Fisheries Science 掲載報文要旨

発展途上国の小規模漁業セクター:ナミベ(アンゴラ)における持続可能性のための SWOT 評価と推奨事項

Pinto Leonidio Hanamulamba, Tierry Val de Medeiros,
Igor Hister Lourenço, Marcelo Rodrigues dos Anjos,
Luis Felipe de Almeida Duarte
 南アンゴラ沿岸域に位置するナミベ州では,歴史的に複数のコミュニティーが漁業を営んでいる。本研究では,ガビネテ州漁業局から3年間の漁獲量データと329人の関係者を対象としたインタビュー調査結果を用いて,SWOT( 強み,弱み,機会,脅威) 分析を行い,この地域における持続的漁業に関する課題の抽出を行った。その結果,国際的な違法漁業対策を含む,実施可能な管理政策を立案するための漁業監視プログラムの導入が急務であることが示された。
(文責 石川智士)

91(1), 1 −11 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ナイルティラピア性分化初期における濾胞刺激ホルモンがステロイド産生酵素遺伝子群の発現に及ぼす影響

高  赫,荒井那允,チャック アランヤカノント,李 丹,多田 恵,井尻成保
 本研究は,ナイルティラピアにおけるFSHシグナルの卵巣分化開始への関与を明らかにすることを目的として,組換えFsh(rFsh)を性分化初期の遺伝的雌仔魚に投与し,その後の未分化生殖腺における性分化関連遺伝子の発現変化を調べた。その結果,rFsh投与群において hsd3b 発現量は有意に増加し,cyp11a1cyp17a1 および cyp19a1a の発現量も増加する傾向にあった。以上,Fshはステロイド合成を緩やかに促進することで卵巣分化を誘導する役割を部分的にでも持つのではないかと考えられた。

91(1), 13 −23 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


魚類ストレス応答モニタリングのためのフレキシブルバイオセンサの開発

森田千尋,劉 騰宇,呉 海云,村田政隆,松本陽斗,大貫 等,遠藤英明
 本研究では,高い自由度を持つ形状のフィルムを用いた フレキシブルバイオセンサを開発し,魚のストレス応答をモニタリングすることを目指した。まず, in vitro 測定において,本センサがグルコース濃度に対して優れた応答を示すことを確かめた。次に,淡水魚(ナイルティラピア)と海水魚(ニベ・メジナ)の腹腔内にセンサを留置して in vivo 測定を行った。その結果,上記の魚種においてストレス負荷に伴うセンサの応答を捉えたことから,この技術が淡水/海水養殖魚の健康管理の向上に貢献し,業界の発展に寄与する可能性が示唆された。

91(1), 25− 32 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


島根県宍道湖の塩性湿地の植生域と非植生域間におけるベントス群集構造の違い

川井田俊,堀之内正博,倉田健悟,戸田顕史
 島根県宍道湖の塩性湿地にみられるベントス群集構造を2つの生息場所間(ヨシが生える植生域と非植生域)で比較した。種数と個体数は生息場所間で違いはなかったが,多様度指数は植生域で高かった。また,群集構造は両生息場所間で異なり,その違いは主に,両生息場所におけるヤマトシジミの個体数の違い(非植生域よりも植生域で多い)に起因していた。このような多様性やヤマトシジミの個体数の違いには,生息場所間の物理環境(たとえば,複雑な構造をした根や茎の存在,底土の有機物量)の違いが影響を及ぼしていることが示唆された。

91(1), 33− 46 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


キハダ未成魚の体温調節機構の成長に伴う変化

日野晴彦,北川貴士,松本隆之,青木良徳,木村伸吾
 アーカイバルタグ・データを解析して,キハダ未成魚の体温調節機構の成長に伴う変化を調べた。尾叉長40− 60 cmにおける体温と水温の差はそれ以下よりも高い値を示した。潜行・浮上間の全身熱交換係数の変化割合は1.2− 2.0倍の範囲に収まり,産熱速度には成長に伴う一貫した増加・減少傾向が確認されなかった。稀に深層に適応したメバチの典型的行動に類似した行動が確認されたものの,本種は生理的な調節機構がメバチ程には発達していないため,浅層を中心に分布すると考えられた。また1,000 mを超える潜行が観察され,捕食者からの逃避と考えられた。

