Fisheries Science 掲載報文要旨

インド西海岸における気候変動が小型浮魚の資源変動に与える影響に関する再考察(総説)

Faseela Hamza, Vinu Valsala, B. R. Smitha
 本研究では,小型浮魚の環境変数に対する感受性に焦点を当て,気候変動が沿岸漁業にどのような変化をもたらすかについて情報を再整理した。多くの研究はイワシ類を対象としていたが,他の種に関しては十分に研究されておらず,気候変動の影響を分析するために不可欠な資源変動や環境データが不足していた。気候変動による資源の減少は食料供給 や労働機会提供にも影響を与える 。気候変数が漁業に与える影響を理解し,文書化することは,影響を最小限に抑えるための緩和策と適応策を実施する上で非常に重要である 。
(文責 石川智士)

91(2), 189−204(2025)
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東南アジア漁業の現状:特異性と持続可能な漁業への道筋(総説)

松石 隆
 東南アジアの漁業は独自の顕著な発展を遂げてきた。漁業生産量の増加は,他の地域を圧倒している。この地域の漁業従事者の割合は,世界平均の3.4倍である。この地域の1人当たりの年間水産物供給量は,世界平均の1.9倍である。数十年にわたり乱獲が警告されているにもかかわらず,この地域には,開発の余地が残る資源が多く残っている。1人当たりの年間水産物供給量の伸びは近年頭打ちとなり,人口は2055年頃には現在の113%で安定すると予想されているため,水産物への需要は横ばいとなり,持続可能な漁業への移行が可能になる。

91(2), 205−216(2025)
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エジプト紅海産 Gerres 属魚類3種の鱗の形態特性と微細構造

Imam A. A. Mekkawy, Usama M. Mahmoud, Samia M. El-Mahdy, Fatma Essa
 エジプト紅海産の3種のクロサギ科魚類 Gerres longirostris, Gerres oyena, Gerres oblongus の鱗の形態特性と微細構造について,形態計測および光学・走査電子顕微鏡観察による比較を行った。その結果,鱗のサイズと形,表面形態,放射条間舌状部・輪紋・溝,外側・内側の側輪紋と溝,小棘,露出部の分離・造粒パターン,魚体上の鱗の位置,年輪,溝条,側線管など,3種間での幅広い差異が明らかになった。これらの知見から, Gerres 属魚類の種を識別する分類ツールとして,鱗の特徴が有効に利用できることが判明した。
(文責 山川 卓)

91(2), 217−235(2025)
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中国・黄河上流域における Triplophysa pseudoscleroptera の年齢,成長,および死亡率の推定

ShuHan Xiong, JiLong Wang, PeiLun Li, Tai Wang, JiaCheng Liu
 中国・黄河上流域における Triplophysa pseudoscleroptera の年齢構成,成長,死亡率,利用率を調査するため,2022−2023年に4回のサンプリングを実施し,計313個体の全長(L)及び体重(W)を測定した。全長は4.50−13.80 cm,体重は0.98−19.38 g,耳石で判定した年齢は1−5歳の範囲であった。全長と体重の関係式 W=0.0082L2.9392 から,等成長が示唆された。von Bertalanffy成長式のパラメータは, L が18.10 cm, κ が0.209 yr−1 と推定された。これは,同属魚種と比較して成長は遅い。利用率は0.3873と漁獲圧が高く,在来種保護のため,外来魚の導入規制や網目制限などの管理方策が必要である。
(文責 松石 隆)

91(2), 237−247(2025)
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船の錨索が海底を攪乱する範囲の推定

高橋千代,丸山裕豊,眞角  聡,内田 淳,広瀬美由紀,松下吉樹
 船の錨索が海洋生態系に及ぼす影響に関する知見を蓄積するために,漁業練習船の錨索が海底を攪乱する範囲を推定した。その結果,長さ100−125 mの係留ロープを用い,水深25−35 mの海底に停泊させた場合,海底への洗掘面積は最大11031.9 m2 であった。一般化線形混合モデル解析の結果,錨索の着底範囲には,停泊中の風速と潮流速が影響していることが確認された。しかし,潮流速の変動が比較的小さかったことから,錨索の海底への洗掘面積は風速による影響を大きく受け,風速が小さいほど洗堀面積は大きくなることが示唆された。

91(2), 249−258(2025)
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長・短期記憶(LSTM)モデルと分位点回帰(QR)モデルに基づくCPUE予測性能比較

