Fisheries Science 掲載報文要旨

RAPD 法を用いたクロサギの系群分析

宮野原宗裕,岩槻幸雄,酒井正博(宮崎大農)

 クロサギの宮崎群と沖縄群の系群分析を RAPD 法を用いて行った。13 種のプライマーを用いて合計 46 種のマーカーが得られた。これらのマーカーのうち,A29-260 を用いると,宮崎群と沖縄群を区別することが可能であった。さらに,それぞれの個体間の遺伝的距離に基づいて系統樹を作製すると,宮崎と沖縄の系群に大別することができた。したがって,本法は,クロサギの系群識別に有効であることが示された。
65(2), 177-181 (1999)
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キンギョにおける品種間の遺伝的類縁関係

池田 実,川上貴之,藤尾芳久(東北大農)

 キンギョ 6 品種および 3 内種(ワキン,リュウキン,コメット,オランダシシガシラ,ランチュウ,アカデメキン,クロデメキン,サンショクデメキン)の遺伝的分化の程度および類縁関係をアイソザイム分析(26 遺伝子座)により検討した。その結果,品種間の Nei の遺伝的距離は平均して 0.0116 で地方品種間程度の分化レベルであった。UPG 法によりデンドログラムを作成したところ,ワキン,リュウキン,コメットと,デメキン 3 内種,オランダシシガシラは別々のクラスターを形成し,これらとランチュウは遺伝的に大きく離れた関係にあることが示された。
65(2), 182-185(1999)
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六倍体ドジョウの第二世代子孫

荒井克俊,谷浦 興,張 全啓(広大生物生産)

 自然四倍体間の受精直後,第二極体放出阻止により作出した六倍体第一世代の性比は雌雄 1 : 1 であった。二倍体,四倍体における同様の性比と雌性発生四倍体の全雌性より雄ヘテロ型性決定が示唆された。六倍体は成熟卵を産み,その卵径は四倍体,二倍体よりも大きかった。六倍体の卵と精子の受精により第二世代六倍体が作出できた。六培体と四培体,二倍体との交配より各々五倍体,四倍体が作出できた。六倍体は三倍性の卵と精子を作り,正常な子孫を残せることがわかった。
65(2), 186-192(1999)
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スケトウダラとヘイクの TS 測定及び理論モデル化

澤田浩一(水工研),葉 真(海洋科学研),ロバート・キーザー,ゴードン・マクファーレン(太平洋生物研),
宮野鼻洋一(水工研),古澤昌彦(東水大)

魚の TS をその傾角の関数として水槽で測定し理論モデルとの比較を行った。魚の軟 X 線写真から鰾形状等の魚の形態学的パラメータを得て,変形円筒近似モデルと偏長回転楕円体厳密モデルにより TS の理論計算を行った。実測と理論の一致の程度は,体軸に垂直の方向付近ではかなりよいが,傾角が大きくなると悪くなる。実測と理論による TS を既往のデータと比較したところ,若干低いがほぼ同程度となり,変形円筒モデルの実用性が確かめられた。
65(2), 193-205(1999)
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四万十川河口域およびその周辺海域におけるアユ仔魚の減耗のふ化日による違い

高橋勇夫,東 健作,平賀洋之,藤田真二(西日本科学技研)

 1996 年秋-97 年春に四万十川と周辺海域において,流下期の仔魚,河口・海域生活期の仔稚魚および遡上期の稚魚を採集し,これらアユのふ化日組成から減耗過程を検討した。流下期の仔魚の出現量には卓越したピークが 11 月中旬に,小さなピークが 12 月下旬-1 月中旬に見られた。一方,河口・海域生活期と遡上期の仔稚魚のふ化日組成は,12 月下旬あるいは 1 月上旬にピークを持つ単峰型で,11 月にふ化日を持つものは少なかった。これらのことから早生まれのアユは流下後に大きく減耗したと判断され,仔魚の生息適温を越えた 96 年秋の高水温がその要因の一つであると推察された。
65(2), 206-210(1999)
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台湾北東水域におけるキントキダイの年齢と成長について

劉 光明,陳 哲聰,楊 栄華(台湾海洋大)