91(1), 47 −64 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


遺伝学的・形態学的データの統合によってクロアワビとマダカアワビの種区分を評価する

平瀬祥太朗,池谷蒼太,菊池 潔
 日本列島に広く分布する2種の大型アワビ,クロアワビとマダカアワビは,形態学的特徴が異なる別種と考えられており,過去の集団ゲノミクス解析によって,それぞれが独自のゲノム構成を有していることが示されている。しかし,これら2種の遺伝学的データと形態学的データを比較した統合的な解析は行われておらず,これら2種が生物学的に異なる種であるかどうかは不明瞭であった。本研究では,徳島県で漁獲された2種の個体を対象として,遺伝学的データおよび形態学的データに基づく統合解析を行った。2種間でアリル頻度が大きく異なる118個の一塩基多型(SNP)遺伝子座に基づく解析の結果,クロアワビからの遺伝子浸透を示した1個体のマダカアワビを除き,各種は別々の遺伝的クラスターに明確に割り当てられた。また,貝殻形態や足蹠部の色彩の量的形質に基づく複数の統計解析によって,クロアワビからの遺伝子浸透を示した1個体のマダカアワビは,一貫してクロアワビに近い量的形質を持つことが示された。以上の結果から,クロアワビとマダカアワビは自然界において生殖的に隔離された生物学的種である一方で,2種間で生じる交雑がそれらの種間の境界を曖昧にしていると考えられた。

91(1), 65 −75 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


アサリのエラ組織表面から検出された新規繊毛虫類:Mussel Protozoan X(MPX)様繊毛虫類の日本における最初の確認例となる可能性

高嶺菜々子,生田哲朗,松尾亮太,瀧下清貴
 我々の先行研究において,アサリのエラから2種の未知繊毛虫に由来する18S rRNA遺伝子配列(クローン名WJR_C1およびWJR_C2)が検出された。本研究において分子系統解析を行った結果,これらの配列を有する繊毛虫はMPXと呼ばれる寄生生物に近縁であることが示唆された。また,WJR_C1とWJR_C2をそれぞれ特異的に検出するためのPCR法を用いて感染率を調べた結果,地域や季節によって異なることが明らかとなった。さらに,WJR_C1配列を有する繊毛虫の局在性をFISHにより調べたところ,この繊毛虫はエラの表面に局在していることが確認された。

91(1), 77 −88 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


3種のサケ科魚類における餌由来の137 Csの取り込みや排出における体サイズの影響

松田圭史,山本祥一郎
 制御された条件下で摂餌実験を行い,サイズの異なる Oncorhynchus nerkaO. masouS. trutta における一定濃度の137 Csを含む飼料(Rペレット)から筋肉への137 Csの移行を評価した。Rペレットの137 Csの供試魚への同化効率は,すべての種で大型よりも小型の方が明らかに高かった。飼料をRペレットから非汚染のペレットに変更した後の137 Csの排出係数は,すべての魚種で大型よりも小型で明らかに高かった。137 Csの実効半減期は,各種とも小型で34.5− 40.3日,大型で86.2− 100.8日であった。Rペレットを長期間摂取したすべての種の小型と大型の供試魚において,モデルにより推定された定常状態の137 Cs濃度は,すべての種において小型よりも大型の供試魚が高かった。したがって,サイズの違いは,筋肉中の汚染レベルの違いによるサイズ効果を説明する要因になりえることが示唆された。

