Fisheries Science 掲載報文要旨

海産物中のビタミンB12化合物:日本の伝統的な副産物および発酵食品に焦点を当てた最新動向(総説)

渡邉文雄,小関喬平,美藤友博
 ビタミンB12はヒトの健康維持に不可欠な必須微量栄養素であり,魚介類はその主要かつ豊富な供給源の一つとして位置づけられる。本総説は,魚卵や甲殻類中腸腺といった伝統的水産副産物ならびに発酵水産食品に含有されるビタミンB12の含量および化学形態に関する近年の研究知見を総括する。液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析法を含む精密分析手法により,いくら,カニ味噌,塩辛等の食品中において,ビタミンB12が高濃度で存在し,不活性型コリノイド類の検出は極めて限定的であることが明らかにされている。これらの食品は日本の食文化に深く根差していることから,ビタミンB12欠乏症の予防・改善に資する可能性を有すると同時に,持続可能な食資源利用を通じて食品廃棄物削減に寄与し得る点においても重要な意義を有すると考えられる。

92(3), 507−516 (2026)
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中東部太平洋におけるメバチを対象としたまぐろはえ縄漁業における釣獲と取り込み時の生残に及ぼす浸漬時間の影響

横田耕介,上原崇敬,岡村 寛,三橋廷央
 遠洋まぐろはえ縄における浮魚類の釣獲率および取り込み時の生残率に及ぼす浸漬時間の影響について,メバチを対象とした595回の操業データを用いてモデル解析を行った。魚種によって傾向(増加,減少,一定)が異なった。まぐろ類では浸漬時間の増加と共に釣獲率は増加し,特にメバチでは増加が非線形的な特徴を示した。さめ類では,浸漬時間の増加とともに釣獲率は増加したが,生残率は高い傾向だった。本報では,遠洋まぐろはえ縄漁業における操業効率化および収益性改善の可能性について,特に浸漬時間の影響に焦点を当てて論じる。

92(3), 517−535 (2026)
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東シナ海および黄海における底魚類群集構造の長期的変化

増渕隆仁,酒井 猛,依田真里,五味伸太郎,井関智明,大下誠二
 日本の底びき網漁業データを用いて東シナ海・黄海の底魚類群集を解析し,5つの群集を特定した。1980−90年代にカレイ類・スルメイカやニベ科・ハモの分布域が縮小し,漁獲対象がタチウオ・コウイカ・ケンサキイカへ移行した。国際漁業協定により日本漁場は縮小し,現在はキダイ・マダイが主要対象である。今後は中国・韓国・日本の3か国データを統合した包括的海洋生態系評価が必要である。

92(3), 537−554 (2026)
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琵琶湖に放流後の養殖ウナギの高成長と銀化実態性

高作圭汰,花木基子,加澤 渚,
小田康平,石崎大介,田辺祥子,
光永 靖,小林 徹,亀甲武志
 ダムの設置により天然ウナギの遡上が困難となり,放流された養殖ウナギが優占している琵琶湖において,放流後のウナギの成長および銀化について評価した。放流種苗と漁獲個体(黄ウナギ)の体サイズや性別を調べたところ,小型の放流種苗が湖内でメスに分化し,他水域の天然ウナギと比較して成長速度が高い傾向にあった。また,漁獲された黄ウナギの一部は,腹部が暗褐色で卵巣の成熟段階が油球形成後期以降であり,銀ウナギの特徴を示した。これらの結果は,ニホンウナギの放流場所として湖沼が適している可能性を示しており,今後の放流戦略を考える上での指標となる可能性がある。

92(3), 555−570 (2026)
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オオツノヒラムシPlanocera multitentaculataの繁殖生態および毒素動態に及ぼす水温の影響