 1981~82 年および 1997 年に台湾北東部亀山島周辺水域で採集されたキントキダイの二つの体長頻度データセットを用いて,MULTIFAN により解析し,von Bertalanffy 成長式の係数を推定した。そして両期間の年齢構成および成長係数を比較した。1981~82 年のデータセットより成長式のパラメータは,雌では極限体長は尾叉長で Loc=42.5 cm,成長係数 K=0.151/yr,零体長時の年齢 t0=-0.790 であり,雄では,Loc=43.8 cm, K=0.122 yr, t0=-1.458 yr と推定された。5 つの年級群が存在し,その卓越年級群は雌雄ともに 3+, 4+ および 5+ であった。1977 年のデータセットでは Loc=46.8 cm, K=0.118 yr および t0=-1.255 yr と推定された。6 つの年級群が存在し,その卓越年級群は 3+ と 4+ であった。本種の成長は両期間において有意差が認められた。
65(2), 211-217(1999)
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北大西洋におけるアカシュモクザメの人口動態学的解析

劉 光明,陳 哲聰(台湾海洋大)

 北西太平洋におけるアカシュモクザメの個体群特性について生活史パラメータを用い人口動態学的解析から推定した。生命表は,自然死亡は 0 歳魚で 0.558/yr, 1-15 歳では 0.279/yr として作成し,最高年齢は 15 歳であった。繁殖力は 1 腹に雌の産仔数を 12.9 尾もつとし,年齢別産仔数は N=(-26.105+0.179 L)/2 から算出した。雌は 5 歳で成熟し,出産は 2 年ごとに行われる。漁獲がない場合,個体群の増加率は 22.8%/yr,一世代時間は 7.57 年と推定された。純繁殖価,世代時間,および内的自然増加率は漁獲死亡の増加に伴い減少する。漁獲死亡係数を 0.3,漁獲が 5 歳から始まるものとすると,個体群の増加率は 12%/yr,一世代時間は 6.26 年であり,資源量は 6.1 年ごとに倍増する。アカシュモクザメ個体群は,漁獲が成熟年齢後に始まる場合は資源の回復力は強いが,強度の漁獲が成熟前に開始された場合,資源量は減少すると考えられる。
65(2), 218-223(1999)
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マイワシの網膜の組織学的特徴および発達

松岡正信(西海水研)

 マイワシ成魚の網膜における錐体および桿体の分布パターンと,仔稚魚の網膜における視細胞の発達過程を組織学的に調べた。成魚の特化した網膜部位(area temporalis)では,細いエリプソイドを持つ双錐体が四方形に配列し,その中央部には単錐体が見られた。残りの未特化の網膜部位では,太いエリプソイドを持つ双錐体が規則的に配列し,桿体も多数見られた。ふ化直後の仔魚では,2 層から成るレンズが形成されていたが,網膜細胞は未分化であった。ふ化後 31.5 時間の仔魚では,色素上皮細胞および視細胞の分化が見られた。同 79.5 時間の摂餌開始期の仔魚では,色素上皮は著しく厚くなり,視細胞層は単錐体のみから成っていた。体長 20 mm 前後になると桿体と双錐体の分化が見られた。その後,これら視細胞の数は急速に増加し,体長 35.6 mm の稚魚の網膜の基本構造は成魚のものと大差なかった。
65(2), 224-229(1999)
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貝類捕食者アカムシ(多毛綱)の成長に及ぼす餌生物の種類および密度の影響

斉藤英俊,今林博道,河合幸一郎(広大生物生産)

 広島湾内におけるアカムシの生息干潟は,餌生物の優占度によって,アサリ単独区,アサリ・マガキ混生区,マガキ区,およびムラサキイガイ区に分けられた。本種の肥満度は,低密度のアサリ単独区を除くと,アサリ密度の高い混生区で最も高く,次いでムラサキイガイ区,マガキ区の順であった。この野外調査は,飼育下での餌種類別の成長効率実験と対応関係にあることにより,本種には成長を高めるような餌選択捕食行動が存在することを示唆している。
65(2), 230-234(1999)
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コイのマイクロサテライトマーカーの分離およびそれらの遺伝

Ratu Siti Aliah(高知大農),高木基裕(水大校小野臨湖),董 仕,張振徳,谷口順彦(高知大農)

