Fisheries Science 掲載報文要旨

ウミヒゴイ属魚類の第一次味覚中枢

桐野正人,池永隆徳,塚原潤三(鹿大理),C. F. Lamb(ブラックヒルズ州立大),清原貞夫(鹿大理)

 ウミヒゴイ属 4 魚種の第一次味覚中枢の構造とそこへの三叉,顔面,舌咽神経の投射を調べた。第一次味覚中枢は背側顔面葉,腹側顔面葉,迷走葉からなる。背側顔面葉は延髄背面に発達し,多数の小葉とその中に 4 つの層構造がみられた。腹側顔面葉と迷走葉は前後に走る感覚柱で,層構造は存在せず細胞体の集塊が多数みられた。三叉神経は腹側顔面葉の前方の外側にだけ投射した。一方,顔面神経は背側と腹側顔面葉のすべてに,舌咽神経は迷走葉前方の背外側に投射することが分かった。

72(3), 461-468 (2006)
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カンボジアメコン川におけるナマズ類 2 種の集団構造とその歴史

Nam So (Katholieke Univ. Leuven, Ministry of Agriculture), Jereon K. J. Van Houdt, Filip A. M. Volckaert (Katholieke Univ. Leuven)

 ミトコンドリア DNA の PCR-RFLP 分析によってメコン川カンボジア領域に生息するナマズ類 Pangasianodon hypophthalmusPangasius bocourti の集団構造と集団の形成過程について調べた。その結果,両種とも種内分化のレベルは低く分集団は形成されていないと考えられた。しかし,ミスマッチ分析および中立性の分析から,より祖先的な P. hypophthalmus は最近ビン首効果を経験し,より最近種分化した P. bocourti はその過程で集団が拡大したものと考えられた。

(文責 木島明博)

72(3), 469-476 (2006)
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琵琶湖におけるカワウの食性とアユへの影響

高橋鉄美(京大院理),亀田佳代子(琵琶博),川村めぐみ(小金井市),中島経夫(琵琶博)

 近年琵琶湖周辺において大型の魚食性水鳥であるカワウが増加し,アユ漁業への影響が懸念されてきた。そこで 1998 年と 2001~2002 年に捕獲されたカワウの胃内容物を調査したところ,アユは 4 月に出現し始め,7~8 月にはカワウのもっとも主要な餌となった(重量割合 0.62,出現頻度 0.85)。しかし 10 月末以降には全く見つからなかった。カワウがアユの捕食を開始した時期は,琵琶湖表層のアユの増加時期と一致した。またカワウが捕食するアユの重量は 4~6 月で 46 トン,7~8 月で 310 トンほどであると推測された。

72(3), 477-484 (2006)
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マイクロバブル発生装置を用いた魚類養殖場内の DO レベルの制御

S. Srithongouthai(恵天),遠藤 晃(多自然テクノ),井上晃宏,木下今日子,吉岡美穂,佐藤綾子(熊本県大環境共生),岩崎隆明,手柴一郎,梨子木久恒(多自然テクノ),濱 大吾(恵天),堤 裕昭(熊本県大環境共生)

 魚類養殖生け簀の DO 低下を防止するマイクロバブル発生装置を開発し,熊本県本渡市楠浦湾のマダイ養殖場で実用試験を行った。2004 年 6 月~10 月に,生け簀に隣接して水質自動観測システムを設置し,水質の時間変化をモニターすると,DO は植物プランクトンの光合成が停止する夜間に低下する傾向が認められた。開発したマイクロバブル発生システムを夕方より毎日約 16 時間運転して生け簀内でマイクロバブルを発生させ,夜間の DO 低下を防止した。その結果,夜間でも生け簀内の DO は飽和濃度に近いレベルを保つことに成功した。

72(3), 485-493 (2006)
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mtDNA 多型を用いたハワイ諸島北方海域アカイカ科 4 種の種判別

若林敏江,鈴木伸明,酒井光夫,一井太郎(水研セ遠洋水研),張成年(水研セ中央水研)

