綿貫尚彦(鹿大水),岩下 徹(熊本水研セ),川村軍蔵(鹿大水)
コウイカかご漁具の漁獲機構を知る目的で,コウイカのかごに対する行動と産卵との関係を野外観察した。産卵は主としてかごの外側で昼夜にわたって行われたことより,入かご行動は産卵行動と直接関係しないことが確認された。入出かご時の姿勢は腕方向進行で,漁具に接触しなかったことより,対かご行動は視覚行動であると考えられた。一度入かごした個体は逃避行動を示さなかったことより,かご内部にコウイカを滞在させる誘引刺激があることが示唆された。同一個体の繰り返し入かごを調べた室内実験では,初回入かご時より 6 回目入かご時の内部滞在時間が長く,コウイカの入かごは探索行動では説明できなかった。綿貫尚彦(鹿大水),平山 泉(熊本水研セ),川村軍蔵(鹿大水)
コウイカかご漁具の視覚誘引要因を水槽実験によって調べた。コウイカはコントラストの高いかごに強く誘引されたことより,認知,接近は視覚で行われることが確認された。コウイカはかごの全ての構成要素に誘引され,単純フレーム模型が成す内部空間に滞留したことより,コウイカには立体構造物の内部空間を占拠する習性があり,この習性が入かご行動の主な動機であると考えられた。また,かご内外の雌雄個体間の社会的干渉が認められたことより,入かご機構に社会的誘引効果も含まれると推察した。吾妻行雄(東北大院農),中多章文(道中央水試),松山恵二(道栽培セ)
1991 年 7 月から 1992 年 5 月の隔月に,北海道忍路湾潮下帯サンゴモ平原の実験区で,深所から移殖したキタムラサキウニのホソメコンブに対する索餌活動を調べた。ウニは生殖巣が成長期にあり,水温が 20℃ へ上昇した 7 月に最も活発に索餌した。移動が活発な 9 月および 11 月には成熟および産卵により索餌はしなかった。1 月には 5℃ 以下の低水温により活動が極めて低下した。そして,再び成長期に移行した 3 月には僅かな索餌活動がみられた。前年 7 月よりも高い生殖巣指数を示した 5 月には,活発に移動したが,索餌はしなかった。春季から夏季にかけての索餌活動量の年変動は,水温や海藻現存量の年変動とこれによってもたらされる生殖巣発達の遅速と密接に関係することが示唆された。Jahan Parveen,渡邉 武,佐藤秀一,Viswanath Kiron (東水大)
コイ養殖から負荷される総リン量(T-P) に及ぼす飼料の魚粉含量の影響を調べた。血粉(BM, 3-12%) および大豆油粕(SBM, 0-12%) を配合し,魚粉含量を 10, 15, 20, 25 および 30% とした 5 飼料を霞ヶ浦条例(粗タンパク質 35% 以下,可消化エネルギー 3.5 kcal/g 以上)に基づき作製した。各飼料を給与した場合の T-P は,水抽出法および酸化クロムによる間接法で測定した飼料中の有効リン含量あるいはリンの体蓄積率に基づき算出した。M. M. R. カーン,荒井克俊(広島大生物生産)
日本各地 44 標本群のドジョウ Misgurnus anguillicaudatus について,12 酵素支配遺伝子座を推定し,アロザイム変異を調べた。うち,9 座が多型的(主対立遺伝子頻度<0.95) であり,平均ヘテロ接合性は非常に高かった(Ho=0.110±0.051; He=0.131±0.053)。Gst は 0.744 と高く,標本群間の分化が大きかった。遺伝的距離(D) を算出し,UPGMA 法による枝分れ図を作製したところ 6 グループが見られた。グループ 1 (北海道女満別)は他と D=0.286 で分かれ,さらに本州中央に分布するグループ 6 は他と D=0.192 で分かれた。これらの分化は亜種間相当と考えられた。残り 4 グループ(2-5) は D=0.100-0.065 で分かれ,これらの分化は地方品種間相当と考えられた。小林牧人,孫 永昌,吉浦康壽,会田勝美(東大農)
キンギョ雌において,性ステロイド(テストステロン,T ; エストラジオール,E ; 11-ケトテストステロン,K) が下垂体生殖腺刺激ホルモンサブユニット(Iβ 鎖およびIIβ 鎖)の遺伝子発現に及ぼす影響を調べた。性成熟初期および成熟期の魚の卵巣摘出により,Iβ 鎖の発現は大きく増加し,T, E, K の投与により低下したが,IIβ 鎖の発現はこれらの処理により変化がみられなかった。性的に未熟な稚魚では,Iβ 鎖の発現は T, E, K の投与により抑制され,IIβ 鎖の発現は T および E により増加した。足立久美子(東水大),高木康次(静岡水試伊豆分場),田中栄次,山田作太郎,北門利英(東水大)