 コイのゲノムから分離したマイクロサテライト DNA 検出用のプライマーを設計した。それらのうち,3 つの遺伝子座 Cca-17*, Cca-21* および Cca-30* において,多型が確認され,対立遺伝子数はそれぞれ 5, 6 および 9 であった。ニシキゴイ 6 家系の F1 にはそれぞれ両親の遺伝子型からメンデルの遺伝様式に従って予測される遺伝子型が検出された。Cca-21* の *69 および Cca-30* の *266 は野生ゴイのみに検出され,それぞれの遺伝子頻度は 0.304 および 0.458 であった。Cca-30* の *288 はニシキゴイのみに検出され,遺伝子頻度は 0.600-0.610 であった。
65(2), 235-239(1999)
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親魚由来の抗体はマダイ仔稚魚の生体防御に関与しない

田中俊充,古川 清,鈴木 譲,会田勝美(東大院農)

 母子免疫の生体防御上の意義を探るため,産卵期初期のマダイ雌魚をビブリオワクチンにより免疫し,その後得られた仔稚魚を約 1 週間から 1 カ月飼育し,卵,仔稚魚抽出液中の免疫グロブリン(以下 IgM) 量および抗ビブリオ抗体価の経時変化を観察した。卵,仔魚中には IgM および特異抗体が認められたが,それらは孵化後数日の間に急速に消失した。孵化後 20~25 日目には仔魚自身の産生により IgM 量が増加し始めたが,ビブリオに対する抗体は認められなかった。マダイでは親魚の免疫は仔稚魚の生体防御に意味を持たないものと推定された。
65(2), 240-243(1999)
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生殖腺の形態的性差に基づく超音波断層法によるマツカワの早期性判別

松原孝博(北水研),渡辺研一(日栽協厚岸),山野目 健(岩手水技セ),萱場隆昭(道栽培セ)

 高周波探触子を用いた超音波断層撮影により,生殖腺の形態的性差に基づく未成熟マツカワの性判別法を確立した。1 歳 11 ヵ月(全長 252-370 mm) のマツカワの観察では卵巣は体腔後部から後方に伸長していたが,精巣では伸長は認められなかった。臀鰭第一担鰭骨後方の超音波断層横断像では,卵巣は輝度の高い楕円の輪郭として造影されたが,雄では観察されなかった。高輝度の楕円の有無を規準として,1 歳 11 ヵ月魚に加え,1 歳 7 ヵ月魚(全長 288-401 mm),1 歳 2 ヵ月魚(全長 204-274 mm),11 ヵ月魚(全治を宇 98-135 mm) を用いて性判別を行った結果,前 3 群ではそれぞれ 100%, 88%, 97% の確度で判別可能であった。しかし,11 ヵ月魚では卵巣の像は不明瞭で,判別はできなかった。
65(2), 244-247(1999)
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有害渦鞭毛藻 Gymnodinium mikimotoi および Heterocapsa circularisquama の赤潮が二枚貝の濾水率に及ぼす影響

松山幸彦,内田卓志(瀬戸内水研),本城凡夫(九大農)

 1995 年に広島湾(瀬戸内海)で発生した Gymnodinium mikimotoi と Heterocapsa circularisquama の赤潮がムラサキイガイとマガキの濾水率に及ぼす影響を調べた。G. mikimotoi の赤潮(103 cells ml-1) は,ムラサキイガイおよびマガキの濾水率を対照区の 19.8 および 14.4% まで減少させた。また,H. circularisquama の赤潮(103 cells ml-1) は,ムラサキイガイおよびマガキの濾水率を対照区の 8.8 および 1.5% まで減少させた。赤潮海水の濾過液は供試した貝の濾水率をほとんど低下させなかったが,マガキは G. mikimotoi の赤潮海水の濾過液において若干阻害が見られた。G. mikimotoi および H. circularisquama のいずれの赤潮も貝の濾過活動を強く阻害することが明らかになったことから,二枚貝養殖業への影響が懸念された。
65(2), 248-253(1999)
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23SrRNA 塩基配列に基づく好気性の海洋性超好熱古細菌 Aeropyrum pernix の系統分類学的位置の再検討

野村紀通,左子芳彦,内田有恆(京大院農)

 A. pernix の系統分類学的位置を明らかにする目的で,23SrRNA のほぼ全長の塩基配列を決定した。他の 24 種の古細菌由来の配列との多重アライメントの結果,一部の配列に顕著な GC 含量の偏りが認められたため,トセンスバージョン型の塩基置換率を算出し,近隣結合法により系統樹を作成した。A. pernix は Pyrodictiaceae 科および Desulfurococcaceae 科の嫌気性の硫黄代謝性超好熱古細菌と比較的近縁であるが,このいずれの科にも属さないことが有意に示された。
65(2), 254-258(1999)
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アユの成長,生化学的性状に及ぼす給餌条件の影響

