Fisheries Science 掲載報文要旨

本州北東部沿岸域におけるツノナシオキアミの現存量および生産量

瀧 憲司(水研セ遠洋水研)

 1997 年 3 月~翌 2 月に,道東,三陸,常磐沿岸域のツノナシオキアミの現存量と生産量を調べた。現存量は,道東で夏~秋季,三陸・常磐で晩冬~初夏に高く,年間平均値は道東>三陸>常磐であった。年間総生産量(成長+脱皮+卵)は,道東と三陸で同様な値を示し,常磐より顕著に高かった。各海域とも成長生産量の割合が最も高く,その現存量比は既往のオキアミ類の中間的な値を示した。これは,夏~冬季に成体の成長が停滞した一方で,成長の速い幼生が三陸・常磐で周年出現し,道東でも秋季に顕著に多く出現したためと考えられた。

72(2), 221-232 (2006)
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水揚げの 2 段サンプリング調査により推定された有明海におけるクルマエビの放流効果

山口忠則,伊藤史郎(佐賀県有明セ),浜崎活幸,北田修一(海洋大)

 有明海佐賀県海域において源式網漁船の 2 段サンプリングによりクルマエビの放流効果を推定した。471,000 尾の人工種苗に右尾肢切除標識を施し放流した。操業漁船 80 隻から 4 隻を抽出した。無作為に抽出した 45 日の調査日には漁獲されたクルマエビをすべて買い上げ,尾肢の再生痕によって放流エビを識別した。のべ操業日数を把握するため,源式網漁業者すべてに電話による聞き取り調査を行った。7 月後期から 9 月前期の間に合計 286 尾の標識エビが再捕された。再捕尾数の推定値をもとにクルマエビ放流のあり方およびサンプリング計画について検討した。

72(2), 233-238 (2006)
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サクラマス幼魚の色覚と分光感度と遠近調節および視力

中野紀彦(北大院水),河邊 玲(長大水),山下成治,平石智徳,山本勝太郎(北大院水),梨本勝昭(日本データーサービス)

 サクラマス幼魚の養殖された陸封個体 34 尾(114~219 mm 標準体長:SL)より導出した 415 個の S 電位から,サクラマス幼魚は,色覚を有し,その分光感度特性は 522 nm に最大感度を示し,紫外線感覚を有することが確認された。継代飼育された 12 尾(99.0~142.5 mm SL)の遠近調節は最大で 0.79×SL の距離から無限遠まで可能であり,視軸は前方上向きと推定された。野生の銀毛個体 5 尾(100~118 mm SL)の網膜顕微鏡標本より錐体細胞の最大密度(276~345 cones/0.01 mm2)は網膜後部から下部に観察され,組織学的視力は 0.069~0.075 と求まった。

72(2), 239-249 (2006)
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光とサーカディアンリズムによるアユ自発摂餌活動の制御

天野勝文(北里大水),飯郷雅之(宇都宮大農),古川 清(東大院農),田畑満生(帝京科学大理工),山森邦夫(北里大水)

 アユ Plecoglossus altivelis altivelis を人工明暗条件下で個別飼育して自発摂餌活動を調べた。14 個体中 6 個体が自発摂餌を学習した。明暗条件下では明期に集中して自発摂餌活動が行われた。恒明条件下では自発摂餌活動に約 25 時間周期のサーカディアンリズムが観察された。以上より,アユの自発摂餌活動は明暗条件下では明期に制限され,恒明条件下ではサーカディアンリズムによって制御されることが示唆された。

72(2), 250-255 (2006)
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ヒラメ無眼側体色異常に及ぼすビタミン A パルミテートの影響

樽井史典(海洋大),芳賀 穣(COMB),太田健吾(水研セ伯方島),島 康洋(水研セ能登島),竹内俊郎(海洋大)