Hui Xu, Liming Song, Yuwei Li, Tianjiao Zhang, Jieran Shen
 長・短期記憶(LSTM)モデルおよび分位点回帰(QR)モデルに基づくCPUE予測性能を,太平洋ビンナガの実データを通して評価した。2017年1月から2021年5月の中国遠洋漁業データを用い,空間解像度1°× 1°,時間解像度日単位で名目CPUEを算出した。解析の結果,LSTMモデルはQRモデルより優れ,特にCPUEが高い海域でより正確な予測を行うことが示された。また,CPUE予測の重要要因は,海面水温,クロロフィル α 濃度,水深200 mの水温であり,LSTMモデルでは水深150 mおよび200 mの溶存酸素濃度も寄与した。
(文責 北門利英)

91(2), 259−274(2025)
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新種のウミウシとカイメンにおける分子レベルでの捕食−被食関係の解明

大橋彩音,福岡雅史,神﨑泰輔,広瀬雅人,高田健太郎,伊勢優史
 ウミウシはカイメンやコケムシなどの固着性の餌生物を捕食し,生物活性物質を取得していると考えられているが,それらの捕食−被食関係は分子レベルではほとんど解明されていない。本研究では,コンフィチュールウミウシ Rostanga confitura sp. nov. がスガシマキワタカイメン Phorbas sugashimaensis sp. nov. と常に共存していることに注目した。ウミウシは Rostanga 属の新種であることを明らかにするとともに,カイメンも Phorbas 属の新種であった。さらに,ウミウシとカイメンの代謝物解析および糞の DNA 解析から,これらの生物が捕食−被食関係にあることを分子レベルで証明することに成功した。

91(2), 275−290(2025)
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水温の変化が Chlamys farreri (アズマニシキ)の酸化ストレスおよび抗酸化防御機構に及ぼす影響

Jin Ah Song, Eunseong Lee, Young-Ung Choi, Jordan Jun Chul Park, Jeonghoon Han
 Chlamys farreri (アズマニシキ)に対する水温変化の影響を調べるため,20°Cから13°Cまたは28°Cへ移行させた際の消化盲嚢におけるストレス関連バイオマーカー量と関連酵素活性を測定した。マロンジアルデヒド量は13°Cおよび28°C群で増加し,13°C群では24時間経過後に20°C群と同程度に低下した。グルタチオン S−トランスフェラーゼ活性は両群で12時間まで上昇し,その後は20°C群より低下した。全抗酸化能は,28°C群で48時間以降に高値を維持した。これらの結果は本種が高温環境下でより大きな酸化ストレスを受けることを示唆する。
(文責 筒井直昭)

91(2), 291−299(2025)
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アコヤガイ稚貝における軟体部萎縮症の重症度に対する水温および感染履歴の影響

橋本直樹,松山知正,岩橋徳典,永井清仁
 国内の真珠養殖海域において,軟体部萎縮症によりアコヤガイ稚貝の大量死が発生し,真珠産業に深刻な影響を及ぼしている。野外調査では,春夏いずれの時期に稚貝を設置しても発症が認められたが,夏設置群のへい死率が有意に高かった。室内感染実験では,へい死率は高水温区ほど高かった。感染を経験した群と未感染の群を高水温期に併設すると,後者のへい死率が有意に高かった。以上より,低水温時では発症するがへい死率は低いこと,高水温時では初めて感染すると大量死すること,感染を経験した群では被害が少ないことが示唆された。

91(2), 301−310(2025)
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水素細菌 Hydrogenovibrio marinus MH-110の天然海水をベースとした培地による成長と成分分析: 生産の収益改善のための予備検討

太田和希,奥 宏海,徳田雅治,松成宏之,古板博文,吉永葉月,山本剛史,村下幸司,西原宏史
 細菌由来の単細胞タンパク質は水産飼料として有望視されており,その生産における収益性は重要な関心事である。本研究では海洋性水素細菌 Hydrogenovibrio marinus MH-110において,収益改善に向けた培地のコスト削減と有価物となり得る副産物の探索を行った。コスト削減のため培地への天然海水の利用を検討したところ,既報の培地と同様の増殖が確認された。また,GC-MSによる網羅的成分分析においてはエクトインなど様々な有用副産物の候補が同定された。これらの結果は水素細菌の商業生産のための一助となることが期待される。

91(2), 311−321(2025)
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スジアラ Plectropomus leopardus 当歳魚への17α -Methyltestosterone経口投与による人為的雄化誘導

三好花歩,山口智史,藤倉佑治,宇治  督
 スジアラ Plectropomus leopardus は,アジア圏で重要な養殖魚であるが,雌性先熟であり雄親魚の育成に時間がかかるため効率的な養殖が困難である。本研究では性分化期に17α -メ チルテストステロン( MT) を経口投与し,人為的な雄化誘導を試みた。孵化後63−180日の間にMT添加餌料( 50 μg/g餌) を給餌した結果,雄化と精子形成が確認されたが,投与中止後1か月 には精巣細胞が消失した。一方で,MT処理魚の生殖腺内精子を用いた人工授精では,受精卵とふ化仔魚の作出に成功した。本成果は本種の世代交代時間の短縮に寄与すると考えられる。