91(1), 89 −98 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


雌の養殖クロマグロにおける脂質含量の季節変化

林田貴雄,樋口健太郎,松成宏之,鈴木絢子,江場岳史,塩澤  聡,玄浩一郎
 成熟した雌では多大なエネルギーが卵生産に消費され,こうした生理学的変化はしばしば,成長の遅滞や肉質の劣化といった養殖生産性の低下を引き起こす。本研究では,世界的に重要な養殖対象魚であるクロマグロを対象に,養殖生産における雌の脂質含量の変化を周年にわたって追跡調査した。その結果,成熟した雌の養殖クロマグロでは可食部(トロを含む)の脂質含量が産卵期に大きく低下することを明らかにした。さらに本研究は,養殖学的知見のみならず,本種の性成熟に向けた脂質代謝機構を詳細に理解するための重要な知見を提供する。

91(1), 99− 107 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


クロマグロ人工種苗沖出し後の大量死の原因と考えられるウオノエ類の同定

梅田剛佑,新田理人,高野倫一,久門一紀,江場岳史,松浦雄太,松山知正
 鹿児島県加計呂麻島近海で大量死したクロマグロ人工種苗の鰓腔にウオノエ類のマンカと未成熟虫が高頻度に見られた。そのミトコンドリア遺伝子配列は主に Norileca indica ,少数は Ceratothoa carinata と高い相同性を示した。生け簀周辺のメアジからはウオノエ類の雌成体が得られ,その配列は種苗由来の N. indica マンカ・未成熟虫と一致,形態も本種の記載とほぼ一致した。本種は国内初記録である。本研究により,生け簀周辺に生息するメアジを宿主とする N. indica のマンカ・未成熟虫が,本来の宿主でないクロマグロ種苗に寄生し,被害を引き起こしたことが示唆された。

91(1), 109− 120 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


バイオテクノロジーへの幾何学的形態計測の統合:重要な新熱帯カラシンにおける雌雄,雌性発生,二倍体および三倍体の識別

Leonardo Luiz Calado, Uedson Pereira Jacobina,
Mariana Machado Evangelista, Lucas Henrique Piva,
Nivaldo Ferreira Nascimento, José Augusto Senhorini, George Shigueki Yasui
 本研究では,幾何学的形態計測(判別分析,主成分分析および正準変量分析)により,カラシン目アレステス科に属するアフリカ原産の淡水魚( Astyanax altiparanae )の二倍体,三倍体および雌性発生個体の識別が可能であった。これらの遺伝的変異体間の差は,初期の成長速度や,グループ間の性差によって特徴付けられた。本研究による知見は,バイオテクノロジーや繁殖技術の進展のみならず, A. altiparanae の養殖業にも重要である。
(文責 矢澤良輔)

91(1), 121 −131 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


ゲノミクス解析による養殖マダイの家魚化過程の解明

澤山英太郎,黄   鶴,半田佳宏,中野江一郎,赤瀬友里
 本研究では,マダイの新規リファレンスゲノムを開発し,GRAS-Diにより養殖マダイ5集団の集団遺伝学的解析を行った。新規に構築したリファレンスゲノムは24本の染色体(786.0 Mbp)から成り,BUSCO条鰭類データベースに含まれる遺伝子セットの98.6%が含まれていた。集団遺伝学的指標から,養殖集団の遺伝的多様性は著しく低いことが明らかとなった。また,遺伝的集団構造解析の結果,5つの養殖集団内に4つの遺伝クラスターが存在した。選抜育種により選択を受けた可能性のあるゲノム領域を探索したところ,成長および免疫関連遺伝子が含まれていた。

91(1), 133 −146 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


日本の2つの養殖池の金魚から分離された運動性エロモナス属菌におけるMultilocus sequence typing 解析,薬剤感受性,有効ファージの検索

筆島一輝,北岡一樹,金子知義,山村秀一,山崎祐樹,宮永一彦,丹治保典,間野伸宏,常田 聡
 東京・神奈川の金魚の養殖池において,運動性エロモナス敗血症症状を呈した金魚から,2020− 2021年の間で,33株の運動性エロモナス属菌を分離した。Multilocus sequence typing 解析では,分離株の遺伝的多様性を示した。オキソリン酸,ニトリフルラン,スルファメラジン,オキシテトラサイクリンに対して分離株は低い薬剤感受性を示した。同じ養殖池から取得したファージの分離株に対する感染域は狭かった。本研究は,魚から採取された運動性エロモナス属菌の日本で初めての疫学調査である。