1995 年 12 月から 96 年 11 月までの毎月のサンプリングによる 250 個体(沖合個体)と,95 年 2 月の 10 個体(沿岸個体)について,耳石による年齢査定を行い,von Bertalanffy の成長式のパラメータを最尤法で推定した。その結果,不透明帯縁辺の出現率の月変化から,透明帯は年 1 回夏期に形成されると判断した。最初の透明帯形成までの期間を 1 年と仮定し年齢を決定した。推定された成長式は l(t)=44.4[1-exp {-0.132(t+3.45)}](雄),l(t)=45.0[1-exp {-0.150(t+2.08)}](雌)で表された。ここで,t と l(t) は年齢(年)と尾叉長(cm) を示す。結果の妥当性と今後の課題について議論した。小田達也,小松誠和,村松 毅(長大水),野中章広(長崎県食品衛生協会),スミント(ディポネゴロ大),平山和次(長崎県産技振興財団)
特定ロットの特級試薬塩化ナトリウム中に Nannochloropsis oculata の増殖を抑制する物質が混入していることが見出された。化学分析により本塩化ナトリウム中には熱不安定な複数の低分子量有機物質が混入していることが確認された。その内の一つは農薬の一種であるトリデモルフに類似した構造を有していた。田中栄次(東水大)
相対加入重量を加入重量×漁具能率で定義し,CPUE と努力量を用いて相対加入重量を計算するための近似式を導いた。この近似式を用い,2 種類の誤差を考慮した統計モデルを用いて,最尤法で未知母数を推定する方法を提案した。シミュレーションにより近似式の相対誤差について検討し,さらに 1915-1984 年の太平洋オヒョウのデータに適用した。シミュレーションの結果によれば,近似の相対誤差は小さかった。また,オヒョウの加入量の変動には長期的な周期があることが示された。結果の解釈と今後の課題について議論した。宮原孝博,廣野育生,青木 宙(東水大)
ウナギ脾臓 cDNA ライブラリーより 196 クローンをランダムに選択し,Expressed sequence tag (EST) 解析を行った。解析したクローンの内,106 クローンは既知の遺伝子と相同性が見られ,その内 67 クローンは魚類で初めてクローン化された遺伝子であった。残りの 90 クローンは既知の遺伝子との相同性が見られなかった。既知の遺伝子と相同性がみられたクローンの内,13 クローンは 12 種類の免疫関連遺伝子と,46 クローンは 33 種類のリボソームタンパク質遺伝子と,3 クローンは 28SrRNA 遺伝子と,10 クローンは 8 種類のミトコンドリアの遺伝子と,残りの 34 クローンは 28 種類の遺伝子と相同性を示した。朴 贊善,坂口研一,柿沼 誠,天野秀臣(三重大生物資源)
韓国莞島産スサビノリから分離した赤腐れ病病原菌(莞島分離株)の形態観察を行ったところ,その分生子は,福岡県産,宮城県産および愛知県産スサビノリから分離した菌株(福岡分離株,宮城分離株,愛知分離株)より多かったが(p<0.05),その他の差は僅かであった。4 分離株の生育温度,生育 pH の範囲は同じだが,生育至適海水濃度は莞島および福岡分離株は 80%,宮城および愛知分離株は 50% であった。4 分離株は牛血清と酵母エキスを良く利用した。莞島分離株は,炭素源および窒素源としてデンプンとメチオニンを良く利用し,他の 3 分離株と栄養要求は少し異なったが,4 分離株とも形態学的および生理学的性質にそれほど大きな違いがなかったので,莞島分離株も多分 Pythium porphyrae であろうと推定された。村瀬 昇,鬼頭 鈞,水上 譲(水大校),前川行幸(三重大生物資源)