尾山 輝,岡部泰基,周防 玲,
伊藤正晟,米澤 遼,小木曽正造,
松原 創,鈴木信雄,浅川修一,糸井史朗
 高濃度のテトロドトキシン(TTX)を保有するオオツノヒラムシPlanocera multitentaculataは,他生物へのTTX供給源とされるが,その生態には不明な点が多い。本研究では,産卵行動と胚発生への温度影響を調査した。その結果,産卵は新月・満月付近の時期に活発化した。孵化率は16℃以上で100%だが12℃では0%であった。また,卵板のTTX濃度は高温域で顕著に高かった。これらの知見は,温暖化による海水温上昇が本種の繁殖成功と分布拡大を促し,食物連鎖を通じた他生物の毒化を加速させる可能性を示唆している。

92(3), 571−579 (2026)
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干潟底生動物における餌料源解析のための脂肪酸炭素同位体分析

丸尾知佳子,藤林 恵,西村 修
 干潟生態系における二枚貝や多毛類は物質循環の重要な担い手であるが,従来のバルク炭素安定同位体(δ13C)分析では餌料源が複数存在する場合に解析が困難になる。本研究では脂肪酸炭素安定同位体分析(Fatty Acid Compound-Specific Isotope Analysis; FA-CSIA)を用い,必須脂肪酸レベルでのδ13C値を解析した。その結果,二枚貝は懸濁態有機物を,多毛類は堆積有機物を主な餌料源とすることが示され,干潟の複雑な食物網解析におけるFA-CSIAの有効性が示された。

92(3), 581−593 (2026)
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日本の太平洋沿岸におけるチゴダラPhysiculus japonicusの卵仔魚の分布:東北の「どんこ」はどこで生まれたか?

石黒智大,渡井幹夫
 2020年から2024年にかけて日本の太平洋沿岸で実施された卵仔魚調査に基づき,チゴダラの卵仔魚の分布を明らかにした。本種の卵と前期仔魚は,2−3月を中心に1−4月に確認された。発生初期の卵は,伊豆諸島周辺から房総沿岸にかけて多く出現したことから,当域が本種の主産卵場と考えられた。発生後期の卵や前期仔魚は,北方の鹿島灘から仙台湾沖までのより北方海域で確認されたことから,チゴダラの卵は前記の産卵場で発生後に,発育とともに東北太平洋沿岸へと輸送されていることが推測された。

92(3), 595−608 (2026)
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発生過程におけるゼブラフィッシュの皮膚における微生物叢多様性の変化

Camilo Valdivieso, Javiera Aburto, Violeta Kallens, Diego Rojas, Macarena Varas, Francisco P. Cha´vez, Miguel L. Allende
 本研究はゼブラフィッシュを対象に,異なる発生段階における皮膚微生物叢の違いを解明し,環境水と皮膚の境界面における微生物群集の動態を明らかにすることを目的とした。微生物叢の多様性解析により,飼育環境水中における多様度が最も高く,成魚の皮膚では多様度が低いことが示された。皮膚における微生物叢の構成と多様度は,ゼブラフィッシュの発育過程を通じて変化することが明らかになった。さらに,皮膚由来の分離菌株は環境水由来のものと比較して高い抗生物質耐性を示した。
(文責 近藤秀裕)

92(3), 609−620 (2026)
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海水中で混合飼育したサクラマス二倍体および三倍体雌雄の成長,生残,成熟および背側肉の一般成分組成

中村尚隆,竹内芳恵,家戸敬太郎
 サクラマス二倍体雄雌および三倍体雄雌1+歳魚を海水中で混合飼育し,その成長,成熟および背側肉の一般成分組成を比較した。1月から5月までは二倍体雌の成長が優れたが,7月に有意差はなくなり,9月になると三倍体雌の増重率が他区よりも有意に高くなった。9月のGSIは二倍体雌が顕著に高く,三倍体雌はほとんど0に近い値であった。9月の三倍体雌の背側肉の粗脂質含量が二倍体雌および三倍体雄よりも有意に高い値を示し,三倍体雌では生殖腺が発達しないことにより成熟期である9月においても肉質の低下が起こらないことが分かった。

