Fisheries Science 掲載報文要旨

優れたビタミンB12供給源としてのサケの筋肉および副産物(総説)

渡邉文雄,美藤友博,小関喬平
 サケは食料資源として世界的に需要が高く,大西洋サケの養殖が安定した世界供給を支えている。サケはオメガ3脂肪酸,ビタミンD,ビタミンB12が豊富で,現代人の栄養摂取において重要な食品である。これらの栄養素の中でも,ビタミンB12は神経機能の維持や赤血球の形成を助ける重要な役割を果たしており,バランスの取れた食生活に欠かせない栄養素である。本レビューでは特にビタミンB12に焦点を当てた。サケの切り身100 gあたりに含まれるビタミンB12は3−9 μgで,成人男女の1日の推奨量を容易に満たすことができる。また,サケの副産物にもかなりの量のビタミンB12が含まれている可能性があり,これを活用して栄養補助食品や機能性食品を開発できる可能性がある。しかし,サケのさまざまな部位におけるビタミンB12含有量の正確で再現性のある分析を行い,異なる食事条件下でのビタミンB12のバイオアベイラビリティーを評価するためには,さらなる研究が必要である。

91(3), 405−415 (2025)
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音響テレメトリー追跡と加速度計測により明らかになったイセエビPanulirus Japponicusの時空間的移動パターン

佐々木幾星,武田宗城,松下吉樹,中村乙水,河邊 玲
 長崎県沿岸で9尾のイセエビ成体を58日間にわたって音響テレメトリーにより追跡し,時空間的移動パターンおよび活動性に影響を与える環境要因を調べた。追跡個体の行動圏サイズは個体差が大きく,その移動軌跡はイセエビ科に典型的な帰巣と放浪の移動様式により構成されていた。また,本種の活動は夜間に活発な夜行性を基底として推移し,活動時には水温,月相,潮流,風速により影響を受けることが明らかになった。これにより,イセエビ刺網漁における漁獲率が本種の移動様式や幾つかの環境要因に影響されることが示唆された。

91(3), 417−434 (2025)
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ミクロネシア周辺海域におけるキハダThunnus albacaresのCPUE標準化への異なる空間スケールの影響

許  回,藤森康澄,富安 信,Sarr Ousmane,梁 宇宵,李 玉偉,沈 介然
 延縄漁業のCPUE標準化に関する研究では,空間スケールの影響がしばしば見落とされていた。そこで,ミクロネシア周辺で中国の延縄船によって漁獲されたキハダのデータを使用し,GAMモデルを用いて異なる空間スケール(0.25°, 1°, 2°)が標準化に与える影響を調べた。その結果,空間スケールの顕著な影響が示され,最も効果的なモデルは1°の場合であった。さらに,最適モデルにおいて水深300 mの水温が資源豊度に影響を与える重要な要因であることが示された。時空間の効果を取り入れたGAMモデルの利用は,データの次元数が比較的低い場合に特に有効な方法となり得る。

91(3), 435−450 (2025)
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張力モニタリングと機械学習モデルを統合したオッタートロールの曳網状態識別

尤 鑫星,胡 夫祥,熊沢泰生,伊藤 翔,貝田昴大,上原 拓,鈴木雅也
 AI技術によるワープ張力の時系列データからオッターボードの離着底や転倒などの曳網状態を判別し,その結果に基づくウインチの巻き上げ・繰り出しを行う自動制御システムを開発した。曳行水槽に自動制御システムによる模型レベルでのオッターボード離着底制御試験を実施した。制御試験中の判別成功率は着底曳きが83.1%,中層曳きが86.6%,オッターボードのみ離底曳きが77.8%,オッターボード転倒が88.4%であることから,左右舷ワープ張力の時系列データより曳網状態を正しく判別でき,オッターボードの離着底制御は可能であることが確かめられた。

91(3), 451−466 (2025)
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耳石酸素安定同位体比分析によるオオウナギ孵化仔魚期の経験水温および鉛直分布の推定

