Fisheries Science 掲載報文要旨

小型底曳網の漁獲努力を自動予測するための機械学習と閾値処理によるアルゴリズム

川口 修
 資源評価のため,漁獲努力量の情報を迅速に自動収集する必要がある。本研究では,小型底曳網漁業の漁獲努力を予測する2つのアルゴリズムを構築した。これらは,データの前処理後,操業条件の分類処理とこれに続く閾値処理を行う。分類処理には,機械学習(ML)または閾値処理(TH)を用いた。MLの平均予測誤差は,操業回数で1−11%,操業時間で2−8%,操業距離で1−5%,一方,THは,操業回数で3−52%,操業時間で2−5%,操業距離で2−7%であった。また,いずれも5日分のデータで予測が可能であった。

90(2), 123−137 (2024)
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パラダイムシフト:マグロまき網漁船のFAD漁業と自由遊泳群漁業が北東大西洋のスマ属魚類の資源状態に与える影響の漁獲量と資源量の指標を用いた評価

Komba Jossie Konoyima, Richard Kindong, Jiangfeng Zhu
 大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の優先調査対象である大西洋のスマ属魚類の北東大西洋の資源動態に関する研究は限られている。本研究では,マグロ巻き網漁船の集魚装置(FAD)と自由遊泳群(FSC)漁業の影響を評価するモデルを提案する。JABBAとCMSY++を適用した2つのモデル診断では,いずれも乱獲状態([F/FMSY] > 1.5,[B/BMSY] < 0.5)を示した。JABBAの将来予測では,漁獲制限が実施されない限り,マグロ巻き網漁船のFAD漁業とFSC漁業によって資源が崩壊する可能性を示唆した。適用されたモデルはいずれもスマ属魚類の資源状態予測に適しているが,本研究で用いられた資源量指数の動向を考慮すると,管理上の助言は慎重に適用されるべきである。
(文責 松石 隆)

90(2), 139−160 (2024)
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FADが海鳥に与える影響を分析するためのレーダー画像による海鳥識別法

Qinglian Hou, Rong Wan, Cheng Zhou
 レーダーはマグロまき網漁業での海鳥の探知に非常に有効である。本研究では,海鳥クラスターの数,面積,活動レベルを推定できる海鳥識別法を紹介する。漁船のレーダーを用いて,キリバス共和国沖において漁船から海鳥群情報を収集し,海鳥エコーの空間的クラスタリングを計算した。一般化加法混合モデルを用いて,集魚装置(FAD)と海鳥の動態の関係を調べた。その結果,FADが海鳥の行動に影響を与えることがわかった。次に,算出されたレーダー画像情報を比較したところ,FAD周辺の鳥類クラスターは集中・密度が高く,活動レベルが低いことが観測された。
(文責 松石 隆)

90(2), 161−168 (2024)
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広島湾の自然海岸周辺におけるクロダイの移動と行動圏

津行篤士,海野徹也
 本研究ではクロダイの生息地利用の実態を把握するため,広島湾沿岸にて釣獲したクロダイ成魚6尾に深度センサ付き超音波発信器を装着し,携帯型の超音波受信機により標識魚の位置と利用深度を計54日間計測した。標識魚は12 m以浅の潮下帯及び潮間帯に滞在した。また,カーネル密度推定法により推定した95%行動圏面積の平均値は60,207±99,437 m2,1日あたりの移動距離の平均値は191±272 mであった。以上の結果より,広島湾では潮間帯とその周辺の潮下帯がクロダイの重要な生息場となっていることが示された。
90(2), 169−177 (2024)
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ミズクラゲAurelia coeruleaのストロビレーションにおける細胞増殖の役割