 アカイカの産卵場であるハワイ諸島北方海域に出現するアカイカ科 4 種(アカイカ,トビイカ,スジイカ,シラホシイカ)について mtDNA COI 前半部の 855bp を PCR により増幅し,制限酵素切断片長多型(RFLP)解析を行った結果,2 種類の制限酵素(Alu I, Tsp509I)の切断型を組み合わせることにより 4 種の判別が可能であることが明らかとなった。この手法を用いることによりネット採集時に損傷を受けた稚仔および形態が類似した稚仔の簡便かつ確実な種判別を行うことが可能となった。また得られた塩基配列をもとに系統解析を行った結果,アカイカ科の単系統性が支持された。

72(3), 494-502 (2006)
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計量魚群探知機による海底の表面散乱強度の測定

Henry Munandar Manik,古澤昌彦,甘糟和男(海洋大)

 計量魚群探知機(計量魚探機)による海底の表面散乱強度(SS)の測定原理と方法について検討し,それをジャワ島近海で適用した。計量魚探機の周波数は 38, 70, 120 kHz であった。海底のエコーの測定とドレッジによる堆積物の採集を同時に実施した。底質の判別は,調査中に採集した粒子のサイズ分布の解析を基に行った。SS 値は堆積物の粒子の平均直径とともに増加し,周波数の増加によって減少した。SS の測定と海底地形の観察に計量魚探機が有効であることを実証できた。

72(3), 503-512 (2006)
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無魚粉飼料を給餌したブリの抗病性と低コレステロール血症

舞田正志(海洋大),前川淳一(伊藤忠飼料),佐藤公一(大分水試),二見邦彦,佐藤秀一(海洋大)

 無魚粉飼料を給餌したブリに見られる低コレステロール血症および抗病性の低下と飼料中のコレステロールおよびタウリンとの関連性について調べた。無魚粉飼料の給餌により,自然感染,実験感染のいずれにおいても抗病性の低下と貧血が見られ,それらは無魚粉飼料にタウリンを添加することで改善された。抗病性低下の誘因はタウリンの不足により起こる貧血であると考えられた。また無魚粉飼料給餌ブリの低コレステロール血症には,内因性および食餌性コレステロールの両方が関与していることがわかった。

72(3), 513-519 (2006)
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超音波バイオテレメトリーを用いた舞鶴湾における放流アカアマダイ人工種苗および天然魚の行動特性比較

横田高士,三田村啓理,荒井修亮(京大院情報),益田玲爾(京大フィールド研セ),光永 靖(近大農),井谷匡志(京都海洋セ),竹内宏行(水研セ宮津),津崎龍雄(水研セ玉野)

 アカアマダイの人工種苗および天然魚を舞鶴湾に放流し,超音波バイオテレメトリーによる行動追跡を行った。放流後約 10 日間は,人工種苗,天然魚ともに放流地点付近の広範囲を移動した。その後も追跡できた人工種苗および天然魚のデータからは,それぞれ特定の地点に定着して巣穴を掘り,昼夜の変化に合わせて日周的に巣穴に出入りする行動が推察された。一方,両者には共通点ばかりでなく,同湾内における追跡期間や日周行動パターンにおいて相違点も見られた。この原因として,放流前に経験した環境条件の違いが考えられる。

72(3), 520-529 (2006)
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張網の菱目,角目袋網のツマリエツ Setipinna taty に対する選択性

孫 満昌,張  健,許 柳雄(上海水産大)

 目合の異なる菱目と角目袋網を用いて,張網漁業におけるツマリエツの網目選択性を分析した。漁獲したサンプルのツマリエツ 5151 尾のデータから求めた網目選択率を Logistic 曲線と Richards 曲線に当てはめた。その結果,目合 30 mm, 35 mm, 40 mm の菱目袋網では Richards 曲線への適合性が認められたのに対して,目合 45 mm の菱目袋網および目合 30 mm, 35 mm, 40 mm と 45 mm の角目袋網では Logistic 曲線への当てはめがよかった。50% 選択体長 L50 と目合の線性関係により,目合 36.5 mm の菱目袋網を用いることによって 50% 程度のツマリエツの稚魚が逃避できることが明らかになった。