92(3), 621−632 (2026)
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異なる背景色条件下におけるマーブルゴビーOxyeleotris marmorata稚魚の酸素消費率とアンモニア排出率

Leong-Seng Lim, Uun Yanuhar, Wan-Yi Teh, Kit-Shing Liew, Kianann Tan, Sharifah Rahmah, Hon Jung Liew
 マーブルゴビー稚魚を8種の背景色下で2時間または24時間順応させ,摂餌後の酸素消費率とアンモニア排出率を測定した。酸素消費率は順応時間の影響を受けたが,背景色単独の効果は認められなかった。順応時間と背景色の交互作用は認められたが,これらについては更なる検証が必要である。一方,アンモニア排出率は順応時間と背景色の両方の影響を受けた。黒・暗灰・明灰色背景で高く,夜行性である本種の特異動的作用(SDA)によるものだと考えられた。青・深緑色・透明背景ではSDAが抑制または変化する可能性が示唆された。
(文責 馬久地みゆき)

92(3), 633−642 (2026)
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低温処理によるマアジTrachurus japonicus三倍体の誘導

森田哲朗,Suwarak Wongtho,原田将登,松下芳之,矢澤良輔,吉崎悟朗
 マアジTrachurus japonicusにおいて低水温処理による三倍体化の誘導を試み,得られた三倍体個体の妊性を評価した。受精後4分が経過した受精卵に各水温および各処理時間で処理を施し,三倍体の孵化仔魚が作出された割合を比較した。その結果,0℃または4℃で5分間処理した際の作出効率がそれぞれ65.0%および63.4%となり最も優れていた。2歳魚において成熟状況を調査した結果,二倍体は雌雄ともに正常に成熟したのに対し,三倍体の雌では卵黄蓄積が見られず,雄は排精に至らなかった。したがって,三倍体のマアジは不妊であろうと考えられた。

92(3), 643−655 (2026)
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アイゴSiganus fuscescens仔魚飼育における初回摂餌能力を向上させるための飼育技術

宮嶋 暁,塗木 凜,清水陸央,小野寺結人,阿川泰夫,石田有里子,島村雅晴,澤田好史
 藻食性のアイゴは,養殖で魚粉依存軽減が期待されるが,仔魚期の減耗が種苗生産の障害である。本研究では,最適飼育光強度探索と初回摂餌の失敗原因解明を目的とした。仔魚にはサイズ選別して小型化したワムシを給餌し,6つの光強度(125,500,2,000,8,000,16,000,24,000 lx)で飼育した結果,生残率は16,000−24,000 lxの高光強度で最高9%,8,000 lx以下では0.1%未満であった。Chessonの摂餌選択性指数では,摂餌開始から2日間に背甲長90 μm未満の,3日目以降は110 μm未満のワムシを選択した。結論として,アイゴ仔魚の生残率向上には高い光強度と小型ワムシが必要である。

92(3), 657−677 (2026)
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投与量の削減,投与期間の短縮,および投与開始時期の最適化に焦点を当てた養殖コチョウザメの生殖腺の雌化に関するゲニステイン経口投与の研究

稻野俊直,中村 凌,中村元紀,木南竜平
 コチョウザメの雌化に資するゲニステイン(GS)含有飼料の投与量・期間の削減および投与時期の最適化を目的として,500又は1000 μg GS/g飼料の8又は16週間投与の効果,および1000 μg GS/g飼料の16週間投与により8,16又は24週齢の投与開始の効果をそれぞれ検討した。精巣における卵母細胞発達に着目した雌化の誘導には,500 μg GS/g飼料の投与量,および8週齢の投与開始が必要である。しかし,GS含有飼料による16週間の給餌期間は,全個体に完全な卵巣発達を誘導するには不十分である。

92(3), 679−690 (2026)
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人工飼育下のニホンウナギ仔魚の下顎脱臼:致死性と開口角との関係について

