Fisheries Science 掲載報文要旨

蛍光指紋分析による水産物品質評価の可能性(総説)

Md. Mizanur Rahman,中澤奈穂,柴田真理朗,中内茂樹,岡﨑惠美子
 本総説では,蛍光指紋を利用した冷凍水産物の非破壊評価法について詳述した。蛍光指紋は励起蛍光マトリックスとも呼ばれ,異なる励起波長で取得された蛍光スペクトルのデータセットであり, 試料に含まれる成分を反映した3次元データが得られる。この総説では,水産物の鮮度変化とその評価指標について包括的に述べたうえで,それらを蛍光指紋によって非破壊的に計測する手法,さらに可視化のための蛍光指紋イメージングについても紹介する。また,冷凍状態で魚介類品質を蛍光指紋で評価する際の利点についても述べる。

90(3), 339−356 (2024)
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まき網操業を支援する集魚灯を搭載した水上ドローン(USV)

松下吉樹,大沼空広,竹下千代太,白水 涼,伊豆智幸,松野洋介,高木信夫
 夜間のまき網漁業の操業を支援するため,集魚灯を搭載した水上ドローン(USV)を開発した。USVは重量約15 kgで200 Wの水中LEDを搭載し,無線で海面上を移動する。USVはまき網本船が網を揚げる作業時に海面に投入され,網内で灯船に代わって集魚を継続する。USV操業と従来操業の灯船の作業の所要時間を比較したところ,USVを使用した場合,灯船による網内の集魚時間は,1回の投網あたり10分程度短縮された。USVはまき網漁業における操業時間の短縮と安全性の向上に貢献する。

90(3), 357−367 (2024)
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日本海西部域のアカムツを用いた耳石情報から体長・体重を推定するための最適測定部位探索の定量的な手順

田中空太,加藤美緒,金元保之,金岩 稔
 バックカリキュレーション法は推定精度が重要である。本研究ではアカムツの耳石長,耳石重量,耳石面積から体長と体重を推定し,耳石の測定部位による推定精度のばらつきと有効性を評価する一般的で定量的な手順を提供する。体長と体重の換算モデルから,耳石の長さより重量と面積を用いたモデルの精度が高いが,実際の推定値においては0.7%以下の差であり,各モデルの推定精度は同様であった。バックカリキュレーションを行う際には,最適なモデルを定量的に探索し,推定精度を検証し,使用するモデルを選択することが重要である。

90(3), 369−377 (2024)
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日本海南西海域におけるヒラメの年齢,成長,および年齢−体長キーの推定

増渕隆仁,河野光久,下瀬 環,八木佑太,金岩 稔
 ヒラメParalichthys olivaceusは日本の重要な魚種である。一方で,漁獲量低迷に伴って漁業データから得られる情報が少なくなり,資源評価の精度向上が課題である。本研究では,山口県を対象として,成長推定および多項ロジスティックage−length key(ML−ALK)を用いて年齢別漁獲尾数の計算を検討し,欠損値やサンプリングバイアスを考慮した計算方法を検討した。ML−ALKは,性別と季節を考慮したモデルが選択された。また,従来の年齢分解手法よりも相対誤差が小さく,年齢組成の推定精度が高い傾向があった。今後,ヒラメの年齢別漁獲尾数の精度向上が期待される。

90(3), 379−395 (2024)
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Parathelphusa hydrodomousにおけるWSSVに対するSargassum wightiiの有効性の解明

Bharath Raja, Vidya Radhakrishnan
 WSSVはエビ養殖に経済的損失を与えている。ウイルスが宿主細胞に感染する際に作用するエンベロープタンパク質は,薬剤開発の標的となる。本研究では,Sargassum wightiiの抗ウイルス活性をin-vitroおよびin-silico解析で評価した。P. hydro­domousS. wightii抽出物とWSSVを注射したうえで,感染後30日間観察し,生残試験等により抗ウイルス活性を確認した。GC-MSによりS. wightii中の15種類の化合物を同定し,in-silicoドッキングシミュレーションによりVP28およびVP26エンベロープタンパク質とstigmasta-4,22-dien-3-one間の強い相互作用が確認され,タンパク質とリガンドの結合安定性が検証された。これらの結果は,WSSVの治療薬としてのS. wightiiの可能性を裏付けるものである。
(文責 矢澤良輔)

90(3), 397−408 (2024)
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ブリにおける食欲亢進ホルモン候補に関する研究:アグーチ関連ペプチドのクローニングと組織分布,5つの食欲亢進ホルモン候補の絶食と魚粉水溶性画分添加と魚粉飼料給餌への応答