羽根由里奈,脇谷量子郎,牛久保孝行,野副祐生,木村伸吾
 二次イオン質量分析計(SIMS)を用いた耳石酸素安定同位体比分析により,西部太平洋におけるオオウナギ孵化仔魚期の経験水温および鉛直分布を明らかにした。シラスウナギ78個体の耳石核の δ18O値から,経験水温は19.5−29.1°C,分布水深は51−213 mと推定され,季節間で有意な差は認められなかった。オオウナギ孵化仔魚が利用する鉛直分布の範囲は,ニホンウナギの卵や孵化仔魚のそれと比べて有意に広く,このような広範な鉛直分布は,他種との餌資源をめぐる競争を軽減し,生存率を高めるための分散戦略である可能性が示唆された。

91(3), 467−480 (2025)
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有害赤潮藻Chattonellaにおける栄養制限による細胞形態の変化

紫加田知幸,湯浅光貴,北辻さほ,矢野諒子
 有害赤潮原因藻Chattonella marina complexの本邦産培養株を用いて,異なる栄養塩条件下で細胞形態と増殖の関係を調べた。窒素やリンの制限条件および非制限条件で,増殖速度は細胞の面積や真円度と正の相関,核が明確に観察可能な細胞や細胞後端に突起を有する細胞の優占率と負の相関があることが分かった。また,栄養制限条件から非制限条件に移すと数日以内に形態が回復することが確認された。これらのことから,細胞形態は本種の栄養状態を推察するための一つの指標となる可能性が示唆された。

91(3), 481−494 (2025)
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仙台湾におけるジンドウイカの日齢,成長および成熟

増田義男,時岡 駿,岡村悠梨子,片山知史
 2020年7月から2024年12月に仙台湾で漁獲されたジンドウイカについて,日齢,成長および成熟に関する研究を行った。6月から1月に孵化したイカは雌雄ともに大型で,2月から5月に孵化したイカは雌雄ともに小型で明らかな違いがあったため,孵化月によって成長式を2つの群に分けた。得られた成長式は,雄と雌の間に有意な差が確認され,雌の方が雄よりも早く成長することを示した。ジンドウイカの寿命はこれまで1年と考えられていたが,今回の平衡石による日齢解析の結果,雄の寿命は最長で8か月,雌の寿命は最長で9か月であることが明らかとなった。

91(3), 495−509 (2025)
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日本の種苗生産施設におけるシオミズツボワムシ複合種の種同定と応用への検討

韓 程燕,上薗翔平,阪倉良孝,金 旼燮,李 玟哲,李 在晟,萩原篤志
 DNAバーコーディングと形態計測により,国内の公的種苗生産施設で使用されているワムシ15株の種同定を行った。その結果,既知の15種のシオミズツボワムシ複合種のうち,B. plicatilis sensu stricto, B. plicatilis “Nevada”(以上L型),B. koreanus(S型),B. rotundiformis(SS型)の4種に分類された。L型は比較的低温・低塩分に適応し,S・SS型は高温・高塩分に強く,栄養強化効率や高密度培養にも優れる。被甲長と後頭棘の形状が形態的な種判別に有効で,環境制御による持続的な管理と生産性の向上に資する。

91(3), 511−529 (2025)
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Macrobrachium rude(十脚目:テナガエビ科)の繁殖生態

フェルドウス・アーメド,マハムダル・ホク・リモン,スーザン・サーカー,ゾアルダール・ファルク・アーメド,大富 潤
 テナガエビ科のMacrobrachium rudeは,すぐれた食味を有する水産重要種である。これまで知見が皆無であった本種の繁殖生態を調べた。性比は,小型では雄に,大型では雌に偏っていた。雌の50%成熟サイズはCL 8.4 mmと推定された。抱卵雌では胚の発生が進むにつれて成熟個体の割合が増加し,孵化直前にはほぼ100%が成熟していたことから,一繁殖期中に複数回産卵することが示唆された。胚のサイズと雌の体サイズとの間に相関はなく,発生に伴って胚のサイズは増加した。大型の雌ほど抱卵数は多かった。

