Fisheries Science掲載報文要旨

小型水槽における50 msの線形周波数変調信号を使用した弱散乱生物の広帯域ターゲットストレングス測定方法

Burak Saygili,露木創真,劉 景,
山本那津生,小林憲一,甘糟和男

 弱散乱生物の広帯域ターゲットストレングス(TSスペクトル)測定方法を開発した。信号対雑音比を向上させるため,50 msの線形周波数変調信号(20-220 kHz)を使用し,受波エコーにはパルス圧縮処理を施した。球や円筒を用いた検証実験により平均絶対誤差が0.3 dB未満であることを確かめ,サクラエビLucensosergia lucens 3個体(35-38 mm)のTSスペクトルを測定した。実測値と理論値はよく一致し,両者の相関係数は0.88を超えた。弱散乱生物に対する本測定方法の有効性を確かめた。

87(5), 627-638 (2021)
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初夏から冬季にかけて日本近海に分布するアカイカの回遊と孵化時期の変化

松井 萌,阿保純一,今村 豊,巣山 哲,酒井光夫

 初夏から冬季にかけて日本近海に分布するアカイカの回遊と孵化時期を明らかにするために,2018年7月に調査用流し網,2018年11月および2019年1月にイカ釣り調査で採集されたアカイカの外套長組成,性比,成熟度,日齢を調べた。7月に採集された個体は主に2-4月生まれであったが,11月に採集された個体は4-5月生まれ,1月に採集された個体は5-6月生まれと採集時期が遅くなるほど孵化時期が遅くなった。これは,早く孵化した群れが遅く孵化した群れよりも日本近海に早く来遊して早く移出することで群れの入れ替わりが起きたためと考えられた。

87(5), 639-651 (2021)
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鱗相解析によるオホーツク・根室海区に回帰したサケの不漁年級の初期成長特性

本多健太郎,佐藤智希,黒田 寛,斎藤寿彦

 オホーツク・根室海区の三河川に回帰した2001-2013年級のサケを対象に,鱗相解析により海洋生活初期の成長率を調べた。特に不漁年級の特性と降海時期の沿岸水温との関係に着目した。結果,三河川では不漁年級である2012,2013年級の沿岸滞泳期の成長率が他年級よりも有意に低く偏った。両年級が降海した2013年と2014年の5月の沿岸水温が顕著に低く,ゆえに成長停滞が起き,低回帰に繋がったと推察された。ただし,2013年は陸域の低気温の,2014年は寒流の影響をより強く受けたと考えられた。

87(5), 653-663 (2021)
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非相称のマツカワVerasper moseriの脳の無眼側と有眼側におけるGnRH量の比較

千葉洋明,阿見彌典子,山野目健,天野勝文

 非相称であるマツカワの前脳(嗅球,終脳,視蓋・視床)の有眼側と無眼側におけるGnRH1, GnRH2およびGnRH3の濃度を比較した。対応のあるt検定の結果,前脳の有眼側の重量は無眼側より有意に重かった。しかし,GnRH1, GnRH2およびGnRH3の濃度は,対照として用いた左右相称のマダイの脳と同様に,いずれの部位においても無眼(左)側と有眼(右)側との間で有意差はなかった。このことからマツカワの有眼側と無眼側の前脳の間には機能的な違いがないことが示唆された。

87(5), 665-670 (2021)
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直達発生したミズクラゲAurelia coeruleaのエフィラの形態的特徴

高内さつき,三宅裕志,平田尚也,長井百花,
鈴木信雄,小木曽正造,池口新一郎

 ミズクラゲは一般に,ストロビレーションによりエフィラが形成されるが,若狭湾や能登島周辺ではプラヌラが着底後ポリプにならずにエフィラへ直達発生する個体群が生息している。両発生型のエフィラは同時期に出現するが,直達発生が個体群に及ぼす影響は不明である。本研究では,発生型の異なるエフィラを区別する形態的特徴を解明することを目的とした。その結果,エフィラの外径,内径,全縁弁長,縁弁軸長,縁弁葉長それぞれの比により発生型を識別できた。今後,直達発生型の出現海域におけるクラゲの発生対策の一助となり得る。

87(5), 671-679 (2021)
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飼育水温の調節がニホンウナギの卵成熟進行に及ぼす影響

田中寿臣,足立伸次,野村和晴,田中秀樹,鵜沼辰哉

 核移動期に達した雌ウナギを卵成熟誘起ステロイド(MIS)投与の3日前~1日前および1日前~投与時までの2期間,15℃または20℃で飼育し,油球の形態と卵径から成熟の進行を調べた。いずれの期間も成熟は15℃ではゆっくり,20℃では速やかに進んだ。次に,3日前および1日前の成熟度に応じ,成熟が進んだ雌は15℃,遅れた雌は20℃で飼育したところ,MIS投与時の成熟度が概ね揃った。本法を改良すれば,雌の成熟度に応じた飼育水温の使い分けによりMIS投与時に最適な成熟度になるよう誘導でき,卵質改善に繋がる。