72(3), 530-539 (2006)
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カタクチイワシ Engraulis japonicus の感覚器の解剖学的特徴

Simla UYAN,川村軍蔵,Miguel VAZQUEZ ARCHDALE(鹿大水)

 カタクチイワシ成魚の側線,内耳,味蕾,嗅上皮の解剖学的特徴を光顕と走査電顕で調べた。側線系管器は頭部でよく発達しているが,遊離感丘は認められない。内耳は硬骨魚類に共通した三半規管と耳石器官をもつ。味蕾は口腔内(上下顎の歯の間,口腔内上皮,鰓弓上皮)にのみあり,唇と口腔弁にはない。嗅上皮には 2 種の受容細胞が認められた。これらの感覚器の構造と分布の特徴はカタクチイワシの表層生活様式によく適応している,すなわち,側線系は濃密な成群性に,味蕾の分布様式はプランクトン食性に有利である,と考えられる。

72(3), 540-545 (2006)
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無魚粉飼料給与ブリにおけるタウリンの溶血防止作用

高木修作(愛媛水試),村田 寿(宮崎大農),後藤孝信(沼津高専),林 雅弘,幡手英雄,延東 真(宮崎大農),山下浩史(愛媛水試),宇川正治(丸紅飼料)

 無魚粉飼料給与ブリにおけるタウリンの溶血防止作用とタウリン補足の必要性を,タウリン補足量の異なる大豆タンパク質飼料で稚魚を 40 週間飼育して調べた。飼育 21 週間後には,タウリン無補足区の飼育成績は著しく劣り,魚体タウリン含量,血清浸透圧および赤血球の浸透圧耐性は低く,血漿過酸化脂質濃度が高かった。タウリン補足によりこれら状況は著しく改善した。タウリンは浸透圧調節と生体膜保護作用により溶血を防止することが分かった。ブリは生理状態を正常に保つため,タウリンを必須栄養素として要求すると示唆された。

72(3), 546-555 (2006)
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日本沿岸におけるマツカワとホシガレイの遺伝的変異性と集団構造

マリア オルテガ-ビライザン ロモ(東北大院農),有瀧真人(水研セ宮古),鈴木重則(水研セ北水研厚岸),池田 実(東北大院農),朝日田卓(北里大水),谷口順彦(東北大院農)

 希少種マツカワとホシガレイの遺伝的変異性と集団構造について,マイクロサテライト(ms)DNA とミトコンドリア(mt)DNA 分析により検討した。マツカワの平均アリル数(A)と平均へテロ接合体率(He)は,マツカワ,ホシガレイともに高い値を示した。ハプロタイプ多様度(h)と塩基多様度(p)は,マツカワで比較的高い値を示したが,ホシガレイでは低い値を示し,母系の有効集団サイズが小さいことが示唆された。またホシガレイにおける低頻度ハプロタイプの分布には南北で差異がみられ,それぞれ別の管理単位として取り扱う必要性が示唆された。

72(3), 556-567 (2006)
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東京湾産シャコにおける資源量変化にともなう再生産パターンの変化

児玉圭太(東大院農),清水詢道(神奈川水技セ),山川 卓,青木一郎(東大院農)

 東京湾産シャコの資源量と幼生豊度は 1980 年代に高く,1990 年代初期以降は低水準で推移した。資源量水準によって個体の産卵盛期に変化はなく,高齢の大型個体は早期産卵期(5~6 月),前年産まれの小型個体は晩期産卵期(7~9 月)であった。しかし,幼生出現盛期は資源量水準で異なり,資源量高水準期は早期産卵由来の 7 月,低水準期は晩期産卵由来の 9 月だった。資源量低水準期においては,高齢の大型個体の産卵資源量が低下し,前年産まれの小型個体の産卵により個体群が支えられていることが示唆された。

72(3), 568-577 (2006)
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ミトコンドリア DNA 解析によってホンビノスガイと判定された東京湾の外来二枚貝