深田陽久,村下幸司,泉水彩花
 ブリから2種のアグーチ関連ペプチド(Agrp1とAgrp2)の塩基配列を同定した。ブリにおける神経ペプチドY(Npy)等の5つの食欲亢進ホルモン候補とともに,絶食,魚粉水溶性画分添加と魚粉飼料給餌に対する応答を調べた。以上から,agrp1npyは食欲亢進作用を有すると考えられ,異なるメカニズムでブリの食欲を亢進させると考えられた。

90(3), 409−423 (2024)
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ダイノルフィンはモザンビークティラピアの精子形成に阻害する

Deepak Shinde, Shilpa Keshav Bhat, C. B. Ganesh Karnatak University Dharwad
 内因性オピオイドが魚類の精子形成に与える影響は不明である。本研究ではオピオイドの一つ,ダイノルフィン(DYN)のモザンビークティラピア精巣への影響を腹腔内投与実験で検討した。試験魚に21日間DYNを投与した結果,二次精母細胞以降の細胞数が減少し,精巣の組織学的形態にも影響を及ぼした。また,血中11-KTとLH量がDYN投与によって低下した。このことから,DYNは減数分裂過程に影響して精子形成を阻害することが示唆され,その作用は11-KTとLHを介することが考えられた。
(文責 渡邊壮一)

90(3), 425−433 (2024)
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松前半島周辺におけるホッケPleurogrammus azonusの産卵場選択と仔魚の摂餌生態

高津哲也,豊永知明,平尾真也,大岡恵理,小林直人,中屋光裕
 北海道館浜沿岸表層ではホッケ卵黄嚢仔魚が1月下旬〜2月下旬に多く採集され,対馬・津軽暖流によって東部沖合に輸送されていた。仔魚は主にかいあし類Oithona similisコペポダイトを捕食し,沖合ほど高い摂餌強度を示したことから,沖合までの距離が産卵場選択要因の一つと考えられた。仔魚は発育が進んだ形態でふ化することで,摂餌開始期からコペポダイトを捕食でき,摂餌強度が低下しにくいと解釈された。

90(3), 435−452 (2024)
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アルファルファ飼料がコイ種苗の成長,生化学特徴,エロモナス・ソブリア抵抗性に及ぼす影響

Yogesh Kumar Rawal, Oshin Dhillon, Chhomo Thayes, Sidharth, Gagan Mittal
 アルファルファ葉飼料のコイ種苗の成長,体成分,酵素活性,生化学的指標,腸管組織形態,抗病性への効果を調べた。0.0から1.0%葉抽出物添加飼料の60日間飼育で,消化酵素活,成長率,タンパク質効率,飼料転換効率の添加量に応じた改善,血液生化学的指標性上昇を得た。1.0%添加区で対照区より魚体タンパク質量が有意に増加した。腸管組織形態,エロモナス・ソブリア攻撃試験生残率も改善された。抽出物は抗酸化,免疫賦活能を有し,それらによる成長改善,細菌感染抵抗性向上が持続可能な養殖に有効であることが示された。
(文責 澤田好史)

90(3), 453−465 (2024)
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スネークヘッドベシクロウイルスを迅速に目視検出するLAMP法の開発

Mengya Guo, Zicheng Zhou, Sunan Xu, Vikram N. Vakharia, Weiguang Kong, Xiaodan Liu
 ライギョ養殖で問題となっているスネークヘッドベシクロウイルス(SHVV)を,loop-mediated isothermal amplification(LAMP)法で検出する方法を開発した。特異性の確認に用いた他7種のウイルスで交差反応は検出されず,ヒドロキシナフトールブルーを利用した目視判定が可能であった。検出限界は1.76×102コピー/μLとRT-PCR法の1/100で,供試した50標本中,LAMP法では32,RT-PCR法では22が陽性を示した。本法によりフィールドにおけるSHVVの迅速検出が可能となり,ライギョ養殖に資すると考えられる。
(文責 金子 元)

90(3), 467−474 (2024)
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クライゼル水槽を用いたクロマグロの小規模初期飼育

高志利宣,山崎 渉,山口勝海,小西淳平,伊奈佳晃,阪倉良孝,田中庸介,橋本 博,樋口健太郎,玄浩一郎
 8 Lクライゼル水槽を用いてクロマグロの初期飼育技術を確立した。飼育実験の結果,10日齢における生残率は円柱型の8 L水槽で4.8±3.6%であったのに対し,クライゼル水槽では 58.9±4.8%と有意に生残率が高かった。一方で,水槽間の成長に差は見られなかった。クライゼル水槽では鉛直的な回転流が形成される。夜間に沈降したクロマグロ仔魚は,水槽底に到達せずに回転流に乗って上方へ輸送されていた。この鉛直的な回転流が夜間の沈降を防除し,生残率の改善に寄与していると考えられた。