 ビタミン A パルミテート(VA-pal)をアルテミア培養水 1 L 当り,1, 2, 5,および 10 mg で強化したアルテミアを F-G 期ヒラメ仔魚(27~31 日令)に給餌した。その結果,VA-pal 5 および 10 mg 強化区で有意に多く黒化が出現した。またそれらの試験区に限り給餌したアルテミアからビタミン A 活性体のレチノイン酸が検出された。これらの結果から,VA-pal を 5 mg 以上の濃度で強化したアルテミアをヒラメ仔魚へ給餌するとレチノイン酸による黒化が引き起こされることが示唆された。

72(2), 256-262 (2006)
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ニジマスにおけるカドミウム蓄積抑制に及ぼす中国パセリ(CP)およびキトサン(CT)の影響

任 恵峰,賈 慧娟,金 承煥,舞田正志,佐藤秀一(海洋大),安井 港(静岡水試),遠藤英明,林 哲仁(海洋大)

 CP と CT を配合し,重金属を制御する機能性飼料開発を試みた。ニジマスに配合飼料+Cd(対照),対照区+2%CP,および対照区+3%CT の 3 種飼料を 12 週間給餌し,3 週間間隔で Cd 濃度を測定したが,肝臓では終了時に対照区と比べて CP 添加区で 20~30%,CT 添加区で 25~40% 低かった。筋肉では検出限界付近だった。

72(2), 263-269 (2006)
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マツカワ Verasper moseri 三倍体の養殖特性

森 立成(道中央水試),齊藤節雄(道栽漁総セ),岸岡稚青,荒井克俊(北大院水)

 マツカワ Verasper moseri 三倍体の特性を評価するため,性比,成熟,成長および魚体各部の体重比率を調べた。三倍体雌は産卵期でも卵巣は痕跡的で不妊であった。三倍体雄は極少量の異数性を示す精液を産出し,これらを二倍体卵に受精させたが孵化仔魚は得られなかったことから雄も不妊と判断した。個別飼育(23 ヶ月)および混合飼育(35 ヶ月)の結果,成長は雄で二倍体より劣り,雌で二倍体と同等かやや劣っていた。このようにマツカワでは,三倍体化に伴う雌雄の不妊性が明らかとなったが成長における養殖の有利性はみられなかった。

72(2), 270-277 (2006)
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西オーストラリア州のアワビ類漁業管理における複数資源利用者への資源配分と統合的管理:管理戦略に関する考察

ロナルド・ミッチェル,馬場 治(海洋大学)

 減少する漁業資源利用を巡る利用者間の対立が大きくなっている中での漁業資源政策は,資源の持続的利用と同時に複数資源利用者間での均等な資源配分の確保を目指すものである。オーストラリアの漁業管理は全ての資源利用者を管理に取り込むという制度を基本とする統合的漁業管理(IFM)の導入によって大きく変化してきた。西オーストラリア州のアワビ類漁業管理は,アワビ類資源利用をめぐる摩擦の高まりを受け,遊漁者によるアワビ類資源利用を考慮した管理体制を導入して,資源利用者間の摩擦を低減することを目指そうとするものである。

72(2), 278-288 (2006)
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東京湾におけるマコガレイの季節別分布,年齢,成長及び繁殖生態

久米 元,堀口敏宏,後藤晃宏,白石寛明,柴田康行,森田昌敏(国立環境研),清水 誠(東大農)

 東京湾におけるマコガレイの季節別分布,年齢,成長及び繁殖生態について明らかにした。分布には明瞭な季節変化がみとめられた。夏期に湾奥部を中心に形成される貧酸素水塊の影響を受け,分布は南部に限定されており,それ以外の季節には湾全域に拡大していた。耳石をもとに年齢査定を行った結果,最高年齢は雄 5 歳,雌 6 歳と推定され,各年齢の逆算標準体長は雌の方が大きかった。雌雄の成長は,von Bertalanffy の成長式によって表された。GSI 及び組織学的観察の結果をもとに,産卵盛期は 12~1 月で,成熟開始年齢は雌雄ともに 1 歳と推定された。