山口県の日本海に面した深川湾において水深 8 m 付近で濃密な群落を形成するノコギリモク群落の生産構造と生産力について 1993 年 6 月から 1994 年 7 月にかけて研究した。層別刈取り法により生産構造の月別変化を明らかにした。葉および主枝部分の乾重量は主枝の伸長とともに増加した。1994 年 3 月以降,群落中層から上層の藻体上で生殖器床が形成し始め,6 月に生殖器床の乾重量は現存量の約 1/3 であった。一方,葉の枯死脱落量は 4-6 月にかけて,主枝部分と生殖器床の枯死脱落量は 6-7 月にかけて増加した。主枝部分および生殖器床の生産力は,それぞれ 2-3 月に 4.67 g dry wt. m-2day-1, 4-5 月に 5.33 g dry wt. m-2day-1 で最大となった。しかし,葉の生産力は 7 月から翌年 3 月にかけて約 2 g dry wt. m-2day-1 でほとんど一定であった。以上のことから,ノコギリモク群落の生産力の最大値は 2-3 月に認められ 7.17 g dry wt. m-2day-1 であった。生産構造図の月別変化から見積った 1993 年 6 月以降の新生主枝部分の年間純生産量は 1600.1 g dry wt. m-2year-1 であった。松田浩一,山川 卓(三重水技)
カノコイセエビのふ化フィロゾーマ幼生をプエルルス幼生まで飼育することに成功した。得たプエルルス幼生は 2 個体で,それらのフィロゾーマ幼生の期間は 281 日と 294 日(水温 24.5~26.0℃) であった。脱皮令数は 21, 23 と推定された。フィロゾーマ幼生の形態観察により幼生期を 10 期に分類し,それらの形態を記載した。1 期幼生の平均体長は 1.78 mm (個体数 4), 10 期の体長は 34.6 mm (同 1) であった。今回のカノコイセエビ幼生と過去に報告されたイセエビ幼生の形態を比較した結果,これらの種に明確な違いは認められなかった。魚谷逸朗,福井 篤,小林寛尚,斎藤 寛(東海大海洋),川口弘一(東大海洋研)
シラス(カタクチシラス)漁場が形成される主要因には,シラスの濁りに対する正の走性であることが知られている。本研究では,濁り海水のどのような特性に対して,シラスが正の走性を示すのかを明らかにするため,様々な濁り物質を含んだ海水に対するシラスの走性実験を行った。用いた濁り物質は食用色素 4 色,トノコ,および水彩えのぐ 5 色であり,それらの濁り物質を含む海水の色彩,粒子,水中照度,および光散乱強度の物理学的特性を検討した。その結果,シラスの正の走行性は光散乱強度と有意に相関したことから,光散乱強度の強弱がシラスの誘引要素であると結論した。安藤照峰(北大水),三浦 猛(北大水,さきがけ研究 21),Manal R. Nader,三浦智恵美,山内皓平(北大水)
精子形成の制御機構をより詳細に解析するために,精原細胞の分裂回数を簡単,かつ正確に把握する必要性がある。そこで,従来の 1 シスト中の全細胞数を計測する方法に代わり,数学的解析と粘土によるシミュレーションを行い,連続切片上の最大のシスト中の細胞数のみを計測することにより,分裂回数を把握する簡易測定法を確立した。実際に従来の測定法と 7 種類の魚種で比較検討したところ,5 種類でほぼ一致したことから,簡易測定法は有効であることが示された。本間義治,牛木辰男,人見次郎,武田政衛(新潟大医),吉田 毅(富山家畜所),加野泰男(魚津水族館)
1998 年 3 月 2 日に,黒部市海岸へ衰弱して漂着した痩体のゴマフアザラシ雄 1 頭は,幼獣と推定された。手当ての甲斐なく翌日死亡したので,死因を肉眼および組織学的に探って見た。各種臓器を検索したところ,リンパ節,空腸,腎臓,および胃に異常像が認められた。すなわち,リンパ節には大食細胞が著しく増生・活動し,空腸絨毛には顕著な炎症・退行が生じていた。腎臓には砂粒状の結節がみられたが,これは腺腫であることが判明した。胃壁の鶏卵大腫脹は印環細胞癌で,硬性癌に発達していたので,この胃癌が死因の一つとみなされた。山本剛史,鵜沼辰哉(養殖研),秋山敏男(中央水研)
