日本水産学会誌掲載報分要旨

暖海性コンブ目藻類アントクメのパンチ法および光合成法による純生産量の比較

駒澤一朗(都島しょ総セ八丈),
坂西芳彦(水産機構日水研),田中次郎(海洋大)

 伊豆大島でパンチ法および光合成法の両手法によりアントクメ群落の純生産量を推定した。パンチ法による純生産量は3月から7月にかけて光合成法による値を上回った。一方で,8月から9月にかけては光環境の改善に伴い,光合成法の値がパンチ法の値を上回った。理論的には光合成法による純生産量はパンチ法の値を常に上回るはずであるが,本研究の結果はそれを支持しなかった。このことから,単状の葉状部を持つコンブ類については,生長段階ごとの葉群構造と群落内光環境との関係を再考する必要性が示唆された。

日水誌,83 (3), 349-360 (2017)

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北海道北部日本海沿岸のたこ箱漁場におけるミズダコの鉛直分布の季節変化

佐野 稔(稚内水試),梅田有宏(渡島北水指),
佐々木隆浩(渡島水指)

 2006-2011年に北海道北部日本海沿岸のたこ箱漁場において,漁業者の操業日誌と漁獲物調査からミズダコの鉛直分布の季節変化と生物学的特徴を把握した。漁獲水深は8-9月に50m以深,10-12月に40m以浅,1-2月には30-60mとなり,4-5月には30m以浅,6-7月には20-50mとなった。漁獲個体の大半は体重2.5-10kgの未成熟であり,主にユムシ,カニ類,魚類,タコ類を摂食していた。これらの結果から,本海域では年2回未成熟個体による季節的な深浅移動があると思われた。

日水誌,83 (3), 361-366 (2017)

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タンパク質脱リン酸化酵素2A(PP2A)を利用した下痢性貝毒簡易検査法の評価

池原 強,木下 翼,黒川純花(水産機構水大校),
中島志穂子(福岡大),前川公彦(サロマ湖養殖組合),
大城直雅(国立衛研),安元 健(日本食品分析セ)

 バキュロウイルス―昆虫細胞発現系を利用して生産した高純度で酵素活性が安定したタンパク質脱リン酸化酵素2A(PP2A)を使用した下痢性貝毒簡易検査法(PP2A阻害法)について,脂質含量の異なるホタテガイ可食部を試料として評価を行った。検出限界,定量限界は,それぞれ0.0262mg/kg, 0.0470mg/kgであった。試料の脂質含量の違いは定量結果に影響を与えないことも示された。PP2A阻害法は高感度・再現性に優れた迅速・簡便な検査法であり,スクリーニング法として有効であると考えられる。

日水誌,83 (3), 367-372 (2017)

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北海道沿岸各海域におけるエゾアワビの資源量変動に及ぼす気候変動の影響

干川 裕(道中央水試),河村知彦(東大大気海洋研)

 北海道沿岸各海域におけるエゾアワビの資源量変動に及ぼす気候変動の影響を検討した。エゾアワビ漁獲量の変動傾向には,アリューシャン低気圧指数との間に日本海沿岸北部で負の相関関係が,日本海沿岸南部で正の相関関係が認められた。また,北極振動指数との間に日本海沿岸南部と津軽海峡西部で負の相関関係が認められた。気候変動に伴う冬季水温の変動が,当歳貝の生残率,および親貝の産卵量に影響を及ぼす餌料海藻の生産量を介して,エゾアワビの資源量変動に場所によって異なる影響を及ぼしたと推察される。

日水誌,83 (3), 373-384 (2017)

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大黒神島および周防大島沿岸における海底湧水による物質負荷

山本民次,中西夏希,竹田一彦(広大院生物圏科),
友澤裕介(広大院総合科)

 大黒神島および周防大島における海底湧水について調査した。溶存物質濃度はいずれも周辺海域底層水に比べて湧水中で高かった。湧水面積は両者とも同程度と見積もられたが,湧水速度(量)は周防大島のほうが2.5倍大きかった。また,栄養塩等各種物質の湧出量は周防大島のほうが2ケタ程度多かった。レッドフィールド比と比較すると,大黒神島ではN, Si過剰,Fe不足であり,周防大島ではSi, Fe過剰,N不足となった。これらの湧水は,両島周辺の生態系に少なからず影響を与えているものと考えられる。

日水誌,83 (3), 385-391 (2017)

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ゴマサバの蓄養可能期間の検討

保 聖子,折田和三(鹿児島水技セ),
木村郁夫(鹿大連)

 鹿児島県では,まき網で漁獲したゴマサバの一部を数日間絶食蓄養してストレスを回復させた後即殺し,死後硬直前の状態での刺身商品の流通が行われている。本研究では,適正な蓄養期間を明らかにするために,肥満度及び血漿と筋肉の各成分や筋肉物性を指標として検討した。蓄養期間中,筋肉脂質量は変化しないが,筋肉タンパク質量は減少した。筋肉圧縮強度は蓄養21日まで維持した。蓄養15日まで肥満度は変化せず,それ以降で有意に減少した。無給餌でも15日程度の蓄養であれば,刺身商材としての価値を維持できることを確認した。

日水誌,83 (3), 392-399 (2017)

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サクラマス自然分布域におけるサツキマスによる遺伝的撹乱(短報)

北西 滋,向井貴彦(岐阜大地域),
山本俊昭(日獣大獣医),田子泰彦(富山水研),
尾田昌紀(鳥取県庁)

 サクラマス自然分布域におけるサツキマスによる遺伝的撹乱の有無を調べるため,両亜種の在来分布域4道県(サクラマス:北海道,富山県,岐阜県,鳥取県;サツキマス:岐阜県)の個体を対象に,マイクロサテライトDNA解析をおこなった。帰属性解析をおこなった結果,神通川水系上流域(岐阜県)と,甲川および陸上川(鳥取県)において遺伝的撹乱が認められた。

日水誌,83 (3), 400-402 (2017)

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