87(5), 681-691 (2021)
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高度に都市化した地域を流れる多摩川の河川水および底泥の細菌叢の多様性と機能

水澤奈々美,Md. Shaheed Reza,及川千晴,久我聡美,
飯島真理子,小檜山篤志,山田雄一郎,池田有里,
池田大介,池尾一穂,佐藤 繁,緒方武比古,
工藤俊章,神保 充,安元 剛,浦野直人,渡部終五

 多摩川の細菌叢を調べるため,上流,中流および下流域にて河川水および底泥を採取してショットガンメタゲノム解析を行った。河川水,底泥とも細菌叢の多様性は大略,中流域で最も高く,上流は中流と同程度,下流では低かった。上流ではα-およびβ-プロテオバクテリア綱が優勢であったが,下流では放線菌綱も多かった。硫黄代謝やプリン代謝に関わるいくつかの遺伝子は下流で多く,細菌の生存戦略と病原性との関係が示唆された。河川水では窒素やリンが細菌叢に影響を及ぼす主要な環境要因であると考えられた。

87(5), 697-715 (2021)
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ヤリイカとケンサキイカの肝臓におけるタウリン生合成酵素活性の評価

松本拓也,秋田真保,小川真理子,後藤孝信

 ヤリイカとケンサキイカの肝臓におけるタウリン生合成酵素活性を調べた。ヤリイカのシステインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(CSD)とシステイン酸デカルボキシラーゼ(CAD)活性は,それぞれ1.49±0.25と0.79±0.11 nmol/(min・mg protein)であったが,システアミンジオキシゲナーゼ(CAO)活性は認められなかった。ケンサキイカのCSDとCAD活性はヤリイカよりも低かったが,CAO活性は僅かに認められた。ヤリイカのCSD活性はシステイン酸によって競合的に阻害されたことから,CSDとCAD活性は単一の酵素によって触媒されることがわかった。

87(5), 717-725 (2021)
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n-3系多価不飽和脂肪酸結合ホスファチジルグリセロールのRAW264.7細胞に対するリン脂質脂肪酸修飾を介したNrf2活性化による抗炎症作用

陳 莉萍,別府史章,高谷直己,宮下和夫,細川雅史

 n-3系多価不飽和脂肪酸結合ホスファチジルグリセロール(n-3 PUFA-PG)の抗炎症作用に着目し,マクロファージに対する機能性評価を行った。EPAやDHAの結合したn-3 PUFA-PGは,活性化RAW264.7細胞における炎症性因子の産生を抑制し,その効果はn-3 PUFA-ホスファチジルコリン(n-3 PUFA-PC)や大豆PGに比べ顕著であった。n-3 PUFA-PG処理では,n-3 PUFA-PCと比較して細胞リン脂質のEPAやDHAが大きく増加し,オレイン酸が減少した。さらに,n-3 PUFA-PGは転写因子Nrf2の核移行を高めHO-1のmRNA発現を誘導し,その活性化阻害剤によりHO-1 mRNAの発現誘導および炎症因子の産生抑制活性が軽減した。

87(5), 727-737 (2021)
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レトルト水産物において魚肉と同時摂取されたニシン骨のCa源としての栄養価

趙 佳賢,大野雅貴,辻 浩司,武田忠明,佐伯宏樹
 魚肉とともにレトルト処理した魚骨由来のCa(CaB)と,CaCO3由来Caの栄養価を比較した。ニシン筋肉をタンパク質源とした0.25% CaBを含む飼料(PHB)と,0.06% CaB+0.19% CaCO3を含む飼料(PH)を用いて,5週令のF344ラットを30日間飼育したところ,0.25% CaCO3含有標準飼料(カゼインベース:L)と差異なく成長した。PHBとPHにおける飼育4週間後のCa吸収率はLよりもやや低値だったが,両者間に有意差はなく,さらに骨代謝マーカーの挙動も,全実験群間で相違はなかった。それゆえ,魚肉と同時摂取されたレトルト骨は,CaCO3と同様の優れたCa供給源といえる。
87(5), 739-747 (2021)
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アイスグレーズエビのグレーズ氷の機械的分離に関する研究

許 政,羽倉義雄

 本研究では,アイスグレーズ食品の表面の氷を機械的に破壊分離し,食品を無傷で取り出す方法を検討した。-70~-20℃において圧縮試験を行い,エビ,魚肉ソーセージ,氷の材料力学物性値を測定した。得られた物性値を用い,応力集中現象の解析を行い,グレーズ氷が優先的に破壊される温度条件を推定した。次にグレーズ処理されたエビ及び魚肉ソーセージを対象とし,-70~-20℃においてアイスグレーズ食品の割裂試験を行い,グレーズ氷の破壊分離状況を評価した。評価した結果は,応力集中現象により推定した結果と良好に一致した。

87(5), 749-760 (2021)
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