飼料のアミノ酸充足度をニジマス稚魚組織の FAA 含量から検討した。魚粉(FM),大豆油粕(SBM),麦芽たん白(MPF) および SBM と MPF 併用(COMB) を主タンパク質源とする飼料を最終の体重が等しくなるよう 6 (FM 区),7 (COMB 区)および 9 週間(SBM, MPF 区)給与し,各組織の FAA 含量を比較した。SBM および MPF 区の多くの組織ではスレオニン,メチオニン,リジン等が FM 区より著しく少なく,COMB 区でも FM 区までには改善されなかった。また,これらのアミノ酸は飼料と組織の含量に正の相関が認められたことから,COMB 飼料でもなお不足していると推測された。中川平介,Md. Ghulam Mustafa(広大生物生産),滝井健二(近大水研),海野徹也(広大生物生産),熊井英水(近大水研)
飼料添加物として茶 Catechin (C) と Spirulina (S) を 0 才マダイに 41 日間投与し,ビタミン C 代謝への影響をみた。C の投与では肝臓と血清アスコルビン酸,S では肝臓で増加した。C の投与で血清遊離脂肪酸,S で総脂質が減少した。C, S によって肝臓脂質が減少し,肝臓 Carnitine, Long-chain acylcarnitine が増加した。S の投与で肝臓の Carnitine plamitoyltransferase 活性が上昇した。脂質合成に係わる酵素活性に変化はなかった。C, S の投与で筋肉総コラーゲンに増加傾向がみられた。C は S と同様,マダイのビタミン C 代謝の改善に類似の効果が認められた。三橋廷央,東海 正(東水大),Ruben Ercoli, Julio C. Garcia, Luis Salvini,Juan Bartozzetti, Ricardo Roth(INIDEP, Argentina)
カバーネット試験で,魚がカバーネットの網目を抜けてコッドエンドの選択率が過大評価された場合に,コッドエンドとカバーネットの選択性を同時に評価するモデルを用いてそれぞれの網目選択性を求めた。モデルによって推定した網目選択性は,その選択率がほぼ 100% に達する全長における最大胴周長が網目内周にほぼ等しいことから,妥当と考えられた。本モデルは魚がカバーネット網目を抜けた場合でも,その影響を評価して正確なコッドエンドの選択性を求めるのに有効であると考えられた。西塔正孝(女子栄養大,東水大),國崎直道(女子栄養大),浦野直人,木村 茂(東水大)
ヒレ由来の繊維芽細胞からマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP) cDNA のクローニングを行った。cDNA ライブラリーより得られたクローンの一つ(約 3 kb) は,解析の結果,シグナルペプチドを含む 655 アミノ酸残基のポリペプチドをコードしていた。また,ヒトの MMP と比較した場合,MMP-2 に対する相同性がもっとも高かった。高等脊椎動物の MMP 間で特徴的なプロペプチド領域中のシステインスイッチモチーフおよび触媒領域中の Zn 結合部位は,完全に保存されていた。さらに,タンパク質レベルで解析するために,大腸菌による発現を試みた。得られた MMP-2 は,中性条件下でゼラチンおよびヒト胎盤由来Ⅴ型コラーゲンを特異的に分解する活性を示したことから,ニジマスのコラーゲン代謝機構の一端を担うことが示唆された。劉 承初,森岡克司,伊藤慶明,小畠 渥(高知大農)
魚(マルソウダ)の加工処理残滓自己消化エキスの味を改善する目的で,撹拌調製時にエキスの苦味が増加する原因を調べた。撹拌調製エキスは,静置調製エキスに比べて苦味と褐色度が増した。また,前者では自己消化中に TBA 値が増加し,逆に遊離アミノ酸量並びに消化残査中の高度不飽和脂肪酸含量が減少した。このことは撹拌調製エキスで脂質の酸化がより進んでいることを示唆していた。また,エキスの苦味の増加と遊離アミノ酸の減少は,エキスの TBA 値の増加によく対応していた。以上の結果から,撹拌調製時に生じたエキスの苦味と褐色度の増加は,主に頭部に含まれる脂質の酸化に起因すると推察した。Marie Togashi (東大医),柿沼 誠,平山 泰,福島英登,渡部終五(東大農),尾島孝男,西田清義(北大水)
