋肉トリグリセリド(TG)に飽和酸の増加と相対的なDHAの低下がみられたが,肝臓,IPFのTGではEPAと飽和酸が増加し相対的にDHAが減少した。脂質蓄積が低いと飽和酸量が低下し,相対的にDHAが上昇したことから,脂質蓄積に関して飽和酸とDHAの役割について考察した。
69(3), 569-574 (2003)
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北海道西部沿岸におけるキツネメバルSebastes vulpesの年齢と成長

関河武史,高橋豊美,津哲也(北大院水),西内修一,佐々木正義(道中央水試),塩川文康(後志南部水指)

 北海道西部沿岸でキツネメバル266個体を採集し,年齢と成長の関係を調べた。耳石の輪紋(不透明帯外縁)は主に産仔期の2ヶ月後に当たる7~8月に形成されることが判った。標本の最高齢は表面法で12歳,横断面法で35歳であり,表面法は6歳魚以上の年齢を過少評価しがちであることが明らかとなった。年齢と体長の関係から求めた成長式に雌雄差はなく,成長は表面法で得られた従来の知見よりも遅く,寿命も長いと推察された。
69(3), 575-580 (2003)
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仮想的遊泳時のコイ中脳神経核ニューロンの活動

馬場義彦,加計康敬,吉田将之,植松一眞(広大院生物圏)

 不動化したコイから仮想的遊泳運動時の内側縦束核(Nm)ニューロンの活動を導出し,3種類のニューロンを見い出した。1つ目は,仮想的遊泳時に持続的に発火するニューロンで,これは脊髄内のリズム生成回路を賦活し,遊泳を誘起させると考えられた。2つ目は,遊泳リズムに同調した間欠的な活動を示すニューロンで,脊髄の遊泳リズム情報を中継すると考えられた。3つ目は,仮想的遊泳時に発火頻度が減少するニューロンで,他のNmニューロンあるいは脊髄内ニューロンを抑制し,遊泳の停止や減速に関与すると考えられた。

69(3), 581-588 (2003)
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東シナ海で漁獲されたマアジのDHA含量の周年変動

大迫一史,山口 陽,黒川孝雄,桑原浩一(長崎水試),齋藤洋昭(中央水研),野崎征宣(長大水)

 長崎,対馬沿岸海域および東シナ海で漁獲されたマアジの脂肪酸組成を調べた。長崎産および東シナ海の以西底曳網漁業で漁獲されたマアジのモノエン酸とポリエン酸の組成比は逆相関を示した。DHA (22: 6n-3)の組成比は夏季に低く,冬季に高い傾向を示し,この傾向は小型のものに明瞭に認められたが,絶対量では周年変動は小さかった。さらに,組成比と絶対量はともに漁場間で差が無かった。以上より,東シナ海で漁獲されるマアジは,漁場に関わらず,安定的なDHAの供給源であることが推察された。
69(3), 589-596 (2003)
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養殖ノコギリガザミ腹肉化学成分の季節変動と成熟との関連

邱 思魁,黄 瑞蓮(台湾海洋大)

 養殖ノコギリガザミ腹肉の化学成分は,雌では生殖腺体指数(GSI)が高い8月には,筋肉量,グリコーゲン,ATP関連化合物(ARC)が最高値に達したが,遊離アミノ酸(FAA)は最低であった。総FAAおよびグリシン,アラニン,アルギニンの月別変動は雌雄で一致しなかった。ARC量は雌雄とも冬季に低下したが,グリシンベタイン量は冬季および早春にかけて増加した。呈味にかかわる重要なFAAやARCの量は雌雄とも8月と冬季に高かったが,GSIとの関連は低かった。
69(3), 597-604 (2003)
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筋原繊維タンパク質のホルムアルデヒド変性におけるアミノ酸およびグルタチオンによる抑制

阿部英理子,早川和徳,木村メイコ(北大院水),木村郁夫(日水中研),関 伸夫(北大院水)