中川平介,海野徹也,溝上英幸(広大生物生産)

 体重 5.1 g のアユに 1 日 2 回,4 回飽食させた区をI,IIIとし,II区の給餌量の 60% を 1 日 4 回に分けて給餌した区をIIとして 64 日間飼育した。成長,飼料効率,胃の容積に差異はなかったが,Ⅱ区の腸管が有意に長かった。血糖値は給餌回数と共に上昇し,II区では肝臓の Glucose-6-phosphatase と Alanine aminoacyltrans-aminase 活性が高かった。給餌試験後,23 日間の絶食でIII区の死亡率と体重減少率が最も高く,II区が最も少なかった。1 日 4 回の制限給餌が高成長と正常な生理状態を導くことを明らかにした。
65(2), 259-263(1999)
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低水温期のウニ疾病原因菌の分類学的および血清学的検討

竹内賢二郎,田島研一,モハメド マハブブ イクバル,澤辺智雄,絵面良男(北大水)

 低水温期のウニ疾病原因菌の生物学的,生化学的および分子生物学的性状を調べ同定を試みると共に,血清学的関連を検討した。伊達と知内・鹿部分離株は,インドール産生以外は一致した性状を示したが,DNA-DNA 相同性から明らかに別種であった。また,血清学的にも耐熱性および易熱性抗原構造が共に異なることが示唆された。さらに,供試した Vibrio 属対照菌株とは検査性状,DNA-DNA 相同性ならびに血清学的性状が異なり,いずれの種にも同定できなかった。
65(2), 264-268(1999)
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魚皮の脂質過酸化促進活性と酸化防止剤並びに阻害剤の影響

毛利 哲,徳織 香,遠藤泰志,藤本健四朗(東北大農)

 海水魚および淡水魚 31 種類の皮の脂質過酸化促進活性を,リノール酸またはエイコサペンタエン酸の酸化で生じる共役ジェンの 234 nm の吸収増加により測定した。脂質過酸化促進活性は供試した全ての魚種で見られ,抽出タンパク質当たり,マトウダイの 1.24 単位からブリの 9.16 単位の間に分布していた。一般にニシン目の魚類は活性が高く,加熱にも不安定であった。またオレイン酸やエイコサテトライン酸のようなリポキシゲナーゼ阻害剤やシアン化カリウムや o-フェナントロリンといったヘム阻害剤が上記の活性を阻害したことから,魚皮の酸化促進活性にはヘムタンパク質やリポキシゲナーゼ様の酵素が関与していることが示唆された。緑茶カテキン混合物もカテキンやエピガロカテキン同様,本活性を強く阻害したことから,これらカテキン類は魚皮の酵素的・非酵素的脂質過酸化の防止に有効であると思われた。
65(2), 269-273(1999)
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かつお節カビ付け菌 Aspergillus repens と Eurotium herbariorum NU-2 リパーゼの精製とその性質

上西由昻,谷江秀隆,国本正彦(水大校)

 Aspergillus repens と Eurotium herbariorum NU-2 から DEAE-Sephadex A-50 および調製用電気泳動によりリパーゼを精製した。A. repens および NU-2 菌株から精製された酵素の分子量は,SDS-PAGE よりそれぞれ 38,000 および 65,000 と推定された。A. repens のリパーゼは至適 pH が 5.3,至適温度が 27℃ であり,一方,NU-2 菌株ではそれぞれ pH 5.2 と 37℃ であった。両リパーゼは,オリーブオイルやトリオレインに高い基質親和性をもち,トリアシルグリセロールの 1(3)位のエステル結合を特異的に加水分解した。
65(2), 274-278(1999)
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養殖マダイと天然マダイにおける血清リポたん白質像の差違について

朴 美蓮(韓国慶尚大),槌本六良,アブドウル ジャバルシャー,三嶋敏雄,橘 勝康(長大海生研)