72(2), 289-298 (2006)
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モクズガニ Eriocheir japonica のミトコンドリア DNA 変異性と集団構造

山崎いづみ,吉崎悟朗,横田賢史,Carlos A. Strussmann,渡邊精一(海洋大)

 日本におけるモクズガニの集団構造解明のために,日本全域 19 箇所から収集した 666 個体の標本について mtDNA COI 領域の PCR-RFLP 分析を行った。クラスター分析によって見出された本州・沖縄・小笠原の 3 つの地理的グループはそれぞれに特徴的なハプロタイプを有しており,グループ間の分化がモクズガニ属カニ類種間に相当していると考えられた。また,沖縄および小笠原集団内の遺伝的多様度が本州に比べて非常に低かったことから,遺伝的に明確に異なるこれらのグループは日本列島の地理的配置によって遺伝的交流が制限された状態であることを顕著に反映していると思われた。

72(2), 299-309 (2006)
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閉鎖式循環水槽におけるヒラメ Paralichthys olivaceus の成長,ストレス耐性及び非特異的免疫系に対するプロバイオティクスの効果

田岡洋介(鹿大連農),前田広人(鹿大水),Jae-Yoon Jo, Min-Jee Jeon, Sungchul C. Bal, Won-Jae Lee(釜慶大),弓削寿哉(DSM),越塩俊介(鹿大水)

 プロバイオティクスがヒラメの成長,ストレス耐性及び非特異的免疫系に及ぼす効果を検証するために,市販プロバイオティクスを用いて閉鎖式循環水槽における飼育実験を行った。プロバイオティクスは試験飼料に加えるか飼育水中に投与した。飼料への添加により飼育水質への影響が確認された。プロバイオティクスの投与はヒラメの成長,ストレス及び病原菌に対する耐性を向上させることが確認された。また経口投与よりも飼育水投与の方がより効果的であることも示唆された。

72(2), 310-321 (2006)
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種をまとめて記録したまぐろはえ縄操業記録からサメの種別資源指数を得るための抽出法

中野秀樹(水産庁),シェリー・クラーク(水研セ遠洋水研)

 サメをサメ類として記録し,未記載も多い漁獲成績報告書からサメの記載率(全操業日に対するサメ漁獲日の割合)で種別に抽出し,CPUE を推定する方法を検証した。検証は 1994 年以降の種別漁獲資料とオブザーバ資料を使用し,解析的モデルによって行った。記載率 80% 以上の資料から得られたヨシキリザメ CPUE は,記載漏れによる漁獲ゼロを避け,オブザーバ資料から得られた CPUE とよく一致した。40% 以下の低い記載率で層化した資料から得られたアオザメの CPUE は,オブザーバが観察した CPUE とよく一致した。

72(2), 322-332 (2006)
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幼魚を対象とした曳き縄漁業データからのクロマグロ加入量指数の推定

山田陽巳(水研セ遠洋水研),高木信夫(長崎水試),西村大介(対馬水産業普及指導セ)

 長崎県対馬,五島の各市場から収集した曳き縄漁業による水揚伝票を用いて 1980~2003 年漁期(9 月から翌年 4 月まで)のクロマグロ加入量指数を推定した。CPUE(0 才魚の漁獲量/隻・日数)を,漁期年のほか季節,水揚地域の効果を考慮して一般化線形法により標準化した。標準化された CPUE には大きな年変動が認められた。CPUE が高く推定された年は VPA で推定された 0 才魚の豊度が高かった年や太平洋側での 0 才魚の豊漁年とも一致したことから,今回の標準化した CPUE は加入量指数として適当であると考えられた。

72(2), 333-341 (2006)
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分子生物学的手法を用いたイセエビフィロソーマ幼生の餌生物同定