 筋原繊維懸濁液にホルムアルデヒド(FA)を添加すると,0.5MNaClに対する溶解度が低下したが,FAとそれぞれモル比で等量,2倍,3倍量のCys,グルタチオンおよびHisの共存でほぼ完全に抑制された。FA添加は筋原繊維Ca-ATPase活性を増大,K-ATPase活性を低下させた。これらの変化もCysとHisの存在で抑制された。スケトウダラすり身肉糊の坐りおよび加熱ゲル形成能は1mMFA添加で時間と共に低下し,8時間後には消失したが,これらアミノ酸,グルタチオンの共存下で防止することができた。
69(3), 605-614 (2003)
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ヨーロッパウナギの2種類のメチルコラントレン誘導型シトクロムP450 (CYP1A) cDNA

Shyamal C. Mahata,満尾良一,青木純哉,加藤洋教,板倉隆夫(鹿大水)

 3メチルコラントレンを投与したヨーロッパウナギの肝臓から,RACE法によって,シトクロムP450 (CYP1A)の2種類の完全長cDNA (Eu MC1, Eu MC2)を得た。Eu MC1は,全長3368bpで521残基のアミノ酸をコードしており,Eu MC2は,全長2464bpで517残基のアミノ酸をコードしていた。Eu MC1とニホンウナギCYP1A1との間およびEu MC2とニホンウナギCYP1Aの第二の型との間で高い類似性(演繹アミノ酸配列上でそれぞれ98%および97%)が見られたことより,それぞれが同一遺伝子座の産物であると考えられた。両遺伝子座は,ウナギ属のこれら2つの種に存在することから,ウナギ属内に広く分布することが示唆された。
69(3), 615-624 (2003)
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エダコモンサンゴにおけるグルコースからの脂質合成

屋 宏典,翁長恭子(琉球大・遺実セ),山城秀之(名桜大・観光)

 本研究ではエダコモンサンゴMontipora digitataと[14C]-標識糖をインキュベートし,脂質への取り込みを調べた。

 [14C]-グルコースからの脂質合成は光に依存しており,遮光あるいは光合成阻害剤(DCMU)添加により減少した。光依存性はリン脂質(PL)に比べトリアシルグリセロール(TG)画分においてより顕著であった。[14C]-グルコースはTGにおいては主に脂肪酸部分に,PLにおいては脂肪酸とグリセロール部分にほぼ均等に取り込まれていた。共生藻と宿主サンゴにおける脂質合成の比較から,サンゴ細胞にとりこまれた[14C]-グルコースは両者で平行して代謝されていることが示唆された。

69(3), 625-631 (2003)
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ティラピアへのプロテアーゼ阻害剤の灌流による肉質軟化の抑制効果

石田典子,山下倫明,古泉直子(中央水研),寺山誠人,稲野俊直,南 隆之(宮崎水試)

 魚肉の軟化に関与するプロテアーゼを検索するため,各種プロテアーゼ阻害剤の影響をティラピアを用いて検討した。活魚へロイペプチン(セリンおよびシステインプロテアーゼ阻害剤),Z-VAD-fmk(カスパーゼ阻害剤),キモスタチン(セリンプロテアーゼ阻害剤)およびo-フェナンスロリン(メタロプロテアーゼ阻害剤)を灌流し,4℃保存中の筋肉の軟化抑制を生理食塩水を灌流したコントロールとの比較から調べた。ロイペプチンおよびZ-VAD-fmkでは有意な軟化抑制効果を示した。
69(3), 632-538 (2003)
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養殖コンブLaminaria japonica仮根の細胞毒性成分

西澤 信(共成製薬),高橋延昭,下澤久美子(札医大臨海研),青山貴子(共成製薬),神保孝一(札幌医大臨海研),
野口由香里,堀田 清(北医療大),坂東英雄(北薬大),山岸 喬(北見工大)