藤井夏鈴,小山寛喜,国吉久人
 ミズクラゲのストロビレーションは,ストロビラの口側から反口側に向かって分節が順に形成される分節形成期と各分節がエフィラ形態を形成する形態形成期に分けられる。ストロビレーションの各段階と細胞増殖の関係を調べるため,BrdUラベル法による細胞増殖の検出と細胞増殖阻害剤の投与実験を行った。細胞増殖は,次の分節が形成される領域で分節形成に先立って起きており,分節形成期,形態形成期の分節でも継続していた。ストロビレーションの開始,分節形成,形態形成の全ての段階で細胞増殖が必要であることが示唆された。

90(2), 179−190 (2024)
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タイランド湾奥ペッチャブリー産オグロイワシの体長-体重関係と繁殖

Sawika Kunlapapuk, Sathit Boonnom, Chombhak Klangrahad, Phitak Siriwong, Pawapol Kongchum
 ペッチャブリー沿岸の刺網漁業によって漁獲されたオグロイワシの体長−体重関係(LWR)と様々な繁殖パラメータを調べた。LWRは雌雄で有意差が認められた。回帰係数(b)は雌雄で等尺性成長を示し,正のアロメトリック成長を示した。肥満度は雌で1.02 (SE 0.004),雄で0.99 (SE 0.004)で,9月にピークに達した。GSIは9月にピークに達し,繁殖期は8月から10月であった。相対産卵数は2249.3 cm−1 (SE 80.8),1037.7 g−1 (SE 27.9)であった。タイランド湾奥における本種の適切な保全管理戦略の策定への本研究結果の活用例を議論した。
(文責 松石 隆)

90(2), 191−200 (2024)
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遺伝子発現変動と選択的スプライシングから見たテナガミズテングの低酸素適応の分子機構

Zhicheng Sun, Linlong Wang, Yefu Kong, Jiachen Sun, Bin Kang
 テナガミズテングHarpodon nehereusは,中国南東沿岸の優占魚種で,優れた低酸素耐性が資源増加の一因と考えられる。本研究では,長江河口付近の通常環境,低酸素環境から本種を採集し,発現変動遺伝子と選択的スプライシング(AS)の比較を行った。低酸素環境ではASは鰓と心臓で増加し,筋肉で減少した。鰓では膜輸送やグリセロリン脂質代謝遺伝子等に,心臓では細胞周期,FoxOシグナリング遺伝子等に,筋肉では細胞周期や代謝率低下関連の遺伝子等にそれぞれ発現変動やASが認められた。また,鰓の再構築,心拍上昇,筋肉の血管形成等に関連する遺伝子の低酸素適応への関与が示唆された。
(文責 井上広滋)

90(2), 201−213 (2024)
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オニテナガエビMacrobrachium rosenbergiiの遺伝的系統と世界中の個体群との関連性

Deepak Jose, Harikrishnan Mahadevan, Valiyaparambil Mohanan Bijoy, Madhusoodana Kurup
 オニテナガエビは,遺伝学的に,複数個体群に区別される。インド水域では個体群間の分子生物学的差異の報告があるが,南インドのヴェンバナド湖には別系統の存在の可能性があるため,同湖の系統について調査した。湖の下流部と上流部から試料を採取し,COI配列を決定した。配列アラインメントにより,特定サンプルで塩基置換があり,集団的差異の可能性が示された。世界中の系統を,開発された本種のCOI配列で解析したところ,西部と中部での個体群の存在が示された。本研究は,遺伝学的アプローチによる本種の天然資源の同定を推奨する。
(文責 小谷知也)

90(2), 215−225 (2024)
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養殖ブリSeriola quinqueradiataの季節的な成長を考慮したステレオカメラを用いた体サイズ推定手法

米山和良,池上温史,福田吉之介,
石田 梓,佐々木勇人,前野 仁,浅海 茂,
内田 隆,片平裕生,関 昭生,岡 哲生,
椎名康彦,高橋勇樹
 養殖ブリの成長モニタリングに適した方法を検討するため,捕獲計測,ステレオカメラによる手動計測,自動計測を比較した。捕獲計測は標本数が少なく正確さを欠いたが,カメラによる手動測定と自動測定は,周期性を考慮した成長モデルに適合した。養殖ブリの成長速度は季節的に変化していることがわかった。水揚げ直前のカメラ自動計測の平均と全数捕獲計測の平均が乖離していた。単一の測定では偶発的な外れ値の影響を受けるリスクがあり,外れ値の影響を受けないように連続測定から推定される成長モデルを用いて予測を行うことが重要である。