鈴木伸明(水研セ遠洋水研),村上恵祐(水研セ南伊豆),竹山春子(東京農工大),張 成年(水研セ中央水研)

 フィロソーマ幼生の中腸腺から抽出した DNA を用いて増幅した 18S rDNA 中央領域をクローニング後,幼生と異なる制限パターンを示すクローンを選別した。解析した塩基配列の相同性検索と系統解析による真核生物種の同定を試みた。イガイ又はアルテミアで飼育したイセエビ幼生から,これら餌生物の DNA が検出できた。大西洋と太平洋で採取したイセエビ属幼生 3 個体とセミエビ科幼生 2 個体に本法を応用した結果,両グループから刺胞動物と尾索動物の DNA が検出され,これらが自然界で餌生物として利用されていることが示唆された。

72(2), 342-349 (2006)
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Heterosigma akashiwo の増殖にともなう細胞内ポリアミン含量の変化

西堀尚良(四国短大),藤原伸介(中央農総研セ),西島敏隆(高知大農)

 遊離および 2 種の結合体のポリアミン(conjugated and bound)のうち,遊離スペルミジンが Heterosigma akashiwo の主要なポリアミンであった。細胞あたりの遊離スペルミジン含量は対数増殖期に増殖速度の増大とともに大きく増加し,本種の最大増殖量はポリアミン合成阻害剤である methylglyoxal bis-(guanylhydrazone) (MGBG) の添加で抑制された。これらのことから,ポリアミン,特にスペルミジンは H. akashiwo の増殖に重要な役割を果たすと思われた。これらの結果は同じ綱に属する Chattonella antiqua と同様であった。

72(2), 350-355 (2006)
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マダイおよびクロダイにおける紫外線に対する耐性と回避行動の個体発生

福西悠一,益田玲爾,山下 洋(京大フィールド研セ)

 マダイおよびクロダイにおける UV-B に対する耐性と回避行動の個体発生に伴う変化を調べた。ほとんどの日齢(13~46 日齢)でクロダイはマダイよりも紫外線に対する耐性が高かった。またクロダイは 37 および 49 日齢になると UV-B 照射(1.1 W/m2)から回避したが,マダイは同じ日齢でも UV-B 照射から回避しなかった。以上の結果は,クロダイがマダイよりも紫外線の強い浅い海域により適応していることを反映していると考えられた。

72(2), 356-363 (2006)
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胚発生期の酸素欠乏によるカンパチ脊椎骨椎体欠損の誘導

澤田好史,服部 学(近大水研),射手矢清秀(近大農),都木靖彰,浦 和寛(北大院水),瀬岡 学,家戸敬太郎,倉田道雄,宮武弘文,片山茂和,熊井英水(近大水研)

 ブリ類人工種苗の脊椎骨異常の原因究明のため,カンパチを用い,胚発生期の酸素欠乏による脊椎骨椎体欠損の誘導を試みた。7 体節期の胚では DO 12.5% の培養水へ 0.5 時間以上暴露すると,孵化仔魚に体節分節異常が誘導された。また,嚢胚,1~2 体節,10 体節,15 体節,心臓搏動期の胚を DO 12.5% の培養水へ 2 時間暴露した結果,体節形成期でのみ体節分節異常が誘導され,育成した稚魚は椎体欠損となった。これらより体節形成期での酸素欠乏がカンパチ人工種苗椎体欠損の原因の 1 つである可能性が示された。

72(2), 364-372 (2006)
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台湾南西部沿岸におけるタチウオの食性

邸 萬敦,陳 志遠,王 啓銘(高雄海洋科技大)

