Fisheries Science掲載報文要旨

我が国における有害有毒赤潮の発生と環境に優しい防除対策(総説)

今井一郎,稲葉信晴,山本圭吾

 現在我が国で赤潮は減少傾向,有毒ブルームは西日本で増加傾向にある。高密度の殺藻細菌と増殖阻害細菌が海藻やアマモの表面と周囲の海水から発見され,湖沼では有毒藍藻の殺藍藻細菌が水生植物表面から高密度で発見された。以上から沿岸ではアマモ場や藻場の保護と回復が,湖沼では水草帯の保全が有害有毒ブルームの予防に重要である。また海底耕耘により珪藻ブルームを人工的に誘発し,Chattonella赤潮やAlexandriumの有毒ブルームの制御に成功した。これらの環境に優しい対策を洗練化し里海構想に組込む事が赤潮対策に重要と提案できる。
87(4), 437-464 (2021)
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狙い効果を考慮した混合分布モデルによるはえ縄漁業CPUE標準化手法のパフォーマンス評価

芝野あゆみ,金岩 稔,甲斐幹彦

 標準化CPUEは資源量指標として用いられるが,複数魚種を漁獲する漁業では狙い魚種によって漁獲係数が変化するため,狙い効果の取り扱い方は標準化CPUE推定値に影響する。本研究では混合分布モデル(FMM)に着目し,FMMを含む8つのCPUE標準化手法について,様々な資源と漁業の状況を想定したシナリオ下で数値シミュレーションを行い,狙い効果標準化パフォーマンスを評価した。結果,FMMはいずれのシナリオにおいても他の手法より優れたパフォーマンスを示したことから,CPUE標準化において狙い魚種を明らかにするための効果的かつ頑健な手法であると結論された。
87(4), 465-477 (2021)
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漁業統計と地域の生態学的知識を用いて推定された日本の河川におけるカワヤツメLethenteron camtschaticumの歴史的な分布とその変遷

荒川裕亮,岸 大弼,柳井清治

 本研究は,1930年代に発行された漁業統計と内水面漁業協同組合への聞き取り調査より得られた過去と現在におけるカワヤツメLethenteron camtschaticumの漁獲情報より,日本国内における漁獲分布河川とその地理的特徴を明らかにした。さらに内水面漁業者が有する地域の生態学的知識が歴史的な種の分布の推定に有効であることを示した。特に漁業活動の衰退は南限域や河川上流域で顕著であった。本成果は,カワヤツメの資源回復に向けたベースラインとして有用であり,内水面における生物多様性の保全とその管理手法の発展に向けた漁業者の有する情報の活用が求められる。
87(4), 479-490 (2021)
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水温ショックに曝されたナイルティラピアOreochromis niloticusの病理組織学的変化および酸化ストレス応答

Phornphan Phrompanya,Paiboon Panase,
Supap Saenphet,Kanokporn Saenphet

 水温ショックに曝されたナイルティラピアの病理組織学的変化と酸化ストレス応答について調べた。25℃で飼育した個体を37℃に移行した場合,24時間以内に死亡し,エラ,脳,および血清中のマロンジアルデヒド濃度が有意に上昇した。また,水温を4℃上昇あるいは低下させた場合,エラにおいて病理組織学的変化,および中性および酸性粘液細胞数の減少が観察された。水温を低下させた群では,脳内の神経網に空洞化がみられた。以上の結果からナイルティラピアは,4℃の水温変化により酸化ストレスと組織学的損傷が起こることが示された。
(文責 近藤秀裕)

87(4), 491-502 (2021)
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沖縄島におけるロクセンフエダイの年齢,成長と成熟

荒木克哉,立原一憲

 沖縄島におけるロクセンフエダイの年齢と成長,繁殖特性を調べた。2012年11月~2014年11月に採集した709個体の体長範囲は,44.2-197.7 mmであった。耳石切片を用いた年齢査定で確認された最高齢は,雌24歳,雄27歳であった。成長式は,雌:Lt=172.2×{1-exp[-0.55(t+0.70)]},雄:Lt=182.5×{1-exp[-0.52(t+0.70)]}で表された。生殖腺指数と組織学的観察から産卵期は,6-8月を盛期とする5-9月であると推定された。最小成熟体長(年齢)は,雌130.3 mm(2歳),雄129.5 mm(1歳)であった。本種は小型フエダイ属の中で長命であり,小型,若齢で成熟する。
87(4), 503-512 (2021)
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サワラ稚魚の高温耐性および飢餓耐性

原田海斗,森田哲男,出口 航,
山本昌幸,藤田智也,冨山 毅

 体長約40 mmのサワラ稚魚の高温耐性と飢餓耐性を調べた。高温耐性に関して,50%致死水温は31.8℃,平衡喪失水温は34.8℃と推定され,瀬戸内海での表層最高水温(約29℃)よりも高かった。無給餌条件において,20℃では実験開始後3-11日で,27℃では2-7日で全ての稚魚が死亡した。飢餓で死亡に至る日数は,体サイズが小さいほど,水温が高いほど短いことが示された。サワラ稚魚は高い高温耐性と仔魚期よりも高い飢餓耐性を有していることが明らかとなった。