90(3), 475−484 (2024)
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クロソイSebastes schlegelii用飼料におけるビタミンC供与源としての柑橘類副産物

Hyunwoon Lim, Jin-Woo Song, Jaehyeong Shin, Gunho Eom, Suhyeok Kim, Yeonji Lee, Wonhoon Kim, Kyeong-Jun Lee
 Sebastes schlegelii対するビタミンC供与源としての柑橘類副産物(CBP)の効果をLアスコルビルポリリン酸(LAPP)と比べた。基本飼料(Con)とビタミンCが90または360 mg/kgの5種類の飼料を13週間与えると,Con区の飼育成績が有意に劣り,肝臓のビタミンC濃度はLAPPの添加に伴い有意に増加した。LAPP区とCBP区のリゾチーム活性と総免疫グロブリン量がCon区より有意に高く,Streptococcus iniaeに対する抵抗性も有意に優れ,CBPの有効性が示された。
(文責 芳賀 穣)

90(3), 485−493 (2024)
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人工種苗由来カンパチ成魚で見つかった雌雄同体現象

青木隆一郎,升間主計,鷲尾洋平,中田 久,家戸敬太郎
 人工種苗カンパチにおいて奇形的雌雄同体が見つかった。雌雄同体個体の尾叉長と体重は同じ群れの雌雄異体個体に比べて有意に大きかった。生殖腺の両葉にはそれぞれ精巣と卵巣が同所していた。組織学的観察において,精巣部分には精子が形成され,卵巣部分には卵黄球期に達した卵母細胞が観察された。血漿中性ステロイドホルモン(estradiol-17β,11-ketotestosterone)濃度は,雌雄異体の雄個体の濃度と同等であった。これらの結果から,人工種苗カンパチの雌雄同体個体は雌雄異体よりも成長が早い傾向が認められ,精巣は雌雄異体の雄と同様に成熟していた。

90(3), 495−503 (2024)
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乳酸菌を指標とした魚類養殖場における環境悪化の早期予測

永田恵里奈,中瀬玄徳,黒田恭平,成廣 隆,江口 充
 和歌山県田辺湾の酸揮発性硫化物(AVS−S)の値が異なる2つの養殖場,St. OJ(平均0.24 mg−S/g−dry mud)とSt. UM(平均1.16 mg−S/g−dry mud)で3年にわたり,底泥(表層1 cm)のAVS−S,乳酸菌数,有機酸と細菌叢を調べた。St. UMの細菌群集は,AVS−Sおよび水分含量と正の相関を示した。St. OJの細菌群集は,乳酸菌数,コハク酸,総有機酸濃度,およびBacilli綱の存在量と高い正の相関があった。養殖場の底質の悪化の前兆を乳酸菌数により把握できる可能性が示された。

90(3), 505−517 (2024)
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イクラアレルギー患者におけるサケ筋肉摂取の安全性評価

清水 裕, 趙 佳賢,佐伯宏樹
 イクラアレルギーにおけるサケ肉喫食の安全性評価のため,性別と成熟度の異なるシロザケでの魚卵アレルゲン(β’-component,BC)の体内分布を調べた。成熟メスの筋肉と各種内臓には,イクラアレルギー患者由来のIgEと反応するBCが含まれていた。一方,メス性ホルモン刺激によるVg合成が起きなかった成熟オスでは,BCは不検出であった。また,未成熟魚ではBCが不検出の魚体が確認できた。以上の知見は,性別や成熟度への考慮が,イクラアレルギー患者のサケ肉摂取における安全性確保に寄与することを示唆している。

90(3), 519−528 (2024)
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生鮮ヒラメのパッケージ上の鮮度,味,調理提案のラベル表示に対する消費者選好

神山龍太郎,若松宏樹,世古卓也,石原賢司
 本研究は生鮮ヒラメのパッケージ上の鮮度,味,調理提案のラベルに対する消費者評価を解明することを目的とした。2021年9月に消費者12名に対しグループインタビューをおこない,ラベルの評価に関する質的データを収集した。同年10−11月に関東の消費者3,651人を対象としたウェブ調査により選択実験をおこない,潜在クラスロジットモデルにより分析した。鮮度ラベル(活締めや朝締めの表示)はどのクラスの消費者にも高く評価された。味ラベルは一部の消費者に高く評価された。ムニエルのラベルはネガティブに評価された。

90(3), 529−544 (2024)
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