Fisheries Science掲載報文要旨

ベトナムのエビ養殖を対象としたGISと機械学習によるメコン川東岸のエビ養殖の魚病の予測

Nguyen Minh Khiem,高橋勇樹,安間洋樹,
Dang Thi Hoang Oanh,Tran Ngoc Hai,
Vu Ngoc Ut,木村暢夫

 本研究では,地理情報システム(GIS)と機械学習を用いることで,ベトナム,メコン川東岸のエビ養殖における,3種の魚病の発生リスクを予測した。まず,複数の機械学習モデルを比較し,最も精度の高かったニューラルネットワークモデルを用いることとした。モデルにより発生リスクをマッピングしたところ,メコン川の下流域で魚病リスクが高いことが分かった。これは,メコン川の下流域の養殖池では使用する水を共有しており,魚病が伝搬しやすかったためと考える。本研究の結果は,エビ養殖における魚病のリスク管理への活用が期待される。

88(1), 1-13 (2022)
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タイ国パッターニー湾Rastrelliger brachysoma刺網漁業における網目サイズ,漁場水深,操業時期が漁獲・投棄に及ぼす影響

Kay Khine Soe, Siriporn Pradit,
Zeehan Jaafar and Sukree Hajisamae

 タイ国パッターニー湾のRastrelliger brachysoma刺網漁業における網目サイズ,漁場水深,操業時期が対象種,非対象種の漁獲に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。2019年2月~2020年2月に水深2~6 mの漁場で目合3.0~4.5 cmの刺網で行った漁獲試験では,主対象魚を含む112種類が漁獲され,多くは非対象種であった。漁獲物組成は12月~3月と4月~11月の2つの季節群に分けられ,水深によって魚種数,サイズが異なり,網目サイズが漁獲個体数,重量,サイズに有意な影響を与えた。本研究の結果は持続的な漁業管理に重要な情報を提供できると考えられた。
(文責:江幡恵吾)

88(1), 15-27 (2022)
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西日本の浅い汽水湖における晩夏のニホンウナギの活動と空間利用パターンに対する環境の影響

板倉 光,三宅陽一,脇谷量子郎,木村伸吾

 テレメトリーを用いて,西日本の浅い汽水湖における晩夏のニホンウナギ5個体の昼夜の活動パターンや空間利用を個体ごとに調査した。調査水域に生息する本種は強い夜行・薄明性を示し,活動度は薄明時に最も高かった。一方,光量が減少する曇りの日には夜の活動が日中まで延長していた。また,活動度は満月の時に高くなった。本種は日中に岸付近の水域で休息し,夕暮れから夜にはより沖合にも進出するが,個体ごとに特定の場所を利用し,湖岸に沿った小さい範囲を行動圏としていた。本研究は,本種の日本海側の分布北限域での新しい生態特性を明らかにし,本種資源の保全に貢献する。

88(1), 29-43 (2022)
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単回および反復熱ストレスがメダカの不安様行動と活動量に及ぼす影響

大塚愛理,下村祐輝,﨑久保帆風,三浦健佑,加川 尚

 異なる期間の熱ストレス負荷が雄メダカの行動および脳内モノアミン合成に及ぼす影響を調べた。その結果,7日間繰り返し負荷した個体では,不安様行動がみられるとともに,脳内セロトニン合成酵素遺伝子の発現が低下した。一方,単回負荷した個体では,活動量が増加するとともに,脳内ドーパミン合成酵素遺伝子の発現が増加した。急性および慢性ストレスに対する魚類の行動応答と,その行動応答における脳内モノアミン合成の役割を調べる上で,本研究に用いたストレス負荷実験および行動試験が有用であることが示された。

88(1), 45-54 (2022)
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単独種または混群飼育条件でアジ科2魚種から放出された環境DNA量

村上弘章,益田玲爾,山本哲史,源 利文,山下 洋

 環境DNA放出量に種間の相互作用が影響を与える可能性を検討するため,12日間の飼育実験を行った。シマアジおよびマアジの稚魚を単独種または混合種の条件で水槽に収容し,給餌する日としない日を設け,環境DNA放出量を日ごとに定量した。放出量は魚の収容直後に多く,給餌の有無に効果は認められず,両種間で放出量に違いはなかった。また,単独種と混合種の条件でも違いは認められなかったことから,形態と行動の類似した魚種の放出する環境DNA放出量は同程度であり,異魚種の混在による干渉は無視できると考えられる。

88(1), 55-62 (2022)
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伊勢湾におけるヨシエビの生殖年周期

山根史裕,水藤勝喜,奥村卓二,
豊田賢治,筒井直昭,大平 剛

 伊勢湾産ヨシエビの卵黄および精子形成の年周期,交接の時期と卵巣成熟度の関係を調査した。その結果,卵黄蓄積は5月下旬から認められ,卵影比の高い個体は7月下旬から9月中旬にかけて多く出現した。また,7月下旬の産卵個体の卵巣には外因性の卵黄蓄積を開始した卵母細胞が認められた。一方,雄の精巣内には6月上旬から10月上旬にかけて精子が認められ,雌の貯精嚢内には7月上旬以降精包がみられた。以上から,伊勢湾産ヨシエビは7月上旬から交接を開始し,7-9月の産卵期間中に2回以上産卵していると考えられた。