 魚類における serum lipoprotein profile と体脂肪の栄養生理学的代謝との間の関連性を明らかにする研究の一環として,本研究では養殖と天然マダイとの間の serum lipoprotein profile の差違について,disc electrophoresis と density gradient ultracentrifugation を用いて比較検討した。その結果,LDL は養殖マダイが天然マダイに比べて高かった。HDL の HDL3 レベルは両群間で近似していたが,HDL2 は養殖では存在したものの極めて低かったのに対して,天然マダイでは高く明瞭に存在した。肥満度と肉眼的内蔵中脂肪量はどちらも養殖マダイが高く,また serum 中の triglyceride と cholesterol の含有量も養殖マダイが高かった。これらの結果から,養殖マダイは脂肪蓄積状態にあり,魚類における HDL2 は脂肪蓄積方向への carrier 機能はないのではないかと考察された。
65(2), 279-283(1999)
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季節と刺殺方法に依存するマダイの死後硬直の変化

中山照雄,大口直子,大井淳史(三重大生物資源)

 夏(6~8 月)のストレス区筋肉の ATP/IMP 比は刺殺直後に冬(1~3 月)より低く,3 時間早く極限値に達した。夏の収縮量が冬より大きいにも関わらず張力が同じなのは夏の大きな収縮による構造脆弱化が原因であった。夏の安静即殺区の ATP/IMP 比は刺殺直後に冬より低く,4 時間早く極限値に達した。脊髄破壊区の ATP/IMP 比は夏冬とも高く,刺殺直後では夏は冬より僅かに低く,10 時間早く極限値に達した。安静即殺区と脊髄破壊区の夏の筋肉では冬より収縮量が増大したため大きな張力が発生し構造脆弱化はあまり起こらなかった。脊髄破壊区では張力増大が長時間にわたる間に構造脆弱化が進行したため夏の張力増大は安静即殺区ほど顕著ではなかった。
65(2), 284-290(1999)
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アクトミオシン ATPase 活性による普通筋の筋タイプの識別と魚種及び部位における比較

アブドウル ジャバルシャー,槌本六良(長大海研),小鶴泰俊,三嶋敏雄(長大水),矢田 修,橘 勝康(長大海研)

 10 魚種の普通筋部における,アクトミオシン ATPase 活性による組織化学的な筋タイプの識別を試みた。筋タイプの識別条件は,酸性では,pH 4.45-4.54, 0.5-4.0 分の前処理が最適であり,アルカリ性では,pH 10.40, 20 分であった。本条件より,試料魚には 4 種の筋タイプのパターンが存在した。そのパターンは,白筋のIIa,白筋のIIa+IIb,ピンク筋+白筋のIIa もしくはIIb,ピンク筋+白筋のIIa+IIb であった。また,同一魚種の天然魚と養殖魚では部位によって,筋タイプが異なった。
65(2), 291-299(1999)
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フジマツモ科海藻由来ブロモフェノール類の α-グルコシダーゼ阻害活性

栗原秀幸,三谷 健(北大水),川端 潤(北大農),高橋是太郎(北大水)

 フジマツモ科イソムラサキ,ハケサキノコギリヒバ,およびモロイトグサから単離したブロモフェノール 9 種について α-グルコシダーゼ阻害活性を検討した。これらは酵母 α-グルコシダーゼに対して阻害活性を示し,2 種の対称ビスベンジルエーテルが強い活性を示した。臭素原子の増加やメチル基の減少が阻害活性を強めた。ラット小腸由来の粗 α-グルコシダーゼに対する阻害活性は,酵母 α-グルコシダーゼに対するほど強くなく,どのブロモフェノールでも阻害の強さがあまり変わらなかった。
65(2), 300-303(1999)
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アクトミオシンの加熱に伴う SS 結合による高分子化挙動

Jiraporn Runglerdkriangkrai,伊藤慶明,来住 晃,小畠 渥(高知大農)

 コイ,トビウオ,ウサギのアクトミオシン(AM) を 10-80℃ で加熱し,SDS-PAGE 像,全 SH 基及び易反応性 SH 基,並びに表面疎水性(HP) を調べた。いずれの AM でもほぼ同様に,30℃ までは SH 基の露出及び HP の増大を伴わずにミオシン重鎖(HC) の SS 結合による二量体が形成されていたが,30 から 50℃ にかけては SH 基の露出及び HP の増大を伴いながら HC 多量体が形成された。更に高温では酸化が進むとともに多量体形成が促進された。HC ほどではないがアクチンも 30℃ 以上で SS 結合による高分子化が認められた。
65(2), 304-309(1999)
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アクトミオシンの加熱に伴うミオシン重鎖の SS 高分子化における S-1 及び rod の役割

