Fisheries Science 掲載報文要旨

サンゴと褐虫藻の共生における貯蔵型グリセロ脂質の分子多様性(総説)

Tatyana V. Sikorskaya
 サンゴと褐虫藻の共生関係では脂質が重要な代謝的役割を持つ。サンゴのもつ貯蔵脂質は,独立栄養生物の共生関係に由来すると考えられる。共生しているサンゴは飽和トリアシルグリセロール(TAG)とモノアルキルジアシルグリセロール(MADAG),褐虫藻由来の分子種(C16, 18, 20, 22)である多価不飽和脂肪酸(PUFA)を持っていた。これらのうち,PUFA量は季節変動により,飽和脂質量は白化により影響された。また熱ストレス時にはサンゴに保存された脂質から褐虫藻のTAG,宿主のMADAGの順で使われ,回復に伴い広範囲に渡る脂質の再構成が起った。
(文責 神保 充)

92(2), 271−283 (2026)
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タイランド湾におけるトロール漁船によるトラッシュフィッシュ漁獲の生態系への影響

Jeeratorn Yuttharax, Pavarot Noranarttragoon,
Weerapol Thitipongtrakul,松石 隆
 トラッシュフィッシュ(TF)は,主に魚粉・魚油の原料として利用される低価格・小型魚種や鮮度の低い大型魚を指し,資源の枯渇や生態系破壊の原因として批判されることがあるが,実証的な証拠は限られている。本研究は,タイランド湾において,2016−23年のTF漁業の影響を評価した。その結果,魚類資源への明確な悪影響や平均栄養段階の有意な変化は確認されなかった。TF漁獲に含まれる主要魚種の構成は50年以上にわたり大きく変わっておらず,食物網構造がよりバランスの取れた状態へと回復している可能性が示唆された。

92(2), 285−301 (2026)
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タイ国Phang-Nga県Ban Nam Khem沿岸のクルマエビ類(Penaeus spp.)刺網漁業における底部Guarding網による混獲削減効果

Phatcharapol Boonserm,江幡恵吾,
Napakhwan Whanpetch, Tanuspong Pokavanich,
Thanakorn Sangeamwong, Wachirah Jaingam
 タイ国Ban Nam Khemの沿岸域で行われているクルマエビ類を対象とした刺網漁業では三重網(目合:外網250 mm,内網70 mm)が使用されている。刺網の底部に目合60 mmの網地を取り付けて底生無脊椎動物の混獲削減効果を検証した。2024年10月〜12月に行った合計15回の試験操業の結果,主対象種の漁獲量に有意な差は認められず,混獲投棄対象種の漁獲個体数と漁獲重量はそれぞれ従来網と比較して73.2%および74.4%に減少した。底部に目合の小さな網地を取り付けることで,混獲を削減できる可能性が示された。

92(2), 303−318 (2026)
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インド洋西部における気候変動下での熱帯性マグロ類の資源量および餌生物群集特性の変化

Ting-Yu Liang, Kuo-Wei Lan, Yan-Lun Wu
 本研究は,インド洋西部におけるキハダマグロとメバチマグロの資源量変動と餌生物群集との関係を,標準化CPUEデータを用いて解析した。両種の分布が大きく重複する海域と,キハダマグロが優占する海域が識別された。前者では気候変動指標とマグロ類およびサバ科やアジ科魚類といった主要餌生物との関連が示され,後者では表面水温やエルニーニョ現象との関連が示された。これらの結果は,インド洋におけるマグロ類とその生態系との相互作用が,地域ごとに異なる複雑な特性を持つことを示している。
(文責 冨山 毅)

92(2), 319−335 (2026)
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2013年卓越年級群を契機としたマサバ太平洋系群の産卵親魚群における高齢魚の割合の増加と生殖腺熟度指数の低下

井須小羊子,上村泰洋,古市 生,原田貴大,
岡部 久,市川喬雅,由上龍嗣
 マサバ太平洋系群の資源量は2013年の卓越年級群発生により急増し,2019年以降減少した。資源量急増前後の産卵親魚群を対象に,資源の生産性に影響し得る生物特性の変化を調べた。2013年級群は2015年から産卵親魚群に現れ,2017年以降の年齢組成は2,3歳魚の割合が減少し,高齢魚の割合が増加した。生殖腺熟度指数と肥満度は2015年頃から低く推移し,一尾あたりの繁殖投資エネルギーの減少が示唆された。これらの変化は同種資源量の増加によると考えられたが,2019年以降も低く推移したことから,競合種の資源量増加や海洋環境の影響の可能性もある。

92(2), 337−349 (2026)
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3種類の漁具におけるUHF帯RFIDタグの適用性評価

Raju Saranya,松下吉樹
 非接触の無線通信でタグを識別するRFID技術により,練習船トロール網,小型底曳網,イセエビ刺網,真珠養殖かごをマーキングして,タグの耐久性と実用性を評価した。小型底曳網のさまざまな部分に5つのタグを取り付け,30−60メートルの水深で172日間,201回の曳網を実施し,壊れたり外れたりすることなく識別できた。真珠養殖でも13のかごにタグを取り付け,最大330日間水中に浸漬した後も識別できた。一方,イセエビ刺網漁業では,RFIDタグが漁具から外れる現象がみられ,取り付け方法の改善が必要と考えられた。