87(4), 513-519 (2021)
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飼育背景色と飼育密度がニホンウナギ幼魚のストレス関連ホルモンに及ぼす影響

天野勝文,阿見彌典子,水澤寛太,千葉洋明

 ニホンウナギ養殖の効率化に資するために,飼育背景色と飼育密度がニホンウナギ幼魚(体重約10-15 g)のストレス関連ホルモンに及ぼす影響について調べた。実験魚を白または黒背景下で35日間飼育したところ,白背景下で血中コルチゾル濃度が有意に高かった。次に実験魚を低・中または高密度で28日間飼育したところ,高密度および中密度飼育下では低密度飼育下よりも血中コルチゾル濃度が有意に高かった。以上より,白背景色飼育と高密度飼育はニホンウナギ幼魚にとってストレスとなることが内分泌学的に示唆された。

87(4), 521-528 (2021)
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北太平洋におけるサンマ安定同位体比の地理的変化

冨士泰期,中神正康,巣山 哲,宮本洋臣,木所英昭

 北太平洋中西部においてサンマを採集し,その筋肉組織の窒素・炭素安定同位体比(δ15N, δ13C)を分析した。安定同位体比の結果を基にクラスター解析を行い,3つのグループ(G1-G3)に分けた。G1(δ15N: 12.9‰; δ13C: -20.3‰,平均値)は,170°Wより東で出現した。G2(δ15N: 9.3‰; δ13C: -20.1‰)とG3(δ15N: 7.3‰, δ13C: -20.9‰)はそれぞれ170°Wの東と西の海域を中心に出現した。G2とG3の安定同位体比はそれぞれが分布する海域の餌の安定同位体比と一般的な濃縮係数により説明されたが,G1の非常に高いδ15Nはその場の餌では説明できず,他の海域からの移入群と考えられた。

87(4), 529-540 (2021)
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キアンコウの耳石輪紋形成の日周性確認と成長

高 偉峰,中屋光裕,石川智也,髙津哲也,
竹谷裕平,鈴木 亮,野呂恭成

 これまでにアンコウ属の耳石を用いた初期成長に関する研究例はあるが,耳石上に形成された微細輪紋が日周輪であることは検証されていない。本研究では,キアンコウ仔魚を飼育し,耳石微細輪紋の観察を行った。その結果,礫石,扁平石ともにふ化後6日目に明瞭な輪紋が確認され,それ以降1日1輪明瞭な輪紋が形成されることがわかった。これにより,耳石微細輪紋形成の日周性がアンコウ属ではじめて検証された。また,野外で採集された仔魚の成長解析を行った結果,ふ化後10-40日にかけて脊索長は1日0.18 mmほど伸長することがわかった。

87(4), 541-548 (2021)
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新潟県における砂浜域での野生サケ稚魚出現様式と非放流河川での産卵・稚魚浮上時期

飯田真也,八木佑太,井関智明

 自然再生産を取り入れたサケ増殖事業に資するべく,新潟県における非放流河川での産卵・稚魚浮上時期および砂浜域の野生稚魚出現様式を調べた。産卵床は10-12月,水温が低く変動が大きい河床にみられた。放流魚の期待最小サイズ(41.2 mm)より小さく野生魚と判断される個体が水温7.4-17.5℃であった3-5月に採集され,この期間は産卵河川の積算水温から予測した浮上時期と概ね一致した。出現確率は水温が高まると低下するが,15℃の環境でも42.5%と予測された。分布南限の野生サケは3-5月,比較的水温の高い時期にも降海することが分かった。

87(4), 549-557 (2021)
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食餌中のアルファルファMedicago falcata L.の粉末がLateolabrax japonicusの成長能力,非特異的免疫および消化酵素活性に及ぼす影響

Anle Xu,Jingbo Shang-Guan,
Zhongbao Li,Qiang Chen

 Lateolabrax japonicusの成長能力,非特異的免疫,消化酵素活性に及ぼすMedicago falcata L.粉末(AP)の影響を検討した。APは飼料要求率を低下し,20 g/kgの食餌で最も低値であった。血清総可溶性タンパク質,リゾチーム,総スーパーオキシドジスムターゼは,APの添加量の増加で増加したが,更なる増加に対してほぼ安定であった。アルカリホスファターゼ(ALP)は,APの添加量の増加に対して安定であったが,更なる増加により急激に増加した。トリプシンとリパーゼは,対照と比べ20 g/kgの食餌で有意に増加した。ALPを除く上記の項目の回帰分析によりAPの最適添加量は17.75-21.48 g/kgであった。
(文責 谷本昌太)

87(4), 559-567 (2021)
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アルギン酸オリゴ糖修飾によって改変されたサケ筋肉ペプチドの抗炎症活性と等電点電気泳動を使用した活性画分の回収