91(3), 531−542 (2025)
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ハイタンアマノリにおける緑斑病様症処理としての高CO2の利用

Dongya Bao, Huawei Zhang, Mingjiang Wu,Zengling Ma, Binbin Chen
 ハイタンアマノリは,中国で広く養殖されている重要な海藻である。本種は,養殖期間に緑斑病(GSD)等に感染し,深刻な被害となっている。本研究では,培養中にGSD様症に感染した本種葉体の光合成と生長に及ぼす高CO2濃度の影響を調べた。通常のCO2下に比べ,高CO2下で培養したGSD様症感染葉体は,培養初期はNPRmが低下したが,NPRmとrETRmは増加し,光合成色素も増加した。高CO2下では,葉体の光合成能力を高め,GSD様症細菌による感染悪化を防いでいる可能性がある。これはCO2が誘導したGSD様症抵抗性への初期適応と考えられる。本研究は,高CO2が養殖された本種のGSD様症の治療に利用できる可能性を示している。
(文責 阿部真比古)

91(3), 543−555 (2025)
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ベルガモット精油の添加がコイ幼魚の成長,血液パラメータおよび抗酸化活性におよぼす影響の評価

Bircan Tasci, 舞田正志,二見邦彦,芳賀 穣,酒井悠人,片桐孝之
 近年,柑橘類の精油を養魚の飼料に添加して利用しようとする研究が盛んに行なわれている。本研究では,ベルガモット精油(BEO)添加飼料で飼育したコイの成長,血液学的,生化学的変化および抗酸化活性を比較した。対照試料とそれに0.2%, 0.4%, 0.8%添加したものを60日間給餌した。成長率は0.2BEO区で最も高く,血清生化学的な効果は,0.2BEO区で最も高く,他の2区のBEO添加飼料区でも認められた。また抗酸化酵素活性は,0.2, 0.4BEO区で有意に増加した。以上より,特に0.2および0.4BEO区で,コイの稚魚の成長をはじめ,種々の生理状態を向上させることが示された。

91(3), 557−566 (2025)
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周年長日(LD 16:8)処理によるサクラマスOncorhynchus masouの性成熟抑制

尾﨑雄一,鈴木博史,山口寿哉,風藤行紀,泉田大介,戸川富喜,奥澤公一
 サクラマスでは海面養殖における性成熟が問題となっていることから,光周期による成熟抑制を試みた。10か月齢のサクラマススモルトを8月から翌年の9月まで3種類の光周期条件区(疑似自然日長,長日一定,長日短日交互)で飼育したところ,長日一定区では生殖腺の発達が著しく抑制され,血中性ステロイドホルモン濃度,脳下垂体における生殖腺刺激ホルモン遺伝子発現量ともに低かった。一方,疑似自然日長区と長日短日交互区ではほとんどの個体が成熟した。サクラマスの長日による性成熟抑制手法は養殖現場に適用できる可能性がある。

91(3), 567−580 (2025)
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マダイにおける飼料中のアメリカミズアブ幼虫のタンパク質と脂質の同化

安藤 忠,石原賢司,羽野健志,世古卓也
 アメリカミズアブ幼虫粉(BSF)の飼料原料としての効果を評価するために,BSFで魚粉を置換した飼料(0%, 50%, 78%)によりマダイを育成した。その結果,0%群と50%群の成長速度に有意差は認められなかったが,78%群は有意に低く,BSFのタンパク質は同化率が低いことが示唆された。また,BSFのラウリン酸はマダイに同化されにくかった。50%添加はマダイの成長に影響しないが,より高い配合には改良が必要である。

91(3), 581−594 (2025)
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殻黒変病の原因細菌Tenacibaculum sp. Pbs-1株の感染を定量的に検出するqPCRの開発