88(1), 63-73 (2022)
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三陸沿岸のコモンフグ稚魚の毒性

天野勝文,久保田尚孝,金田英子,青木大輔,山森邦夫

 フグの毒化機構の解明のために,三陸沿岸のコモンフグ稚魚の毒性を調べた。2001年9月に岩手県越喜来湾鬼沢漁港で採集した稚魚を,吉浜湾の海水を引いた大学水槽で6週間飼育した。その間,鬼沢漁港と水槽の稚魚の毒性を測定した。毒性は鬼沢漁港では増加したが,大学水槽では変化がなかった。次に2008年9月から11月まで越喜来湾内の近接した2漁港(鬼沢漁港,越喜来漁港)と吉浜湾の吉浜漁港で漁獲した稚魚の毒性を調べた。鬼沢漁港では他の2漁港よりも毒性が高かった。以上より,コモンフグ稚魚の毒性には地域差が大きいことが示された。

88(1), 75-81 (2022)
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オクタン酸の脳室内注入はチャイニーズパーチSiniperca chuatsiの視床下部脂肪酸感受系を活性化し食欲を制御する

Hexiong Feng, Di Peng, Xu-Fang Liang, Jiao Li,
Haocan Luo, Shulin Tang & Farui Chai

 チャイニーズパーチSiniperca chuatsiの脳室内に生理食塩水またはオクタン酸溶解生理食塩水を注入し,摂餌量と脂肪酸感受系(cpt1c, cd36, pparαおよびsrebp1c)および視床下部神経ペプチド関連遺伝子(agrp, npy, pomc and cart)の転写レベルを調べた。注入4時間後に視床下部のagrpのmRNAレベルの減少とcd36pparαの増加に伴い摂餌量が有意に減少し,中鎖脂肪酸が中枢での脂肪酸感受系と食欲制御に鍵的な役割をもつことが示された。
(文責:芳賀 穣)

88(1), 83-90 (2022)
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環境DNAを用いて推定したクロダイの分布の季節変化

笹野祥愛,村上弘章,鈴木啓太,
源 利文,山下 洋,益田玲爾

 環境DNAを用いてクロダイの海域での分布特性の解明を試みた。2017年5月から翌年4月の間に12回にわたり,丹後海の12地点の海面と海底直上で採水し,クロダイの環境DNAを定量した。本種の環境DNAは河口付近や沿岸3 km以内で多く,岸から離れると急激に減少した。ただし産卵期の5-6月には,卵や仔魚由来と考えられる環境DNAが岸から19 km離れた沖合でも検出された。仔魚期に沖合表層を漂い稚魚期以降は沿岸浅所を好む本種の分布特性を,環境DNAにより捉えることができた。

88(1), 91-107 (2022)
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北海道オホーツク海沿岸の冷水帯における海鳥2種の分布と利用環境

西沢文吾,大門純平,三谷曜子,中村知裕,
山口 篤,向井 徹,綿貫 豊

 北海道オホーツク海沿岸の冷水帯における海鳥の採餌環境を調べるため,2019年夏季に船舶からの海鳥目視調査,計量魚群探知機による餌分布調査,海洋物理環境調査をおこなった。ハシボソミズナギドリArdenna tenuirostrisの採餌群は冷水帯で観察され,そこは表面クロロフィルa濃度が高かったが,動物プランクトンバイオマスは小さかった。ウトウCerorhinca monocerataの分布密度は宗谷暖流域で高く,そこは魚類バイオマスが大きかった。両種の環境利用の違いは,餌探索方法の違いと関係しているかもしれない。

88(1), 109-118 (2022)
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塩分変化がヤマトシジミCorbicula japonica成貝の潜砂行動に与える影響

宮島(多賀)悠子,桑原久実

 種苗放流が行われるヤマトシジミは,塩分変化の激しい汽水に生息する。本種は潜砂によって食害が減少することから,放流後生残率の改善のため,塩分変化が潜砂に与える影響を調べた。その結果,潜砂行動に対し塩分変化は負の,一定塩分での事前馴致は正の影響を与えた。塩分変化が大きい(±25)と24時間後も潜砂せず,小さい(0)と0.56時間で潜砂し,事前馴致がない場合,潜砂が生じやすい塩分変化範囲は-4.7から+9.9と予測された。本種の放流においては,塩分馴致や産地と放流先の塩分環境を揃えることが有効である。

88(1), 119-130 (2022)
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サンマ0歳魚の成長,輸送,摂餌回遊モデリング