樋渡武彦,篠塚由美,木幡邦男,渡辺正孝(国立環境研)

 1990 年代に東京湾に移入し,形態学的にホンビノスガイと言われる二枚貝について mtDNA により種判別解析を行った。系統解析によって,東京湾の 3 地点から採取された 31 個体全てがホンビノスガイ Mercenaria mercenaria と判定された。31 個体の殻内部の色彩には白色あるいは紫の変異が観察されたが,DNA ハプロタイプとの関係は認められなかった。その色彩変異個体の出現頻度と地点間には有意な差が見られ,底質環境との関連が疑われた。移入種が歯丘表面に皺を刻むことから邦産種ビノスガイとは明らかに別種であることが示された。

72(3), 578-584 (2006)
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体長と体幅から算出するマナマコの新体サイズ測定基準

山名裕介(水大校),浜野龍夫(水大校)

 マナマコの正確な体長(La)はメントール麻酔下で測定するが,野外での実施が困難であるため,マナマコの伸縮状態に関らず La を計算できる式を明らかにした。伸縮時,体長(L)と体幅(B)の間には負の相関があり,(LB)1/2 は個体毎にほぼ一定だった(cv.=0.01-0.06)。そこで LB から回帰式:Le=2.32+2.02・(LB)1/2(青色型),Le=1.34+2.12・(LB)1/2(黒色型),により推定体長 Le を求めたところ,Le は実測値 La に近く,変動幅は L の 1/4,B の 1/2 程度であり測定基準として有効と判断した。

72(3), 585-589 (2006)
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マイクロサテライト遺伝子解析により示された東部太平洋キハダ海域標本間の分化

P. Diaz-Jaimes, M. Uribe-Alcocer(Autonoma 大)

 1994 年から 2002 年にかけて東部太平洋の北部海域(10~25°N, 95~130°W)においてキハダ 4 標本及び南部海域(16~18°N, 95~97°W)において 1 標本を採取した。これら 5 標本について 7 個のマイクロサテライト遺伝子座の変異を比較したところ,3 遺伝子座において集団の不均一性が検出された。さらに,赤道を挟む北部と南部標本間で有意な遺伝子頻度差が示された。これらの結果は,東部太平洋のキハダ集団において遺伝的分化が存在することを示唆している。
(文責 張 成年)

72(3), 590-596 (2006)
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16S rRNA の部分配列の解析によるブラウントラウト Salmo trutta fario L. の腸管内微生物の多様性評価

Vesta Skrodenyte-Arbaciauskiene, Aniolas Sruoga, Dalius Butkauskas(Vilnius Univ.)

 リトアニアの 2 つの河川に棲息するブラウントラウトの腸管内容物における微生物の多様性について,16s rRNA 遺伝子の部分塩基配列の解析によって調査した。Skroblus 川由来では Rahnella が,Zeimena 川由来では Aeromanas および Plesiomonas が,主要な集団であった。腸内細菌科に属する 11 種類の細菌が,淡水のサケ科魚類では初めて腸管内から検出された。
(文責 廣野育生)

72(3), 597-602 (2006)
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有明海島原半島浅海成育場におけるホシガレイの分布と成長

和田敏裕(京大院農),光永直樹,鈴木洋行(長崎水試),山下 洋,田中 克(京大フィールド研セ)

 ホシガレイの成育場および成長過程を探るため,有明海島原半島南東部に位置する蒲河,龍石浜においてそれぞれプッシュネット(03 年 3 月~04 年 4 月)および刺し網採集(03 年 7 月~04 年 7 月)を行い,変態期仔魚から 2 歳魚まで計 478 個体(15.2~447.0 mmTL)。を採集した。特に,03 年級群は 03 年 3 月から 04 年 6 月まで連続的に採集された(15.2~350.0 mmTL; n=418)。採集結果より,3 月に変態期仔魚が加入した後,着底稚魚は極浅海干潟域を成育場とし,稚魚は沿岸浅海域で著しい成長を示して全長 300 mm 前後に達する翌 5~6 月ごろに有明海の成育場から移出すると推定された。