端野開都,酒徳昭宏,一色 正,廣瀬遥史,折田 亮,鈴木信雄
 真珠養殖の現場で発生しているアコヤガイの殻や真珠が黒く変色する殻黒変病は,Tenacibaculum sp. Pbs-1の感染により引き起こされる。本研究では,この原因細菌Pbs-1株を特異的に検出・定量するリアルタイムPCR法を開発した。プライマーとプローブはinternal spacer region(ISR)を標的として設計することで,高い特異性で定量できた。また,本手法を用いることで,感染したアコヤガイの殻や天然海水からPbs-1株を定量することができた。この定量法は,殻黒変病の感染メカニズムの解明や環境中での病原菌の動態解析に貢献することが期待される。

91(3), 595−602 (2025)
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西日本におけるカレニア・ミキモトイ赤潮の長期的悪化傾向と発生時期の変化

三宅陽一,鬼塚 剛
 我が国における有害赤潮の長期・広域統計を研究した例は,魚介類の斃死被害を発生させているカレニア・ミキモトイを含めてほとんどない。このため,過去30年間(1991−2020年)の赤潮年報から本種を対象としたデータセットを構築した。トレンド分析から,西日本〜局所スケールにおいて,年間最大の赤潮細胞密度・発生日数が有意な増加傾向を示した。西日本,瀬戸内海や九州海域の空間スケールでは,初発赤潮発生日が早期化傾向を示した。西日本における本種赤潮の悪化・早期化は気候変動・エルニーニョ現象等に関係している可能性がある。

91(3), 603−619 (2025)
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サバ水煮缶詰の煮汁は遊離型ビタミンB12の供給源である

渡邉文雄,住谷志歩,小関喬平,美藤友博
 市場で流通しているサバの水煮缶詰において,100 gあたりのビタミンB12含有量は魚肉で6.6±0.1 μg,煮汁で5.1±0.1 μgであった。魚肉からは約24%のビタミンB12(2.5±0.8 μg/缶)が煮汁中に溶出しており,煮汁中のビタミンB12の約70%が遊離型であることから,缶詰1個あたり約1.7±0.3 μgの遊離型ビタミンB12が煮汁に含まれていると推測される。このように,サバの水煮缶はビタミンB12の優れた供給源であり,煮汁には遊離型のビタミンB12が豊富に含まれているため,健康な人だけでなく,胃酸分泌が低下して食品タンパク質結合性ビタミンB12吸収不良を呈する高齢者にとっても有益な食品である。

91(3), 621−628(2025)
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日本産二枚貝類7種/亜種のテトロドトキシン類組成

白井響子,長濱琴音,林あんず,安川詩乃,波形果歩,周防 玲,糸井史朗
 二枚貝類のテトロドトキシン(TTX)による毒化状況と三陸沿岸でアカザラガイにTTXを供給しているとされるオオツノヒラムシの関係について調べた。日本沿岸の二枚貝7種/亜種のTTX類をLC-MS分析に供し,TTXが主にイタヤガイ類から検出されることを確認した。TTX濃度の高いアカザラガイ1個体以外の試料からTTXアナログは検出されなかった。NGS分析では,2022年11月のアカザラガイ消化管内容物からヒラムシが検出された。2023年8月に採取されたヒラムシの成熟個体は飼育下で同年末まで産卵を続け,TTXを供給し続ける状態にあることが示唆された。

91(3), 629−640 (2025)
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世界の水産物輸出市場における競争優位性分析:5か国のケーススタディ

Kiuk Han, Daye Lee, Moonhee Kim, Jihyun Park, Myungsu Kim, Keunsuk Chung
 ポーターのダイヤモンドモデルを用いて,世界の水産物輸出市場における競争優位性の決定要因を分析した。中国,日本,韓国,スペイン,タイという輸出特性が類似した5か国の2000年から2017年までの年次データを使用した。その結果,水産物輸出の競争力を決定する上で,水産物生産効率の向上が天然資源量よりもはるかに重要であることが分かった。また,水産業への労働力の流入とともに,国内消費市場の成長による製品品質の向上と関連産業における環境改善が競争力にとって極めて重要な要因であることも明らかになった。
(文責 阪井裕太郎)

91(3), 641−654 (2025)
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