90(2),227−237 (2024)
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バイオフロック飼育系におけるナイルティラピアへの炭素窒素比の影響

Prasenjit Mali, Swagat Ghosh, Gadadhar Dash, Supratim Chowdhury
 バイオフロック技術(BFT)は水産養殖分野で活用が進んでいる。本研究ではナイルティラピアBFT飼育系にジャガリーを添加することで炭素窒素比を15:1,20:1,25:1に調整し,120日間飼育後,この比が水質,微生物相,飼料効率,成長,体組成等に与える影響を検討した。その結果,炭素窒素比15:1環境飼育群が他の飼育群と比較して,生残率,成長率,飼料効率,ストレス指標など多くの面で優れた成績を示した。これらのことからナイルティラピア養殖にBFTを用いる場合,環境の炭素窒素比は15:1が適切であると考えられた。
(文責 渡邊壮一)

90(2), 239−256 (2024)
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コラーゲンケーシングを用いたマダコ用育成飼料の有効性

鈴村優太,松原圭史,森井俊三,阿部正美,イアン・グレドル,西川正純,片山亜優,西谷 豪,福島 天,山崎 剛,秋山信彦
 タコの飼育に適した給餌方法として,コラーゲンケーシングに原料を封入した飼料を作成した。イカとカニの2原料でケーシングに封入した場合と封入しない場合で成長を比較した。カニではケーシングに封入することで成長が改善された。タコがケーシングの中身のみを摂餌することも観察されたため,摂餌途中の餌の酵素活性を測定したところ,後唾液腺に由来すると考えられるプロテアーゼが検出された。よって,ケーシングで包むことで飼料の保形性が向上する他,摂餌時の酵素の流出が抑制され,効率的な摂餌が可能であると結論づけた。

90(2), 257−267 (2024)
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遊泳行動シミュレーションを用いたステレオカメラ計測に生じるバイアスの評価に関する研究

高橋勇樹,池上温史,
前野 仁,浅海 茂,
関 昭生,岡 哲生,椎名康彦,
米山和良
 ステレオカメラを用いた養殖魚の体長計測システムを対象に,遊泳深度選択性を考慮した遊泳行動モデルを構築することで,カメラの設置位置等が測定結果に及ぼす影響をシミュレーションした。ブリSeriola quinqueradiataを対象とし,生簀網モデルの5か所に仮想的なカメラ設置し,カメラによる体長計測値を母集団と比較した。水面に近いカメラでは,大型個体が上方を遊泳するモデルにおいて,大型個体が多く撮影された。提案したシミュレーションにより,ステレオカメラによる測定バイアスを事前に評価でき,カメラ設置の事前検討に活用可能と期待する。

90(2), 269−279 (2024)
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汽水性カイアシ類Pseudodiaptomus inopinusはマダイ仔魚の嗜好性を変化させる

佐々木拓,松井英明,桑原侑佑,
横山佐一郎,石川 学,小谷知也
 マダイ仔魚へのカイアシ類の摂餌刺激作用と餌料価値を検討した。カイアシ類単独給餌(C単独),ワムシとの混合給餌(ワムシの2%),ワムシ単独給餌(R単独)の3試験区を用意した。C単独では成長率が増加し,生残率が低下した。混合給餌ではR単独と比べ成長率は同じで,生残率は低下した。混合給餌の胃内容物からワムシよりもカイアシ類を優先的に摂餌すると判断された。カイアシ類は魚類の摂餌を刺激する遊離アミノ酸を多量に含んでいた。遊離アミノ酸が仔魚の嗜好性を変化させ,R単独より飼育成績で負の影響となった可能性がある。