92(2), 351−361 (2026)
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グルタチオンはゼブラフィッシュ胚および仔魚におけるカドミウム誘発毒性を軽減する

スギヨノ,ズルビカ シヤアムバニ ウルハク,岸田光代
 ゼブラフィッシュ初期発生における塩化カドミウム(CdCl2)による発生毒性に対するグルタチオン(GSH)の保護効果を解析した。CdCl2曝露は活性酸素種および細胞死の増加や心拍数の減少を引き起こし,GSHの添加で抑制された。また,CdCl2への曝露は触覚刺激誘発性反応を阻害し,遊泳行動を変化させ,いずれもGSHの添加により改善された。以上の結果から,GSHはゼブラフィッシュにおけるカドミウム誘発性神経毒性,心毒性,および行動障害を軽減し,初期発生過程の重金属毒性に対する保護剤としての役割を果たすと考えられる。

92(2), 363−372 (2026)
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北海道産サクラマスOncorhynchus masouの成熟開始とスモルト化に及ぼす光周期の影響

北出晴香,渡邊聡太,高橋英佑,黒川忠英,
渡辺 剛,泉田大介,林 瑞希,清水宗敬
 本研究は北海道産サクラマスに4種類の光周期操作を施し,早熟雄やスモルトの出現を調べた。0年魚を6月から長日(明期16時間)もしくは等日導入の条件で飼育した。長日群では早熟雄の出現率は高い傾向となり,等日導入群では自然日長群と同等であった。次に,9月以降段階的に長日を導入する群と浮上後1月から短日を維持しその後長日にさらす群を設けた。結果,早熟雄出現は短日維持群で低くなった一方,両群でスモルト化が見られた。しかし,その後の海水飼育では雌雄で成熟魚が出現し,短日維持後の日長増加は成熟の開始を促した。

92(2), 373−383 (2026)
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日本海におけるマイワシ仔魚食性の空間的変動

井口直樹,北島 聡,高橋素光,高橋 卓
 2019−2022年3−5月の日本海沿岸の西部と東部におけるマイワシ仔魚の食性を調べ,海域間で比較した。体長5−17 mmの仔魚の主な餌生物は,両海域ともカイアシ類のノープリウス幼生とコペポダイト幼生であった。しかしながら,3−4月の西部では,仔魚はParacalanus属コペポダイト幼生や大型のカラヌス目ノープリウス幼生など,サイズの大きいカイアシ類を捕食していたのに対し,5月の東部の仔魚は,消化管に餌生物が見られない個体の割合が高く,サイズの小さいOithona属のノープリウス幼生を主な餌としていた。このことから,3−4月の西部の餌環境は,5月の東部より良好であることが示唆された。

92(2), 385−401 (2026)
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活マサバにおけるアニサキス幼虫の組織分布とAnisakis simplex同胞種の同定

瀧澤文雄,伊藤文哉,大瀬千空,柿田航希,中園岳人,
井口隆斗,宮脇英慈,上村玲斗,清水大輔,前田知己,
松井秀明,須﨑寛和,銭本 慧,井戸篤史,黒柳美和,
細井公富,松川雅仁,吉浦康寿,浜口昌巳,大谷真紀,
宮台俊明,末武弘章
 国内4地域由来のマサバを捕獲後ただちに解剖し,アニサキス幼虫の寄生調査とAnisakis simplex同胞種の種同定を行った。長崎の魚ではA. pegreffiiが内臓を優占する一方,筋肉には少数のA. simplex s.s.のみ存在した。岩手,静岡(太平洋)では主にA. simplex s.s.が内臓と筋肉に同程度の割合で寄生し,福井(日本海)でも両組織で同種が優占していた。これら3地域では内臓と筋肉のアニサキス数に正の相関が認められたことから,内臓に多数のアニサキスが寄生するマサバでは筋肉への寄生リスクも高く,アニサキス食中毒の危険性が高まることが懸念される。

92(2), 403−414 (2026)
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ゼブラフィッシュ(Danio rerio)における絶食と再摂食の成長促進効果とその分子メカニズム

大津有稀,Muhammad Fariz Zahir Ali,三浦智恵美,三浦 猛
 補償成長は絶食等の栄養制限によって抑制された成長が給餌再開によって促進される現象であり,養殖への応用が期待されている。本研究では,ゼブラフィッシュを用いて1週間の絶食後に給餌を再開し,成長の影響を検討した。給餌再開後,絶食区では成長が加速し最終的に対照区と同等の体重に達した。肝臓および筋肉の遺伝子発現変化を網羅的に解析した結果,補償成長は,再給餌後に起こる脂質利用に関係する代謝の活性化とigf1の肝臓での発現増加により誘導されることが示唆された。

92(2), 415−433 (2026)
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水温上昇がクルマエビ養殖の持続可能性に与える影響

