日本水産学会誌掲載報文要旨

京都府沖合における底曳網によるズワイガニ水ガニの入網数とリリース直後の生残率

山崎 淳,宮嶋俊明,藤原邦浩(京都海洋セ)

 未成熟で市場価値の低い水ガニのズワイガニ漁期中の入網数とリリース直後の生残率を推定した。底曳網で漁獲された水ガニを篭に入れ,海底に約 6 時間浸漬した後に再び回収し生死を判断した。京都府沖合での水ガニ平均入網数は,2006〜08 年の標本船日誌から 168,400 個体と推定され,成熟で市場価値の高い雄ガニの約 1.7 倍であった。生残率は甲幅 90〜109 mm では 14.8〜95.9%, 110〜129 mm では 5.0〜89.8%, 130 mm 以上では 0〜62.5% と推定された。水ガニ漁期(1〜3 月)に水ガニをリリースした場合,平均生残率は 83.6% と高く,雄ガニの増加に寄与すると考えられた。

日水誌,77(3), 372-380 (2011)

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水温一定の水槽を用いた養生によるアコヤガイの脱核低減法

渥美貴史(三重水研),
石川 卓,井上誠章,石橋 亮(三重大院生資),
青木秀夫,西川久代,神谷直明(三重水研),
古丸 明(三重大院生資)

 水温を一定に保った水槽を用いて養生を行った際のアコヤガイの脱核低減効果を明らかにすることを目的とした。挿核手術直後の貝を,水温を一定に保った水槽と水温を 2-4℃ 上下変動させた水槽(両区とも濾過海水 25 L 入り水槽,止水条件)で 14 日間養生後,脱核率を比較した。その結果,水温を変動させた水槽の脱核率は有意に高かった。また,水温を一定に保った循環濾過水槽と海上で養生したものを比較した結果,後者の脱核率は有意に高く,水温を一定に保った循環濾過水槽を用いた養生は脱核率を低く抑えることが可能と判断された。

日水誌,77(3), 381-386 (2011)

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琵琶湖沿岸のヨシ帯におけるニゴロブナ Carassius auratus grandoculis の初期生態とその環境への適応

藤原公一(滋賀水試,海洋大),
臼杵崇広,根本守仁(滋賀水試),
北田修一(海洋大)

 ニゴロブナの繁殖場の造成要件や種苗放流適地を知るため,本種の初期生態を調査した。琵琶湖沿岸の発達したヨシ帯に放流された本種仔魚は,その岸辺付近に蝟集し,標準体長 16 mm まで成長して稚魚期に達するとヨシ帯を離れ始めた。ヨシ帯の岸辺付近は,餌となる動物プランクトンは多いが溶存酸素が著しく少なかった。本種仔魚は貧酸素耐性が高いうえ体比重が小さく,酸素の溶け込みが見込める水面に浮上することでその環境に適応していると考えられた。この水域は本種仔魚の摂餌場や捕食者からの退避地として機能していると思われた。

日水誌,77(3), 387-401 (2011)

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凍結含浸処理した魚介類の軟化と筋肉タンパク質の変化

永井崇裕,福馬敬紘,中津沙弥香,
柴田賢哉,坂本宏司(広島食工技セ)

 凍結含浸法による魚介類の軟化方法について,マダラおよびスルメイカを用いて検討した。凍結解凍した試料にプロテアーゼ製剤を減圧下で含浸し,一定時間酵素反応させることで,試料の形状を保持したまま,介護食レベルとなる 5×104 N/m2 以下の硬さにまで軟化させることが可能であった。酵素反応後の試料は 40〜60℃ の加熱で大幅に軟化したが,加熱に伴う筋肉タンパク質の変化が電気泳動により認められた。また,軟化したタラの遊離アミノ酸量は処理前と比較して増加したが,タンパク質構成アミノ酸の増加が顕著であった。

日水誌,77(3), 402-408 (2011)

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大腸菌の漁港内分布に及ぼす漁港形状の影響

横山 純(函館港湾事務所),
笠井久会,古屋温美,吉水 守(北大院水)

 漁港における港内海水の大腸菌および大腸菌群の分布に,漁港の形状が与える影響について検討した。北海道内の 36 漁港において全ての漁港内海水から大腸菌群が,30 漁港から大腸菌が分離され,河川が付近にある漁港では特に高い値を示す傾向がみられた。漁港内で分離される大腸菌および大腸菌群は河川水の流入と関係があることが示された。漁港の入り口と河川の位置との関係を中心に 3 漁港を調べたところ,漁港の入り口が河川のある方向を向いている場合に,分離菌数が多くなる傾向が明らかとなった。

日水誌,77(3), 409-415 (2011)

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飼育環境下のニホンウナギ Anguilla japonica 仔魚は最速で 131 日齢までに変態しうる(短報)

増田賢嗣,今泉 均,小田憲太朗,橋本 博,
照屋和久,薄 浩則(水研セ志布志セ)

 ニホンウナギの仔魚飼育では,ふ化からシラスウナギへの変態に要する期間が長く,しかもその個体差が非常に大きい。そのため飼育には多大な労力を必要とし,効率的な生産の妨げとなっている。本研究では飼育水温を飼育前期で 25℃,後期で 27.5℃ まで高めたうえ給餌間隔を短縮し,さらに飼育密度を適切に調整することにより,これま-での最短記録より 20 日以上短い飼育期間である 131 日齢からシラスウナギへ変態する個体を出現させることに成功した。

日水誌,77(3), 416-418 (2011)

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