90(2), 281−294 (2024)
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鶏卵黄と乳タンパク質からなる飼料はウナギ仔魚用サメ卵代替飼料となりうる

古板博文,神保忠雄,樋口理人,野村和晴,
須藤竜介,松成宏之,村下幸司,奥 宏海,
山本剛史,田中秀樹
 鶏卵黄及び乳タンパク質を主原料とする2種類の飼料を作製し,ウナギ仔魚用飼料としての性能を飼育試験によりサメ卵主体飼料と比較した。鶏卵黄と脱脂粉乳を主原料とする飼料1,及びそれを改良し,カゼイン,酵素処理魚粉を加えた飼料2ともに,サメ卵主体飼料と同等あるいは上回る生残率,成長を示した。さらに,いずれの飼料でもシラスウナギを育成することができたが,実験1ではサメ卵飼料に比べて形態異常が多かった。鶏卵黄及び乳タンパク質を主原料とする飼料は,サメ卵主体飼料を代替できるウナギ仔魚用飼料になりうると考えられた。

90(2), 295−305 (2024)
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カスピ海産クトゥムRutilus kutumの皮膚および鰾からのエラスチンの抽出および微細構造とフーリエ変換赤外分光分析による特性評価

Rezvan Mousavi-Nadushan,
Naghmeh Roohi-Shalmaee,
Milad Mahmoodi-Kelarijani
 Rutilus kutumから表皮および鰾を酸加水分解とアルカリ熱抽出法することにより,エラスチンを抽出した。得られた抽出物は,αへリックスとβシートの比率がエラスチンと類似していた。可溶性エラスチンはアミドや極性が高く,その反応性から食品のテクスチャやバイオポリマーのデザインを改善し得る。一方,不溶性のエラスチン粉末はアミドや極性が低く,細胞培養に有用かもしれない。両エラスチンとも40 kDa付近の成分が主で,コラーゲンの混入は見られず,純度が高かった。
(文責 神保 充)

90(2), 307−317 (2024)
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本州に生息するオオツノヒラムシPlanocera multitentaculataのフグ毒保有状況について

周防 玲,田中真誠,浅野真希,糸井史朗,
中東亮太,西川俊夫,安立昌篤,
小木曽正造,松原 創,鈴木信雄
 オオツノヒラムシPlanocera multitentaculataは高濃度のテトロドトキシン(TTX)を保有することが知られている。これまでオオツノヒラムシにおけるTTX関連化合物の保有状況については我々が報告した1例のみであったことから,本研究では日本沿岸海域(5地点)で採取したオオツノヒラムシのTTX関連化合物の保有状況を調査した。その結果,各地点で採取されたすべてのオオツノヒラムシはTTX,および主要なTTX関連化合物(5,6,11-trideoxyTTX, 11-norTTX-6(S)-ol, monodeoxyTTXs, dideoxyTTXs)を含んでいた。個体の成熟度や体サイズに応じてTTX含量に差はあったが,主要なTTX関連化合物の組成比は一致することが示された。

90(2), 319−326 (2024)
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加熱前貯蔵と加熱条件の組み合わせがブリ各部位のテクスチャーおよび呈味成分変化に及ぼす影響

古田 歩,谷本昌太
 加熱前貯蔵と加熱条件の組み合わせがブリ各部位のテクスチャーと呈味成分変化に及ぼす影響を検討した。かたさとサンプル厚は,普通肉では加熱条件のみ影響を受けたものの,血合肉では加熱条件と貯蔵条件に影響を受けた。呈味成分の分析データに基づき作成した階層的クラスター解析では,加熱条件と貯蔵条件に影響を受けたものの,等価うま味濃度は貯蔵により低値傾向にあった。以上より,ブリの場合,熟成は行わず,適切な加熱条件により加熱することが嗜好性の高い加熱魚肉の調製に重要であることが示唆された。

90(2), 327−336 (2024)
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