小柳津 瞳,巣山 哲,安部大介,伊藤進一,伊藤幸彦

 本研究では,サンマの輸送・移動と成長の連環を理解するため,冬季産卵の0歳魚を対象とした個体ベースモデルを開発した。モデル個体(superindividuals:SI)は産卵場に配置され,衛星データを用いて,成長と輸送・移動が計算された。成長率条件による拡張キネシスアルゴリズムの再現性が最も高く,また死亡率を考慮すると生残個体の成長履歴は耳石から求めたものと定性的に整合した。耳石から得られた成長履歴と適合するSIは,春から初夏にかけて北上すると成長率が上昇し,夏の終わりに高生産性ゾーンの急激な北上から外れると成長率が低下した。

88(1), 131-147 (2022)
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空気呼吸魚プラーチョンにおける呼吸,酸素分配,成長に及ぼす体サイズと亜硝酸曝露の影響

Truong Quoc Phu, Bui Thi Bich Hang, Dang Diem Tuong,
Vila-Gispert Anna,金子豊二,Nguyen Thanh Phuong,
Do Thi Thanh Huong

 タイワンドジョウ科の空気呼吸魚プラーチョンChanna striataにおける代謝率と成長に及ぼす体サイズと亜硝酸濃度の影響を調べた。体重増加に伴い基礎代謝率(SMR)とルーチン代謝率(RMR)は指数関数的に減少した。亜硝酸レベルの緩やかな上昇によりSMRとRMRはともに有意に増加したが,成長と生残率に影響はなかった。しかし,亜硝酸レベルが激しく上昇すると成長と生残率は有意に低下した。体サイズが両代謝率に影響を及ぼす一方で,空気呼吸の占める割合に変化はなかった。本研究により,環境水中の亜硝酸濃度を12 mg/L未満に維持すればプラーチョンの成長と生残率に悪影響は出ないことが判明した。

88(1), 149-159 (2022)
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クロマグロ仔稚魚の飼育成績に及ぼすペルー産魚粉および酵素処理チリ産魚粉の有効性

曺 貞鉉,芳賀 穣,神村祐司,伊藤 暁,佐藤秀一

 クロマグロ仔稚魚のペルー産魚粉飼料(FM)およびチリ産酵素処理魚粉飼料(ETFM)の有効性を検討した。孵化後20日齢の体重52.8 mgの仔魚をハマフエフキ孵化仔魚(PF)と配合飼料で3日間馴致した後,FM,ETFMおよびPFを7日間単独給餌した。単独給餌期間の生残率はFMおよびETFM区間では有意な差は見られなかったものの,全長および体重は,FM区がETFM区より有意に優れていた。以上の結果から,クロマグロ仔稚魚用の配合飼料のタンパク質原料として,通常のペルー産魚粉の有効性が示唆された。

88(1), 161-172 (2022)
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マナマコ真皮主要コラーゲンの精製および免疫化学的検出

水田尚志,小泉勇樹,横山芳博,吉中礼二

 マナマコ真皮から調製したペプシン可溶化コラーゲン(PSC)は,3.5 M尿素存在下でのリン酸緩衝系SDS-PAGEで明瞭な2本のαバンドを示した。塩酸グアニジン処理および解繊処理により少量のコラーゲンがペプシン未処理の状態で可溶化された。これについて抗マナマコ主要コラーゲン血清を用いてウエスタンブロッティングを行ったところ,PSCと同様に2本のαバンドを示した。これらの結果はペプシン処理の有無に関わらずマナマコ主要コラーゲンが少なくとも2種類のα成分から成り,ペプシン消化によりその構造に大きな変化が起きないことを示唆している。

88(1), 173-180 (2022)
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ムール貝Mytilus galloprovincialisの氷蔵中におけるエキス成分の変化

平林眞弓,岡崎 尚,谷本昌太

 活ムール貝の品質変化を明らかにするため,氷上で0-13日間貯蔵し,そのエキス成分を調べた。品質の評価はTaste active value (TAV), Equivalent umami concentration (EUC)及び階層的クラスター分析(HCA)ヒートマップを用いた。貯蔵期間中TAVとして1以上は,Glu, Ala, AMP,コハク酸,貯蔵10日目まではAspが1以上であったが,Gly, IMPは3日後に1以下となった。EUCは,0日4.38 mg MSG/100 gから13日目3.28 mg MSG/100 gに低下した。以上の結果から,活ムール貝は,氷蔵1日目までは高い品質を維持し,その後徐々に品質が低下することが示唆された。

88(1), 181-189 (2022)
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時系列分析による新型コロナウイルス感染症の産地魚価への影響評価

阿部景太,石村学志,馬場真哉,安井翔太,中村洸介

 コロナウイルス感染症の拡大とロックダウン措置は魚価の低迷を招いた。具体的な対策には影響を受けた魚種とその程度を定量的に評価することが重要だが,現場では単純な前年同月比が用いられている。本研究では,時系列解析による予測を反実仮想として影響を評価する方法を提案する。分析の結果,魚種には負の影響が大小により2種類に分けられることがわかった。大きな負の影響を受けた魚種は,単価が12.65-14.64%下落した。定量的な推定によって政策立案者はより具体的かつ効果的な支援策を実施することが可能となると期待される。

88(1), 191-202 (2022)
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