91(1), 147 −155 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


岩手県沿岸の底生生物が長楕円形 Alexandrium 属シストの現存量と発芽に及ぼす影響

加賀新之助,伊藤真奈,渡邊志穂,多田裕美子,西洞孝広,伊藤克敏
 三陸沿岸の大船渡湾において,底生生物が有毒プランクトンである Alexandrium 属の長楕円形シストを摂食することによりシストの現存量および発芽能に影響を与えるか検討した。ハナシガイ Thyasira tokunagai およびタケフシゴカイ科の一種 Maldanidae sp. 飼育泥中のシストは減少しないが,シズクガイ Theora lata の場合は有意に減少することから,シズクガイは摂食したシストを消化していることが示唆された。また,シズクガイ,ハナシガイおよびタケフシゴカイ科の一種の飼育泥中のシストは,対照区と比較して発芽率が低くなる傾向が認められた。

91(1), 157 −164 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


Pseudomonas 属水草共生殺藍藻細菌による緑藻増殖促進活性とその活性物質

陳 樹河,今井一郎,酒井隆一,藤田雅紀
 水草由来の殺藍藻細菌が緑藻の増殖を促進する現象の機構解明を目的に,細菌培養液を分画したところ植物ホルモンであるインドール酢酸とその異性体を見出した。それらは緑藻の増殖を促進する一方,藍藻と珪藻には一切影響が無かった。また,これら物質の生産は緑藻との共培養条件では抑制され,またGo58株の宿主となりうる浮草に対して増殖促進を示した。これらの事から,Go58株は水草と相利共生関係を構築しており,植物ホルモン類は宿主のために生産する事,緑藻は本来の対象ではないが補足し利用していることが示唆された。

91(1), 165− 173 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


産卵期マイワシの異常肉ソギーミートの生化学的分析

伊藤真由,野田竜雅,本多穣宇,
松岡ゆかり,居倉瑠希,植田ひまわり,
木下佳奈,山下倫明,井上雅之
 春季に銚子沖で漁獲されるマイワシを原料とするチリトマトソース缶詰は,煮崩れを起こす現象が報告されている。原料魚の生化学性状を調べるため,産卵期を中心としたマイワシの肉質異常を解析した。筋肉におけるセレン含有量は産卵期では少なく,他の月の半分ほどしか含まれていなかった。とくに2021年3月26日に漁獲されたマイワシは筋肉のカテプシンL活性が高い個体が見られた。マイワシの肉質軟化やカテプシンL活性の増大にはセレン欠乏を伴う飢餓条件や栄養障害が関係していることが推定された。産卵期は脂質量,セレン含有量,タンパク量が低下し,プロテアーゼ活性が増加する個体が多いため,2月から5月は魚体の品質が低い。加工原料の漁獲時期には不向きであることが判明した。

91(1), 175− 180 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法


魚病情報の提供が消費者の養殖用稚エビの産地の評価に与える影響

唐川奈々絵,阪井裕太郎,良永知義
 魚病の侵入・まん延は,漁業生産を減少させる食料安全保障の問題であるとともに,天然個体に感染が広がると環境問題ともなりうる。このリスクを減らす方策の一つは,養殖において国産の種苗を使うことである。本研究では,国産の種苗に対して消費者がどの程度の価値を見出すか,また情報の与え方や消費者の属性によりそれが変化するかを検証した。選択実験の結果,環境や食料安全保障に関する情報には平均的に効果がないこと,年齢が高いほど情報に反応すること,男性と女性では食料安全保障情報に対する反応が逆であることが示された。

91(1), 181− 188 (2025)
戻る水産学会HP論文を読む前の号次の号バックナンバーの目次一覧Fisheries Scienceオンライン検索方法