 台湾南西部沿岸において 2002 年 3 月から翌年 3 月にかけて 1,570 尾の標本を採集し,近年漁獲の減少が著しいタチウオの食性に及ぼす漁獲の影響を検討した。エビ類やイカ類を捕食していたが,主な餌は魚類で,特にイワハダカは夏期を除いて周年主要な餌であった。共食いは認められず,摂餌活動に昼夜の差は無かったが,主にイワハダカとアキアミ類は日中,サイウオ類,イワハダカ,ミズスルルは夜間に捕食された。体サイズの増加とともに摂餌は活発になり,餌の種数も増加した。産卵期の 2~6 月には,他の月より著しく多く摂餌した。
(文責 北田修一)

72(2), 373-381 (2006)
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三陸沿岸域に生息するアユ Plecoglossus altivelis とシロウオ Leucopsarion petersi の初期生活期における成育場利用の比較

新井崇臣(東大海洋研)

 アユとシロウオの耳石 Sr/Ca 比解析から回遊履歴を推定した。アユの耳石 Sr/Ca 比は,耳石中心部分では低く(3.2×10-3),その後 Sr/Ca 比の急激な増加がみられた(9.2×10-3)。一方,シロウオの耳石 Sr/Ca 比は,中心部分から縁辺部分までほぼ一定であった(9.0~9.2×10-3)。アユは両側回遊型のパタンを示したが,シロウオは遡河回遊型のパタンを示さなかった。以上から,三陸沿岸域に生息するアユは孵化後淡水環境を経て降海するが,シロウオは生活史を通じて淡水環境を利用しないと考えられた。

72(2), 382-387 (2006)
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ホタテガイ貝殻抽出液は紫外線傷害を与えたラット皮膚角化層の治癒を促進する

劉 云春,部田 茜,長谷川靖(室蘭工大応用化学)

 我々は以前,皮膚角化細胞への紫外線傷害に対してホタテガイ貝殻抽出液が保護効果を有することを in vitro 評価系を用い明らかにした。この作用は,貝殻抽出液中に含まれる抗酸化作用および角化細胞に対する増殖促進作用によるものと考えられた。本研究ではラット皮膚を用いホタテガイ貝殻抽出液の効果について検討した。貝殻抽出液は皮膚角化層のターンオーバー速度を亢進し,紫外線によって生じた傷害の治癒速度を顕著に亢進することを明らかにした。組織切片からも皮膚角化層の回復が顕著に促進されていることが明らかになった。

72(2), 388-392 (2006)
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破断試験および応力緩和試験に主成分分析を応用したかまぼこの物性評価法の有効性

萩原智和(近大院農),安藤正史,川崎賢一,牧之段保夫,塚正泰之(近大農)

 破断試験および応力緩和試験により全国の市販板付きかまぼこ 49 品の物性を測定した。主成分分析を両試験の物性項目に適用し,それぞれ第二主成分までで 90% 以上の累積寄与率が得られた。新しい合成変数を用いてかまぼこ間の比較を行ったところ,地域ごとに特異的な分布を示した。かまぼこの相対的な位置関係は両試験で違いがあった。主成分分析を応用した物性評価は多くの測定項目を集約できるために有効な方法であり,より多くのかまぼこを測定することで地域特性を解明できる。

72(2), 393-401 (2006)
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マガキ GRP 78 遺伝子の cDNA クローニングと熱ショックに応答した発現誘導

横山芳博(福井県大生物資源),橋本寿史(名大生物セ),久保田賢(高知大院黒潮圏),栗山 昭(東京電機大理工),小椋洋一,水田尚志,吉中禮二(福井県大生物資源),豊原治彦(京大院農)

 マガキ 78-kDa Glucose Regulated Protein (GRP 78)の熱ショック応答機構への関与を明らかにするために,cDNA をクローニングするとともにその mRNA 発現の熱ショック応答性を検討した。マガキ GRP 78 は 661 アミノ酸からなり,N 末端に膜通過シグナル,N 末端側に ATPase 活性部位,C 末端側に標的ペプチド鎖に対する結合部位,C 末端に小胞体移行シグナルである KDEL (-Lys-Asp-Glu-Leu)配列を有することが示された。ノーザンブロット分析より,マガキ GRP 78 mRNA は熱ショックに応答して発現誘導されることが明らかとなった。