72(3), 603-611 (2006)
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東シナ海南部海域におけるマアジ仔魚の鉛直分布

佐々千由紀,小西芳信(水研セ西海水研)

 2002 年 2~3 月に東シナ海南部に設けた 13 測点において MTD ネットにより 0~100 m 深までの同時多層採集を行い,マアジ仔魚の鉛直分布を海洋構造との対応で明らかにした。採集した 7689 個体の平均体長(±標準偏差)は 2.6±0.3 mm であった。それらは混合層内で主に出現し,10~30 m 層に分布中心をもった(平均分布深度 21.5 m,分布水温 21~23°C)。また分布深度に体長別,昼夜別の違いは認められなかった。マアジ仔魚の鉛直分布は餌環境の指標と考えられるクロロフィル α 濃度のそれと概ね一致した。

72(3), 612-619 (2006)
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スケトウダラ初期発生期における遊離アミノ酸,卵黄タンパク質,および脂質の利用

大久保信幸,澤口小有美,濱津友紀,松原孝博(水研セ北水研)

 スケトウダラの受精卵から卵黄吸収までの初期発生期における卵黄栄養成分の利用様式を調べるため,遊離アミノ酸(FAA),卵黄タンパク質,および脂質(リン脂質,トリグリセリド)量の発生に伴う変化を調べた。卵黄タンパク質の測定には,排卵した卵の主要卵黄タンパク質である 180 kDa リポビテリン(oLvB)の酵素免疫測定系を作製した。この結果,スケトウダラは孵化まで FAA を優先して利用し,孵化後から卵黄吸収終了時にかけて oLvB と脂質の利用が活発化した。また,卵の FAA 組成は他の海産魚の浮遊性卵に比べアラニン含量が約 25% と特異的に高かった。

72(3), 620-630 (2006)
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長時間潜水する動物の個体数推定に対する浮上パタンの影響

岡村 寛(水研セ遠洋水研),南川真吾(水研セ遠洋水研/リトルレオナルド),北門利英(海洋大)

 長時間潜水する海産哺乳類は,目視調査の調査線上にいるときでも見落とされる傾向がある。ライントランセクト法のデータと潜水・浮上の情報を用いれば,調査線上の見落としを考慮した個体数推定が可能となる。潜水・浮上のパタンの情報を取り込んで個体数推定を行なう新しいモデルの開発を行なう。シミュレーションは,特に長時間潜水する動物に対して潜水・浮上パタンの情報を使用しなければ,個体数がかなり過小に推定されることを明らかにした。一方,潜水・浮上パタンを考慮したモデルは偏りの小さい個体数推定値を与えた。

72(3), 631-638 (2006)
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海産紅藻スサビノリのアクチン関連タンパク質 4 ホモログをコードする cDNA の解析

北出幸広,中村理湖,遠藤博寿(北大院水),福田 覚(海藻技研),桑野和可(長大院生産),嵯峨直恆(北大院水)

 海産紅藻スサビノリにおいて,陸上植物アラビドプシスのアクチン関連タンパク質(ARP)4 と有意な類似性を示す cDNA(PyARP4)を同定した。PyARP4 演繹アミノ酸配列中には推定の bipartite 型核局在化シグナル(NLS)とアクチンモチーフが見つかった。PyARP4 遺伝子の発現レベルは,生活環の 4 つの発生段階で有意に変化せず,従来型アクチンよりも低かった。この cDNA は,これにより,スサビノリの差次的発現をする遺伝子の発現解析における有用な内部基準の一つとして役立つかもしれない。

72(3), 639-645 (2006)
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シログチおよびスケトウダラ普通筋ミオシンの性状の比較

佐藤佳恵,中谷操子,落合芳博,渡部終五(東大院農)