 養殖コンブLaminaria japonica仮根から4種のステロールケトン体を単離した。それら構造はスペクトルデータなどからergosta-4,24(28)-diene-3-one (1), ergosta-4,24(28)-diene-3,6-dione (2), stigmasta-4,24(28)-diene-3-one (3) and stigmasta-4,24(28)-diene-3,6-one (4)と同定した。化合物2および4はヒト乳癌細胞MCF-7の増殖をそれぞれ10μg/mlで96%および79%阻害した。細胞毒性を有するステロールケトン体がコンブ属海藻から単離されたのは始めてである。

69(3), 639-643 (2003)
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インド洋浅海に生息するサメ肝臓中の脂質組成の種別変化

チャミラ・ジャヤシンハ,後藤直宏,和田 俊(東水大)

 インド洋の主要な5種類のサメ(Alopias superciliosus, Carcharhinus falciformis, Carcharhinus longimanus, Prionace glauca, Sphyrna lewini)肝油の脂質クラス,脂肪酸組成,トリアシルグリセロール(TAG)分子種組成の分析を行った。肝臓中には,性別,種別に関係なく,多量の油脂が含まれていた。TAGがすべての種の肝油に最も多く含まれている脂質クラスであり,主たる脂肪酸はドコサヘキサエン酸(C22:6 n-3, DHA)であった。また,主たるTAG分子種は,パルミチン酸,オレイン酸,DHAの組み合わせ(PDO)であった。
69(3), 644-653 (2003)
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天草周辺海域のミナミハンドウイルカTursiops aduncus(短報)

白木原美紀(元三重大生物資源),吉田英可(遠洋水研),白木原国雄(東大海洋研)

 最近の分類学的研究ではハンドウイルカT. truncatusとミナミハンドウイルカT. aduncusを別種とする説が支持されている。熊本県天草下島周辺海域には後者の特徴のひとつといわれる腹部に斑点のある個体群が定住している。同島に漂着した2頭のハンドウイルカ属の体長と年齢の関係,頭骨形態,mtDNAチトクロームbの塩基配列は,これらがミナミハンドウイルカT. aduncusであることを示した。

69(3), 654-656 (2003)
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北海道南部の沿岸定置網漁業におけるネズミイルカの混獲(短報)

岩田智也,清水 晋,藤森康澄,三浦汀介(北大院水)

 北海道渡島半島において,定置網漁業によるネズミイルカの混獲状況を調べた。アンケートの調査の結果,混獲は太平洋沿岸の大型および小型定置網においてのみ確認された。臼尻沖の大型定置網(3ヶ統)の混獲情報を収集した結果,混獲は表層水温が最も低い3~12℃でみられ,またより低水温時に混獲率が高かった。6年間に66個体が混獲されたが,混獲死亡は3個体(混獲個体の4.6%)であった。以上の結果から,渡島半島ではネズミイルカは特定の地域で混獲され,また定置網内で混獲個体が死亡することは稀れであることが示唆された。

69(3), 657-659 (2003)
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北海道南部太平洋側で採集されたソデイカ幼体(短報)

池田 譲(理研脳総研セ),尾中清香(京大院農),木所英昭(日水研),坂本 亘(京大院農)

 1998年8月31日に,北海道南部太平洋側臼尻沿岸の定置網にてソデイカ雄幼体2尾が採集された。これらソデイカの外套長,および平衡石の輪紋数より推定した日齢はそれぞれ207mm・120日齢,210mm・131日齢であった。これまで北海道沿岸からの本種成体の採集記録はあるが,幼体についての公式な採集例は無い。これらソデイカ幼体は,春季に沖縄,台湾周辺の東シナ海で出生し,夏季に生じる対馬暖流第一分枝の強い流れにより短期間の内に北海道沿岸まで輸送されたものと推定された。
69(3), 660-662 (2003)

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