スケトウダラ普通筋ミオシン分子のロッド領域,すなわちサブフラグメント-2 (S2) および L-メロミオシン(LMM) 部分のアミノ酸配列を cDNA クローニングにより決定した。両領域はそれぞれ 442 および 656 アミノ酸からなり,前報のサブフラグメント-1 部分の配列も含めて,1,937 アミノ酸からなる全ミオシン重鎖分子の一次構造が明らかとなった。S2 および LMM とも,α らせん 2 本の 2 重コイル構造の線維状タンパク質に特徴的な 7 アミノ酸残基,さらにはこの 4 倍の 28 アミノ酸残基の繰り返し配列の存在が示された。飯島憲章,帖佐 敏,羽田孝彦(広大生物生産),鹿山 光(福山大工)
コイの鰓組織においてリポキシゲナーゼ活性はミクロソーム画分に認められ,その至適 pH は 7.2 であった。コイ鰓の粗酵素液とアラキドン酸との反応産物を単離し,それらの化学構造を紫外部吸収スペクトル,GC-MS によって検討した結果,リノール酸,アラキドン酸およびエイコサペンタエン酸由来の 13-ヒドロキシオクタデカジエン酸,12(S)-ヒドロキシエイコサテトラエン酸,12-ヒドロキシエイコサペンタエン酸と同定した。高良治江(香蘭女短大),槌本六良(長大海研),宮田克也(長大水),大里進子(東筑紫短大),Qin Wang, Paula Andrea Gomez Apablaza,三嶋敏雄,橘 勝康(長大海研)
種々の成長段階の養殖マダイについて,標準体長(BL) と体重(BW) から,体脂肪量を推定する体格指数の検討を行った。その結果,(BW/BL2.840)×103=52.65,また活性組織量(LBM) で(LBM/BL2.819)×103=49.74 の関係が得られた。べき乗値が 2.823 のとき,体格指数値と体脂肪量との相関性が極大を呈した。従って,体脂肪量の多寡を反映する指標として体格指数=(BW/BL2.823)×103 を提唱した。岩田聖美,石崎松一郎,半田明弘,田中宗彦(東水大)
水産加工工場などから多量に廃棄されている魚肉水溶性タンパク質の有効利用は,環境保全の面からも重要な課題である。クロカジキ肉の水溶性タンパク質(FWSP) から可食性フィルムの調製を試みるとともに,それらの性状について検討した。タンパク質濃度 3 % の FWSP 溶液(pH 10) にグリセリンを 1.5% 添加した後,70℃ で 15 分間加熱してフィルム形成溶液を調製した。これを 25℃ で 20 時間乾燥させて調製した可食性フィルムは,他のタンパク質フィルムと比較して柔軟性に富み,水分を透過しにくい性質を持っていた。また,FWSP フィルムの形成には,タンパク質の変性および SS 結合の生成が不可欠であることを明らかにした。島田玲子,潮 秀樹,山中英明(東水大)
甲殻類の筋原線維 ATPase 活性に対する生息温度の影響を明らかにするために,2 種の歩行亜目エビ,すなわちアメリカンロブスターと日本産イセエビの活性を測定した。Ca2+ 存在および非存在化の Mg2+-ATPase 活性はアメリカンロブスターよりイセエビの方が低かった。アメリカンロブスターの筋原線維では Mg2+-ATPase の Ca2+ 感受性は 35℃ でなくなったが,イセエビでは 40℃ であった。Mg2+-ATPase と Ca2+-ATPase の変性の挙動により,アメリカンロブスターの筋原線維の熱安定性はイセエビよりも低いことが示唆された。Mg2+-ATPase 活性の季節変動はどちらのエビにも見られなかった。これらの結果から,歩行亜目エビの筋原線維は生息温度に種のレベルで適応していると考えられた。彭 清勇,邱 思魁,何 明根,江善 宗(台湾海洋大)
ポリエチレンフイルムで包装および無包装のクロマグロを 4℃ に貯蔵し,色差計を用いて a 値の減少と L 値の増加を 120 時間調べた。両試料のメトミオグロビン還元酵素活性は減少し,一方,イトミオグロビンは貯蔵中に増加した。NADH は貯蔵 56~80 時間で増加し,さらに貯蔵すると減少した。包装および無包装のマグロの NADPH は貯蔵中に減少がみられたが,NADH と NADPH の総量は最初の貯蔵 80 時間は一定で,その後貯蔵中に有意に減少した。メトミオグロビン還元酵素は冷蔵マグロのメトミオグロビンの生成に影響する重要な因子である。川添一郎,Safia Jasmani, Tung-Wei Shih,鈴木 譲,会田勝美(東大農)