 シログチ普通筋ミオシンの諸性状をスケトウダラのものと比較した。Ca2+-ATPase の KD から求めた Ea はシログチではスケトウダラの 1.2 倍であった。Ca2+-ATPase 活性は 2 魚種間で同様の KCl 濃度および pH 依存性を示した。シログチ・ミオシンのアクチン活性化 Mg2+-ATPase 活性はスケトウダラのそれの約半分であったが,F-アクチンとの親和性は同程度であった。加熱変性したシログチ・ミオシンでは主に HMM/LMM 結合部位で限定分解されたが,スケトウダラではさらに LMM 内でも切断された。

72(3), 646-655 (2006)
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ビブリオバルニフィカスの VBNC を抑制する変異株の分離:定常期および低温下の生存における抗酸化酵素の役割

阿部晃久,大橋英治(日水食分セ),任 恵峰,林 哲仁,遠藤英明(海洋大)

 VBNC を抑制するビブリオ バルニフィカス変異株を単離した。低温ストレス下で生存する変異株細胞の多くは平板培地上で培養可能であった。サブトラクション法で VBNC に関与すると思われる遺伝子を検索したところ RpoS-依存型カタラーゼを同定した。そのカタラーゼのレベルは定常期以降や低温ストレス下の細胞で上昇した。さらに変異株の定常期細胞は過酸化水素に対する抵抗性を示した。これらの結果から VBNC 変異株は低温ストレス下における酸化的ストレスから細胞を保護するためカタラーゼを用いることが示唆された。

72(3), 656-664 (2006)
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酸化ストレス剤を投与したティラピア由来の動物株化細胞(Hepa-T1)における脂質過酸化レベルの上昇とヒドロキシ脂質の生成

田中竜介(水大校),幡手英雄(宮崎大農),伊東 信,中村 孝(九大院農)

 生魚の過酸化脂質およびヒドロキシ脂質(L-OH)レベルと抗酸化酵素の関係を調べるために,ティラピア由来の株化細胞(Hepa-T1)に酸化ストレス剤を投与した。その結果,L-OH レベルはグルタチオンペルオキシダーゼ活性の上昇に伴い増加したが,カタラーゼおよびスーパーオキシドジスムターゼ活性との相関は見られなかった。一方,ビタミン E 含量を増加させた Hepa-T1 に酸化ストレス剤を投与すると,特に,L-OH の生成が著しく抑制され,脂質酸化物レベルに関与することが示唆された。

72(3), 665-672 (2006)
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コイ・カテプシン B の遺伝子構造

Tan Yan(長大院生産),長富 潔(長大水),原 研治(長大水)

 コイ・カテプシン B の翻訳領域に相当する部分と 3′非翻訳領域の塩基配列(2546 bp)が決定され,その遺伝子構造は 9 個のエキソンと 8 個のイントロンで構成されていた。イントロンの 5′末端の GT と 3′末端の AG の共通配列がすべてのエキソン/イントロン境界領域で確認された。各イントロンの挿入箇所はマウス・カテプシン B と全て一致していたが,イントロンサイズはかなり小さかった。

72(3), 673-678 (2006)
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ヒドロキシメチルセルロースと混合したすり身の熱ゲル化反応

陳 輝煌(台湾宣蘭農工専科学校食品工)

 アジすり身あるいは筋原繊維(MP)のゲル化特性に及ぼすヒドロキシメチルセルロース(HPMC)混合の影響を調べた。HPMC は 60°<-2><-4>C 以上で可逆的なゲルを形成した。しかし,MP のゲルは不可逆的であった。HPMC の添加はゲルの破断強度を低くしたが,凹みを増大させた。ゲル化中での MP と HPMC の相互作用は認められなかったが,高温における混合ゲル中では HPMC ゲルが MP ゲルの空間を埋める形で何らかの相互作用をし,ゲル強度を高くすることが推定された。この結果から,HPMC にはすり身のゲル化向上作用があることが示された。
(文責 今野久仁彦)

72(3), 679-685 (2006)
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ミトコンドリア DNA の 16S rDNA 部分配列を用いた「輸入ちりめんじゃこ」の属レベルでの原料推定