72(2), 402-409 (2006)
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様々な脱皮及び成熟段階の淡水ガニ Oziotelphusa senex senex から単離した大顎器官の in vitro におけるファルネセン酸メチルの分泌

G. Purna Chandra Nagaraju, P. Ramachandra Reddy,P. Sreenivasula Reddy (Sri Venkateswara Univ.)

 甲殻類の大顎がファルネセン酸メチルを分泌する可能性を検証するために,前脱皮期と卵黄合成期における淡水ガニ Oziotelphusa senex senex から大顎を取り出し,その分泌を調べた。その結果,両期において多量のファルネセン酸メチル分泌が検出されたことから,甲殻類の脱皮と成熟過程は,エクジソンやサイナス腺ペプチドのほかにファルネセン酸メチルによって制御されていることが示唆された。 (文責 豊原治彦)

72(2), 410-414 (2006)
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ノコギリガザミ眼柄からの血糖上昇活性を有する脱皮抑制ホルモン様ペプチドの精製

P. Sreenivasula Reddy, P. Ramachandra Reddy (Sri Venkateswara Univ.)

 ノコギリガザミの眼柄から高速液体クロマトグラフィーにより,血糖上昇活性を有する脱皮抑制ホルモン様ペプチドを精製した。このペプチドは,アメリカンロブスターの脱皮抑制ホルモンに対する抗体と交叉したことから,カニとロブスターの脱皮抑制ホルモンの構造類似性が示唆された。精製された 3 種類のペプチドのうち 2 種類は,顕著な血糖上昇活性を示した。 (文責 豊原治彦)

72(2), 415-420 (2006)
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凍結貯蔵中におけるエソすり身のゲル形成能と筋原繊維タンパク質の変性に及ぼすエビ頭部のタンパク質酵素分解物の影響

ルタナポーンバレサクル・ヤオアラックス,ソムジット・キンデュアン(長大院生産),大塚明憲,原 研治,長富 潔(長大水),大迫一史(長崎県水試),コンパン・オラワン(タイ水産局),野崎征宣(長大水)

 凍結貯蔵中(-25°C)におけるエソすり身の品質変化に及ぼすエビ頭部酵素分解物(SHPH)の影響を検討するため,ゲル形成能,白色度,Ca-ATPase 活性および不凍水量を測定した。凍結 180 日間を通して,SHPH 添加すり身のゲル形成能と Ca-ATPase 活性は,SHPH の原料エビの種類には関係なく,無添加より高く,ゲル形成能と Ca-ATPase 活性の間には,高い相関が認められた。また,SHPH 添加すり身の不凍水量も無添加より高かった。これらのことから,SHPH が冷凍エソすり身中の筋原繊維タンパク質を安定化して,ゲル形成能の低下を抑制することが分かった。

72(2), 421-428 (2006)
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魚類の DNA 含有量について

B. Horskotte,H. Rehbein(連邦栄養食品研究センター,ドイツ)

 北大西洋産魚類 31 種の DNA 含有量を決定した。1 種毎に 10 標本を用い,魚全体をすり潰した。すり潰した試料は,核酸分解酵素を不活化するために熱処理し,解析まで凍結保存した。DNA 含有量の測定は蛍光色素ヘキスト 33258 を用いた。DNA 含有量は乾燥重量で 570 ng から 3500 ng/1 グラム乾燥試料であった。同一魚種内における結果の違いは平均値の 25% 以内で,解析したすべての種間での違いは 30% 以内であった。 (文責 廣野育生)

72(2), 429-436 (2006)
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コイ由来 Zn 結合性膜タンパク質の結合特性

Ming-Shyong Wang, Sen-Shyong Jeng(台湾海洋大)