Jiraporn Runglerdkriangkrai,伊藤慶明,来住 晃,小畠 渥(高知大農)

 コイ,トビウオ,ウサギの筋原繊維を S-1 と rod に切断した SR 混液を 10-80℃ で加熱した結果,いずれも,30℃ までは Cu イオンの存在下で構造変化を伴わずに SS 結合による rod の二量体が形成された。30 から 50℃ にかけて SH 基の露出及び表面疎水性の増大を伴って SS 結合による S-1 多量体形成が起こり,50℃ 以上ではその多量化が顕著に進んだ。アクトミオシン加熱時のミオシン重鎖の多量化は S-1 の露出した SH 基の酸化によることが示唆された。
65(2), 310-314(1999)
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南極昭和基地周辺海氷水での超音波ピンガーを用いたショウワギスの行動観測(短報)

宮本佳則(東水大),谷村 篤(三重大学)

 第 34 次日本南極地域観測隊で,昭和基地の結氷海域において,生体観察の目的で超音波ピンガーを一匹のショウワギスに装着しその行動観察を 8 回行った。観測に用いた魚は,釣りにより採取し,体長,体重を測定した後ピンガーを装着し観測点(水深約 29 m) から放流した。魚の位置は,5 個のトランスデューサを氷に穴をあけて設置し,魚に取り付けたピンガーの信号が各トランスデューサで受信される時間差から計算して求めた。魚は観測点から放流されるとそのまま海底に着底し,回帰行動をすることなく,放流点付近で一日当たり平均 1.1~11.7 m 移動した。
65(2), 315-316(1999)
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マダカアワビの核型(短報)

宮木廉夫,松田正彦(長崎水試),多部田 修(長大水)

 人工受精によって得られたマダカアワビ Nordotis madaka のトロコフォラ幼生を用いて,その核型を小刻法によって作製したギムザ染色標本に基づいて分析した。本種の染色体数および腕数は,ともに 36(2n) および 72 であった。また,核型は 10 対の中部動原体型染色体および 8 対の次中部動原体型染色体で構成されていた。本種の染色体数,腕数および核型は,既報の日本沿岸に生息するアワビ属 3 種(クロアワビ N. discus,メガイアワビ N. gigantea,およびエゾアワビ N. discus hannai) の染色体と非常に類似していることが判った。
65(2), 317-318(1999)
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HaV(ヘテロシグマアカシオウイルス)の凍結保存(短報)

長崎慶三,山口峰生(瀬戸内水研)

 有害赤潮藻 Heterosigma akashiwo を宿主とするウイルス(HaV) の凍結保存法の確立を目的として,凍結温度ならびに凍結保護剤の種類および濃度について検討した。その結果,凍結保護剤として 10%~20% DMSOを添加後,液体窒素中で凍結するのが HaV には最も適しており,この保存条件下では 11 ヶ月経過時点でも実験開始時の 2.2% の感染力価が保持された。本法およびその改変法を用いてブルームの現場海水を凍結保存しておくことで,新奇な微細藻類ウイルスの分離の可能性が高まるものと期待される。
65(2), 319-320(1999)
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ティラピアのアンモニア排泄量および酸素消費量に及ぼす異なる炭水化物摂取の影響(短報)

蕭 錫延,鄭 敦仁(台湾海洋大)

 炭水化物源としてグルコースとデンプンを用い,それぞれ異なる含量(33, 37, 41%) に調整した飼料を用いて,ハイブリッドティラピアの雄(3.24 g) を 8 週間飼育後,アンモニア排泄量(AE) と酸素消費量(OC) を測定した。その結果,AE は飼料中の両炭水化物添加量の増加に伴い減少し,OC は逆に増加した。グルコースに比較し,デンプン添加区の方がいずれの添加区においても AE は低く,OC は高かった。すなわち,ティラピアが異なる炭水化物の種類と量を摂取すると,AE と OC が影響を受けることがわかった。
65(2), 321-322(1999)
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エレクトロポレーション法によるレポーター遺伝子,green fluorescent protein 遺伝子の魚類細胞へのトランスフェクションと発現(短報)

尾島信彦,松原永季,山下倫明(中央水研)