クルマエビの卵黄形成機構を理解するための第一歩として,成熟した卵巣から卵黄蛋白を精製しその化学的性質を調べた。精製された卵黄蛋白は分子量約 530 kDa で,91, 128, 186 kDa のサブユニットより成ることが分かった。さらに逆相 HPLC により 91 kDa 成分を単離し,その N 末端 29 アミノ酸残基(10, 14 番目を除く)を同定した。また,精製した卵黄蛋白をウサギに注射し抗体を作製した。得られた抗体により内因性および外因性卵黄形成期の卵母細胞の細胞質が染色された。吉田勝俊,淡路雅彦(中央水研)
代表的な 2 塩基反復マーカーである GT 反復配列マイクロサテライトマーカーの分析では PCR での増幅の際に 2 塩基鎖長違いの副増幅産物が時に強く産生し主増幅産物の鎖長判定の妨げとなることがあった。そこで PCR の反応温度条件を検討したところ,伸長反応温度を通常用いられる 72℃ から 59℃ に下げ,酵素活性の低下を補うため伸張反応時間を延長した条件下で,蛍光色素標識を用いた分析で対立遺伝子の示すピークをより明瞭に判定することが可能となった。後藤理恵(北大水),萱場隆昭(道栽培セ),足立伸次,山内晧平(北大水)
近年,数種の魚類において,性決定が環境の影響を受けることが知られている。本研究ではマコガレイの性決定に及ぼす飼育水温の影響を調べた。実験開始から終了まで水温 15±2℃ とした群を対照群とし,体長 25 および 35 mm にそれぞれ水温を 25℃ にした群を実験群とした。その結果,体長 25 mm で昇温した群では対照群に比べ雌出現率が有意に低かったことから,性決定に水温が影響を及ぼすことが明らかとなった。体長 35 mm の群では対照群に比べ有意差がなかったことから,昇温以前に性が決定されていたと考えられた。李 旗,尾定 誠(東北大農),柏原 勝,広橋 憲(バイオメイト),木島明博(東北大農)
水温 9℃ で発生させたホタテガイの卵の受精過程を蛍光色素 DAPI を使って観察し,紫外線照射精子の受精および発生に及ぼす影響を調べた。体外に放出されたホタテガイ未受精卵は第 1 成熟分裂の中期に留まっていた。正常精子の侵入後,大部分の卵は成熟分裂を再開し,媒精後 80 分と 120 分にそれぞれ第 1 極体と第 2 極体を形成し,媒精 4 時間後には第 1 卵割が完了した。一方,紫外線照射精子の侵入後には成熟分裂と雌性前核および雄性前核の形成に関して,対照区と同様に進行したが,第 1 卵割前期以降の卵の発生が遅れた。また,紫外線照射した精子を媒精した卵の第 1 卵割後期において姉妹染色体分離が異常となることが認められた。吉冨拓児,坂田陽子,清原貞夫(鹿大理)
ゴンズイとオキナヒメジの延髄に投射する種々の脳神経線維の免疫染色を,種々の一次抗体と ABC 法の組み合わせで行った。ヒトの protein gene product (PGP) 9.5 に対する抗体は三叉,顔面,舌咽と迷走神経の感覚路の線維を選択的に染色することが分かった。次に,PGP 抗体の染色試験を両魚種の触鬚で行った。その結果,触鬚の中央の三叉顔面混合神経束,この神経束より生じ真皮中を走る線維束,味蕾の底部に入り神経叢を形成する線維束,表皮中に自由神経終末として終わる小線維束が明瞭に標識された。これらのことより,PGP 抗体は末梢味覚組織に分布する神経線維の標識に有効であることが分かった。斉藤康二(北大水),庄司隆行(北大薬),内田 至(名古屋港水族館),上田 宏(北大水)
名古屋港水族館で飼育されていた 2-3 年齢のアカウミガメの嗅上皮と鋤鼻上皮の基本的構造を形態学的に観察した。鼻腔は不完全に前後 2 室に分かれており,前室の上部と両室の下部は鋤鼻上皮に,後室の上部は嗅上皮に覆われていた。鋤鼻上皮は分化していたが,嗅上皮はあまり分化していなかった。アカウミガメでは,鋤鼻上皮が嗅上皮より発達しており,嗅覚応答において重要な役割を果たしている可能性が示唆された。高橋延昭(札医大臨海),小鹿 一(名大院農),江島大輔(味の素)
食害による磯焼け維持生物として知られるキタムラサキウニは,タコヒトデの管足に触れると,直ちに逃避行動を起こす。ウニの逃避行動を指標に活性物質の分離・同定を試みたところ,本物質を硫酸化ポリハイドロキシステロイドと同定した。本ステロイドは,すでにエゾヒトデで報告されているが,本研究によりその生物学的機能の一端が明かにされた。