 コイ 43 kDa Zn 結合性膜タンパク質をリポソームに導入し,65Zn との結合特性及び,65Zn 標識タンパク質-リポソームとラミニンの結合性を調べた。Zn の最大結合部位数(Nmax)は 76.7 pmol/μg タンパク質(1 分子当たり約 3 mol Zm2+)であり,平衡解離定数(Kd)は 0.19 μM であった。2 価陽イオンのうち Co2+ のみに Zn イオンの結合に対する阻害がみられた。標識タンパク質-リポソームは,ラミニンに Nmax 1.1 pmol/μg, Kd 4.79 μM で特異的に結合し,RGD 配列をもったペプチドで特異的に阻害を受けた。
(文責 村本光二)

72(2), 437-445 (2006)
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日本列島太平洋側におけるコウモリダコ Vampyroteuthis infernalis Chun の出現および北海道沖の採集最北記録(短報)

John R. Bower(北大フィールド科セ),窪寺恒己,Dhugal J. Lindsay(国立博),志賀直信,志村紗耶,佐野史和,堀井直人,神谷民夫,館山未生(北大院水)

 本報告は北海道沖で採集したコウモリダコ Vampyroteuthis infernalis Chun の記載である。2004 年 5 月に外套腹長 14 mm の標本を襟裳岬沖の 556~714 m の水深で採集した。コウモリダコは国立科学博物館と海洋研究開発機構により 1977 年~2004 年の期間に日本太平洋海域から 23 個体の出現が記録されてきたが,この標本は採集最北記録となる。

72(2), 446-448 (2006)
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炭素・窒素安定同位体比分析によって調べられた日本海若狭湾砂浜域におけるヒラメ稚魚 Paralichthys olivaceus の栄養段階の変化(短報)

山口浩志(稚内水試),高井則之(日大生物資源),上野正博(京大フィールド科セ),林 勇夫(京大院農)

 若狭湾の砂浜浅海域において,ヒラメ稚魚と他の生物との食物関係を明らかにするため,炭素・窒素安定同位体比を分析した。一次生産者の δ13C 値は,懸濁態有機物と底生藻類で約 4~5‰ の差があった。また,一次消費者の δ13C 値は,カイアシ類,アミ類,埋在性ベントスの順に高くなった。ヒラメ稚魚は成長に伴って δ13C 値が低く,δ15N 値が高くなった。この現象は,ヒラメ稚魚の餌起源が初期には底生藻類由来であったが,成長に伴い食性が変化することによって植物プランクトン由来に変化したことを反映したためと考えられた。

72(2), 449-451 (2006)
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クルマエビで見い出された新規クチクラタンパク質(短報)

渡辺俊樹,P. Persson,遠藤博寿,福田伊佐央(東大海洋研),古川 清,河野迪子(東大院農)

 クルマエビの尾扇上皮細胞で脱皮後期に強く発現する DD1 mRNA を同定し,コードされるタンパク質の解析を行なった。ウェスタンブロット解析により,DD1 タンパク質はクチクラに存在することが示された。DD1 と既知の節足動物のクチクラタンパク質との間にアミノ酸配列の類似は見られなかった。

72(2), 452-454 (2006)
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トラフグ体表粘液レクチンのバクテリア凝集活性(短報)

筒井繁行(東大水実),西川栄徳,間野信宏,廣瀬一美(日大),田角聡志,末武弘章,鈴木 譲(東大水実)

 トラフグ皮膚および飼育水から単離したバクテリア 120 株に対する,トラフグ体表粘液レクチンの凝集活性を調べた。本レクチンは皮膚由来 101 株中 5 株(5 %),飼育水由来 19 株中 6 株(32%)に対して凝集活性を示した。飼育水由来株に対する凝集率が皮膚由来株のそれに比べて高かったことから,本レクチンが,トラフグ体表において特定のバクテリアを凝集し,環境水中へ排除していることが示唆された。

72(2), 455-457 (2006)
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