安田健二,伏屋玲子
 地球温暖化による海水温の上昇は,沿岸養殖における生存率と持続性の低下が懸念されている。本研究では,クルマエビ養殖を対象に,高温環境下での飼育実験の結果から,将来の水温シナリオに基づく養殖適応日数を評価した。結果,クルマエビを36°Cに1日間,34°Cに10日間曝露すると,生存率がそれぞれ50%および55−60%に低下することが明らかになった。さらに,RCP8.5シナリオにおいて,2100年までに中央値で76日の養殖可能日数が減少すると推定され,気候変動がクルマエビ養殖の持続可能性に深刻な課題をもたらすことを示した。

92(2), 435−446 (2026)
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ニシキゴイの雌雄判別に向けた性腺の超音波画像解析

遠藤なつ美,立石光一,斎藤美樹, 中尾令子,唐木沢秀之,木賀田哲人
 本研究では生後11か月のコイ58匹を用いて生殖腺の超音波検査,肉眼および組織学的解析を実施した。精巣の超音波画像は成熟によりエコー輝度が増加して均一な砂状構造を示した。卵巣は高エコーの輪郭と無エコーの粒子を有する顆粒状構造が発達に従ってより明瞭になった。超音波画像のグレースケール分析から,最小値および平均輝度値では雌雄差が認められたが,最大値では差は認められなかった。本研究結果は,コイの生殖腺の組織学的成熟段階と超音波画像特徴を関連付けることにより,雌雄判別や生殖腺発達評価に有用である。

92(2), 447−454 (2026)
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有害ラフィド藻Chattonella ovataのブリに対する毒性と致死細胞密度

小川健太,松下悠介,和田壮之,湯浅光貴,
朝田健斗,岡本裕太,宮川昌志,一見和彦
 Chattonela ovataのブリに対する毒性と致死細胞密度を調べた。培養株による曝露試験では,ブリ稚魚の致死時間はC. ovata株の方がC. marina株より有意に長く,C. ovataの細胞密度が高いほど短かった。養殖漁場では,106−216 cells mL−1で漁業被害が発生した一方,数十cells mL−1ではなかった。C. ovataの毒性はC. marinaより弱く,ブリへの致死密度は数百cells mL−1と推察された。10 cells mL−1を餌止め基準として提案する。

92(2), 455−466 (2026)
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井戸の送水配管を閉塞させる微生物マットの菌叢解析

黒澤一樹,折笠 亮,近藤秀裕,廣野育生,岡井公彦,石田真巳
 鉄イオンを多く含む地下水を汲み上げると,鉄酸化細菌により送水配管および水中ポンプが閉塞し,地下水の汲み上げが困難になることがある。本研究では,サンプリング装置を用いて微生物マットを7日間採取し,16S rRNA遺伝子アンプリコン解析を行った。送水1日目から7日目までGallionella属が継続的に菌叢の大部分を占めていた。この菌種特有のstalkも確認され,微生物マット形成の初期要因はGallionella属であると推測した。この菌種はstalkによって配管に付着し,微生物マットを形成して配管を閉塞させるという仮説を立てた。

92(2), 467−474 (2026)
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パラオ産海綿より得られた細胞侵入性細胞毒レクチンRaspL

Syeda Sobia Nasir,澤田祐二,田中良和,
伊勢優史,辺 裕美,酒井 隆一
 RaspLは,海綿Aulospongus sp.から単離されたHeLa細胞に対し強い細胞毒性を示すレクチンで,14 kDaのプロトマーで構成される約100 kDaのオリゴマーである。部分アミノ酸配列からこれまでに類似するタンパク質は報告されていない。RaspLは146 ng/mLでウサギ血球を凝集するが,アセチル化糖(GalNAc,NANA,GlcNAc)に特異的に阻害された。pH 3−12および100°Cで90分間加熱後も生理活性を維持する極めて安定なタンパク質である。RaspLは細胞内に移行しゴルジ体付近に局在した。

92(2), 475−489 (2026)
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マイクロビーズおよびカドミウムがクロソイSebastes schlegeliの酸化ストレスとアポトーシスに及ぼす影響:単一および併用暴露条件の比較

Jin A Kim, Rae Hyok Hwang, Na Na Kim,
Young-Su Park, Jun-Hwan Kim, Cheol Young Choi
 疎水性のマイクロプラスチック(MP)は水中で分散し,魚類に酸化ストレスや細胞死を誘導する可能性があるカドミウム(Cd)などの重金属を運搬する。本研究ではクロソイにポリスチレン製マイクロビーズとCdを単独および併用曝露し,その影響を評価した。その結果,鰓や腸での両物質の蓄積増加,肝臓での酸化ストレス関連遺伝子発現の上昇が確認された。さらに併用曝露では肝臓H2O2濃度や血漿マロンジアルデヒド濃度,肝臓でのアポトーシスが有意に増加した。MPとCdの組み合わせによる水産資源への影響,さらには人体への影響が懸念される。
(文責 平山 真)

92(2), 491−505 (2026)
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