杉原邦周,東(西澤)瑞穂,趙 佳賢,
大西 豊,清水 裕,佐伯宏樹

 サケ筋原線維タンパク質消化物(dMf)に,メイラード反応を介してアルギン酸オリゴ糖(AO)を導入すると,マウス・マクロファージにおける炎症性サイトカイン産生を強く抑制した。この抗炎症効果は,まずAO結合量の増加に伴って増強され,その後のメイラード反応の進行が機能強化に貢献した。また等電点電気泳動(IF)を用いると,dMf-AO複合体中の主要な抗炎症成分であるAO結合ペプチドが,IFの酸性画分に効果的に濃縮・回収できた。以上の結果は,AO修飾とIFの併用が魚肉からの新規抗炎症ペプチドの創製に有効であることを示している。

87(4), 569-577 (2021)
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シロザケ稚魚の成長に及ぼす降海前後の摂餌状態と低水温の影響

及川 仁,中村 周,金子信人,
虎尾 充,越野陽介,清水宗敬

 本研究は,淡水中での絶食と降海前後の水温の組み合わせが,サケ稚魚の成長と代謝に与える影響を飼育実験で調べた。稚魚を適温(10℃)もしくは低温(5℃)の淡水中で5日間絶食し,適温もしくは低温の海水に移行し,30日間再給餌した。期間中低温で飼育された稚魚の成長は停滞したが,これは摂餌率の低下と血中インスリン様成長因子-Ⅰの減少を伴っていた。また,低温群の肝臓グリコーゲン量は高く,成長よりエネルギー貯蔵が優先されていた。以上より,河川水温もサケ稚魚の降海後の成長に影響を及ぼすことが考えられた。

87(4), 579-588 (2021)
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アンチトリプシンとしてのトラフグ高温馴化関連タンパク質fWap65-2

長島裕二,張 国華,佐藤康介,
石崎松一郎,木谷洋一郎,岡井公彦

 トラフグ体表粘液から単離した新規プロテアーゼインヒビターは分子量63 kの酸性糖タンパク質で,トリプシンを特異的に阻害した(阻害定数8.6×10-8 M)。cDNAクローニング法でトリプシンインヒビターのタンパク質一次構造を解析し,BLAST検索の結果,ヘモペキシンファミリータンパク質と高い相同性を示し,トラフグ高温馴化関連タンパク質fWap65-2と一致した。本研究により,機能が不明だったfWap65-2はアンチトリプシン作用をもつことがわかり,Wap65の新たな機能が明らかになった。

87(4), 589-598 (2021)
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ムール貝Mytilus galloprovincialis成分の季節変動

平林眞弓,岡崎 尚,谷本昌太

 ムール貝成分の季節変動を調べた。身入りは約30%を維持し,グリコーゲンは夏期に増加した。TauとGlyは冬期に増加し,HisとArgは夏季に増加したが,GluとAspの季節変動は見られなかった。AMPとIMPは夏期に増加した。Taste active valueはGluが周年1以上であった。Gly, Ala, Aspは月によって1以上であった。AMPとIMPは夏期に1以上になり,コハク酸は周年2-4を維持した。Equivalent umami concentrationsは7-10月が3-5 g MSG/100 gとなり,これらの結果から,ムール貝の「旬」は夏~初秋であることが明らかとなった。
87(4), 599-607 (2021)
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MRIによる魚肉・畜肉への塩分浸透過程に関する研究

Lester C. Geonzon,Hannah A. Yuson,
高橋希元,松川真吾

 魚肉や畜肉への塩分の浸透過程をMRI測定によって評価する方法が検討された。食塩を擦り込んだ魚体の緩和時間測定より,魚体内のT2マップを構成し,さらに,T2緩和時間と塩分濃度の関係から魚体内の塩分濃度分布へと変換した。魚体への塩分の浸透は内臓を取り出して食塩を擦り込む方法が外側からのみの擦り込みよりも早く魚体全体の食塩濃度が均一になった。この過程はシミュレーションによる結果と一致した。

87(4), 609-617 (2021)
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ジペプチジルペプチダーゼ-Ⅳ阻害活性を示すサケ白子ペプチドの食後高血糖上昇抑制効果

高橋義宣,鎌田 彰,小西達也

 水産未利用資源のシロサケ白子を原料に調製したサケ白子ペプチド(SMP)は,強いジペプチジルペプチダーゼ-Ⅳ(DPP-Ⅳ)阻害活性を示した。SMPをラットに300 mg/kg体重で一週間経口投与した後に経口澱粉負荷試験を行った結果,澱粉負荷60分後の血糖値は対照に比べて有意に低下した。SMPに含まれるDPP-Ⅳ阻害活性成分を探索した結果,4種の新規ペプチドを含む12種のペプチドを同定した。中でもIle-Proは,最も高い寄与率(1.3%)を示した。SMPは食後高血糖上昇抑制効果が期待できる機能性食品として活用できる有望な素材である。

87(4), 619-626 (2021)
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