赤崎哲也(関税中分),猿渡敏郎(東大海洋研),朝長洋祐(関税中分),佐藤宗衛(関税中分),渡邊良朗(東大海洋研)

 日本近隣の主要輸出国(4 カ国)からの「ちりめんじゃこ」について 16S rDNA 部分配列(606 塩基)を決定し,「ちりめんじゃこ」として使用される可能性のある魚種等(14 種)を含めた系統解析により原料推定を行った。ブートストラップ確率,および標準サンプルと各検体間の遺伝的距離から,今回調査した中国産及び韓国産の「ちりめんじゃこ」には,規制対象であるカタクチイワシ属の魚種が使用されていることが分かった。一方,他の東南アジア産のちりめんじゃこには,規制対象外のイワシ類が使用されていることを確認した。

72(3), 686-692 (2006)
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ニホンウナギの血漿コルチゾル濃度を測定するための薬剤および電気麻酔法の比較(短報)

千葉洋明,服部匡倫,山田英明,岩田宗彦(北里大水)

 ウナギ稚魚が受けるストレスを評価するために,血漿コルチゾル濃度を指標として 2 種類の薬剤(2-フェノキシエタノールおよび MS-222)と電気による麻酔法を比較した。薬剤麻酔では,血漿コルチゾル濃度は正常時よりも高値(25~200 ng/mL)であった。一方,電気麻酔(240 V AC)では,血漿コルチゾル濃度は 3.68 ng/mL であるが,採血終了までに要する時間が 4 分を超えると,血漿コルチゾル濃度は急上昇した。ウナギの血漿コルチゾル濃度の測定には,電気麻酔を用いて 3 分以内に採血を終了する必要が示された。

72(3), 693-695 (2006)
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東部太平洋産イエローレッグシュリンプ Farfantepenaeus californiensis 集団におけるアロザイム変異(短報)

Pindaro Diaz-Jaimes, Maria de Lourdes Barbosa-Saldana, Manuel Uribe-Alcocer (Autonoma 大)

 クルマエビ類,中でも東部太平洋産イエローレッグシュリンプは,メキシコの最も重要な水産資源である。本種の資源構造解析の基礎として,メキシコ北部カリフォルニア湾口の Sinaloa,メキシコ中部の Michoacan,同南部の Oaxaca それぞれの沿岸域から得た 53, 50,および 39 個体について,13 酵素のアロザイム分析を行った。その結果,Sinaloa 集団と Michoacan および Oaxaca 集団との間に有意な遺伝的分化が認められ,本種の集団にある程度の遺伝的構造のあることが示唆された。
(文責 西田 睦)

72(3), 696-698 (2006)
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マダイ TIMP-2 の cDNA クローニング(短報)

東畑 顕,徳田有希,山下倫明(水研セ中央水研),豊原治彦(京大院農)

 マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の内因性阻害タンパク質である tissue inhibitor of MMP-2(TIMP)の遺伝子をマダイ培養細胞よりクローン化した。本クローンの推定アミノ酸配列はヒラメ TIMP2a と最も高いアミノ酸同一率を示した。組換えマダイ TIMP-2 は組換えヒラメ MMP-9 の活性を阻害した。また,RT-PCR 解析によりマダイ TIMP-2 は調べた組織全てにおいて発現が認められた。

72(3), 699-701 (2006)
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ホタテガイ貝殻抽出成分は C3H10T1/2 脂肪細胞の脂肪分解を促進する(短報)

劉 云春,夏井直美,長谷川靖(室蘭工大応化)

 ホタテガイ貝殻は年間 30 万トン近くが廃棄されており,その有効利用が強く求められている。我々は,ホタテガイ貝殻の有効利用を目指し,貝殻中に含まれる生理活性物質の探求を行ってきた。本論文では,貝殻中に含まれる成分が分化させた C3H10T1/2 脂肪細胞中の脂肪分解にどのような影響を与えるか検討を行った。その結果,貝殻抽出液中の成分が脂肪分解量をおよそ 2 倍に亢進し,細胞中の脂肪量を減少していることを明らかにした。

72(3), 702-704 (2006)
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