 ニジマス RTG-2,マスノスケ CHSE-sp,ファットヘッドミノー FHM-sp の各魚類培養細胞に green fluorescent protein (GFP) 遺伝子をエレクトロポレーション法によって導入し,遺伝子導入の最適条件を決定した。Leivobitz’s L-15 培地中,プラスミド DNA 濃度 40 μg/ml,電気容量 1,000 μF の条件でトランスフェクション効率が最も高く,最適な電場強度は RTG-2 細胞では 750 V/cm, CHSE-sp 細胞と FHM-sp 細胞では 825 V/cm で最大のトランスフェクション効率(1.5~5.5×10-3/μg プラスミド DNA) が得られた。
65(2), 323-324(1999)
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イカのムチンにおける 4-O-メチル-D-グルコサミンの存在(短報)

木村 茂,角尾 卓(東水大),松田 久,村上昌弘,山口勝己(東大)

 先に,アルゼンチンイレックスの包卵腺ムチンはグルコサミンとガラクトサミンのほかに,未知のアミノ糖 1 を含むことを報告した。本研究ではムチンの加水分解で遊離したアミノ糖類をスルホン酸樹脂カラムに吸着させた後,0.33 M HCl-50℃ の条件下で溶出し,1 を単離することが出来た。FAB-MS と NMR によって構造を調べた結果,1 はグルコサミンの 4 位の OH 基がメチル化した 4-O-メチル-D-グルコサミンであることが判明した。自然界における 1 の存在はこれまでに知られていない。
65(2), 325-326(1999)
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塩基性アミノ酸残基の魚類筋肉タンパク質からの熱露出に対するバンスライク法による再確認(短報)

S. M. Zahangir Hossain,大西未来,加納 哲,丹羽栄二(三重大生物資源)

 トランスグルタミナーゼを除去したスケトウダラ,マサバ,マアジ,鶏肉ささ身,豚肉および牛肉そとももの各ミンチを 30℃,5 時間加熱した。これらの筋肉タンパク質の分子表面に露出する塩基性アミノ酸残基量を知る目的で,加熱前後のミンチのホモジネート中のバンスライク窒素を定量したところ,未加熱のものではスケトウダラ>マサバ>マアジの順に多く,さらに加熱によってこの順に多く増加した。しかし,未加熱の畜肉ではバンスライク窒素は魚肉に比べてはるかに少なく,加熱による増加も僅かであった。この結果から坐り易い魚種のタンパク質の分子表面には塩基性アミノ酸が多く露出しており,加熱によってさらに露出することが再確認できた。
65(2), 327-328(1999)
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魚介類筋肉中におけるグルタチオン含量(短報)

平田 孝(京大院農),谷本昌太(広島食工セ),福永健治(関西医大),新井博文(山口県大),坂口守彦(京大院農)

 広く消費されている 42 種類の魚介類筋肉中に含まれるグルタチオン(GSH),酸化型 GSH (GSSG),総 GSH 量を測定した。GSH は魚肉 1 グラムあたり 1.2 nmol から 255.6 nmol ときわめて広い分布を示した。血合肉中の総 GSH は普通肉の約 1.3-2.3 倍を示した。赤身魚類よりも白身魚類の含量は低く,なかでもアンコウのように運動量の少ない魚では数 nmol しか含まれていなかった。ヒラメなどの底棲魚に比べ,回遊魚中の含量は比較的高く,特にブリやサケでは 180 nmol を超えていた。すなわち,活性酸素が発生しやすい条件下で棲息する魚類あるいは部位で GSH 含量が高い傾向が認められた。一方,貝類の含量は高く,特にホタテガイは 774.7 nmol もの GSH を含有していた。
65(2), 329-330(1999)
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天然アユと人工飼育のアユ各組織におけるフィロキノンと長鎖メナキノン含量の比較(短報)

宇田川美穂(中央水研),中添純一(養殖研),村井武四(西水研)

 アユの天然魚と飼育魚の組織中のフィロキノン(PK) とメナキノン(MK) の含量を測定した。PK を多く含む珪藻を食している天然アユでは,配合飼料を与えた飼育アユより,PK の含量が極めて高いことから,天然アユの PK の大部分は餌の珪藻に由来するものと考えられた。一方,飼育魚にはメナジオン代謝物の MK-4 が見いだされた。消化管内容物中に多量の長鎖 MK が存在したが,組織中にはほとんど見いだされなかった。これらの事実から,ビタミン K の吸収・代謝の度合いは,その形態によってかなり異なることが推定された。
65(2), 331-332(1999)
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