91(2), 323−333(2025)
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スジアラ Plectropomus leopardus の17α -methyltestoste­roneおよびletrozoleの腹腔内投与による人為的性転換誘導

三好花歩,山口智史,藤倉佑治,風藤行紀,奧澤公一,宇治  督
 スジアラの需要は高く養殖用親魚の安定供給が必要だが,雌性先熟のため雄親魚の確保に時間を要する。本研究では雌成魚への17α -メ チルテストステロン( MT) とレトロゾール( LZ) の腹腔内投与が性転換とステロイド合成に与える影響を調査した。その結果,試薬投与開始3か月後にMT投与群はエストラジオール( E2) の低下を伴う不完全な性転換を示した。LZ投与群およびMT+LZ同時投与群ではE2の低下と性転換が確認され,特にLZ群では11-ケ トテストステロンの上昇も認められた。以上より,LZは本種雌成魚の性転換誘導に有効であることが示された。

91(2), 335−343(2025)
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バングラデシュの内陸と沿岸の養殖場で育てられたパンガシウスとティラピアの香り成分に対する環境の影響

Seikh Razibul Islam, Raju Podduturi, M. Mahfujul Haque, Louise Schlüter, Mikael A. Petersen, Niels O. G. Jørgensen
 本研究ではバングラデシュのボグラ(内陸淡水)とクルナ(沿岸汽水)の養殖場におけるティラピアとパンガシウスの揮発性化合物を季節(冬夏)別に分析した。その結果,両魚種からテルペン13種,ベンゼン10種,炭化水素12種が検出され,テルペンと炭化水素は季節・地域差を示したが,ベンゼンは差が小さかった。揮発性化合物の起源は特定できなかったものの,人為的汚染,農業流出,植物プランクトンなどが関与している可能性がある。クルナでの揮発性化合物量がボグラより少ないのは,潮汐による清浄な海水の流入が原因だと推測される。
(文責 仲山 慶)

91(2), 345−360(2025)
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多様な水域に生息する魚類由来細胞株のn-3 PUFA合成能力の評価

丹生谷颯人,川越梨央,石橋洋平,沖野 望
 本研究では,様々な環境に生息する魚類に由来する細胞株のn-3系長鎖多価不飽和脂肪酸(n-3 LC-PUFA)合成活性を,重水素標識したPUFAと高速液体クロマトグラフ質量分析計によって評価した。その結果,各魚類細胞株は,LC-PUFA合成酵素の活性に応じて,重水素標識PUFAを重水素標識LC-PUFAに変換した。また,ギンブナの細胞株と肝細胞のLC-PUFA合成活性を比較した。本研究の結果は,本方法が魚類細胞株と魚類組織のLC-PUFA合成活性を評価・比較するのに有用であることを示している。

91(2), 361−372(2025)
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スケトウダラ冷凍すり身における火戻り原因酵素

大久保誠,末安紗也佳,谷口成紀,前田俊道
 スケトウダラ筋肉の水晒しにより,耐熱性アルカリプロテアーゼ(“HAP”)及びトロンビンは除去されたが,カテプシンLは筋原線維タンパク質中に残存した。等級が異なる6種類のスケトウダラ冷凍すり身には,筋肉とほぼ同量のカテプシンLが含まれていたが,“HAP”及びトロンビンは低級すり身ほど多く含まれていた。すり身中の筋原線維結合型セリンプロテアーゼの活性は,ごくわずかであった。火戻りの条件におけるミオシン重鎖の分解を比較した結果,プロテアーゼの活性とミオシン重鎖の分解速度は一致していなかった。

91(2), 373−390(2025)
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塩麹がブリ肉の物性と呈味成分に及ぼす影響

藤原久子,徳本美咲,松本 茜,古田 歩,谷本昌太
 塩麹がブリの肉質に及ぼす影響を検討するため,塩麹および10%食塩水に漬け込み,保存後加熱処理を行った。加熱した試料の硬度は処理の違いによる差はなかった。SDS-PAGEでは普通肉の処理試料で17kDa未満のスメアバンドが認められた。塩麹試料でいくつかの遊離アミノ酸が増加したが,IMPおよびAMPはすべての試料で減少した。腹肉のIMP分解はNaClによって促進された。腹肉を除く塩麹試料はグルタミン酸およびアスパラギン酸の増加により等価うま味濃度を維持し,抽出成分に基づく階層的クラスター分析により塩麹試料は他の試料と識別された。

91(2), 391−401(2025)
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