須藤竜介,高崎竜太郎,里見正隆,樋口健太郎,
谷田部誉史,中村康平,石川 卓,風藤行紀
 ウナギの種苗生産において仔魚期に発生する顎の異常はシラスウナギになると深刻な問題となっている。本論文では仔魚の顎の形態異常を解剖学的に解析し,本異常は下顎脱臼によるものであることが明らかにした。次に,開口角と下顎脱臼との関連を調べたところ,開口角が70°以上の個体は下顎脱臼となると推定された。そこで,開口角が70°以上の個体の出現状況を調べた結果,全長35 mm以上に到達してから出現し,飼育期間が長くなるほどのその割合が増えることを明らかにした。以上の研究は本異常の対策へ有益な知見といえる。

92(3), 691−701 (2026)
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コイ補体成分C5アイソタイプの機能解析:C5-Iアイソタイプが主要な役割を果たす

木村美智代,長澤貴宏,杣本智軌,中尾実樹
 補体系は生体防御に重要だが,その魚類における反応機構には不明点が多い。補体成分C5は膜侵襲複合体(MAC)形成と炎症反応を担う。我々はコイで2種のC5遺伝子アイソタイプ(C5-I, C5-II)を同定したが,それらの機能差は不明であった。本研究ではC5-Iのネトリンドメインを用いて特異抗体を作製し,C5-Iが非感染状態の血清で主要に存在しMAC形成に関与することを示した。さらに抗体カラムを用いたC5-Iの迅速精製法を開発した。

92(3), 703−710 (2026)
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海洋細菌Tianweitania aestuarii AFB23-2D1が生産する抗菌活性成分の探索

嶋田彩希,上岡麗子
 天然資源からはこれまで,多様で特異的な構造を有する二次代謝産物が多く発見され,一部は医薬リード化合物として利用されている。特に海洋細菌は未開拓なものも多く,新規天然化合物が発見される可能性が高い。本研究では,スクリーニングにおいて抗菌活性が見られた,大阪府大阪湾の干潟で採取した海洋細菌Tianweitania aestuarii AFB23-2D1に着目し,抗菌活性成分の探索を行った。その結果,長鎖脂肪鎖とL体のバリンからなる化合物群が,本細菌抽出物の活性本体であることを見出した。これらの化合物は,天然化合物として初めて発見された。

92(3), 711−716 (2026)
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動画解析による魚類の皮収縮温度と生息水温の関係性

大上浩樹,三木志津帆,森田貴己,重信裕弥,森岡克司,足立亨介
 本研究では,22種の魚の皮を用いて動画解析により収縮温度(Ts)を非常に簡便に測定できることを示した。結果,得られたTsは各魚種の生息温度(Tp)と高い相関関係を示した。また,Tsは,I型コラーゲンの変性温度(Td)よりも総じて約26℃高い値を示した。加えて,TsはI型コラーゲンのProとHyp含量と正の,Ser含量とは負の相関を示した。本研究によりTsは主にコラーゲン分子内の上記アミノ酸含量によって明瞭に変動することをはじめて明らかにした。本手法は精製前のコラーゲンの品質管理にも活用できる。

92(3), 717−724 (2026)
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水産物輸出の短期予測:戦略的貿易計画に向けたハイブリッド・アプローチ

Kiuk Han, Eunsong Won, Keunsuk Chung
 本研究では,計量経済学と深層学習を統合し,水産物輸出の短期予測モデルを構築した。韓国の2000年1月から2023年12月までの月次データを用い,特徴量選択により輸出価格,ウォン・円為替レート,ブレント原油価格,実質1人当たりGDP,水産物生産量の5要因を特定した。動的回帰により各要因の有意な影響を確認し,LSTMとGRUにより2022年1月から2023年12月までの予測を行った。結果は,海苔スナック輸出が世界所得や需要に敏感である一方,マグロ輸出は生産能力と相対価格競争力に左右されることを示す。
(文責 阪井裕太郎)

92(3), 725−741 (2026)
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